第2回行動結果報告書

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黙示録の戦いの勇姿を!

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<第2回開戦状況>
第2回では、荒野側にはバアルが陣を敷いており、ディーテへの総攻撃を画策している模様です。
城砦内ではムルキベルと遭遇したものもいますが、具体的にムルキベルがどこに潜んでいるかは確認されていません。これまでの調査と情報交換の連動性が重要と見られます。
また、ゲヘナの丘から撤退したエキドナのみならず、多くの地獄の貴族階級にある悪魔たちが、バアル・ムルキベルに従いディーテに姿を見せているとの報告が寄せられています。


第2回行動入力時戦力状況
参加人数:897人
荒野城砦城砦奥合計バアル軍は荒野に布陣!

大元帥 バアル
イラストレーター:稲田オキキ

諸君らのがんばりは
地虫にしては褒めておこう。
だが、その増長も
そこまでだと理解するがいい。
我輩を止めるものなど、
誰も居らんのだからな!
白兵戦 13.2% 9.6% 7.3% 4.3% 34.6%
救護・防衛 10.8% 7.1% 6.2% 4% 28.2%
調査(デビル) 0.6% 0.8% 1.2% 1.3% 4.1%
魔法戦 4.3% 3% 3.4% 1.8% 12.7%
偵察 3% 4.3% 4.4% 7% 18.8%
調査(カオス) 0.2% 0.3% 0.4% 0.4% 1.4%
合計32.3%25.4%23.1%19%100%



第2回援護行動結果(4月6日〜4月13日)
参加人数:1168人

達成率行動人数総計  作戦への影響
救護106.1%  367人
武具の手入れ102.2%  320人
慰労会80.7%  330人
炊き出し・物資確保87.5%  396人
陣地作成115.7%  417人防衛力アップ
偵察117.2%  453人敵行動確認
調査100.0%  414人
ディーテ探索172.1%  703人探索基本情報取得
ゲヘナの丘援護157.6%  656人バアル軍足止め(ゲヘナの丘攻防戦修正+10%)



<第2回戦況>
第2回は全体を見れば、一進一退の状態となりましたが、冒険者側がやや押されている状況となっています。
ゲヘナの丘は攻防戦・援護活動による援護の助けもあり、バアル軍の侵攻を止め置き、荒野の主戦場やディーテ城砦への援軍を食い止めることに成功しました。しかしエキドナや、正体不明のデビルの存在が確認されるなど、予断は許さない状況が続いています。
荒野ではバアルの本軍のうち先陣が展開。個々の戦力では互角以上でしたが、バアルの魔力により悪魔たち葉異常な回復力を発揮し、数の差でゆっくりと押されています。援護活動により築いた陣地により大幅な進軍は食い止めているものの、バアル軍は次に、更なる兵力を投入すると見られています。
城砦では情報の収集・細部の探索は進んだものの、ムルキベル配下の悪魔たちの神出鬼没な動きにより、連携に難を生じ、明確な変化の法則性および城砦奥への効果的な突入は行えませんでした。

第3回ではバアルが残りの戦力を投入すべくタイミングを図っている様子です。
バアルの魔力「赤の書」の発動を少しでも遅らせるため、本陣を奇襲すべきとの提案もありますが、荒野での戦線が構築できなければ、奇襲兵力を届けることはできないでしょう。
また、ディーテ城砦では情報をつなぎ合わせるためと探索範囲が広がりすぎたことに、いったん奥への進入を中止することになりました。あわせてリアルタイムな変動に対応するために、伝令を用いての連携の強化が考えられており、これがうまくいけば城砦の攻略も楽になるでしょう。
ゲヘナの丘では変わらず瘴気を含んだ魔力が漏れ出している状態です。バアル軍に占拠されれば再び、デビルの魔力の源として使用されることは明白なこと、また主戦場のバアル軍の数を少しでも減らすべく、重要視される場所であることは間違いありません。

結果概略

成功結果冒険者の状況敵の行動次回予測
荒野  △ バアルの無限の軍勢出現バアル軍進軍
ゲヘナの丘  ○ 儀式が有効か? バアル軍足止めバアル軍進軍
城砦  △ 連絡の不備で混乱デビル奇襲?
城砦 奥  △ 探索の結果を集計ムルキベルの迷宮構築続く?



