第1回行動入力結果報告書

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黙示録の戦いの勇姿を!

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<第1回開戦状況>
第1回では、万魔殿への道を閉ざしているムルキベルの魔力を断つべく、ディーテ城砦への攻撃が必要となるでしょう。
また、ムルキベル以外の上級デビルの動向も確認されています。
マルバスの所在は明らかにはされていませんが、瘴気が増加し、その混沌の力を振るいやすいコキュートスに姿をあらわすと見られています。
エキドナはその動向がまだ確認されていませんが、バアル軍との戦いの終盤のように突如襲ってくる可能性があり、予断を許しません。
パズスはバアル軍との戦いの後、地獄では姿が確認されておらず、ロシア方面に攻撃を仕掛け、今回の戦闘では地獄には攻撃を行なわないだろうと推測されています。


第1回行動入力時戦力状況
参加人数:792人
ディーテ城砦コキュートス合計城砦内各所で戦闘中!

機巧の支配者 ムルキベル
イラストレーター:墨

不快なる祈りの力、このコキュートスまで届くとは。
‥‥不遜なりしは神と、その小さき神の被造物。
皇帝の御前まで進ませるわけには行かぬ‥‥。
覚悟するがいい‥‥。
白兵戦 16.7% 10.8% 27.6%
防衛・救護 13% 11.4% 24.4%
祈り・儀式 6.4% 6.4% 12.8%
魔法戦 5.9% 3.6% 9.5%
偵察・伝令 13.5% 11.8% 25.3%
合計55.6%44.3%100%



ディーテ城砦攻略戦 結果(6月10日〜6月29日)
参加人数:966人

救護87.3%  1994人 
調査89.4%  1939人 
陣地作成106.5%  2226人 
ディーテ城砦116.8%  2721人戦況有利に
コキュートス101.6%  2002人 



<第1回戦況>
ディーテ城砦では、城砦の各所に出現したムルキベルの分身や彼の悪魔が操る魔法生物により、冒険者たちは苦戦を強いられました。
ですが、分身や建造物に隠された「核」を破壊することによりディーテ城砦への干渉を打ち消せることが判明し、各所で核とそれを守る魔物との戦闘が発生。
これらは冒険者側有利に進み、結果、ディーテ城砦は機能不全に陥ったのか、その動きを完全に停止しました。
ムルキベルが撃破されたかは不明ですが、今回の戦闘までに復活は間に合わないと推測されます。

コキュートスでは満ちた瘴気を減らすための祈りを中心とする儀式、それと復活し始めた魔物への対処が中心に行われました。
その中でマルバスの襲撃が行なわれたものの、儀式と戦闘はそれぞれ大きな問題なく進行し、マルバスは一時撤退を行った模様です。
コキュートスの探索は進んでいますが、万魔殿よりよりいっそう濃い瘴気が発生。
ルシファーの復活に伴い、万魔殿周辺には不可視の障壁が発生したとの報告があります。


結果概略

成功結果状況
癒しの天使 ラファエル
イラストレーター:夢観士あさき

皆さんの信仰と祈りの力、しかと受け取りました。
しかしコキュートスに集う悪なる気配は、
今なお増しています。
今こそその心の強さにて、敵をくじく時です。
ディーテ城砦  ◎ 城砦沈黙
コキュートス  ○ 瘴気増加



■第1回報告書

●境界の王が狙うもの
「ここが地獄の最果てか‥‥はっ、辛気臭ぇ所だなぁ、おい」
 七槻錬太(ec1245)が辺りを見渡しながら呟くことに、デュランダル・アウローラ(ea8820)は苦笑で以って応じる。
「決戦を仕掛けるにしても、情報が少な過ぎる。まずは出来る限りの情報を集めよう」
 周囲に揃いつつある仲間達に声を掛け合い、注意深く四方を観察する此処はコキュートス、地獄の最下層。
 万魔殿の周囲に広がり、極寒地獄とも呼ばれるほどの厳しい寒さが続く景色は、神の力によって永久に溶けないと言われる氷に辺り一面を覆われていた。
 正に永久凍土。
 何人たりとも長居させぬように吹き付ける痛く冷たい風と共に保たれる不気味な沈黙は、数多の悪しき者を眠らせるため――。
「っ、‥‥!」
 不意に背後から聞こえた奇妙な物音にアリル・カーチルト(eb4245)は警戒し、同時に飛び退く。
「下がれ!!」
 近くにいた仲間達にも声を荒げる、その先で。
「‥‥!」
 いま、厚い氷に覆われていたはずの塊が動き始めていた。
「なんだ‥‥?」
 目を見開き凝視するマグナ・アドミラル(ea4868)は、しかしそれが良いもでないのは明らか。
「完全に覚醒する前に討つべきであるか!」
 大剣を振りあげ、放つはソードボンバー。
「!!」
 だか振り抜けず。
 途中で止まる刃に。
「そのまま押し込め!!」
「ぬぉぉぉぉおおっ!!」
 援護する飛天龍(eb0010)はラムクロウを装備した拳を叩き付け、その波動と共に剣は塊を斬った。
「これは‥‥」
 上がる困惑の声に答えをくれたのはペガサスに騎乗し空から偵察を行なっていた仲間。
「境界の王‥‥!」
「マルバスだ!!」
 巨大な四つ足のカラス、マルバスとも境界の王とも呼ばれるそれの出現に顔色を変えたのはリール・アルシャスだ。
「おまえが、セレネ殿を封印していた者か!?」
 問うた声に魔物は彼女を見下す。
 セレネとは何者かと逆に聞き返す。
「忘れたとは言わさない、私達の世界と、天界を繋ぐアルテイラ! おまえが狙っていた月姫だ!」
『あぁ‥‥』
 ようやく合点がいったとばかりにほくそ笑んで魔物は言う。
『全ての世界が繋がった今、あのような精霊に用は無い‥‥我が名は境界の王。精霊の力を得ずとも目的は果たされる――』
 魔物の言葉が続くにつれ冒険者を包む周りの空気が淀んでいく。
 重く、昏く、おぞましく。
「まさかこれを奴が‥‥っ!?」
 驚愕の声に魔物は笑い。
 真幌葉京士郎(ea3190)はオーラMAXを発動。
「やらせはせんぞマルバス‥‥その混沌の力、今ここで断ち切る!」
「てめぇを見つけたら一矢報いてやろうと常々思ってたんだ、好機だ!」
 京士郎の剣、ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)の矢が奴を狙う。

 コキュートスの戦いが、今、始まる――。

(担当:月原みなみ)


●挑みゆく者に 力を
 準備は整った。
 今度こそディーテ城砦を落とす為、あるいは新たに出現した万魔殿に乗り込まんが為、多くの仲間が出撃する。
「みんな、ムルキベルの魔力に惑わされないで‥‥。今、ボク達の祈りをみんなの元に届けるから、祈りの輝きがきっと正しい道への道しるべになるんだっ!」
 ディーテ城砦は相変わらず蠢き続ける。
 城砦の変化が少しでも阻害されるよう、祈りながら早坂真央(eb5637)はあちこちに折り紐をかけるが、その目の前で壁は飲み込まれ、柱が乱立する。
 変化を続ける広大な砦。
 その上、コンストラクトが徘徊し、無数のムルキベルの分身まで出現するようになった。
 何が本当で、偽者なのか。
 混乱する現場を鎮める様に、ミトナ・リプトゥール(ec0189)は祈り、踊る。
「未来への希望という祈りを込めて。自称とはいえ太陽の娘なのよ。太陽みたく明るく元気になるような踊りを見せてあげるわ」
「こんな事で力になれるなら、いくらでも踊ってやろうじゃないの!」
 『春夏秋冬/魔法調査班』の仲間と共に、歌い踊るアルテリア・リシア(ea0665)。
 『マジカル特戦隊』のアリッサ・アルバリス(ec6382)も官能的。体のラインを強調する魅惑の踊りはじっくり見ていたい冒険者も多かっただろう。
「地獄が暗いなら明るくすれば良いだけじゃん?」
「そうだね。何だって前向きにいかないとね〜☆」
 七色に輝くオカリナで室川雅水(eb3690)が明るい曲調を吹き鳴らせば、手持ちの楽器は無くともエリステル・ナシェル(eb1980)はおっとりと調子を合わせる。
「あまり上手くないけどぉ、皆の祈りが届くように歌わせてもらっちゃおうか」
「上手い下手なんて関係ないですよ。少しでも祈りの力が強くなるよう尽力するだけ」
 一礼し、楽の音に合わせて舞うヴァジェト・バヌー(ec6589)。
 花井戸沙耶(eb4297)もきょとんとした顔で見ていたが、やがて負けてなるかと響きに声を乗せる。

