第6回戦況速報

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黙示録の戦いの勇姿を!

第1回行動結果報告書第2回行動結果報告書 第3回行動結果報告書 第4回行動結果報告書 第5回行動結果報告書 第6回行動結果報告書 第7回行動結果報告書

<第6開戦状況>
第6回の戦闘では、バアル軍は前衛をセトとして無限の砂嵐とともに進軍し、バアルは後方で儀式に専念すると推測されています。
なお、新たに現れた上級デビル、パズスとマルバスは、バアルに従わず遊撃的に動く可能性があると目されており、第6回の戦闘においても、バアル軍の主軸はセトとバアルで構成されている模様です。
このため、ディーテ城砦を中心として瘴気の濃度が上がり始めていることも含め、上級デビルの力に対抗するためにゲヘナの丘を沈めたのと同じような祈りや儀式が有効との意見が出ています。
またセトは正面からの攻撃のみならず、変身を行えるデビルを潜入させるべく算段を整えている様子で、このため伝令や偵察により正確な情報を得ることが重要となるでしょう。
また直接的に敵将を攻撃する作戦も立てられており、敵将へ向かうまでの前線や防衛線をいかに保つかも重要となるでしょう。


第6回行動入力時戦力状況
参加人数:860人
※状況
=危険、=注意

前線本陣防衛線合計バアル軍は荒野に布陣!

境界の王 マルバス
イラストレーター:稲田オキキ

クカカ‥‥カオスの力よ、地に満ちよ!
そうして全ては始まりに、混沌に返る。
地獄が全てを地獄へと変えるのだ!
白兵戦 6.9% 7.9% 8% 22.9%
防衛・援護 4.7% 4.5% 8.9% 18.2%
偵察・伝令 4.5% 6% 4.3% 14.8%
祈り・儀式 1.5% 3% 3.7% 8.2%
魔法戦 3.7% 4.6% 3.2% 11.6%
救護 2% 2.6% 4.5% 9.3%
調査 0.8% 0.8% 1.7% 3.3%
敵将攻撃 4.5% 5% 1.8% 11.3%
合計28.9%34.6%36.3%100%



第6回援護行動結果(5月23日〜5月25日)
参加人数:801人

達成率行動人数総計  作戦への影響
救護108.9%  182人
偵察91.5%  215人
調査90.6%  156人
武器手入れ87.5%  127人
炊き出し・物資確保112.1%  179人
陣地確保87.6%  168人
橋頭堡作成84.2%  169人
援護交渉119.2%  203人交渉進行中
ロシア軍見張櫓使用可
ディーテ探索81.3%  270人
祈り・儀式173.0%  202人魔力・瘴気減退



<第6回戦況>
第6回の戦いは、敵将:セトを撃破することに成功しましたが、パズスによる救護関係への被害と、バアルを撃退できなかったことにより、双方痛みわけという状況となりました。

戦場全体では、援護活動も含めた祈りと儀式による魔力への対抗と、変身したデビルによる撹乱への対策が十分に行われ、混乱は小さなものとなっています。
前線の戦いではセトの魔力「無限の砂嵐」への対策が行なわれ、魔法により一時的に嵐を食い止めたところへの奇襲に続く激戦の末、セトを討ち取りました。
後方の防衛線では戦力は十分な数が集まり、敵勢力との戦闘は過不足なく行われました。しかし防衛線の救護施設を中心として「熱砂の魔神 パズス」が出現し、病を広めており、援護活動による前準備もあり何とか救護体制は維持しているという状態です。
バアル率いる敵本陣との戦闘は、直線的な戦闘と数の差によりこれまでよりは本陣へ切り込むことができたものの、バアル周辺の悪魔の回復の早さに押し切ることができず、退却する結果となっています。
なお、「境界の王 マルバス」はデビルではなく、アトランティスに存在する混沌の魔物「カオス」であるとの情報があり、対策の方向に混乱を呼んでいます。

第7回の戦闘では、バアルは上級デビルのコマを失ったのか、全軍を自分で指揮しつつ行軍してくるものと思われます。
バアル軍の復活を食い止めるべく、改めて魔力を込めての儀式が必要とされています。今回は他の上級デビルが本体の魔力を解放していないことから、儀式の全ての魔力がバアルの「赤い本」を止めるために用いられるでしょう。
パズスはバアルに積極的に協力する様子はなく、救護関係に興味をもち散発的な攻撃を仕掛けるようです。
マルバスは戦場全体の混乱を望んでいるらしく、どこに現れるかの傾向は予測されていません。
また、ディーテ城砦側では様子を伺っていたエキドナやムルキベルの行動が始まるとの推測もあり、場合によっては挟撃の可能性を含んでいます。


結果概略

成功結果冒険者の状況
機巧の支配者 ムルキベル
イラストレーター:墨

なんだ、この力は? 人間の、祈りの力か?
‥‥満ち満ちし瘴気がこれしきで消えるものか。
無駄な足掻きだ。だが何ゆえに、人は足掻く?
敵本陣  ○ 一進一退の状況
敵前衛  ◎ セト撃破
防衛線  ○ パズス襲来、病



■第6回報告書

●強すぎる力のせめぎ合い
 敵本陣近く、戦線よりはいさか後方とはいえ、決して安全ではない地域でアルマ・シャルフィ(eb8153)やアリッサ・アルバリス(ec6382)、エルウィン・カスケード(ea3952)、アゲハ・キサラギ(ea1011)らが舞っていた。
 死者を悼むもの、皆の心に希望を灯すもの、鼓舞するもの、祈る形の多用さを示すように、それぞれの思いを込めて一心不乱に舞っていた。同様の祈りを込めた紐が、その動きにつれてひらひらと動く。
 それを支える歌声は多く、演奏は途切れることなく、けれども思いが向かう方向は様々だ。
 家族の無事、子の未来の安堵、仲間の笑顔、恋人の何もかも、守ってくれと願い、デビルには去れと強く念じる祈りが不眠不休で続いている。
『坊主の端くれですよって』
 そう休息の勧めを断って、祈りに集中しているニキ・ラージャンヌ(ea1956)のような姿は、そこここにあった。
 だが、この場にあっても祈りに集中できない者もいて。
「境界の王であろう。襲撃が来るぞ」
 上空をデビルを交わして飛ぶゴーレムグライダーのヴァラス・シャイア(ec5470)から、携帯型風信器で届いた知らせは凶報だ。ソウガ・ザナックス(ea3585)の元にも、効果距離の関係で報告の最後が届かなかったが、知らせがあるのは向かってきているから。あちこちに現われ、敵味方の区別なく戦場を引っ掻き回している『境界の王』は、祈りの場を崩しに来るらしい。
 シェアト・レフロージュ(ea3869)らのオルフェウスの竪琴が掻き鳴らされ、味方を守るべく歌声も強まる中、麻津名ゆかり(eb3770)のムーンフィールド、雀尾煉淡(ec0844)、鳳香蓮(eb5968)などのホーリーフィールドなどが祈り続ける人々を包んで展開する。
 『WG鉄人兵団』のゴーレムグライダーや空駆ける騎獣が『境界の王』の進路に立ち塞がるように展開し、倒すが無理でも祈りの邪魔はさせぬと向かっていく中、カオスの魔物とデビルの関係を調べていた香蓮と布津香哉(eb8378)は『境界の王』こと『マルバス』が黒っぽい靄のようなものに包まれているのを見て取った。黒い羽の周りで目立たぬそれに気付いたのは、カオスの魔物と思しきモノが地獄で倒されると、塵より靄のようになって消えていくことがこれまでの調査で判明していたから。
 同時に、空駆ける仲間の負傷に対して、治癒効果があるアポロンの弓+1を放っていたディラン・バーン(ec3680)は、『境界の王』がバアルの赤い本の効果である霧にぶつかると、その黒い靄が強まって赤い霧を押し返すように見えることに気付いていた。
 これらの指摘を受けた冒険者の中には、『境界の王』の黒い靄はゲヘナの丘の瘴気と似ていると言う者もかなりいて、それを違うという意見は出てこなかったのである。
 それ以外の情報も付き合わせれば、『境界の王・マルバス』に限らず、バアルやセト、ムルキベルらの力が強いところでは、相互の力が万全には発動していないのではないかという推測も成り立ったのだった。

