第5回行動結果報告書

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黙示録の戦いの勇姿を!

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<第5回開戦状況>
戦力を整えたバアル軍の再侵攻が開始されました。
バアル軍は軍を左右に分け、攻撃を仕掛けるべく進軍中です。バアル本陣がどちらにあるかは、現在のところ不明となっています。
また一部戦力は主戦場であるディーテ城砦前の荒野を迂回し、防衛線への奇襲を行う可能性が示唆されています。
第5回は戦力の集中のため、ディーテ城砦の探索は「援護活動」のみ、ゲヘナの丘の防衛も「ゲヘナ攻防戦」のみとなっています。(主戦場の結果とそれに対するデビル側の行動により戦場・行動が変更されます)

バアルの儀式をくわえた「赤き本」の魔力が戦場全体に発動しています。本陣をつきとめられれば有利に行動することが可能でしょう。
しかし偵察によれば、エジプトで倒された「暴虐の魔神 セト」をはじめとする、現界で倒され地獄で力を蓄えていた上級クラスのデビルが、赤き本の魔力の影響を受けながら、バアル軍とともに進軍していることが確認されています。

また、ムルキベルがディーテ城砦と一体化した後、ディーテ周辺の瘴気が次第に増えているとの情報ももたらされています。


第5回行動入力時戦力状況
参加人数:858人
※状況
=危険、=注意

前線右翼前線左翼防衛線合計バアル軍は荒野に布陣!

大元帥 バアル
イラストレーター:稲田オキキ

待たせたな、諸君!
これより奏でるは、我らが軍勢の行進曲‥‥
つまりは、キミたちへの鎮魂曲となるものだ!
臆さず聞き惚れたまえ。絶望とともに!
白兵戦 9.9% 9.6% 13.2% 32.8%
救護・防衛 5% 4.8% 14.6% 24.5%
偵察 4.6% 5.3% 4.4% 14.4%
調査(デビル) 0.3% 0.3% 2% 2.7%
魔法戦 4.1% 3.7% 4.1% 12.1%
祈り 0.6% 0.6% 4.5% 5.9%
伝令 1.5% 2% 2.3% 5.9%
調査(カオス) 0.2% 0.2% 0.8% 1.2%
合計26.5%27%46.3%100%



第5回援護行動結果(5月11日〜5月18日)
参加人数:933人

達成率行動人数総計 作戦への影響     援護活動影響総括

総合防衛力 やや増加
偵察結果 バアル:左翼 セト:右翼
救護167.5%  399人防衛力大幅アップ
偵察135.7%  407人  敵布陣確認
調査80.9%  331人
陣地確保64.1%  308人  防衛力低下
武器手入れ83.7%  231人
炊き出し・物資確保58.6%  442人   物資不足
ディーテ探索149.2%  555人  探索進行中
祈り・儀式57.0%  474人
橋頭堡作成60.9%  339人  防衛力低下
援護交渉126.3%  524人  交渉進行中



<第5回戦況>
第5回の戦いでは、各所で戦線が膠着しています。
今回は荒野での戦闘に狙いを絞ったため、多くの冒険者が荒野での戦闘に参戦。結果、セトをはじめとする上級デビルを要し戦力を増強したバアル軍に対し、互角の勝負を繰り広げました。
しかしセトがモレクのように自らの魔力を解放したことにより発生した魔力を帯びた砂嵐と、突然現れた獅子の姿をした魔神パズス、カラスに似た姿を持つマルバスといった増援に最終的な攻め手を打つことができず、敵の撤退に合わせて第5回の戦闘は終了しています。

今回の調査では、上級デビルの本体の力(モレクの「不死の力」・ムルキベルの「城砦との一体化」・セトの「無限の砂嵐」、バアルの「赤き本」)が開放されるとき、その膨大な魔力により、他の上級デビルの本体の力と干渉して効果を弱める可能性があると判明しています。

第6回の戦闘において、バアル軍は前衛をセトとして無限の砂嵐とともに進軍し、バアルは後方で儀式に専念すると推測されています。
なお、新たに現れた上級デビル、パズスとマルバスは、バアルに従わず遊撃的に動く可能性があると目されており、第6回の戦闘においても、バアル軍の主軸はセトとバアルで構成されている模様です。
このため、ディーテ城砦を中心として瘴気の濃度が上がり始めていることも含め、上級デビルの力に対抗するためにゲヘナの丘を沈めたのと同じような祈りや儀式が有効との意見が出ています。
またセトは正面からの攻撃のみならず、変身を行えるデビルを潜入させるべく算段を整えている様子で、このため伝令や偵察により正確な情報を得ることが重要となるでしょう。
また直接的に敵将を攻撃する作戦も立てられており、敵将へ向かうまでの前線や防衛線をいかに保つかも重要となるでしょう。


結果概略

成功結果冒険者の状況
暴虐の魔神 セト
イラストレーター:展心三文

いい気になりやがって、バアルが‥‥!
まあいい、その手柄も、ちっぽけな人間の魂も
全て俺のもの、俺の力にしてやるよ!
敵右翼  ○ マルバス出現、戦線膠着
敵左翼  ○ バアル軍足止め、戦線膠着
防衛線  ○ 戦線膠着、陣地修復



■第5回報告書

●地獄に顕現する地獄
「‥‥まさかこの俺が、バアルごときにこき使われるとはな」
 数mの巨体を誇る、何にも似ていない獣の姿をしたそれは、戦いの始まる前、苦虫を噛み潰したようにつぶやいた。
 その名はセト。暴虐なる砂漠の魔神として、エジプトの地で恐れられてきた上級デビルである。
 いくらか昔、エジプトの地にて暗躍していたこの魔神は、その地に住まうものと、その地を訪れた有志の冒険者たちの協力によって倒されていた。
 現世で倒されたそれは移し身。だが、セトほどの、神話に名を残すほどの存在であれば、新たな移し身を作り力を取り戻すのには、相応の時間がかかる。
 ‥‥この地獄での戦いに参戦すべく、バアルの力を借りなければならないとは!
 人間ごときに追い込まれたこと、そしてバアルに対する一種の屈辱がセトを支配し、そしてその激情はいまだ見せたことのない暴虐な魔力として噴き出し始めた。
「セ、セト様‥‥まさか!」
「人間どもに使うのはしゃくだが‥‥モレクがゲヘナの丘を使ってまでやられたほどであれば、認めざるを得ん!」
 その凶暴な叫びとともに空気が変わる。それは、いくらか離れた戦場でも推察できただろうか。
 かつてのモレクのように膨大な魔力がセトを包み、あふれ出すように噴き出すと、広大な範囲に地獄の土から生まれたのだろうか、黒い砂塵が吹き荒れ始めていた。
 戦場は今、赤と黒の二つに分かれ、冒険者たちを襲おうとしていた‥‥。

