第3回行動結果報告書

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黙示録の戦いの勇姿を!

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<第3回開戦状況>
第3回ではバアルが残りの戦力を投入すべくタイミングを図っている様子です。
バアルの魔力「赤の書」の発動を少しでも遅らせるため、本陣を奇襲すべきとの提案もありますが、荒野での戦線が構築できなければ、奇襲兵力を届けることはできないでしょう。
また、ディーテ城砦では情報をつなぎ合わせるためと探索範囲が広がりすぎたことに、いったん奥への進入を中止することになりました。あわせてリアルタイムな変動に対応するために、伝令を用いての連携の強化が考えられており、これがうまくいけば城砦の攻略も楽になるでしょう。
ゲヘナの丘では変わらず瘴気を含んだ魔力が漏れ出している状態です。バアル軍に占拠されれば再び、デビルの魔力の源として使用されることは明白なこと、また主戦場のバアル軍の数を少しでも減らすべく、重要視される場所であることは間違いありません。


第3回行動入力時戦力状況
参加人数:940人
敵陣荒野城砦合計バアル軍は荒野に布陣!


赤の公爵 ゼパル
イラストレーター:岩澄龍彦

モレク卿が倒されたと
聞いた時は驚いたが‥‥。
こんな様子だとはな。
彼の方も油断も過ぎたものだ‥‥。
白兵戦 12.5% 7.7% 6.4% 6.7% 33.5%
救護・防衛 3.6% 8.7% 5.1% 5.7% 23.1%
偵察 2.3% 1.5% 2.4% 5.4% 11.8%
調査(デビル) 0.4% 0.2% 0.4% 1.7% 2.7%
魔法戦 3.5% 3.2% 1.9% 2.4% 11.1%
祈り 0.2% 0.3% 9.3% 0.5% 10.4%
伝令 0.9% 1.3% 1.2% 2.6% 6.2%
調査(カオス) 0.1% 0.1% 0.2% 0.4% 0.8%
合計23.7%23.4%27.2%25.6%100%



第3回援護行動結果(4月14日〜4月20日)
参加人数:1055人

達成率行動人数総計  作戦への影響
救護111.9%  363人防衛力アップ
武具の手入れ90.8%  242人
慰労会92.0%  339人
炊き出し・物資確保86.8%  351人
陣地作成113.0%  375人防衛力アップ
偵察100.1%  362人
調査96.6%  373人
ディーテ探索171.8%  654人探索基本情報取得
ゲヘナの丘援護184.6%  606人バアル軍押し返し(ゲヘナの丘攻防戦修正+15%)



<第3回戦況>
第3回は対ムルキベルと対バアルで、結果が大きく分かれました。
城砦内での探索は、ついに法則性を把握。変化を予測して奥へと進むことが現実的になりつつあります。
ゲヘナの丘では丘で行動した者のみならず、皆で祈りを込めた紐を持つ「祈紐」が行われ、状況が改善しつつあります。また援護活動・ゲヘナの丘攻防戦により、こちらに派兵されているバアル軍も押さえることに成功しています。
荒野ではバアルの魔力を止めるべく突撃作戦が行われました。最大戦力が結集しましたが、物量差にくわえて正面からの激突となったこと、また個々の連携の不足からか、本陣襲撃は失敗に終わり、バアルとの交戦は行われていません。
しかし、多くの兵力を本陣側に釘付けにすることに成功しており、ゲヘナの丘方面及び城砦近くの主戦場には追加の戦力は投入されませんでした。援護活動による陣地の作成や救護体制の強化もあり、戦場後方では防衛に成功している状態です。

第4回では荒野の戦場での対決と、城砦の調査・探索の2点が重要視されています。
城砦の変化法則の予測が立ったことから、城砦奥に潜む敵の調査を行うことが可能になっています。しかしムルキベル自身が改めて行動を開始したとの情報もあり、法則性が変えられる可能性もあります。
またゲヘナの丘の魔力が減少を開始したことはバアルにとっては見逃せないらしく、主戦場で優位を確保していることから、ゲヘナの丘への戦力追加が画策されている模様です。エキドナの目撃情報もあり、同時に襲撃される可能性も指摘されています。
荒野の主戦場では先回と同じく、バアルの魔力を止めるための行動が求められています。バアルはこれまでの戦果から多少油断しており、またバアル軍の一部を今回ゲヘナに向かわせるため、本陣は第3回より手薄となると予測されています。
しかし圧倒的な物量差と魔力をくつがえし本陣への襲撃を成功させるには、後方戦線の防衛を考えての更なる戦力の投入か、各チームでの綿密な連携を含む何らかの策が必要となるでしょう。

結果概略

成功結果冒険者の状況次回敵行動予想
博識なる公子 ストラス
イラストレーター:つづる

ムルキベル様の懸念‥‥
人の底力。
侮るは早計でしょうに‥‥。
バアル殿もお遊びが過ぎる。
敵本陣  × 戦力差埋めれずバアル様子見
荒野  △ 戦線維持バアル軍進軍
ゲヘナの丘  ○ 祈りが効果エキドナ襲撃?
城砦  ○ 法則性確認ムルキベル出現?



■第3回報告書

●戦場から、届け祈り
 城砦前荒野ではゲヘナの丘での祈りに参加できないものの、祈りの気持ちは有しているという者達が沢山いた。彼らは【祈紐】と呼ばれる、事前に紐に結び目を作る行動で祈りの場を支援していた。
「おいら、みんなが勝てるように頑張ってお祈りするね」
 デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)がゲヘナの丘に向かって祈りを捧げ始める。同時にエルウィン・カスケード(ea3952)も勝利を願って舞を始めた。
 ゲヘナの丘では大規模な祈りの儀式が始められているだろう。
 この場にいる者たちは祈り自体に参加できない者も多い。なぜならば救護や防衛の手をゆめるめることが出来ないからだ。
 クァイ・エーフォメンス(eb7692)やソード・エアシールド(eb3838)、イシュカ・エアシールド(eb3839)、桜葉紫苑(eb2282)、ミリア・タッフタート(ec4090)は救護所を守り、そして敵と戦いながら。
 エルシー・ケイ(ec5174)やベアトリス・マッドロック(ea3041)、リュンヌ・シャンス(ea4104)にレイチェル・ダーク(eb5350)は治療を行いながら。
「せめて己が役目全うし亡き人に祈りを」
「ジーザス教[黒]の信徒として祈らせて頂きますわ」
 ラルフェン・シュスト(ec3546)もレリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)も。
「祈りはきっと届く筈」
 リュシエンナ・シュスト(ec5115)もチサト・ミョウオウイン(eb3601)も紅谷浅葱(eb3878)
 それぞれがそれぞれの役目を果たす手を止めずに、心の中では祈る。
 今、手を止めてしまってはそれこそ犠牲者が増えるだけだから。
 だから、彼らは手を止めない。
 祈りの場に向かった仲間たちを信じて。
 そして、祈りの場に想い届け、と。

(担当:天音)


