第3回行動結果報告書

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黙示録の戦いの勇姿を!

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<第3回開戦状況>
万魔殿周辺に展開していた瘴気による不可視の障壁は冒険者たちの儀式と攻勢により現在その力を減じており、万魔殿及びルシファーへの攻撃が可能となっています。
しかし障壁は、ルシファーの魔力と周囲の瘴気を取り込み徐々に回復しつつあります。
またルシファーはその魔力を万魔殿に充満させ、攻撃の準備を行っています。障壁の回復を遅らせることで、攻撃を食い止めることが可能となるでしょう。

万魔殿周辺に上級デビルが次々と集結しており、ルシファーと万魔殿への攻撃を困難にしています。
エキドナは[百の魔物]の力と復活した魔物たちを率いて、コキュートスに展開しています。マルバスは直接瘴気を操り、空中から冒険者たちを翻弄しています。これら二体はいまだ健在で、万魔殿侵攻に対する大きな障害となるでしょう。
また背後のディーテ城砦からは打ち砕かれたはずのムルキベルが襲撃をかけてくるとの情報があります。すでにディーテとの一体化も維持できないほど力は弱っていますが、ルシファーの進む道を作るためか、最後の力をもって攻撃を仕掛けてくる模様です。
これらの障害を排除できなければ、そもそもの万魔殿への攻撃も失敗に終わる可能性があり、予断を許しません。


第3回行動入力時戦力状況
参加人数:851人
※状況
=危険、=注意

万魔殿瘴気の
障壁
封印された
魔物
マルバスエキドナムルキベル合計

機工の支配者 ムルキベル
イラストレーター:墨

わた、しの命、は、
まも‥‥なく尽きよ、う。
なれば、こそ、
偉大なる、盟主のために‥‥
世界の全てを、今、こそ‥‥!
白兵戦 4.8% 3.4% 4.9% 6.8% 5.9% 6.3% 32.3%
防衛・救護 1.7% 5.4% 2.1% 3.2% 2.3% 6.3% 21.2%
祈り・儀式 1.9% 8.1% 2.3% 2.9% 1.4% 2.4% 19.2%
魔法戦 1% 0.8% 2.1% 3.7% 1.9% 2.4% 12.2%
偵察・伝令 3.1% 2.4% 1.9% 2.7% 2.1% 2.4% 14.9%
合計12.8%20.2%13.5%19.5%13.8%20%100%



万魔殿攻略戦 結果(7月7日〜7月13日)
参加人数:1023人

救護93.1%  383人救護体制復帰
調査102.7%  392人
陣地作成101.7%  448人
コキュートス208.7%  876人魔物との戦い有利に



<第3回戦況>
第3回では、敵将に当たる上級デビルを倒したものの、全体として大きな不利を背負うこととなりました。

エキドナ・マルバスとの戦いはデビルの能力、ならびに周囲に集まる混沌の魔物により苦戦するものの、撃破に成功しています。
しかしムルキベルはその侵攻を食い止めることができず、コキュートスでの自壊・爆破により大きな被害が出ています。爆破の影響により撒き散らされた瘴気により、救護・偵察の体制が約半減するほどに崩されました。また、瘴気により増える魔物たちは勢いをとどめず、結果、後方に大きな被害が出ています。
瘴気の障壁は破壊・減退させるには到りませんでしたが、ルシファー・万魔殿への牽制は功を奏し、まだ侵攻が可能な状態です。

万魔殿へと侵入した冒険者の活躍により、ルシファーを封印していた神々の鎖へのリンクが行われました。これにより、儀式によって封印を強化することができると見られています。
また、ルシファーの封印を解いた「キングスエナー」を取り込んだルシファーの一部が、竜の姿をとり万魔殿に出現しているのが確認されました。


結果概略

成功結果状況


境界の王 マルバス
イラストレーター:稲田オキキ

全ては混沌に飲まれ、無に返る。
それこそが止められぬ自然の摂理。
今こそ、全てが等しく滅びるときよ!
万魔殿  ○ 封印の鎖起動?
瘴気の障壁  △ 再形成
封印された魔物  △ 瘴気増加により魔物増
マルバス  ○ 撃破
エキドナ  ○ 撃破
ムルキベル  △ 自爆止められず
コキュートス被害



■第3回報告書

●世界をかけた試練
 周囲は地獄に相応しい地獄絵図だった。いや、不定なる魔物が溢れかえる様は、混沌のるつぼというべきか。
 万魔殿を取り囲む障壁が、その力を減じた隙にかろうじて万魔殿へと侵入した冒険者たちであったが、各所から寄せられる戦いの様子では、戦況は有利、とはいえるものではない。
「あの時、キングスエナーを守りきれなかった結果、からか‥‥」
 ブレイン・レオフォード(ea9508)は黙示録の戦いの中、キエフで行われたデビルとの決戦の結果を思い出し、唇を噛む。
 七大魔王が一人、破壊を司る憤怒のアラストールが、キエフにて狙っていた魔杖「キングスエナー」‥‥それこそが世界に散らばり、皇帝に奉げるためにデビルが捜し求めていた七つの冠の一つだった。
 そしてそれは戦いの最中、悪魔の皇帝にして支配者たるルシファーに献上され、今、彼のものが封を破り、力を取り戻す縁となっている。
「悔やんでいても仕方がありませんわ」
 セフィナ・プランティエ(ea8539)はブレインをはじめとして出撃しようとする仲間たちに、そう励まし、小さく微笑む。
「私たちが抱くのは、絶望ではなく希望‥‥そうで、なければ」
「その通りですわね」
 それにうなずき、魔力帯びた羽扇に祈りを込めた紐を結びながら、レイチェル・ダーク(eb5350)も広大無辺なる万魔殿へ向かうため、身支度を整える。
「困難な試練ほど、人に成長を促すものです。その勇姿、その魂こそが、大いなる父の御心にかなうもの」
 ジーザスの教えの一つ、黒の試練の言葉を口にしながら、レイチェルは一同を見渡した。
 皆、不安はある。
 だがそれを押し隠し、強がり、あるいは言葉に勇気付けられた冒険者たちは、今ここに集う英雄の一人として、黒くそびえる恐怖を現す万魔殿へと、戦いに赴いた。

(担当:高石英務)


●探索行
 無数のアンデッドが瘴気を運び、瘴気が氷を砕き、解放された魔物がまた瘴気を運ぶ。
 地獄に負の活気が満ちてくる。
「一杯いるねぇ〜。さすがは魔物の母親だね」
「呑気ねぇ。これだけの動きを見せてるのだもの。大物が動いてるのは確実っていうのに」
 無邪気に群れる魔物を見ている草薙北斗(ea5414)に、百目鬼女華姫(ea8616)が苦笑する。
 この騒ぎを仕掛けているのがエキドナなのは間違い無い。自身の能力を使い、アンデッドを生み続けている。
 「百の魔物」と呼んでいるが、実質生み出されているのは無限に近い。
 収める方法は実にシンプル。彼女を探して倒せばいい。
「見当たらないなら、屋根のある所にいるのかもね」
 ルンルン・フレール(eb5885)が空を示す。シフールは勿論、飛翔手段のある者が警戒しているのは、向こうとていい加減周知している筈。
「どこに隠れようと逃げようと。僕の目からは逃げられないよ」
 朝海咲夜(eb9803)は地形を調べて回る。逃げ出す彼女がどこに潜もうと追いかけるつもりだが、地獄も広い。隠れる所は無数にあり、やはり逃げられる前に叩くべきだと痛感する。
「エキドナは、瘴気を利用してアンデッドを作っているわ。だったら瘴気の濃度から居場所が読めないかしら」
「それに不死者が来る方向ね。上空の偵察隊に連絡取ってみる」
 アイリス・ウェッジウッド(ec3532)に頷くと、春咲花音(ec2108)は極力自身の気配を消し、移動する。
 それでも、生気を察したアンデッドがやってくるので、偵察も楽ではない。
 瘴気という目に見えぬ者を捕らえるのも大変だ。
 周囲では、魔物たちとの戦闘があちこちで起きている。早々精神を集中してばかりもいられない。
 アンデッドは各地に広がり、そこかしこから顔を出す。秩序を持たぬ彼らはただ赴くままに統一無く動き回っていて、こちらも発生元を手繰るのも一苦労だった。
 それでも、諦めぬ努力は結果に結びつく。
「エキドナ発見。多くの魔物に囲まれて力を振るってるそうだ」
 双海一刃(ea3947)が情報を触れて回る。
「「危ない!!」」
 急いで知らせに回る伝令を、ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)と節このは(eb5353)が止める。
 話しかけようとした相手は、止めたその鼻先を、短刀が掠めた。
 振り返った相手は、浅黒い肌に怪しげな刺青を彫りこむ。人の姿をしているが、敵だ。
 事態に気付いた戦闘員が即座に駆けつける。
「人型の敵も増えている。紛れられると、厄介です」
 ヒューゴ自身はリヴィールエネミーで見分けがつくとはいえ、それを伝えるまでのタイムラグもまた惜しい。 
「こっちがエキドナに動けば、向こうもなにかしら抵抗してくるでしょうね。より奇襲・伏兵には気をつけないと」 
 一層の注意を。そう喚起する為、このはも仲間と共に知らせにかかる。
「問題はこれから。折紐の結界で逃走が阻止できればいいのだが」
 アクティオン・ニアス(ec0777)がやや不安を覚える。
 祈りは瘴気を祓う効果はあるがデビル自身に如何程効果はあるか。

