<第1回開戦状況>
ディーテ城砦左門制圧後、ゲヘナの丘での攻防を経て、ディーテ城砦の探索は進んでいます。
その中で、デビルの中での随一の技術を持つ魔王・ムルキベルが出現、ディーテ城砦の構造を変更し始めている模様です。
これまでの調査内容(援護活動)とあわせて、再調査を行ないながら、敵との戦闘を行う必要があるでしょう。
また、城砦前面・荒野には、大元帥・バアルに率いられたと見られる兵が姿を見せているとの情報も入っています。
第1回行動入力時戦力状況
参加人数:896人
荒野 | 丘 | 城砦 | 城砦奥 | 合計 | バアル軍は荒野及びゲヘナの丘に進軍中!
| ||||||||
白兵戦 | 12.8% | 6.5% | 8.1% | 7.5% | 35.1% | ||||||||
救護・防衛 | 10.2% | 5.3% | 6.2% | 4% | 25.8% | ||||||||
調査(デビル) | 0.3% | 1.2% | 1.3% | 2.1% | 5% | ||||||||
魔法戦 | 5% | 3% | 2.6% | 1.1% | 11.8% | ||||||||
偵察 | 3.1% | 2.9% | 4.2% | 10% | 20.3% | ||||||||
調査(カオス) | 0.2% | 0.5% | 0.5% | 0.4% | 1.7% | ||||||||
合計 | 31.8% | 19.6% | 23.2% | 25.3% | 100% |
第1回援護行動結果(3月13日〜4月6日)
参加人数:1174人
達成率 | 行動人数総計 | 作戦への影響 | |
救護 | 105.8% | 992人 | |
武具の手入れ | 102.7% | 950人 | |
慰労会 | 96.4% | 1051人 | |
炊き出し・物資確保 | 97.2% | 1219人 | |
陣地作成 | 127.5% | 1267人 | 防衛力アップ |
偵察 | 115.1% | 1221人 | 敵先陣確認 |
調査 | 115.3% | 1302人 | 作戦成功率アップ |
ディーテ探索 | 244.0% | 2855人 | 探索成功率大幅アップ |
ゲヘナの丘援護 | 100.7% | 1367人 |
<第1回戦況>
今回は大規模な動きはなく、次回への前哨戦・準備ともいうべき状況に収まりました。
城砦前・荒野では偵察部隊との連携により、進軍するバアル軍を早期に確認、交戦もほぼなく、城砦前に陣を構築しています。
しかし、ゲヘナの丘周辺にもバアル配下と見られるデビルが姿を見せており、場合によっては両面作戦を強いられる可能性があります。
城砦内の探索については、以前の調査によりつちかった経験とデータにより、ムルキベルの起こす迷宮の変化への対応はスムーズに行われ、法則性を見つけるための調査も行われています。
しかし、実際に起こった迷宮の巨大な変化に、理屈はわかっていても具体策が講じられなかったため、各所で混乱が生じています。
今回、荒野側にはバアルが陣を敷いており、ディーテへの総攻撃を画策している模様です。
城砦内ではムルキベルと遭遇したものもいますが、具体的にムルキベルがどこに潜んでいるかは確認されていません。これまでの調査と情報交換の連動性が重要と見られます。
また、ゲヘナの丘から撤退したエキドナのみならず、多くの地獄の貴族階級にある悪魔たちが、バアル・ムルキベルに従いディーテに姿を見せているとの報告が寄せられています。
結果概略
成功結果 | 冒険者の状況 | 敵の行動次回予測 | |
荒野 | ○ | 偵察により不意打ち防ぐ | バアル軍進軍 |
ゲヘナの丘 | △ | 祈りが有効? バアル軍進軍 | バアル軍進軍 |
城砦 | △ | 連絡の不備で混乱 | ムルキベルの迷宮構築続く? |
城砦 奥 | ○ | 探索の結果を集計 | ムルキベルの迷宮構築続く? |
■第1回報告書
●デストラップ
ディーテ砦の左門から一斉に突入した冒険者達。この門を潜り中に入るのは何度目であろうか。
モレクを倒したあの日以来、冒険者たちを含めた人間の軍と、頭首は失いながらも地の利を生かしながらまるで沸いてくるように現れるデビルの軍では、互いに攻めあぐね、散発的な戦いはあっても決定的な戦火を与える事はできなかった。
「魔軍に動きあり」
ゲヘナの丘に陣取っていたエキドナが冒険者たちの波状攻撃により撤退を余儀なくされた時、それは俄かに伝えられた。ディーテ砦の奥から奇妙な物音と、吹き上がるような瘴気が感じられる。