(担当:高石英務)


●邪悪との開戦
 マーチが聞こえる。
 鋼鉄の打ち合う音。雄々しき強者共のあげる鬨の声。
 心奮い立つ勇壮な楽曲は、しかしただの伴奏に過ぎない。
 苦鳴の叫びと断末魔の嘆き。溢れる悲鳴こそが主旋律!
 壮麗なるもおぞましき戦さ場のマーチを高らかに奏でながら、デビルの軍勢は前進を開始する。
 迎え撃つは一騎当千の冒険者達―――

「放て!!」
 菊川響(ea0639)の号令の元、無数の矢がデビルの陣営目掛けて豪雨となって降り注ぐ。ミリア・タッフタート(ec4163)の魔弓「ウィリアム」、ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)の「破魔弓」デビルスレイヤー、アシュレー・ウォルサム(ea0244)の天鹿児弓。どれもが破邪の魔力を秘めた逸品である。さしものデビルの軍勢と謂えどもも、これら強烈な射列の一斉攻撃の前には算を乱して逃げ惑う他ない。
「‥‥こうしてみると、俺達冒険者も随分戦慣れしてきたようだねぃ? 最初の頃は作戦も何もなかったもんだけど」
「慣れもするさ。あたいらがここに来てからでも、もう随分と経つ」
 哉生孤丈(eb1067)の言葉に、クーリア・デルファ(eb2244)が応える。
 二人は共に【誠刻の武】京都隊の一員として槍を並べる間柄だ。そして、そんな彼らの周囲には【誠刻の武】本隊は元より、【VizurrOsci】、【ベイリーフ】らを初めとする各チームの冒険者達が居並び、突撃の合図を今や遅しと待ち構えている。
 作戦名【凱灯】。
 威力偵察を主眼とし、勝利を呼ぶ灯火という名を付けられた今回の作戦には、前線を受け持つほぼ全ての冒険者チームが参加していた。特段のチームに所属していなくとも、自発的に作戦に協力する冒険者達もまた数多い。
「威力偵察か。突撃の次に好きな言葉だ。面白い」
 風雲寺雷音丸(eb0921)は不敵に笑い、愛刀を柄を握る。
 先行して敵陣に潜入した者達からの報告では、デビル軍の総大将とも言えるバアル率いる本陣は、彼ら冒険者左翼陣営の正面に位置しているという。敵軍の陣容、戦力を直接見定める事となる今回の作戦は、今後の戦いの趨勢を巡る上で重要な物となるだろう。冒険者達の士気は総じて高い。

「作戦の第一義は情報の取得だ。目を見開き、耳をそばだてろ。出過ぎず、突出するな! 生きて帰り、得た情報を報告する事こそが手柄だと知れ」
 【誠刻の武】指揮官である陸堂明士郎(eb0712)が、白兵要員の者達を前に声を上げる。
 戦いはまだ始まったばかり。赤き本の魔力によって、無限に等しい回復力を備えたバアル軍に人間が対抗していくには、自らの損害を最低限に抑えるのが全ての大前提なのだ。
 剣を抜き、突撃の瞬間を待ち望む冒険者達の前方の進路を、後方の支援部隊より放たれた矢が、爆風が、雷光が、轟音と共に払い清めて行く。塵と化した小悪魔達の背後に開く、一筋の道。
「さあ、道が出来た! けどそんなに長くは保たないよ。行くなら今のうち。怪我しないようにね!」
 矢を放ち終えたフレイア・ヴォルフ(ea6557)が、陸堂の方を振り返る。
 陸堂は頷き、手を掲げた。
 全ての冒険者に見えるように、高く。
「【凱灯】作戦、突撃!」

 ―――冒険者達、左翼陣営の進軍は当然のこと、デビル達にも即座に動向が伝わった。
 中級デビルら前線指揮官の指示の元、開いた戦線の穴は即座に補填され、各地で人とデビルが激しく激突を繰り返す。騎兵を中心とした冒険者達の先陣は極めて鋭いが、その突進力をもってしてもバアルの本陣を突破するには至らない。
「戦線は膠着状態に陥っているようです、バアル様」
「ほう、膠着‥‥大変結構! 我が輩の不滅の軍団を前に戦線を膠着させた時点で、哀れな糞虫共の絶望にまみれた死は確定済みというわけだからな!」
 中級デビルから伝令の報告を受けたバアルは、そう言って歯を剥き出しにゲラゲラと笑う。
 今日のバアルは実に機嫌がいい。冒険者達が突撃してくる事も、足止めを食って戦線が膠着する事も全てが全て想定通り。勿論、その後の事だって想定通りに進むだろう!

「さあ、あまり長引かせるのも可哀相だ。それに、糞虫共の矮小な脳髄では、現在の戦況の意味がまだ掴めてはおらんかも知れんからな? どれ程地獄が朱に染まれば、糞虫共が真の絶望を理解する事やら? 全くアホ共の相手をするのも疲れる事よ!」
 バアルはまた、ゲラゲラと声を上げる。
 身を揺すり、哄笑し、下品な口を開けて。
 ‥‥その度に、バアルの持つ赤い本から、赤い霧が噴き上がる。デビルの傷を癒し、鼓舞し、全ての敵対者の心身をも鈍らせる赤い霧。濃密な赤霧は、左翼側の戦線を中心にゆっくりと拡大を開始する。
 人の足を鈍らせ、悪魔に不死をもたらす赤い霧が、地獄の戦場を広く覆おうとしている‥‥

(担当:たかおかとしや)


●救いに奔るものたち
 現れた恐るべき魔物セト。かつて死せる魔物を今度こそ滅ぼさんと死力を尽くす前線を支え、救護の者達も一心不乱に動き回っていた。

「しっかり!」

 淡い光を放ちながら、『魔法戦団』所属メイユ・ブリッド(eb5422)が仲間の傷を癒す。後方には簡易救護所が設置されては居るが、その場で手当て出来るものはしてしまった方が良い――攻め手は1人でも居た方が良く、何より救護所自体も次々に運ばれてくる死傷者で猫の手も借りたいほどの忙しさだ。
 志摩 千歳(ec0997)ら『鶺鴒団』も、戦場を走り回っては怪我人にリカバーや応急手当を施していく。