「やっと見つけることができた、麗しの君よ。その腕に抱かれ眠ることができるならこの命惜しくはない!!」
 そして、知らせを聞いたジェファーソン・マクレイン(ea3709)は、舞台俳優のような台詞をさらりと吐くと、エキドナの元へと走る。
 しかし、そうは簡単には行かない。
 エキドナにたどりつくまでには、壁の如く数多の魔物やアンデッドが守りを固める。
 双頭の獅子が吐く炎の息が氷を穿ち、巨大な猪は縦横無尽に冒険者たちを跳ね飛ばす。
「探すも、進むもジャマは沢山だね。今度はいい子に生まれてきてね」
 猛毒を滴らせる巨大な蛇に、『はぐれ屋『必殺』』ジリヤ・フロロヴァ(ec3063)は、軽く手を合わせるとアイスコフィンを仕掛けて回る。
「守りを固めても、子供たちを前に出せば出すだけ隙間も出来るわ。最短ルートは‥‥ここを一直線!!」
「上等! 道を作るわよ」
 テレスコープでエキドナを見据えるサラン・ヘリオドール(eb2357)。
 指し示すままに、イリーナ・ベーラヤ(ec0038)は猛然と群れへと飛び込んで行った。

(担当:からた狐)


●封印されし黄金の悪夢
──大地の悪夢
 それは巨大なる獣。
 金色に輝く黄金の羊、それが冒険者達の目の前で雄々しく構えている。
 ゆっくりと頭を下げ、足元にやってくる冒険者達に向かって無慈悲なる蹄を次々と落としていく。
 運良く逃れたものものは、すぐさま迎撃体勢に行こうするが、運悪く蹄によって踏み潰されたものは、その魂すら消滅されていた‥‥。
 死体の近くには、かつて人だったそのものの魂が、白き球となりて転がっている。
 それを小さな悪魔達が集めては、黄金の羊の口許へと運んでいく。
 口の中のそれを、抵抗なくかみ砕くと、黄金の羊はさらなる獲物を求めて周囲を見渡した。
 まるで、そこにいる冒険者など目に入らないかのような態度で‥‥。

「これでよし‥‥」
 魔弓ウィリアムに祈紐を結び付けると、レオ・シュタイネル(ec5382)は静かに矢を番えて力一杯弦を引く。
 目標は、前方150mの黄金羊の額。
 みんなの祈りの籠ったこの矢を使う事で、少しでも悪魔にたいして良い結果がでるのではと思い、レオは構えた。
 前方では、仲間たちがレオの元まで悪魔が進軍してくるのを防いでいる。
 だが、それもあまり長くはもたない。
 黄金羊の腹部からは、次々と異形の羊らしき悪魔が産み落とされている。
 それらは手近の冒険者を襲うと、そのまま餌食となったそれを糧として、さらなる力を身につけていく。
「これ以上は持たないっ。早く頼むでござるっ!!」
 黄水華(ec3401)が目前の悪魔を切り捨てつつ叫ぶ。
──ギリリリッ‥‥
 限界まで引き絞った弦。
 ピン‥‥と張り詰めた緊張の中、レオは全ての想いを込めて、矢を放った‥‥。

──ドシュッッッッッッッッ

 それは狙いどおりに額に直撃した。
 だが、黄金羊は今だその勢力を衰えさせることなく、ただひたすらに進軍を続けていた‥‥。
 大量の冒険者達の死体を残して‥‥。

──その頃の後衛部隊
「じ、冗談じゃない‥‥前衛部隊の40%が壊滅だと‥‥」
 アハメス・パミ(ea3641)は前衛部隊からの報告を受てそう叫んでいた。
 彼女の護る後衛部隊は、前衛で負傷した仲間たちの受け入れと治療を行なっている場所。
 逆に考えるならば、ここが最後の砦、ここが破られた場合、最悪の事態が発生する‥‥。
「とりあえずは砦の強化をするしかないでしょう‥‥手の空いている方は御手伝いを御願いします」
 フレイア・ケリン(eb2258)が手の空いている地精霊魔術師達に叫ぶ。
 その一方では、砦の正面門から『マジカル特戦隊』が次々と帰還してくる。
「前衛部隊は全滅です‥‥回収可能な遺体はほぼ皆無、それらのほとかんどが悪魔によって糧として吸収されてしまっています‥‥」
 早馬で帰還したレイズ・ニヴァルージュ(eb3308)がそう砦の中に叫ぶ。
 その報告を受けて、砦の内部がざわつきはじめた。
 彼等を護ってくれる前衛部隊は全滅、この砦の強度でさえ、それほどしっかりしているものではない。
 ストーンによってどこまで強化できるかも判らない。
 だが、ここを死守しなければ、ここの後方には、地上へと続く門が存在している‥‥。
「来たわっ!! 敵の尖兵よっ!!」
 矢塔の上で監視していた明豹星(eb3669)が叫ぶ、
 それと同時に、砦を囲む城壁、各部署に作られた矢塔から一斉に魔法によって強化された矢が打ち込まれていく。
 それにより、砦まで悪魔たちは近寄ることは出来ないものの、砦の中に備蓄されている矢にも限界はある。
 それまでに悪魔達が引いてくれること望んでいたが‥‥。

(担当:久条巧)


●その王、瘴気纏いて対峙し
 瘴気の渦を背にするようにして、彼は飛んでいた。その大きな黒い翼、その鋭い嘴を持って配下の魔物達が空から、地上から冒険者達に挑んでいるのを見つめていた。そして時折瘴気を凝らせて放ち、傷と共に病をもたらす。
 病を帯びた彼の瘴気がどこまで届いているのか、完全には把握していない。何処かで阻まれているかもしれない、それでも良かった。
 もうすぐ‥‥モウスグだ‥‥。
 彼の心は、踊っていた。

「マルバスを見つけたぞ!」
 地上で誰かが叫んだ。ぴくり、彼はそれを聞きとがめる。
「‥‥我はマルバスであってマルバスではないというに‥‥。マルバスではなく境界の王である――などといっても人の子には通じぬか」
 何がおかしいのかクックッ、と境界の王はその嘴の隙間から笑いを零した。
 首を巡らせて前方、後方、横を見る。彼を発見したという知らせを受けて、飛行動物に騎乗した、あるいはアトランティスでゴーレムと呼ばれる装置に騎乗した冒険者達が彼に迫ってくるのが見える。地上ではきっと魔法使いや弓兵が彼を狙っているのだろう。
「今度は学んできたとみえる」
 対空戦を仕掛ける用意をしてきた者達は多い。そして、直接境界の王とは対峙しないものの、彼らを助けるべく援護する者も沢山いた。故に、境界の王への道は作られている。