(担当:龍河流)


●風と嵐の交わるところ
 地獄に広がる黒い荒野。そこに展開していく軍勢は、言うまでもなく悪魔の軍勢だった。
 そしてその軍勢を、赤と黒の色が包み込み、軍勢を二色に分けていく。
 黒はセトの無限の砂嵐。そして赤はバアルの支配の魔力。上級の、魔王と呼ばれる者たちの魔力が、戦場を包み込んでいく。
「雨は、あまり役に立たなかったみたいだな」
 迫りつつある黒き砂嵐の中、天候を変える魔法を使った木下 陽一(eb9419)であったが、やはりそれしきの雨ではいかんともしがたかった。
「まあ、だめもとだったからな‥‥」
「砂嵐ならこちらのほうが楽かもしれん。気にするな」
 木下のつぶやきに答えながらオイル・ツァーン(ea0018)は、【ベイリーフ】の仲間とともに、予定していた配置につき、機を伺っていた。
 地獄の土を削り巻き上げられる黒い砂嵐が、じわりと染み込むように、ゆっくりと行軍してくる。冒険者たちの各部隊も展開し、配置を決めながら、予定にある次の一手を待ち受けていた。
 迫る軍勢からは雄叫びは聞こえず、響くは、ただ唸るような砂嵐の風音のみ。
「今よ!」
 ヴェニー・ブリッド(eb5868)が声を上げ、そしてそれを合図にしたかのように、ほかの魔法使いからもウインドレスの魔法が放たれた。風の精霊力に働きかけ、風を止める魔法。
 もちろん、神にも匹敵する魔神の魔力を全て防ぐことは不可能であったが、それでも目的を達するには十分だった。
「な、に?」
「ごああああああ!」
 吹き荒れる嵐が止まったことに隙を見せた悪魔に、風雲寺 雷音丸(eb0921)が雄叫びとともに切りかかった。止まった風が戻り、また吹き荒れる砂嵐に合わせて、攻め寄せようとした悪魔に向けて、リース・フォード(ec4979)たちが暴風を吹き荒れさせ、その出鼻をくじく。
「こしゃくな‥‥!」
「甘い、そうはさせんわ!」
 一体の悪魔が詠唱よりも早く詠唱すると、吹き来る氷の嵐を跳ね返すべく暴風を呼び、それを待ち構えていた七刻 双武(ea3866)はやはり嵐を呼んで跳ね返す。
「砂嵐は敵にも有効です! うまく使って戦いましょう」
【ベイリーフ】の前衛として声高らかに叫ぶのはシルヴィア・クロスロード(eb3671)。その指揮を伝える声とともに振られた十字架を持ちし剣には、祈りの紐がくるりと回っている。
 戦いまでの間に決めておいた陣形を維持し、そして冒険者たちは連携を確認しあっていた。
 そんな中に生まれた一瞬の隙間。悪魔という名の嵐に一瞬凪いだ、敵勢の隙。
「よっし、行くぞお前ら」
 その隙を目ざとく見つけて門見 雨霧(eb4637)は、タバコをくわえ直すと、魔力を意思とともに宝玉に込めた。連動して冒険者たちを乗せたフロートチャリオットが浮かび上がり、馬よりも早くその隙間へと向かい動き始める。
「これでよし、戦果を期待しておるぞ!」
 ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)もそれに続こうとするゴーレムの武器にオーラの力を賦与し、魔力ある武器として突入を試みる。
「皆、無事に戻って来て!」
 壁のように立ちふさがる砂嵐に、ライア・マリンミスト(eb9592)の魔法によってうがたれた凪の道。
 その嵐の唸りが止まった荒野に、ライアの、そして仲間たちの思いが響き渡る。

(担当:高石英務)


●防衛ラインの戦鬼
──拠点周辺、最終防衛ライン
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 絶叫をあげつつソウルセイバーを振りかざし、次々と遅い来る悪魔達を切り捨てているのはルーウィン・ルクレール(ea1364)。
 最終防衛ラインである柵。
 そこを死守するべく、大勢の冒険者達が柵の周辺に集まり、今だ一進一退の攻防を繰り返している。
──ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァツ
 ルーウィンによって切り捨てられた悪魔はやがて、赤い切りとなって消滅していく。
「こんなことは‥‥今までなかった筈。それに」
 そう。
 悪魔達が以前よりも力を付けているのを、ルーウィンは実感していた。
 いや、それを感じていたのはルーウィンだけではない。
 柵付近で戦っている冒険者達は、みな一様にそう感じている。
 以前よりも力を漬け、より強固な軍勢を引き連れて襲いかかってくる悪魔達。
 冒険者達の運命は、かなり危険なものに傾きはじめていた。
「ここを突破させる訳にはいきません!!」
 三笠明信(ea1628)が手薄な場所に駆けこむと、手にしたライオンハートを振りかざす。
 その近くでは、綾小路刹那(ea2558)とルイス・マリスカル(ea3063)の二人が必死に悪魔達を牽制、少しでも数を減らすべく戦いを続けていた。
「はあはあはあはあ‥‥これでいったいいくつ倒したのでござるか?」
「判りませんねぇ‥‥。おそらくは30を越えた辺りではないでしょうか?」
 そう告げつつ、上空を突破しようとしている悪魔に向かってソニックブームを叩き込むルイス。
「あ、あといくつでござるかのう‥‥」
 疲労困憊の綾小路。
「まあ、日が沈むまで戦っていれば、なんとか‥‥」
 と告げてはみたものの、地獄に沈む日など存在しない。
──ズバァァァァァァァァァァァァァッ
 渾身の一撃を悪魔に向かって叩き込んでいるのは神楽聖歌(ea5062)。
「い‥‥いけない‥‥ここは数が多すぎるわ‥‥」
 神楽のいる区画は、かなりの数の悪魔が押し寄せている。
 このままでは柵が突破されるのは必然。
「こ、このエリアはかなりやべーんじゃねーか?」
 神楽の横でそう呟いているのは田原右之助(ea6144)。
 確かに、右之助の言うとおり、ここはもまもなく突破されそうな勢い。
「ですけれど、私が離れて増援をたのみに行くと‥‥ここの護りが手薄になります!!」
 そう告げる神楽に、右之助は一言。
「ここは俺が引き受けるぜ。とっとといってきてくれや!!」
 その右之助の言葉に静かに肯くと、神楽は前線を離脱。
 そのまま後方で待機していた部隊に援軍を求めにはしった!!