●祈紐
 戦いの気配がする。遠いようでいて、近い。神妙な面持ちで祈りーーいや、鎮魂を願う儀式の準備を行っている丘の麓で、バァルの軍と仲間達が激しい戦いを繰り広げている。ゲヘナの祈りを守る為に。
「どれ、ならばワシも」
 どっこいしょと立ち上がったダルマ・ダルシム(eb1696)は「祈紐」と皆が呼んでいる、幾つもの結び目がある紐を抱えて忙しく走り回っていたサラン・ヘリオドール(eb2357)の肩を叩いた。
「お嬢さんのような若人に知り得る知識を伝えるのも、また我らの勤め。冠婚葬祭は、古今東西において様々な作法があるのだよ。あちらの国では死者を悼む作法が、こちらの国では死者を冒涜する。そのような事になっては大変だべ。よろしいか」
「え、え? あの‥‥」
 いきなり話しかけて来た見知らぬ老人に、サランが戸惑うのも無理はない。しかも、今は皆の大切な想いが託された「祈紐」を、祈りを繋ぐという大事な作業中なのだ。
「ワシも祈ろうか。それで少しでも祈る者達の力になれば本懐じゃて」
 祈りに参加しようと言う者を無下には出来ない。サランはダルマを見上げて笑む。
「私達の力は小さくても、心を1つにすれば、必ず犠牲になった人に届くとーー」
 柔らかく言葉を紡ぐサランの眼前で、ダルマはパンと手を合わせた。
「お手々の皺と皺を合わせると、しあわせというんでの。南無〜」
 深々と頭を下げたダルマに、サランは微笑みを浮かべたまま凍り付いた。
「うむうむ。死ぬ前にええ事1つ、ありがたい事じゃ」
「もう、おじいちゃん! 死ぬなんて不吉な事、今言っちゃ駄目だよ!」
 小さい体に渾身の力を込めて、リル・リル(ea1585)はダルマの背を押す。固まったままのサランに「ごめんね」と謝ると、リルはダルマに余っていた楽器を押しつけた。
「歌が始まったら、それを歌に合わせて叩くんだよ。皺と皺を合わせるより気持ちを込めてね」
「うむ」
 とりあえずこれでヨシ。
 次は‥‥と、リルは周囲を見回した。
 準備は滞りなく進んでいるようだ。
 仲間達がバァルの軍勢を抑えてくれている間に、祈りを捧げなければならない。下にいる仲間達も、ずっと戦い続けていられるわけではない。彼らの負担が相当のものである事は、儀式の合図について伝える為に麓へと下りた伝令のレナフィーナ・フリーア(ea8009)から聞いている。
 幸いなのは、【白騎士団】が繋いでいる補給線に妨害が少ない事だろうか。李斎(ea3415)が運んで来る聖別された品々がゲヘナの炎を沈静化させると知るバァルの軍やエキドナが攻撃を仕掛けて来る事も予想されていたが、護衛役のシーダ・ウィリス(ea6039)が物足りなく感じるほど順調に、各国、各地からの援助品が届いている。
「リル〜! も〜すぐはじまるだわん!」
 カルル・ゲラー(eb3530)の肩に乗っかってリルを呼ぶ鳳令明(eb3759)の手には、ゲヘナの丘に申し訳程度に生えていた木で作ったおもちゃがある。犠牲になった子供達の魂を慰める為に、と令明が作ったものだ。
 犠牲者の為にパンやスープを用意していたカルルも、リルのその気持ちはよく分かる。
 分かるのだが‥‥。
「ねえ、聞いていい? なんで、熊さんなの?」
「? 木彫りのおもちゃと言えば熊だと教えて貰ったのだわん」
 てんてんてん。
 カルルの視線の先は、令明の手の中にある熊の手と思しきものにひっついているものへと注がれていた。
「‥‥それで、その熊さんは何をしているの?」
「にゃに? そんなこともしらにゃいのか? これは鮭を捕っているのだわん! 熊と鮭で1セット! これが常識なのだわん!」
 その常識を令明に教えたのは誰なのだろう。
 激しく気になりつつも、カルルは見た目はしずしずと用意された壇にパンとスープをいれた器を置いた。令明も、その隣に木彫りのおもちゃを置く。
 その光景を微笑ましく眺めながら、ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)は辺りを見回した。丘、と言われてラヴィが思い浮かべるのは、緑に包まれた優しい場所だ。けれど、ここはそんな穏やかさとは無縁。
 丘全体を覆う瘴気は、ただ息をしているだけでも体力を奪っていくようだ。
 息苦しさの原因は、それだけではない。
 丘で犠牲になった幾千、幾万もの魂が歪められ、今もデビル達にその力を絞り取られている。
ーラヴィには想像も出来ないくらいの悲しみや苦しみでしたでしょうね。長い事気付いて差し上げられなくてごめんなさい…
 組み合わせた手をきゅっと握り締めて、ラヴィは祈った。
 どうか、この先は安らかに眠る事が出来るように。
 もう二度と苦しまなくて済むように、と。
 気がつけば、アルフィエ・グレイシェル(ec0964)やエフェリア・シドリ(ec1862)が奏でる安らぎの竪琴の静かな音色が響いていた。どうか、安らかに。その気持ちは、ここに集う者達、そして、この場を守って戦う者達すべての願いであり、祈りだ。
 曲に合わせて、それぞれが自分の思う鎮魂の舞を舞い始める。
 アリサ・フランクリン(ec0274)は、凛と研ぎ澄まされた剣の舞を。
 所所楽 林檎(eb1555)、所所楽 柳(eb2918)姉妹は、右の手に数珠や鉄笛を持ち、左の手は扇で揃えた対の舞だ。
 奏でる音と鎮めと癒しの舞に呪歌に乗せた優しさが丘を包み込む。
 デビルへの憎しみや憤りがないわけではない。けれど、そんな負の感情を流し去って光り輝くのは、誰もが奥深くに抱いている心の核‥‥愛情。
 犠牲者の冥福を祈り、愛する人の無事を祈り、世界を、家族を想う心、そして、自分自身を大切に想う気持ち。普段はさほど気にも留めず、誰かの為に戦いの地へと赴くけれど、自分に何かあれば、自分を愛してくれる人を悲しませる事になる。
 その悲しみの涙が染みたゲヘナの丘だから、強く思う。
 愛する人を悲しませない為に、無事に帰る。必ず、笑顔で。
 自然と浮かんだ笑みは、隣で祈っていた誰かに伝わって、そのまた隣の誰かも笑顔になって。
 やがて、奏でられる曲も明るさと生きる喜びを歌うものになる。
「ねえ。鎮魂歌って魂へのラヴレターに思えない?」
 歌を途中で止めたリン・シュトラウス(eb7758)の突然の言葉に、アゲハ・キサラギ(ea1011)は悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。
「そうかもね。なら、胸がぎゅっとなるような湿っぽいのばかりじゃ駄目だよね」
 ジュディス・ティラナ(ea4475)と視線を合わせると、アゲハは舞を変える。
 世界はあなたを愛しているのだと、体全部で伝えるように。
 そして、彼らの祈りは‥‥。

(担当:桜紫苑)


●城塞の闇の黒
 支援活動の成果が結実したと思った瞬間だった。前回までとは状況が違う。
「こっちだ」
 「VizurrOsci」率いる マナウス・ドラッケン(ea0021)は「ある程度」の方向に憶測を付けてディーテ砦内部を駆け抜けて行く。20分強、全力で駆け抜ける事が可能な体力と精神力は貴重である。突然襲撃してくるデビルの群れも、デビルスレイヤー効果を持つクロスソードの前に切り捨てられ、その歩みを止めることは能わない。
「探索担当のみんな、あとはよろしくだよ!」
 シャルウィード・ハミルトン(eb5413)が剣を振るう。剣戟が宙を斬りながら飛び、デビルの集団に当たって激しく炸裂した。
「アイスコフィンを使って城砦変動につっかえ棒したらどうなるかしら?」
 疑問だったのよね、と金の髪を揺らしながらエレアノール・プランタジネット(ea2361)が魔法を詠唱する。ばきばきばき、と激しい音が鳴って結氷は砕け散った。あるいは砕けない何かならつっかえ棒には鳴るのかも知れない。
「ふーん」
 エレアノールはとりあえず報告を上げて前に進んだ。
「他にも何か伝える事はない?」
 聞くべき事を聞くと、環伽羅(ec5129)が小走りに駆けていく。
「あ、1Gみっけ! ‥‥なんだ、違った」
 ルンルン・フレール(eb5885)も走る。ちょっと間違いはあるがその目に焼き付けたもの、聴いたもの全てを報告として上げていった。
 城塞の内部、変化、微細な事も全て伝令に伝えられ情報は後方へ、そして全体へと上げられていく。内部にいる冒険者の変化、状況は七刻双武(ea3866)らのブレスセンサーを使う者たちによって適時把握されていく。そして、次第に冒険者は深い部分まで到達する。
「突入準備は? いくぞ!」
 サスケ・ヒノモリ(eb8646)のグラビティ・キャノンが敵をなぎ払う。偵察を務める冒険者を護りながら奥へと進むイリーナ・ベーラヤ(ec0038)も次第に変わる城塞の変化に焦れる心を抑えながら一歩ずつ前へと進んでいった。

「あれは‥‥」
 ロックハート・トキワ(ea2389)が曲がり角を進む者に目が留まった。赤い鎧を着込み、足を引きずりながらそれは消えていく。
「く‥‥」
 急いで後を追ったがそれは姿を既に消していた。何か嫌な予感がする。ここは恐らく城塞の深淵の部分になるはずだ。急ぎ増援を呼ぶためにロックハートは伝令として情報を伝えた。

「あれは‥‥ムルキベルじゃない?」
 数多のデビルを斬り進んできたセシリア・カータ(ea1643)、綾小路刹那(ea2558)、マリーティエル・ブラウニャン(ea7820)が巨躯のデビルを城塞の奥で発見する。冒険者の侵入により破壊された城塞を見て回っているのか。こちらの存在に気付いた巨躯のデビルは傷つきながらも前に進む冒険者の姿を興味深げに眺め、「そこまでしてなぜ来るのか」とだけ呟くと再び城塞の暗闇の中へと消えていった。

「逃すな!」
 急いで後を追う冒険者達であったが城塞は姿を変えて行く道は閉ざされている。
「探索の人たちが来るまで戦線を持ちこたえましょう」
 後に続いてくる紅小麗(ea8289)やエルシード・カペアドール(eb4395)らがその場に到着する。
「アースダイブを使い、地下に行くことはできないのでしょうか?」
 サルタース・エニグマ(eb4873)が魔法を詠唱し地下へその身を沈めていく。
「行けそうですか?」
 護衛として護りに付いていた七瀬水穂(ea3744)がサルタースに声を掛けた、まさにその時であった。
 城塞の暗闇の中からかつん、かつんと響く足音が聞こえてきた。