「くそ‥‥ッ、利き腕をやられた‥‥ッ」
「大丈夫、落ち着いてください。すぐに治りますから」

 微笑む彼女と怪我人を守り、他に怪我人が居ないか確認して回るのは荊 信(ec4274)。ここで処置できそうな者は千歳の元に連れて行き、更なる治療を必要とするものは伊勢 誠一(eb9659)の御する簡易馬車へと横たえる。
 後方の救護所にはルイザ・エメトリア(ea8923)や、間に合えば死者すら蘇らせる超越リカバーの使い手・導 蛍石(eb9949)らが居る。また搬送の間に合いそうにない死傷者を1人でも救うべく、『【世界騎士団】』が1人フィーネ・オレアリス(eb3529)も前線に赴き、超越リカバーを行使する。
 適材適所、誰もが自分に出来る事を精一杯に。だから、いつの間にか馬車を取り囲む魔物に誠一は宣言する。

「重傷者は何としても後方まで運ぶ!」
「ギギッ、サセルカッ!」

 一触即発、睨み合う友人の危機を見咎めた信が「やれやれ‥‥邪魔をしてもらっては困るなぁ‥‥」などと嘯きながら、真剣な眼差しで魔物に切り込んだ。と、行き合わせた九烏 飛鳥(ec3984)が加勢する。伝令を無事送り届けた、その帰りに重傷者を襲おうとしている魔物に行き会って見捨てられる道理もない。
 2人の足止めに感謝して馬車を走らせ、辿り着いた救護所からはまさに、小鳥遊 郭之丞(eb9508)が治療を終えて出てきたところだ。すぐに仲間のサイーラ・イズ・ラハル(eb6993)からの思念が届く。今1人の仲間アナマリア・パッドラック(ec4728)も無事のようだ。仲間達が執り行う祈りの儀式、その妨害に入る魔物を食い止めようと決めたのは彼らだけではない。皆が、無事であれば良いが。
 『【皇牙】』ガルシア・マグナス(ec0569)が叫ぶ。

「皆にレジストデビルを!」

 応えて彼女のペガサスが魔法を発動し、付与されたマグナ・アドミラル(ea4868)らが一点突破を目指して魔物達に向かっていく。そこには『強襲遊撃団「黎明」』の壬生 天矢(ea0841)らも居る。仲間を守り、共に力を合わせて敵を各個撃破する事を目的とする彼らの信念に、『【皇牙】』の行動は大きく異なったものではない。
 目の前のセト、それだけでも十分強敵だ。この上バアルまで現れてはたまらない‥‥とフォースコマンドで魔物からバアルの位置を確認しようとするフレイア・ケリン(eb2258)だったが、敵もさるもの、魔物達は魔法抵抗をしてなかなか上手くいかない。
 確かな事は、セトとセトに従う魔物たちが居て、今なおこの戦場には怪我人が居る、殖え続けている、ということだ。
 そんな彼らを救うべく、冒険者達は休む間も惜しんで駆け、手当てし、怪我人を運び続けていた。

(担当:蓮華・水無月)


●防衛ラインのゴーレム
──拠点前方・最前線
「ちっ‥‥ちょこまかと‥‥五月蝿いですねっ!!」
 ヴァルキュリアの周囲を取り巻く悪魔達を蹴散らしつつ、アルファ・ベーテフィル(eb7851)がそう叫ぶ。
 とにかく拠点を護るべく、仲間たちとローテーションを組んで戦っていたのだが、どうにも小さい悪魔達には、ゴーレムでの戦いはかなり不利である。
 一対一ならまだしも、奇襲にもにた感じで襲いかかってくる悪魔達に、アルファは悪戦苦闘している。
「今はまず、ここでふんばるしかない‥‥」
 そう自分に言い聞かせつつ、アルファは手にした巨大なハルバードを振回す。

──一方その頃
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。完成したぜぃっ」
 拠点前方に張り巡らされた巨大な『防護柵』。
 【TN特攻隊】の雄姿によって作られた巨大な防護柵は、悪魔達の進軍をどうにかその手前で止める事に成功。
「そぉれぃっ!!」
 その手前でリューフェル・アドリア(eb8828)はおそいくる悪魔達に次々とスマッシュを叩き込み、なんとか数を減らそうとしている。
「どうせ叩き込むなら、そうだっ!!」
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 扇城に飛んでいくスマッシュの衝撃波。
 セイル・ファースト(eb8642)が広域戦闘を開始し、一度に大量の悪魔を屠りつつある。
 だが、それでも一気に数を減らすことは出来ず、ただただ進軍してくる悪魔達を削る事しか出来ない。
「まだまだだぁっ!! 数が減らないのなら、叩いて叩いて叩きまくれッ!!」
 グレイン・バストライド(eb4407)はパニッシャー片手に悪魔達に向かって突撃。
 兎に角近寄る敵を次々と攻撃して行く。
「このエリアは引き受けます!!」
 グレインの後方から1台のキャペルスが近寄ってくる。
「おお、その声はエリーシャ殿か。済まない、ならば任せる!!」
 と告げて、グレインは別の手薄な場所に向かって走り出す。
──ガギィィィィィン
 軽く振りかざすロングスピア。
 それを構えたキャペルス、その制御胞でエリーシャ・メロウが悪魔に向かってたんかを斬る!!
「我が槍を受ける覚悟はあるか!」
 その声に一瞬後ずさりするものの、悪魔達は恐れることなく進軍を続ける。
 
 この戦い、防護柵を最前線として護りつづけるのかやっとであった‥‥。

(担当:久条巧)