 ぶわっ‥‥

「!?」
 一瞬境界の王を重力の力が包んだ。次いで雷撃と炎撃が彼を襲う。【拠点防衛隊】のエル・カルデア(eb8542)のローリンググラビティー、ルメリア・アドミナル(ea8594)のライトニングサンダーボルト、ロッド・エルメロイ(eb9943)、深螺藤咲(ea8218)のファイアーボムが炸裂したのだ。
 だが超越レベルで発動されたそれは効果範囲が広い。その故境界の王に近づこうとしていた飛行部隊をいくらか巻き込んでしまう形になった。魔法の射程と効果範囲、そして飛行部隊が近づいたタイミングを考えると、完全に敵だけを狙うというのは難しかったのだ。
「‥‥面白い」
 バランスを崩され、魔法を受けたものの境界の王はすぐに態勢を立て直し、再び飛翔する。そして、接近を拒むかのように瘴気の塊を放った。
「マルバス! あなたの好きにはさせません。私達の祈りの力を受けてみなさい!」
 【戦乙女隊】のアーシャ・イクティノス(eb6702)が祈紐をつけた矢を放つ。その横をマルバス目指して飛んでいた飛天龍(eb0010)が不思議そうに零した。
「マルバス? 境界の王ではないのか?」
 正直、その辺りの情報をきちんと把握している冒険者は殆どいないだろう。境界の王自身がマルバスではないといっているが、その根拠がはっきりとしない。マルバスという名も間違いではないのだろうが正解ではないような感じだ。
「一斉に仕掛けましょう!」
 【威力偵察隊「月」】のヒルケイプ・リーツ(ec1007)が魔法の矢を弓に番え。
「いい加減こいつのとの決着も付けなければならんだろう」
 ペガサスに騎乗して弓に矢を番えたアリオス・エルスリード(ea0439)が静かに言った。
「そろそろ眠れ、永遠に」
 ヒルケイプとアリオスの矢が放たれると同時にリ・ル(ea3888)がソニックブームで牽制を図る。琥龍蒼羅(ea1442)は境界の王に迫っている仲間に攻撃が当たらない位置を探し、ライトニングサンダーボルトを放った。
 境界の王も負けじと瘴気を放ってくる。だが冒険者達が携帯している祈紐が、沢山祈りの込められたその小さな紐が、わずかながら瘴気を和らげてくれているような感じがしていた。
「境界の王よ、混沌へ還れっ!」
 【ベイリーフ】のシルヴィア・クロスロード(eb3671)がカノン・リュフトヒェン(ea9689)と共に境界の王へと迫る。リース・フォード(ec4979)のライトニングサンダーボルト、琉瑞香(ec3981)のホーリーを受けて、境界の王はまるで自身に群がる者達を吹き飛ばそうとでもするように、その大きな翼を羽ばたかせた。
「うわぁっ!?」
 強風が接近していた冒険者達を襲う。バランスを崩し、後方に飛ばされる者や騎乗動物から落下しそうになる者も出た。だがそれでも彼らは戦いをやめない。
 弓に祈紐を巻いたシャロン・シェフィールド(ec4984)が翼を狙い、ジルベール・ダリエ(ec5609)が目を狙う。
 強風で再接近していた者達が離れた隙を、今度は【TN特攻隊】と【戦乙女隊】が補った。リンカ・ティニーブルー(ec1850)が仲間達が接近する間に複数の矢を射る。アニエス・グラン・クリュ(eb2949)のソニックブームが追う。
「祈りは風に、光に溶けて、怨嗟の渦すら優しく包み、何時か癒やすんだよ」
 シルフィリア・ユピオーク(eb3525)、ラシュディア・バルトン(ea4107)、リスティア・レノン(eb9226)も仲間の援護を。
「阿修羅神よ、私に力を!!」
「心までカオスに汚させないぜ!この想いは貫く」
 ファイアーバードで自らの姿を炎の鳥へと変えた鳳美夕(ec0583)、そしてファイゼル・ヴァッファー(ea2554)が境界の王とぶつかる。
 天馬に乗った戦乙女――白い鎧に身を包んだリリー・ストーム(ea9927)が、境界の王のわき腹に槍を突き刺し、そして。
「あなた! 今ですわ!」
「おお!後は‥‥任せな!」
 竜に騎乗した夫、セイル・ファースト(eb8642)がありったけの力を込めて境界の王に急接近。そして攻撃を叩き込む。

 『落ちて』行くような感覚を、境界の王は感じていた。

(担当:天音)


●「愛」という名の希望の下に
 瘴気の壁を破壊するために効果的なのは、やはり「祈り」。
 それが判れば冒険者達の行動に迷いは無かった。
「儀式を!」
「祈りを!」
 伝令役を務めるベル・ベル(ea0946)やレミィ・ヴァランタイン(ea1632)ら『しふしふ同盟』のメンバーはもちろん、サラ・クリストファ(ec4647)ら飛翔する相棒に騎乗して地獄の空を駆る者達によって、祈りの効果はたちまち冒険者の最後尾まで伝えられる事になる。
 その間にも続く調査。
「どうにかして、コキュートスの氷を維持してこれ以上魔物を増やさないようにしなきゃじゃん」
 如何に熟練の戦士が大勢揃おうとも戦力は無限ではない、そう懸念するジェイラン・マルフィー(ea3000)に、烏哭蓮(ec0312)の障壁を見遣る表情も険しい。
「瘴気の源となる負の感情、混沌界の力、凍土に湧く不死者との関連性‥‥判らない事が多過ぎるでしょう」
 ふぅ‥‥と軽い息を吐く哭蓮。
 だが、これまでの祈りの力によって障壁に生じた亀裂は冒険者達の進軍を可能にし、続く儀式は更なる道を彼らに示す。
「儀式を維持するためにも、後方の補給線を確保し続けるためにも、奇襲は避けなきゃな」
 だからこそ身軽に動ける者達が手を休めるわけにはいかないのだと王虎(ea1081)。オルフェ・ラディアス(eb6340)は拳を握る。
「口伝部も協調、結束のため働かせて頂きます!」
 出身も、言語も、種族も異なる。冒険者である事しか共通性のない彼らは、だが、いま確かに一つだった。
 このような戦を終わらせるため――大切な人が無事に戻る事を願い、祈りながら己の役目を果たそうとする冒険者達の気持ちもまた、瘴気の壁に生じる亀裂を広げさせていった。


『君と 僕と 皆の 調べ
 手と手 重ね 心 弾む』

 儀式は続く。
 穏やかに、優しく。
 其処からは、此処が地獄である事すら忘れさせる風が吹いていた。

『熱き 想い 胸に 抱いて  
 愛の 言葉 奏で 交わす』

 白翼寺花綾(eb4021)の詩を、皆が歌う。
 ケンイチ・ヤマモト(ea0760)らの楽の音と、アゲハ・キサラギ(ea1011)らの舞。
「みんな、手に祈紐付けてる?」
 続々と地獄の最下層へやって来る仲間達へジュディス・ティラナ(ea4475)が陽気な声を掛けた。
「さぁ手を叩くのよっ☆」
 両腕をいっぱいに伸ばして、頭上でパンッ!
 歌声に合わせ、ステップに添わせ。
 皆で、同じリズムを叩く。
(「互いの音を聴こう」)
 アニェス・ジュイエ(eb9449)は舞い踊りながらも心の中、語り掛ける。
 好き勝手やったんじゃ不協和音ばかり。それでは皆の心もばらばらなまま。
 敵が一つの目的のために動くのなら、此方の力も一つに。