 邪気を祓う祈りの力。
 瘴気を抑え、魔を退けるその想いは、しかし、不快に思う者は当然いる。
 デビルたちである。

「十字の方向、デビルたちが接近してきます!」
 グリフォンを駆り、周囲を見回っていたコルリス・フェネストラ(eb9459)はより一層オルフェウスの竪琴を掻き鳴らす。
 あちこちで戦闘が行われてる中、ここにまでわざわざ手を出してくるデビルもそう多く無い。
 だが、皆の祈りをむざと邪魔もさせない。
「数は三体。隠れている者はいません!」
 デティクトアンデットで探る賀茂慈海(ec6567)の指示に合わせ、麻津名ゆかり(eb3770)が魔法を放つ。
 フィールド系の結界を張ったり、仲間たちの魔法耐性を上げたり、ただ祈るだけではなく防御も展開している者は多い。
「仲間たちは守護します。皆が幸せにあれる世界に‥‥天へと向かう魂に安らぎのあらん事を‥‥」
 明日への規模に向けてゆかりもまた祈る。
「祈りを込めて鳴らし‥‥鳴らし続ける。鳴り終わったら、良いこと、あるでしょうか?」
 エフェリア・シドリ(ec1862)はリュート・バリウスを爪弾く手は休めないながらも、ふと疑問を口にする。
 瘴気は確かに薄くなっている。デビルも鈍い動きを見せる者がいる。
 けれど、それを上回る数の多さ。尽きる事無い彼らの動きを果たして制する事はできるのか。
「さあ、どうかしらね? でも仲間が迷わず無事であるよう、神に祈るのに、あたしたちが迷ってもしょうがないじゃない?」
 折り紐を巻いたオリーブの枝を手に通りすがったオルテンシア・ロペス(ea0729)は、苦笑すると祈りの邪魔にならない場所へとまた立ち去る。
「あたしはあたしの出来る事をするだけよ」
 エルウィン・カスケード(ea3952)がくるりと回ると、そのまま演奏に合わせて踊り出す。
「足手纏いな俺はこんな事でしか役に立たんからな」
 軽口を叩く布津香哉(eb8378)だが、祈りの想いまで軽くは無い。
「わし、ディーテ城砦の瘴気が無くなるよう祈らせてもらいますわ」
 アンリィ・フィルス(ec0088)もまた、城砦に向けて手を合わせる。
「世界の戦えない子供たちや老人たちの為に‥‥」
「妄執に囚われた悪魔たちに救いの手が差し伸べられん事を‥‥」
 『後方防衛係』のエリー・エル(ea5970)が地の底から地上を思い、『【世界騎士団】』ゼノヴィア・オレアリス(eb4800)は対面する敵の為にも祈る。

 重なる祈り。
 個人個人の小さな想いは、少しずつ、だが確実に大きな力になる。
「祈りよ、龍になれ!」
 サーシャ・ハスター(eb1086)の願い。そして、それはどこへ届くのか。

(担当:からた狐)


●万魔殿への道〜氷壁から蘇える者たち
 コキュートス――神魔の戦いが起こったと言われる想像もつかない過去、ここに敗北した天使長ルシファーらとともに神々に反逆した魔物が封印されていた。神々の力で決して溶けることの無い永久氷壁の中に‥‥。
 冒険者たちは凍土と立ちはだかる絶大な氷の壁に言葉を失った。
「ここがコキュートス‥‥」
 沖田光(ea0029)は見ると、氷がどんどん溶け出している。
「これは‥‥」
 偵察に出ていた冒険者たちは異様な気配を察知して後退する。瘴気の渦が凄まじい勢いで立ち上っている。
 ジェイラン・マルフィー(ea3000)は思案顔で仲間達に警戒を告げる。
「コキュートス‥‥これって神様レベルのアイスコフィンってところじゃんか。んで、瘴気が‥‥いや、カオスの力が増したことで徐々に封印が解けてるんじゃないかって感じじゃん」
 
 それからコキュートスへ侵入したルンルン・フレール(eb5885)は氷付けになっている無数の巨人を発見する。
「‥‥わわぁ、何かおっきい怪物が、一杯凍ってます!?」
「ルンルンさん‥‥あそこを見て」
 草薙北斗(ea5414)が指差した先で、巨人が目覚めつつある。
 至るところで、無数の巨人が胎動し、復活しつつある。そして、一体、また一体と永劫の氷の封印から目を覚まし、冒険者たちに向かって進軍を開始する。
 さらに瘴気の壁の向こうから、アンデッドの大軍が押し寄せつつある。
「みんなに知らせないと‥‥」
 偵察部隊の冒険者たちはコキュートスの異変を告げるべく仲間達のもとへ走った。