●対バアル救護本部。
 ついに幕を開けたバアル軍との本格戦闘。
 今までとは明らかに違い、既に敗れたと思われていた強力なデビルたちを従えての強行軍。
 本気で潰しにかかってくる―――前線で戦う冒険者たちにはそのプレッシャーが十分に伝わっている。勿論、前線組を間近で支援する者達にも。
「ついに本腰入れてきたな‥‥こちらも防御を固めるぞ!」
 ペガサスに乗って空中より戦況を見ていた【黒騎士団】のイリアス・ラミュウズ(eb4890)の掛け声は【WG鉄人兵団】のゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)のテレパシーで増幅されて各冒険者たちに伝えられる。
 まず自陣の設置に奔走したのは【ジャパン医療局】の暮空 銅鑼衛門(ea1467)。彼が陣頭に立ち何よりも優先して自陣を組み立てると、そこに【堅牢】のヴィタリー・チャイカ(ec5023)とセフィード・ウェバー(ec3246)たちが各々でホーリーフォールドを展開し自陣をより強固なものに仕上げていく。
 だが、自陣の中でもすんなりと治療ができるわけではない。
 怪我だけならばまだしも、明らかに正気を失って暴走する者や、魅了されて味方に攻撃を仕掛けてくる者もいる。
「うがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はいはい、ちょっと大人しくしてくださいね」
 叫び声をあげながら武器をぶんぶんと振り回す一人の兵士の動きを封じながら【ジャパン医療局】の国乃木 めい(ec0669)は兵士の額にそっと手を触れると、淡い光に包まれた兵士の目に少しずつ光が戻ってくる。
「あれ‥‥俺は‥‥」
「ほらほらぁ! 正気に戻ったらさっさと戦場に戻る!」
 呆けた顔の兵士に激を飛ばすのは同じく【ジャパン医療局】所属のケント・ローレル(eb3501)。その強引とも言える引き戻し方を横目で見て苦笑を漏らしつつ、【ベイリーフ】のアイリス・リード(ec3876)は傷ついた仲間に回復を施していく。
 毎度やっていることとはいえ救護の人間もさすがにこれだけの規模の怪我人を相手にすると疲労が激しい。峰 春莱(eb7959)は軽度の治療を行っている者とアイテムをメインに治療を行う者たちを中心に声をかけて回る。
「余力のある者は前線の怪我人護送班と交代するのじゃ。我等が継続できねば全て終わってしまうぞ」

 勿論怪我人治療が救護の全てではない。
 前線の動きに臨機応変に対応できるよう準備をしておくことも大事なこと。
 【ベイリーフ】のクリステル・シャルダン(eb3862)は主にバアル本体の位置を正確に把握することに重きを置いていた。敵将の位置が把握できていれば反撃の際に必ず役に立つ―――そんな想いもあったのかもしれない。勿論その他に強力なデビルが現れたときのことも考えて、だが。
「動きはどうですか?」
 そんなクリステルに声をかけたのは【WG鉄人兵団】の信者 福袋(eb4064)。彼の性質上今回はゴーレムの調整を中心に裏方作業に徹しているのだが、どうやら敵の動向が気になったようだ。
「今のところ特に目立った動きはありませんわ。他にこちらに来る強力なデビルの姿らしきものもまだ発見できていません。油断はできませんが」
 答えるクリステルの顔にも疲れが見える。それを見た将門 夕凪(eb3581)がそっとクリステルの肩に手を添えた。
「まだ始まったばかりです。ご無理をなさらずに‥‥」
「‥‥えぇ、ありがとう」
「これは‥‥今回も色々と消耗が激しそうですねぇ」
 苦笑しながら呟いた福袋は頭の帽子に手を置いて天を仰ぎ見る。
 地獄の空はそんな冒険者たちの気持ちを代弁するかのようにどんよりと曇っていた。

(担当:鳴神焔)


●黒い混沌と赤い霧
 デビルの調査に向かった冒険者たちが戦場を駆け抜ける。右翼と左翼、二手に分かれて押し切ることを想定していた冒険者達ではあるが、刻々と変化する戦況を見つめていると押されているのは自分たちである事が悟られる。
「また陣地が破壊されてしまいました‥‥」
 神名田少太郎(ec4717)は溜息にも似た言葉を出すのがようやくであった。自らの役目を調査とし、デビルの捜し物、命令系統、そして目的を調査する事に専念はしていたが状勢は気に掛かる。だが、少太郎はぐっと堪えて調査へと戻った。仲間の戦いを、少しでも有利にするために。
「捜し物の冠を狙って七大魔王が動いている、らしい‥‥」
 少太郎は思案する。噂にしか過ぎない情報だが、本当だとしたら何か引っかかる。考えるんだ、と自らに言い聞かせる。あるいは、冠と言うのは象徴としての言葉であり実物は違うのではないか。キエフから参戦してきた冒険者の話では、七大魔王の内の一体、憤怒の王アラストールがあるアイテムを狙って現れたとも伝え聞いた。
 それは秘中の秘として隠され続けていた「大公の杖」と呼ばれる品であり、一度その魔法を発動すれば御すことさえままならない膨大な魔法力が溢れ出でて全てを破壊し尽くすとも言われている。噂によるとその争奪戦に赴いた冒険者は半死半生の状態で辛うじて護りきったとも言われている‥‥

「セトは右翼に出現したのですね」
 烏哭蓮(ec0312)は捕らえたデビルから少しずつ情報を集めていた。
「エジプトではメハシェファと名乗り政局を混乱さえたデビルでした。妖婦に化ける可能性もありますと伝えて下さい」
 伝令の任を受け持ってくれる仲間にその事を伝えると、哭蓮は再び小走りに戦場を駆け抜けていく。調査を受け持つ仲間達と取り決めていた場に集まり、互いに情報を交換し合う。先に到着していたタイタス・アローン(ea1141)がおもむろに口を開いた。
「カオスを調査していて思ったのですが」
 タイタスは一度呼吸を整えてから再び口を開く。
「ゲヘナの丘に集まる瘴気やバアルの使う赤の本の秘術。あれはむしろカオスの力、存在にに近い気がするのです」
 皆が一斉にタイタスの顔を覗き込む。粗暴に見えるタイタスだが、その雰囲気とは別に言葉使いは丁寧であり話も慎重に進める紳士に見えた。
「勿論、断定はできません。あくまで想像でしか過ぎません。だけど、実際に地獄に来てデビルとは違う、カオスと呼ばれる存在を目の当たりにしているうちにどうしてもデビルとカオスは決定的に何かが違う気がしてきたんです」
 そこまで話を聞いていたディラン・バーン(ec3680)が首肯した。
「タイタスさんの話を真実とした方が矛盾がないように思えますね」
 ディランはバアルの赤本をずっと観察し続けていた。魔力の発動、範囲。
「赤い本からは赤い霧が沸き上がり、その力でデビルは蘇るんだけど」
 ディランは続ける。
「瘴気の濃い地域、それに祈りの力が働いている地域では、赤い霧が弱まるんだ」
 祈りの力で弱まるのだとしたらゲヘナの丘に存在する瘴気と同じ性質であるかも知れない。その上で瘴気と赤い霧が互いに打ち消し合い干渉し合う力だとしたら。これが指す意味はなんであろう。哭蓮は【祈紐】【凱灯】に込められた願いに想いを馳せる。
 そしてカオスとは、デビルとはなんなのであろうか。
 集まった冒険者は思案を重ねる。誰かがかつて作戦の場で話したことがある。デビルは天使が墜ちた姿であるとすれば、カオスはその汚染の根幹を司る存在ではないか、と。
 だが、間もなく冒険者は知ることになる。デビルがカオスに染まるとは、どういう事を指すのかと。力を求めたその先に、一切を汚濁させる混沌の根幹があることを。

