第2回行動結果報告書

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黙示録の戦いの勇姿を!

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<第2回開戦状況>
第2回では、ルシファーとの戦いにおもむくべく、不可視の障壁を儀式にて弱体化させ、あるいは破壊する必要があるでしょう。完全に破壊できなくとも、その効果を弱めることができなければ、ルシファーへの攻撃はほぼ不可能と思われます。
またコキュートスではルシファーの復活により、更なる瘴気が満ち始めています。マルバスが境界の力を操ることによって、大量の瘴気が流れ込んでいることもあわせて、封印から逃れる魔物の数は増えており、これらとの戦闘も主軸となるでしょう。
エキドナはその動向がまだ確認されていませんが、バアル軍との戦いの終盤のように突如襲ってくる可能性があり、予断を許しません。


第2回行動入力時戦力状況
参加人数:791人
瘴気の障壁封印された魔物合計

皇帝 ルシファー
イラストレーター:墨

よくここまでたどり着いたものだ、
小さく、雄々しきものたちよ。
だがそれもまもなく、空しき徒労と化す。
可哀想に、な‥‥。
白兵戦 10.7% 18.8% 29.5%
防衛・救護 11.8% 12.6% 24.5%
祈り・儀式 11.8% 6% 17.9%
魔法戦 3.4% 7.7% 11.1%
偵察・伝令 9.6% 7.2% 16.8%
合計47.5%52.4%100%



ディーテ城砦攻略戦 結果(7月3日〜7月6日)
参加人数:951人

救護79.0%  383人救護体制やや不利
調査91.6%  392人
陣地作成101.3%  448人防衛陣構築
コキュートス214.4%  876人コキュートスにエキドナ出現?



<第2回戦況>
コキュートス及び万魔殿周辺では激戦が繰り広げられ、総合として冒険者側がやや不利な状態となっています。

コキュートスに封印されていた魔物たちは瘴気の影響によりその封印が解ける他、突如襲撃したエキドナの[百の魔物]の魔力も重なり、急速にその数を増やしました。
世界創造以前の原始の混沌の影響を受けているためか非常に強力な魔物も多数登場しており、万魔殿を守るかのように敵は押し寄せ、冒険者たちは各地で苦戦しています。

瘴気の障壁の付近にはマルバスが襲来。空中からの攻撃と瘴気を直接相手に叩きつける攻撃により多数の被害が出ています。
しかしそれらの戦闘により障壁そのものを守る敵の勢力は少なくなったため、儀式は滞りなく進行。行動として行なわれた儀式のみならず、【祈りの紐】などの補助行動、及び儀式を防衛した冒険者たちにより、最終的にルシファーを取り囲む障壁の力は一部打ち消され、障壁は破壊はされなかったものの力を減じています。

次回の攻撃では、ルシファーに直接攻撃をかけることが可能となっていますが、ルシファーを守る万魔殿のみならず、エキドナ・マルバスといったコキュートスの瘴気を自在に操る上級デビルと同時に戦うことは難しいでしょう。
また情報では、ディーテ城砦から手負いとなったムルキベルが襲撃の準備をしているとされます。


結果概略

成功結果状況
魔の女王 エキドナ
イラストレーター:Hisasi

ああ! コキュートスよ、嘆きの川よ!
甘美なるは、妾の体に染み渡る、混沌の瘴気!
可愛い子供たちよ、さあ、封を退けるがよい!
瘴気の障壁  ○ 障壁薄くなるが健在
封印された魔物  ○ エキドナ出現、魔物増



■第2回報告書

●コキュートスへ祈る
 厚い氷と吹き荒れる冷気、命を脅かす瘴気が満ちる極寒の地・コキュートス。
 生者が踏み入るなど無謀の極みだが、人に仇為す無法の輩が長き眠りより目覚め地上に手をかけようというなら阻止せねばならない。
「皆無事でいてよね!」
 ヘキサグラム・タリスマンで結界を張ると、『TN守護隊』のサラ・クリストファ(ec4647)は仲間たちと共に祈りの儀式に参加する。
 地獄にたゆたう負の穢れ。ルシファーの復活が確認されて以来、それは急速に濃度を上げていた。
 形を持たぬそれは武器で払うは叶わず、浄化を望むしかない。
「地獄の瘴気が暴走を始めれば、大変な事態になる」
 背筋を寒くするのは茉莉花緋雨(eb3226)だけではない。
 デビルたちの解放、活性化。のみならず、地上にまでこれが流れ出るようなら生きている者たちの営みにどう影響が出ることか。
 苦しい時の神頼み‥‥と最初こそ笑う者もいたが、実際にそれが功を奏していると分かってからは、誰もが真摯に祈りを捧げる。
「防寒対策ばっちりOK! セカンドステージいっきやすか!! 氷漬けの魔物達に! 届け! 俺の熱き祈りとはーとびーと!!!!!」
 グリフォンで天高く駆けると、蛇皮線を掻き鳴らす無天焔威(ea0073)。
「祈りを込めて‥‥。調和するように、ね」
 その音に合わせるようにサーリィ・シャーウット(ea9108)が三味線を弾いて唄い、他の『春夏秋冬/魔法調査班』たちも舞ったり踊ったりと賑やかに披露する。
「防寒具じゃあ、あたしの魅力的なボディーラインが分からないじゃないの!」
「衣装を着込むのも、楽しいですよ」
 吐く息白く、『マジカル特戦隊』のアリッサ・アルバリス(ec6382)は不満を露わに誰にとも無く文句をつける。
 エフェリア・シドリ(ec1862)は戦乙女のドレスと水姫のマント、二枚の天使の羽飾りをつけている。戦乙女の格好を模したそうだ。
 リトルボウを持ち、ホーリー・ハンドベルを鳴らす彼女に、アリッサは気を取り直し、赤々と燃える炎へと踊りを捧げ始める。
 歌い踊るだけが祈りではない。
 早坂真央(eb5637)は天からの力が呼びやすくならないかと、聖なる模様や象徴的な物などを作り、『拠点防衛隊』のグレイ・ドレイク(eb0884)はフロートシップから運ばれる聖遺物や祈りの品の護衛につく。
「一人一人の想い、仏様は温かく見守っておられます。大切な家族と友人‥‥。無事な帰りを祈る事が今の私に出来る事」
「瘴気の力が強くなれば、封印された悪鬼が地上に迷いだす事になる。どうか瘴気が弱まるよう、精霊様、地上を見守る神仏方、願いを聴いて下され」
 勇貴美弥(eb4841)と七刻双武(ea3866)はそれぞれの信仰対象へと想いを馳せる。