『誇る 友の 願い 紡ぎ
 道を 開き 光 灯す』

 一つになるリズム。
 一つになる、想い。
 壁が壊れますように、先へ進めますように。
 そうして訪れる戦の時に、この祈りが大切な人を守りますように。

『闇に 響け 強き 祈り
 歌い 踊り 共に 歩め』

 歩め、冒険者よ。
 地獄の脅威を阻むため。
 祈りは力となり、瘴気の壁を貫いた。


 ――‥‥なるほど、来たか冒険者共よ‥‥


 不意に。
 愉快そうな笑みを湛えた口元から放たれた声。
「心を一つにとは良い趣向だ、これは『境界の王』は苦戦を強いられそうだな」
 声の主は地獄の空に姿を現す。しかし漆黒のローブに包まれた肢体は冒険者の目から隠され、その顔すら窺う事は出来ない。
 だが、その手に持たれた巨大な鎌が、異様な雰囲気を更に増長させていた。
「何モンだ!」
 問い掛けたのは儀式を守るべく剣を振るっていたタイタス・アローン(ea2220)に声の主は応える。
 それはひどく楽しげに。
「気付かぬわけではあるまい。今や世界は我等カオスの力によって動いている。ルシファーすらも我等が混沌の手の内‥‥ふふふふ」
 それを待ち望んでいたカオスの力が、アトランティスの大地より集まりつつある事に冒険者達は気付いているだろうか。
 一方で、混沌に操られようとするルシファーを守るべく、地獄の悪魔達がコキュートスに集い始めている事にも気付いているだろうか?
 もう直ぐこの地は戦火に溺れる。
 もう、間もなく。
「冒険者共よ、思う存分に戦うが良い。その争いこそが、流れ落ちる血肉こそが、我等カオス八王の楽しみ」
「カオス八王‥‥?」
 聞き返したサイ・キリード(eb4171)に、漆黒のローブに身を包んだ魔物は笑うだけ。
「おまえ達が戦い、デビルを、魔物を、倒せば倒す程にこの世には瘴気が集う――進むが良い、冒険者共よ。我等カオスのためにな!!」
 高笑いと共に姿を消した魔物の姿に、後方、救護スペースで目を見開いたのはイシュカ・エアシールド( eb3839)だ。以前にも目にしたその姿を忘れる事など出来ない。
「‥‥死淵の王‥‥っ」
 呟く。
 同時に、俄に騒がしくなりだした後方。

 ムルキベルが迫っていた――。

(担当:月原みなみ)


●其の歩み、皇帝の御為
 ムルキベル、機巧の支配者と呼ばれしデビル。地獄の皇帝ルシファーに忠誠を誓い、死に瀕してなお忠義を貫かんとするその姿に、冒険者の反応は様々だ。

「私もムルキベル殿の忠節は感じ入るものがあるが‥‥」

 目の前に現れた巨躯に、【チーム・ゲッター】アマツ・オオトリ(ea1842)がしみじみ呟いた。振り返ればそこに浮かぶ、アトランティスのフロートシップ。【TN守護隊】リーディア・カンツォーネ(ea1225)の依頼を受けて【ウィル双翼騎士団】が用意したものだ。あの上には早くも多くの怪我人達が運び込まれ、まさに動く救護所として【アルボルビダエ】【春夏秋冬/救護協力班】のメンバーらも乗せて救護活動に当たっている。
 これがムルキベルとの最終決戦――それを、この場に立つ事を選んだ誰もが感じていた。遥か先、コキュートスの向こうにある万魔殿では、地獄の皇帝が蠢いているはずだ。ここからは勿論それを目視する事は出来ない。だがムルキベルが進む先を見やれば、かのデビルが何故に瀕死の巨躯を地獄の奥底へと向かわせるのかを考えれば、それは容易く想像出来た。
 だが、行かせる訳にはいかない。騎士団が1人、白鳥 麗華(eb1592)はキャペルスの中から、数多のデビルと共にゆっくりと歩みを進める機巧の支配者に向かって叫んだ。

『‥‥ごめんなさい、向かわせるわけにはいかないんです!』
「凄い執念だ‥‥だが、俺達にもそれぞれ大切な人、護りたいものが有る!」

 その叫びに呼応するようにランティス・ニュートン(eb3272)が吼え、【後方防衛係】大宗院 透(ea0050)がフェアエリーボウをキリリと引き絞った。急所目掛けて射掛けるも、それはムルキベルを取り囲むように有象無象に在るデビル達に阻まれる。
 耳を覆いたくなるほどの咆哮。ギチギチと歯の鳴る音。冒険者目掛け、地を蹴り、宙を飛んで襲い掛かってくるデビル達の向こうで、機巧の支配者はただゆっくりと前進を続ける。
 その光景を見つめるフレイ・フォーゲル(eb3227)が祈りの中で呟いた。

(何故神に逆らいおとされたのか、その真実を聞きたいと思いますぞ。勝者の主観ではなく敗れた側のもつ真実もまた残すべき歴史なのですから)

 デビルでありながら誇りすら感じさせる機巧の支配者に、いつしか敬意なり、哀れみなりを抱いていた者は多い。南雲 康一(eb8704)がムルキベルの装甲の穴を見つけようと目を凝らしながら、思わず「語り合ったよな、知的な鉄巨人よ」と呟いたように。
 さらに鍛治師やゴーレムニストといった者の中には、ディーテ城砦を作り、地獄の皇帝の居城をも想像せしめたというかのデビルに、敵ながら素晴らしい腕前を持つ技術者だ、という感想を抱いていた者もあり。

「一体何をする気だ‥‥」

 呟く冒険者の横で、祈りの舞を舞いながらククノチ(ec0828)がその巨躯に瞑目した。どうかこれ以上、邪魔をしないで欲しい、と。安らかに土に返って欲しい、と。
 ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)のサンレーザーが、ムルキベルの巨躯に向かって光の筋を作った。さらにオーラショットが、ライトニングサンダーボルトが、矢の嵐が、ムルキベルの歩みを止めようと降り注いだ。
 木下 陽一(eb9419)が、【世界騎士団】シーナ・オレアリス(eb7143)が、ラフィリンス・ヴィアド(ea9026)が制止しようと懸命に立ち向かう。だがデビルは止まらない。止まってくれと呼びかける声にも、諦めろと怒鳴りつける言葉にも、デビルが応える事はない。ただまっすぐ、ひたすらに。前進あるのみ。

「ギイィィィッ!」
「我ラノ邪魔ハサセンッ!」

 ムルキベルを取り囲むデビル達が牙を剥き、冒険者達に捨て身の猛攻を仕掛ける。彼らは、機巧の支配者が何を為そうとしているのかを知って居る。彼らの皇帝の為に、最後の死力を振り絞って。

「邪魔だ! ストームッ!」

 【勝利の暁】デュラン・ハイアット(ea0042)が、魔力を出し尽くさんばかりに高速詠唱ストームを連発した。何としても機巧の支配者の足を止める。その一念で吹き荒れる嵐に、だがムルキベルの巨躯は僅かに揺らいだだけだった。皇帝の為、その想いが度重なる嵐への抵抗すら可能にしたのか。
 止めたい。だが止まらない。
 【誠刻の武・裏】トペニ(eb5348)がその情報を、素早く仲間へと伝えた。さらにルー・リ(ea7989)ら【しふしふ同盟】が、各所のシフール達へ伝言を伝える。
 冒険者達の向こう、ムルキベルの向かう先にはコキュートスが待って居る。そこにもまた待ち受ける仲間が居るが、その数はごく少ない。

 ――ジリ‥‥ッ

 冒険者達の胸のうちを、かすかな焦りが支配した。その中を機巧の支配者はただ、コキュートスに向かって進み続けていた。

(担当:蓮華・水無月)


