<第7開戦状況>
第7回の戦闘では、バアルは上級デビルのコマを失ったのか、全軍を自分で指揮しつつ行軍してくるものと思われます。
バアル軍の復活を食い止めるべく、改めて魔力を込めての儀式が必要とされています。今回は他の上級デビルが本体の魔力を解放していないことから、儀式の全ての魔力がバアルの「赤い本」を止めるために用いられるでしょう。 パズスはバアルに積極的に協力する様子はなく、救護関係に興味をもち散発的な攻撃を仕掛けるようです。
マルバスは戦場全体の混乱を望んでいるらしく、どこに現れるかの傾向は予測されていません。
また、ディーテ城砦側では様子を伺っていたエキドナやムルキベルの行動が始まるとの推測もあり、場合によっては挟撃の可能性を含んでいます。
第7回行動入力時戦力状況
参加人数:854人
※状況
赤=危険、黄=注意
前線 | 本陣 | 防衛線 | 合計 | バアル軍は荒野に布陣!
| ||||||||
白兵戦 | 7.8% | 4.9% | 5% | 17.7% | ||||||||
防衛 | 4.2% | 8% | 3% | 15.3% | ||||||||
偵察・伝令 | 7.2% | 4.6% | 4% | 16% | ||||||||
祈り・儀式 | 3.9% | 2.5% | 3.3% | 9.9% | ||||||||
魔法戦 | 4.8% | 3% | 2.4% | 10.3% | ||||||||
救護 | 3.1% | 5.7% | 2.3% | 11.2% | ||||||||
調査 | 0.7% | 1% | 1.2% | 3% | ||||||||
敵将攻撃 | 9.8% | 3.1% | 3.2% | 16.2% | ||||||||
合計 | 41.8% | 33.2% | 24.9% | 100% |
第7回援護行動結果(5月26日〜5月31日)
参加人数:915人
救護 | 125.1% | 260人 | 救護体制復帰 |
偵察 | 119.2% | 351人 | 敵陣形把握 |
調査 | 130.7% | 282人 | 敵状況把握 |
武器手入れ | 111.6% | 192人 | |
炊き出し・物資確保 | 129.7% | 245人 | 物資確保 |
陣地確保 | 103.6% | 242人 | |
橋頭堡作成 | 97.1% | 249人 | |
援護交渉 | 122.9% | 267人 | 交渉進行中 |
ディーテ探索 | 99.7% | 375人 | |
祈り・儀式 | 181.4% | 290人 | 魔力減退 |
<第7回戦況>
長きに渡るバアル軍の攻勢は、第7回の戦闘により終結。敵将・大元帥バアルを討ち取り敵本軍を敗走させました。
また戦場の各所でも上級デビルに勝利し、撤退させることに成功しています。
戦場全体で行われた祈りの力は、確実にバアルの「赤い本」の魔力を減退させることに成功。効果が出るまでの間はデビルの軍勢に攻め込まれるものの、赤い本の魔力を減退させてからは反撃に転じ、退却ではなく戦闘を選択したバアルを倒すことに成功しました。
防衛線やその付近の救護所においては、援護活動での復旧が功を奏し、これまで通りに前線を支えました。パズス・マルバスの襲来に対しても警戒態勢がとられた結果、襲撃を行なったパズスに手傷を負わせたものの、パズスを撤退させるに留まりました。
ディーテ城砦の外側では、エキドナが本体の力としてアンデッドを多数召喚し襲撃を仕掛けました。しかし祈りの力と魔力の干渉によりこれらの魔物の力は減退しており、手痛い傷を負わされたエキドナは撤退しています。
ディーテ城砦内部では変わらず、探索の中ムルキベルとの戦いが繰り広げられました。ですが戦いの途中、ムルキベルはなにか別のことに気づき、城砦の変化に意識を集中。倒すことは惜しくもできませんでした。
なお高まる地獄の瘴気と、戦闘の終結に伴い、一時の休息を交え、神々の使いたる天使が現れ、啓示をもたらしています。
>>>「天使の祈り」へ
結果概略
成功結果 | 冒険者の状況 |
| ||||||||
敵本陣(バアル軍) | ◎ | バアル撃破、残存は撤退 | ||||||||
防衛線 | ○ | 防衛成功 | ||||||||
ディーテ城砦 | ○ | エキドナ撃退 |
■第7回報告書
●見渡す限り戦場。
様々な思惑が交錯する地獄の戦場。
バアル軍のデビル無限地獄に対抗するために冒険者たちは各地で祈りの儀式を開始する。
その祈りの効果でバアルの魔力が弱まることは既に実証済みだ。
そのことはバアル自身も把握しているようで、敵の狙いもまた祈りを止めることに力を入れ始めたようにも思う。
「ここが崩れたら元も子もない、皆今が踏ん張りどころだ!」
仲間たちに檄を飛ばすのは東儀 綺羅(ea1224)。
手にした槍を振り回して敵の足を止めることに専念する綺羅の後ろから、リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)が氷の剣で止めを刺していく。
「ここの護りは私たちが引き受けましょう。邪魔はさせませんっ」
決意を胸に振り翳された剣は華麗な乱舞を舞って自陣内の敵を死に追いやっていく。
自陣に近ければ近いほど祈りの効果は届いているようで、バアル軍の強化も弱まっているようだ。
「ここは‥‥通さない‥‥の」
呟くように―――しかし強い意志で言葉を紡ぐラルフィリア・ラドリィ(eb5357)。
正面から迫り来る敵にローリンググラビティを放ってはその位置をコマめに変えていく。
敵の攻撃が激しくなれば当然負傷者も増える。
自陣と戦場を往復する者たちも休む間もなく動き回る。
「本陣までもうすぐだから‥‥頑張って‥‥!」
隣で呻き声をあげて苦しむ仲間に声を掛けながら【ウィル双翼騎士団】の元 馬祖(ec4154)は仲間の手をぎゅっと握る。この時ほど魔法の絨毯の速度を恨めしく思ったことはなかったかもしれない。
「早く‥‥早く‥‥っ!」
見えてきた本陣。
すぐさま近くの仲間の元へと重傷者を運び込む。
「お願いっ」
「任せてください!」
「さぁ早くこちらへ!」
馬祖の悲痛にも似た懇願に応えたのは【TN守護隊】のリュシエンナ・シュスト(ec5115)とラルフェン・シュスト(ec3546)の兄妹。
「この患者は‥‥すぐ重傷班のところへ!」
赤い祈紐を巻きつけて同隊のアイリリー・カランティエ(ec2876)が声を荒げる。
と、そこへ一人の兵士が近づいてきた。
「す、すまない! 敵にやられた、治療を‥‥っ!」
近寄ろうとしたアイリリーを【ベイリーフ】のクリステル・シャルダン(eb3862)が押しとどめる。
「‥‥?」
「ねぇ、あなた合言葉は?」
「‥‥は?」
クリステルの言葉にきょとんとした表情を浮かべる兵士。
(ね、ねぇ‥‥そんなのあったの?)