 白兵部隊中心に本格的進撃を開始する冒険者たち。
「無理をするな、まずは自らと仲間の命を守ることを優先するんだ!」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)は コキュートスへ足を踏み入れながら仲間達の先頭に立っていた。
「アンデッドに巨人‥‥向かって来るのです」
 月詠葵(ea0020)は向かってくる敵に長曽根虎徹を抜刀すると――。
 上空を黒鳥が旋回する。マルバスである。
「‥‥遂にここまで来たか人間たちよ。皇帝陛下がお待ちであるぞ。進むがいい。俺は皇帝陛下からお前達を歓迎するように申し付かっておる」
 マルバスはそう言うと、飛び回りながらコキュートスの瘴気をさらに増大させていく。アンデッドの大軍が沸き起こり、巨人とに向かってくる。
「行くぞ!」
 ドラッケンの号令とともに魔法使い達が戦列に進み出る。
 ゼルス・ウィンディ(ea1661)、イリア・アドミナル(ea2564)、シェリル・シンクレア(ea7263)、火乃瀬紅葉(ea8917)、ベアータ・レジーネス(eb1422)、ジークリンデ・ケリン(eb3225)、月下部有里(eb4494)、ハロルド・ブックマン(ec3272)、リディア・レノン(ec3660)など、続々前に出て超絶的な破壊力の魔法を交えて叩き込んでいく。
「おお、マイゴッド、お力を貸し給え‥‥この吹きすさぶ冷たい風の中、私たちにいきいる力をお与え下さい‥‥悪魔と戦う力を授けて下さい‥‥」
 エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)の地味なメロディーが仲間達を鼓舞する。
 天城烈閃は(ea0629)はマルバス目がけて光の槍+3を投げつける。
「お前達が闇で世界を覆っても、人の想いは‥‥希望は、けして消えやしない!」
 だがマルバスは言葉を残さず、ふっと姿を消した。
「我々には皆の祈りという最大の味方、そして隣には頼りになる最高の戦友(とも)がいます‥‥」
 常葉一花(ea1123)は仲間達に向かって呼びかける。
「帰るべき場所に、迎えてくれる人の許に最高の笑顔で戻るために、全力で戦いましょう!!」
「おお!」
 敵に向かって殺到してく冒険者たち。その合間を縫って魔法の閃光がほとばしる。
 風烈(ea1587)は巨人に爪を叩きつける。
「ようやく封印が溶けたと思えば、やってきたのは小人か! 笑わせるな!」
 神話の雷神トールさながらの巨人は風烈を吹っ飛ばした。猛威を振るう巨人達。さらにアンデッドが地から、空から襲ってくる。
 だが――。三笠明信(ea1628)、アマツ・オオトリ(ea1842)、鷲尾天斗(ea2445)、ケイ・ロードライト(ea2499)らは突進すると、巨人の戦列を突き破る。
「天の加護有りて我等闇の底に至る! 汝等墜ちたる者に光の裁きを!」
 剣が巨人の肉体を切り裂き、大地に崩れ落ちる。
 万魔殿への道を切り開くために、冒険者たちは剣を振るう。そこに待ち受けるのが恐るべきデビルの支配者であろうとも。
 巨人の戦列を突破して攻勢を掛けるファイゼル・ヴァッファー(ea2554)、真幌葉京士郎(ea3190)。
「やらせはせんぞマルバス‥‥その混沌の力、今ここで断ち切る!」
 ギリアム・バルセイド(ea3245)がソニックブームを叩き込めば、ヴァルキュリア騎乗の利賀桐真琴(ea3625)はダブルアタックにスマッシュで巨人をなぎ倒す。
 チャージングで駆け抜ける閃我絶狼(ea3991)、薊鬼十郎(ea4004)はアンデッドを払いながら巨人の胸に剣を突き立てる。
「冬眠発、永眠逝き。おはよう、そして‥‥さようなら」
 封印から解放されたばかりの悪魔を死角からドッカーン! だ。
「おのれこざかしい‥‥カオスの力を見よ!」
 巨人達は手から黒い閃光弾を次々と放った。
「ぬお! おのれ‥‥」
 直撃を受けたアラン・ハリファックス(ea4295)の体からぶすぶすと煙が上がる。
「やってくれるな怪物! だがここで果てる運命よ! 小さき人の力を冥土の土産に知るがいい」
 アランは炎の槍で巨人の胸を串刺しにした。
「おおおお――はあ!」
 老剣士マグナ・アドミラル(ea4868)のソードボンバーが炸裂。巨人、アンデッドを吹っ飛ばして打ち砕く。
 突き進むルミリア・ザナックス(ea5298)、ファング・ダイモス(ea7482)、デュランダル・アウローラ(ea8820)、エイジス・レーヴァティン(ea9907)。
 次々と氷壁の中から目覚めてくる巨人達。
「まだまだ続々と巨人たちが目を覚ましています」
「それに、マルバスの操る瘴気が次々とアンデッドを呼び覚ましとるで」
 哨戒に当たっていたデニム・シュタインバーグ(eb0346)やイフェリア・アイランズ(ea2890)が激戦に身を置くドラッケンのもとへ伝える。
「そうか‥‥だが突破するしかない。他にパンデモニウムへの道は無いのだから」
 戦い続けるミラ・ダイモス(eb2064)、アトス・セムトラック(eb2451)、セラフィマ・レオーノフ(eb2554)、アレーナ・オレアリス(eb3532)、真崎翔月(eb3742)を見て。
「そう‥‥進むしかない‥‥我々はおよそ人間が辿り着いたことのない場所へ来た。悪魔を倒すために‥‥この戦いを終わらせるために‥‥進むしかないんだ」
 ドラッケンは真っ直ぐ顔を上げる。
「敵はカオスの力を増大させ、ルシファーへの障壁を作り出そうとしているようだ」
「どないするんや?」
 アイランズは尋ねると、ドラッケンは頷いた。
「祈り‥‥魔法‥‥剣‥‥救護に当たる者たち、伝令に出てくれた者たち、みんなの力を合わせ、ルシファーのもとへ行く」
 コキュートスの壮絶な戦いを目に、ドラッケンは言った。
 ――みなの力と心を一つに。
 冒険者たちは激闘を繰り広げながら前進を開始する。

(担当:安原太一)


●堅強な後ろ楯
 ムルキベルと一体化したディーテ城砦‥‥それを打ち壊さんと行軍する仲間達。
 彼らを後方にて援護すべく集った冒険者の勢は、これまでに無い程の規模となっていた。

「俺にできることは、これだけだからな‥‥」

 そう呟きながら作業を進める武者小路繰空(eb4606)。
 彼を始めとして多くの者達が明王院月与(eb3600)により纏められた設営の為のマニュアルに従い、救護所兼の後方拠点を築き上げていく。
 例え地味でも一つの作業にひたすら専念する人員が居ると言うのは、大変に作業効率を上げるもの。その功あって、凄まじい勢いで拠点はその姿を現した。
 いざ築き上げられたそれだけを見れば、ともすれば前線の人員が足りなくなってしまうのではないか‥‥と不安にも思ってしまう程である。
 だがそれは杞憂。城砦を攻め込む冒険者も、十分な勢力を保っている。
 何より、後方にこれだけ大規模な後ろ盾があれば、仲間達とて安心して攻撃に専念できるだろう。

 そして、その中を忙しなく駆け巡るのは多数の治療要員。
 それは白のクレリックばかりではなく、ポーションなどを持ち寄って怪我の治療に当たる者も数多く見受けられる。
 皆が皆、仲間達の命を救う事に必死なのだ‥‥天城月夜(ea0321)率いる【伊勢ノ志】や高川恵(ea0691)の【春夏秋冬/救護協力班】の様に、部隊そのものを救護防衛に、或いは分隊を設け多数の人員を此方の活動に回してくる者さえ居る程だ。

 だが、そうなってくると不安なのはやはり、味方のふりをして忍び込んでいるであろうデビルの存在。
 これだけの規模となると、一度混乱を招かれてしまえば逆に収拾を付けるのが難しくなってしまう事にも為り得る。
 ――ところが、今までの活動を経て冒険者達も学んでいるのだろう、ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)などの様に内部の敵を探知する者も見受けられ。

「‥‥! デティクトアンデットに反応が‥‥あっちです!」
「よーし、それじゃ皆でフルボッコにしにいくさね!」

 ネフィリム・フィルス(eb3503)率いられるまま武器を取る冒険者達により、文字通りデビルはボコボコにされ‥‥斥候さえも無事に戻る事は叶わずにいた。
 更にはレイズ・ニヴァルージュ(eb3308)の様に前線近くで積極的に救護に当たる者、カイ・ローン(ea3054)の様に要救護者を迅速に運ぶ手段を持つ者‥‥そしてリンデンバウム・カイル・ウィーネ(ec5210)に至っては見方陣内に至る前に敵の偽装を看破する活動を行っており、少なくとも冒険者達の後方陣営において隙は無い、と言っても過言では無い状況である。

 後は、前線の仲間達の奮闘を願うのみ‥‥。
 絶えず運ばれてくる怪我人達の治療に追われ、目まぐるしく動き回りながら――冒険者達はそれぞれが祈る様な気持ちで、前方に聳え立つディーテ城砦、ムルキベルを見据えるのであった。

(担当:深洋結城)