■第2回報告書

●ゲヘナの攻防
 バアルの軍と思われるデビルの軍勢の動きは、正確に彼の元へと届けられた。
【誠刻の武】の中でも、影に潜み、敵の動きを探る役目を担う者達が、命がけで掴んで来たネタだ。無駄には出来ない。
 鞘に収めた身の丈ほどもある野大刀で、とんと地を突くと、陸堂明士郎(eb0712)はクリューズ・カインフォード(eb3761)を振り返った。
「エキドナの動きは?」
「変わらず、丘の周囲を徘徊して機会を窺っているようだ」
 クリューズの淀みない報告に、明士郎は一瞬だけ目を閉じた。クリューズの元に届くまでの、何人もの仲間達の苦労を思い、今は伝える事が出来ない労いの言葉を心中で呟く。
「エキドナに付け入る隙を与えるな。【白騎士団】の補給路確保はどうなっている?」
「王虎(ea1081)の話では、散発的なデビルの襲撃があって、補給路を確保する所までは至っていない」
 ゲヘナの地を完全にこちら側に掌握出来ていない以上、後方のように補給路の確保は難しいだろう。荷運びの際には襲撃を想定し、常にドナン・ラスキン(eb3249)やアルビオス・レイカー(ea6729)といった戦える者達が目を光らせていなければならないらしい。
 だが、いずれの地でも補給線は命綱だ。呪われた火を鎮める為に必要な聖別された品々を運ばねばならない、このゲヘナにおいては補給路は特に重要な意味合いをもつ。
「なに、つまりはこの丘を完全に我々が制圧してしまえばいいのさ」
 そうだろう?
 明るく問うて来た空間明衣(eb4994)に大きく頷きを返して、【誠刻の武】の仲間達はそれぞれの得物を握り直した。
「他の隊に通達、今より、我々はバアルの軍へと攻撃を仕掛ける。後は任せた、とな。明衣、貴殿は」
「分かっている。我々はここの護りをやるだけだ。きっちりと役目を果たそう!」
 呼応した仲間達の声を背に受けて、彼らは走り出した。
「【誠刻の武】が動いた!」
 ドラグーンのコクピットの中でその報を聞いたシャリーア・フォルテライズ(eb4248)は、相棒たる機体の操縦桿にそっと手を添わした。ドラグーンはシャーリアの心に応えてくれる。シャーリアが確たる心‥‥善なる心を持つ限り、ドラグーンはその力を最大限に発揮してくれるだろう。
「他の隊の位置は分かるか?」
「粗方の所は。でも、動いているからなぁ。正確な位置までは分からないよ」
 リィム・タイランツ(eb4856)の言葉に短く応えを返すと、シャーリアはゆっくりと操縦桿に力を込めた。地上からの攻撃部隊とどこまで連携がとれるか分からないが、敵を蹴散らし、分散させる事が出来れば彼らの助けともなるだろう。
「出る! リィム、報告書は後で提出すると伝えてくれ!」
 見れば、キャベルスも出撃するようだ。アリル・カーチルト(eb4245)のドラグーンも。
 そして、丘の麓では既に戦端が開かれていた。
「丘の上には行かせません!」
 オグマ・リゴネメティス(ec3793)のフェアリーボウから連続して放たれる矢に、狂気を纏って襲い来るデビルが数匹倒れた。けれど、弓矢の連射では間に合わない数では分が悪い。矢をつがえる間に僅かに出来た空白の時間、オグマの前へと出たのはリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)だ。
「残念でした! 私は対多数戦闘の方が得意なんです」
 引きつけたデビルに向けて強烈な光が放たれる。突然の光に視力を奪われ混乱した中を素早く走り抜けたリュドミラのラ・フレーメの刃で、何体かが地面に倒れ伏す。
「‥‥ひ‥‥一声かけてくれい」
 光を直視してしまったズドゲラデイン・ドデゲスデン(eb8300)は、目をしぱしぱさせながらも、ぶんとギガントアックスを振り回した。
「がはははははは!さらに切れ味を増したワシのギガントアックスを食らって潰されるが良い!」
「きゃーっ! ズドおじさんも、ちゃんと目が見えるようになってからにしてーーーーっ!!」
 頭を抱えながら、あわあわとギガントアックンの旋回の下をくぐり抜けると、シア・リィ(ec6235)は逸る心のままに呪を唱えた。戦陣を崩された今ならば、敵に打撃を与える事が出来るはずだ。
 シアの思惑通り、彼女の放ったローリンググラビティーが次から次への連続攻撃で逃げ惑っていたデビルを上空高く舞わせる。中には運の悪いものもいて、更にギガントアックスに吹き飛ばされて、遙か遠く、地獄のお空の彼方へと飛ばされてしまった。
「わはははははは! 見ろ、デビルがゴミの‥‥」
「わわわ、駄目です、ズドおじさん、それ以上はっ!」
 とにもかくにも、ゲヘナ攻略の為に派兵されたバアルの軍勢は、冒険者達の連携によって分断を余儀なくされたのであった。

(担当:桜紫苑)


●壁
「だめ、効果がない!」
 ディーテ砦内部の調査を志願した冒険者の一群が壁を調べていた時であった。突如壁が開きデビルが出現した。即時、応戦する冒険者たち。だが、初級で充分とする判断がデビルに時間を与える事になる。
 初級の術を中心として応戦に入った【春夏秋冬/魔法調査班】のメンバーは傷一つさえ付かないデビルの集団の前に為す術を失った。下級と聞いていたデビル、グレムリンやインプでさえも魔法の影響を受けない。チャームを詠唱してからの作戦を思い描いていた鳳凰院あすか(ec5863)も不測の事態に動揺が走る。
「専門ならいけるはず!」
 わらわらと現れるデビルにようやく一撃が当たった。だが、如何せんデビルに先手を奪われた事と、冒険者達の装備の重さがネックとなった。
 そして、後手に回る冒険者を見据えつつデビルは何かを詠唱した。それ以降、同じ魔法、同じ攻撃は全く通用しなくなる。

 ディーテ砦に侵入した冒険者の中、移動力で遅れが出る者は入り口の付近で発生した戦闘に巻き込まれ前に進む事さえできなかった。敵と衝突し膠着状態になる事は即ち冒険者側の一方的な敗北を意味していた。
 時折、襲い掛かるように迫りせり上げる壁や床、天井が冒険者を撃つ。デビルは逆にそれらを味方として、突如として現れては撤退し、冒険者の傷だけが増える結果となった。辛うじて後方の支援が冒険者たちを支えていた。
 混沌となるディーテ砦の戦局の中、しかし、一方で手隙となった地点を駆け抜けて行く冒険者もいる。

 【威力偵察隊「月」】隊長のリ・ル(ea3888)は敢えて敵の勢力化にある右門からの侵入を選んだ。上空でグリフォンを駆り調査を行うヒルケイプ・リーツ(ec1007)の誘導も効いていた。リ・ルは時折襲い掛かってくる城壁や天井を巧みに回避しながら忍び足で前に進んで行く。
 リ・ルとは別行動を取っている同隊、キット・ファゼータ (ea2307)は敵が通過した事を確認して物陰から姿を現す。戦場工作にも長けたキットは再び慎重に壁を探る。抜け穴はないか、隠し扉はないか‥‥。
 静寂を風切り音が破る。どさ、と倒れたデビルの喉元には深々と矢が突き刺さっていた。
ディーテ砦の城壁。ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)がその上に陣取って気配を絶ち様子を伺っている。
 彼らはじっと息を殺しながらディーテの変化を見つめ続けた。時にデビルと剣を交え、時に呼吸さえも止めてデビルをやり過ごした。何か、本当にどんな些細な事でもいい。この砦を抜けるための方法が見つかれば‥‥。

(担当:谷山灯夜)