(馬鹿ね、あの兵士には祈紐がついてないでしょ。だから多分‥‥)
依然頭を抱えて悩む兵士を見ながら小声で話す二人。
外見は仲間のようでも中身は―――実際に今までも同じような手口で入り込もうとしたデビルが存在した。そしてそれを教訓としないほど人間は愚かではない。
「んぐぐ‥‥えーい! こうなったらまとめて葬って‥‥」
「させないっ!」
兵士の姿がぐにゃりと歪んだ瞬間、後ろから切り込んできた綺羅とリュドミラの刃に両断され塵へと姿を変えていく。
「大丈夫!?」
振り返りながら問い掛けるリュドミラに頷きを返すクリステル。
「はぁ‥‥はぁ‥‥敵も本腰入れてきてるね」
槍先をぶんっと振って息を整える綺羅。
「こちら側はまだマシなのかもしれないわ‥‥熱病の被害も比較的出ていないし」
そう言ってクリステルは自陣の方に視線を向けた。
別拠点で発生する熱病、【ジャパン医療局】の面々がその対策を練っている。
「いつまで続くのかな‥‥」
そんなアイリリーの呟きに応える者は誰もいなかった―――
(担当:鳴神焔)
●防衛ラインの戦鬼
──拠点手前・最終防衛ライン
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
絶叫をあげつつ、伊達和正(ea2388)は手にした降魔刀で柵に近付く悪魔たちを次々と切り捨てていく。
先日より、この柵を突破しようと襲いかかってくる悪魔たちの力が上がっているかのようにかんじる。
そのせいであろうか、ここ数日は悪魔たちが攻勢に転じ、柵の一部は幾度となく突破されている。
さらにそこに目掛けて悪魔たちが大挙してくるため、今までいじょうの防衛力を必要とされていた。
伊達の担当しているエリアもまた、悪魔たちの力が強くなっている。
司令官クラスの悪魔による指揮、作戦を立てての緻密な連携、地上と空中の2ヶ所からくるどう事項撃と、悪魔たちの侵攻を止める手だてが失われつつあった。
「ちっ‥‥これだけ数で押されると、どうしようもないな‥‥」
各個撃破の体勢をとるイェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)がそう呟く。
一気に敵を殲滅できる『広範囲攻撃』が仕掛けられればしめたものであるが、今の彼にはそのような技量はない。
やがて彼のウチ漏らした悪魔達が、次々と策を破壊、内部へと侵入していく。
「しまった!! 迎撃を頼む!!」
後方に向かってそう叫ぶアーヴァイン。
と、その言葉に呼応したのか、朱蘭華(ea8806)がニィツと後方で笑いつつ構えを取る。
「黄式猛虎拳奥義・猛虎跳撃っ・応用の3可変6っ!!」
そう叫ぶと、蘭華の近くに巨大な気でつくられた虎が姿を表わす!!
それは静かに低い体勢を取ると、襲い来る悪魔をじっとにらみつける!!
「爆裂っ!!」
拳を高く突き出して叫ぶ蘭華。
その刹那、巨大な気の虎は爆発し、大量の小さい気虎を生み出す。
それは目の前の突破してきた悪魔や蘭華に向かって無差別に襲いかかってきた!!
「ち、ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
絶叫をあげつつ、無数の気虎に噛付かれる蘭華。
だが、その蘭華の攻撃により、柵を突破してきた悪魔たちもその数を半分まで減らされていた。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォツ
さらに、気虎が討ち逃した悪魔に向かって、もうひとりの冒険者が静かに構えを取り、そして一撃で吹き飛ばした!!
「まったく‥‥使えない技を‥‥」
そう呟きつつ、ヘヴィ・ヴァレン(eb3511)は手にしたメダルロットを大地に突きたてる!!
「つ、使えないんじゃなくて、制御できないのよっ!!」
同じだ同じ。
そんなやり取りが聞こえてくるさ中、別のエリアはまさに激戦区になっている。
(担当:久条巧)
●精霊と共に在る力
有象無象の災厄に囲まれながらも冒険者達は決して退かない。
例え一歩ずつの歩みでしかなくても前進し続けるのだという気持ち一つで戦い続ける。
「うー、カオスとデビルの違いをもう一度整理ね!」
そんな中で爪を噛みながら早口に言い放った神無月明夜(ea2577)は厳しい目線で辺りを見渡す。
「何が違って何が同じなのか、はっきりさせないと間違った攻撃しかねないわ」
姿形はまるきり同じ、世界を害する力も同じ、しかし冒険者達がこれを見極める術はあまりにも乏しい。
「アルテイラ、貴方にはその違いが判りますか? 出来ればマルバスが何者なのか‥‥その弱点などが判れば教えて欲しいのですが」
陽小明(ec3096)は傍らに寄り添う精霊アルテイラに声を掛けるが、当の彼女は小明の問い掛けに応えられる状態ではなかった。カオスが、デビルか、その双方か。邪気の中でひどく怯えてしまっていた。
そんな精霊の姿に。
「ふふふ‥‥美しい女性の怯えた姿というのもなかなか魅惑的ですが」
烏哭蓮(ec0312)の妖しい微笑と共に呟かれる言葉は更にアルテイラを怯えさせたが、反して哭蓮の眼力は妙な点に気付いていた。
「妙ですね‥‥バアルの用いるこの力。カオスと非常によく似通っていると思いませんか?」
「え‥‥?」
彼の言葉に、共に調査を行なっていた面々は驚いたように顔を上げ、改めて周囲を注視した。
皆が幸せにあれる世界に。
天へと向かう魂に安らぎのあらん事を。
「‥‥夫と娘と、希望のある明日のために‥‥」
麻津名ゆかり(eb3770)が自分のお腹に手をあて、心に愛する人を思い浮かべ祈る傍らでは、最愛の人が一分一秒でも早く戻って来られる様に――その時には笑顔で出迎えてあげられるようにと舞踊るアゲハ・キサラギ(ea1011)の姿があった。
彼女を筆頭とする舞姫達に、シェアト・レフロージュ(ea3869)らが添える楽の音と、歌声。
「祈りの心はしふごころアル☆」
「仲間の祈りの邪魔はさせませんっ」
孫美星(eb3771)や紫堂紅々乃(ec0052)、ヴィタリー・チャイカ(ec5023)らの援護を受けながら儀式は続く。
『君と僕とを繋ぐ絆
潤みし空の虹とならん
君と僕とを繋ぐ色が
澄みし地への光とならん』
白翼寺花綾(eb4021)の澄んだ歌声。
闇さえも優しいものに変えてしまう純粋な祈り。
冒険者達が同伴し集まっていた精霊達が――微笑んだ。
彼らは祈る。
彼女達は願う。
仲間の無事を。
バアルの力の減退を。
同時刻、バアル軍と戦闘の最中にあった冒険者達の間を掻い潜り、身体一つで情報を運ぶ【しふしふ同盟】、巨鳥の力を借り上空から偵察を行なう【TN口伝部】の面々は急ぎ仲間達へ伝えるべき言葉を口々に放つ。
――今が好機!