(担当:谷山灯夜)


●二色の悪意の、さらにその奥
「‥‥これはまた派手なものね‥‥」
 背後で呟くネフティス・ネト・アメン(ea2834)の声に、エスリン・マッカレル(ea9669)も頷く。
「右翼の巨大な砂嵐に、左翼に立ちこめる濃密な赤い霧。‥‥バアル本陣は左翼で確定だろう。余程あの霧に自信があると見える」
 ヒポグリフに相跨って上空から戦場を見下ろす二人の視界を、赤と茶色のツートンカラーが急速に埋め尽くしていく。
 地獄という土地に、思う様ぶちまけられた二色の悪意。
 赤い霧はバアルの持つ例の魔本から湧き出た物であろうし、右翼で発生した猛烈な砂嵐も、凡そ名の有る大悪魔の仕業に相違ない。赤い霧の沸き立つ最奥に集中された不自然な敵兵力の事も合わせて、情報は直ぐさま冒険者達本隊の元へと伝えられた。
 飛び、走り、貴重な情報を更に多くの味方へと伝えるべく戦場を縦横に駆け回る伝令達。
 ややあって前線近い櫓の一つより二条の煙が立ち上ると、その煙による信号は次々と後方の櫓へとリレーされていった。

「ねえ、あなた。あの煙がなんて言ってるのか判る?」
 ディーネ・ノート(ea1542)の質問に、ガラフ・グゥー(ec4061)も櫓の煙を見上げた。
 ロシア軍が先日地獄に建てた物見櫓兼用の狼煙台から立ち上る二条の煙と、明滅する明かり。元よりそう複雑な情報が送れるものではなく、その意味するところも簡単だ。
「『敵本陣、左翼』だな。どうやらバアルはわし等の正面に布陣しているらしい」
「ホント? そりゃ大変ね。‥‥まあ、頑張り甲斐はあるかしら?」
「‥‥それはもう、十二分にな」

 立ち上る二条の煙は、敵陣深くに潜入していた者達の目にもはっきりと映る。
(バアルは左翼でござるか‥‥)
 葛城丞乃輔(eb4001)は、岩場の影に身を潜めつつ、ゆっくりと前進する。そう遠くない周囲には他にも仲間がいるはずだが、時節感じられ僅かな気配以外、その姿を直接目にする事はない。
 葛城の仕事は、敵陣奥にまで潜入を試み、出来るだけ多くの情報を持ち帰る事だ。仲間の事も、そして己の忍者としての技量にも信頼を置いている。危険な任務ではあるが、何とかやり遂げられるはずだった。
 ―――そう、その声を聞くまでは!

「‥‥成る程、迂闊なバアルめの軍勢相手なら、出るも入るも自在というワケか」
 どっと、汗が噴き零れる。
 その声を聞くまで気が付かなかった。振り返る事さえ出来なかった。
 声の主は、ただ葛城の背後に立っているだけなのに。
「殺しますか? パズス様」
 もう一人の声が、初めの声に問い掛ける。ステーキの焼き加減を訪ねるシェフのように、自然に。
 葛城は恐怖の中、混乱する意識を必死になってつなぎ止めようとした。
 パズスとは何だ?! 皆は何処にいる? 綾辻糸桜里(eb0762)は、キッテン・マラドロイト(eb1194)は‥‥?
「よい、マルティム。バアルめに手を貸してやる事もなし。それに『アレ』が完成すれば、どうせ此奴らは皆死ぬのだ。送ってやれ」
「‥‥はっ」
 マルティムと呼ばれたモノが頷き、葛城の頭を背後から無造作に握った。
 仲間は無事か? 誰かこの事を伝え‥‥
 ―――彼の意識は、そこで途絶える。

「おい、あんた、ちょっとこいつを診てくれないか? どうもヤバイ雰囲気なんだ」
 戦場に倒れていた冒険者の一人を馬に載せ、ジーン・インパルス(ea7578)が【ジャパン医療局】の後方救護所に駆け込んで来たのは、戦いが始まってしばらく経ってからの事だった。
 すぐに患者は診察に回されたが、おかしな事に、その身体には毛程の外傷も見当たらない。毒が疑われ、呪文と共に幾種類かの解毒薬が処方されるが、患者の苦しみは止む気配さえ見えなかった。

「毒じゃない‥‥これは熱病の一種だな。砂漠地帯で希に発症する事もあると聞くが‥‥」
 通りがかった医師の一人、空木怜(ec1783)はそう診断を下し、患者の額に手を当てる。
 まるで燃えるようだ!
「とにかく、患者は後送だ! 原因は判らんが、これが熱病だとしたら、こんな地獄の救護所では治るモノも治らんぞ!」
 不安を押し殺し、空木は手空きの者の尻を叩いて患者の後送の準備を行わせる。
 一体、何故地獄で熱病が発生する? それに発症の速度も速すぎる!
 空木を始め、居並ぶ医師達の疑念の答えは見付からない。ただ診察中、『葛城』と辛うじて名乗ったその患者だけが、譫言のようにパズス、パズスと呟くのみ‥‥

(担当:たかおかとしや)