●凍れる混沌の亡者
 極寒の、けれどもただ寒いのとは異なる、臓腑と骨の髄を中から凍らせていくような気味悪さが漂うコキュートスの空の下。燕桂花(ea3501)ら、『しふしふ同盟』のシフール達が低空でそっと各所に散り始めた。
 その上を、今更身を潜めるよりはと騎獣を操るのは、『威力偵察隊「月」』のリアナ・レジーネス(eb1421)や琥龍蒼羅(ea1442)、ヒルケイプ・リーツ(ec1007)、『強襲遊撃団「黎明」』の乱雪華(eb5818)、『VizurrOsci』のアシュレー・ウォルサム(ea0244)など。フライングブルームで【翠志】の一式猛(eb3463)もそれを追う様に飛び出していく。
 さらに後方から、木下陽一(eb9419)を同乗させた『ウィル双翼騎士団』のエリーシャ・メロウ(eb4333)、白鳥麗華(eb1592)、越野春陽(eb4578)らとクナード・ヴィバーチェ(eb4056)がゴーレムグライダーで飛び立ち、他を追い抜いていく。
 多くは上空から敵の配置、地表の様子、デビルの王のいる万魔殿の在り処などを調べる目的だが、地獄の最下層だけあって簡単に下を見下ろせるとは限らない。息を吐けば眼前が白く曇り、肺腑が痛む。誰もが極寒という言葉に頷く場所ゆえに、移動する速度が速ければ速いほどに手指がかじかんで動かしにくくなってくる。いずれもが防寒対策は施していたし、魔法で対抗している者も少なくなかったが、それで防ぎきれない寒さがある。
 靄が掛かったような氷の地表に、時折透けて見える巨大な横たわる影、羽と翼の両方が入り混じったようなものを持つ人型の何かが相争う姿をそのまま封じ込めた光景が肝を冷やすのだ。
 だがもちろん、そうしたものはテレパシーや伝言、風信器を介して、地上にいる人々にも伝えられていく。
 今最も目立つのは、どこから出てくるものか、氷の上を這うように進むアンデッドの群れだった。

 キリ・ノーファ(ea8859)が見たところ、地表をくまなく覆うほどの靄はない。だが突然どこかから吹きつけてくる風で視界が遮られる急変はあるし、魔法の発動光は氷の反射で地上の何倍も目立つ。隠れ潜むのに向いている場所ではない。
 唯一の幸いは、上空からの情報にもあるが、肉体を持つアンデット達の動きは氷に妨げられて地上に比べても遅いことだ。レイスのような存在の動きが妨げられる様子はないが、こちらの数は多くない。
 地獄の最下層ゆえにデビルが湧いてくるならともかく、アンデットとはいかなることか。そう考えたり、封印されていた中に含まれていたのかと疑って、永久凍土の溶け具合を中心に調べていた沖田光(ea0029)や秦劉雪(ea0045)、ジェイラン・マルフィー(ea3000)、烏哭蓮(ec0312)は、所々で確かに氷が溶けている箇所を発見した。けれどもそこに封じられているのはデビルであったり、それに類すると思しき巨人など。アンデッドとは違う。
 そもそも各所に偵察に散った冒険者達のほとんどが、アンデッドらしいものが氷に閉じ込められている光景は見ていない。故にどこからか新たに呼び出されていると、多数の者がそう考えるに到った。
 マルバスの出現を警戒する者は上空偵察に多く、地上ではフォックス・ブリッド(eb5375)などがかすかな異変も見落とすまいとテレスコープやそれぞれの技量で敵の動向を探っている。エキドナへの警戒も絶やすことなく、クルト・ベッケンバウアー(ec0886)達『TN偵察隊』や十野間空(eb2456)らの『TN特攻隊』が合言葉を含めたテレパシーの多用で連絡を取りつつ、敵の進軍経路の元を辿っていた。
 大元には何かがあるだろうと、そうした意見があちらこちらから出てきてのことだが、実行するのは容易ではない。
 グラディ・アトール(ea0640)の『ベイリーフ』、キット・ファゼータ(ea2307)の『威力偵察隊「月」』の地上担当、【西中島隊】のクレア・エルスハイマー(ea2884)、李風龍(ea5808)と機動力や魔法補助、地上と上空の連携と兼ね備えたチーム活動が組み合わさっても、その大本を探ろうとする動きは阻害されている。そうした経過が何者かが操っている証拠だろうが、彼らは目的地まで辿り着くことは叶わないようだ。なにしろ、邪魔をするアンデッドは、次々と出てくるのだから。
 けれども。
「誰かが辿り着けばいいことだ」
「伝令っ、後ろは構うな!」
 マルバスが戦闘が最も激しい地域に向かう姿を靄の中に目撃した、エキドナと疑われる呪文の詠唱が聞こえたなど。それ以外にも氷から解き放たれたデビルが飛び去った方向や、その姿から推測される能力といった事柄が、もはやチームも何も関係なく次々と連絡されていく。テレパシーを使う者を優先で守り、シフール伝令には同族の戦士が付き添い、追うアンデッドやデビルは隠れ潜んでいた偵察の者までもが全力で押し留める。
「向こうの偵察は潰さなければと思っていましたけれど」
「この辺が最前線っぽいけどね」
 オグマ・リゴネメティス(ec3793)とルカ・インテリジェンス(eb5195)の会話が大勢を示していたが、少数の隠密行動に特化した技能を持つ者達が、戦線の合間を抜けてアンデッドが湧く大元近くまで辿り着いていた。すでに上空にマルバスの姿は見えず、エキドナと思しきデビルも長居はしていなかったようだが、その辺りは他のところよりも冷気や靄が濃い。よくよく見ると、その靄に地面の下から黒いものが混じって、周囲の視界を遮ってもいた。
 見通しが悪いため、正確な位置を他に知らせたりするのはなかなか困難だったし、その辺りでは感覚が鈍る何かがあるのか、方向や距離を見誤る者も多く、個々人で詳細を掴むにはいたらなかった。地形は狩野幽路(ec4309)など絵画の心得がある者が皆と共に近付いた際や、後になって記憶で描き出したものに、皆が情報を寄せてかなり詳細な絵図面が出来たものの、不思議なことに万魔殿がありそうな位置だけは見出せなかったのである。
 代わりのように、アンデッドが湧きだしていた灰色の靄の掛かる場所は幾つか、大小取り混ぜて判明している。

(担当:龍河流)


●ディーテ城内の戦鬼
──ディーテ城内・突入部隊
「そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 絶叫をあげつつ、龍深城我斬(ea0031)は手にした新藤五国光で城壁付近に待機していた悪魔たちを次々と切り捨てていく。
 ついに突破したディーテ砦。
 城内に突入下冒険者たちは、次々と手近にいた悪魔たちに襲いかかる。
 だが、ムルキベルによって迷宮化されている城内はかなり複雑に入り組んでおり、目標であるムルキベル本体にたどり着くことはなかなか容易ではない。
「ま、またしても壁かよっ!!」
「この城内は一体どうなっているんだっ!!」
 そう叫んでいるのは瀬戸喪(ea0443)とレイジュ・カザミ(ea0448)の二人。
 突入したのはいいが、眼の前に鉄全壁が発生し、完全に道を断ち切られてしまっていた。
 後方からは巨大な金色に輝く獅子が走りこんできている。
──ガルルルルルルルルルルルルルルルルルル
 一定の間合を取りつつ、威嚇なのであろう咆哮を上げている。
「あれは見た事ないタイプだな‥‥勝てるか?」
「ヤってみない事にはねぇ‥‥」
 と呟きつつ、二人は同時に抜刀。
 そして一気に目の前の四肢に向かって間合を近づけていった!!
──ドシュッッッッッッッッッッッッッッッッツ
 その直後、二人が走っていった回廊の領壁から一斉に槍が突き出る。
 その不意打ちに、二人は全身をくまなく突き刺されてしまった!!
「ト、トラップだと?」
「悪魔の癖に‥‥色々と考えてきやがったか‥‥」
 そう吐き棄てるように告げつつ、二人は剃り場に崩れる。
 致命傷ではないものの、全身の至る所を突き刺され、大量の血が吹き出している。
──グオングオングオングオン
 と、壁が次々と大地の中に消えていく。
 そしてふときがつくと、二人は悪魔の軍勢の中央に取り残されていた。
「ここまでかよっ!!」
「一人だも御置く、道連れにしていくか‥‥」
 そう呟きつつ、二人はゆっくりと立上がる。
 そして武器を構えた刹那、頭上で待機していた悪魔たちが一斉に投げ落とした大量の槍ニ、全身を打ちぬかれて絶命した‥‥。