──ミシミシ‥‥バギィィィィィィッ
 と、ついに右之助の正面の柵が破壊され、そこから大量の悪魔が怒涛の如く押し寄せてきた‥‥。

──ドガズババギズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
 柵が破壊され悪魔達が流れ込んできた刹那。
 右之助の後方から数名の冒険者た地が次々と飛んできて、そのまま突破してきた悪魔達を血祭に上げていく!!
「まったく‥‥偶然近くまで来ていたからいいようなものの‥‥」
 そう呟きつつ、悪魔達に向かってさらに一撃を振るうドナン・ラスキン(eb3249)。
「もし誰も居なかったら一体どうするつりだったのですか?」
 飛び出してきた悪魔を次々と『倒していた』ミナミナ(eb5200)がそう告げる。
 さらにその倒れていた悪魔達に次々と止めを刺しているのはレオニード・ダリン・アドロフ(eb7728)。
「ミナミナの言うとおりだ。右之助、もう少し頭を働かせろ」
 と呟く。
 だが、そんなことは気にせず、右之助は一言
「後方にあんたたちの気配があったから、走らせただけじゃん‥‥」
「ほう‥‥全て計算済みということか」
 と呟くドナン。
「まあ、このエリア、これ以上は進ませませんからねっ!!」
 ゴキゴキと拳を鳴らすと、ミナミナも静かに構えを取った。
 やがて後方から、神楽の呼んできた一団がたどり着くと、このエリアの戦況はようやく五分五分にもち直した。
 だが、全体的に見ても、この戦いはかなり劣勢。
 冒険者達が連携を組めば、悪魔達はさらなる力を付けて襲いかかってくる。
 ふたたび一進一退の戦いが始まった‥‥。

(担当:久条巧)


●準備と願いの結ぶもの
 元は一本の紐。
 強い願いや思い、祈りを込めて作られ、結び目を作られたそれの効力がいかほどのものか、測る術は実際のところない。それでも。
「応える為にも気は抜けないね‥‥」
 そう思うのはクルト・ベッケンバウアー(ec0886)だけではなく、敵本陣への偵察を強行している多くの冒険者に共通する思いであったろう。シフールの小さな身体で紐を結び、出陣する人々へと配っていたレオナルド・アランジ(eb2434)のように、後方とはいえ安全とは言い切れぬ場所で皆の無事を祈って瘴気を打ち払おうとしている人々もいる。
 五感を研ぎ澄ませるのは当然、魔法も特殊なアイテムも使って、デビルの陣に入り込み、敵将の居場所や動向、小物に到るまでの敵の動きを油断なく見定めようとしている者は多かった。中には、仲間にさえ自分の居所を悟られぬよう行動するという、危険な道を選んだものも少なくはないが、
「あちらにシフールが多い。お前でも入れる」
「向こう側は体の大きな奴らが増えてきました」
 インビジブルで姿を消し、デビル達の会話に耳をすませていたリマ・ミューシア(eb3746)は、聞こえてきた話の内容に自然と眉をひそめた。具体的に何をするつもりなのかははっきりしないが、デビル達が人の陣営の種族内訳を調べるなら相応の意味があるはずだ。そこまで考えて、リマは足音を立てないようにその場を離れている。
 それからしばらくして、【世界騎士団】のヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)から同じチームの仲間を中心に、テレパシーを繋ぐことが出来る冒険者達に次々と警戒の連絡が届けられた。予想はされていたが、デビルが人に姿を変えて、こちらの陣営に率先して潜り込んでいる疑いが濃厚、と。
 敵将の位置を多くの冒険者に知らせるために、テレパシーの届く最高範囲に仲間と念話網を作成した効果は、まず別のところで現われたようだ。戦場はヴァンアーブルのテレパシーが届く範囲より更に広いところもあるが、シフールはじめ自ら情報を運ぶ伝令やテレパシーの使い手達が順々に情報を送れば、さほど掛からぬうちに戦場全体に周知されることも期待できる。
 だが、すでに敵には入り込まれている危険性が高い。と、その危険に対して警戒したいた者はすでにいた。
「仲間に殺気を放つ輩がいるはずがなかろう」
「なんていうか、臭いが違うんだよ」
 場所は異なれど、すでにデビルが人に化けている危険性を考慮し、また本陣内の味方戦力での負傷者発生状況に不審を抱いて警戒していた零式改(ea8619)やマキリ(eb5009)の刃や矢が仲間と見えたシフールやジャイアントを襲った時、周囲の人々に警戒されたのは最初は彼らだった。
 けれども負傷したはずの者が血を流さなかったり、流れたはずの血が塵になって消えたりすると不審は解かれる。
 課題は、では仲間と敵をどうやって見分けるか。冒険者以外の人々も多数いる中で、不意に出くわした際の殺気の有無では同士討ちの可能性が高い。また仲間が魔法で操られている事だって考えられるだろう。デビル感知の魔法は、地獄ではなかなか役には立たない。
 この時に伝令や偵察に向かう者達の中では、かなりの人数が把握していた合言葉などの事前準備が功を奏したのだった。

(担当:龍河流)


●荒野防衛線
 赤き空に響き渡る魔軍の兵士たちの咆哮。だが荒野の戦いは冒険者たちが態勢を立て直して一進一退、互角の状況になりつつある‥‥。

荒野防衛線――。
 チップ・エイオータ(ea0061)はチーム【翠志】内部にデビルが潜んでいないか警戒していたが。
「ん?」
 石の中の蝶に反応が。
「やはり潜り込んできたな」
 アリアン・アセト(ea4919)の蝶も激しく羽ばたいている。アリアンはデティクトアンデッドを唱えると、デビルの位置を特定しようと試みるが‥‥。
 防衛線の中も人がごった返していて確実に誰がデビルであるかは分からなかった。あっちに一体、向こうに一体と反応があるのだが。
「デビルはどこに‥‥!」
 ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)もデティクトアンデッドを頼りに武器を構えて陣内を走り回るが、デビルの発見には至らない。
 明王院未楡(eb2404)の悪魔探知のレミエラが点滅している。未楡は目を凝らして周囲を見渡す。
「悪魔を撃て!」
すると夜久野鈴音(eb2573)のムーンアローが吸い込まれて一人の冒険者を直撃した。
「そこに!」
 冒険者たちは悪魔と思しき人物を見つけて接近する。
「ちっ‥‥ばれちまったら仕方ない‥‥」
 悪魔は変身を解いてネルガルの姿に戻ると、空を飛んで逃げ出した。
「あそこに‥‥!」
 チサト・ミョウオウイン(eb3601)はミラーオブトルースで光っている人物を見出し、仲間達に告げる。
 イシュカ・エアシールド(eb3839)は仲間達とともに変身していると思われる人物に近付いていく。
 サイーラ・イズ・ラハル(eb6993)、小鳥遊郭之丞(eb9508)、アナマリア・パッドラック(ec4728)らはテレパシーで連携しながら怪しげな冒険者に近付いていく。
 その冒険者は周囲の味方に向かって、声高に告げていた。
「大変だ! 防衛線の背後にマルバスとパズスが大部隊を率いて向かっているそうだ! 俺たちのチームが何とかして決死の情報を手に入れたんだ! バアルとセトが後退したのはこちらを誘い出す罠だって‥‥!」
「動くな」
 小鳥遊がぴたりと剣を突き付ける。
「う‥‥何を‥‥マルバスとパズスがやってくるって‥‥」
「どうだ?」
 小鳥遊はアリアンのデティクトアンデッドに確かな反応があったのを確認して、変身している人物がデビルであると確認する。
「それで、マルバスとパズスが背後に回りこんでいるのか?」
 すると、変身しているデビルの口もとが吊り上がった。
「さて、どうかな? 事実だとすれば一大事だな。バアル様とセト様が囮となって、お前達をおびき出したのだとしたら‥‥」
 そうして、防衛線の数箇所で、同じことを唱えているデビルが捕縛される。
 冒険者たちは潜り込んできたデビルを始末し、ことの真偽を確かめるべく偵察部隊からの連絡を待った‥‥。