(担当:谷山灯夜)


●偵察忙殺大戦争。
 ついに進軍を開始したバアル軍。
 軍対軍の戦の場合、頭である敵将の位置を探ることは非常に重要である。
「‥‥いたわ、随分奥にいるのね‥‥これじゃ辛うじて見える程度だわ」
 【VizurrOsci】のレア・クラウス(eb8226)と【ベイリーフ】のフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)は、それぞれの方法でバアルの位置を把握していた。進軍とは言うものの、結局出てくるのは下僕たちばかりで、肝心のバアルは陣地の奥に引っ込んだまま高みの見物状態である。しかも敵は一向に減る様子がない。焦った冒険者たちが取った作戦、それは―――

 バアル襲撃。

 奇襲、本陣にいる親玉をピンポイントで襲撃するには、前線で囮となって敵を引き付ける役割の者が必ず必要となる。その数が多ければ多いほど奇襲の成功率は上がる。そのために偵察は重要な任務ではあるのだが‥‥
「これは‥‥とても奇襲なんかできる状態じゃないじゃん」
 戦場を疾風の如く駆け抜けながら呟いたのは【VizurrOsci】の鷹峰 瀞藍(eb5379)。瀞藍が見たのはバアルに辿り着くまでに越えなければならない敵の数と、味方の余りに統率の取れていない動き。それもそのはず全員がバアル本体を、またバアルの持つ赤本を狙うことに執着しすぎてしまい、それ以外に必要な動きをほぼ無視してしまっている。
「本陣までの経路‥‥ってもこれじゃ経路なんてないですねぇ」
 全体の状況を見ながら苦笑するのは設楽 兵兵衛(ec1064)。良く見れば見るほど今の状況で奇襲の成功率の低さを実感させられる。
「一旦情報を集めないと‥‥!」
 グリフォンに騎乗して上空より仲間たちにテレパシーを送っていた【マジカル特戦隊】のアリスティド・メシアン(eb3084)は状況に危機感を覚えて各メンバーに急いで伝達する。
『状況は混乱、至急立て直せ』と。

 偵察に向かっていたはずの冒険者、あるいは伝令を請け負った冒険者の中にはあわよくばバアルの赤本を盗むか奪うかしようと目論む者もいた。しかし状況を把握してそれを伝えるだけで命懸けの戦場、そんな甘いものではない。当然そちらに意識を取られる余り敵軍に発見される羽目になり、怪我を負わされて戻されてくる者多数。
 しかし中には与えられた任務を忠実に全うする者もちゃんといる。
 そういう者がいてこそ作戦は真の威力を発揮するものなのだ。
「情報は伝えることが第一‥‥誰かに伝えるまでは止まらないよっ!」
 エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)は多少の傷を負いながらも、前線からの情報をしっかりとつなげるために全力で戦場を駆け抜ける。さらにエラトリスがもたらした情報を宿奈 芳純(eb5475)が中継して各部隊に伝達していく。
 地道な努力は必ず実を結び、やがてそれは突破口となる。
「何とか敵の目を一時的に欺けることができれば‥‥!」
 【威力偵察隊「月」】のリアナ・レジーネス(eb1421)も何とか強行の偵察を試みようと上空から攻撃をしかけているが、一時的に穴が開いたとしてもその後の行動につながることがなくその場限りで終わってしまう。
「結局それぞれの役割をこなせってことだね〜」
 戦況を把握することだけに集中していたウィル・エイブル(ea3277)の呟きは至って冷静なものだった。

(担当:鳴神焔)


●最前線の戦鬼
──砦前・荒野エリア最前線
「ふふふふっ‥‥最高の魂が集まっているわねぇ‥‥」
 敵悪魔本陣・城塞外では、椅子に座って静かに冒険者達の動向報告を受ているベルフェゴールが、愉しそうにそう呟いていた。
「ええ。バアル様のおっしゃるとおり。ここには上質の魂が集まっています‥‥」
 そうベルフェゴールの横で呟いているのはヘルメスことアリオーシュ。
「‥‥で、貴方はここで何をしているのかしら?」
「‥‥私は配下の悪魔達に指示を行っていますけれど」
「貴方は前線にでないのですか?」
 そうニコニコと問い掛けるベルフェゴール。
「私も‥‥ですか?」
「ええ。指揮官たるもの、机上の空論よろしく後で指示を飛ばしているだけではよろしくないて思いますけれど?」
 その言葉に、ヘルメスは静かに肯く。
「了解しました。では私めも鮮烈に加わり、奴等に地獄を見せてきましょう‥‥」
 そう呟くと、ヘルメスは漆黒の翼を羽ばたかせて前線に向かっていった。

‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥

「地獄を見せるといっても、ここが地獄ですのにねぇ‥‥」
 クスクスと笑いつつ、そう横にいる側近に話しかけているベルフェゴールであったとさ。

──一方そのころ
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ」
 愛刀『長曽弥虎徹』を振回しつつ、月詠葵(ea0020)が敵悪魔の軍勢に向かって飛込んでいった。
「ここから先には進ませませんっ!!」
 そう叫ぶや否や、月詠の一撃を受けて悪魔達は次々と散っていく。
 だが、いくら散らせていってみも、悪魔達は次から次へと湧いてでる。
「ウガァァァァァァァァァァァァァァッ」
 と、月詠の側面から悪魔が襲いかかる。
──ヒュンッ!!
 と、悪魔の頭部の角に向かって、上空でグリフォンに跨ったアシュレー・ウォルサム(ea0244)が、縄ひょうを飛ばしていく。
──バギィィィィッ
「ソンナバカナァァァァァァァァァァァァ」
 その敵の叫びに素早く反応する月詠だが。
「甘いよっ!!」
──ガギィィィィィィィン
 月詠より一歩早く、ローラン・グリム(ea0602)がザガムに向かって連撃を叩き込む!!
 その攻撃を受てザガムは後方に撤退。
「済みません。助かります」
 月詠がローラにそう告げると、すぐ近くで別の悪魔と戦っていた壬生天矢(ea0841)も叫ぶ。
「気にすることはない。仲間を助けるのは当然だ!! 我々はここで一体でも多くの悪魔を蹴散らし、バアルの元にたどり着く事が先決!!」
 そう叫ぶと、壬生は再び別の悪魔と対峙し、さらに鋭い連撃を叩き込んでいた。
「助けられたら助けかえす。それが人間っていうものでしょう?」
 上空でグリフォンに跨がったまま、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)もそう告げる。
 そして一気に上昇すると、悪魔達の群がっているエリアへと一気に滑空。
 そこから素早く抵抗飛行での集中連撃を開始すした。
「前線を維持しつつ、敵を殲滅する‥‥」
 月詠の言葉は、その場の全員に届く。
 そして静かに肯くと、そのまま悪魔に向かって突撃を開始した。

(担当:久条巧)


●終わりを見せぬ戦いに
 城砦前荒野――バアル軍との戦闘は一進一退といった様相を呈していた。
 それを必死で支えるのは、後方で救護と防衛に当たっている者達だ。彼らがいなければ、陣が総崩れになってもおかしくはない。
 【TN守護隊】は救護所を設け、怪我人達の治療に当たっている。最初の応急手当の段階で治療に当たらせる区画を選び、連れて行く。地上や後方に搬送しなくてはならない者にはレイムス・ドレイク(eb2277)が励ましの声をかけていた。
 彼らは適材適所という言葉を良く心得ており、アナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)で天幕の中を新鮮な空気で満たせばシャーリーン・オゥコナー(eb5338)は治療で使う水をクリエイトウォーターで作り出す。明王院月与(eb3600)は医療器具の消毒を行い、カイオン・ボーダフォン(eb2955)は負傷者が落ち着けるようにと音楽を奏でる。
 戦場での万全とも言える状態が整えられた場所で、治療を行うものたちがせわしなく働く。セレスト・グラン・クリュ(eb3537)に音羽響(eb6966)、ポーラ・モンテクッコリ(eb6508)が治療を続ける中、同じく治療を続けていたリーディア・カンツォーネ(ea1225)は意識のある患者に一つの願いをしていた。
「ゲヘナの丘の儀式が開始したら、祈っていただけませんか?」
 負傷で戦線離脱を余儀なくされたものにもできる事。それは、祈り。