●悪しき力の源は
 きっと気の遠くなるぐらい前から、この丘ではおぞましい儀式が行われて来たのだ。
 何千、何万の犠牲者達の無念の叫びが、嘆きが今も聞こえて来るようだ。
「さぞや無念であったろう」
 犠牲者の体はとうに失われて、死者の最後の叫びを聞き取る事も叶わない。雀尾嵐淡(ec0843)は、静かに両の手を合わせて瞳を閉じた。
「俺に出来る事は、おまえ達がこの地の底から解放されて、光の満ちた世界へと迎えるよう祈る事だけだ‥‥。すまない」
 せめて弔いをと祈り続ける嵐淡の隣にリル・リル(ea1585)が並び、彼を真似て手を合わせた。
「こうすると、犠牲になった人達が天の国に行けるの?」
「天の国に迷わず辿り着けるよう、道を示す手伝いをするのさ」
 ふぅん、と相槌を打つリルに、いつものような元気はない。この丘の禍々しさを改めて知り、圧倒されているのだろうか。
「皆のお祈り、届くと思う?」
 彼らの背後では、ゲヘナの丘の力を出来る限り無効化する為の準備が進められている。
 モレクが執り行っていた儀式がどのようなものであったのかは分からないが、多くの魂が捧げられ、デビルに力を与えていたのは間違いない。そして、その力は今も残っている。儀式を執り行う者を失ったまま、燻り続けているのだ。
 エキドナは、未だに丘の奪還を諦めてはいないようだし、バアルの軍勢も丘を制圧すべく軍を進めている。
 こうして丘で行われる祈りの儀式も、儀式を守る為の布陣も、敵の隙をついて丘に入り込んで仕掛けたもの。ゆっくりしている時間はない。
「丘が、完全にあたし達の陣地になれば、もっともっとお祈りしたり、歌や踊りで囚われたままの魂を慰める事も出来るのにね」
「うーん。それは、下の皆に期待、だな」
 ゆっくりとした音楽が流れ始めた。
 誰かが奏で始めた曲は、どこか物悲しい旋律だった。それでも聞いている者達の心を穏やかにする。懐かしい故郷を思い出すような、そんな音色。
 その曲に合わせて、ラヴィ・クレセント(ea6656)が緩やかに手足を動かし始めた。ジャパンの舞ともイギリスやノルマンのダンスとも違う、独特の舞だ。静かに一歩ずつ踏んで行くステップは多くの血を吸った大地に確かな跡をつけ、差し伸ばされた指先は血の色をした空の向こうを示している。
 それは、儀式の力を削ぐ為の舞ではない。人の目を楽しませる衣装でもないし、派手さもない。
 ただ純粋に死者を慰め、道を示す為だけに舞われる舞だ。
「‥‥っ!」
 たまらず、フィン・リル(ea9164)もラヴィの傍らで舞い始めた。拍子の取り方も手足の使い方もまるで違う舞は、ちぐはぐなものだった。けれど、いつの間にか、2人の舞は息をぴったりと合わせたものへと変化していった。
「そうか」
 呟いて、天涼春(ea0574)は手にしていた木魚を地面へと下ろし、そこに胡座を掻く。
「地獄の業火を鎮める為、悪鬼の力を削ぐ為と祈り、歌い踊るのは有用かもしれぬ。だが、もっとも大切なのは‥‥」
 ぽこぽこと鳴り響く木魚の音は、舞の伴奏にしては些か間抜けな感じがしたが、その違和感もやがて消えた。
 祈りの儀式の準備を進めていた者達も、皆、それぞれに踊り、歌い始め、丘の無心な祈りの心が満ちる。
 デビルに力を与えるゲヘナの炎。
 それはデビルの儀式によって歪められたとはいえ、本を正せば人の魂だ。
 丘に囚われたままの魂が待っていたのは、デビルの鎖を解き放つ刃でも、魔法でもなく、ただ彼らを悼む純粋な心なのかもしれない。
 未だ衰えぬ炎を見つめつつ、涼春は数珠を手繰ると深く一礼した。

(担当:桜紫苑)


●溢れ出す地獄
 【ジャパン医療局】の手によりゲヘナの丘にほど近いところに設営された救護所では、地獄病なる奇病のサンプルを探し、そして病を防ぐべく伝え聞いた対策を施そうとしていた。
 それが効果があったのかはわからない。だがいまだこの地獄の奥底において、その奇病の症例を発したものは、この戦いが始まって以後、確認されていなかった。
 地獄病。200年ほど前にロシアのある場所で流行った奇病らしく、その原因は地獄より生ずる濃い瘴気が原因だという。あるいは、悪魔の業による呪いであるとも‥‥。それゆえに、地獄でも瘴気、穢れがもっとも強い場所のひとつと考えられる、ゲヘナの丘の影響を気にするべきとの判断がなされたのだろう。
 遠き北の地にて潰えたはずのこの奇病は、ディーテ城砦攻略戦のおり現れた、七魔が一人マルコシアスの襲撃の際、ロシアにて再び発症が確認されていた。
 滅びたはずの病気が現れたことは不幸。だがそれ故に、忘れられたはずの対抗策を新たな知識とできたことは幸いか。救護所では数多の薬草が煎じられ、医療に力を持つ魔道具が用意され‥‥あわただしい空気は、外から響く剣戟の戦いとはまた異なる戦場の様を呈していた。
「‥‥あれは、なんだ?」
 突如、ゲヘナの丘に風が吹き荒ぶと、その突風に煽られ、結わえる紐が緩くなっていた陣幕が吹き飛ばされそうになる。
 突風が渦巻くその荒野の上方、ゲヘナの瘴気が立ち上る赤き空に一瞬現れた黒い影。
 その黒い影は、眼下の小さな者たちの慌てる様に笑ったのだろうか、体をそらすと、まるで真綿が水を吸い込むかのように漂う瘴気を蓄え、体制整えて空に射撃を加える冒険者たちを尻目に、空を滑るように去っていった。

「ほほぅ、まさかあ奴が来るとはな」
 そこはディーテの前に広がる無限の荒野、その一角に本陣を構え、豪華だが趣味のよくはない、ふかふかした椅子に腰掛けながら、優雅に赤い酒を喉に流し込んでいたのは、誰あろうバアルであった。
 そのにやつく視線の先にはゲヘナの丘が遠くに見え、そして眼下では配下の悪魔と人間たちの戦いの様子がよく見える。
「北の片田舎のみしか興味がないだろうに、今更‥‥我輩の権力いや増すことを恐れてか? いやはや遅い遅い。我輩にこの力がある限り!」
 ゲヘナの丘上空を去っていった影を嘲笑うようにつぶやき、バアルはその手に赤く大きな書をとると、目が痛くなるような文字がびっしりと書き込まれたその一葉を繰り、そして呪いの言葉を吐きかける。
 あわせて、周囲に赤い霞が漂うと、それはゆっくりと降り積もるように黒き形をとっていく。
「我輩に敗北の二文字はなく、あるのは蹂躙と、そして勝利のみなのだよ!」
 そして進みだした無限の軍勢を見て、バアルは耳障りな声で高々と笑った。

(担当:高石英務)