「バアルとセトが囮だって? 此処まで大掛かりな攻撃を仕掛けておいてそんな余裕は無いと思うけどな〜」
 王虎(ea1081)は防衛線とゲヘナの丘の補給戦を見回っていた。
「しっふしふ〜♪ 背後から敵なんて多分嘘なんだけど仕方ないの〜」
しふしふのキャル・パル(ea1560)は味方の後陣を飛び回りながら偵察。敵の姿は無い。
「バアルは?」
「馬鹿」
「セトは?」
「バカ」
 草薙北斗(ea5414)や黄水華(ec3401)は仲間と合言葉を確認して頷く。
「背後に敵なんていないよね‥‥」
 偵察部隊はそれぞれに敵影無しと確認し合う。
「ん‥‥あれは?」
 偵察を続けるリスター・ストーム(ea6536)は小さな集団が蠢いているのを確認する。
「おい」
 羽鳥助(ea8078)、葛葉麗奈(eb5587)、アペ(eb5897)、朝海咲夜(eb9803)らがその小集団に接近していく。
 別働隊か? 奇襲と言うのは本当だったのだろうか。物影から様子を確認した冒険者たちは、ネルガルの小隊を発見する。
「一体何やってんだ?」
「‥‥攻撃してくる気配はなさそうだが。こっちの様子を伺っているだけかな?」
 と、その時である。冒険者たちの背後に巨大な黒鳥がこつ然と姿を現した。
「ごきげんよう、偵察ご苦労」
「‥‥!」
 冒険者たちは驚愕した。目の前にいるのは記憶が正しければ上級デビル――境界の王マルバスである。
「さて‥‥人間たちがどこまでやるか見物に来たのだが‥‥意外に善戦しているようだな。面白い、バアルを倒してくれれば俺様が地獄の大元帥になってやってもいいところだが‥‥」
 マルバスはそう言って不気味な笑声を発した。
「安心するがいい。あのネルガルたちは我が下僕、戦場見物に連れてきたまでよ。俺はここでお前達と戦う気はさらさらないのでな‥‥では、さらばだ!」
 マルバスは笑声を残して飛び去った。
「マルバス‥‥何を考えているのか分からん奴だが‥‥」
 冒険者たちは当然ながら警戒を強め、後方にマルバス出現の知らせを防衛線の仲間達に飛ばした。
 だが警戒は確かに徒労に終わり、マルバスが攻めて来ることは無かったのである。

(担当:安原太一)


●戦場の祈り、紛れ込む悪意
 祈りが力になる――それはとても素敵な事。

 前衛にあっても祈りに従事する者達はいた。
「悪霊退散、悪霊退散‥‥皆の強き思いは、何物にも負けませぬ!」
 自分達は一人ではない――火乃瀬紅葉(ea8917)は祈りを捧げる他の者達と手を取り合い、思いを強固にしていく。
 ウィルシス・ブラックウェル(eb9726)の奏でる音楽は、剣戟と魔法の音に混じって流れ、仲間達を鼓舞し、場に清浄なる祈りが広がるようにとの願いが込められている。
 雀尾嵐淡(ec0843)によるホーリーフィールドで守られた儀式の場では、メロディーに乗せた清浄なる祈りの歌が捧げられている。

 幸運と勇気は我らに在り
 正義の光を纏いいざ行かん
 さぁ立ち上がれ 光は満ちる

 アルフィエーラ・レーヴェンフルス(ec1358)が歌えば、後をバルテル・スランザール(ec3966)が引き継いで。

 大いなる光 闇の中に瞬く光
 打ち砕け絶望 我らは輝ける希望
 勇気に満ち今、道を拓かん!

「互いを思う心がある限り、俺達は負けない!」
 ランティス・ニュートン(eb3272)の心からの叫び。
「祈りのおかげ? 砂嵐が少し弱まっている気がするの」
「確かに。やや弱まったように見えます」
 マール・コンバラリア(ec4461)の言葉に、宿奈芳純(eb5475)も頷き、仲間達にテレパシーを飛ばす。
「セトの前衛は前より数が少ないような気がするわ。セト自身は進軍してこないみたい」
 テレスコープで見た情報を伝えるサラン・ヘリオドール(eb2357)。
「セトの軍が少ないのが気になるなぁ。砂嵐の中にいないって事はどこに戦力を回しているんだろう?」
 首を傾げるミリア・タッフタート(ec4163)の耳に「敵だ!」という誰かの叫びが飛び込んできた。偵察に出ていた面々に緊張が走る。
「人間!? 味方じゃないの!?」
 声に導かれてやってきた蔵馬沙紀(eb3747)が、仲間が武器を向けている相手を見ていぶかしんだ。だが。
「良く見てください! デビルが化けた人間は、【祈紐】を持っていないのです!」
 【TN口伝部】のクリス・ラインハルト(ea2004)の指摘通り、人間に見えるその敵は【祈紐】を所持していなかった。さらにギルス・シャハウ(ea5876)のデティクトアンデッドや琥龍蒼羅(ea1442)の持つ石の中の蝶の反応も確認済みだ。
『こちらの陣営にデビルが紛れ込んでいるわ。【祈紐】の有無に注意して』
 【ベイリーフ】のフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)やシリル・ロルカ(ec0177)がすぐにその情報をテレパシーで発信し、【しふしふ同盟】の慧斗萌(eb0139)も懸命に飛び、情報を伝える。
 中には【祈紐】を携帯していない冒険者も居る事から一概に所持していない者をデビルの扮装だと決め付けることは出来ないが、確認手段の一つにはなる。
 セトの陣営に敵が少ないのは、こちらに紛れ込ませて混乱を誘発させるためか――。
 各所に、伝令が飛んだ。

(担当:天音)


●嵐吹く中で
 バアルにセトを始めとする、強大なデビルで溢れ返った闇の迷宮。
 彼らを打ち破るべく、策を携え進軍を始める冒険者達――その後方ではまた、前線に引けを取らぬ程の激しい戦いが繰り広げられていた。
 拠点の防衛・援護に専念する彼等は、敵将を討つ様な華々しい活躍こそし得ないものの、戦場における必要不可欠な戦力である事に間違いは無いだろう。

「何か状況やばそう。敵将に突っ込むのもいいけど、それで防御が薄くなったらそれだけ地上もやばくなるって事よね。こっちも大事!」
 ターム・エリック(ea6818)が言えば、防衛に当たる冒険者達からは気合の篭もった声が返ってくる。
 そんな中、前線へと赴く仲間達に逐次随伴し露払いを行っていたのは、巴渓(ea0167)を始めとする私設独立愚連隊「若葉屋団」。
 マスク・ド・フンドーシ(eb1259)や瀬方三四郎(ea6586)等多くの者達も彼らに続き、その援護を受けながら仲間達は次々とセト、或いはバアルの軍隊へと向かって行った。
 また彼等が前を援護する者達であれば、後ろを護る者達も居る。
 クァイ・エーフォメンス(eb7692)やイェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)等を始めとする冒険者達は、怪我人の搬送における護衛を行っていた。
 これにより、負傷者に追い縋って突出してくるデビルが何体も斬り捨てられては、赤い霧へと消えて行った。