●冒険者たちは深遠へ‥‥
 万魔殿に入り込んだ冒険者たち――。
 飛び交う上級デビルたちはこの侵入者に襲い掛かり、冒険者たちは立ち塞がる高位の悪魔たちを打ち砕きながら万魔殿の最深部に向かって走った。
 万魔殿の内部は、地獄の底に向かう孔のようになっている。その内壁同士をつなぐ形で細い橋や階段が網の目のように走っている。
 どっくん‥‥どっくん‥‥と万魔殿は鳴動しており、その魔城はあたかも生きているかのように、巨大な竜と一体化していく‥‥。
 常葉一花(ea1123)は鳴り響く声に耳を傾けながら剣を振るっていた。
 私は‥‥ルシファー‥‥世界を手に入れる神‥‥。
「ルシファー? 遠きに在りて無事を祈る皆の為にも、挫けるわけにはいきません‥‥」
 一花は仲間達を見やり、剣を掲げる。
「だから今は振り返らずに、自分の限界を超えてでも道を切り開き、そして進みましょう目の前の敵を倒すまで!!」
 余は‥‥皇帝ルシファー‥‥世界を手に入れる絶対無敵の神となる‥‥。
 駆け抜けていく結城友矩(a2046)。獅子王剣でデビルを叩き切る。
「拙者は結城友矩、悪魔王に挨拶するためにはせ参じた。拙者の挨拶は少々物騒でござるがな」
 カルロス・ポルザンパルク(ea2049)は【聖火】を手に、仲間達とともにルシファーのもとへ走って行く。
「ここまで来たら、悪魔王を倒してこの戦いに終止符を打たせてもらうよ」
 空漸司影華(ea4183)はただひたすらに、刀を振るって前進を続ける。
「貴様がなんであろうと‥‥斬る‥‥」
 東雲辰巳(ea8110)は哀しげな瞳でデビルの攻撃を跳ね返すと、ルシファーに呼びかける。
「混沌に呑まれし堕ちたる王よ、まだ堕ちたりぬのか? 羽を失ったとて、心(プライド)までは失っていないと思ったが‥‥残念だ」
 来るがよい人間よ‥‥世界の深淵で、私はお前達を打ち倒そう‥‥我が力を思い知るがよい‥‥。
「気をつけろ、無理はするな。ここは悪魔王の最後の砦、最後の闘いに向けて、戦力を温存していこう」
 陸堂明士郎(eb0712)、【誠刻の武】主席の冒険者は仲間たちに呼びかける。
「人の想いを、愛する心を嘗めるんじゃ無いねぃ」
 哉生孤丈(eb1067)、【誠刻の武】京都隊の冒険者は陸堂の言葉に足を止めつつも、周りを見渡す。
 万魔殿は着々とルシファーと一体化していくようで、いやルシファーが飲み込もうとしているのか、竜の姿となって万魔殿を飲み込んでいく。
 南雲紫(eb2483)は刀を置き、情勢を見やる。
「敵を知らば百戦危うからず。まずは敵を知ることだ。この戦、気持ちが力となる。言葉で無く背中で語る。私自身の『愛』を、な」
 来るがよい小さき者たちよ‥‥私の前で愛を説くか‥‥笑止な。
 静守宗風(eb2585)はデビルたちを切り倒しながら道を切り開く。
「せめて陸堂だけでもルシファーの元へ‥‥」
 クリューズ・カインフォード(eb3761)は槍を一閃。
「行ってくれ団長、祈ろう。そして愛を」
「明士郎」
 空間明衣(eb4994)が駆け寄る。
「悪魔王とも最後の決戦だ、が、無理は出来ないね。命があれば次に繋げられる」
「ああ、どうにも、嫌な雰囲気だな。ルシファーは万魔殿と一体化しつつあるようだ。最後の力を解き放とうとしているのかも」
 その傍らで、狩野幽路(ec4309)はルシファーを捜し求めていた。
「悪魔の皇帝を描くなど、またとない機会。これを逃すわけにはいきません」
 一目でいい、ルシファーをこの目で‥‥。
 冒険者たちは万魔殿の深淵に向かって突き進んでいくのだった、悪魔王を捜し求めて‥‥。決戦の時が迫っていた。

(担当:安原太一)


●覚醒する黄金羊
──地獄・コキュートス・絶対防衛ライン
 矢塔からは依然として大量の矢が打ち出されている。
 それらは黄金羊の腹部より生み出された異形の悪魔達を貫いていくが、数では敵の方が圧倒的に優勢である。
「もうひとふんばりです!! ここはなんとしても死守しないといけません!!」
 ユリゼ・ファルアート(ea3502)が叫びつつ眼下の悪魔達に向かってグラビティキャノンを発動。
 その直撃を受けた悪魔達は爆散し、再生不可能な状態に散り散りになっている。
──ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ
 やがて正門が一気に解放されると、そこで待機していた魔法兵団が一斉に前方に向かって魔法を斉射する!!
 ジル・アイトソープ(eb3988)、メネア・パティース(eb5563)、リーナ・ラリック(ec6094)ら3人を筆頭としたGキャノン魔法兵団が一斉に前列の悪魔を殲滅。
 ここで形勢は一気に逆転したかのように見えた‥‥が。

──ドッドッドッドッドッドッドッ‥‥ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ

 遥か後方から助走を付けて、黄金羊が突進してきた。
 頭を低くし、角で砦の城壁に突入すると、そのまま城塞部分を一気に破壊する。
「て、撤収!! ここはもう無理だ!!」
 誰となく叫ぶ。
 すでに戦える意志はない。
 つい先程まで盛り返していた戦局を、巨大な悪魔のひと突きによって覆されてしまったのである‥‥。
 絶望の色が、砦内部に広がっていく。
 城内に突入した黄金羊の腹部から、またしても大量の悪魔が産み落とされていく。
 それらは再び、餌食となってしまった冒険者に取り付くとそのまま捕食し、人のような形状に擬態する。
 そして無傷の冒険者に向かって、ゆっくりと進軍を開始した‥‥。


──その頃の後方
 地上とコキュートスを繋ぐゲートの一つ。
 そこに待機していた部隊は、すでに全滅していた‥‥。
「こ‥‥こんな事って‥‥」
 上空に待機していた偵察要員の揚白燕(eb5610)は、ゲートから姿を現わした存在が、位旬でその場の冒険者全てを抹殺したという事実に恐怖を感じていた。
「あら‥‥まだ生き残りがいたのね‥‥まあいいわ。貴方、前線に残っている部隊に伝えて頂戴。ゲートは私、ベルフェゴールが確保したって‥‥。貴方たちは、もう帰ることなんて出来ないのですから‥‥」
 クスッと笑いつつそう告げるベルフェゴール‥‥
 そして彼女の言葉の直後に、ゲートの向うから『漆黒の鎧』に身を包んだ騎士団が次々と姿を現わした。
 それらに混ざって、大量の悪魔達の姿も確認できる‥‥。
「た、たたた‥‥大変ですーーーーーーーーーーーーーーー」
 絶叫しつつ、白燕は砦へと向かうしかなかった‥‥。

(担当:久条巧)


●祈りの形、襲い来る魔手
 地獄の底に悠然と聳える万魔殿‥‥それを護る瘴気の壁は今、冒険者達にとっての大きな障害となり、立ち塞がっていた。
 これを突破する為の力、それは刃でも魔法でもなく――人々の祈り。
 例え一人一人から齎されるそれは、小さく儚いものであっても、数多の者達の想いを集約すれば、それはきっとこの禍々しき壁さえをも打砕く。
 そう信じて‥‥この周辺に集う冒険者達は祈りの儀式を成功させる事を主目的とし、行動を繰り広げていた。

「皆は色々な名前で呼ぶけど、どんな思いも同じ源からだよね。ミリアはそれは『希望』と言う名前だと思う。どんなに辛くても大変でも‥‥希望があれば立ち向かえるから」

 多くの者達が祈りの儀式の防衛や周辺デビルの掃討に明け暮れる中。
 想いを紡ぎながら、ミリア・タッフタート(ec4163)が瘴気の壁へ向けて放った祈りの聖矢――それは、余りにも巨大な壁にしてみれば極小さくありながらも、確かにその表面を強く穿つ。
 それを見るや、周囲のデビル達も慌てて周辺を固める様に殺到し‥‥やがて、冒険者とデビル、二勢力前衛の衝突が戦場に大きな奔流を生み出した。


 仲間達に護られながら、その後方ではそれ以上に多くの冒険者が、舞や歌等といった方法で思い思いに祈りを捧げていた。

「祈りの思いを歌と踊りに込めてやるぜ! 障壁の回復なんて追いつかないくらいにありったけの想いをぶつけてやる!」
「早々と、七つの闇に、七つの葬送の光を‥‥ってね」
「どーまんせーまん、ど〜まんせ〜まん♪」

 聞こえる声は様々だが、その表情は誰しもが真剣そのもの。
 ‥‥だがしかし、人数が余りにも多すぎるが故か、どうも全体的に纏まりがない‥‥祈る心そのものは真剣でも、これではその効果の程を不安に思ってしまう者も出て来るだろう。

「――皆、聴こう?」

 そんな中で一際凛と響いた声に、皆の視線が集まる。

「好き勝手やったんじゃ、不協和音ばっかり
 音を、声を合わせて調和の術を探りましょ?」

 アニェス・ジュイエ(eb9449)の呼び掛けは、瞬く間に場を取り巻き‥‥。
 そして気が付けば、皆の祈りが一体化した声が、地獄全体を包み込まんばかりに響いていた。