──その頃の別エリア
「ハアハアハアハア‥‥」
 大量の柱を破壊しつつ、前に進んでいたのはローラン・グリム(ea0602)。
 彼の突入した場所は巨大な回廊。
 内部には寝殿造りの柱が理路整然と並んでいた。
 その場所が要の一ヶ所であると感じ取ったローランは、対攻城戦用とも思える巨大なヒュージクレイモアで柱や壁の継ぎ目を香華き、次々と破壊していた。
 だが、破壊して少し立つと、その柱や壁が再生を始めていた為、ローランはただ疲労が蓄積してくるだけであった。
「な、なんなんだこの回廊は‥‥いくら破壊しても、どうしようもないじゃないかっ!!」
 そう叫びつつ、ローランは1度破壊の手を止めて、前に進むことにした。
 そしてしばらく進むと、前方ではタイタス・アローン(ea1141)とルーウィン・ルクレール(ea1364)、セシリア・カータ(ea1643)が複数の悪魔との戦闘を行なっていた。
「いくら潰しても数が減らないなんてッ!!」
 そう吐き棄てるように叫びつつ、タイタスが闇雲に武器を振るう。
 その近くではルーウィンがやはり複数の悪魔との戦闘に突入。一進一退の候補ヴを繰り返していた。
 そしてセシリアは‥‥。
「どうして貴方が‥‥」
 驚愕の表情でそう呟くセシリア。
 その前方には、隻眼のカオスニアンが立っている。
 その手には、巨大な鉄塊のような剣が握られている。
「ずっと待っていたぜぃ。さあ、あの刻の戦いの続きと洒落込もうぜ!!」
 そう叫びつつ、『ジャグ・バン』はセシリアに向かって一気に間合を詰めると、そのまま剣を
横一閃に振回す!!
──バギィィィィィィィィィィィィィィィィツ
 その一撃を手にした剣で受止めるが、その衝撃によりセシリアの左腕が砕けた!!
「ぐっ‥‥以前よりも強力な力‥‥一体どうして?」
「復讐さ。俺の中に燃える漆黒の炎が、俺に新たなる力を呼び起こしたのさ!!」
 そう叫びつつ、ブゥンブゥンと剣を振るうセシリア。
 情況はどうみてもセシリアの劣勢、さらに等前方からも敵が走ってくるのを確認すると、セシリアたちは1度後方へと撤退を余儀なくされてしまった。

(担当:久条巧)


●この想い 凍えるを知らず
「神様‥‥、私達に力を‥‥」
 『TN支援し隊』の鳳双樹(eb8121)は、氷結の地に挑もうとする仲間たちにオーラパワーをかけて回る。
 行く手を阻む魔力が少しでも薄らぐように祈りながら。
「太陽の国から来たわよ。寒さがなんだって言うの‥‥ってさむーい!!」
 コキュートスに向けて、祈りの踊りを披露しようとしていたアリーン・アグラム(ea8086)はがたがた身を震わせる。
「炎の指輪で大概防寒できそうだけど。なーんかこう薄ら寒いのよね」
 怪訝そうに『VizurrOsci』のレア・クラウス(eb8226)は周囲を見渡す。一面の氷という視覚効果もあるのだろうが、それで全てでも無さそうだ。
「冷気だけじゃない。瘴気、もまた身に堪えるのでしょうね」
 悴む手に息を吐きかけ、エヴァリィ・スゥ(ea8851)は妖精の竪琴を爪弾く。動くが、感覚がおかしいのは否めない。
 吹き込んでくる寒気もさる事ながら、漂う瘴気が心を圧する。じっとしていると外からも内からもじくじく命が削られる思いがする。
「こんな奥深くまで‥‥。生ける者が参る場所ではないでしょうに」
 地獄の底の、さらに底。
 本来ならば人が踏み込む筈の無い場所。
 そのさらに奥地に向けて、仲間たちは挑み始めた。
 彼らを、そして自身の大事な人が無事に帰ってくるよう、『淡雪守護隊』のラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)はそっと慈愛の神に加護を求む。
「そうですね。‥‥こんな争いが少しでも早く終わりますように。皆さまが一人でも多く無事に戻ってきますように」
 『【誠刻の武】』ラン・ウノハナ(ea1022)も、同じ思いで聖印を切る。
 始めから人外の地ではあったが、ここにきて変化が現れていた。
 目まぐるしく景色を変えるディーテ城砦とは対象に、全てが凍りついたコキュートス。
 いや、凍り付いていたというべきか。
 ぶ厚い氷は今や徐々に溶け出し、封じられていた魔物たちが姿を現し始めている。
「地獄の永久凍土が溶けたら、大変な事になるんだよね? ボク、昔聞いた事あるもん‥‥大魔王が復活しちゃうんでしょ?」
 凍りつく大地を闊歩する、蠢く影にレムリナ・レン(ec3080)は身を震わせる。聞いた話がどこまで正確かは分からない。が、それをはっきり証明されても困る。
「では! こんな所までやってきてくれた天子のおねーさんの為に、一曲、奉納しまっす!」
「‥‥‥‥天使では?」
「細かい事は言いっこ無し!」
 絡み付く寒さを振りほどくように、激しく体を動かすと無天焔威(ea0073)は蛇皮線を奏す。
「みんながあったかいお布団で眠れるといいなー。あったかいおいしいご飯食べられるといいなー。きれいなお空やお花みられるといいなー」
 身振り手振りをつけて歌いだすリースス・レーニス(ea5886)。
「凍った大地は、凍った心みたい。お日様もお花も知らないは‥‥可哀相、思うです」 
 各自の得意分野で頑張ること。
 そんなチーム方針に従い、『マジカル特戦隊』のラテリカ・ラートベル(ea1641)はファンタズムで群れ咲く花々を作り出す。
 揺らがない、触れられもしない虚構の花。故に華麗な花は、氷の大地にも艶やかに咲き誇る。
 花に囲まれて、仲間たちと共に身を寄せ歌う。
「デビルも魔物も気配無し。来ても臨機応変に対応させてもらうよ」
 『WG鉄人兵団』所属孫美星(eb3771)は天から周囲を見ていたが、よろめくように降りてくる。荷物がいささか重い様子。
「索敵は僕も行うよ。奏でるは葬送の調。祈りを籠めた音を‥‥七つの闇に、七つの光を‥‥ってね」
 七星剣を左手に握ったまま、右手の鉄笛を器用に操り、『【誠刻の武】京都隊』所所楽柳(eb2918)は笑う。
 奥地にまでついていく者もあれば、入り口に留まり無心に祈り続ける者もいる。
「皆の想いが瘴気を打ち払い、永久凍土の封印が保てる様に」
 寒さを凌げる場所で準備を整えると、戦いに赴いたコキュートスに向けてリル・リル(ea1585)は受け取った神楽鈴を鳴らすと、合わせて『楽団30人未満』の仲間たちがメロディーを奏で、舞う。
「ここまでくるとさすがに俺じゃ戦力にはならねーし。出来ることをしっかりやってくだけだ」
 死地に赴く仲間の背を思い出す。
 コキュートスを睨みつけながら、リフィーティア・レリス(ea4927)は口惜しそうに祈りの儀式を手伝う。
「太陽神アメン・ラーよ。九柱の神々よ。我らの祈り聞き届け、彼方にまで恩恵を広げたまえ」
 テティニス・ネト・アメン(ec0212)が同じ『陽光隊』のメンバーでもある義妹と揃い、舞を奉納する。

 凍て付く寒さにも負けず。
 熱い想いを捧げ、祈り、そして求める。
 
 流れてくる冷気、漂う瘴気。悪しき念を全て浄化せんと、彼らもまた強く祈り願う。

(担当:からた狐)