●砂嵐の奥に隠されたもの
 右翼――こちらは非常に視界が悪かった。立ちふさがる砂嵐が、視界だけでなく気力も奪っていくようで。
 それでも怯まなかったのは【威力偵察隊「月」】の面々。無理はせず情報を持ち帰る事を最優先とした彼らは、互いに庇いあいながらも砂嵐の前に立ちふさがる敵達に攻撃を仕掛けていた。
「酷い砂嵐で、中の様子が覗えません!」
 ヒルケイプ・リーツ(ec1007)の報告に、リーダーのリ・ル(ea3888)が眉を顰める。それでも、諦めるわけにはいかないのだ。戦場において情報は命。
「バアルはいないようだな」
「ということはこちらに居るのはセトかな‥‥」
 キット・ファゼータ(ea2307)の呟きにギルス・シャハウ(ea5876)が返す。
「あの故国エジプトを絶えず苦しめてきたセトも再び姿を現そうとは」
 他にも配下の者が居るのではないか、シェセル・シェヌウ(ec0170)は因縁浅からぬセトの部隊の動向を中心に偵察を行う。
「さすがにこの砂嵐の中、グライダーで飛び込むわけには‥‥」
 シルビア・オルテーンシア(eb8174)と音無響(eb4482)はグライダーを旋回させて砂嵐の外に居る敵の偵察にとどめる。
 一方、隠密技能を駆使して砂嵐近くの敵の間にもぐり込んだクル・リリン(ea8121)は、デビルたちの零す言葉を聞き取っていた。
『モウスグ、アノオ方ガイラッシャル』
(「あのお方?」)
 その言葉から察するに、強大な援軍が到着予定なのかもしれない。長居は無用と判断し、撤退をする。
 援軍到着の恐れありとの報は、戦場を飛び回る『しふしふ同盟』の者達によって広められていく。
「再びセトと関わろうとはのぅ‥‥あやつらのためにも今度は封じるのではなく消えて貰えると嬉しいのじゃが‥‥」
 エジプトにてセトと関わりを持ったアナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)は自身の持ちえる情報を皆に語って聞かせる。だが。
「セトに味方する大物‥‥? 心当たりはないのぅ」
 一体何者なのだろうか――これ以上強敵が増えられたら――皆の心を不安と恐怖が占める。
「っ――!?」
 テレスコープで遠方から戦場を確認していたフェザー・ブリッド(ec6384)が息を呑んだ。
 その視界を黒色の羽根が覆ったかと思うと、「それ」は砂嵐の中へ飛び込んでいく。
「あれは、何だ?」
 ペガサスに騎乗しながら敵陣を凝視していた琥龍蒼羅(ea1442)が呟いた。
 巨大な鴉のような容貌。黒く照り輝いた羽根。何処かで見たことがある。
 一同は「それ」が砂嵐の中に突入していくのを目撃した。
「あれは‥‥まさか境界の王?」
 ロック鳥に騎乗したままリアナ・レジーネス(eb1421)が呟いた。一瞬自分の見たものが信じられなかったが、すぐにヴェントリラキュイで地上部隊にその事実を報告する。

 現れたのは、謎の壁が現れた時に姿を見せた、境界の王とやらに酷似した敵だった。

(担当:天音)


●防衛ラインの戦鬼
──拠点周辺、最終防衛ライン
 激しい戦いが繰り広げられている。
 大量の悪魔の軍勢、それらは全てバアルの魔力により屈強なまでに力を付けている。
 それらが全て、ひとつの軍隊として作戦を組んで行動を行なっている。
 奇襲を仕掛けてくるものたち、正面から突破してくる者たち、側面からの攻撃を仕掛けてくる者たちなど、まるでかなり力のある軍師が付いているかの如く、悪魔達は次々と冒険者達に向かって顎を向く!!

「上空の防衛が足りない!! 地上部隊、魔法兵団は何をやっているんだっ!!」
 拠点前方上空で、ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)は愛馬ペガサスに跨がり、上空から進撃してくる悪魔に向かって攻撃を仕掛けている。
 だが、その数は圧倒的、本来空を飛ぶ琴ので着ない人間にとっては、上空を自在に跳んでくる悪魔の衆はかなり厄介なものである。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 突然、飛行している悪魔の影が大爆発を起こす。
「取り敢えず援護はする。だが、もう少し時間をかせいで欲しい。下で魔法兵団がスタンバイしているから‥‥」
 閃我絶狼(ea3991)が後方からそうファイゼルに告げる。
「判ってはいるんだが‥‥」
 圧倒的な数。
 地上からの弓兵ではまったく歯止めにならない。
 このまま上空から拠点を制圧されたら‥‥。
 と、そんな嫌な予感が一瞬走ったものの、それは突然起こった集中攻撃によって払拭された。
──ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
 拠点付近で待機していた魔法兵団の魔法が一斉に発動。
 アルテリア・リシア(ea0665)、フォルテ・ミルキィ(ea8933)、鏡桃菜(eb4540)のサンレーザーが、オリタルオ・リシア(ea0679)、ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)のムーンアローが、そしてメネア・パティース(eb5563)、エル・カルデア(eb8542)、リディア・レノン(ec3660)のグラビティキャノンが上空から襲いかかる悪魔達を迎撃する。
「これ以上は近寄らせませんっ!!」
──ドドドドドドドドドドッ
 ジャン・シュヴァリエ(eb8302)の扇状に広がるライトニングサンダーボルトが、仲間たちの打ち漏らした悪魔達を次々と迎撃していく。
 だが、それでも数は圧倒的に不利。
 魔力の切れたものは次々と拠点に退避し、前衛にあとを託すしかなかった‥‥。

──拠点前方・陸上戦
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオツ
 自身のもてる力をフルに発揮し、アンリ・フィルス(eb4667)はソードボンバーを次々と炸裂。
 そのあおりを受けた悪魔達には、さらに側面からアーシャ・イクティノス(eb6702)か弓で狙撃。
 次々と数を減らしていったのだが。
 それでも悪魔達の進軍速度は止まらない。
「こ、これ以上の防衛は‥‥」
 レオニード・ダリン・アドロフ(eb7728)が戦局を分析。
 進軍ではなく防衛に専念してもなお、圧倒的な数と未だかつてない力に溢れている悪魔の進軍を止める事はできない。
 ただ、その時間を少しでも送らせる事が、今は防衛ラインとしての務めであろうと判断。
「近接部隊は護りに徹せよ!! 周囲からの襲撃にも気を配れ、戦局が動くまで、今はただ護りまくれ!!」
 その怒号が、戦場にいたものたちにも届いていった。

(担当:久条巧)


●砂塵に潜む猛者
 右翼方面に陣を布く多数の冒険者達、そんな彼等の前に凄まじい砂嵐が立ちはだかる。
 その前では細身の者は次々と暴風に煽り倒されるばかりでなく、視界も完全に遮断され一寸先さえも碌に見得ない程。
 その状況は彼らにこれ以上ないほど知らしめる事となる。そう、上級デビル『セト』の存在を。