君と 僕と 皆の 調べ
手と手 重ね 心 弾む

熱き 想い 胸に 抱いて  
愛の 言葉 奏で 交わす

誇る 友の 願い 紡ぎ
道を 開き 光 灯す

闇に 響け 強き 祈り
歌い 踊り 共に 歩め



 その祈りに人は奮い、デビルは慄き、瘴気の壁にも微かなざわめきが見て取れるまでになった。
 猛虎の突貫の如き勢いで壁に向けて押し寄せ、敵を薙ぎ払いながら殺到する冒険者達。
 此処に来て、人々の圧倒的優位を誰しもが疑わなくなった――。
 と、その時。


 ふとざわめき立つ儀式場近辺の冒険者達。
 騒然とする只中には、最早この世のものとは思えない程の端麗な顔立ちに穏やかな微笑を湛えた青年が、悠然と立ちはだかっていた。
 しかし、その正体が人間ではない事は探知魔法等を用いるまでもなく、その周囲を固める数体の魔物が大いに物語っている。
 そして、彼と儀式場の間に立ちはだかり剣を抜くのは、【カオス調査班】の活動によりその存在を逸早く察知できていたアルジャン・クロウリィ(eb5814)だった。

『やれやれ、人知れず忍び込んでこの鬱陶しい儀式を阻害してくれようと思っていたのですが‥‥どうも上手くいかないものですね』
「そんな事、許す訳がないだろう。この祈りは僕達の希望なんだ、決して邪魔させはしない」

 忍び込む‥‥今までにもそうして冒険者の活動を阻害して来たデビルは数多く居たが、その大抵は所謂雑兵の類であった。
 しかし、この魔物は何かが違う。
 緊張感を迸らせながら、静かに言を交わす両者の間に――次の瞬間、冒険者達が躍り出た。
 彼らを止めるべく周囲の魔物は立ち塞がるも、冒険者陣中においては明らかに数の差は圧倒的。李斎(ea3415)を始めとする数名の者達は、真っ直ぐ美青年目掛けて飛び掛って行く。
 ふと見れば、そのいずれも女性で――。

 ――カラン。

 響く金属音は、向かって行った冒険者によるもの。
 彼女達は相手にある程度近付いた所で唐突に携えていた武器を落とし、顔を紅潮させながらその場に跪いてしまっていた。

「これは‥‥魅了か!? 皆、気を付けるんだ!」

 響いた声は誰とも知れない。気が付けば小数の手勢を連れたたった一体の魔物に陣を乱され、祈りも一部を掻き乱され。
 ‥‥しかし、それでも冒険者達の結束は彼の力の上を行っていた。
 いつしか手勢は殿となり、追い立てられる様な形で陣から外に押し出される美青年。

「愛は世界を救うのである!」

 止めとばかりに松桐沢之丞(ec6241)が振りかぶった大薙刀は、レイピアによって往なされ――同時に青年は、魔物でありながら何とも優しげな笑みを浮かべた。

『それは道理――されど、愛は世界を滅ぼす事さえあります』
「ふん、世迷い言を!!」
『何、いずれ分かります。その真理、我が名――誑かす美の化身に賭けて、明示して差し上げましょう』

 言い終えると、優雅な佇まいで姿を消す魔物。
 その言葉は、祈りを捧げる者達の心にも僅かな迷いを生み出すも‥‥深刻な影響を及ぼす程ではなかった。

 祈りが通じてか、先に見た時よりも幾分かその姿を歪めた瘴気の壁。
 恐らくは誑かす美の化身の妨害が無くとも、もう少し壁にも積極的に攻撃を仕掛けていれば、もっとその表面を削る事が出来ていただろう。
 未だ禍々しく立ちはだかるその姿を、冒険者達はより一層強い眼差しで見据えるのであった。

(担当:深洋結城)


●機巧の主、最後の力。
 冒険者たちの一斉攻撃が始まり、もうどれ程の時間が経っただろうか。既にムルキベルの身体にはいつかのような精彩はない。ただ鉄の塊にすぎなくなったその表面も無数の傷とヒビに覆われ、誰が見ても虫の息であることは明らかだった。
「はぁ‥‥はぁ‥‥なんで‥‥っ!」
 息も切れ切れにギリッと歯軋りをした神無月 明夜(ea2577)は地に向けていた視線を前方へと戻す。一瞬止まったかのように見えた巨大な鉄塊は、鉄の擦れる不快な音を撒き散らしながら徐々にその歩を前へと進める。
「何でまだ動けるのよっ!?」
 叫ぶ明夜の声はただただ地獄を吹き荒れる熱風に消されていく。
 魔法部隊の一斉射撃に前衛部隊の岩盤をも貫く刃の数々。どれもがムルキベルにとってただでは済まない攻撃ばかりであった。当然その身を包む鎧は剥がれ、更にその歩みは攻撃を受けるごとに緩やかになっていく。だが―――
「止まらない‥‥コキュートスに何かあるのでしょうか‥‥」
「わからん。が‥‥どうしたってコキュートスまでだ。そこで罠張って止める」
 首を傾げる【Ochain】の雨宮 零(ea9527)に同隊隊長の雪切 刀也(ea6228)が決意を込めた視線を向けたまま答える。一体ムルキベルが何を為そうとしているのか、確証のないまま戦いを余儀なくされる冒険者たち。だが、中には既にその予測が立っている者もいた。
「奴は何と言っていた‥‥? もうすぐ命が尽きる、と‥‥ならばその先には‥‥!」
 テレーズ・レオミュール(ec1529)は一人考え込みながら自らの予測を組み立てていく。もうすぐ尽きる命、偉大なる主のため、コキュートス、冒険者‥‥そして一つの最悪のシナリオが浮かび上がる。そしてその声は他の冒険者たちにも届いていた。
「まさか‥‥自分を犠牲にしてでも防ごうというの‥‥?」
 口元を押さえたまま驚愕の表情を浮かべるティアラ・フォーリスト(ea7222)。その言葉に周りの冒険者達もざわざわと騒ぎ始める。今まで命を取らずに凍結させようとしていた者や、もしかすれば説得に応じるかもしれないと思っていた冒険者も中にはいた。だが既にムルキベルに言葉を理解するほどの理性は残っていなかった。
「もし身を犠牲にしてまでというのならば‥‥俺のこの命をくれてでも―――」
「ダメよ」
 拳を握り締めていたタイタス・アローン(ea1141)の呟きを【春夏秋冬/前方戦闘班】のマリーティエル・ブラウニャン(ea7820)の声がぴしゃりと遮った。
「『命に代えても‥‥』、なんて思わないでください! 阻止して‥‥生きて皆で一緒に帰るんです!!」
 得意のドラゴンバナーを振りかざしたマリーティエルが強い視線でタイタスを抑える。同じように【春夏秋冬/前方戦闘班】のメンバーが往々にして頷く。
「全員‥‥攻撃開始!」
 天馬に跨ったレジーナ・フォースター(ea2708)の声で残りの力を振り絞りムルキベルの阻止に取り掛かる冒険者。
 ある者は己の自慢の武器を振るいながら、またある者は極限まで増幅した自身の魔法を放ちながら、ムルキベルの動きを止めんとすべく全力を出し尽くした。だが既にムルキベルの体の異変は誰が見ても明らかであるほどになっていた。
「ダメだ‥‥前線、避難を開始してくれっ! 奴は自爆する―――!!」
 テレーズの声に舌打ちをしながらもムルキベルから離れていく冒険者たち。
 目的をしっかりと見極めていれば―――あるいはコキュートスに絶対に近づけまいとしていれば、ムルキベルに対しての説得というものが難しいと判断できていれば―――だがそんなものは既に意味を成さず、消えかかった炎を最後の一瞬だけ盛大に燃やし尽くしたムルキベルは、その身を限界までに膨らませた後‥‥

 ―――爆発した。

(担当:鳴神焔)