 献身的な祈りが瘴気を祓う。
 地獄という広大な世界を思えばそれは微々たる物かもしれないが、それでも確実に浄化は進んでいく


  ‥‥はずだった。


「‥‥嫌な風が吹きますね」
 妙な胸騒ぎを感じて、賀茂慈海(ec6567)がデティクトアンデットで周囲を確認するも、危険は迫ってはいない。
 少なくとも祈りの場所近くには。
「コキュートスの瘴気が上がってるわ。何かあったのね」
 空から周囲を警戒していた孫美星(eb3771)も、異変を知らせに落ちてくる。
 確かに。
 胸を圧する不快感が増した気がする。
 目に見える変化が見て取れる距離ではなく、確たる証拠がある訳でも無い。が、何か起こったのではと暗い予感が消えない。
「大変! コキュートスでエキドナが暴れてるって! 沢山のアンデッドを生み出して、氷を溶かして魔物たちを復活させてるって」
 祈りの手伝いをしていたアニス・リカール(ea2052)だが、伝達に戻ってきた『しふしふ同盟』の仲間から聞いた話を広めて回る。
 知らせを聞いて、ユクセル・デニズ(ec5876)が僅かに表情を歪める。
「囚われの魂をどこまで苦しめるつもりだ。祈りで、彼らの苦しみに少しでも終わりが近付くのなら、いくらでも祈ろう」
 地獄に安息は無く。堕ちるは誰の罪業か。許しは無く、永久に苦しむのみ。
 それでも祈らずにはいられない。救いの手が差し伸べられる事を。
「魔物の封印を‥‥これ以上、人々を苦しめないよう」
 『後方防衛係』のエリー・エル(ea5970)は祈りを続ける。
 知らせを受けて動揺は走ったが、であればなおの事。絶望なんてしていられない。

 仲間を信じ、神を信じ、自分を信じる。
 ただ、ひたすらに信じる。
 この祈りは力になると――。

(担当:からた狐)


●カエルのような戦鬼
──ガシィッ
 それはまさに『巨大なヒキガエル』。 
 全長20mはあろうその魔物は、近くに掛けてくる冒険者達を長居したで次々と捉え、そのまま丸呑みしていく。
「向かってくる敵は‥‥倒す‥‥」
 空漸司影華(ea4183)は手にした日本刀で伸びてくる触手を切り捨てる。
 だが、予想外の再生能力により、瞬時に舌は再生した。
「そんな馬鹿な‥‥」
 と呟きつつも、影華はそのまま巨大ヒキガエルにむかって 間合を詰めようとする。
 だが、その前方に無数の『太った多眼ジャイアント』によって行く手を阻まれてしまう。
「じ、邪魔だっ!!」
 素早く連撃を叩き込む影華だが、多勢に無勢である。
「剛剣術‥‥超絶・山脈斬っ!!」
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 フライで上空に飛んでいたルミリア・ザナックス(ea5298)が、満を持しての一撃を『多眼ジャイアント』に向かって叩き込む。
 その直撃を受て、多眼ジャイアントは瞬時に土塊へと姿を変えていった。
「怯むな皆の衆、我が輩につづけ!!」
 そう叫ぶと同時に、再び飛翔するルミリア。
 その声により士気はさらに高まり、冒険者達は次々と反撃を開始した‥‥。

 このエリア・冒険者優勢‥‥

──一方その頃・コキュートス・エリア不明・海より来る戦鬼
 その場所は、周囲とはかなり異なっていた。
 永久氷土が溶けたその場所は巨大な海であった。
 そして海底より現われた無数の班魚陣のような魔物と冒険者が戦いに突入。
 陸地では冒険者優勢であったが、数体の魔物が冒険者を捉えて生みへと引きずり込む。
 そうなると冒険者には泣かす術もなく、そのまま海底へと引きずられて溺死していった。
「「大人しく眠っていればいいものを、次に眠るときは二度と目覚められんようにしてやる‥‥すぐに、な」
 東雲 辰巳(ea8110)はそう呟きつつ、次々と班魚陣を切り捨てていく。
 だが、倒されていく数よりも、海より上がってくる数の方が圧倒的に多すぎる。
「数でくるのならっ!!」
 気を循環させていく朱蘭華(ea8806)。
 そのまま気を少しずつ解放し、周囲に大量の気虎を生み出す。
「見よう見まね・猛虎跳撃弐拾連散華っ」
 通常なら生み出せる数は一体のみ。
 それを根性で無理矢理20体にまで引き上げたのである。
 ちなみに成功確率は殆ど0%だから、たいしたものである。
 そのまま次々と半魚人に向かって襲いかかる気虎。
 その近くでは、シャルウィード・ハミルトン(eb5413)と小山田万騎(eb7203)もまた半魚人に向かって戦いを挑むが、それでも数は一行に減る事はない。
 止むを得ず、冒険者達は一時撤退を余儀なくされてしまった。

 このエリア‥‥冒険者劣勢‥‥

(担当:久条巧)


●死を越えて
 どこまで厚く、冷たく、煌びやかなまでに全てを閉ざす永久凍土。
 氷によって閉ざされたのは大地だけではない。無数のデビルや彼らに追従する者たちもまた然り。
 だが今、ルシファーの復活により、悪しき瘴気が氷すらも蝕み、次々と破壊されてていく。
 魔物たちが、長きに渡る束縛から解き放たれていく。