 救護所があれば、勿論それを守る者たちもいる。彼らがいなければ、安心して救護活動など出来まい。
 【アルボルビダエ】ではルディ・ヴォーロ(ea4885)らが救護所付近を巡回し、敵の接近を警戒していた。
「何もなければ一番よいのですけれど」
 大鳥春妃(eb3021)が石の中の蝶を見ながら呟く。その探査範囲は直径30mと狭い。方向もわからないが、人に化けるような敵が潜入していないか見極めるのには必要だ。
「見つけました!」
 明王院未楡(eb2404)の上げた声に、ケイン・コーシェス(eb3512)や天岳虎叫(ec4516)らが隠れていたデビルに迫る。
「負傷者は引き受けます!」
 【拠点防衛隊】のイレイズ・アーレイノース(ea5934)に負傷者を預け、彼らはデビルと対峙する事を選ぶ。負傷者は難波幸助(eb4565)とエリスティア・マウセン(eb9277)が交代で操縦するゴーレムチャリオットに乗せられ、救護所へと運ばれていく。
「無理はするな。今はただ傷を直す事を考えろ」
 【江戸雛隊】のイクス・エレ(ec5298)に諭され、怪我を負ったまま戦線に復帰しようとしていた者は大人しくなった。
「そうです、しっかりしてください。まだ戦いは続くのですから」
 ここで命を落としては駄目です――緋村櫻(ec4935)も口ぞえをした後、上空を飛ぶ元馬祖(ec4154)の空飛ぶ絨毯に合図をした。彼らを救護所まで運んでもらうのだ。
「ここにも動けない人がいるよ!」
 アルミューレ・リュミエール(eb8344)の声を聞きつけて駆けつけたのは峰春莱(eb7959)と柴原歩美(eb8490)。負傷の度合いを判断し、『赤』の目印をつける。ナーザディン・ウル・メレク(ec3875)の作成したホーリーフィールド内に運ばれた重傷者は、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)やアトルシャン・バーン(ec1360)によって治療されていった。
 いつまでこんな戦いが続くのだろう――負傷者を見るたびそんな思いを抱く者もいただろう。だがその問いに答えられる者は、いないのだった。

(担当:天音)


●都市を駆ける救い手
 ディーテ城砦内部での救難活動は、徐々に困難さを高めていた。
 頻繁に入れ替わる区画が増え、負傷者の搬送もままならない。目的地を見失うことも度々だ。
 備前響耶(eb3824)が移動する壁に挟まれた仲間を救うのにバーストアタックを放ち、セフィナ・プランティエ(ea8539)とユニコーンが挟まれかけた仲間達を瓦礫の下から引きずり出す。負傷者にはその場で治療も施した。
 救護所を設営しても、そこまでの道が変わって戻って来られない者が頻発し、機動力がある者を中心に数名ずつで怪我人の発生箇所へ向かう小集団が生まれているのだ。
 機動力があろうと、目的を果たすにはどこに向かうのかを刻々と変化する城砦の中でも知らなくてはならない。伝令を請け負った人々は変わる城砦内部の情報に怪我人の居場所、敵の出現箇所と知らせることが多くて、ほとんどは自分への注意がおろそかになる。
 テレパシーで状況を知らせるのに集中していた者に、複数のシフールに擬態していたデビルから魔法攻撃が襲いかかる。
「自分が怪我人になってどうするんだっ。おい、これを掲げて、回してくれ」
 【翠志】の来生十四郎(ea5386)が勇貴閲次(eb3592)と共に、空漸司影華(ea4183)を助け起こした。室川太一郎(eb2304)がすぐに回復薬を飲ませようとしたが、すでにそういう状態ではない。
 もう一人、伝令を庇うのに盾だけで足りずに身を挺したジラルティーデ・ガブリエ (ea3692)に回復薬が回された。死者は【世界騎士団】のフォルテュネ・オレアリス(ec0501)らが、アイスコフィンを施して、後方へと送る。
 かたや救護所でも、デビルやカオスの魔物との戦闘以外、城砦の変化での怪我人が増え、次々と運ばれてくる人々の対応に追われていた。【ジャパン医療局】の明王院浄炎(eb2373)が常に移動に備えているように、救護所の設備そのものは他の地域に比べると質素になっている。物資はこれまでのところ不足が出る事もなく揃っているが、ジーン・インパルス(ea7578)も警戒しているように、城砦の変化でそれらと切り離されないために幾らか人手を取られていた。
 それでも、救護所そのものは変化の激しさで場所の特定が難しいのか、大規模な襲撃を受けることは少なく、修平警備に当たる人々の支援を行う桜川さくら(ec5843)や風姫ありす(eb7869)達は『春夏秋冬/後方守護班』も時には息がつけている。
 だが怪我人は減ることはなく、氷の棺で時を封じられることで守られ、城砦の外に運び出される者も少なくはない。瀕死の者でも癒す導蛍石(eb9949)も懸命に魔法を紡ぐが、広い城砦内の各所で発生する死傷者全てには手が回りきらなかった。
「一口でもおなかに入れてください」
 救護所にいると、いつも悲鳴や苦痛の声、慌しく回復薬を求める叫びに、怪我人の到着を知らせる馬車の音と馬のいななき‥‥そんなものが入り乱れて、時間の感覚も消え失せる。痛みで取り乱す者を取り押さえているうちに、押さえている方の神経も参ってくるが、そうした中を『春夏秋冬/救護協力班』の浅井雷菜(ea7704)がクリエイトハンドで作った粥の器を、高川恵(ea0691)は水と氷を作って、治療担当にも配っていた。
「変化が速まって、かえって法則が分かってきたらしい」
 複数の伝令から報告そんな声が上がったのは、怪我人の数がまた少しずつ減少してきた頃だった。
 それに勢いづいた救護所の人々は、次には同様の気分が高揚した怪我人達を今しばらく休養させるために声を張り上げることになった。

(担当:龍河流)


●前線維持の戦鬼
──砦前・荒野エリア最前線付近
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ」
──ザッバァァァァァァァァァァァァァァァツ
 東儀綺羅(ea1224)が、手にした日本刀から次々とソニックブームを飛ばしている。
 それは悪魔達の足元を掠めていくが、それほどのダメージは負っていない。
 いや、むしろノーダメージといってもいいだろう。
「そ‥‥んな‥‥あたしの攻撃が効かないなんて‥‥」
 動揺を隠しきれずうろたえる綺羅。
 と、それが悪魔達にも気付かれたのだろう。
「アノオンナハヨワイ」
「コロセ、タマシイヲヒキズリダセ」
 と、徐々に間合を詰めていく悪魔達。
「そ、そんな‥‥どうしてなのっ!!」
 再びソニックブームを飛ばしていくが、やはり効果がない。
──スコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン
 と、綺羅へと襲いかかっていった悪魔の頭部に、一条の矢が突き刺さり、そして貫通していった。
「ふぅ。間一髪だね‥‥」
 近くの丘の上から、ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)が『破魔弓デビルスレイヤー』で狙撃したのである。
「悪魔には通常武器は効かないっていうの、忘れているのかなァ‥‥」
 そう呟きつつ、ジョセイフィーヌは再び矢を番えると、次の悪魔に向かって構えなおした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
──ズッババババァァァァァァァァァァァァッ
 一気に上空から急降下を敢行、綺羅に襲いかかっている残りの悪魔を一掃しているのはファイゼル・ヴァッファー(ea2554)。
 彼の手にした『クリスタルマスター』の攻撃を受て、悪魔達は次々と四散し、そして逃げていく。
「魔法武器でないと無理です!! 一旦後方に下がって付与を受けてください」
 後方からやってきたルイス・マリスカル(ea3063)も、綺羅にそう告げる。
「り、了解しました‥‥」
 ということで、味方の援護を受けつつも綺羅は後退。
「さて、それじゃあ後方待機の奇襲部隊の所まで、悪魔を誘導しましょうか‥‥」
 ということで、ルイスは再び悪魔達の元へと突撃を開始。
「‥‥こちらは問題ないか‥‥」
 上空で偵察がてら様子を見ていたのはアハメス・パミ(ea3641)。
 愛用のグリフィンの上で、悪魔達の動向を探っているようであった。
「今の所防衛陣営まで悪魔は進軍していない。今のうちに前線を減らすか‥‥」
 と呟くと、腰からカオススレイヤーを引抜き、グリフォンを一気に急降下させる!!
──ズバァァァァァァァァァァァァァァァッ
 そのまま横一閃に悪魔達を薙ぎ倒していく。
 その近くでは、別の悪魔と対峙しているルミリア・ザナックス(ea5298)の姿もあった。
「ふう‥‥ふぅ‥‥ふぅ‥‥ふぅ‥‥」
 かなり呼吸が乱れている。
 あちこちからも出血が激しい。
 それでも、ルミリアは目の前の悪魔に向かって連撃を続けている!!
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 目の前にいるのは7つの首を持つ悪魔『アバドン』。
 そのうち4つの首を吹き飛ばし、そして残った首をルミリアは狙っていた。
(疲労が激しい‥‥無理をしすぎたのか‥‥)
 真面にやりあって勝てる相手ではない。
 だからこそ、ルミリアは『剛剣術』を開放し、全力でぶつかっていた。
 そして『剛力解放』からすでに18分。
 肉体の限界時間をとっくに越えていた。
「こ、この一撃で‥‥」
 アバドンのブレスの中に、ルミリアは自ら突っ込んでいく。
 そしてその場で素早く跳躍。
 硬度10mまでジャンプすると、そこから回転しつつ一気にアバドンの背中に向かって急降下、その一撃でアバドンを滅ぼした。
 だが、ルミリアもまた限界。
 すでに指一つ動かす事が出来なくなっていた。
「ふぅ‥‥あとは‥‥みんな‥‥たのむ‥‥」
 そう呟くと同時に、ルミリアは‥‥力尽きた。