バアル軍はその名を持つ敵将の魔力によって強化。赤い霧に覆われ、幾ら倒そうとも切りの無い無限螺旋を描いていたが、今、その力は確実に弱まりつつあった。
「祈りの儀式が効いているのかねぇ」
「本陣はこの先だ! 進軍!」
キルゼフル(eb5778)が岩陰に身を隠しながら移動する頭上、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)がドラゴンに騎乗した姿で皆を誘導する。
冒険者達と本陣が激突したのは、それから間もなくのことだった。
(担当:月原みなみ)
●挟撃阻止
城砦と一体化したムルキベル。さらにゲヘナの丘占拠は妨害したものの、エキドナも近くで屯している。
その彼らが動く気配を見せ始めている。本格的に動き出せば挟撃を許してしまう。それは避けたい。
「恐れる事はありません! 我らの想いと力を合わせ対処すれば、必ずや未来は我らに微笑みます!」
「「「「「応!!!」」」」」
魔法の軍旗・ドラゴンバナーを掲げ、鼓舞するのはマリーティエル・ブラウニャン(ea7820)。
勇ましきその姿に、同じ『春夏秋冬/前方戦闘班』のチームメンバーは勿論の事、城砦方面に向かおうとする他の仲間たちも一様に声を上げた。
負ける事は許されない。いや、負けない。その決意を新たにして、城砦からの敵を阻みにかかる。
冒険者側の動きを察知したのか、それとも単に準備が整ったからか。
城砦側からの歓迎も熱くなっている。
もっとも、受け入れれば代わりに何を取られるやら。割りに合わない歓迎など真っ平御免だ。
「さあ、ディーテ城砦攻略ですわね」
「攻略というか、今回はとにかくバアルを落とす方向みたいだし、こっちには二正面作戦を展開する余裕はなし。ディーテは動かないよう牽制が一番‥‥だけど、そんな悠長言ってられないわね」
ルゥナー・ニエーバ(ea8846)がロングソード・クリスタルマスターを抜き放ち、レジストデビルを唱えれば、ステラ・デュナミス(eb2099)は鼻を白ませ城砦に向けて魔法詠唱の構えを見せる。
不気味に変化を続けるディテー城砦。
その閉じていた部分の天井が開くと中から溢れ出てくる黒い翼。壁に開いた扉からも無数のデビルが姿を見せる。
「様子見‥‥なんて甘い事させてくれませんね。殺風景な所ですし、悪魔といえども美しい方が出てこられれば眼福なのですが」
強弓・十人張に矢を番えるルーフィン・ルクセンベール(eb5668)ではあるが、狙う相手はどうみてもあまり風体よろしく無い異形が多い。残念だ。
見る間に、群れ為し襲いくる彼らに向けて、まずは魔法の砲火が降り注ぐ。
「奇襲には気をつけて。空を飛ぶ敵は優先的に狙いますわよ」
『春夏秋冬/魔法調査班』は魔法で援護。こちらは調査は二の次。フォルテ・ミルキィ(ea8933)が唱えるサンレーザーが敵を焼く。
無論、チームだけが頑張っている訳でも無い。
「接近できるよう、道を作るわ! 通させてもらうわよ」
マティア・ブラックウェル(ec0866)は親しい二人と組み、溢れ出るデビルやアンデッドたちへ同時に攻撃を叩き込む。
「よっしゃああああ! まだまだいけるで! 負けへんよ〜!!」
水魔法を撃ちつけるのはシン・オオサカ(ea3562)。アイスコフィンで敵を固めれば、氷の棺は障害物となりデビルも阻む。
もっともそれは敵も承知。即座に火を吹き溶かそうとするデビルを見つけ、ライカ・カザミ(ea1168)はムーンアローで射抜く。
「イッパツ打たれたら二発返す、ミーの倍返し乱舞を受けてみよっ! オラオラオラオラオラオらぁ!!!!!!!!」
何か別の自分を出しそうな勢いで、河童ナイトの魁豪瞬(eb5655)は両手のヌァザの銀の腕で敵の攻撃が来るやの返礼を叩き込んでいく。
連携を見せる冒険者たちに対し、デビル側は及ばない。とはいえ、油断は禁物。
城砦の床が開き、上がって来たのは大量の死人。行く手に開いていた道は圧縮される。
阻む手は幾らでもあると言いたげだ。
「壁が閉ざされれば開けるまで‥‥ですが、その前に、上! その隅です!!」
「承知!!」
バイブレーションセンサーで周囲を探ったシシリー・カンターネル(eb8686)は不審な振動を察知。
伏兵に用心して上空を張っていた龍深城我斬(ea0031)は示された天井の闇に隠れていたデビルを素早く見つけると、ソニックブームを放った。
そうして、討たれて落ちてきたデビルは人に似た姿をしている。
「‥‥人型はややこしいな。折紐を活用して交換出来れば、デビルを見破る印にもなるな」
ビターファーで閉ざされた壁を打ち砕くソル・アレニオス(eb7575)。
そうやって開けた先に現れるのが敵か味方か。一瞬の判断が命に関わる。
「しかし、アンデッドが妙に多いの。怪我人かの判断もしづらくて困るわい」
『☆ メイ・ゴーレム隊』はチャリオットで敵を蹴散らす傍ら、怪我人の搬送も行っている。しかし、倒れていると思い駆けつけても単なるズゥンビだったり。
まぁ、それはそれで倒せば済むが。救援の手が遅れるのも事実。面倒そうに顔を顰めた真崎翔月(eb3742)に、どうやらエキドナが大量の死人を生み出し、城砦に仕掛けているようだと話が聞こえる。
「ただでさえ厳しい戦況。エキドナに挟撃などさせるわけにはいかない。ここで必ず討ち取ってくれる」
「地下に回るならアースダイブかけますよ。なるべく多くの者が敵将に辿り着いて欲しいものです」
偉そうにも思えるサルタース・エニグマ(eb4873)だが、その言葉には真実願いが込められていた。
(担当:からた狐)
●壁一枚向こうの遠い場所
ディーテ城砦。もはやデビル感知の魔法もアイテムも役に立たないほどの反応を返す、ムルキベルの居城とも、本体そのものとも言える中を、冒険者の一団が駆けていた。
「えと‥‥あの‥‥はわわわっ!!」
あまり広くない通路を通り、他の仲間に合流するはずだったルルー・コアントロー(ea5487)は、目の前に現われたのがズゥンビでたたらを踏んだ。どうやらエキドナの能力らしいが、城砦の各所にアンデッドが入り込んでいるのだ。
「ここは踏ん張りどころだ。皆、気合いを入れろ!」
『強襲遊撃団「黎明」』の壬生天矢(ea0841)が、そうしたアンデッドを突き、振り払いつつ、居場所を示すように大声を上げた。
「この先が変わったしふよ〜」
それに引かれた訳でもないが、アニス・リカール(ea2052)が乱立する建物の合間を縫って、周辺状況を知らせてくれる。『TN偵察隊』の羽鳥助(ea8078)が他の戦場に比べてまだ状況が静まっていると評した場所も、一度どこかが変化すると地理が不明な危険な場所に変じてしまう。彼らから『TN口伝部』や『春夏秋冬/偵察伝令班』のキャル・パル(ea1560)、『しふしふ同盟』の揚白燕(eb5610)、スチカ・スピカ(ea8654)などが状況を知らせてもらい、また各所に知らせて回るが、正しい情報を知らせるのは常に時間との戦いだ。
なにより。
「紛らわしすぎますっ」
祈紐を身につけたシェリナ・グロンツ(ea7490)のクレイモアが、ぶんと唸った。二つに斬られたのは、手指の先が腐り落ちたズゥンビだ。着ている物がしっかりしていると、後ろ姿は怪我人に見えなくもない。
「いったいもう何が起きてんのかしら、やんなっちゃう」
「死者が仲間かどうか見極めるのが大変なら、誰も死なないように警戒しないとな」
偵察や祈りの儀式を行っている人々の防衛を自らに任じているネフィリム・フィルス(eb3503)の背後に庇われて、アリーン・アグラム(ea8086)が思わず愚痴を漏らしている。敵か味方か判別がしにくい状況は予想以上に情報を乱し、ややもすると移動しながら救護を行っている人々がアンデッドに襲われる被害が出る。
そしてなにより、運ぶべき負傷者を抱えたままでは越えられないような数のアンデッドを前にした時の対処は、その集団によっては命取りともなりかねなかった。
壁一枚向こう側に救護所があって、だがそこに通じる道は大回りに迂回している。【ジャパン医療局】のジーン・インパルス(ea7578)達が連れている怪我人には意識がない者も複数いて、目の前に壁をなしているアンデッド達をかわして走ることなどまず無理だ。
純哉くう(eb5248)がハープボウの近距離射撃で、明王院浄炎(eb2373)のガラントスピアで足を止めるにも数の多い敵を前に、武技を持っているものはすでに構え、一部は攻撃に加わっていたが、壁の上から降ってきた白井鈴(ea4026)の声に攻撃とは違う行動を取った。
「壁を壊すから、離れて!」
大抵は負傷者と共に反対の壁際や下がれるだけ後方に、人や場所によっては意識のない仲間を覆い被さって破片から庇うようにしたのとほぼ同時に、備前響耶(eb3824)のバーストによって壊れた壁の破片が皆のほうに飛んで来た。当人は床を壊すつもりでいたのだが、仲間が危ないとなれば壁も壊す。
そこの穴から、先に負傷者が待ち構えていた救護所の人々に引き渡される。
偵察を担う者は、そこから更に安全な場所を求めて四方に散り、護衛を任ずる者は空いた穴からも上空からも敵は通すまじと戦線に戻っていった。
未だ、城砦内のあちらこちらで戦いの音が止むことはない。
(担当:龍河流)
●満は祈り、城主の懸念
ディーテ城砦でも祈りの儀式は行われていた。
【春夏秋冬/魔法調査班】は集まり、他の皆との調和を考えて音楽を奏で、踊る。