●退路を断たれた戦鬼たち
──崩れていく最終防衛ライン
 すでに城内は阿鼻叫喚の地獄であった。
 黄金羊は小さく人間だいに変化すると、人の形をとって何処かへと消えていった。
 そして城内には、奴の残した異形の悪魔と、善戦から辛うじて逃げてきた冒険者達の戦闘が始まっていた。
「これ以上は、貴方たちの好きにはさせません‥‥」
 ルーウィン・ルクレール(ea1364)がそう啖呵を切りつつ、次々と異形の悪魔達を切り捨てていく。
 不思議な事に、この悪魔達は実体があるらしく、通常の武器でも十分に対処ができるようである。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
 孫陸(ea2391)もまた、前方の異形のものたちを殴り倒している。
 黄金羊によって最前線を突破され、止む無く後方からの追撃に切替えてきたらしい。
 彼以外にもリュリス・アルフェイン(ea5640)やレインフォルス・フォルナード(ea7641)、クロック・ランベリー(eb3776)といった面々もようやく前線から無事に帰還、城内にて戦闘に突入していた。
 そんななか、伝令の白燕がもたらした衝撃の事実。
 すでに冒険者達には逃げる場所すらない。
「今はただ、この城内の奴等をどうにかすねことが先決だ‥‥」
 そう告げられて、一行はそのまま戦いを続けていた。

 そして数日後。

 城内の悪魔の全てを排除したものの、黄金羊の変化した存在だけが確認できなかった。
 そしてゲートでも、ベルフェゴールの一団が撤収したという報告が偵察部隊のミシェル・サラン(ec2332)から伝えられた。
「どういうことだ?」
 そう問い掛けられるが、彼女もまた見たとおりの報告しかできない。
「黄金の羊と一緒に、ゲートを出ていったのを最後に確認したわよ。あれってかなり危険じゃない?」
 と告げるが、いまとなってはどうすることもできない。
 追撃部隊を出すにも、砦の上空には先日出現した『魔風使いの魔物』が巨大な翼を広げて旋回し、大地の遥か彼方では『溶岩に身を包んだ魔人』がゆっくりと砦に向かって進んできている。
 そして誰と鳴く判ったことがある。
 奴等は、ゲートを突破し、地上へと向かおうとしている。
 それをどうにか阻止しなければ‥‥。

(担当:久条巧)


●女王消滅
「咲き狂え。石の花園!!」
 リーマ・アベツ(ec4801)の詠唱で、多くの魔物が石化していく。
「斬り込むぞい! ゆくぞ皆ぁ! ――そぅら右旋回じゃっ!」
 ストーンは完了するまでしばし時間がかかる。その時間すらも惜しむ程、『☆ メイ・ゴーレム隊』真崎翔月(eb3742)はチャリオットで戦場をかける。
 激しく揺れる機体が、氷と石とを纏めて砕き、欠片が花の如くに散る。
 自身、剣を振るいながらも負傷者の回収は忘れない。
「ちょろちょろと目障りな!」
 エキドナは組する人型ゴーレムを薙ぎ倒すと、旋回していたグライダーを尾で叩く。
 彼女を倒す為、その周囲に群がる魔物を排除する戦いはそこかしこで繰り広げられている。
 そうして、守りを減らされてなお、エキドナは女王としての力を振るい続ける。
「いい加減、しぶといちゅうか、しつこいなおい!」
「同感だ。エキドナにはそろそろ御退場願いたい」
 苦虫を潰す馬若飛(ec3237)に頷くと、シュトレンク・ベゼールト(eb5339)は、周囲で暴れるゴーレム隊の邪魔にならぬよう斬り込む。
 ゲヘナの丘での攻防から、一体どれ程の月日が流れたか。長かった気もするし、短い気もする。
 ただ、ここぞという時に逃げられる。頃合を見てまた姿を現すそのやり口に、辟易している者は多かった。
「一度やられたのならそのままおとなしくしていればいいものを、わざわざやられに出てくるなんてご苦労様です。今度こそ終わりにしましょう」
 瀬戸喪(ea0443)が振るった刀から衝撃波。エキドナは生み出したアンデッドで壁を為し、威力を防ぐが、
「!」
 声に生らない声を、エキドナが上げた。その右の目に矢が深く突き刺さっている。
「おや。隻眼もお似合いじゃないか」
 ペガサスに騎乗したフレイア・ヴォルフ(ea6557)がウルの弓を構えたまま、にやりと笑う。『VizurrOsci』として、その他の魔物たちを露払いしながらも機会はずっと狙っていた。
「おのれ‥‥、!!!」 
 死角が生じた。
 対策が取られる前に、闇目幻十郎(ea0548)は素早く忍びよると、神刀「クドネシリカ」を背に突きたてる。
 悲鳴を上げて仰け反るエキドナ。振り解かれる前に、微塵隠れで本人は離脱。生じた爆発に押され、巨体が大きく体勢を崩した。
「ここで! 落とすでござる!!」
 群がる敵をオーラアルファーで纏めて吹き飛ばすと、『【世界騎士団】』アンリ・フィルス(eb4667)はエキドナに迫る。
 危険を厭わずオーラマックス行使でその移動は早い。
 テンペストが、エキドナの胸を貫く!!!
「こ‥‥、これ‥‥は‥‥‥」
 深々と刺さった嵐の剣を――いや、そこに付けられた祈りの結晶にエキドナは瞠目する。
 剣が引き抜かれた。反動でエキドナは身を逸らし、後方に移動する。
 動きは鈍ったが、まだその存在は健在。
 弱りながら身構えるが、それは戦う構えではない。
「これ以上、魔物は生ませないわ!」
「逃がせばどこかでまた回復される!! 一気に畳み込め!!」
 ペガサスに乗って上空から、ステラ・デュナミス(eb2099)のアイスブリザード、リリス・シャイターン(ec3565)のライトニングサンダーボルトが打ち込まれる。
 デビルの転移能力は果てが無い。
 彼女の為だけに、地獄中を駆け回る程暇ではなく。その間に回復されてしまえば堂々巡りだ。
「湧き出てくるなら、焼き尽くすまで!!」
 サイクザエラ・マイ(ec4873)のファイヤーボム。塵のようにアンデッドが吹き飛ぶ。
 魔物たちへの牽制も苛烈を極める。
 その間にもエキドナに向けて、矢が降り、剣撃が風を斬り、魔法光が氷に照らされ乱反射を起こす。

 集中砲火に、エキドナの身が大きく揺れると、そのまま倒れ込んだ。
 氷に横たわる事無く、輪郭を失い、黒い靄となって霧散する。
「やった!!!!」
 声を上げたのは誰か。母を失っても嘆かぬ魔物たちへの攻撃は緩めず、されど、喝采が広がる。
 
 身を切る程に冷たいコキュートスの風。
 充ちる瘴気よりなお暗く。霧散した霞は、万魔殿へと流れ込んで行った。

(担当:からた狐)