一方、ディーテ砦前方に広がる荒野でモレク消滅後にも時折起きていたデビルとの衝突も、ここ数日はまるで不気味なほど話を聞かなかった。デビルが、姿を消していたのである。
「組織的な軍事行動を行う前なのでは」
冒険者の口に不安が混じった会話が出始めた頃、遂にジ・アース、アトランティスの垣根を越えた全世界連合軍によるディーテ砦攻略戦が再び開始された。
何が待っているのか。真実はディーテ砦の闇の中にある。
「おかしい‥‥」
ディーテ砦の内部の見取り図を手にした森里霧子(ea2889)は絶句する。冒険者の調査により記録されていた貴重な見取り図。だが広がっている砦の構造は、冒険者の苦心や努力を嘲笑うようにでたらめに変化していた。
「こんなところに分岐はなかったはず」
左門を抜けてすぐ先には分岐がある。そんな物は昨日はなかった。一瞬、動きを止める冒険者。だが、前に進むしかない。目配せを交し合う事、一瞬。二手に分かれ更に奥へと突入する。
「俺達は左に行くぞ!」
足早に駆けていく冒険者。霧子と同行する白野弁十郎(ea7598)はトラップやマーカーを設置しながら不安を隠せない。もしかしたらこれらの行為は徒労に終わるだけではないのだろうか。
最深部へと向かう冒険者を見送りながら砦の調査と制圧を行っている冒険者の姿がある。
「何なのですか、これは」
デビルの姿があれば捕らえて情報を聞きだそうとしていたリーナ・メイアル(eb3667)は顔をしかめる。進行方向の通路には明らかに違和感がある。まるで子供が積み木を好き勝手に並び替えたような、そんな感覚なのだ。そこには黒い灰が積み上がり、そして暗い地面へと吸い込まれていく。デビルとの間に繰り広げられた数度に渡る戦闘で見た光景だ。
「まさか、内部にいたデビルまで巻き込んで変化しているの? この砦の中は‥‥」
クル・リリン(ea8121)の推察が正しい事は砦の上で飛翔している者たちがもっと正しく認識できていた。
「まさか、動いているの‥‥」
ペガサスに騎乗し赤い空からディーテ砦を偵察していた琥龍蒼羅(ea1442)は眼下に繰り広げられる光景に思わず息をのむ。まるで生きているように動き、大きく姿を変えていくディーテ砦。押しつぶされて灰へと変わるデビル達の絶叫が谺する。逃げ出したようなデビルはディーテ砦の前に広がる荒野へと向かう。まるで、何かに呼ばれ求めに応じているように。
「あの中では一体、何が起こっているんだ‥‥」
【WG鉄人兵団】の一員としてグライダーを駆るソウガ・ザナックス(ea3585)が思わず呟く。我らは、むざむざと敵の腹の中に入ったのではないか、と。
「救護班、来てくれ!」
呼び掛けにブリード・クロス(eb7358 )、クリス・クロス(eb7341)の兄弟が駆けつける。腕、そして脚を潰された者の姿がそこにあった。
「壁を透視していたんだけど。壁の中から突然たくさんのデビルが現れるし。天井は降ってくるし‥‥」
信じられない光景を見て、膝を付き呆然としているエルウィン・カスケード(ea3952)は立ち上がる事ができない。
ここは、地獄であり戦場であり悪魔の本拠地である。そのことを忘れていた訳ではないはずだ。しかし、このでたらめな「現実」の前に、砦の内部へ侵入した冒険者は打ちのめされるだけであった。
(担当:谷山灯夜)
●捧げる心
ゲヘナの丘。それはモレクの力の源であった丘だ。
モレク消滅後、しばし丘を占拠していた女デビル、エキドナは冒険者達の猛攻により丘から撤退した。
「モレクが倒れた後も、別の血が流れたって聞く。こんな場所、もうあっちゃいけないんだ!」
そう主張したのは音無響(eb4482)だ。彼の言葉に、何人かの冒険者が頷く。
モレクの儀式の跡を完全に壊して、二度と、この丘が他のデビルに利用されないようにしなければならない。彼と同意見の者は少なくはない。彼と同じ【☆メイ・ゴーレム隊】のベアトリーセ・メーベルト(ec1201)も、ゴーレムの力を借りて儀式の場を破壊してしまうべきだと考えていた。
冒険者の攻撃を受けて撤退したエキドナが、未だに丘の周囲を徘徊している事も彼らの懸念材料となっている。
「だが、待ってくれ」
それに意義を唱えたのはランティス・ニュートン(eb3272)だ。
「確かに、今一度、利用されても困るが、破壊すると決める前に、もう少し調べた方がいいんじゃないのか」
「そうですね。丘の炎‥‥儀式で生じた力がデビルに魔力を与えていたのは間違いないわけですが、その仕組みとか、分かっていない事は多いです。あの炎を観察すれば、デビル攻略の方法とか見つけられるかもしれませんよ?」