(担当:久条巧)


●越えられぬ壁
 無限の軍勢。
 荒野にてバアル軍と対峙した冒険者達は、その脅威を前に臆することなく戦った。
 だが‥‥。
「はあああっ!!!」
 カノン・リュフトヒェン(ea9689)が振るう魔剣より生まれ出でた衝撃波が、悪魔の群れを薙ぐ。鍛え上げられた刃より放たれたそれは、下級の悪魔達ならば、一撃で瀕死にするほど。それでも‥‥。
「ああもうっ!! 何なのよ、こいつら!!」
 カノンの馬に同乗していた伏見鎮葉(ec5421)は苛立ちを隠せない。仲間達をバアルの元へと送り届けるべく、道を開こうとしていた彼女達だったが、状況は厳しい。仲間を先に進ませるどころか、限りなく現れる敵の群れを捌ききれず、じわじわと後退を余儀なくされていた。
「ちっ、敵が多過ぎる‥‥」
 周囲の悪魔を強大なオーラの波で払い、空の包囲に穴を開けようと尽力したバーク・ダンロック(ea7871)も、同じような状況にあった。
上空よりバアルへと接近を試みた者は多い。フロートシップ、グライダー、ペガサス、グリフォン‥‥。様々な者が機動力を武器に悪魔の陣の突破を試みた。
しかし周囲の悪魔を殲滅して、空間が開けたと思った次の瞬間には、後方の悪魔達が一斉に自分達に迫ってくる。少しだけ前に進んでは、また押し返されての繰り返し。
「まずいな、こりゃ‥‥」
 尾上彬(eb8664)は広く戦場を見渡し、どこからかバアルへと迫れる敵陣の薄い場所は無いかと探したが、見つけられない。
 バアルの本陣は遥か後方。魔法や弓の届く範囲まで近づければと考える冒険者は多かったが‥‥。
「駄目だ。こんなところからじゃ‥‥」
 ラシュディア・バルトン(ea4107)は雷の魔法で長距離からの狙撃も狙える魔術の達人。その彼の有効射程を持ってしても、バアルはおろか、その前の本陣前衛にすら攻撃が届かない。
隠密行動にて接近を試みた者達も、幾重にも張られた敵の陣を突破できず、ことごとくが失敗に終わっていた。
「無尽蔵‥‥いや無制限の軍勢、か」
 イグニス・ヴァリアント(ea4202)は、どれだけ倒しても一向に減らない敵を前に、それでも刃を振るう。それは、破壊できない壁を相手に武器を振るうようなもので‥‥。
 地獄全体において、最大数の戦闘要員が集まったこの戦場。
『西中島隊』、『ベイリーフ』、『TN特攻隊』、『世界騎士団』、『☆メイ・ゴーレム隊』‥‥幾つもの部隊がバアルへの接近を試みたが、そのどれもが敵の軍勢に進路を阻まれ、後退を余儀なくされることとなる。今回の戦闘において、バアル自身と直接に戦闘を行えた者は誰一人いなかった。
 そもそもの話、先の戦闘の時より力押しにかけてはバアルの軍が上であることは明らかであった。それも敵の先陣のみを相手にして、冒険者は押されていたのである。そんな状況下において、力尽くでバアルへの道を開こうなどとして成功するはずもなく。
何の策も思い浮かばず自棄になったか、あるいは功を焦って状況を見失ったか。明らかに、多くの冒険者が判断を誤っていた。
『やれやれ、地虫どもめ随分と粘る‥‥。しかし、この程度の連中にアロセール大公やモレク将軍はどうして負けたのやら。吾輩にも不思議でならん』
 その時。赤い魔本を片手に、優雅に椅子に凭れていたバアルのところに、一匹の悪魔が伝令に来た。
『バアル様、冒険者の中に我々の側に寝返りたいと言う者が‥‥』
 ――バシャ。
 バアルは、手にしていたグラスの酒をその悪魔に浴びせかけた。
『くだらんことを聞くな。全て極刑に処すと言ったはず。さっさと駆除してこい!』
 伝令の尻を足で蹴飛ばして、バアルは再び戦場を見やる。
『さて、そろそろ終わりにしてやらんとな‥‥』
 余裕の笑みを浮かべて、呟くバアル。

だが、この悪魔はまだ気づいていない。
この時、力ではなく知恵をもって、彼の軍を打ち破る策を見出さんとする冒険者達も、確かに存在していたことに。

(担当:BW)


●中盤エリアの戦鬼
──砦前・荒野エリア中盤左翼付近
「18‥‥次の敵はどいつじゃん!!」
 田原右之助(ea6144)が叫びつつ悪魔達を切り捨てていてく。
 すでに彼の足元には18体の悪魔の死体。
 そして彼を取り巻く悪魔達も、これ以上の被害は出すまいと、間合をとったままの状態体が続いていた。
「黄式猛虎拳絶招・猛虎跳撃百花繚乱っ」
 右之助の後方で戦っていた朱蘭華(ea8806)が、全身の気をコントロールし、自分の周囲に8体の気で作り上げた虎『気虎』を生み出す。
「可愛い私の虎。周囲の悪魔を食い散らかしなさい!!」
──シュパパパパパパッ
 その蘭華の叫びと同時ニ、一匹を覗いた気虎は次々と近くの悪魔に向かって襲いかかる。
 そして残った一体は、そのまま蘭華に噛付く。
──ガブッ
「‥‥じじいの見よう見まねじゃあ、ここまでなのかしら‥‥」
 頭を齧られ血を流しつつ、蘭華がそう呟く。
「蘭華っ、遊んでいるなっ!!」
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォツ
 デュランダル・アウローラ(ea8820)が、手にした『テンペスト』を振回しつつ叫ぶ。
「あ、遊んでいるんじゃないわよっ!!」
 そう叫びつつ蘭華は再び別の悪魔に向かって爆虎掌を叩き込む!!
「それならいい。自分の虎と戯れているように見えたものだからなっ!!」
「制御できていないだけよっ!!」
 いや、それも問題あり。

──いっぽうその頃
「地道に戦線支えてかなきゃ、反撃に出る前にこっちが潰れちゃうからね」
 エイジス・レーヴァティン(ea9907)がそう呟きつつ、中盤左翼に展開している前線エリアで悪魔と戦いつづけている。
 ここを突破されると、残りは後方防衛ライン、そして絶対防衛ラインとなる。
 ここを突破されないように、【強襲遊撃団「黎明」】はしっかりと防衛ラインを維持していた。
「その通りだ。誰かが支えなくては戦線は維持できない。誰かがやらねばならぬのなら、俺達がやろう」
 そう告げると、蘭華の元から戻ってきたデュランダルも防衛ラインに入る。
「左舷右前方!! 悪魔の軍勢発生。数は27。いけますかっ!!」
 前線で周囲を偵察していた桐谷たつ(eb0298)が、エイジスにそう叫ぶ!!
「情況的には、最低でも40。ゴーレムが動けるのならそっちをまわした方が早い‥‥誰か【ウィル双翼騎士団】に救援要請を!!」
 アレクセイ・ルード(eb5450)がそう仲間たちに指示を飛ばす。
 それを受けて、伝令が【ウィル双翼騎士団】の元へと走っていく!!

──そして
「中盤左翼より伝令!! 悪魔の軍勢発生、援護をと!!」
 【ウィル双翼騎士団】の元に伝令が届く。
「了解。私のキャペルスを起動します!! 後方待機部隊に前線の防衛を!!」
 そう叫ぶと同時に、エリーシャ・メロウ(eb4333)はキャペルスに飛び乗ると、そのまま前線へと走り出した!!