●迷宮の戦鬼
──ディーテ城内・多重構造迷宮
「一体ここは何処なんだ‥‥」
 カルロス・ポルザンパルク(ea2049)は迷宮の中でそう呟く。
 城内に突入し、幾つかの回廊を駆け抜けた直後、とつぜん周囲の壁が蠢き、迷宮を形成してしまった。
 戻るにも道が鳴く、カルロスたちはただひたすら先に進むしかなかった。
「この迷宮はどうしようもないか‥‥」
 オルステッド・ブライオン(ea2449)もまた、カルロスと共に突入したメンバー。
 途中で出現する悪魔たちを次々と切り捨てていったのはいいが、いつまでたっても数が一行に減らない為、疲労が限界に達しているようである。
「しかし本当に参りましたねぇ‥‥偵察部隊からの連絡も‥‥迷宮の中では届くことかなわず‥‥」
 ゆっくりと座りつつ、ルイス・マリスカル(ea3063)が呟く。
「まさか大地から迷宮が生み出されるとは、まったくもって予想外ですね‥‥まあ、1度体力を整えた方がいいですね」
 疲労困憊のオルステッドをいたわりつつ、その場に腰掛ける一行。
「ぢ野道地図もない情況では、先に進むしかないか‥‥」
 カルロスの言葉に、静かに食事をしつつ肯く二人であった。

──さらに別のエリア
「あーーーーーーーーーーーーーーーーっ。ここはどこなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 真紅に染まっている空を見上げつつ、ウィル・エイブル(ea3277)はそう叫ぶ。
 自分の両側には切り立った壁。
 走っている道の幅はわずか5フィート程度しかなく、しかも後方からは見た事のない悪魔がゆっくりと追いかけてきている。
 ただ、ひたすらにかけ抜けていく。
 やがて外が開けた場所にたどり着くが、そこは城外の荒野であった。
 そしてウィルが外に出た刹那、今まで走ってきた道が壁によって閉ざされ消滅。
「おやおや。ウィルさんも外に放り出されたのですか‥‥」
 と呟いているのは空漸司影華(ea4183)。
 彼女は城内で見かけたムルキベルの分身を追いかけているうちに、きがつくと城外へと誘導されてしまっていたらしい。
 他にもイグニス・ヴァリアント(ea4202)、柾木崇(ea6145)が外では待機している。
 柾木に至っては親友である成史桐宮(eb0743)と逸れてしまったらしい。
「そて、それじゃあ再び城内再挑戦といきましょうか‥‥」
 と呟いて、一行は再び城内へと続く門に向かって歩き出した。

(担当:久条巧)


●城の奥、鎮座する主
「見つけたよ」
 ディーテ城砦。そっと壁の向こうを覗いてシトラス・グリーン(eb0596)が呟いた。
「あれがムルキベルの本体‥‥いったい何をたくらんでいるのでしょうか」
 同じく顔を出して、神名田少太郎(ec4717)が首を傾げる。
 ディーテ城砦はムルキベルの分身という者達が多数出現していた。今もそれらと冒険者達の戦いは続いているはずである。
 ムルキベルは全ての分身の行動を把握しているのか――位置の把握や行動の指示を行っているのだろうか、そんな疑問が冒険者達の中でも上がっていた。だが数メートル先に見えるムルキベルの本体は、あくまで静かにその場にたたずんでいるように見えた。
「ムルキベル、諜報戦で忍びに勝てると思わない事だよ!」
 すっと朝海咲夜(eb9803)が飛び出し、びしっとムルキベルに指を突きつけた。他の冒険者達も続いてムルキベルの前に姿を現す。数メートルの距離を保って対峙した冒険者達に、ムルキベルは笑う代わりに細く炎を吐いた。
「‥‥笑わせる。ディーテ城砦内ならば、どこにいても我にわからぬものはないといいうのに‥‥」
 ディーテ城砦との一体化を果たしたムルキベルならば、自らの腕の中に飛び込んでくる者達の所在を知る事など容易いだろう。

 祈りし声は城砦に響き渡り♪
 祈りし想いは城砦に広がりつつあり♪
 何想う機巧の支配者よ♪
 貴兄を突き動かすのは何であろう♪
 言葉をもって語られし‥‥♪

 突如歌声が響いた。鳳凰院あすか(ec5863)がメロディーを唱えたのだ。緊迫した状況にそぐわないその明るい歌声は、ムルキベルを煽る。
「確かに祈りは‥‥砦に満ちている。だが我はあのお方の復活をお待ちしている」
「貴方もこの瘴気でこれ以上、地獄が冒されないよう祈る事はできませんか」
「‥‥‥何をおかしなことを」
 雀尾嵐淡(ec0843)の言葉に、ムルキベルはふ、と息を吐いて。
「瘴気が満ちているのは‥‥‥‥‥あのお方の復活が近いからだ」
「ムルキベル、貴方も迷っているのでは?」
 ぴくり、ムルキベルの肩が動いた気がした。御神楽澄華(ea6526)は彼の沈黙を迷いと判断したのだ。
「‥‥‥」
 対するムルキベルは、沈黙のままで。
「ムルキベルよ。いよいよ、天界も動いたぞえ。地獄の瘴気と天使の祈りは強まるばかりよのぅ‥‥ここが落ちれば、二つは大きくぶつかるのじゃろう?」
「天界がどこまで関与するかはわからん」
 アナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)に対してムルキベルはぼそりと言い放つ。
「このままだとマルバスさんみたく全部カオスに飲み込まれちゃう気がするのっ。そしたらルーさんもいなくなるんだよ。だから道を開けて。そうでない未来の為に」
 必死に訴えるのはカルル・ゲラー(eb3530)。その言葉にムルキベルは、興味深そうに顔を向けた。
「マルバスと同じように‥‥か。面白いことを言う。だが‥‥我も引くわけにはいかぬ。あの方と、復讐の為に‥‥」
「神への反逆も自らの意思ではなく、混沌に汚染された結果であるとすれば、情けないことこの上ないこと」
「‥‥‥なんだと? 我らの意思を侮辱するか」
 高慢に言い放ったエミリア・メルサール(ec0193)。だがムルキベルは深くため息をついて。
「人間などには理解できまい」
 くるり、身を翻して奥に帰ろうとしたムルキベルの背に、慌てて声を放ったのは雀尾 煉淡(ec0844)だ。
「貴方を倒すことはカオスという存在の思うつぼなのですか?」
「‥‥‥。‥‥ストラス、か?」
 その言葉は何処かで聞いたことがある。ムルキベルが思い出したのは、アトランティスで遊んでいた腹心ストラスだ。彼が言った言葉をこの男が何処かから聞き及んだのかもしれなかった。
「カオスと我々デビルは切っても切り離せぬ存在‥‥。この瘴気の上昇は我とて少々おかしいと思っている。境界の王の真意が気になるのも確かだ。だが‥‥あの方がお目覚めになれば、全ての謎も解けるはずだと思っている‥‥」
 ムルキベルは首だけ振り返って、そして一つ。
「瘴気の濃度を増すには、どうするのが一番良いか――それが解決の糸口の一つとなるやも知れぬ」
 謎かけなのか混乱に陥れるためなのかは解らないが、ムルキベルはそう言い、そしてそのまま城の奥へと消えて行った。

(担当:天音)