オリタルオ・リシア(ea0679)の奏でる竪琴の音色と歌声、サーリィ・シャーウット(ea9108)の奏でる三味線。未来への希望という祈りを込めてアルテリア・リシア(ea0665)や鏡桃菜(eb4540)は踊り続ける。
「祈りの儀式が実際に効果出してるんだしやれることはやっておかないとな。人の祈りの力をバカにすんじゃねーぞ!」
言葉は悪いが意気込みは十分感じられる。リフィーティア・レリス(ea4927)も祈りの体勢に入った。
「大いなる父よ。我らに正しき道をお示しください」
「憐れな悪魔を救い賜え、汚れなき魂を持つ者よ、ここに集え。迷える魂よ、光溢れる世界へと還れ」
マリーナ・アルミランテ(ea8928)の祈りに、室川風太(eb3283)の祈りが重なる。
バアルの霧を弱めるために、ディーテ砦の瘴気が溢れ出ないように、ムルキベルの魔力を弱体化させるために――それぞれ目的は違うが、祈りは祈り。早坂真央(eb5637)、鳳令明(eb3759)、室川雅水(eb3690)が想いをこめる。
雀尾嵐淡(ec0843)による達人レベルのホーリーフィールドで守られた祈りの場では、フィン・リル(ea9164)の舞やアルフィエーラ・レーヴェンフルス(ec1358)の歌が祈りを込めて施されている。
「‥‥祈りの力を皆に‥‥!」
鳳双樹(eb8121)の強き想いが他の者達の想いを先導する。
――祈りが、満ちていく――‥‥。
「祈りの力、か」
一体化を果たした事でさらに己のテリトリーとなったディーテ城砦。ムルキベルはその場で行われている儀式を感じ取っていた。
「ムルキベル様‥‥」
「ストラスか」
ムルキベルの背後に一羽の梟が現れた。アトランティスに出没している腹心、ストラスの変身した姿だ。
「ヒトとは、実に興味深いものですね」
「‥‥そうだな」
ムルキベルは耳を澄ませる。城砦の各所から、ムルキベルに対する言葉がいくつも聞こえてきていた。
「ぼくは、キミの心を癒したいから、キミやキミの王様にぼくたちヒトの成長した姿をみてもらいたいんだ」
負の連鎖を止めたい。争いの果てには破滅しかないから――カルル・ゲラー(eb3530)は届くと信じて、声を張り上げる。
「ムルキベル‥‥己を賭して築くは何ぞ? だが、今。人は、乱され様が。穢され様が。立ち上がり前へ進んでいくぞ。邪心だけでなく、自心で」
アナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)は静かに問いかける。
「ムルキベルよ、お前はいつまでそうやって静観しているのだ。地球の技工士として僕はお前に興味がある、反応が見たい」
南雲康一(eb8704)は同じ技工士としてムルキベルに興味があるようだ。
「‥‥好きで静観なさっているわけではないと、教えられればよろしいのですが」
「無駄だろう‥‥ヒトにとっては凶報だ」
「この瘴気の増し具合は異常ですからね‥‥」
地獄では異様に瘴気が増している。ムルキベルはそれを感じ取っていた。
「ルシファー様が力を取り戻されているだけならよいのだが‥‥それにしても、この上昇は異常に思える」
「そろそろ私も戻った方がよさそうですね‥‥」
「そうだな。今は何とか抑えておくが‥‥そろそろ好奇心を満たすだけでは済まなくなって来ただろう?」
「ヒトの想いとは、面白いのですけれどね」
クックッとストラスは笑ったが、そろそろ地獄での戦いも看過できなくなってきたのは事実。ムルキベルはヒトの想いの力と瘴気の上昇、どちらも気にかけていた。
「遊びはそろそろ終わりにします。いま少しお傍を離れます事をお許しください」
「‥‥」
無言は肯定の証。ストラスの気配が消えるのを、ムルキベルは祈り、そして訴えかける人々の声に耳を傾けながら感じていた。
(担当:天音)
●死線を彷徨う戦鬼たち
──最前線内部・破壊された柵付近
悪魔たちの侵攻は留まる事を知らない。
そのエリアは正に阿鼻叫喚の世界。
力を付けた悪魔たちの侵攻によって柵は意図も容易く突破された。
そして、そのエリアを護っていた冒険者たちも次々と蹂躪されていく。
わずかに生き残っていた冒険者たちも、瀕死の状態で戦いを続けていた。
──ドゴォッ
左腕を失い、肩で息をしつつも悪魔たちと刃を交えているのはクロック・ランベリー(eb3776)。
「ハアハアハアハア‥‥もう限界か‥‥」
意識が朦朧とし、もう立っている気力もない。
彼の近くでは、フォン・イエツェラー(eb7693)やレオニード・ダリン・アドロフ(eb7728)、水之江政清(eb9679)といった面々が防衛ラインを死守するために戦いつづけている。
だが、ひとり、またひとりと悪魔の手によって大地に崩れ落ちていく。
そして倒れた冒険者に一気に悪魔たちは群がっていく。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォ
その群がっている悪魔たちの群れの中に突撃すると、馬若飛(ec3237)は手にした大天使の槍で悪魔たちを蹴散らす。
「凶報だ‥‥後方救護班に悪魔が襲撃をしかけた。このエリアは我々のみで護りとおすしかない‥‥」
その馬の言葉に、助けられた一行は最後の気力を振り絞る。
──ズササササーーーーーーーーーーーーーーーーッ
と、突然後方から鷲尾天斗(ea2445)が駆けつける!!
「援護に来た。まもなく【拠点防衛隊】のヴァルキュリアも到着する。されまでなんとか持ち越せ!!」
と叫ぶやいなや、近くの悪魔に向かって奇襲を仕掛ける天斗。
その報告を受けて、一行は援軍が到着するまでの時間を稼ぐ為、ただひたするに剣を振るっていた‥‥。
一体どれぐらい戦っただろう。
きがつくと、後方救護班での戦いも一旦集結したらしい。
目の前で戦っていた悪魔たちねもその勢力を弱め、後方へと撤退を開始している。
仲間たちによって取り返された最終防衛ライン、いまはここを立て直し、悪魔たちの襲撃にたいしての防衛力を高めていくしかない‥‥。
(担当:久条巧)
●願いの力
ディーテ城砦の中の救護所を目掛けて、『春夏秋冬/偵察伝令班』のキャル・パル(ea1560)が飛んでいた。伝えることは、アンデッドやデビルの動きだ。アンデッドによっては一見すると味方の陣にいて不自然ではない姿のモノがいて、デビルにも姿を変えて紛れているものがいないとも限らない。そうした怪しげなものが近付いてきたら、気付いたものから伝令に報告が行って、あちこちに伝わっていくのだが、成り済ましも怖い。
だから報告を受けたのは、『春夏秋冬/後方守護班』のティシア・フォルン(ec5866)などで、互いの顔が分かるか、合言葉でも用意してある関係の者をまずは通じることが多い。
けれども今回は、その報告が救護所全体に伝わる前に、先んじて負傷者達がつれて来られていた。負傷者がいるのだから急ぐのは当然だが、慌てているのは背後から迫ってくるアンデッドと炎を使うデビルがいるからだ。炎にまかれても前進を止めないアンデッドが救護所に入り込めばただ事では済まず、避難するには時間が足りず、なによりも元は人だった者をそのように操って、利を得ようとするデビルの性根が許せない。
セフィナ・プランティエ(ea8539)が救護所に続く通路に、ホーリーフィールドを張る。それを乗り越えて来るには空を飛ぶ能力が必要だが、上空にはオルフェウスの竪琴を鳴弦の弓に持ち替えたコルリス・フェネストラ(eb9459)などが目を光らせていた。通路を越えさせなければ、救護所が移るにしても時間は十分に稼げるだろう。
ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)が自らにレジストデビルを付与するのと同様に、前線に立つ人々に背後から幾つかの魔法付与が行われる。それを受けてから、同じ『春夏秋冬/後方守護班』の白麗花(ec5864)やアリス・メイ(ec5840)、クリス・クロス(eb7341)とブリード・クロス(eb7358)の兄弟が、まずはデビルを狙って動いた。狙うのはデビル、可能ならば持っているふいごを落として、後は次々と皆で攻撃を当てれば、厄介なエボリューションとて効果はあるまい。
背後では預けられた死傷者をどこに運ぶのか、その相談を偵察、伝令を素早くまとめた人々が徐々に動き出していた。
移動先を確かめたのか、セレーナ・アクア(ec5865)が前線の治療要員として前線のやや後方に控えている。他にも数人、攻撃と治療とどちらの能力も発揮出来るようにと残ることを決めた者がいたけれど‥‥
この時の襲撃は、幸いにして撃退して除けることが出来た。
ただ倒したアンデッドのうち、遺骸の残った者達が二度と操られることがないようにと願う気持ちも当然あり、誰かが回収もままならぬその遺骸に祈紐を掛けてやっていた。
(担当:龍河流)
●熱い風への備え
「薬に食料、水に布。持ってきたぜ、何処に置いたらいい?」
「ああ、ありがとう。それじゃあ、そこの天幕の横に積んどいてくれないか」
イクス・エレ(ec5298)の指し示した場所に、来生 十四郎(ea5386)は馬から降ろした荷を積み重ねていく。
積み重ねながら、十四郎は周囲の救護所の様子に目を遣った。
「‥‥しかしなんだな、ここも随分と物々しくなったもんだ」
「ああ‥‥」
十四郎に合わせて、イクスも背後の救護所に視線を送る。
二人の目に映るのは、武装した沢山の戦士達―――
熱砂の魔神、パズス!