──その頃
「敵指揮官はどこでござる!!」
 アンリ・フィルス(eb4667)は叫びつつ悪魔達を切り捨てていく。
 実際には指揮官を探しているだけでなくも範囲攻撃を駆使しつつ悪魔達の侵攻を押さえるのが目的であるらしい。
「ここは俺達に任せるズラ」
「護りは任せて貰おう」
「だから兄貴は急いで敵を!!」
 ニセ・アンリィ(eb5734)、エセ・アンリィ(eb5757)、ニセ・アンリィ(eb5758)のアンリィ兄弟による鉄壁の護り。
 それを背後に、アンリ・フィルスの突撃と、いいバランスで戦闘を行なっている【世界騎士団】。
 その動きで、中盤左翼はある程度安定していた。

(担当:久条巧)


●欲望の赤
「随分と奥まで来たものだ。迷ったのか? 道なら私が案内しよう」
 紅い鎧に身を包む男が闇の中から姿を見せる。濡れたような黒髪に金の瞳が妖しい。その目を見つめると、なぜか何も抵抗が出来ないような気分になる。
「気を付けろ、デビルだ!」
 誰かが叫んだ。
「そいつは息をしていない!」
 冒険者に緊張が走る。赤の鎧を纏う兵士の目が金色に輝いたと思った瞬間、目を合わせた冒険者のひとりは魂を抜かれたように立ち竦んだ。
「行くぞ!」
 戦闘の火蓋が切って落とされた。一瞬で身動きができなくなった冒険者を後ろに連れ出してもらい、オーラ魔法に護られた戦士達が一直線に向かっていく。近付くにつれ赤い兵士の金色の目、それも蛇の瞳が妖しく輝く。だが冒険者は止まることなく前に進む。
「ほう。なかなかやるではないか」
 迫り来る冒険者の剣を目前にしても赤の鎧の兵士はまったく動じない様子をみせた。
「妖艶なる赤の公爵、ゼパル。バアル大元帥に代わりムルキベル卿に貸しひとつだ」
 赤の鎧に身を包んだそれは大きな息を吐いた。戦闘に飽きた溜息にも見え、それが冒険者を苛立たせる。
「真剣に戦え!」
 オーラの力をソウルセイバーに宿したルーウィン・ルクレール(ea1364)。その剣先が、ゼパルを捉える、まさにその時。
 がきん、と乾いた金属音が耳元で鳴る。何者かに自分が剣戟を受けた事をルーウィンは認めたくなかった。横には味方がいたはずだ。だが。そこにいたのは瞳を血のような赤で染め上げた仲間だった。殺気を漲らせて剣を向けている。
 周囲を見回せば剣をこちらに向けゼパルを護ろうとする者、あるいは悶え苦しみながら何かと戦っているしか見えない者。いずれも女性に異変が起こっていた。
「何が起こったの!?」
 遠距離から弓を構えていた林麗鈴(ea0685)は同胞に起こった異変に驚愕する。自分は何も変化はない事に気付くが、それさえも錯覚なのかも知れないと思ってしまう。震える足を必死に抑え込んで立つのが精一杯だった。
 自分らが地獄にいることを実感する。それはまさに地獄の光景であった。先刻まで一緒に戦っていた仲間が剣をこちらに向けている。しかも口々にゼパルの愛を求め、愛を得るために手柄を争い始めていた。手柄とは。即ち自分たち冒険者の首を獲ることに他ならない。
「シオン、大丈夫?!」
 苦しみ悶えるシオン・アークライト(eb0882)に雨宮零(ea9527)が駆け寄る。
「うぐ、ぐぅ‥‥」
 シオンが襲われたそれは、一瞬でも気を切らせばたちまち飲み込まれてしまう欲情の洪水だった。頭の中に「欲望に身を任せろ」と夥しい声が聞こえる。逆らうには耐え難い苦しみが襲い、そしておぞましい事だが「もし諦めれば」。それは想像も出来ない快楽を得ることが「分かっている」のだ。まるで直接脳内にデビルを送り込まれたような、理性を保つことへの苦しみに快楽への誘惑。
 女性の中で逆らうだけの力を持たない者からゼパルに捕らえられる。大切な人との絆、大切な記憶を蹂躙され、ただゼパルだけを愛する存在へと変えられていく。だが。
「ふ、ざけ、るな。私が‥‥零を忘れる訳ないだろう!」
 力の限りを振り絞りシオンは遂に打ち勝つ。
 こいつだけは許す事ができない。
 ルゥナー・ニエーバ(ea8846)、クーリア・デルファ(eb2244)も立ち上がる。女性冒険者の中からゼパルの支配を受けなかった者が立ち上がる。怒りに肩を振るわせながらも構えを取る。
「素晴らしい絆、と言わせて貰おう」
 ゼパルは支配に打ち勝った女性たちに無表情のまま賛辞を送る。
「だが、人間など同じ歴史を繰り返すだけの存在。私がかつて滅ぼした国にもおまえ達のような者はいたが、結局滅びの結果を迎えるしかなかった」
 無駄な抵抗は苦しみを長引かせるだけだ、と言い残しゼパルは壁の中へと消えていった。
「待て」
 消えゆくゼパルを追い掛けようとする冒険者。だが目の前に立ち塞がる多数の者が行く手を遮った。目の前に立ち塞がるのはデビルではない。先刻まで共に戦った同胞なのである。
「頼む、目を覚ましてくれ!」
 例え命を奪おうと襲い掛かる者ではあっても。仲間を傷つける事は冒険者にはできなかった。防戦一方になる戦いが始まった。
「今のうちに救護班を呼んでください!」
 アトラス・サンセット(eb4590)は堅い防御を活かし、壁役に徹する。

 増援が到着し救護班の治療がが開始される。長く、そして辛い戦いは終わった。
「くそ」
 拳を握りしめ壁を叩く冒険者達。うな垂れ掛けたその時。
「必ず突破できると信じましょう!」
「大切なのは‥‥、愛と愛と愛と愛と愛だと思うわ」
 【祈紐】を抱いたオルフェ・ラディアス(eb6340)と リン・シュトラウス(eb7760)が伝令を伝えに来た。
「ディーテ砦の変化の秘密が、わかりそうなの!」

(担当:谷山灯夜)