「氷の寝所が気入らぬなら、我等が剣で永き眠りを進呈しますぞ!」
 巨大な氷山が砕け散るや、中から見合った巨大魔獣が咆哮を上げた。
 『TN特攻隊』の仲間らと共に、ケイ・ロードライト(ea2499)はゴートスレイヤーを振るう。
 動き出した魔物を再び眠らせるべく、多くの者たちがチームで、あるいは単身でコキュートスへと乗り込んでいた。
 武器を持ち接近する者、支援し魔法をかけて回る者、状況を把握せんと飛び回る者。そして、その全てを踏み潰さんと暴れまわるモノ‥‥。
 上がる雄叫びは吹雪に流れ、飛沫した血さえ凍って砕ける。白と青の静寂な色に、魔法で生じる様々な光が場違いなまでに鮮やかに煌く。
「ゴーレムと同じ大きさなら、寧ろ戦いやすいというもの‥‥って、こらー!!」
 キャペルスを駆るエリーシャ・メロウ(eb4333)の足元を、地響き上げてバイコーンの群れが通り過ぎる。
 すぐに仲間の『ウィル双翼騎士団』を始めとする他の面子の手にかかっていたけれども。
「動けないところを狙うのは微妙ですが‥‥。ま、卑怯云々とは言ってられませんしね」
 まだ封印が解け切らぬ魔物相手に、ルーフィン・ルクセンベール(eb5668)は強弓・十人張で矢を射掛ける。
 確かにずるさも感じる手ではある。しかし、そういう事に一応躊躇いを覚えてしまう事こそが人の証かもしれない。
 目の前の魔族なら間違いなく好機としか見ない筈。
 そんな相手に遠慮もいらない。アレクセイ・ルード(eb5450)は無理やり氷を砕いて逃げようとしていた相手に、刀を振るい立てたが、
「何だと!!」
 空から降ってきた剣に、足を止める。
 ブロッケンシールドで防いだが、見上げれば氷山の天辺に首を小脇に抱える完全武装の騎士・デュラハーンが立っていた。
 吹く風が一段と冷気を増した気がする。
 足に痺れを感じて、リリー・ストーム(ea9927)が倒れかけたのを同じ『戦乙女隊』のメンバーが支える。
「冷気対策は施してきたわ。まだ、どうこうなるような状態じゃ‥‥、!!」
 目を凝らせば、吹雪に混じって半透明の霊体が無数に飛び交っている。
 アンデッドはこれまでにも目にしていた。今更の存在ではある。
 しかし、ここに来て、明らかに数が増えている。
「各方面でアンデッド大量増殖中! 氷の溶解速度も上がって魔物の封印も次々解かれています! 急いで!!」
「不死者の群れの先に、エキドナ発見!!! アンデッド騒ぎは彼女の仕業だよ!!」
 偵察に走っていたキリ・ノーファ(ea8859)と春咲花音(ec2108)が血相変えて触れ回る。
「封印が解けたら、また封印するだけです!」
 ウイングドラゴンに騎乗し、空から迫るベアータ・レジーネス(eb1422)は動き出した魔物にアイスコフィンをかけて回る。
「対アンデッド拘束殲滅用のトラップは想定済み。面倒だが、ここから先には進ませられん」
 森里霧子(ea2889)は気心の知れた仲間と共に連携を図り、迫ってくるアンデッドに向けて罠で動きを制した所を一気に叩く。
「傷付いた仲間、祈りの儀式‥‥。近付けると思うな」
 放たれる怪光線。飛び散った氷塊をライトシールドでブロックしながら、『拠点防衛隊』のダリウス・クレメント(ec4259)も進撃を阻む。
 ズゥンビにグール、レイス、ブルーマンといった下位のアンデッドもひたすらに命を貪ろうと進み来る。
 飛び跳ねる傘化けに、氷すらも貪る餓鬼。郷里とは真逆の環境だろうに、マミーは生きる者に襲い掛かって病を広める
 あまりの量に、暴れる巨人に踏み潰される死者までいるが、そんなのが気にならない程次から次へと姿を現す。
「彼らの来る先にエキドナがいる‥‥。偵察の方で彼女の具体的な位置を知る者は!?」
「勿論、把握している!! 必ず横槍を入れてくる奴はいると注意していたが‥‥俺の目が黒いうちは、そんな事はさせやしない」
 イリーナ・ベーラヤ(ec0038)の問いかけに、『はぐれ屋『必殺』』のジェームス・モンドがミミクリーで鳥に変じて先導する。
「行かせると思うのかね。ここがどこなのか‥‥。場所を弁えて戴きたい」
 アンデッドの中に立ち、人そっくりの姿でそいつはにやりと笑った。
 むき出しになる犬歯。バンパイアだ。
「努力は必ず報われます。退かぬというなら、突撃あるのみ!!!!」
 『太陽騎士団』レジーナ・フォースター(ea2708)は聖者の剣を掲げると、ひしめくアンデッドの中へと飛び込んで行った。

(担当:からた狐)