戦いに慣れた冒険者達であったが、それでもパズスから受けた衝撃は大きかった。
独自の軍団を持たず、気紛れとさえ言える態度で後方の救護所を襲う、風と疫病を司る大悪魔。軍を率いてはいないとは言え、強大な魔力を振るうパズスの脅威はそのままデビルの一軍に匹敵する。これまで『後方』として、どちらかと言えばデビルの密偵や、少数の伏兵などに対して備えていた救護所とその警備陣にとって、パズスは初めてとさえ言っていい、直接立ち向かわなければならぬ敵であった。
「そう! だからこそ、こうして対策は万全にしてるんだ。パズス自身に対しても、パズスの振りまく熱病に対してもね!」
明王院 月与(eb3600)は力強く断言する。
やる事は沢山あった。【TN守護隊】の仲間であるシャーリーン・オゥコナー(eb5338)やアナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)、趣旨に賛同してくれた【ジャパン医療局】のサントス・ティラナ(eb0764)ら等と共に、救護所に於ける傷病者への対応、正常な治療環境の作成とその維持管理について、過去に得られたノウハウのマニュアル化を進めていく。地獄での過酷な体験と、医師、天界人らの知識をも足し合わされた知見は、千金にも増して得難い貴重なものだ。
「患者にとって綺麗な空気と美味しい水は、沢山のドラッグにも増して何より大事ヨ♪ その上に、ハーブにカラーにいいオイニー。ミーの『祈紐』セラピ〜でばっちりヒーリングネ♪」
‥‥とまあ、口調も見かけも全く怪しいサントスだが、彼の薬屋としての見識と品揃えに間違いはない。
事実、彼らの【設営】と銘打った先進的な作戦活動により、今まで地上世界へ後送するより無かった重篤な熱病患者の中からでさえ、その一部とは言え、地獄の救護所内で治療を進める事が出来るようになっていた。
そんな、中の環境を整えるのが月与らの仕事だとしたら、ライル・フォレスト(ea9027)の仕事は外の建物を造る事である。
「全く、折角苦労して作った建物なのに、あんまり気軽に吹き飛ばさないで欲しいもんだよ」
独りごちつつ、とんてんかん。
パズスが生み出す暴風によって受けた救護所内の被害は広範囲に及ぶ。御陰でライルなどは、傭兵としての本業より、むしろ大工としての方が忙しい位だ。
「そうか。バリケードなんかは、なまじ一枚板にするよりも、風を逃がす為の穴があった方が倒されにくいかも‥‥」
とんてんかんと、思いついた工夫は即実行。
常により良いものを試す、進取果敢の精神こそが地獄流だ。それこそが、弱き者を守る砦として、二度と再び救護所の建物がデビルの風に負けぬ為に必要なものだと、ライルは信じている。
「しっかし、人も多いし、エライ厳重やん。こないぎょーさん冒険者が待ち構えとったら、流石にパズスも来ーへんのちゃう?」
救護所のすぐ外では、上空から周辺の警戒に当っていたイフェリア・アイランズ(ea2890)が、【西中島隊】の仲間の一人、李 風龍(ea5808)にそう問い掛けていた。話に聞いた限り、救護所を襲うパズスの行動は散発的であり、個々の救護所そのものに特に関心は抱いていないように見える。ならば、殊更防備の固い場所に姿を現す理由もない筈で‥‥。
そんなイフェリアの言葉に、風龍は答える。
「おそらく、パズスは試しているのだろう。己の力か、それとも俺達冒険者の力か、それは判らない。ただどちらを試しているにしろ、この防備の整えられた救護所は格好の舞台になると思わないか?」
―――そうやって。
沢山の冒険者達が後方の救護所で働いていた。
炊事に励む者、怪我人を運ぶ者。医師は患者の治療に知恵の限りを尽くし、愛と献身を振りまく沢山の看護師達が、弱った者達の手を握り、きっと大丈夫と語りかける。
救護所内外に張り巡らされた何重もの監視の網は、蝿に化けた小悪魔一匹さえ見逃す事はなく、警護の戦士達がずらりと並べる神剣魔槍の槍衾の前には、いかな巨魔と謂えども顔を見せる事さえ危ぶむものと思われた。
そこに、パズスは来た。
風を播き、天より降り立つ獣面四翼の魔神。
それは風龍とイフェリアが互いに言葉を交わしてから、ほんの三十分後の事である。
(担当:たかおかとしや)
●城砦奥にて
「エキドナが動いた‥‥か」
ディーテ城砦にて、ぽつりともらしたのはムルキベルだ。だが静観しているだけの余裕がないことは彼が一番良く知っている。城砦に入ってきた冒険者達のいくらかが、彼を目指して進んできている。城砦と一体化を果たしたムルキベルには、その足音が鼓動の様に聞こえていた。
「城砦と一体化したならばこの炎も苦痛かね?」
サイクザエラ・マイ(ec4873)が城砦の天井に向かってファイヤーボムを放つ。だがムルキベル自身の表情を読み取れる場所にいないため、それが通用しているのかどうかははっきりとしない。
「上位悪魔の魔力が干渉し合うなら、ムルキベルが近づけば赤い霧は弱められるはず」
「でも〜ムルキベルは城砦と一体化しちゃったから、動けないんじゃないかな〜?」
ミリア・タッフタート(ec4090)の仮説にメイフェイ・ナーシィル(ea8290)が懸念を差し挟む。
「こちらへ!」
城砦内を探索していた茉莉花緋雨(eb3226)がムルキベルを狙う冒険者達を階段へと導いた。【勝利の暁】と【春夏秋冬/前方戦闘班】がそれに続く。
その先に居たのは、自身がまるで建物のような姿をしたデビル、ムルキベル。
「‥‥!」
アイミス・ユーニード(eb0502)が無言でムルキベルとの間合いを詰める。ダガーから放たれたブラインドアタック+シュライクの合成技は、ムルキベルの鎧に食い込んだように見えた。だがムルキベルの身体から発せられた炎が、アイミスを焼く。
アミ・ウォルタルティア(eb0503)が弓で、ダイアン・シュンカ(ea9107)が斧でムルキベルの意識を引こうと試みる。その間に近づいたポーレット・シルファン(eb4539)がスピアを思い切り突き刺す――だがその攻撃は阻まれ、炎を纏った反撃がポーレットを襲った。
「なぜ、進もうとする?」
腹の底に響くような重い声で、ムルキベルは再び問うた。今度返って来る答えはいかようなものか。
「何故、万魔殿に行くのか知りたいらしいな。教えてやろう、それはな‥‥そこに冒険があるからだ!」