●封印の鎖
 万魔殿の中は、まるで巨大な筒の中に、蜘蛛が気ままに糸を張り巡らせたかのような、橋と空間のない交ぜになった複雑怪奇な姿をしていた。
 その頂上は地獄の紅き天を突き、その下は蒼き氷の下、混沌の瘴気をもたらす青銅の門へとつながる。
 天と地をつなぐかのような、永劫の空虚。
「あちらのほうは順調に進んでるよっ!」
 その巨大な筒の中を空を飛ぶ箒にまたがったまま、玄間 北斗(eb2905)は万魔殿に乗り込んだ他の者たちとの連絡を取り、様子を告げると、その場に現れた混沌の魔物、ルシファーの残滓たる敵に、ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)は熱きマグマの炎を立ち上らせ、焼き尽くした。
「よし、うまくいった!」
「周囲には気をつけてください。けして、全滅してはならない!」
「何とか、封印を強化できないだろうか?」
 聖剣を振るう三笠 明信(ea1628)の呼びかけを聞きながら、アペ(eb5897)は一人つぶやいて、ネフィリム・フィルス(eb3503)とフォルテュネ・オレアリス(ec0501)とともに用意してきた祈り紐を要所に結び付けていた。
 祈りの紐を万魔殿の中に巡らせれば、少しでもルシファーを抑えることができるのではないか? これまでの戦いの経験から思いついた策を、冒険者たちは実行しつつ、戦う。
 そんな冒険者たちに訪れたのは、幸運だろうか、それとも不幸だろうか。
「これまでも祈りは有効だった。天使の加護もある、もしかしたら‥‥」
「危ない、こちらに!」
 地獄の底であろうとも神の加護と威光は届く。阿修羅神により張った不可視の防壁の裏へ、三笠がアペを引き込んだ刹那後、その場所を黒い光が通り過ぎ、獄炎の黒い炎が燃え上がる。
「よく、かわしたものだ‥‥」
 その声の主はルシファー。偉大なる悪の皇帝、そして天より堕とされしものの首魁。
 映し出された幻影はそれだけでも、ただの人間を射殺すのではないかという威圧感を備えていた。
 だがその身は細くも煌き輝く鎖で被われ、皇帝はその鎖を切ろうと、ゆっくりと力を蓄えているように見える。
「祈りで我が封印を増幅しようとは、小癪なことを考える」  その表情に浮かぶのは、あくまで余裕の笑み。
「だがキングスエナーの封は解いた‥‥忌々しき神の鎖は、今は我を縛り付けるものでは、ない」
「ルシファー殿、流れこむ瘴気に惑わされてはなりません。それは、あなたを蝕む力です」
 雀尾 嵐淡(ec0843)が告げたすぐ後、再びの黒き光。見れば皇帝の幻影は高き笑いとともに次第に万魔殿と一体化し、そして皇帝と同じく鎖で縛られた、巨大で醜悪な竜の頭が壁より現れ、額にある陽光のような宝玉より黒き破壊の光を吐き出しながら、嘲笑うように咆哮を告げる。
「神の加護は死に、封は解かれた。神の威光は地に堕ち、賽は投げられた。我が復讐の時は来る。七ある我が竜頭の一つでもあれば、それで世界の全てを破壊することができよう」
 冒険者たちの祈りが届いているのか、皇帝の歌うようなつぶやきにあわせ、その身を縛る鎖は明滅し、ぎりと音を立てているようだった。
「すでに、汚染されているな‥‥」
 室川 雅水(eb3690)はその声を聞きながらタイルトゥの竪琴を鳴らし、祈りを奉げながら悲しくつぶやく。
「せめて、浄化があらんことを」
「神が無力ではなく僕が未熟なだけ」
 室川 風太(eb3283)はそうつぶやきながら、祈りを奉げつつ、周囲から集められた瘴気が渦巻く万魔殿より、一時、撤退すべくあとずさる。
「それでも僕は人々を守りたいと願う心はある。それだけは嘘偽りのない真実」
 その思いと決意を、悪魔の皇帝がただ嘲笑う声が、万魔殿に響き渡った。

(担当:高石英務)


●その王、そして地に堕つ
 落下に伴う風が、彼の身体を容赦なく打ち付けていた。
「マルバスが落ちたぞ!」
 地上の声が近くなる。
 このまま落ちてもよいかと思った。だが。
「さて、脇役の貴殿の台本はここまでですぞ?」
 ふと耳には入ったのは【TN特攻隊】のケイ・ロードライト(ea2499)の声。
「台本‥‥?」
 小さく呟いて、彼――境界の王はカッと目を見開いた。そして傷ついた翼を広げ、急速に上昇を果たす。
「我の台本はまだ終劇に到達してはいない‥‥まだまだ足りぬ‥‥。さあ、我の台本を打ち砕けるか、愚かなる人間共よ!!」

 ブワッ!!

 瘴気の塊が冒険者達を襲う。傷ついてはいるものの、境界の王は戦意を失ってはいない。
「境界の王‥‥混沌の勢力の企みで流れるだろう血と涙、未然に防いで見せます!」
 勇ましく境界の王の翼に迫るは【WG鉄人兵団】のフルーレ・フルフラット(eb1182)だ。
「いつまでも余裕こいてられると思うなよ‥‥人間は進歩すんだよ!」
 アリル・カーチルト(eb4245)の剣が、シャリーア・フォルテライズ(eb4248)の矢が境界の王に容赦なく襲い掛かる。
『攻撃は最大の防御っ!! いっけぇえええ!!!』
 空飛ぶゴーレム――ドラグーンに騎乗したリィム・タイランツ(eb4856)が双剣で境界の王に挑み。
『お前だけは! セレネ殿の痛みだ!」
 同じくドラグーンに騎乗したリール・アルシャス(eb4402)は、境界の王の更に上から背を狙って叩きつけるように剣を振り下ろす――少しでも地に近づけるために。
「グゥ‥‥」
 境界の王の口から苦しげな呟きがもれた。その高度がだんだんと落ちてきている気がする。さすがに傷を負った状態で高度を保つのは辛いのだろう。
「俺達は‥‥負けない!!」
 【皇牙】の天城烈閃(ea0629)のホーリーアローが翼の付け根に刺さる。フライで宙に浮いたルミリア・ザナックス(ea5298)のソニックブームが容赦なく手負いの王を狙う。
 ファング・ダイモス(ea7482)、マグナス・ダイモス(ec0128)が破壊力のある攻撃を与えて、マグナ・アドミラル(ea4868)が死角から翼を狙う。
「この瘴気を消せば、仲間の勝機も見えてくる!」
「これ以上、カオスの思い通りにはさせん!」
 【強襲遊撃団「黎明」】の壬生天矢(ea0841)、デュランダル・アウローラ(ea8820)が「落とす」ように攻撃を重ね。
「カラスの王様に、年貢の納め時ってやつを教えてあげなきゃね」
「マルバス。お前は定命の者を侮りすぎた。それがお前の敗因だ!」
 エイジス・レーヴァティン(ea9907)と虚空牙(ec0261)がその巨体を叩き落した。

 境界の王の身体はどんどん落下していく。だが彼は負けたとは思っていない。
「敗因‥‥? 我は負けなどせぬ。これもまた、我の筋書き通り」

 ドスンッ!

「これ以上瘴気は増やさない!」
 音と地響きを立てて落下した境界の王の巨体を縫いとめるように、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が武器を突き立てる。
「マルバスが落ちたぞ!」
 ベアータ・レジーネス(eb1422)が叫ぶ。その瞬間を待っていた者達が、我こそはと境界の王に殺到していく。
「境界の王よ、祈りの篭ったこの槍の一撃、受けてみよ!」
「討ち貫け、我がソウルクラッシュ!!」
 アヴァロン・アダマンタイト(eb8221)や時雨蒼威(eb4097)などの上空からの攻撃もまだ止まない。
「‥‥アトランティス以来だな‥‥ここでケリをつける‥‥」
 境界の王は覚えていないかもしれないが、オルステッド・ブライオン(ea2449)は彼との因縁を忘れてはいない。沢山の友人の力を借りつつ、境界の王に近づく。そして槍を振り上げた。
 イレイズ・アーレイノース(ea5934)が念の為にコアギュレイトを試みる。だがそれがなくても境界の王はもはや動かない。いや、動けない。
「これで、最後です」
 ミラ・ダイモス(eb2064)、バル・メナクス(eb5988)が終わりを告げる。だが境界の王は怯えた様子もあきらめた様子もなく、この期に及んで――笑った。
「我を倒しても終わりではない‥‥。我の死など元々台本に織り込み済みよ‥‥」
 クックッとしわがれた声が耳障りな笑い声を立てる。
「混沌の力をその身に溜め込んだ悪魔の王は‥‥間もなく暴走するだろう‥‥。この戦いも、我の死も‥‥その後押しとなる‥‥」

 ガシュッ!
 ザシュッ!
 ドシュッ!

 まるでその耳障りなお喋りを早く止めようとでもするかのように、冒険者達の武器が一斉に境界の王を襲った。

 ヴアッ‥‥!!

 その巨体は一瞬で黒い靄の様になった。靄が境界の王を形作っていたのは一瞬だけで、すぐにそれは四散した。死体が残らず消滅するのはデビルやカオスの魔物を倒した時と同じだ。だが唯一つ違ったのは――

 ――その黒い靄は、万魔殿へと吸収されて行ったことだった。

 まるで境界の王の力を取り込もうするかのように。
 境界の王は倒した。だがそれだけは誰にも止める事は出来なかった。

(担当:天音)