●魔風使いの戦鬼
──コキュートス・エリア12
 氷原地帯を冷たい風が吹きぬける。
 地獄の遥か底、コキュートスでは、永久氷河の封印かより目覚めた『異形の魔物達』が、冒険者達に襲いかかっていた。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 激しい爆音と同時に、龍深城我斬(ea0031)が目の前の魔物に向かってバーストアタックを叩き込んでいる。
「ハアハアハアハア‥‥全く歯が立たない‥‥一体これはなんなんだ?」
 そう叫びつつ、次々と襲いかかる無数の触手を必死に躱わす我斬。
 彼の目の前の『魔風使いの魔物』は、様々な姿に形を変化させつつ、時折巨大な翼をはためかせる。
 その翼から発する突風は、受けたものを瞬時に塵へと変えていった‥‥。
「こ、こんな奴、一体どう戦えっていうんだよっ!!」
 必死に触手を躱わしつつ、その触手に向かって一撃を叩き込む。
「兎に角、攻撃が聞いているのは事実です。今は戦いつづけるしかありません!!」
  大宗院透(ea0050)がそう叫びつつ、手にした弓に矢を番える。
──ヒュンッ!!
 そしてやはり上空から飛来する、『翼を持つ水棲動物』に向かって一撃を叩き込む。
──グキュルルルルルルルルルルルルルルルッ
 絶叫しつつ、その魔物は大地に叩きつけられ四散する。
「この大きいのが恐らくボス。その周囲の飛んでいる奴はその眷族というところでしょう」
 瀬戸喪(ea0443)もそう呟きつつ、兎に角大きい魔物の触手目掛けて一撃を叩き込む。
 本体に向かっていくが、その無数の触手によって道を阻まれ、そのまま後退を余儀なくされてしまっている。
 それでも、数名の冒険者は果敢にも本体へと向かっていく。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
 レイジュ・カザミ(ea0448)がオフシフトを駆使しつつ、一気に本体へと間合を詰める。
──ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
 そしてその胴部へと渾身の一撃を叩き込むと、本体が苦しそうに蠢いた!!
──ブゥォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ
 突然、本体が上空へと飛来する。
 そして巨大な翼を広げたかと思うと、『魔風』を眼下の冒険者に向かって叩きつけた!!
──ドササササササササササササササッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ
 数名の冒険者はその魔風をもろに受けて、瞬時に塵芥と化した。
「範囲が狭いのが救いですね‥‥」
 タイタス・アローン(ea1141)が被害の出ているエリアを確認しつつそう呟く。
「ソンナこと言っている場合かよっ!! 本体はこっちにターゲット変更したみたいだぜっ!!」
 鷲尾天斗(ea2445)がそう叫びつつ抜刀。
 そのまま遅い来る触手に向かって一撃を叩き込んでいた。

 このエリア、冒険者と魔物の戦い、互角‥‥。

(担当:久条巧)


●祈りへの道
 極寒の地をやわらかに照らすホーリーライトの灯りが、あちこちに灯っている。『ベイリーフ』の琉瑞香(ec3981)が次々と作り出したものを、本人や仲間が祈りの場が作られる地域に散らして、アンデッドが近寄るのを防いでいる。
 それでも近付いてくるデビルはクレア・エルスハイマー(ea2884)の魔法付与を受けた【西中島隊】の面々や『拠点防衛隊』のルーラス・エルミナス(ea0282)など、魔法と武器防具と祈り紐とで瘴気の障壁に少しでも耐える態勢を作った人々が蹴散らしていく。
 『ベイリーフ』のオイル・ツァーン(ea0018)が武器に祈り紐を結んで障壁を打ち、それで僅かだったが瘴気が退いた。これまでは魔力ある武器でもほとんど効果がなかったため、その戦果はシリル・ロルカ(ec0177)のテレパシーでチーム以外にも広がり、多くの者が祈り紐を付け替えて祈りの場の安全確保に務めるようになっていた。祈りの結晶でも同様の効果があって、障壁を削って祈りを届かせようと尽力する者達がいる。
 そうやって保持されている場所に入れる位置には、『アルボルビダエ』のチサト・ミョウオウイン(eb3601)らが張ったミラーオブトゥルースの魔法鏡が、姿を偽って潜り込もうとするデビルやカオスの魔物を探している。人以外に化けて、目を晦まそうとする輩にはリーヴィルエネミーを使う九烏飛鳥(ec3984)などが走り回った。
 この間にまずは聖火を灯し続けるための道具が運ばれてきて、使いやすそうな場所に積み上げられる。合間の祈る人々が座るだろう場所には、朱鈴麗(eb5463) が毛布を敷いて回っていた。
 やがて、聖火が運ばれてくる。

(担当:龍河流)