デュラン・ハイアット(ea0042)の掌から鋭い雷撃がムルキベルを貫く。
「何故進む? ‥‥悪魔の前に、涙を流す者が居る。その涙の理由を変える為」
ラザフォード・サークレット(eb0655)の答えに、ムルキベルは吐息の代わりに炎を吐き出した。それはため息なのだろうか。
「では、逆に問います。あなたは何故そこまでしてこの砦を守ろうとするのですか」
凛とした声を放ったのはセシリア・ティレット(eb4721)。場に一瞬の沈黙が下りた。その場にいた皆が、自体が動く隙を狙っている。
「守るべきものがある故」
「立場は違えど、それはこちらも同じだわっ!」
アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)が走った。それをきっかけにして、態勢を立て直した他の者も一斉にムルキベルへと攻撃を仕掛ける。
ある者の攻撃はムルキベルを痛めつけ、ある者はかの炎と攻撃に傷を負う。
明らかに足りないのは決定打。
「瘴気の濃度が上がっている‥‥冒険者の相手をしている暇はない」
「待て、逃げるのか!」
その問いにムルキベルは答えず、再び沈黙を落とした。
ムルキベルとて傷を負っている。だがそれは冒険者側も同じ。
ムルキベルの周りの空間が歪む――城砦の改装が始まる。
城砦の石壁が、ムルキベルと冒険者達を隔絶した。
(担当:天音)
●エキドナ
最初に現れたのはゲヘナの丘。
噴き出す魔力を手中に収めんと進軍していたが、これは冒険者らの働きにより阻まれた。
しかし倒される事無く、城砦の近くにまで撤退した彼女はそこから虎視眈々と次の機会を覗い続けていた。
ここに至り、動きを見せた彼女の前に、冒険者たちが立ちはだかる。
「ああ、なんて美しく、可愛らしいのだろう‥‥。あの腕に抱かれ果てる事ができるのなら本望だな」
数多の死人とデビルを蹴散らし、ようやくたどり着いた敵を前に。
ジェファーソン・マクレイン(ea3709)が場違いな言葉を口にするも、身構える。
確かにその特異な美貌は人の価値観からも外れたものでない。上半身は大柄な女性程しかないし、長々ととぐろを巻く蛇の異形も美と見出す事はできる。
しかし、滾る眼差しは死を喜び、その唇は血に歪む。
そして、醜悪な魔力は無限の魔性を生み出す。彼女は数多の魔物の母でもあった。
今も生み出されるアンデッドにより、彼女の周辺は恐ろしい様を見せている。
「祈りなど、小賢しい真似を‥‥。以前の所業も合わせ、纏めて踏みにじってくれる!」
鼻皺寄せ不快に睨みつけてくるエキドナ。ずるりと伸びたその巨体。尾の先まで含まれば10m程か。
威嚇するように立ち上がれば、呼応して周囲の死人・幽体が殺意を放った。
「エッキーも懲りないね〜。でもこれで終りにしてもらおうか!」
ロングソード・虹光を抜き放つ『強襲遊撃団「黎明」』のエイジス・レーヴァティン(ea9907)に死の群れはたちまち押し寄せてきた。
「ゲヘナの丘で逃げた恨み、今こそ晴らす!!」
銀のゴーレム機体で迫るは『☆ メイ・ゴーレム隊』のベアトリーセ・メーベルト(ec1201)。
並み居る幽鬼には目もくれず、狙うは将の首‥‥いや、その長ったらしい尾。
「愚かな」
しかし、唸りを上げた刃は虚しく空を切った。威力と狙いに集中しすぎて命中が下がり、大振りになった。ブラインドアタックも見極められれば簡単に効果を失う。
振り払うようにエキドナがその尾を鞭にように振るえば、機体が大きく傾いだ。
「捻り潰してくれる!!」
掴みかかろうとしたエキドナの鼻先に飛び込んできたのは一体のグリフォン。
「俺としては、争い刃を交え合うより、共に花でも愛でたいが‥‥。生憎そうもいかんか。滅させて貰う!」
その背に騎乗した『はぐれ屋『必殺』』の真幌葉京士郎(ea3190)はすかさず、黒鳩の剣で薙ぎ払う!!
「きゃあああ! 妾の‥‥妾の顔があああ!!」
仰け反ったエキドナに、すかさずゴーレムチームの利賀桐真琴(ea3625)のヴァルキュリアが迫る。両手の得物で切り裂こうとするが、
「痴れ者が!!!」
蛇の執念か、女の恨みか。
先とは違う形相で回避すると、そのまま機体に撒きつき締め上げる。
「くっ!」
身動きが取れなくなるが、それはエキドナも同じこと。好機とばかりに攻めに入る。それは応えたと見えて、エキドナは大きく距離を置いた。
「‥‥無粋な祈りの邪魔が無ければ‥‥いや、ゲヘナの丘を手にさえすればすぐに片が付くものを。だが、妾は諦めぬ。何度でも繰り返そうぞ!!」
言うや否や。
蹴散らした周囲の死人たちが復活した。否。再び生み出されたのだ。
「何!?」
再び始まる攻撃と同時、エキドナの姿が消えた。逃げた、というのは考えるまでも無い。
(担当:からた狐)
●祈りと護りと
荒野防衛線――。
猛烈なデビルの攻勢に冒険者たちは押されつつあった。赤い霧をまとったデビルたちは階位を問わずバアル配下の悪魔たちだ。バアルの赤き本の魔力はデビルの力を一層増し、たけり狂う波頭となって冒険者たちに襲い掛かる。
主力のネルガル部隊が防衛線に次々と火の玉を打ち込んでいく。一発のファイヤーボムは大した威力ではないが、ネルガルたちは波状攻撃を仕掛けるように絨毯爆撃を行っていく。
「――獅子の大公様出陣!」
デビルたちの戦列が渦を巻くように集まっていくと、その中心からかつてアケロン川の戦いで敗れたかの悪魔騎士、アロセールが姿を見せる。それも二体いる。
「アロセール‥‥! 生き返ったのか?」
「いや‥‥別の奴だろう。同じ奴が幾つか居ても不思議じゃない」
驚くルーラス・エルミナス(ea0282)に伊達正和(ea0489)は思案顔で応じる。
「大元帥バアルの僕か‥‥やるしかないな」
「一度は勝った相手だ、同じ手を使うとはバアルの駒もそう多くはないんだろうよ」
「だが‥‥あの赤い霧は厄介だ。デビルたちの力を増している」
ルーウィン・ルクレール(ea1364)、三笠明信(ea1628)、伊達和正(ea2388)らは武器を構えてアロセールに向かう。
「ふふ‥‥バアル大元帥の魔力で強化された我らを甘く見おって。行くぞ者ども! 奴らに思い知らせてくれるぞ! ここまで来たことを後悔させてくれるわ!」
――皆殺しだ! 生贄を皇帝ルシファーに捧ぐ!