●これから一緒に殴りに行こうか。
「砕けろ、オラァッ!!」
 気合一閃、轟音と共にローラン・グリム(ea0602)のヒュージクレイモアが目の前を塞ぐ壁を爆砕する。
 これまで道を塞ぐ数々の壁やゴーレムを破壊してきた冒険者一行であったが、ここに来てある一つの変化に気付きつつあった。
「変化が‥‥少なくなっている‥‥?」
 最初に気付いたのは【誠刻の武】のアルディナル・カーレス(eb2658)。仲間が障害物を粉砕しながら進んでいく際にその後に起こる影響を注意深く観察していたアルディナル。明らかに以前よりも砦の変動回数が少なくなっていることに気付く。
「核となる壁を破壊したってことじゃないのか?」
 同じく【誠刻の武】所属の結城 友矩(ea2046)の言葉に一同は首を傾げる。確かにこの砦にはムルキベルの核となる何かが存在している。実際のところそれが何かという定まったものではなさそうなのだが、今までそれらしき壁を破壊した形跡はない。
「確か分身の中にはゴーレムもいたんだよね? なら‥‥他にも動く核があったんじゃないのかな‥‥?」
 そう言ってアイリーン・バートウィッスル(ec2500)はここ最近の砦に関する情報を思い出す。砦を攻略するために動いていた冒険者は三組。うち一つは先程上げたゴーレム。これが分身であり、恐らく核の一つである可能性は高いだろう。では残りの二組が対峙したという謎のデビルはどうか。魔物は言っていた―――ムルキベルに与えられた力である、と。
「‥‥嘘、アレも核だったの‥‥?」
 件の掃討に参加していた【勝利の暁】のセシリア・ティレット(eb4721)は驚きの余りぽかんとした表情を浮かべる。それもそのはず、彼女はあのデビルをインプか何かぐらいにしか思っていなかったのだ。実際にはそれ程弱いという相手ではなかったのだが、まさか砦攻略に重要な意味を持つとも考えられなかった。
「つまり‥‥ここから先は邪魔するモノは少なくなるわけか」
 腕を組んで話を聞いていたシュトレンク・ベゼールト(eb5339)はポツリと呟く。
 今までその法則性を掴むことすら難しかった砦の変化。それは今ムルキベルの核の消失により随分と大人しくなっている。加えて途中で出現するムルキベルの分身と思われるゴーレムやデビルの数も減ってきている。恐らくは最深部に近付いているというのに。
「‥‥どうせ破壊する。全力で行くだけ‥‥!」
「そりゃそうだっ!」
 空漸司 影華(ea4183)の呟きにも似た決意を受けてジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が気合を吐いた。同時に【誠刻の武】に所属する仲間たちが至る所の壁を破壊していく。今までならば修復にそれほど時間がかかることはなかったのだが、今は修復する気配すら見えない。
 どれほどの壁を壊し、どれほどの敵を葬って進んだだろうか。
 やがて奥の方から嫌に蒸し暑い熱気にも似た空気が流れ込んでくる。
「奥に何かいますね」
 【Ochain】の雨宮 零(ea9527)は呟きながらも腰に差した刀に手をかける。それに呼応するかのように同じ隊のシオン・アークライト(eb0882)も同様に獲物を構える。
「やっとお出ましかしらね」
「随分な時間がかかったな‥‥だが、これから先が最後になるんだろうな」
 シオンの言葉に苦笑を浮かべながら言う同じく【Ochain】の雪切 刀也(ea6228)。
「核が減って砦の変動が弱まっているのなら、そのうち分身の動きも鈍くなってくるでしょう。そこが狙い目、ですね」
 そう言う御神楽 澄華(ea6526)の言葉に一同は強く頷く。

 砦最深部到達―――

 この報が冒険者たちに届き、ムルキベルを討伐するための仲間が集まったときが最終決戦。
 長い長い砦攻略戦。
 それは今一つの大きな分岐点に差しかかろうとしていた。

(担当:鳴神焔)


●沈黙する城砦
 ディーテ城砦。その各所で、ムルキベルの分身と言われるゴーレムやデビルが猛威を振るい、またその力を秘めた核らしき物品や魔物が発見されている。その中で、

「先陣は万魔殿に届いたか? なら俺はディーテを鎮める!」

 美淵 雷(eb0270)はゆっくりと変容を続ける城砦を、共に陥落させんと志す仲間に声をかけながら進んでいた。ディーテの先へと駒を進める事を選んだ仲間が、背後を憂える事なく戦い抜けるよう、何としてもこの城砦を陥落させねばらならない。
 襲いかかる魔物に、【ベイリーフ】オイル・ツァーン(ea0018)が鞭を振るった。城砦ではゴーレム状の分身が数多く目撃されていると聞く。ならば対抗しうる能力を持つ仲間を守るのが先決だろう。
 とにもかくにも、ムルキベルの分身を探し出し、または核を探し出して破壊する事。ムルキベル自体がディーテ城砦と一体となってしまっている以上、それこそが地道だがもっとも堅実な攻撃方法だ。
 或いはディーテ城砦の壁などを破壊すれば、より直接のダメージが与えられるのでは? 静守 宗風(eb2585)を含む【誠刻の武】京都隊らはその線からも攻略を進めようと、隊長の指揮の元、ゆっくりと変容する城砦の要を見つけ出さんとし、要と思われる所には徹底的に攻撃を加えた。何が効くか判らないなら、もう、何でもやってみるしかないのだ。
 慎重に、1人にならぬよう歩を進める冒険者の耳に、ズゥーン、と重い音が響く。ハッ、と弾かれたように顔を上げ、【☆ メイ・ゴーレム隊】ネフリティス・イーペイロス(ec4440)は身構えた。もう幾度となく、この地響きに遭遇している。
 行く先の角から、ヌッ、と現れたのはストーンゴーレム。アトランティスのそれとは違い、操縦者なくとも魔力によって自ら動くのだと言う。
 遭遇に、【太陽騎士団】ミュール・マードリック(ea9285)が得物を構えた。

「まだ慌てる時間ではない。まずは相手を知ること。落ち着いて1本落していこう」

 言いながら放つスマッシュバーストEX。同時にルイス・マリスカル(ea3063)がバーストアタックで攻撃を仕掛けた。ビシッ、と鈍い音。だがすぐに壊れず、冒険者に向かって手足を振り回し、重い一撃を加えてくる。
 と、ゴーレムの足元を掬う暴風が吹き抜けた。【勝利の暁】デュラン・ハイアット(ea0042)ストームだ。元より冒険者の攻撃を受け、バランスを崩していた所の追い討ちに、グラリと揺れたゴーレムにすかさず止めが入る。
 もぐら叩き。誤解を恐れずに言えば、今の現状はまさに、そのような表現が相応しく。

「さすがに、ムルキベルは見えないみたいね‥‥と、向こうからまたデビルが来るわ!」

 超越ミラーオブトルースで辺りを警戒するステラ・デュナミス(eb2099)の言葉に、【拠点防衛隊】ブレイズ・アドミラル(eb9090)らが前衛で構えた。ゴーレム以外にも、ムルキベルの力を持つデビルは多い。
 シルヴィア・クロスロード(eb3671)もまた、新たに現れたゴーレムを相手に戦いを挑む。同じゴーレムに攻撃を仕掛けるのは、【春夏秋冬/前方戦闘班】ポーレット・シルファン(eb4539)。

「こちらです!」
「例え相手がムルキベルの分身であろうとも!」

 目ざとく周囲を見回し、ゴーレムを誘い込んだシルヴィアを援護し、遠距離から槍で攻撃するポーレットの気合も十分。さらに同じ隊のミナミナ(eb5200)がゴーレムを転がし、隙を作った所に他の仲間が叩き割って止めを刺す。
 もう、そうして幾つものゴーレムを破壊したのか。

「‥‥変化が、遅くなった?」
「止まった、ようにも思える」

 ふとその変化に気付き、攻撃の手を止めて呟いた妙道院 孔宣(ec5511)の言葉に、影から隙を見てはダメージを与えていた霧島 小夜(ea8703)が応えた。常に死角を求める彼女にもまた、その変化ははっきりと見て取れる。
 でしたら、と深螺 藤咲(ea8218)が目の前のストーンゴーレムに意識を集中した。

「この調子でどんどん倒していけば」
「ディーテの変化は止まるかも、ってことだな!」

 【世界騎士団】エセ・アンリィ(eb5757)が手近な壁を壊しながら吼える。飛び散る破片。これもまたムルキベルのダメージになるのだと信じる。
 その喧騒の中、柔らかく響くのは【春夏秋冬/魔法調査班】鳳凰院 あすか(ec5863)のメロディーだ。魔法の歌によっていまやディーテそのものと化したムルキベルに語りかけよう、と言うのだ。
 戦いの喧騒の中でも確かに響くその歌声を聴きながら、アナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)はそっと呟く。