●護りの力
 丘の頂上では儀式が始まった頃か。
 伝えられて来た合図に頷き合って、苗里西紀(eb3329)と苗里るか(eb3899)は大地を蹴った。【誠刻の武】の京都隊は陸堂明士郎(eb0712)を団長とする【誠刻の武】のバックアップを主としている。
 魔法での援護や戦いの最中に生まれる僅かな隙を埋めるように、互いの隊が協力し合い、デビルの一匹も通さぬ構えだ。
 京都隊に背中を任せて、結城友矩(ea2046)は何のためらいもなく敵のど真ん中へと斬り込んで行った。向かって来るデビルを刀の一閃で斬り捨て、手首を返してもう1匹を貫く。捨て身とも思える無茶な攻撃だったが、彼の黒い皮鎧には祈りの籠もった「祈紐」が結ばれている。
 自らを犠牲にする気など、さらさらない。
 祈りを背負い、祈りを守る為に斬り続けるだけだ。
「この丘の力、もう二度と利用させはせん!」
 一声鳴いた黒い鳥が舞い降りて来る様を確認して、真幌葉京士郎(ea3190)は黒き鳩が遺した剣を抜き放った。デビルが愛用していた剣でデビルを斬る事になろうとは皮肉な事だ。
 口元を軽く歪めた京士郎に、変身を解いたジェームス・モンド(ea3731)もこきこきと首を鳴らす。
「俺の目が黒いうちは、ここから先は進めないと思え」
 彼らの背後からは、リール・アルシャス(eb4402)が搭乗したドラグーンが飛び立ち、デビルを蹴散らしていく。
「‥‥ありゃあ反則だと思うのは俺だけか」
 飛び立った際の風に煽られ、舞い上がった砂埃に咳き込んだモンドのぼやきに、京士郎は面白そうに片眉を上げた。
「あれが数を減らしてくれる分、楽が出来ると思えばいいじゃないか。‥‥ところで、今、懐から財布が飛んでったぜ」
「何っ!? あれにゃうるさい姑の目を盗んで貯めたへそくりが‥‥っ!」
 きょろきょろと辺りを見回すモンドに、奇しくも‥‥いや、運悪くその場に居合わせたシルフィリア・ユピオーク(eb3525)が気の毒そうに肩を竦めて、尖った顎先で財布の行方を示した。
「あっち。取り戻す気なら‥‥‥‥‥‥がんばんな」
 ぽん、と肩を叩かれ、教えられた方向へと視線を向けたモンドは、顎が落ちそうな程に驚いた。
 敵のド真ん中。
 それも、乱戦真っ只中。
「あっ! こら、俺の財布を踏むんじゃねえぞ! 聞いてんのか!!」
「仏サマとやらのご加護があるといいねェ」
 ルーンで文字が刻まれた剣を振り回しつつ、乱戦の中に飛び込んで言ったモンドを見送って、シルフィリアは艶笑と共に京士郎へとウインクを投げた。
「それじゃ、あたい達も行こうか。永遠の煉獄に囚われし魂を開放する為に」
 鞘払った刀の刃に唇を当てて、シルフィリアは祈りとも、誓いとも取れる言葉を呟いた。
「我等が剣は、悪しき夢を断ち切る鎮魂の剣なり。我等、祈りを胸に明日を切り開かん」
 それまでとはうって変わった厳しい表情で、シルフィリアは刀に片手を添えて振り返った。背後に迫るデビルの爪を刀で受けると、そのまま押し返して斬り捨てる。
 別のデビルを真っ二つにした京士郎の賞賛の籠もった口笛に、シルフィリアは軽い笑いで応えた。
 か弱い乙女と思われては困る。
 これでも「戦乙女」の名を冠する一員だ。
「さあ、じゃんじゃんかかっていらっしゃい!」
 リールのドラグーンや、白鳥麗華(eb1592)のキャペルスといったアトランティス勢に加え、戦上手達の派手な戦闘が繰り広げられている一角から離れた場所では、シュトレンク・ベゼールト(eb5339)らが丘へと入り込もうとするデビル達を黙々と排除していた。
 姿形に惑わされない強い心、ヒトの想いの強さを信じて、惑わしの力をも使うデビルが相手でも一歩も退く気はなかった。
 シュトレンクの背後からはメネア・パティース(eb5563)のグラビィティーキャノンがデビルを吹き飛ばしていく。
 各隊の、そして祈りを守る為の戦いに参加した者達の覚悟の前に、バァルの軍勢はじりじりと後退を余儀なくされていった。分断され、散り散りになって退いて行くデビル達の動きを探り続けている仲間からの情報を中継していた所所楽柚(eb2886)は、仲間の報告が途中で途切れた事に顔色を変えた。
 有利だと油断をしたのか、それとも奇襲を受けたのか。
 このような時は慌ててはいけない。自分にそう言い聞かせながら、それまでの会話からだいたいの位置を探る。さほど遠い場所ではないはずだ。近くにいる仲間に異変を伝え、最も近くにいると思われる者に救援の要請を出す。
 待つ時間は、常よりも長く感じられるものだ。
 秘密裏に動いていたが故に、単独で行動していたはずだ。そこを襲われたとなると深刻な事態となっている事も考えられる。焦れながら、柚は救援に向かった者の報告を待ち続けた。
ー‥‥ず‥‥
 はっと顔を上げる。
 確かに聞こえた。
 途中で途切れた声だ。
「無事‥‥ご無事ですか!?」
 声が裏返った事にも気付かず、柚は必死に相手に呼びかけた。
ー大丈夫だ。多少、怪我はしているが命に別状はなかろう。これから救護所に連れて行く。
 救援に向かった者からの報告も入って、柚は安堵のあまりその場に座り込んでしまった。
ー柚、皆に伝えて‥‥欲しいでござ‥‥る。戦乙女には‥‥
「え!? いま、何と?」
 再び、声が途切れた。焦る柚に、救援の者の声が割り込んだ。
ー気を失っただけだ。詳しい事は分からないが、傷の様子からして、間近からの一撃のようだ。こやつ程の者が敵が近づくのに気付かなかったという事はあるまいが‥‥。
「どういう事なのでしょう?」
 連絡を待つ明士郎や仲間達に何と伝えればよいのだろう。
 途方に暮れて空を見上げ、柚はあっと声を上げた。
「瘴気が! 瘴気が薄れています! きっと儀式の効果です!」
 完全にゲヘナの悪しき力を消し去る事が出来たのか、それとも一時的なものなのかはもう少し調べてみなければ分からないが、瘴気は晴れた。それは目に見える確かな証だ。
 「祈紐」を握り締めて、柚は八百万の神に、仲間達に感謝の祈りを捧げた。

(担当:桜紫苑)


●知識の泉から汲み上げた何か
 あまたの人々が、ディーテ城砦の変化の法則や、デビルとカオスの魔物という似て非なるものらしい、けれども敵であることに変わりのない輩のより詳しい情報を求めていた。
 それを追い求めているチームの名前だけで、『マジカル特戦隊』、『春夏秋冬/魔法調査班』、『少年探検団』、【TN口伝部】、『ケンブリッジ防衛隊』、『Ochain』とあり、そこに所属する者の人数は倍以上、チームとは無関係の人々を加えれば更に数倍の者が、実際に城砦内を巡り、デビルや魔物と対峙していたが、その中で土御門焔(ec4427)、エレイン・ラ・ファイエット(eb5299)、アリッサ・アルバリス(ec6382)、ローガン・カーティス(eb3087)らは城砦内で発見された書簡、書物を読み解いていた。
 様々な言語で書かれたそれらは、多くがデビルについて触れられたものだが、中には何を書いてあるのか分からない覚書めいたものも含まれている。
 デビル達が書いたものとは思えず、だが人が書いたにしては言語に統一感がなさ過ぎると誰もが思っていたが、ふいと捲った頁の全面が真っ赤な血の跡で染め上げられていて、理由が察せられた。
 人の誰かが書いたものを、デビルやカオスの魔物が目障りな記録として奪い集めたものが入っているのだろう。そうした話を耳にして、雀尾嵐淡(ec0843)などが祈りを捧げている。他の者はムルキベルについて書いたものはないかと、より念を入れ、知識と魔法と持てる術をすべて使って探すが、なかなか見当たらない。
 特に求められているのは、城砦内部の変化の明確な法則性だ。いずれかの書物にムルキベルは勤勉な建築家で、地獄の主だった建築物には関係していると記録されていた。その全てをこのように変化させるかどうかは今は考えないとして。人の建築家も高名な者ほどそれと分かる癖があるではないか。
 これまでも皆が試していた壁に印をつける方法を、繰り返していたのはエリンティア・フューゲル(ea3868)。偵察でも同様のことを繰り返し、今回は伝令達が各所で詳しい情報を送ることに集中しているから、以前よりは情報が素早く詳しく集まっている。
 そうして集まった情報からはシャルロット・スパイラル(ea7465)や酒井貴次(eb3367)などが法則性を見極めんとしていた。ムルキベルが勤勉であればあるほど、なんらかの法則性、つまりは強い癖を持っている可能性は高いはずだ。
 なにより城砦内は人の側で相当崩しているけれど、移動による建物の被害はほとんど見受けられない。流石に自分の建てたものを自ら壊すような性格ではないのだろう。
 情報が十人、二十人、それ以上から集められ、それらが同数近い人々の手で、何倍もの人に知らされていく。城砦の変化が速まっていくにつれて、その量は更に増えて、やがて同時に何人も、何箇所かで気付いた。
「決まった方角から変化する。次は東!」
 最初はムルキベルも城砦内部を知らない者達相手に、敵味方の位置を考慮していたのかもしれない。けれども突撃よろしく壁を破壊したり、空を飛びまわり、しまいには巨大な船が上空を近付くに到って、その速度はどんどん上がってきて、ようやく『癖』が出てきたのだろう。
 城砦の内部で変化が多発する地域は方角ごとに密集し、徐々に移動する。この予測の元に人が移動した結果怪我人が減り、残るは中心点を見極めることだった。
 そこにムルキベルがいるのか、それとも何かがあるのか。それを確かめるためには、もう少し皆が集めた情報をすり合わせる必要があるだろう。

(担当:龍河流)


●後方撤退の戦鬼
──砦前・荒野エリア中盤右翼付近
「援護はまだですかっ!!」
 中盤右翼エリアでは、悪魔の進軍を押さえきれていない。
 かなりの数により奇襲。
 それによる仲間たちの損害。
 今は辛うじて侵攻を押さえているものの、いつか突破されるのは目に見えている。
 前線を維持しているフォン・イエツェラー(eb7693)が、伝令に援軍要請を託したのは今から1時間前。
 ここから後方及び中盤中央エリアには十分伝令が手でいてもおかしくない時間が経過している。
 だが、今だ援軍は届いてこない。
「今は私達の出来る事を!!」
 カサンドラ・スウィフト(ec0132)はそう叫びつつ、防護壁を突破してきた悪魔に向かって『ウェルキンゲトリクスの剣』を叩き込む。
 そ攻撃で悪魔は一旦後方に飛びのくと、再び情況を確認するかの用に牽制を仕掛けてくる。
「さらに中央正面500mっ。悪魔の軍勢発生っ!!」
 上空でペガサスに跨がって情況偵察を行なっていたセルシウス・エルダー(ec0222)が叫ぶ!!
「数は!!」
「約100っ。大きいのやら小さいのやら‥‥」
 と告げた刹那、セルシウスは素早く回避行動にでる。
──ヒュウンッ!!