 そんな中、セトの起こす砂嵐へと単独で近付く者が一人。
 朱鈴麗(eb5463)――彼女は砂嵐に対する魔法効果の確認をすべく、手に大量のスクロールを抱えていた。
 まずはストームを。

 ――ぶゎっ!!
「けふ!? げほっごほっ!!」

 同等の風圧同士の衝突により乱気流が起こり、黒い砂が鈴麗の全身に降り掛かる。まさに災難。
 そうこうしている内に、忙しなく変動しつつある周囲の状況。
 まだ試したい魔法は山ほどあったもののこれ以上ここに留まっている訳にも行かず、止む無く鈴麗は涙塗れの目を擦りながら後退して行った。


 一方、防衛線の至る所ではミスリル・オリハルコン(ea5594)や「若葉屋団」のシャクティ・シッダールタ(ea5989)等と言った者達が、比較的前線に近い位置で負傷者の治療に当たっていた。
 その中でも最たる物は、『【ジャパン医療局】』の暮空銅鑼衛門(ea1467)が設営した救護所。
 そもそも危険な位置であった故、後々デビルに殺到されてしまったが、その存在は前線の仲間達を力強く支えた。

 そして彼等の手に余る者達は、本格的に治療する為に救護担当の者達が待つ後方へと運び込まれて行く。
 その役目を担う『☆ メイ・ゴーレム隊』のミィナ・コヅツミ(ea9128)は味方のチャリオットに同乗し、怪我人を回収・治療しながら戦場を奔走していた。

 そう言った具合に多くの者達が戦線維持の為治療、怪我人の搬送などに当たっていたが、その中でも特に光っていたのが峰春莱(eb7959)の行った手法である。
 彼女は負傷の具合、程度や種類等によりそれぞれ別の色の目印を付けていた。
 これによって要救護者等も一目瞭然となり、結果として冒険者陣営の救護活動が非常に円滑に行われ――。

「軽傷は侮りやすいが、塵も積もればじゃ。大人しく治療を受けてくるのじゃ!」
「え、いや、この程度の怪我だったらまだアッー!!?」

 ――多少強引なのもご愛嬌☆

 また、治療が必要なのは何も生身の人間ばかりでは無い。
 戦場内の味方ゴーレムの状況を逐次把握、円滑な運用が出来る様事務作業を行いサポートを行うのは『WG鉄人兵団』の信者福袋(eb4064)。
 その作業自体は地味ながら、結果としてゴーレム運用の効率化に多大な成果をもたらしていた。

 一見して順調に行われていたかの様に思われていた防衛及び援護活動‥‥だがしかし、その裏ではとある不安要素が、彼等の行動を大いに鈍らせていたのもまた事実。
 と言うのも――人間に姿形を変え、冒険者を装って紛れ込んでいたデビル達の存在があったのだ。
 それに真っ先に気付いたのは、クリステル・シャルダン(eb3862)や琉瑞香(ec3981)と言った、デティクトアンデッドを行使する者達。
 彼女達が内部に潜り込んだデビルを看破すると、途端に今まで仲間として背中を合わせていた筈の者達が牙を剥いて来た。
 これには流石に冒険者陣営も混乱を招かれざるを得ず‥‥防衛線は一時騒然としていた。
 その後はカーラ・オレアリス(eb4802)が注意を呼び掛けつつ、自身もリードシンキングで看破を手伝っていたが‥‥やはりデティクトアンデッドに比べ、効率は良くなかった様だ。

「‥‥!?」

 そんな中ふと新たな反応に気付き、視線を向けるのはクリステル。
 すると僅かに離れた位置には、今まで戦線に無かった新たなデビル――パズスの姿があった。
 だが、見た所どうやら此方に仕掛けてくる気は無い様子。
 クリステルは不審に思いつつも‥‥今は構わない方が得策だろうと判断し、一先ず援護活動へと戻って行くのであった。

(担当:深洋結城)


●熱病をもたらす風
 ここはディーテ荒野後方の救護所の一つ。
 ‥‥後方とは言え、戦いの得物が剣から包帯に置き換わっただけで、そこが依然戦場そのものであることに変わりはない。ひっきりなしに運び込まれる怪我人の呻き声が途切れることはなく、僅かな仮眠のみを挟んで忙しげに立ち働く医師やクレリックらにも疲労の色は濃い。

「さあ、みんなどうぞ! 疲れた時こそ甘味とお茶! お団子と薬草茶置いとくねー」
 そんな中でも笑顔を失わぬ者がいる。
 陽小娘(eb2975)の差し入れる大量のお茶と団子。甘い団子を頬張った者達の口元が、一様に綻ぶ。
「まあ、おいしい。こうやって甘い物を食べているだけで、何やら元気が湧いてくるようです」
 一心に救護活動の補助に当っていた高川恵(ea0691)も、団子の甘みに思わず笑みをこぼす。
「そうだよ、戦いは長く続くんだ。まだまだ一杯あるから、みんなどんどん食べてね♪」
 地獄で食べる団子。
 それは一時、戦いの辛さを冒険者達から忘れさせる何よりの、甘い良薬。

「大丈夫、絶対治る。甘い団子が待ってるよ、だから頑張りな!」
 医師である柴原歩美(eb8490)は、熱病に掛かった患者達の手を握り、一人一人励ましていく。
 戦いの外傷で担ぎ込まれる者に比べて、熱病の患者はまだそれ程多くはない。しかしアトランティスやジ・アースの医療技術や魔法は、外傷には比較的高い効果を発揮するものの、事病気に関してはまるでお手上げに近い水準でしかない。唯一有効な治療法が、他人にうつらぬよう隔離するだけ。後は患者自身の体力次第という事さえ珍しくはないのだ。
「そう言うときこそ、あたしの技術が生きるんだけど‥‥設備も薬もないと、天界の医学と言えどもお粗末なもんだねぇ」

「‥‥どうです、治りますか? そもそも何という病気なんですか?」
 背後から、柴原に問う者がいる。
「多分マラリア‥‥の筈なんだけど、患者によって症状がバラバラだ。三日熱、四日熱、中には熱帯熱マラリアに罹ってるらしい患者までいる。そもそも蚊もいない地獄で、こうもマラリアが広がるのは何故なんだろうね‥‥?」
「何か、有効な薬は?」
 重ねて問われて、柴原は必死に記憶を掘り返した。
 ここは天界ではない。薬品棚から取り出した抗生物質で一発というわけにはいかないのだ。だが、天界にだって、初めから工場生産の抗生物質が有ったわけではない‥‥
「キニーネはそうだ、キナの樹皮があればそのままでも幾らかは効果があったね。中国では確かクソニンジン由来の漢方が、今のジ・アースくらいの年代でも既に薬として使われていた筈で‥‥」
「成る程、それが天界の医学か。これは、本番の際には多少気をつける必要がありそうだ」
 質問者は満足げに頷く。
 その質問者の言葉に不審を抱き、初めて柴原は背後を振り返った。

 ―――長身の男が、彼女を見下ろしていた。
 羽布張りの救護所の天井に今にも頭を擦りつけんばかり。
 何より、男の全身から噴き出すような威容と禍々しい鬼気が、彼女の肌を泡立たせる。
「お前、誰だ‥‥?」
 柴原がそう口にしようとした瞬間、幾名もの冒険者達が救護所内部に雪崩れ込んで来た。