「ムルキベルよ。いよいよ、天界も動いたぞえ」

 ディーテ城砦、変容し続けたその場所は今、ゆっくりとその動きを止めようとしている。

(担当:蓮華・水無月)


●天の祈り 地の底を照らす
 押さえるのはデビルだけではない。
 瘴気の活性も懸念事項の一つ。
「今は大丈夫だけど、この瘴気も身体によいとは到底思えないのよね」
 息を吸おうとしたエリザベート・ロッズ(eb3350)は、不快気に胸を押さえる。
「魔だけでなくカオスの力も弱体化できれば‥‥。悪の根源であるカオスよ、光により立ち去れ」
 勇貴美弥(eb4841)の名を御仏の名を呟く。
 祈りで押さえられるなら、全力でただ祈るだけだ。

「セーラ様のご加護があらん事を」
 『戦乙女隊』サクラ・フリューゲル(eb8317)は、救護所の防衛をしながら、賛美歌を響かせる。
「祈ってッ城砦の瘴気を減退しましょう。現金なことですが」
「それでも、戦えない私にできる唯一の手段だわ」
 ディーテ城砦に向けて祈るダン・バイン(eb4183)に、御紅蘭(eb4294)も恥ずかしげに願いを込める。
「ま、これでも坊主の端くれやし」
「大いなる父よ。私は祈ります。そしてなすべき事のために行動します」
 ニキ・ラージャンヌ(ea1956)が念仏を唱えれば、マリーナ・アルミランテ(ea8928)は天に座して誓う。
「天照大神よ。仲間が無事に迷宮を抜け、悪魔に打ち勝てるよう御加護を」
 蒼天と陽光を想いながら、沙渡深結(eb2849)が郷里の踊りを捧げられる。
「あのヒトが、無事に帰って来るように」
「せめて悪魔が妄執から解き放たれるように」
 御陰桜(eb4757)や茉莉花緋雨(eb3226)は一心に祈る。
 アリアン・アセト(ea4919)やアンチ・ノートン(ea7519)たちも仲間の無事を求めて想いを捧げる。
 特定の神や所作は無くとも、祈りは捧げられていく。

 コキュートスに向けても、多くの者たちが祈りを捧げている。
「おんりょ〜たいさん、おんりょ〜たいさん♪ ここでよびましょ、おんみょ〜じ♪」
 実に奇妙な歌と踊りを披露する東間宮古(eb2120)。
 伝えられる情勢、運ばれてくる重傷者。
 最前線がどんな様子か。現場にいなくても推測はつく。
「祈ってやるって! 悪魔ぶっ倒してやるって!」
「悪魔どもを抑えるために祈るぜや」
 シャリオラ・ハイアット(eb5076)は怒りを敵にぶつけ、鬼切七十郎(eb3773)も一層念を込める。
「にょ〜。悪魔にも救いがあって欲しいにょじゃ〜」
 悪魔に対する想いも様々。鳳令明(eb3759)は憐れむように氷の大地を見つめる。
 彼らは暴虐な支配者か、それとも憐れな犠牲者か。
 判断するには、まだ分からない事が多すぎる。
「‥‥祈りましょう。すべてがカオスに飲みこまれないために」
 ただ沈痛な面持ちで、フレイ・フォーゲル(eb3227)が告げる。

 賑やかな儀式。厳かな祈念。
 地獄の至る所で。それぞれの所作で。
 戦場の最中であっても、人は求め信じ願う事を止めない。
 自分たちを守ってくれる大いなる存在。そして、もたらされる未来を疑わない。
 純粋に、繰り返されるは言葉無き声。

 それが現れたのは、一体どの時点だったのか。
「光?」
 祈りの歌を止めて、リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は空を見上げる。
 重く心に圧し掛かってくる不幸の空。陰鬱な天を掻き消すように光が降ってくる。
「何が‥‥、!?」
 思わず踊りを忘れたシャリン・シャラン(eb3232)だったが、気付いてコキュートスを――そのさらに奥へと目を向ける。
 彼女だけでなく、誰もが気付いた。
 威圧的なまでに重厚な存在感を放っていた万魔殿――パンデモニウム。その取り巻く瘴気が薄らぐ様を。

――捧げられた祈り‥‥想い
   それらを 力と為し。邪悪を祓う‥‥

 厳かな声が響く。それは天から聞こえてくるようでもあり、胸の内から響くようでもあった。
   
――   だが  、今は   限      か  ‥‥
          我らは     ‥‥  遠く    ‥‥。

 しかし、声はやがて遠のき、薄れていく。
「待って、もう少しお話を!」
 儀式の手を止めて、御門魔諭羅(eb1915)は天に請うが、返事は最早無かった。
 気付けば、また気分を塞ぐ空が広がるのみ。
 夢でも見た気分だ。実際頬をつねったりする者もいた。
 だが、夢とも思えない。
 パンデモニウムの瘴気は、確かに薄らいでる。
「ですが、完全に祓われてはいませんね。まだまだこれから、って所ですか」
 確認の後に、気を引き締めるとアニエス・ジュイエ(eb7954)はメロディーを発動し、歌の力で祓いを試みる。
「私達も、儀式を続けさせてもらいましょうか」
 不気味な笑みを漏らすと、忌野貞子(eb3114)はチームメイトと共に低く歌い上げる。
「‥‥主よ。わたくしの祈りがせめてもの皆の力とならんことを」
 光の消えた空を見つめ、コンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(ec1983)は聖印を切った。

 そして、祈りは続く。
 いつまでも。どこまでも。

(担当:からた狐)


●地獄に微笑む皇帝
「これは、一体‥‥?」
 仲間たちの支援を受けてコキュートスを進む冒険者たちの間から、突然疑念の声が上がる。
 永劫に続くかと思われる青白き氷原、その向こうにかすんで見える黒き万魔殿を見たものたちが、突然進めなくなったのだ。
 その周辺にはまるで氷から漂い落ちる冷気のようにぬめった瘴気が漂い、あるいは黒くどろりとした形をもって、その場に淀んでいた。
 コキュートスに封じられていた瘴気は今まさに、万魔殿を守る見えぬ壁となって立ちはだかっていた。
「よく、ここまでたどり着いたものだ、小さくも、雄々しきものたちよ」
 ふと気だるげな、それでいて威厳のある声が周囲に響き渡る。
 その声に辺りを見回した冒険者たちは、目の前にそびえる万魔殿の表面全てが揺らめき、歪み、そして一個の幻影を映し出しているのに気づいた。
 それは、荘厳な玉座と昏い光に包まれる、威厳あふれる男性の姿。だが彼の持つ浅黒い肌は彼が神の白に祝福されている存在ではなく、その身を縛る解けつつある鎖は、彼が罪人であることを示していた。
「よくぞ来た、我が前に。我はルシファー。偉大なる地獄の支配者にして、真に世界を手にする神」
 そう歌うように声を囁くルシファーの体を縛る鎖が、まとわりついた瘴気に腐食されたのか、音もなくさらりと崩れ去る。
「‥‥かつて天を落とさんとした我が力が、今この身に満ち満ちていく。全てを我が手にし、我が望みのままに作り変える日も近い‥‥」
 軽く手を握りつつ、そして地獄に君臨する皇帝は静かに、たおやかとも言える笑みを浮かべた。
「我を止めることはもうできぬ。この地獄に我が力が満ちるとき‥‥それが、神の造りし全てが滅び、我の世界が新しく創生されるときとなるのだ」
 その静かだが力ある笑みと言葉に、冒険者たちはただ、見上げることしかできなかった。

(担当:高石英務)