●女王は哂う
 死。
 死。
 死。

 凍土に満ち行く負の命。咽び泣く怨嗟と憤怒が風と共に吹き荒れる。
 中心にいるのは麗しの美女。ただし、その下半身は蛇。
 花の顔に恍惚とした笑みを浮かべながら、魔女王エキドナは次々とアンデッドたちを生み出していた。
 その顔が不意に歪む。
「こそこそ隠れるのが趣味か? さすが神の申し子よ」
 唸りを上げて尾が振るわれると、山のような氷があっさりと砕ける。
 陰から身軽に飛び出したのは、偵察にしていたアペ(eb5897)。
 アンデッドを越えて、エキドナに向かい人間たちが取り囲んでいる。
「‥‥敵が組しやすくなるまで動かぬ心づもりか? 皇帝よりも、子らと自らの為に動いているように見えるが?」
「何が悪い」
 アペの問いに、ふん、と鼻で笑う。
「無数に現れるアンデッドと巨人。上級デビルならアンデッドを操るスキルも不思議でないが、この量は多すぎないか? 皇帝の護衛役か?」
「総大将を護る心意気は見上げたもんだが‥‥、俺らも退けないンでね!」
 周辺のアンデッドに睨みつけるオルステッド・ブライオン(ea2449)に、美淵雷(eb0270)も太刀・三条宗近を構え牽制する。
「護衛だと!? そんなもの必要無い!!」
 返答はといえば、いきなり爆笑された。
 涙を流す程大笑いするデビルも珍しいが、じっくり鑑賞もしてられない。 
「分からぬか、この力が‥‥。お目覚めになられて以来、高まり続けている‥‥。我らの暁、我らの希望。不遜なる大いなる光にも屈せず闇に輝き続ける、偉大なりし宵の明星!」
 饒舌に賛辞を述べるエキドナ。
「あの方の守護など不要。なれば、妾は妾の為す事を為す。封印に眠らされた、憐れな同朋と我が子等に自由を!!」
 エキドナの咆哮と共に、またアンデッドが増える。
「もはや、ゲヘナを手に入れるまでもない! 混沌の瘴気が妾の力となる!! 丘に集う負の魂たちよ、妾の元へ来たれ! 新たなる生として再び生まれ出でよ!!」
 尽きる事無く、生まれてくるアンデッドたち。
 ひしめく死の波が冒険者らへと襲い掛かる。
「土塊の子が天の祈りを運ぶなら、地の瘴気を広げよ! 封印を砕き、死を捧げよ!」
 狂笑が、氷の大地に木霊する。母の言葉に従い、死人たちはコキュートス全土へと歩を進めていく。
「儀式場・救護所を守る為にも、進めさせはしません!!」
 レミエラの力を借り、『拠点防衛隊』のルメリア・アドミナル(ea8594)は扇状にライトニングサンダーボルトを繰り出す。
 放たれた威力は超越。たった一撃でもばたばたと死者が死に還るが、その後ろから新手は続々と押し寄せている。
 倒した数だけ、エキドナがまた生み出しているのだ。
「元を断たねば、意味が無い」
 シュトレンク・ベゼールト(eb5339)が告げる。力量弁え、周囲と連携を図って対戦するが、それもいつまでも持つものでない。
「アンデッド退治ならお任せを!」
 オグマ・リゴネメティス(ec3793)が魔除けの風鐸を掲げる。
 例え、エキドナから生み出されようとアンデッド。吹雪に煽られ、派手に鈴の音を響かせるそれに死の穢れたちは忌避を示し、遠ざかろうとする。
 ひしめきあっていた死人たちが、余計な動きが生じた事で少しの混乱が起きる。
 そこをすかさず、エキドナへと攻め込む一団がある。
「エキドナ! 決着をつけるよ!!」
 ゴーレム兵器を使ってアンデッドたちを蹴散らす『☆ メイ・ゴーレム隊』。ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)は飛び出すと、エキドナへと向う。
 しかし、出現した巨大な髑髏がゴーレムに組み付き、動きを阻む。
「孝行者が多くてのぉ。まこと忠義な事よ」
 笑うエキドナ。
 ゴーレムで蹴散らされた後が再び死者で埋められる前に、駆け抜ける者もいる。
「地上の敵、空からの敵。何れも邪魔はさせませんよ」
 ルイス・マリスカル(ea3063)はやや後方に位置して、迫る敵を排除にかかる。氷の剣より振るわれる衝撃波で、近寄りかけていたレイスが大きく裂かれた。
「敵将、首と消えよッ!!」 
 『Ochain』の雪切刀也(ea6228)がエキドナへとグレートブレーメンソードを振るう。
 冷たく見据えてくるエキドナを眼前にして、巨大な氷塊が飛んでくる。
 とっさに躱したところを、横から強烈な尾の一打。もんどりうって地面を二転三転する。
 エキドナを守るように、渦を巻いて転回する氷の礫。ポルターガイストだ。
「産屋で騒ぐとは無粋も甚だしい」
 阻まれても何度でも挑みかかる覚悟。だが、相手にその気は無い。
 軽く嘆息すると、すぐにその姿が消えた。相変わらず、転移だ。
「待て!」
 叫んでも、声は虚しく死霊の嘆きに飲まれる。
 エキドナにしてみれば、別の場所でまた新たに手勢を生み出せばいいだけ。ここで戦う必要など無いのだ。

(担当:からた狐)


●マグマ使いの戦鬼
──コキュートス・エリア24
 ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ。
 大量の爆音と同時に、これまた大量の冒険者が上空へと吹き飛ばされている。
 突然足元に亀裂が走ったかと思うと、大量のマグマが噴出したのである。
 その直撃を受けて空中に放り出された冒険者立ちは、瞬時に全身を焼かれて絶命している。
「こ、こんな化け物‥‥いったいどうやって戦えって言うんですかっ!!」
 ケイ・ロードライト(ea2499)が目の前に立つ『溶岩に身を包んだ魔人』に向かって呟いている。
「まあ‥‥常識的に考えて無理でしょうねぇ‥‥」
 ルイス・マリスカル(ea3063)がそう呟きつつ、手にした雷公鞭を叩き込む。
 だが、ほとんどといってよいほどダメージは入っていない。
「ふむ‥‥やはり華国にある『オリジナル・雷公鞭』でなければかなりのきついですねぇ‥‥」
「そんな余裕をかましている場合かよっ!!」
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 そんなルイスの独り言とほぼ同時に、メイのヴァルキュリアが『溶岩に身を包んだ魔人』に向かって一撃を叩き込む!!
「手、手応えが殆どない‥‥これって反則ぢゃん」
 制御胞にいる利賀桐真琴(ea3625)があっけにとられてそう呟く。
 ちなみに溶岩魔人のサイズはヴァルキュリアの約3倍。
 その一撃がヴァルキュリアに向かって伸びたが‥‥それはあっさりと躱わされた。
「大きいだけで動きはそれほど早くないが‥‥」
 額から流れる汗を拭いつつ、真琴がそう呟く。
 この溶岩魔人の近くに居るだけで汗が吹き出す。
 ゴーレムの制御胞の中は今、まさに蒸風呂状態。
 このままあと10分も前線に居たら、真琴は熱射病にでも掛かってしまうであろう。
 止むをえず後方へと撤退するヴァルキュリア。
 そのまま成す術もないままに、溶岩魔人は周囲の冒険者達を蹂躪していった。

 このエリア、冒険者側の敗北‥‥。

(担当:久条巧)