「危ない、下がって柴原さん!」
「デビル野郎、単身で救護所内部に入り込むとはいい度胸だ。覚悟は出来てるんだろうな?」
 セピア・オーレリィ(eb3797)が柴原に警告。ケイン・コーシェス(eb3512)が、眼前の長身の男に対してデビルスレイヤーを構える。
 後方に浸透するデビル達への対策として、石の中の蝶やデティクトアンデットによるデビル監視網は万全だ。そして、それら全ての指標が、柴原の前に立つその男がデビルであると告げていた。
「‥‥皆様、気を付けて下さい。普通の相手ではありません‥‥!」
 同じ【アルボルビダエ】の仲間であるケインの背後で、大鳥春妃(eb3021)も身構える。指にはめた石の中の蝶の羽ばたきは、宝石から飛び出そうな程に猛烈だ。

 男は冒険者達に振り返る。
「何、騒がせるつもりはない。お前達、人間の救護体制とやらに多少の興味があっだけの事。―――とは言え、穏便に済ますつもりも無さそうだな」
「あったりまえだ!」
 ケインが聖剣片手に突っ込むと、セピアも槍を構えて後に続く。
 共に手にしているのは、並のデビルなど一薙ぎの神剣、魔槍。小細工の多いデビル相手に、考える時間を与えてはならない!
 タイミングはドンピシャリ。ケインとセピア、左右から同時に迫る二人の攻撃は、いかなデビルと言えども、無傷で避ける事は不可能だ。
 だが。

 ―――風が吹いた。
 熱く爆ぜる暴風。
 ただそれだけで、冒険者達は吹き飛び、皆地に倒れ伏す。
 天幕は全て吹き飛び、小屋や、土塁の一部さえもがあまりの強風に崩れ落ちる。
 暴風の余韻中で、獅子のみが立っていた。。
 四枚の翼を広げ、鷲の足で地を踏む風と疫病の魔王。
「我が名はパズス。何も死に急ぐことはないのだ、脆弱なる人間共よ。どうせお前達は皆死ぬ。世を呪い、苦しみながらな。それまでは、自らの矮小な命を大事にしているがいい」

 獅子は、そう言って姿を消す。
 近隣の救護所の者が、半壊した救護所と、熱病に苦しむ多くの冒険者達を発見したのは、それから二時間も経ってからのことだった。

(担当:たかおかとしや)


●かの王の真実と目的
 彼が見てきた時間は長い。
 遥かなる過去の神と悪魔の戦いにおいて、世界を司るアルテイラを封印した彼は、それを監視し続けていた。
 その頃彼は、マルバスと呼ばれていた。


「マルバスが姿を見せました!」
 上空からライトニングサンダーボルトで地上のデビルを貫いたのは【威力偵察隊「月」】のリアナ・レジーネス (eb1421)。砂嵐の中からチラと見えた黒羽を見つけ、素早くヴェントリラキュイで地上へと報告をする。それを受けたリ・ル(ea3888)が呼び子笛を一回鳴らした。それはマルバス発見の合図。

 ――ブワッ!

 大きく振られた翼から、砂嵐とはまた違う風圧が放たれる。
「っ‥‥!」
 の風圧に耐えるヒルケイプ・リーツ(ec1007)。磯城弥魁厳(eb5249)がマルバス出現の情報を伝えるべく走る。


 彼が行っていた封印は、元々は力を蓄えた同胞たちが天へと攻め上るための布石だった。
 だが、時は流れて――昨年のウォールブレイクと呼ばれた騒動でその封印を解放した時には、彼の目的は変わっていた。
 いや、彼自身が変わっていた。
 ある時マルバスの前に現れた、酷似した容貌の者は「境界の王」と名乗るカオスの魔物だった。

 ――ここに居る彼は今、境界の王である。


「一つの場に一つの魔力しか力を及ぼさないみたいだな」
「ディーテ砦についても調べましたが、ムルキベルが城砦と一体化した際に魔力が放たれ、赤い霧の回復力が落ちたように思われました」
 エリオス・ラインフィルド(eb2439)の言葉に神名田少太郎(ec4717)が答える。場を支配する絶大な魔力――それらは干渉しあっているようだった。
「マルバス! お前はセトとどういう関係か? 目的を同じくしているのか?」
 答えが返ってこないのを承知でタイタス・アローン(ea2220)が叫ぶ。上空で冒険者達を値踏みするように滞空していたマルバスは、意外な事にその問いに答えた。
「ククク‥‥人の子よ、教えてやろう。我は境界の王。我の目的はカオスの力による世界の支配」
 大きな鳥の口からしわがれた声が吐き出される。
「世界が繋がった今、この強大な戦いによって世界に混沌が満ちる。戦いにより生み出された負の力は、我の望むカオスの力となり集う。地獄の主という一点に集った混沌はいずれ押さえきれなくなる」

 かつてマルバスと呼ばれた魔物の目的は、力を蓄えた同胞たちが天へと攻め上る事だった。
 今、マルバスは居ない。居るのはカオスの魔物――境界の王。
 彼の目的は、カオスの力で世界を覆う事。集った混沌を暴走させて世界をカオスに染める事。
「セトに力を貸すのは、自らの望みを叶える為の布石の一つというわけですか‥‥」
 黒宍蝶鹿(eb7784)は上空の魔物を睨みつけ、そして得た情報を伝えるべく走り出した。
「マルバス――いや境界の王は独自の目的で動いているというわけか‥‥」
 上級デビル達の関係を調査し、付け入る隙がないかと考える者もいたようだが、この魔物はデビル達の一段上から物事を眺めているようだった。

(担当:天音)


●強固な盾となりて。
 この地獄で戦い始めてもうどれぐらいになるだろうか。
 依然として膠着状態の続く戦場に兵士たちの顔にも疲労の色がありありと映し出されてきた。
 特に最前線に仮設された自陣で救護をするものたち―――彼らには余裕がなくなりつつあった。
 前線で戦う仲間にはやはり負傷者も多い。負傷者は自陣へ運ばれて手当てをして再び戦場へ。そしてまた負傷して自陣へ。手当てをするものたちには休む暇が余りないのだ。加えて今回のように強大な敵が増えれば戦力が分散し、それを補うために全体の人数バランスが変化する。
「ははっ‥‥これはさすがにキツイですね」
 とにかく治療を、と比較的軽傷の者を中心にリカバーを唱えていた【マジカル特戦隊】のレイズ・ニヴァルージュ(eb3308)は苦い笑みを抑えることができずにいた。
「しっかりしてなのだ! オイラたちが倒れてしまったら元も子もないんだよ!?」
 言いながら負傷した仲間を運んできた【ジャパン医療局】の所所楽 苺(eb1655)が弱気なレイズに叱咤激励をお見舞いする。ジャパン生まれのチャキチャキ娘はこんなときでも元気を絶やさない。
 彼女たち運搬班が負傷者を自陣に運び入れ、レイズたち治療班がその傷を癒して戦場へと呼び戻す。それがこの自陣においてのサイクルだ。
「は、はい‥‥頑張ります!」
「うん、よろしい♪」
 レイズの文字通り頑張った返事に満足したのか、苺は満面の笑みを浮かべて頷いた。
 そうしている間にも次々と負傷者は運ばれてくる。
「次、お願いします!」
 桐谷 たつ(eb0298)の声で苺とレイズも持ち場に意識を戻す。
 運ばれてきたのは一人の兵士。だが怪我をしたというわけではないようで外傷は見当たらない。
 ただ、顔が異様なほど紫で白目を剥きかけていたのだ。
「これは‥‥病?」
 兵士の様子を見た桜葉 紫苑(eb2282)が腕を組んだまま呟いた。
 この地獄に来てから病にかかるものが後を絶たないうえ、前線に近づくにつれ感染率が高くなっていく。
「こんな場所ではロクな治療もできませんね‥‥」
「それならあちらに運んでくださいます? 感染が広がっても困りますし」
 困惑する紫苑にレイチェル・ダーク(eb5350)が指さした場所―――それは病に感染したものを一時的に他のものから隔離し、専門的な知識を持ったものが治療を施すための小さなテントだった。確認した紫苑は小さく頷くと苦しむ兵士に肩を貸して移動を開始する。
「危ないっ!」
 突如飛んできた叫び声にレイチェルと紫苑が思わず振り向くと、眼前に迫るデビルが一匹。
 この手の塞がった状態では防御もままならず、二人は思わず目を閉じる。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
 響き渡る断末魔。
 だがそれは二人のものではなく、デビルのものだった。
「大丈夫ですか?」
 二人が目を開けるとそこには拳を構えた将門 夕凪(eb3581)の姿があった。
「えぇ、さすがにヒヤリとしましたわ」
「ふふ‥‥さぁ、ここは私が時間を稼ぎますからお二人は治療をお願いします」
 静かに頷く二人を確認した夕凪は再び戦場へとその身を投じる。