●赤き魔本が秘めし力
 始まった荒野の戦い。
 幾多の冒険者達とバアル軍の戦いの幕は開かれた。
 しかし、多くの冒険者達の予想に反して、まだ前線に姿を見せぬ大元帥バアル。
「て‥‥敵が全然、減りませんわ‥‥。いったい、どうなっているのでしょう‥‥」
 戦場で偵察に動いていた綾辻糸桜里(eb0762)は、一向に好転せぬ戦況に疑問を抱いていた。剣の達人や熟練の魔術師達は、その類稀なる力を持って、次々と悪魔を駆逐している‥‥はずだというのに、敵は何処からか次々に現れる。このままでは、一方的な消耗によって冒険者達の側だけが疲労していってしまう。
 この時、多くの冒険者は一つの同じ考えに至っていた。
 宣戦布告した時のバアルが抱えていた赤い本。
「ああ、そういや俺も受験で使ったっけなぁ。いやあ、あの頃は苦労したっけ〜」
 音無響(eb4482)がそんなことを一人呟いていたが、どうも違う世界の話らしいと分かり、他の冒険者達は無視した。
全てを支配する己が力の象徴と、かの悪魔は言った。それが本当なら、あの赤い本に何か秘密があるに違いない。
そう睨んだ幾人かの冒険者は、バアルを探して偵察に動く。
『全く、バアル様は我々ばかり働かせて‥‥』
『そう言うな。あの方の力があればこそ、我らはこうして‥‥。それに、バアル様には安全なところにいて貰わねばな』
(「ふ〜ん‥‥じゃあ、バアルは敵軍の一番、奥かな」)
戦いの喧騒に紛れ、潜入した悪魔達の会話から草薙北斗(ea5414)はバアルの配下の悪魔達から、その所在についての情報を入手する。
それを元に、若宮天鐘(eb2156)は望遠の魔法を用いて、遠距離から敵軍の奥へと監視の目を走らせる。
そして、見つけた。
「おっ、いたいた。しっかし、あのバアルってのは、また随分と人を小馬鹿にしたツラしてやがんなぁ‥‥ん?」
 彼の見ている中、バアルの周囲に次々と悪魔の姿が現れる。それらは、再び最前線の戦場へと向かって動き出した。
「まさか‥‥」
 戦場で深手を追い、赤い霧に包まれて消える悪魔の姿を確認する。すぐにバアルの付近に現れる悪魔を見れば、同種のもの。この情報は、すぐに他の冒険者達にも伝えられる。
「‥‥つまり、あれは際限なく悪魔を復活させる、世界中の医者も驚きの超回復マジックアイテムだと? どうしろと言うんだ、そんなもの‥‥」
 エリオス・ラインフィルド(eb2439)は頭を抱えた。悪魔の軍勢を破るためには、バアルの本を何とかするしか無い。しかし、そのバアルに近づくためには、その不死の悪魔の軍勢を倒さねばならない。八方塞がりである。

 何か手は無いのか。冒険者達は、その方法を模索し始めることとなる。

(担当:BW)


●悪夢再び
──荒野・ベースキャンプにて
「だーかーらー。悪魔が9に冒険者が1っ。目の前の荒野では、そんなかんじで敵が展開しているのよっ!!」
 リースフィア・エルスリード(eb2745)が、ペガサスから飛び降りつつそう叫んでいる。
 ペガサスによる強行偵察、それを行なっていた最中に確認できた敵。
 その数に圧倒さけれつつも、リースフィアは目の前で起こっていた現状を事細かに報告していた。
 大量の悪魔の中心、そこには件の悪魔バアルの姿が見えている。
 そしてバアルの手にしていた赤い本。
 それが召喚のカギを握っていることは明確。
「で、あとどのエリアが手薄になっていたのか説明してほしいじゃん?」
 そう問い掛けるのは【☆メイ・ゴーレム隊】の利賀桐 真琴(ea3625)。
「誰か地図を貸してください!!」
 そのリースフィアの言葉に、一枚のエリア地図が届けられる。
 それを広げると、リースフィアは自分が目に下敵の配置を事細かに書込む。
「ここがバアルの存在していたぽいんとです。で、手薄になっていたエリアはこことここ、そしてこ。どこも前線部隊が戦っていますけれど、かなりの負傷者が出ていることは明確です!!」
 そのリースフィアの言葉に、利賀桐はフンフンと肯くと、後方で待機していた仲間たちに叫ぶ。
「チャリオット全機スタンバイでやんす。目標エリアはA−4からC−5の全域。このベースキャンプに向かって進軍してくる確率がかなり高い所でやんすから、みなさん気を引き締めていきやしょう!!」
  その言葉に、門見雨霧(eb4637)がチャリオットをスタンバイ。
 すぐさま前線へと移動していった。

──その頃のエリアA−4
「「テンプルナイト、クローディア・ラシーロ。参ります!」
 聖剣アルマスを身構え、ベースキャンプに向かって移動を開始している悪魔の軍勢の正面に立つクローディア・ラシーロ(ec0502)。
 そのまま敵に向かって一気に走りこむと、てじかの悪魔を次々と切り捨てていく!!
「まあ‥‥随分と気合の入っていること‥‥やれやれ、参りますかな」
 と呟きつつ、ヴィルジール・オベール(ec2965)も重い腰を上げて走り出す。
 クローディアの討ち残した悪魔を次々と切り捨てつつも、前線拡大を最小限に押さえようというのである。

──その近く 
「急いで怪我人を後方へ!! 前線にまわす物資と補充要員はまだかっ!!」
 ラルフェン・シュスト(ec3546)は最前線で傷ついた仲間たちを後方に送る作業を行なっている。
 クローディア達にまわさなくてはならない物資の確認も彼の仕事らしい。
「これがベースから届いた薬一式です。僕はこれから前線に薬を届けてきます!!」
 ロラン・オラージュ(ec3959)が薬の入ったバックを腰に固定し、素早く馬で走り出す!!
「頼んだぞ!! それと前線で傷ついたのがいたらここまで頼む!!」
 ラルフェンの言葉にロランは右手を握り親指を立てて合図を送る。
 【TN守護隊】の参戦により、後方ベースキャンプの平和は無事に保たれていた。

(担当:久条巧)