デビルたちの哄笑が耳障りに鳴り響く。
「ここまで来たんだ。何が出てこようとも頑張るべえさ」
「あいにくと、俺たちは諦めの悪い質なんでね」
「行くぞ!」
鷲尾天斗(ea2445)、綾小路刹那(ea2558)、イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)らは敵陣に突撃する。
「無駄なあがきよ! 所詮人間の辿り着ける高みなど知れておるわ! バアル大元帥の魔力の前に、貴様らは滅びるのだ!」
アロセールとネルガルの大部隊が防衛線に押し寄せる。押し返される冒険者たちの戦列。赤い霧をまとったアロセールは縦横無尽に駆け回り、冒険者たちをなぎ倒していく。
「ふふはは! 奇跡の逆転撃など起きんぞ! 祈りの力だと! そんなものがこの地獄で何の役に立つ! 力無き者はここでは朽ち果てるまで! 貴様らは全員バアル大元帥の命により打ち首だ!」
「なめんなよ悪魔野郎!」
「もう一度今度は完全に冥土に送ってやるぜ」
田原右之助(ea6144)、アルビオス・レイカー(ea6729)、九紋竜桃化(ea8553)、朱蘭華(ea8806)らは襲い来るネルガルを迎撃しながらアロセールの部隊と交戦に入る。
赤い霧をまとったデビルたちは次から次へと沸いてくる。倒しても倒しても悪魔軍の戦列は埋められ、冒険者たちの防衛線は瞬く間に押し込まれていく。
「くっ‥‥バアルの奴‥‥厄介な術を‥‥」
バアルの赤き本の魔力で次々と復活してくるデビルたち。
「そろそろいいだろう‥‥者ども! 一斉に本体の力を解き放て! 人間どもの戦列を突き破れ!」
アロセールの掛け声とともにデビルたちの体から赤い霧とさらに黒い霞が立ち上ってくる。
「突撃!」
怒涛となって押し寄せるネルガルの大軍、先陣を切ってアロセールが突進してくる。尤もこれまでの支援活動も無駄ではない。何とかデビルの突進を陣地の前で持ち堪える冒険者たち。
「押し返せ‥‥何としてもここは抜かせない!」
剣を振るうグレイ・ドレイク(eb0884)とドナン・ラスキン(eb3249)の眼前に次々とネルガルたちが迫ってくる。
「させるかあ!」
ネルガルを叩き切っていく冒険者たち。ネルガルたちは無念の声を残して完全消滅する。
深螺藤咲(ea8218)の超越スモークフィールドの支援を得ながらヴァルキュリアを操縦して、ネルガルやアロセールの攻勢を跳ね返すグレナム・ファルゲン(eb4322)、アルファ・ベーテフィル(eb7851)、ガルム・ダイモス(ec3467)。
「デビルの復活が無い‥‥さすがに完全消滅した奴まで復活はないか‥‥だが‥‥」
冒険者たちは懸命に剣を振るう。ここまでの修羅場を切り抜けてきたつわものたちだ。武器を頼りにネルガルたちの攻勢を跳ね返す。
「負けるわけにはいかない‥‥たとえ祈りが通じなくとも、みんなの心は一つ。奇跡が起きなくても、俺たちは戦い抜くさ‥‥仲間達を信じて!」
フォン・イエツェラー(eb7693)、レオニード・ダリン・アドロフ(eb7728)、馬若飛(ec3237)、レイ・アレク(ec4772)はひたすら剣を振るう。
押し寄せるネルガルの群れが岩に砕ける波のように散っていく。
メネア・パティース(eb5563)、エレノア・バーレン(eb5618)、エル・カルデア(eb8542)、サスケ・ヒノモリ(eb8646)、木下陽一(eb9419)、ハロルド・ブックマン(ec3272)ら術士はひたすら魔法を叩き込んでいく。
「強い‥‥モレク将軍を倒しただけ、ここまで来ただけのことはある‥‥だが、ここは地獄よ‥‥人間たちよ、我らが帝国で無限の悪魔を相手にどこまで戦えるかな? どこまで戦うつもりだ?」
アロセールはあざ笑うかのように冒険者たちの前に立ちはだかった。
祈り・儀式が行われている様子を、警護の小鳥遊郭之丞(eb9508)は見つめていた。
「戦況は芳しくないようだが‥‥」
祈り続ける仲間達の力は果たして天に届くのか‥‥。
防衛線――。
戦いに異変が起こったのは突然のことだった。
バアルの赤き本の魔力が発生させたデビルたちがまとっている赤い霧に戦場は覆われていた。
だが――。
ルーラス、天城などが携帯している祈紐が突然白く輝き出したのだ。
「何だ?」
祈紐がそこかしこで白い光を放ち、光の点は線となって結ばれ、赤い霧を跳ね返した。
「何?」
アロセールは驚いたように消えていくバアルの赤い霧を見やる。
戦場を祈紐の白い閃光が包む――。
そして――。
バアルの魔力、すなわち赤い霧は完全に消滅したのである。
「馬鹿な‥‥」
アロセールも愚かではない、当然何が起こったか察知していた。祈りの力の干渉でバアルの魔力が消滅したのだ。
「またしても祈りの力か‥‥更に強力になっているとは‥‥」
そこかしこで狼狽するネルガルたちが討ち取られていく。アロセールは憮然として状況を見つめていた。一旦押し込まれた冒険者たちは反撃に転じ、アロセールは身の危険を感じて後退する。
「逃げるのか獅子の大公さん」
天斗はネルガルを叩き切ってからアロセールと対峙する。
「ふふ‥‥ここまで来て我らも逃げも隠れもせぬわ。だがこの借りはきっちりと返させて貰うぞ。進むがいい人間よ‥‥万魔殿にて我らが皇帝陛下と対面するがいい。もはや誰にもあの方を止めることは出来ぬであろう。あのお方には今、世界の力と言う力が流れ込んでいる。ここまで辿り着いたことは賞賛に値する。陛下に拝謁し、審判を受けるがいい冒険者たちよ‥‥」
アロセールはそう言うと、部下達を率いて防衛線から撤退したのである。
(担当:安原太一)
●強すぎる力のせめぎ合い
赤き霧に覆われた戦場。
無限に蘇る悪魔の軍勢。
いつ終わるとも知れぬ悪夢のような戦いが続く中、冒険者達は残された力を振り絞り、剣を弓を魔法を‥‥持てる全ての知恵と力を尽くし、歩を進めた。
「あ〜、面倒臭ぇなぁ。さっさと終わらせようぜ」
「まさに混沌だね〜」
溜息まじりに呟きながら戦うレオナール・ミドゥ(ec2726)やティアラ・フォーリスト(ea7222)の視界に映るものは少ない。シーン・オーサカ(ea3777)やベアータ・レジーネス(eb1422)ら多数の魔術師の生み出す魔法の霧や煙が大地と空を覆い隠しており、視覚にのみ頼っては、敵の陣がある方角さえ分からなくなるだろう。
しかし、冒険者達は誤ることなく、バアルの陣へと戦場を駆ける。広く戦場を巡るテレパシーの伝令網が、彼らを支える。
「撃て! 俺達で道を開くんだ!」
菊川響(ea0639)の合図で、【誠刻の武】の射手達より放たれ、悪魔の陣に降り注ぐは矢の雨。
「こんなところで、止まるわけにはいかない」
カジャ・ハイダル(ec0131)の放つ重力波の魔法が、悪魔の陣を突き崩す。
「皆の祈りや、これまでの戦いを無駄にしないために、今こそ一丸となり進むべき時です!」
常葉一花(ea1123)が声高に叫ぶと、周囲の冒険者達から応と声が上がる。
祈りの儀式の力が赤き霧へと集中的に向けられたことで、その効果を弱めることに成功していた。多数の冒険者による様々な視界妨害や行動抑制の魔法の効果も高く、倒された悪魔の復活に遅れが出るなどしている。今までに無かった好機を得て、冒険者達の士気は高い。
「もはや遠慮はいらないな。全力でやらせてもらう!」
瀬戸喪(ea0443)やカノン・リュフトヒェン(ea9689)の剣より放たれる衝撃。その力に、次々と悪魔達が屠られていく。
『調子に乗るなよ、クズどもが!! このアンドラスが地獄の大地に沈めてくれる!』
『このベリトも忘れてもらっては困る! お前達のような虫けらに、これ以上の勝手はさせぬわ!!』
「くっ、こいつら‥‥!」
言ったのは、黒い狼に跨った梟の頭を持つ有翼人、そして全身を紅の鎧兜に包んだ騎士だ。見えぬ剣撃に急所を刺し貫かれて、あるいは強固な鎧に成すすべなく、次々と負傷していく冒険者達。
そう、バアルの前まで後一歩と迫る冒険者達の、その前に立ちはだかるのはバアル側近の高位悪魔達。
だが、立ち止まることを余議なくされた冒険者達の中から飛び出す影。【皇牙】を率いる天城烈閃(ea0629)。咄嗟に振るわれたアンドラスの見えぬはずの刺突を紙一重でかわすと、彼はその手の霊剣で悪魔の胴を切り裂く。
『ぐわあっ!』
痛みに、アンドラスの身体が傾く。
『貴様ぁ!!』
「させません!」
『ちぃっ!!』
「そこ!」
烈閃へとベリトの剣が迫るが、阿修羅魔法にて瞬間移動したマグナス・ダイモス(ec0128)が死角よりベリトへ剣を振るう。赤き騎士は咄嗟に剣の向きを変えて受け止めるも、そこに出来た隙を、ゼルス・ウィンディ(ea1661)が見逃さない。刹那に生み出された凄まじい風の刃が悪魔を切り裂く。
『ガアッ!』
「行け! こいつらに邪魔はさせない!」
「分かった! 全員、狙いはバアルの首。他に構わず斬り進め!」
烈閃の声に応えたのは【誠刻の武】の第一陣を指揮する空間明衣(eb4994)。多くの冒険者達の行動の核となっていたのが、【凱灯】と呼ばれる共同作戦。異なる方角より限られた視界の中を進んできたはずの彼らが、こうして最後の壁を前にしても見せる鮮やかな連携は、悪魔達にそう簡単に真似できるものでも、止められるものでも無い。優れた指揮官、高い探知能力の持ち主、機敏な伝令に、それに応える戦士や魔術師達。彼らの灯した希望に導かれて、ついにバアルの前へと辿り着く多くの冒険者達。
『ええい、どいつもこいつも頼りにならんゴミどもめ! こうなれば、吾輩自らの剣で害虫どもの始末をつけてやるまでよ!!』
「ならば、バアルよ。その害虫の諦めの悪さお見せしよう」
『抜かせ!!』
結城友矩(ea2046)の剣とバアルの剣が交差する。ぶつかり合った剣閃の次、光の矢がバアルへと降り注いだ。エルディン・アトワイト(ec0290)ら【マジカル特戦隊】の面々が放った、ムーンアローの雨。
『こんなものでっ!!』
効いていないのか‥‥いや、手傷は負っていた。思うほどの効果が無いのは、悪魔法レボリューションによる耐性か。
「なんて頑丈な‥‥」
光の雨の中に紛れて、大宗院透(ea0050)の矢も飛んでいた。バアルの顔に当たるも、それは刺さることなく、弾き飛ばされた。本体の魔力によるものか。
『どうだ人間ども! 吾輩の強さが分かったか! 命乞いでもしてみせれば、少しは楽に殺して‥‥おぅ!?』
――ガンッ!!!