 病に倒れる者、デビルに傷を負わされた者、そして精神が侵されてしまった味方に傷つけられた者。
 負傷者の数の増加に反比例して急速に減少していくものがある。
 物資だ。
「そちらの首尾はどうですか?」
「とりあえずは確保出来る分はしましたが‥‥正直心もとないですね」
 陰守 清十郎(eb7708)の問い掛けに苦い表情で返したのはロラン・オラージュ(ec3959)。
 商売人の端くれである清十郎は地上への物資調達に走っていたのだが、何分物資調達班の数も少ないこともあり、十分と言える量には至っていない。
「それでも‥‥やらぬよりはマシだ」
 剣 真(eb7311)の言葉に清十郎とロランが頷く。
「とりあえず私たちだけでも補充を続けましょう」
 そう言って三人はそれぞれの方向へと足を速めていった。
 ここは戦場の最前線―――
 それぞれの戦いの中でも常に死と隣り合わせだ。
 それでも冒険者たちは前に進んでいく。

 ―――未来のために。

(担当:鳴神焔)


●防衛ラインの戦乙女
──拠点周辺・最終防衛ライン
「悪魔達はさらなるちからを付けているわ。くちらも負けないで連携を組んで頂戴!!」
 上空では、天馬に跨がっているリリー・ストーム(ea9927)が、戦っている仲間たちに激を飛ばす。
 上空からの敵の襲撃にたいしての護りと、↓で戦っている者たちの戦局を観察しているのである。
 そしてその都度、手薄な場所や戦力の増援が必要な場所を確認すると、そこに仲間たちを派遣している。
「俺の名はブレイズ!!」
「私はボルガノ!!」
「私はグレン!!」
ブレイズ・アドミラル(eb9090)と、ボルカノ・アドミラル(eb9091)、グレン・アドミラル(eb9112)が悪魔に向かって叫んでいる。
『我等アドミラル三兄弟、ここから一歩もスすませはしない!!』
   そう叫ぶと、遅い閣下手来る悪魔達にむかって 三位一体の攻防を開始している。
 その近くでは、大天使の槍を構えた馬若飛(ec3237)が、遅い来る悪魔達をひとりで押さえていた。
「どうしたどうした!! 全然殺る気がねーじゃん!! もっと掛かってこいよぉ!!」
 そう挑発する馬と、そりにのって突撃してくる悪魔達。
 だが、ほんの数激で赤い切りにまで分解される悪魔達。
──ズバァッ
「くるならもっと、大勢で来い!! こっちは騎士道云々なんてさけばねぇ!!」
 勢いよく啖呵をきる馬であったとさ‥‥。

──一方そのころ
「ち、ちょ‥‥」
 狩野幽路(ec4309)は焦っていた。
 近くで戦っていた筈の冒険者達が、次々と悪魔の顎の餌食となっていたのである。
 かなり外縁部に近いエリア、そこを護る拠点防衛として戦っていた狩野であるが、仲間たちが次々とやられていては、護りきることは出来ない。
「援護に入ります!! 貴方は後方に向かい、仲間の要請を!!」
 後方から戦闘馬に跨がり、颯爽と姿を表わしたのはエルム・クリーク(ez0138)。
 素早く馬から飛び降りると、腰に下げていたサンソードを引抜き、素早く襲いかかってくる悪魔に向かって斬りつけた!!
──ズバァァァァァァァァァァァァァァツ
 その一撃で赤い切りに霧散化していった悪魔。
 それを見て、狩野は静かに肯くと、後方へと走りはじめた。

──さらに別のエリア
「よっしゃぁ。一撃できまりや!!」
 前方から襲い来る悪魔に向かって、シン・オオサカ(ea3562)がアイスコフィンを発動。
 それは一撃で敵悪魔を氷漬けにしていた。
 さらにオオサカの後方で詠唱を行なっていた仲間たちの魔法が次々と発動!!
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 アルター・ウィラ(eb3517)のファイアーボムが炸裂。
 数多くの悪魔を霧散化させていったものの、その魔法攻撃を掻い潜って突撃してくるあくまたちもいた。
 だが‥‥。

「ターゲット捕捉‥‥問題なし‥‥いく‥‥」
 ジル・アイトソープ(eb3988)が、掻い潜ってきた悪魔達に向かって、グラビティキャノンを発動。
 さらに、その横で詠唱をしていたメネア・パティース(eb5563)、エル・カルデア(eb8542)、サスケ・ヒノモリ(eb8646)、ルイザ・フィード(ec4489)も次々とグラビティキャノンを発動、悪魔達を一掃していった。
 魔法戦エリアはそこそこの戦果を上げているものの、次々と魔力が切れていく為、前線の維持を永続的に続けることは困難であった‥‥。

(担当:久条巧)


●崩れる砂上の楼閣
「ふん、生意気な」
 吹き荒れる黒い砂嵐の向こう、たたずむは、獣ではない獣、嵐の支配者セト。その目の前で、自らの支配する空間に穴を穿ち、不遜な剣をつきたてようとするものがいる。
 人間、ただ神が造りし、下等なる被造物。
 だが下等であるが故の無謀と蛮勇は、かつて自分に苦渋をなめさせたのだ。
 それがなければこの地獄での戦いで、バアルの後背を拝すことなどなかったものを。
 その怒りは吹き始めた嵐のようにセトの隅々にまで染み渡り、そして魔神はその歩みを速めた。