●もう一つの戦場
「そこ! 巻き込まれるぞ!」
 城の変化に巻き込まれそうになっていた冒険者の襟首を掴み、【翠志】の来生十四郎(ea5386)は自分の方へと引っ張る。
「あなた、怪我をしていますね」
 室川太一郎(eb2304)が素早くポーションを取り出し、飲み込ませる。その間、勇貴 閲次(eb3592)は仲間達の護衛に、と奮戦していた。
「壁が動くなら、穴を開ければいいだけですわ」
 救護所までの退路作成の為にウォーホールを使った【西中島隊】のクレア・エルスハイマー(ea2884)だったが、その穴が暫くして閉じてしまって眉を顰める。いや、ムルキベルの構造変化に伴い、壁が入れ替わったのだ。
「どうやら穴を空けたら早急に通過しなくてはならないようですね」
 しかも一度通過したら、戻ってくるのが大変だ。
「今のうちに!」
「僕たちは退きません。この道は文字通り生命線ですから!」
 西中島導仁(ea2741)に李雷龍(ea2756)、マミ・キスリング(ea7468)らがオーラ魔法を駆使して仲間たちを守る。その間に李風龍(ea5808)が治療を施していく。
「簡易救護所位はこなせるが、ちゃんとした治療はやはり後方移送だな」
「こっちにも怪我人がおるで〜」
「怪我人はこのルートで運ぼう」
 イフェリア・アイランズ(ea2890)に十野間修(eb4840)らチームの仲間の助力を得て、救助活動は進んでいく。

「この人は『赤』じゃ!」
 峰春莱(eb7959)の言葉にシェリル・オレアリス(eb4803)と導蛍石(eb9949)が反応した。超越レベルの白魔法で即座に治療を開始する。『赤』とは重傷者のサイン。
「死傷者発見です」
「急いで運ぼう」
 フォルテュネ・オレアリス(ec0501)とパラーリア・ゲラー(eb2257)はアイスコフィンで固める事でとりあえずの応急処置を施した死傷者を後方救護所へと運ぶ。
 その救護所付近では、救護に当たる人々を守る戦いが続けられていた。
 柾木崇(ea6145)と成史桐宮(eb0743)が敵から守り、ヴァイエ・ゼーレンフォル(ea2066)が軽傷者の応急手当に当たる。シュトレンク・ベゼールト(eb5339)もそれに加わり、救護所を守っていた。
「戦場に戻っちゃダメです。もっと回復してから‥‥命を大事にして下さい!」
「俺が運ぼう」
 救護所に運べそうにない人に回復を施していたレイズ・ニヴァルージュ(eb3308)の叫びにも似た声に反応したのはカイ・ローン(ea3054)。愛馬のペガサスに怪我人を乗せ、そして後方へと運んでいく。
「中傷者です!」
「こっち、今息を引き取ったばかりの‥‥!」
 後方救護所もまた、一種の戦場の様相を呈していた。
 命を奪い合う戦場ではなく、命を救うための戦場、だ。

(担当:天音)


●生きる為の
──荒野・ベースキャンプ
 前線から送り届けられた怪我人達の治療の為、ベースキャンプは今日も慌ただしい。
「済まない、至急治療を頼む!! ひとりは右腕の切断、もう一人は両脚の粉砕らしい‥‥」
 そう叫びつつ、怪我人を運んできたのは【江戸雛隊】のイクス・エレ(ec5298)である。
「切断はあちらに!! 粉砕はとなりのベットに寝かせろ!!」
 手袋をギュッとはめ込みつつ、空木怜(ec1783)がそう指示を飛ばす。
 そのまま怜はてじかの怪我人にリカバーを施すと、すぐさま次の患者の元へと向かう。

──その刻
「前線救護班より伝令!!」
 早馬でベースキャンプに駆けつけた小鳥遊郭之丞(eb9508)が、医療班に向かって叫ぶ。
「なんだ?」
 怜がそう問い掛けると、小鳥遊は呼吸を取り戻しつつ話を始める。
「前線救護班で回復要員が不足。移動不能な患者も多数いるため、至急クレリックをまわして欲しい!!」
 その小鳥遊の言葉に、怜はすぐさま行動を開始。
「音羽とポーラ、クリステルは至急前線へ。チーム【ウィル双翼騎士団】の岬に伝令を、彼女達を前線まで無事に届けて欲しいと!!」
 その怜の言葉を聞いて、音羽響(eb6966)とポーラ・モンテクッコリ(eb6508)、クリステル・シャルダン(eb3862)の3名は急ぎ【ウィル双翼騎士団】の元へと移動。
 そこで待機していた岬沙羅(eb4399)と共にゴーレムチャリオットで最前線の救護班の元へと向かっていった。

──さらにその頃
「セーラよ。傷つき倒れた彼のものの魂を、今一度現世へと呼び戻したまえ‥‥」
 静かな詠唱。
 そして唱えていたフィーネ・オレアリス(eb3529)の全身が白く輝く。
 やがて、彼女の眼の前にあった死体に再び魂が宿り、息を吹き替えした。
「あとの処置は御願いします!! 次の死体はどこですか?」
 フィーネは助手をしていた冒険者にそう問い掛けると、次の死体の元へと走っていく。
 その途中でソルフの実を一つ口の中に放り込むと、失いかけていた魔力を充填。
 そして再び死体甦生を開始する。

 その近くでは、フィーネによっても助けられなかった死体を地上へと送り出す準備をしているリンデンバウム・カイル・ウィーネ(ec5210)の姿もあった。
「こいつの遺品は全てこの袋の中に入っている。遺族の連絡先はここらしい。奥さんが家に残っているらしいから、丁重に頼む。次のこいつの遺品はなし、身につけているものが全てだ。実一つの冒険者らしいから、ノートルダム大聖堂の墓地に頼む‥‥」
 と、地上に戻る舞台に丁寧に説明を行なっていた。
 
 いずれにしても。
 この戦いは一体いつまで続くのだろう‥‥。

(担当:久条巧)