●極寒の中の灯
 瘴気の障壁近くで祈りが捧げられている頃。程近い救護所はすでに多数の怪我人が運ばれてくるようになっていた。
 【ジャパン医療局】の白翼寺涼哉(ea9502)などが張り巡らせた聖なる釘をはじめとした聖なる結界が、運ばれてきた者達を守っている。その多くはヴィスコ・ヤンセン(eb2270)や皇天子(eb4426)、『マジカル特戦隊』のレイズ・ニヴァルージュ(eb3308)達が手当てや治癒魔法での回復に当たる。合間を巡って、水や軽食を取らせる者達も少なくない。
 なにより、氷の世界に満ちる瘴気と身体を髄から凍らせるようなここでは、炎を絶やすことは出来ない。『白騎士団』の運び込んだ大量の荷物を解いて、フローラ・タナー(ea1060)は中身を必要な場所に配分した後、今度はその箱の多くを解体していた。どうせ空箱を持って帰るなど、騎獣や荷車の無駄な使い方。連れて帰るべき者がいるのだから、箱も燃料にすればよい。袋は紅谷浅葱(eb3878)が、皆から集めた同様の不用品や補修が必要なものと合わせて、祈りの場との荷物運搬に役立てていた。何人か、怪我から回復したばかりの者も手伝って、皆の装備の手入れも出来る範囲でする。または祈りの場に、回復薬を運んだり。
「あなたはまだ軽いから、その重症者を連れて歩いていって」
 だが、中には【誠刻の武】京都隊のクーリア・デルファ(eb2244)のように祈りの場やその周辺で、怪我人や瘴気に当てられた者を見付けては、救護所に送り込む者も多数いる。回復薬だけで対応出来ないこともままあるためだ。
 それでも時には救護所へ運ぶ暇もなく息絶えたり、意識がないために所属も出身国も判然としない者も混じってくる。『江戸雛隊』のリンデンバウム・カイル・ウィーネ(ec5210)は、その中でも特にすぐの治療を要さない者の所持品から身元を確かめ、『世界騎士団』のフォルテュネ・オレアリス(ec0501)がアイスコフィンで凍らせて、後方に送り返していた。地上輸送部隊も複数いるが、本人に縁がある国に託すのがいいに違いない。
「ホラ、ひと休みしな。まだ先は長いんだ。きちんと休憩もしなきゃ駄目だよ」
 そうして救護所では、祈りに集中するあまりに瘴気を深く吸い込んでしまって倒れたり、聖火を運ぶ途中で傷を負った者などが、逸る気持ちを『陽光隊』のベアトリス・マッドロック(ea3041)に宥められつつ、解毒や浄化の魔法を掛けてもらっていた。まだ儀式が始まったばかりで結構な人数が運ばれてくるので、これからが用心のしどころだろう。
 この慌しさは、撤退の号令が伝わって、皆が自分達の世界へと戻るまで終わることはない。

(担当:龍河流)


●その王、混沌に満ちて――彼が待つものは
 瘴気の障壁――そこに悠然と姿を現したのは境界の王。
 障壁に向かって殺到する冒険者達、対する魔物達を上空から見下ろしている。
「ククク‥‥あと少し、あと少しだ‥‥」
 障壁の濃度はどんどん上がっている。冒険者達の彼らに向ける悪意や殺意もその役目に一役買っているのだ。
 対抗するように祈りの儀式も行われている。人の『想い』とやらは厄介だが、だがまだ彼の動きを止めるには至らない。
「マルバス!」
 名を呼ぶ声が聞こえた。境界の王の翼をジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)の矢が掠める。
「貴様を倒せば瘴気もおさまるのか?」
 矢は翼を掠めただけだ。滞空する境界の王を地に落さねば、攻撃すら出来ない者も沢山居る。
 そんな中、【誠刻の武】、【誠刻の武】京都隊、及び彼らに協力する者達は非常に良く統率の取れた動きをしていた。全ては団長の陸堂明士郎(eb0712)の指揮に従うと統一された意思は、境界の王の動きにも素早く対応した。
「遠距離攻撃のできる者は境界の王を狙え! 他は祈りに従事する者を守護しながら、境界の王の接近に備えよ!」
 明士郎の指示にそれぞれが返答を返し、役目を果たすべく散る。
 キルト・マーガッヅ(eb1118)のウィンドスラッシュが、所所楽林檎(eb1555)のブラックホーリーが境界の王を狙う。
 ――ゴウッ‥‥!
 境界の王の巨大な翼から仰ぎだされる熱風が冒険者達を襲う。思わず腕で目を覆い、または目を閉じたところを狙って境界の王は接近――鋭い爪で前衛に位置どる者達を切り裂いて行った。
「翼を狙うんだ! 地に落としてしまえばこちらにも攻撃の手段が増える!」
 再び上空に飛び上がっていく境界の王を恨めしそうに見て、射撃部隊指揮官である菊川響(ea0639)は声を張り上げる。
「任せとけ!」
 フレア・カーマイン(eb1503)が弓に矢を番える。アザスト・シュヴァン(ec5560)、志波月弥一郎(eb2946)、レジー・エスペランサ(eb3556)が申し合わせたように一斉に矢を放った。
「戦闘中でも祈りを込めて戦うぜ。それが力に変わるとと信じてなぁ!」
 八城兵衛(eb2196)がソニックブームで羽根を狙う。
「協力するよ!」
 【VizurrOsci】のフレイア・ヴォルフ(ea6557)が同じく弓を持って狙いをつけた。
「甘い‥‥甘いな‥‥。祈りの力と瘴気の力、どちらが勝つか――そこで静観しているか?」
 いくつかの攻撃は境界の王を傷つけたが、彼を地に落すには至っていない。冒険者達は対境界の王よりも祈りの儀式の防衛に力を割いている者達が多く、境界の王を倒すには決定打が足りない。相手が滞空しているが故に、いくら強力な武器、強靭な身体を持ってはいても、遠距離攻撃手段を持たぬ者は境界の王が攻撃を仕掛けるために自ら降りてくる瞬間を狙うしか出来なかった。
 だが、境界の王は殆ど降りてこようとはしない。まるで、何かを待っているかのように――。
「祈りの力、思いの力。心の力よ、障壁を貫く形を!」
 マナウス・ドラッケン(ea0021)の叫び。だが障壁の守り人、境界の王は祈りに固執する冒険者達を嘲笑うかのようにクックッと声を上げて。
「降りてきて、正々堂々勝負を!」
「正々堂々‥‥?」
 月詠葵(ea0020)が呼びかけたが、魔物である境界の王には正々堂々と戦うような精神は存在しない。一笑にふし、そして自らの周りに黒い靄のような――恐らく瘴気そのものを集めると、一斉に冒険者達へとぶつけた。
「うわぁぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
 濃度の高い瘴気をぶつけられた冒険者達から悲鳴が上がる。
「少しでも瘴気を抑えられれば‥‥」
 グリフォンにまたがったコルリス・フェネストラ(eb9459)が上空から竪琴を奏でるも、一人による微々たる力はどれだけ効果があるのか判断をつけがたい。
「ミリアは今の世界と今の皆が大好きだよ。だから、皇帝なんかにはあげないよ!!!」 祈紐をつけたホーリーアローを番え、ミリア・タッフタート(ec4163)が境界の王を狙う。
「力では叶わなくても、でも思いだけは絶対に負けないんだからーー!」

 ――ザシュッ!