 『☆ メイ・ゴーレム隊』の者達はそれを想定し、その戦闘能力を計るつもりで居たのだが‥‥如何せん、白兵戦に参加する隊員の大部分がその名の通りチャリオット等のゴーレム兵器を用いていた為、暴風に阻まれ――もしくは視界が非常に悪い中を圧してフロートチャリオットや人型のゴーレム等を駆った場合の味方への被害も鑑みて、砂嵐内部へと突入する事は自重せざるを得なかった。
 それ故、彼等は主に砂嵐外部の敵を蹴散らし、援護や殿を務める事にする。或いは門見雨霧(eb4637)などはチャリオットの機動力を生かしながら、パラーリア・ゲラー(eb2257)の延命処置による助力も受けつつ傷付いた仲間達を積んで後退して行く。

 無論、同じく砂嵐への突入を断念し、その周辺で戦闘を行って居るのは彼等だけではない。ペガサスやグリフォン等を駆って空を往こうとする者、陸路を往きながらも砂嵐の猛威に耐え切れず外部へ弾き出されてしまった者達も、彼らと同様に周囲のデビルと相対していた。
 龍深城我斬(ea0031)の様に雑魚‥‥デビルをそう呼べるやら甚だ疑問ではあるが‥‥それらを掃討する者達も居れば。
「退治の手向けに一曲奏でましょう」
 コルリス・フェネストラ(eb9459)がグリフォンに跨りながらオルフェウスの竪琴を奏でれば、僅かに鈍るデビル達の動き。
 だがしかし、赤い霧を纏ったデビル達はそれだけでは諸共せず、禍々しい怒号を上げながら冒険者達に襲い掛かる。

 混戦の中、メグレズ・ファウンテン(eb5451)達の様な戦線維持に専念する者達の奮闘も虚しく、ジリジリと防衛線を押し込まれる冒険者達――無論その理由としては、防衛線へ迫る様に吹き荒れる砂嵐により、各々が思う様に動けていないと言う事が非常に大きかった。
 おまけに、ほぼ冒険者全軍において共に実行されていた『深い追いせずトドメを刺さず』と言う、バアルの赤い本の効果を警戒しての戦法も、この状況下では災いしていた。
 敵は瀕死の傷を負おうとも、臆せず襲い掛かってくる。それを咄嗟に切り伏せれば、その身体は赤い霧に包まれて消失‥‥これでは真にデビルを倒した事にさえならない。
 どうやらその効果はバアルの視認も必要なければ、計り知れないほど広大な範囲内に居るデビル全てにほぼ自動的に恩恵を齎しているらしく‥‥風烈(ea1587)を始めとする威力偵察に当たっていた者達は、思わず顔をしかめる。
「此方は陽動、バアル率いる本隊は左翼‥‥分かって居るのに‥‥!」
 『【皇牙】』の隊長、天城烈閃(ea0629)は歯噛みする。
 此方が陽動ならばすぐにでも目の前の敵を片付け、本隊と相対しているであろう左翼側への増援に人数を割きたい。
 それは、誰しも同じく考えている所‥‥しかし、右翼側の戦線は決して予断を許せる状況に無かった。

「あの砂嵐さえ何とかすれば‥‥ッ!」
 最初に意を決したのは誰か、知れない。
 誰か一人が暴風吹き荒れるその中へ飛び込めば、他の者達もそれに続いて行く。
 その大部分は立ってさえもいられない程の風圧に吹き飛ばされてしまっていたが。
 ――ぱらっぱらっぱ〜。
「これぞ騎士の心意気! 諦めず飛び込むのです!!」
 『太陽騎士団』団長、レジーナ・フォースター(ea2708)の突撃ラッパが響けば、仲間達はそれに鼓舞され次々と砂嵐への突入を試みる。
 まだ慌てる時間じゃない‥‥等と悠長な事を言ってはいられない現状。ディフェンシブに構える心積もりだった彼らも、このままでは拙いと悟ったらしい。
「ここが文字通り踏ん張りどころ? 皆、がんばりましょ!!!」
 神無月明夜(ea2577)の励ましが響けば、砂嵐を上手く使いながら人型ゴーレムでのブラインドアタックを繰り出し、大型の敵を薙ぎ払う『☆ メイ・ゴーレム隊』隊長ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)。
 彼女を中心に、他にもギリアム・バルセイド(ea3245)やティズ・ティン(ea7694)、『強襲遊撃団「黎明」』のデュランダル・アウローラ(ea8820)、私設独立愚連隊「若葉屋団」のキース・レッド(ea3475)達の様に迎撃・戦線維持に努める者の援護を受けながら、砂嵐の中に着々と冒険者達が侵入して行く。

 ――内部は想像通り視界こそ悪いものの、彼等の予想に反してデビルの数は少なかった。
 それは、等しくデビル達もこの忌々しい魔力の暴風の影響を被っていると言う事の現れなのか。
 ‥‥その真偽は定かでないものの、少なくとも砂嵐内部では敵の赤い霧の効果は薄れているらしい。
 これは、ともすれば視界と暴風さえ何とかできれば、砂嵐内部で戦う方が有利なのかも――。
 そんな希望的観測は、『主』と出会った瞬間、いとも容易く打ち砕かれる事となった。

『ほう‥‥無限の砂嵐を抜けてきたというところか? だが‥‥それがお前らの運の尽きよ!』

 何十メートル進んだ所でか、突然砂嵐がゆらりと蠢き――そして先頭を往くエルシード・カペアドール(eb4395)の身体が宙を舞った。
 慌てて隊列を整え、攻撃に備えようとする冒険者達‥‥だが、此方の視界が無いに等しい事に対し、あちらには自分達の姿が鮮明に見えているらしい。
 砂嵐の中に仲間達の悲鳴ばかりが響く中、それでも残った者達は神経を研ぎ澄まし奇襲に備えようとするも‥‥見えない敵に対して為す術無く、一人、また一人と薙ぎ払われて行く。
『敵を撹乱してみます』
 ふと頭を過ぎるのは、砂嵐に突入する直前に聞こえた仲間の声。今はそれを信じる他無いのかも知れない――セシリア・ティレット(eb4721)が聖剣「カオススレイヤー」を手に、見えない敵に向けて声を張り上げた。
「私はケルベロス、ハルファス破りし、戦女神フィロス・アテネ。名のある者はかかって来なさい!」
『ほう、面白い‥‥ならその戦女神とやらを、このセトが直々に血祭りに上げてくれる!!』
 迫り来る殺気に一歩強く踏み込み、盾を構える。攻撃も敵の姿も見えなくとも、来ると分かっていれば往なせないでも無い。

 ――ガァァン!!