●逆境奮起
 砦内部にて思わぬ足止めを食らった冒険者たち。
 勿論砦の変化を見極め、その先に進む道をまず見つけなければ話にはならない。しかしそれをするにしても湧き出るデビルたちを一時的に食い止めておく必要があった。少なくとも偵察を行っている班がその打開策を見つけるまでは―――
「目論見は外れ‥‥か。見渡す限り敵だらけだな」
 拳をコキコキと鳴らしながら苦笑するのは【ケンブリッジ防衛隊】のロイ・クリスタロス(eb5473)。同時に敵軍に向かってゆらりと歩みを進めているのは【VizurrOsci】の三人。
「塵も積もれば‥‥ってやつを教えてやりますか」
 月詠 葵(ea0020)は手にした日本刀をブンと一振りして不適な笑みを浮かべる。
「ここが正念場だ!」
「ここは通さない‥‥!そうすれば救護所も‥‥」
 尾花 満(ea5322)の気合に応えるように彼の後方で弓を番えるフレイア・ヴォルフ(ea6557)。
 湧き出る敵に挑む仲間の数は城砦の変化のせいもあり意外に少ない。
 しかし皆それぞれが譲れぬ思いを胸に秘めてそこに立っている―――そう、思いは一つ。
「この旗の下、我らが思いは一つ!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
 【春夏秋冬/前方戦闘班】のマリーティエル・ブラウニャン(ea7820)の鼓舞一閃、怒号が轟きそれはうねりとなり地鳴りのように城砦内に響き渡る。冒険者たちの気迫に呑まれたのだろう、敵軍の動きが一瞬鈍くなる。無論それを黙って見過ごす冒険者ではない。華麗な連携が次々と、そして着実に敵を沈めていく。
 【春夏秋冬/前方戦闘班】のミナミナ(eb5200)が敵を掴んで壁に叩きつけ、動きが止まったところに同じ隊のロリンティア・ローリス(eb7874)の矢が止めを刺す。
 さらに同じ隊のポーレット・シルファン(eb4539)が敵陣に踏み込み握り締めたスピアを大きく振るって敵を弾けば、桐谷 たつ(eb0298)の日本刀がよろめく敵を一閃、さらにダイアン・シュンカ(ea9107)のソードボンバーが炸裂する。
「北辰流・和泉綾女、いざ参ります!」
 和泉 綾女(ea9111)は名乗りと共に日本刀を振るい敵の防御を切り崩して仲間の追い討ちを誘導する。
 慌てたデビルたちは少しでも死角をなくそうと、陣形のようなものを組み立てるかのごとく集まり始める。が、そこに飛び込んできたのは一発の火炎球。
 轟音と共に黒焦げに成り果てた数体のデビルが姿を現す。
「さぁ、次にウェルダンにされたいのは誰!?」
 立てた人差し指にふっと息を吹きかけてポーズを決めるのはエルザ・ヴァリアント(ea8189)。
 バラければ各個撃破、集まれば集中砲火。
 情報不足から招いてしまった失態。
 戸惑いと錯綜が入り混じり連携らしい連携がうまく取れなかった。
 しかし体制を整え目の前にあることを一つずつ片付けていく。
 明確にされた目的。
 条件さえ揃えば冒険者たちの切り替えは目を見張るものがあった。
 何より負けられないという思いの強さ。
「偵察をしている皆がこの城砦の謎を解くまでの間だ! それまで‥‥ここで敵を食い止めるぞ!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
 再び怒号が辺りに響き渡る。
 ―――長い長い持久戦が今、幕を開けた。

 多数のデビルが犇めき合い冒険者たちと一進一退の攻防を続ける中、その影に埋もれるようにして様子を伺う一つの小さな影。サイズ的には人間の子供程の大きさで、笑顔を貼り付けたような造形的な面立ちの少年である。
「人間というのはなかなか面白いことをするね」
 くつくつと押し殺すような奇妙な笑い声をあげながら少年は呟いた。
「この様子じゃムルキベル様のところまで辿り着くにも時間がかかりそうだ。ここに僕のやるべきことはなさそうだし‥‥暇つぶしに人間の本性ってのを見せてもらいにいこうかな」
 言葉からするにムルキベルの配下であろうか、少年デビルは蠢くデビルの群れの中から静かに姿を消した。

(担当:鳴神焔)


●ディーテの鼓動
「もしかしたらディーテ砦の変化には法則性があるのかな‥‥?」
 ギルス・シャハウ(ea5876)は、ふと感じたことを口に出し、自分自身がその言葉に驚いた。一見無秩序に変化しているようにも思えるディーテ砦の内部。だが、何か言い難い法則があるように思えたのだ。土地勘が働いたのかもしれない。学んできた学問が深層の意識化で注意を囁いているのかも知れない。あるいは敬虔な使徒としての神学が神の造詣にも悪魔の造詣にも通じたのかも知れない。
「いろんな技能を持つ人が見れば、もっとこの違和感がはっきりするのかも‥‥」
 前に進むために必要な扉が今、僅かではあるが開いた気がした。

 一方、デビルの調査を行っている者もいる。エレイン・ラ・ファイエット(eb5299)は一度後方に待機しているフロートシップに帰還するとバックパックを取り出し、見て来た物、伝聞や報告にあったデビルについて書かれている書物はないか確認をしてみる。とある魔道書のページを開いた時、バアルの名が最初のページに現れた。驚きながら次々とページをめくる。ストラス、ダンタリアン、ゼパル、サレオス‥‥。魔界の貴族の名が連なる。先に現れたモレク配下の七魔の名は、むしろ後半に登場している。この書に書かれているだけデビルに将がいるのなら、そしてこの並び順が地位を示すのなら。これより現れるデビルは、今までとは全く位が違うデビルになるのだろうか。

 片足を引きずりながらディーテ砦を歩く兵士がいた。
「脚を負傷されたのですか?」
 魔法を用いて治療を担当していたクレリックがその兵士に駆け寄る。寄り添い心配そうに案ずる。
「ああ、すまない。城塞の壁に脚を挟まれてしまった‥‥」
 デビルの目が届かない場所まで移動すると高レベルのリカバーを詠唱する。クレリックの額に汗が走る。
「本当に済まないな‥‥」
 感謝の言葉を口にする兵士と、目が合う。傷が痛むのか。吐息が粗く聞こえて来る。それは兵士の吐息なのか、それとも自分の吐く息なのか。体の奥が熱を帯びる気がした。地獄には奇妙な病もあると聞くが、ただの疲れだろうと自分を無理矢理納得させる。
「ありがとう。彼らも癒して欲しいのだが」
 血のように赤い鎧を着た兵士が指差す先には黒い体に黒い尾が伸びる異形の存在がいた。
「‥‥はい」
 心臓が高鳴る。耐え難い衝動を抑えきれない自分がいる。目の前に迫ってくる黒い体に飛びつくと、貪るようにその唇を吸った。きっと、自分は彼と出会うために地獄に来たのだとそのクレリック‥‥、いや、いまやただの女となった彼女は悟った。出会った以上は最早何人たりとも彼に傷を負わせる事は許さない。今まで味方だと思っていたのは何かの間違いだったのだ。そして、彼に対する償いをするためにも、人と戦う事を彼女は決意する‥‥。
 何事もなかったように紅い鎧を着込んだ兵士は黒い悪魔とその悪魔に身も心も預けたクレリックに指示を出す。ディーテ砦を抜け出して荒野に向かう影を見送りながら、赤い鎧の兵士は「やれやれ」と呟く。
「元帥が直々に指揮を執ると聞くからどれ程の事態かと思い様子を見に来たが」
 濡れたような長い黒髪を手でかき上げる。妖しく輝く金の瞳でディーテの様子を見据える。
「とんだ茶番だな。万魔殿も近いこの区域でさえ緊張感さえ感じられぬ装備に機動力に連携。神ではなく人の手によりモレク卿が倒されたと聞いた時は少しは驚いたものだが、モレク卿は天界との戦いしか眼中になかった方ゆえ無理も無いが、油断も過ぎたものだ」
 かつんかつんとディーテ砦の内部に足音が響く。