 その矢は境界の王の右の翼の先に刺さった。だが彼は傷などまるで気にしていない様子で、それよりもミリアの言葉が気にかかったようだった。
「皇帝? ああ、ルシファーの事か。あいつも今やデビルの王としての面影は殆どない‥‥。間もなくその姿を現すだろう――この混沌から生まれいずる瘴気に、カオスに汚染された姿でな!!」
「皆の祈りは闇に満ち溢れたこの世界を明るく照らす一筋の光明、我々の戦いはそれを導に道を切り開く無限の力!!」
 常葉一花(ea1123)が対抗するように叫んだ。だが境界の王は高らかに笑い声を上げ。
「祈ることしか出来まい? 我を倒す事が出来ぬ以上、そのまま汚染された魔王の復活を見ているがいい!!」
「見ているだけなんて、そんなこと出来ないわ!」
 リーリン・リッシュ(ec5146)が雷撃を放った。だが初級レベルのそれは境界の王を傷つける事は出来ない。
「案外面白いものが見れるかも知れぬぞ‥‥? ルシファーの従順なる僕、地獄の建築士の慌てふためく姿がな‥‥」
 祈りの陣を必死に守ろうとする冒険者達の上に、クックックックッと、境界の王の耳障りな笑い声が降りかかった。

(担当:天音)


●集まりゆく祈りの力
「気になるのう、ムルキベルの言葉」
 瘴気の濃度を増すという悪魔の言葉は、裏を返せば減らせるという意味ではないのかとアナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)は考える。
 連中の力を弱らせると言えば、これまでは「祈り」だったけれど。
「他にも水や浄化で澱みを取るようにはいかぬかの」
「やってみれば良いのさ」
 悩むよりもまずは行動。
 それで結果が出なけりゃ基本に返ればいいと腕を捲くったエリオス・ラインフィルド(eb2439)は懐から回復薬を取り出した。
 瘴気が穢れならば清めて浄化すれば良い、あるべき姿に戻すだけ。
「混沌だって無じゃない、あらゆる生と死を内包しているんだからな。無だけで語るなんざカオスが聞いて呆れるぜ!」
 言い放ち、手の中の回復薬を壁に向けて豪快に撒き散らす――が、変化は、ない。
 同様に、そんな彼と似た予測を得て瘴気の壁にディストロイを食らわせる室川風太(eb3283)は、二度、三度と術を食らわせる内に攻撃魔法が一切の効果をもたらしていない事を認めざるを得なくなっていた。
「本当に神が人も悪魔も見限ったのなら、この世も地獄もとっくに消滅しているだろうに‥‥」
 風太は痛ましそうにその表情を歪めた。
 再現神の力が無力だとするならば、人は。
「‥‥可哀相なのはおまえだよ、ルシファー」
 不意に傍らから零れた呟きに視線を移せば、室川雅水(eb3690)が障壁の向こうに目を細めていた。
 風太はその言葉へ応じるに相応しい言葉が見つからず、同じく視線だけを障壁の向こうに注ぐ。
 その内に耳を打つ楽の音は彼の手元、竪琴の音。
 攻撃という名の力が瘴気の壁には無意味ならば、やはり基本に返るまで。
 歌と、舞と、音楽と。
 四方八方から聞こえて来る不協和音は、祈りの儀式の為に彼らが音合わせを始めたからだ。


 揃わぬ楽の音、歌声の中。
 ガルム・ダイモス(ec3467)やアルファ・ベーテフィル(eb7851)ら大勢の者達の協力によって、アトランティスのフロートシップやチャリオット等のゴーレム機体が、この地獄の最下層まで祈りの儀式に必要と思われる品を続々と運び込んでいる。中にはブレイズ・アドミラル(eb9090)や張真(eb5246)のように己の立場を利用し、ジ・アース、ジャパンの国の寺院や教会から協力を得る者も少なくない。
 誰もが願うのはこの戦の終わり。
 平穏な日々の再来。
「及ばずながら祈らせてもらいます」
 ロラン・オラージュ(ec3959)のように己の力がどれほどの効果を齎すか定かでないながらも、氷の大地に膝を付き、立てた剣の柄に額を乗せ、閉じた瞳の奥に思い浮かべるのは――。


「この歌が道となるなら、誰よりも強く響かせるよ」
 長い髪をふわりと揺らし、ミリート・アーティア(ea6226)が拳を握れば、花井戸沙耶(eb4297)が遠慮がちに声を上げる。
「相変わらず力不足なんだけど‥‥ちょっとでも力になりたいのよ」
 そんな彼女の呟きに、歌で祈りを届けようという仲間達は皆が微笑む。
「気弱な事、言っちゃダメ。大事なのはその気持ちなんだから」
 ミーティアがぽん、と沙耶の肩を叩く。
 大丈夫。
 そう励まし合う彼女達が歌う詩は、白翼寺花綾(eb4021)が紡いだもの。
「心から湧き上がる思いを曲に託し弾くデス」
 ユーリユーラス・リグリット(ea3071)が言うように。
「泥沼の虹に光が当たるイメージでっ」
 ジュディス・ティラナ(ea4475)が言うように。
 腕に橙色の祈紐を結び。
「さぁ、始めようか!」
 ばさりと勢い良くローブを脱いだアニェス・ジュイエ(eb9449)に応えるように舞人達が足を踏み鳴らす。足首の鈴、手にした神楽鈴、しゃららんと鳴り響く涼やかな音色は永久凍土の世界に澄み渡り。
 太陽の見えない、この大地に。
 心の真ん中、愛と言う名の太陽から光を――。
「いっくよー!」
 アニェスの陽気な声に重なる軽快な楽の音。
 弾むように。
 転がるように。
 舞人達の足音すらも楽の音に。
 歌う、祈りの言の葉。
 陽気に、優しく、
 穏やかに、楽しく。
 繋ぐ手、重なる鼓動、溢れる熱。
「もう一回いくよー!」
「さぁ歌おう」
「大切な人達の無事を祈って!」
「この戦いの終わりを願って!」