 鈍い金属音と共に、振り被られる剣。返す斬撃は空を斬るも、すかさずまた盾を――。
『甘いわ!!』
「ぐぅっ――!?」
 横腹に走る鈍い衝撃。堪らず踏鞴を踏みながら、セシリアは地に膝を着く。
 そしてセトは、勝ち誇った笑みを浮かべながら彼女に歩み寄り。
『死ねぇいっ!!!』

「死なない‥‥死するは悪魔のみ‥‥」

『!?』
 薄れ往く意識の中、セシリアの耳にはセトの驚嘆の声が響いた気がした。

「後退して行く‥‥?」
 一方外で戦っていた冒険者達は、此方の防衛線へ向けてにじり寄って来ていた砂嵐が突然踵を返し、奥へと去って行った事に首を傾げる。
 やがて周囲の掃討も粗方終え、砂嵐も大分下がった所で――姿を現すのは、空漸司影華(ea4183)、アンドリー・フィルス(ec0129)、薊鬼十郎(ea4004)の三名。
 セトの後方等の死角へ忍び寄り、奇襲を仕掛けた彼等‥‥セシリアの挑発もありきでそれが功を奏し、今こうして敵を退けるに至ったのだ。
 そして、今しがた伝わってきた情報に因れば、左翼側のバアルの本隊も撤退を始めたとの事。此方も消耗は激しいが、ここで押し込まない道理は無い。


 意気揚々と声を上げ、行軍を始めようとする冒険者達――その頭上を、黒く巨大な影が横切る。
 ‥‥そして間も無く、彼等は拠点への後退を余儀なくされるのであった。

(担当:深洋結城)


●護りしものの歌
 悪魔軍の攻勢が激しさを増していく。無数のデビルが空を埋め尽くし、悪魔の騎兵隊と歩兵部隊が冒険者たちの防衛線に突進してくる。
「‥‥もの凄い反撃だ‥‥だけど抜かせはしない‥‥!」
 ルーラス・エルミナス(ea0282)は突進してくる異形の悪魔戦士を叩き切った。
「ふっふっふっ‥‥どこまでも無駄な抵抗を続けるものだ‥‥進めば進むほどにお前達はかつてない恐怖に包まれることになる‥‥」
 予想を越える反撃にルーウィン・ルクレール(ea1364)も懸命に剣を振るうが――。
 デビルたちは赤い霧のようなものをまとっていて、軽快な動きを見せている。
「大元帥バアル様の秘術の前に、貴様らは朽ち果てるのだ!」
 襲い来るデビル兵に九竜鋼斗(ea2127)は抜刀攻撃を叩きつけた。
「俺たちは決して諦めないぞ、この戦いに勝つまで‥‥地獄の底にあるという万魔殿に辿り着くまで‥‥」
 九竜の刀がデビル兵を打ち砕き、赤い霧を残して兵士は消えていく‥‥。
 戦線各所で赤い霧を残して消えていくデビルたち。
「この赤い霧は一体‥‥いずれにしても、最前線が力を尽くすために、俺たちはここでお前達を止める!」
 西中島導仁(ea2741)はデビル兵を叩き切る。
「バアル様‥‥お力をお貸し下さい‥‥この者たちを滅ぼす偉大な力を‥‥」
 デビルは赤い霧に包まれて消えていく‥‥。
「我は剣、我は牙。‥‥此処は。‥‥通さん」
 東雲大牙(ea8558)のナックルが炸裂する。右を見ても左を見ても悪魔の大群が押し寄せてくる。
 バアル軍の一斉攻撃に冒険者たちの防衛線は何とか耐えるが‥‥。
 ディーテ城砦からの奇襲は無く、バアルの軍勢は正面から猛烈な攻撃を加えてくる。ディーテ方面に警戒に当たっていた冒険者たちは警戒を怠ることは無く、敵の戦力を跳ね返すべく獅子奮迅の戦いを見せる。だが状況は厳しい。
 フリッツ・シーカー(eb1116)ら白騎士団は絶望的な状況にあってデビルの猛攻を跳ね返している。誠刻の武、戦乙女隊、拠点防衛隊ら、各チームも一丸となって戦線の崩壊を食い止めている‥‥。
「予想以上の反撃‥‥次から次へとデビルの戦力が突進してくる‥‥」
 猫小雪(eb8896)が前方に目を凝らすと、また新たな戦力が防衛戦に向かって進軍してくるのが見える。赤い霧をまとったバアルの尖兵たちは、続々と現れては攻勢に転じてくる。敵の無限とも思える回復力に冒険者たちは懸命に立ち向かう。
 クローディア・ラシーロ(ec0502)は剣を構えると突撃していく。
「テンプルナイトの名にかけて、これ以上は通しません!」

 ――後方、救護所では僧侶達が味方の回復に奔走していた。
 じわじわと戦場に迫り来る瘴気の渦‥‥まだ誰も気付いていないのだが。不意に瘴気が霧散する。
 リーディア・カンツォーネ(ea1225)、レイズ・ニヴァルージュ(eb3308)、木下茜(eb5817)、剣真(eb7311)ら多くの者たちが作った【祈紐】に触れて、瘴気が消滅したのだ。
 マーナ・リシア(eb0492)は運び込まれてくる負傷者にリカバーをかけて癒す。
「これくらいのことしか出来ませんが‥‥」
 炊き出しでみなを支援するのは陽小娘(eb2975)、楽団30人未満を手伝いながらみなの挫けそうな気持ちにジャパンの草餅や緑茶を差し入れする。
「うぅ‥‥ジュディス産んでよかったかもっ‥‥」
 楽団30人未満で歌うジュディス・ティラナ(ea4475)たちを見て涙ぐんでしまう。

 ♪君が生きててよかった
 君が生まれてよかった

 のびやかに育ち 生きて欲しい 
 さつきに願いを 込めた名前
 君こそが 生きる希望 だから

 ♪忘れないで
 君には帰る おうちと家族がある
 君こそが 生きる希望 だから

 同じく楽団で歌う白翼寺花綾(eb4021)ら、メンバー達。
 祈紐に思いを込めて‥‥。

 地獄に響く冒険者たちの歌声。だが、そんな彼らの前に急報が届く。
 戦場に突如訪れる異変。巨大な黒鳥の姿をしたデビルが増援に出現したと言う。
 しふしふ同盟のシフールたちがもたらしたその情報は、境界の王マルバスが戦場に姿を現したと言う知らせであった。

(担当:安原太一)