(担当:谷山灯夜)


●歪む城砦から消えたもの
 ディーテ城砦の変容には、なんらかの法則性があるのか。
 法則性があるなら、それはどういうものなのか。
 また変容する城砦内で、仲間と密な連絡を取るにはどうしたらいいか。
 城砦内部を偵察する者にとって、それは大きな課題だった。
 連絡の補助に名乗りを上げたチームは複数。燕桂花(ea3501)達シフールの『しふしふ同盟』は、城砦内を飛び回る。時と場合により、その伝令が敵と遭遇したり、城砦の変化に巻き込まれるが、小さな物陰に潜んだり、上空に飛び出すことが出来るのが強みだ。チーム外でも同様の活動で皆を助けるシフールは少なくない。
 『マジカル特戦隊』のエレェナ・ヴルーベリ(ec4924)やラテリカ・ラートベル(ea1641)、【TN口伝部】のクリス・ラインハルト(ea2004)、【世界騎士団】のヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)はじめ、各地のバード達はテレパシーでの連絡を絶やさないようにしている。視界にいなければ、よく知った者相手でないと魔法であっても繋がらないテレパシーの制限の中で、時には連絡を次々と人伝に回して、伝えるべき相手を捜す羽目にもなった。
 この地獄の地に限ったことではないが、テレパシーは視界内なら知らない相手に送り込むことが出来る。デビルからの偽情報混入を防ぐために、それぞれの部隊ごとに合言葉を決め、更にそれを事前に教えあって、連携を取る。バード達の苦労も相当なものだが、自分の足や羽で移動する者達もいる以上、誰も弱音など吐かない。
 そうしてバード達の中には、城砦の内部の変化を魔法で探ろうとしたり、同様に魔法指定で負傷者発見に努める者もいる。
 誰もが懸命で、その中の一部のことだが、多くのチームが城砦の変化ではぐれた際の合流ではこうした人々の連絡に頼ることになった。
 そしてその城砦の変化の法則性については、
「勝手に変わるのか、それともムルキベルの意思で変わってるのか‥‥壁を破壊しての遭遇例が多いからな、手下が見てるか?」
 『TN偵察隊』のレンジャー、リスター・ストーム(ea6536)がそう見立て、
「統制を保っているデビルと、そうでないデビルの違いが分かれば、攻略の手掛かりになるだろう」
「迷っているのはバアルの配下、迷わないのはムルキベルの配下。目撃証言からして、そう分類できますね。大きな要点ですよ」
 刻々と集められ、各所に伝達される情報から、ツルギ・アウローラ(ea8342)、春咲花音(ec2108)などが導いた着目点はこれだった。ならば具体的にどうするということは、各人の技能により様々だ。
 デビルへの着目点は分かっても、城砦の変化は実際に見てみなくては分からない。レオナルド・アランジ(eb2434)は広い範囲にロープを張り巡らせたりして、一度にどの程度の範囲が変化するか観察しようとしたが、作業途中で自分ごと違う位置に飛ばされた。壁をよじ登って周辺地理を確認しようとしたイェーガー・マイスター(eb1046)も同じく。
 壁に対して聖水をかけたり、ニュートラルマジックを掛け、変化の有無を確かめていたアン・シュヴァリエ(ec0205)達『ローゼンクロイツ』は、チームを分断するような変化に巻き込まれている。魔法で隠し通路を探っていたイリア・アドミナル(ea2564)達【皇牙】も、現在地を見失うような移動を体験させられた。
 この変化やそれまでに様々な人達が床や天井、柱に壁とあらゆる場所に記した目印が増える一方なのを考慮すると、
「城砦の大半は新たに突然造られるのではなく、移動か」
 こう予測を立てた羽鳥助(ea8078)が『TN偵察隊』の仲間に狼煙を上げる。確実性は薄いが、情報伝達方法は多いほうが良い。【翠志】のライル・フォレスト(ea9027)らも同様の結果に考え至り、呼子笛で連絡を取り合っている。前回の偵察で得た情報は参考にせず、今回のみの確認で判明した特徴を記した布は隼の足に括って空へ。
 情報の共有、持ち帰りを多くの者が心掛け、それを主目的にデビルとの戦闘を避ける傾向が皆に強かったが、身を隠す心得がない者の多くは城砦の変化に巻き込まれて脱出に苦労することになった。
 そんな中、かなり順調に城砦内を巡っていた【TN口伝部】のロックハート・トキワ(ea2389)や【誠刻の武】のフレア・カーマイン(eb1503)、『VizurrOsci』の鷹峰瀞藍(eb5379)達はあることに気付いていた。
「下る階段が一つもない?」
 いや、一つくらいは誰もが見ている。けれどもそこに辿り着く前に、次々とそうした場所は変化していくのだ。多くは壁が密集した通路になる。やがて、地下へ下ると思しき階段はどこにも見なくなっていた。
「ね、階段への道は?」
 アン・シュヴァリエ(ec0205)はリードシンキングを掛けた状態で、ようやく変化に途惑わないデビル達を見付け、やおらそう声を掛けた。当然相手は口に出しては答えない。
 だが。
『あれは我らの道。在り処を知らぬ輩は迷って死ね』
 当然この情報も、速やかに各所に回された。

(担当:龍河流)


●千変万化
 城砦奥。やはり城の変化はいまだ続いていた。
 下級のデビル達はその変化に戸惑い、巻き込まれているが、その中で一部、迷わずに城砦内を移動しているデビル達もいた。
「なんで他のデビルは迷ってんのに、キミらムルキベルの配下は迷わないの? 技工士として興味あるなぁ」
 南雲康一(eb8704)の言葉に問われたデビルはニヤリと笑い、掴まれた腕を振り払って剣を振り下ろした。
「答えるわけないだろう?」
 恐らく抜け道を知っているか瞬間移動が可能かではあると思うが、聞いてもそう簡単に答えてはくれぬらしい。そのままそのデビルはバアル軍に合流しようとするかのように、外を目指していった。