 冒険者達の心は一つになる。

「あ‥‥」
 不意に聞こえた、微かな亀裂音。
 それは本当に僅かな。
 障壁全体からしてみれば掠り傷にもならないような、そんなものでしかなかったけれど。


 だが、それは確かな成果だったのだ――。

(担当:月原みなみ)


●混沌〜カオスに侵されし悪魔王
 瘴気の障壁――。
 渦巻くカオスの力は分厚い壁となって万魔殿を取り囲んでいた。黒々とした淀んだ障壁は、かすかにその奥に壮大な万魔殿を映し出している。間違いなく、悪魔の皇帝ルシファーがこの壁の向こうで動き出している。増大するカオスの力は、今やルシファーを取り巻き、さらにその勢力を増している。
 境界の王マルバスは、障壁の上を飛びながら瘴気を操り、障壁を増大させていく。
「ルシファーが完全な態勢を整えるまで、人間どもには何もさせん‥‥。ふふ‥‥満ち満ちよカオスの力‥‥ルシファーを飲み込み、大地を、天界を‥‥全てを混沌に帰すのだ。堕天の王を呼び起こせ‥‥全てが混沌のカオスに飲み込まれる時、長きに渡る戦いに終止符が打たれるのだ‥‥今こそ、全てを混沌に‥‥ふふ‥‥はははっ!」
 彩月しずく(ec2048)ら偵察メンバーはその言葉を聞いて、マルバスの狙いがルシファー復活だけにのみならず、混沌の力を解き放つことにあると知る。
 絶望的な状況の中、魔物が押し寄せ、マルバスは瘴気の渦を冒険者たちに叩きつける。冒険者たちは懸命に戦い、魔物の攻勢を跳ね返していくが‥‥。瘴気の直撃を受けた者の中には、地獄病と似たような症状を発症する者が出る。ベアトリス・マッドロック(ea3041)はアンチドーとやピュアリファイで仲間を浄化する。
「何てこったい‥‥みんな無理するなよ。俺救護隊がカバーする。苦しい奴は言ってくれ、すぐに直してやるぞ」
 絶望的な状況の中、冒険者たちは戦い、守り、そして祈った。
 アゲハ・キサラギ(ea1011)は夫の無事を祈って、祈りの舞を捧げる。思いを込めて、愛を込めて‥‥。
 瘴気の壁に効果があるのは戦う力よりも祈りの儀式であった。これもまた戦いである。儀式を行う者たちはそれぞれに思いのたけをこめて祈りを捧げる。
 心から沸き上がる思いを曲に託して演奏するユーリユーラス・リグリット(ea3071)、思いを込めて歌と踊りを叩きつけるリフィーティア・レリス(ea4927)ら、みなの思いが、祈りが、歌声が地獄の最下層に響き渡る。
 多くの冒険者たちの力が、障壁に少しずつだが穴を開ける。
「やったぞ!」
 だが、それも束の間、穴はマルバスが操る瘴気に埋められていく。
 ここへ来て、祈りもカオスの力の前に押し戻され、圧倒的な混沌の力が、カオスに汚染された巨人兵士たちが、冒険者たちに容赦なく襲い掛かる。
 冒険者たちは剣を立て、魔法使い達は力の及ぶ限り詠唱し、伝令役のシフールが戦場を往来する。救護班は懸命に戦線を建て直し、祈りを続ける者たちはそれでも諦めずにカオスの力に抵抗を続ける。
「無駄なことだ‥‥人間たちよ」
 マルバスの声が響く。
「カオスこそ全ての始まり。今、全ては終わりの始まりへと向かおうとしているのだ。小さき人の力など、神魔創生に匹敵する大いなるカオスに通じるとでも思うのか。お前達はルシファーに為す術もなく打ち倒されるのだ。いや、もはやルシファーを倒したとて手遅れよ。あれを飲み込むカオスの力は誰にも、神々にも止めることは出来ん。あまねく世界はカオスに飲み込まれることだろう」
 だが、冒険者たちは突き進んだ。世界の破滅が始まろうとする中、彼らはルシファーの元へと進む。
「祈りの力、思いの力。心の力よ、障壁を貫く形を!」
 【VizurrOsci】のマナウス・ドラッケン(ea0021)が、【誠刻の武】主席の陸堂明士郎(eb0721)がみなを奮い立たせる。
 祈りの力がうねりとなって瘴気の壁を歪ませる。
「愚かな‥‥」
 マルバスの口もとが吊り上がる。
「何ゆえ進む人間たちよ」
 と、そこで先の戦いで姿を見せたルシファーの幻影が浮かび上がった。
「構わぬ、マルバスよ。その者たちを通すがよい」
「皇帝陛下‥‥!」
「余の支度は整いつつある。ここまで来た小さき者たちには、最後を見届ける褒美があろう。余も、小さき者たちに応える義務があろう。あまねく世界を統べる余の力、見せてくれようぞ」
「は‥‥」
 マルバスはおとなしく引き下がったが、その口もとには笑みが浮かんでいた。
「カオスに飲み込まれし悪魔王よ、全てを破壊し、あまねく世界を混沌に帰すがいい‥‥」
 明士郎はマルバスをちらりと見やると、ルシファーを振り仰ぎ、みなの先頭に立った。
「全てを終わらせよう。ルシファーと決着をつけて、俺たちの世界へ帰ろう。進む先に、必ず道はあるはずだ」
 冒険者たちは、沈黙を保つ瘴気の壁を見つめるのだった。果たして、ルシファーを倒し、カオスの暴走を食い止めることは出来るのか‥‥。
 期せずして、冒険者たちと、世界の命運を決する最後の戦いが始まろうとしていた。

(担当:安原太一)