「今宵の虎徹は、血に餓えているってなあ!」
 武藤 蒼威(ea6202)の手にあるはジャパンでも有数の名刀。それを軽やかに振り払うと、前に袈裟懸け右に薙ぎ、後ろに迫る敵を切り上げて、群がるデビルを地に伏せさせる。
「さあ、かかってきな!」
「あまり調子に乗りすぎないでください」
 雨宮 零(ea9527)は抜けば玉散る氷の刃を振り払い、武藤の脇を固めると、【Ochain】の前衛として切り込み進む。
「しかし、バアルと動きを異にするとは、何の目的が?」
「教えて、やろうかぁ!」
 雨宮の疑念に応えたのは巨大な爪の生えた毛むくじゃらの、セトの腕であった。
 一瞬かわすのが遅れ、雨宮の腕にざくりと怪我が刻まれると、その爪についた血をなめながら、セトは醜く笑う。
「それは単に‥‥あのバカが嫌いだからよ!」
 ふざけた哄笑とあわせて振り払われた拳を武藤が受け止めると、雨宮が確認していた退路のほうからジルベール・ダリエ(ec5609)が走り、支援にかけられたウインドレスの先頭切って、流星のように二矢をひょうと撃ち放つ。
「グは!」
「は、バアルのほうが強いなあ? 簡単なもんやで!」
 怪我人を戦闘馬にまたがったまま拾い、そうして笑いを上げる男を、セトは打ち抜かれた片方の瞳で怒りに燃えて見据えていた。
「俺をコケにしやがって‥‥後悔させてやるわ!」
 その声とともに、一条の地獄の炎が放たれると、周囲に駆け寄っていた冒険者たちを包み、そして燃え広がらせる。
「そうはさせない!」
 炎と砂、そして魔神の笑いがその場を包む時、それを切り裂くように凛とした声と、そして眼も眩む光が辺りを包む。
「ホルス神の名に懸け、三度破れなさい! セト神よ!」
「この、小娘がっ!」
 仲間の目印となるべくダズリングアーマーで身を包んだテティニス・ネト・アメン(ec0212)の声と、その光で魔神が一瞬ひるむ。
 その間に体勢を立て直した冒険者たちは、間髪いれずに攻撃を開始した。
「ぐは、バ、バカな!」
 潜入しての撹乱のために兵力を割いたためか、セトの軍勢の兵力は明らかに数を減らしていた。それに加え、周囲の悪魔の兵卒たちは、今このとき、倒れるとそのまま動かなくなり、赤い霧ではなく、黒い霞へと返っていく。
「‥‥バアルの野郎! 俺を利用するだけのつもりかぁ!」
 数多の傷を受けながらも、暴風の息とその爪でセトは冒険者たちを大地に倒していく。しかし、セトを守る下級悪魔という壁‥‥バアルの力はすでに引き上げられ、堀を埋められた城のごとく、悪魔は追い詰められていく。
「地獄の中にも、光は届きます」
 その言葉とともに、盾の魔力によって光をまとったリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)が駆け寄る。それを待ち構え、死出の旅路につかせようとしたセトの前に、禿頭の大男が突如、姿を現した。
「はあー!」
 阿修羅神の加護、パラスプリントにて突然出現したバーク・ダンロック(ea7871)は、そのまま全身よりオーラの闘気を吹き上がらせると、セトを衝撃でよろめかせる。
 そこにリュドミラを先頭に、他の戦士たちも駆け寄っていた。
「俺が滅びるだと! この、セトが滅びるというのか!」
 その声は冒険者たちの攻撃により、醜い断末魔の叫びへと変わっていき。
 その叫びが途絶えるにあわせて、地獄を覆う暴虐の砂嵐は、静かに止んでいた。

(担当:高石英務)


●終わらない赤き悪夢
 荒野、バアル軍本陣周辺。
 紅の霧に覆われたその戦場で、冒険者達は今も終わりの見えぬ悪夢のような戦いに身を投じていた。
「いい加減‥‥しつこいよっ!」
 グリフォンを駆るアシュレー・ウォルサム(ea0244)の放つ矢が、次々と悪魔達を射抜き消滅させる。しかし、戦場を赤い霧が覆っている現状、それは一時的なものでしかなく、加えて、どれだけ敵を狩ろうと、赤い霧が減少したり効果が弱まったりという成果は見えない。
「涌いて出ただけ‥‥潰すしかあるまい!!」
 アシュレーの下方。地上では同じ『VizurrOsci』に所属する尾花満(ea5322)が戦っていた。振るわれる魔剣の刃は鋭く、道を阻む敵を容赦なく切り裂いていく。だが、際限なく現れる悪魔の前に、段々と呼吸は乱れ、集中力も低下してくる。
 悪魔の一匹が、その僅かな隙を狙って禍々しき爪を振りかざす。満の死角。その一撃が彼を捉えて‥‥いや、寸でのところに空を走る一筋の矢。フレイア・ヴォルフ(ea6557)の援護。貫かれた悪魔が声を上げるが、その身を包む赤い霧。しばらくすれば、今の悪魔も再びこの場に戻ってきてしまうことだろう。
「全く、こっちばっかり消耗させられるってのは、どうにも割に合わないね」
 この場に集った多くの冒険者達が、フレイアと同じ危機感を抱いていた。
「はっ、こいつはいい! 何処を向いても敵だらけだ! 狙いをつける必要がねぇ!」
 半ば自棄になって、皮肉を込めた言葉と共に、アリル・カーチルト(eb4245)は敵の陣を押し通るべくドラグーンを操る。
「行くぜ!」
 セイル・ファースト(eb8642)の透き通った氷の剣より放たれる衝撃波が、悪魔の群れを薙ぐ。彼の率いる『TN特攻隊』は多くの悪魔を屠った。
「わたしの力は小さくて、でも‥‥皆に繋がってくれれば‥‥」
「辿りつこう。目指す先‥‥私達の勝利と、戦乱の収束へ」
 ラテリカ・ラートベル(ea1641)のシャドゥボム、エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)のムーンアロー。『マジカル特戦隊』の面々も、それぞれの得意とする魔法で悪魔達を潰していく。
だが、それでも‥‥現状は先の戦いの時に同じく、戦局は一進一退の頓着状態にあった。バアルへと届く道は、未だ開かれず。
「あっ!」
 リーマ・アベツ(ec4801)の前で、ストーンの魔法で石化した悪魔が赤い霧に包まれて消えた。赤い霧の効果は、バアルの意思次第で死んでいない悪魔にも発動される。バアルに気づかれさえしなければ、その間の時間は稼げるのだが‥‥。
「これでも駄目なの‥‥」
 ユリゼ・ファルアート(ea3502)はミストフィールドを展開し、敵の混乱を誘った。倒しては蘇る悪魔達に対し、視界封じの魔法は有効な手。しかし、以前の戦いでこれを核とした作戦を冒険者達が展開した時の経験もあってか、敵方に以前ほどの混乱は無く、霧に耐性のある悪魔クルードらが周囲の悪魔を誘導するなどして対処してきた。加えて、今回の本陣周辺においては、他の視界封じや行動抑制の魔法を使う者が少なかったことも災いしている。
直接的な攻撃ばかりを中心にバアルへの道を切り開くのは難しく、囮を使っての多方面からの攻撃なども試みられたものの、やはりバアルの陣を突破するには至らない。
「ちいっ。敵が多いのは嫌いじゃないんだが、このままじゃ本当にジリ貧だな‥‥」
 虚空牙(ec0261)は忌々しげに呟きながら、その剣と拳を振い続けた。

『所詮、諸君ら人間などという脆弱な生き物の力など、吾輩には遠く及ばぬということよ! 絶望の音楽は心地よかろう! 嘆きの声は美しかろう! さあ、存分に地獄を楽しみたまえ!』
 その悪魔の下卑た笑い声は、今も戦場に響いていた。

(担当:BW)