 巨大な何かが飛んできたのだが、それを間一髪躱わすセルシウス。
「1度下がる。敵はなにか巨大な飛び道具を持っている!!」
 そう告げると同時に、セルシウスも素早く剣を引き抜くと、防御癖を越えてくる悪魔を切り捨てていく。
「埒があかない‥‥か」
 そう呟くと、同じエリアで悪魔からエリアを守っていた虚空牙(ec0261)が防護壁の外に飛び出す。
「単独は危険だっ!!」
 そう叫ぶセルシウスに、空牙が掌で動きを制する。
「悪い。ちょっと神様から力借りてくるわ‥‥」
 と告げると、空牙は敵悪魔の真っ只中に飛込んでいく。
「蚩尤解放‥‥」
 そのまま空牙は、己の体内に眠る【蚩尤】の力を解放。
 そのまま付近の悪魔達を次々と殴り倒していく。
「あんな戦い方をしていたら、魂が幾つ在っても足りないわねぇ」
──ヒュウンッ!!
 リンカ・ティニーブルー(ec1850)が『破魔弓デビルスレイヤー』で空がの援護を開始。
「まったく。ポンポン召喚してんじゃねぇぜ、くそったれ」
 そう悪態を付きつつも、馬若飛(ec3237)もまた防護壁を飛び出して空牙の援護に向かう。
 だが、すでに悪魔達の数はかなりの数。
 加えて勢いも付いている為、今の戦力ではあと30分もこの砦を護りきることは出来ないだろう。
「空牙っ、最終防衛ラインまで撤退する!!」
 フォンがそう叫ぶと、空牙もその場から砦まで後退、一行は少しずつ後方へと撤退を開始した。

(担当:久条巧)


●救護今後赤信号?
 バアル軍の動きに合わせて錯綜する冒険者たち。
 前線が苦戦する中、それでも冒険者たちの士気が落ちずにその場に踏みとどまることができているのは、足元を固める冒険者の陣が強固なものであるからである。
「重傷者を運んできた! 早く治療を頼む!!」
 怒号にも似た声で叫びながら陣内に馬車を乗り入れた伊勢 誠一(eb9659)は、荷台に乗せてきた見るからに重傷の仲間をテキパキと降ろしていく。その仲間の状態を素早く見分けて治療を施していくのは空木 怜(ec1783)。
 今回の作戦はバアル急襲。そのためにフロートシップで空中から攻めるという案もあったのだが、当然敵軍の中にも空を飛べるものがいる。数機のフロートシップが出張ったところで結果は見えているだろう。当然その中には怪我人も出る。
「今のままじゃ怪我人の輸送にしか向かないな‥‥」
 誰が呟いたのかは喧騒の中で聞こえなかった。が、現状ではそちらのほうが最良なのかもしれない。それほどまでに現場は混乱していた。
 その中で淡々と作業をこなす者が一人―――桂木 涼花(ec6207)だ。
 彼女の役割は味方の損傷した武器を応急的に直すこと。
「私は私の出来ることを、すべきことをやるだけ」
 しかしそれが結果的に良い効果を生むこともある。実際彼女が武器の寿命を延ばしてやれば、持ち主の寿命を延ばす効果につながることもある。それぞれがやれることをしっかり見極めれば、きっとこの戦ももっと違ったものになるのかもしれない。
「どう? 不審者はいなかった?」
 救護周りの警備にあたっていた【TN守護隊】の水上 銀(eb7679)は、怪我人の治療をしようと悪戦苦闘する明 豹星(eb3669)に話しかける。
「んー、デビルに感化された人が何人かいるみたいで、その人たちが暴れるのを抑えてるぐらいだけど‥‥ってこらぁ! 怪我人なんだから暴れるなっ!! 治療が終わるまで大人しくしてなっ」
 豹星の怒鳴り声が響き渡り、威嚇射撃が宙を舞う。
 そう、自陣はもう一つの戦場であるのはいつものことではある。
 それでも、彼らがしっかり機能する限り勝ちはなくとも負けもない。

 一方前線に同行して白兵戦を仕掛ける仲間の援護に回ろうとした冒険者たちは、目の前で散らばっていく仲間の搬送に追われていた。勿論敵と対峙しながらのため完全に重傷になってしまった者は運ぶために数人掛かりで対応しなければならない。同時に比較的傷の軽い者はその場で治療して回らなければならないのだからもう大変。
「大丈夫です‥‥すぐ治します!」
 動けそうな者にリカバーをかけながら志摩 千歳(ec0997)は荊 信(ec4274)に合図を送る。信はその場での治療が困難なものを馬車の荷台に乗せていく。
 中にはデビルの術に嵌ったのか、それとも自分の弱き意思なのか、仲間であるはずの冒険者に危害を加えようとする者も現れるが、そういう者は軒並み李 風龍(ea5808)に気絶させられていく。
「この場所だからこそ、パーティの仲間を守り万全な状態にせねばならん。すまんな」

 悲鳴と怒号と呻き声が飛び交う自陣の一角、一人の男が祈りを捧げていた。
「こんな場所で何をしてるんだ?」
 近寄ってきた冒険者らしき男がかけた言葉に、祈る男―――雀尾 煉淡(ec0844)は祈りを一旦中断し顔を上げた。
「こんな場所だから、だよ」
 そう言って苦笑した煉淡は再び祈り始める。
 しばらくの間その様子を見ていた男性だったが、やがて面白くなさそうにその場を後にした。
「やっぱりわからないもんだね」
 そんな呟きと共に男は姿を消した。

(担当:鳴神焔)


●闇を抜ける道へ
 主戦場より少し離れて。
そこに、『皇牙』の天城烈閃(ea0629)達の姿があった。
「さて、どう切り崩すか‥‥」
 見つめる先には、バアルの軍勢と、その進行を押しとどめる冒険者の陣。陣地の護衛や、救護の者達の活躍によって、バアル軍の進行はかろうじて抑えられている。しかし、このままでは遠くないうちにその陣も破られる。
「今のまま、赤い本の情報が少ない状態で攻めても無駄ですね。何とか弱点を見つけないと‥‥」
 言って、ゼルス・ウィンディ(ea1661)は戦場を冷静に見る。前線では、バアルの軍の突破を試みた冒険者達が次々と後退。そんな状況を見れば、助けに行きたいと思う気持ちも湧く。
しかし彼らには、今の内にどうしても確認したいことがあった。それに、この荒野ではバアルへの道を開くためと前線に出た冒険者が多い分、彼らのように偵察を主に動く者は少なく、それが敵の陣に突破口を見出せないままになっている理由の一つでもあった。ここは、情報を集めることを優先すべきだろう。
「‥‥少し遅い?」
 近くに、同じく偵察で活動していたエリオス・ラインフィルド(eb2439)の姿があった。
「確かに。死亡したデビルは即座にバアルの本陣で復活しているようですが、重症や瀕死のままの悪魔は、赤い霧に包まれて消えるまでに何故か時間差がありますね」
「魔法で動きを封じた悪魔も、同じようです」
 ゼルスの言に頷いたのは、アイスコフィンにて敵の動きを封じに動いていたイリア・アドミナル(ea2564)。バアルの赤い霧は、死に至らない負傷の悪魔達や、魔法で動きを封じられた者達にも有効で、赤い霧に包まれたそれらのデビルは、再び無事な姿で現れた。
「その時間差だが、どうも統一性が無い。長く氷漬けや石のままになっている者もいるな。まるで、誰かが蘇生の対象にするか確認をしているような‥‥」
 エリオスの言葉に、バアルの本陣側を見ていた烈閃がハッとした表情を見せる。
「先陣の悪魔の中に、それを行っている様子の者は見えない。もし、そんな者がいるとすれば、バアル自身かもしれない」
「なるほど。死んだ者は赤い本が勝手に蘇らせるが、そうでない者は意識的に選別しなければならないわけだ。あんな遠くから見ているなら、蘇らせる対象に漏れる者が出てくるのも理解できる‥‥ん? 敵の陣から誰か来るぞ。隠れろ」
 頷き合う彼らのいたところに、バアル軍の攻撃から逃げてきたらしい冒険者が一人。
「キィーー!! あの悪魔ども! せっかく力を貸してやろうとしたのに!! ミー達の話を蹴ったこと後悔させてやるザンス!!」
 それは、災魔鬼影(ec4055)。バアルに寝返りを画策しながらも失敗した集団、『堕天師』の一人である。彼が立ち去ったのを見届けた後で、烈閃達は再び話を再開する。
「ふむ‥‥さっきの奴の話じゃないが、個人の思惑ばかりで動いていたら、この戦での勝利は無いかもしれないな」
「と、言うと?」
 もう一度、戦場へ視線を向けて、ゼルスの問いに烈閃はこう続ける。
「バアルへの道‥‥今は存在していないに等しい。だが‥‥」
 兵法においては達人を超えている烈閃の技量を持ってしても、皇牙だけでバアルの軍を突っ切るのは無理だと容易に分かる。いや、それはどのチームでも同じ。今回のように、それぞれがとにかく自分がバアルに一撃をと、そればかりで動いていたのでは、ただ敵の軍勢に押し負けるばかり。

 今こそ、多くの冒険者が固い結束をもって、強大な敵に立ち向かう時なのかもしれない。

(担当:BW)