バアルの高笑いを黙らせたのは、静守宗風(eb2585)の豪剣。
「生憎、お前のような外道に下げる頭など無い」
『‥‥ぬうっ!?』
返しの刃を放とうとしたバアルの腕に、絡みつくのはリスター・ストーム(ea6536)の鞭。
「俺も嫌だね。とびきりの美女にならともかく、おまえみたいな不細工野郎になんざ、死んでも御免だ」
『虫どもがぁ!!』
「他人を道具としか見ないお前には分かるまい。いかなる恐怖にも屈さぬ意志。それを合わせて生まれる力。本当の強さというのは‥‥こういうことだ!!」
『ぐおおおおおあああっ!!!』
アラン・ハリファックス(ea4295)の炎の槍が、バアルの身体へと突き刺さる。
それに続くように、周囲の幾多の冒険者が一斉に攻撃を放っていき‥‥。
長き戦いを経て今ここに、地獄の大貴族バアルは討たれたのだった。
(担当:BW)
●死の病を告げる声
「デビルの魔力が元とは言え、つまりは病気です。決して医学の通じないような相手ではありません」
救護所の天幕の中では、ゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)をはじめ、天界人とジ・アース人による共同の医療チームがパズスの熱病に対して懸命な努力を見せていた。
月下部 有里(eb4494)、越智 一見(eb5351)ら、天界人の持つ高い医療、衛生面での知識に、ヴァイエ・ゼーレンフォル(ea2066)らの持つ豊富な植物知識を組み合わせる。異邦人故の、ともすればふわふわと遊離しがちな知見をしっかりと大地につなぎ止めるそのコンビネーションは、着々と効果を上げつつあった。
勿論、天界人の技術が全てジ・アース人に理解できるわけもない(と言うか、まるで判らない!)。
だが、それが天界人に主張する理学なのか、それとも新式のまじないなのか。そんな事は、この地獄の底ではどうでもいい事であった。酒で手や器具を洗えば患者が治るというなら、つまり酒で手や器具を洗うべきなのだ。
「ここしばらくは、新規の熱病患者が担ぎ込まれる事もありませんわね。このまま落ち着いてくれればいいんですけど‥‥」
セレスト・グラン・クリュ(eb3537)が、患者達に飲み水を差し与えながら、一人天幕の中を見渡す。
―――と、彼女が天幕の奥に設置された水晶球の白い輝きに気が付いたのは、その時だった。
デビルを感知する水晶球がの輝き。それが意味するところはただ一つ。
セレストは愛用の斧を片手に、天幕の外へと走り出た!
「大変だわ! みんな、デビルがやってきたわよ!」
セレスト以外にも、デビルの接近に気が付いた者は多い。
ロシア軍の物見櫓から空を見上げていたフローラ・タナー(ea1060)、救護所内でデティクトアンデットを使用していたシェリル・オレアリス(eb4803)、空から周辺の見張りをしていたリディエール・アンティロープ(eb5977)。
それらの者が、同時に赤い空を見上げる。
そう、パズスは空からやって来た。
赤い尾を引く禍々しい流星が、轟音と熱風と共に、救護所中央の広場に突き立たる!
「来たわ! 敵は救護所中央広場。【戦乙女隊】は前へ!」
リリー・ストーム(ea9927)が隊の仲間へ指示を飛ばす。
ただパズスが風を捲いて降り立っただけで、瞬時に数十名の冒険者達が熱病に罹患し、行動不能となっていた。聞きしに勝る恐ろしさではあるが、それでも手がないわけではない。
熱風を免れた戦士達が、【戦乙女隊】、【拠点防衛隊】の猛者を筆頭にパズスのぐるりを剣の林で取り囲むと、その身体を僧侶や神官達から放たれるレジストデビルの白い光が眩いばかりに包んでいく。
「デビルの不浄な風は、わたくし達にはもう届きません」
クリミナ・ロッソ(ea1999)の言葉に、パズスは四枚の翼を広げ、獅子の顔を歪めて笑う。
「理に適ったいい対応だ。我を恐れつつも、逃げる者もいない。脆弱な人間共の集団である事を考えれば、これはなかなか大したものよ」
「パズス、滅する前に聞いておこう。お前の目的は何だ? 何故救護所を襲う? 冒険者を殺したいなら、バアルのように軍を率いて攻め寄せればいい話だろう」
「バアルのように、か」
クリミナに続き、周囲の剣陣の輪から投げ掛けられた西中島 導仁(ea2741)の言葉に、パズスは更に笑みを深くした。
「カカカカカ! 謙遜をするな、人間よ。お前達は脆弱ではあるが、強い。軍を率いてお前達とぶつかったモレクは既に滅し、バアルめも直にその後を追うだろう。
何。別段、襲うつもりがあったわけではない。我はただ、見せて貰いたいだけなのだ。お前達の知恵と力、その強さの秘密をな」
「それじゃあ見せてやろうか‥‥」西中島は呟き、剣を握る。
「教えてやろう、お前のそういう行動を『好奇心、猫をも殺す』って言うんだよ!」
西中島の突進!
だがパズスはその攻撃を宙に浮かんで躱す。直ぐさま、後方の術士達より放たれた魔法の光がパズスの身体を貫くが、それらの呪文全てがパズスの翼より湧き上がる黒い霧によって阻まれた。
「黒い霧だ! 半端な攻撃では通じないぞ!」
「任せて下さい!」
他のどよめきを抑えて、サクラ・フリューゲル(eb8317)、アーシャ・イクティノス(eb6702)ら、ペガサス組がパズスの後を追って舞い上がる。彼女達の持つ魔剣より噴き上がるその強い力は、例え上級デビルの黒い霧でさえも易々と貫く事だろう。
「カカカ! そうだろう、人間共よ。お前達は強い。強い魔力、強い力。天界人の知識を持ち、地獄の底で神の力を振るう人間共!」
パズスは飛びながら、再び病をもたらす熱風を巻き起こす。
しかし、ルメリア・アドミナル(ea8594)の撃ち出したウインドレスの呪文が、パズスの熱風をそよ風に変える。
一瞬の隙を突き、ペガサスで背後から躍り掛かるルエラ・ファールヴァルト(eb4199)!
「パズス、滅せよ!」
ルエラの魔剣が、パズスの一翼を切り捨てる!
―――だが。
それ程の深手を負っていてさえ、パズスは冒険者達に尚、こう言い放った。
「見せて貰ったぞ、お前達の力をな。お前達は強い。‥‥だか、やはり脆弱な生き物である事には変わりはないのだ。
じきに、お前達を病が襲うだろう。熱病などではない、真に恐ろしい死の病。神に頼ろうが、天界の知識に縋ろうが、お前達の死は避けられぬ」
パズスが吼える。
「今しばらく、生を長らえるがいい! どうせ死ぬのだ。お前達は皆、地獄の底で!!」
パズスの言葉が終わるよりも前に、サクラが、アーシャが、ルエラが宙に浮かぶパズスに同時に斬りかかる。
しかし、一瞬速くパズスは姿を消し、彼女達の剣は宙を斬った。
それから以降、パズスが救護所を含む、地獄の戦場に姿を現す事はなかった。
‥‥少なくとも、しばらくの間は。
(担当:たかおかとしや)