 どがーんっ!
 変化するなら、とあちらこちらで力技が試されていた。
 ガルシア・マグナス(ec0569)はバーストアタックで壁を破壊し、その瓦礫で空けた穴を補強しようとしていた。だが――
「な‥‥」
 目の前で穴が閉じていく――否、ムルキベルの魔力によって構造が変化させられてしまったため、穴が閉じてしまったように見えたのだ。
「ふむ、砦を清めるとは面白そうです」
 再びガルシアが壁を破壊した所にエルディン・アトワイト(ec0290)がピュアリファイや聖水をかけてみる。だが建物自体はデビルやカオスではないのだろう、芳しい成果は得られなかった。

 一方、見つかった解読不能の書物を読み解いている者達の元には、多数の情報が寄せられていた。前回と同じく城砦の奥からはコキュートス、ならびに万魔殿への道が続いているが、それを塞いでいるのもムルキベルであるという事。それに城砦内の個々の場所については解明されているという事。ただ、それらの情報をどう繋ぎあわせていくかという面が解決していない。
「この砦を作り出した存在‥‥居場所がまだ知れていないという事は、変化する迷宮の動きを逆をたどればそこに!」
 沖田光(ea0029)の言の通りなのだが、ムルキベルによる城内の構造変化に対しての分析は始まっているものの、未だその法則性は読み取れていない。
「何ですって?」
 その代わりエミリア・メルサール(ec0193)が得た情報は、

 冠を狙って七大魔王が行動を開始しているらしい――

 というものだった。


「カオスの力も働いているんじゃないかな?」
 カオスの調査をしていたアリッサ・アルバリス(ec6382)が眉を顰めて告げる。
「確かに。地獄の奥、ディーテの奥に進むほどカオスの力が強くなっている気がする」
 ローガン・カーティス(eb3087)が変化し続ける砦の奥を見つめる。あの奥には何があるというのか――溢れ出るカオスの力、封じる手段はあるのだろうか。


 解明の糸口は見えつつある。
 だがディーテ砦はまだまだ謎を内包している。

(担当:天音)


●堕天使との相容れぬ会話
 刻々と変化を続けるディーテ城砦の中に、また派手な音が響いた。
 様々な方法で偵察を行う仲間を守るため、それと同時に目の前で閉じられた道を文字通りに切り開くため、冒険者達の多くが選んだのが『道は自ら作る』だったのである。
 城砦の中は、奥に行けば行くほど変化が忙しない。それこそは敵ムルキベルか、それとも重要だろう地下への回廊に近付いた証に違いないと『VizurrOsci』のマナウス・ドラッケン(ea0021)が偵察に赴く仲間を先に通す。
 それでも偵察の技能が劣ると次々と城砦の変化に飲み込まれ、仲間同士も分断されるが、『道を自ら作る』、実際の行動は『邪魔な壁は壊して通る』を選んだ人々は躊躇わなかった。連絡に呼子笛を使う人々もいるから、そういう音が聞こえた時は多少手を止めないこともないが、それとてもデビルと戦っていなければという条件付きだ。
 井伊貴政(ea8384)やソル・アレニオス(eb7575)らがバーストアタックなどを多用して壁を壊し、城砦の奥を目指す。
 またシシリー・カンターネル(eb8686)はグラビティーキャノン、『地獄侵攻部隊』のバーク・ダンロック(ea7871)はオーラアルファーで、『マジカル特戦隊』のカメリア・リード(ec2307)はライトニングサンダーボルトでと破壊方法も多彩だ。壊した壁の向こう側にデビルがいることも警戒しつつ、出くわしても慌てない準備も万端だ。
 だが、そうやって壊された後の壁にアラン・バーネル(ec5786)は退魔の塩をまいたが、これといった変化は見受けられなかった。
 またこの変化が瞬間を狙い魔法を放った御神楽澄華(ea6526)と『太陽騎士団』のミュール・マードリック(ea9285)は、変化に停滞がないことに歯噛みし、ニュートラルマジックで対抗しようとした雀尾煉淡(ec0844)も変化が解けない事に驚きを隠せない。魔力によるものとしても、この変化を導くのが魔法でなければ効果はないのだが、それならさてどう対抗するものか。
 そうやっても判明した事柄は『Ochain』のアクエリア・ルティス(eb7789)など事前に連携を相談していた者達が、テレパシーはじめその時可能な方法を駆使して他へと伝えていた。
 幾つかの情報が交わされる中で、リーマ・アベツ(ec4801)など複数から寄せられたのが『地下に下りる場所がない』ことだ。ルゥナー・ニエーバ(ea8846)や【世界騎士団】のネフィリム・フィルス(eb3503)が救助した怪我人達から集めた情報でも、やはりほとんどの者が地下への道は見ていないことが分かっていた。ムルキベルも地下にいるのではないかとの意見もあったが、実際にこのデビルに辿り着いたのは、特定のデビルを追った人々だった。
 城砦の変化にも冷静な、進むべき道を知っていそうなデビル。
 七瀬水穂(ea3744)や【皇牙】の天城烈閃(ea0629)達がやはり壁の破壊の末に見付けだしたムルキベルは、前回冒険者達が見えたときと同じく『なぜ、お前達は我らが世界の奥底へと向かうのだ?』と尋ねてきた。
「禍の根幹を断ち、祖国を守るために深層を目指すのです。魔といえど創造を得意とする貴方ならば理解できると思うですが…」
「進む理由? 人々を苦しめる悪魔の親玉が奥にいるんだろ? そいつを殴り飛ばしにいきたいだけだ」
 他にも幾通りもの答えが投げ返され、ムルキベルの耳に入ったはずだが、返答は一つだけ。
『ならば、我がその道を閉ざすのも、また理解できよう』
 鎧のような外見に似合わず、この時の声はいささか明るく聞こえ、我が意を得たりとでもいいだけな様子だった。確かにデビルの立場なら、自分達の世界への道は隠してしまいたいことだろう。
 けれども、この時複数の場所で似たようなことが起きていて。
「どこを通れば。迷わず移動できるの」
『地下の通路のことなど教えるものか』
 レティシア・シャンテヒルト(ea6215)は出遭ったデビルの心を読んで、相手の羽で弾き飛ばされつつ、仲間にそのことを伝えていた。

(担当:龍河流)