ランティスを援護した深海未咲(eb1839)に、ですが、とラヴィ・クレセント(ea6656)は辛そうに表情を歪めると俯いて呟いた。
「壊すとか、観察するとか、それも今後に備えて大切な事かもしれないけど、その前に、うちらは‥‥この丘で犠牲になった魂たちが早く天国に昇れるように鎮魂の祈りを捧げたいんです」
破壊や調査についての激論を交わしていた者達も、小さく息を呑んで黙り込んだ。
無論、彼らも分かっている。
ゲヘナの丘で、夥しい犠牲者が出たという事は、その場にいた誰もが知っている。その悲劇故に、もう二度と繰り返させてはならないと思い、その仕組み解明して攻略の糸口にせねばと逸ったのだ。
しかし、それよりもまず必要な事があった。
「死してなお苦しむ事がないように、魂を奪われた人達が二度と辛い思いをしなくて済むように、祈りを捧げましょう」
アズライール・スルーシ(ea6605)の言葉が、冒険者達の心に静かに染みて行く。
守る為の戦いだ。その為に先手を打つ。終わってしまった事を悔いているだけでは先に進めない。守れない。
けれど、守り切れなかった者を悼む心は皆同じだ。
「‥‥丘は」
王虎(ea1081)が口を開く。
「丘を支配するデビルはいない。だが、だからと言って安全な場所であるとは言いがたい」
彼と共に偵察に出ていた者達も、難しい顔をしてそれぞれに同意の仕草を見せた。
「瘴気が発生している。丘の全ての瘴気を払ってしまえるだけの力となれば、どれほどのものとなろう。体力のない者は、デビルよりも先に瘴気にあてられて倒れてしまうだろう」
それでも、とゼノヴィア・オレアリス(eb4800)はにこやかな笑みと共に宣言した。
「未だゲヘナの丘に囚われし哀しき魂に対し、子守の歌を、鎮魂の祈りを捧げ、出来る事ならば、その魂を解放してあげたいの」
「そうだよ。祈るんだ! それがどれだけの救いになるか分からないけれど、でも、皆の心はきっと届くよね!」
ぴょんと飛び跳ねて一回転したリル・リル(ea1585)を受け止めて、白翼寺花綾(eb4021)もこくりと頷いた。
「どんなに危険でも、やりたいです。地獄の空に春の空を、桜の色に変えるですっ。そして、気持ちを歌と踊りに込めれば、無限の苦しみの中にいる魂に、救いを‥‥!」
祈りの心がゲヘナの儀式で生じた力の全てを消し去る事が出来るという根拠はない。歌や踊りでゲヘナに捧げられた魂が救われるという確証も。だが、彼女達の熱意は、仲間達に伝わった。
「分かった」
【白騎士団】の仲間達と視線を合わせて、李斎(ea3415)は軽く肩を竦めて笑ってみせた。
「あたし達に任せてよ。キミ達が祈っている間、ちゃんと護るから安心していいよ」
仕方がないですね、とルーフィン・ルクセンベール(eb5668)は片目を瞑って、花綾達の肩へと手を回した。
「空から来るデビル達は任せて下さい。デビルは1匹見掛けたら5匹いるという言いますからね、1匹も逃さず、確実に仕留めて差し上げますよ」
「それって‥‥」
Gなんじゃ‥‥?
とは、とても口には出せない乙女心。しかも、鮮明にその映像を思い浮かべてしまったなんて、絶対に言えやしない。
「お、お願いね‥‥」
ちょっぴり引き攣りつつ、ジュディス・ティラナ(ea4475)は愛想笑いを浮かべてみせた。
(担当:桜紫苑)
●歪む城砦
開放された左門より突入を開始した冒険者たち。
ここから潜入するのはこれで何度目だろうか、さすがに内部の情報に精通しているものも現れ始めている。
「こっちだ!」
そんな一部の冒険者に先導されて奥へと疾走する一行。しかしその足がとある地点でピタリと止まる。
「‥‥なんだこれは」
目の前に広がるのは見たこともない光景。前回確認したときにはなかったものがそこにはあり、今まであったものはその存在すら無くなっている。しかもそれは現在進行形で、振り返ったときには数刻前まで存在していた曲がり角が行き止まりになっていることすらあるほどだ。
当然情報になかった場所に分岐点が現れる。一瞬悩んだ冒険者たちは顔を見合わせ静かに頷いた。
「私たちは右に行きましょう!」
とにかく前へ進め。
シシリー・カンターネル(eb8686)の合図と共に通路を失踪する冒険者たち。同じような通路ではあるのだが、見える景色は別物に変化するため一瞬真っ直ぐであることすらわからなくなることもある。
「‥‥まだ、変わるのか‥‥ここはっ」
うんざりとした表情で奥を目指すのはウリエル・セグンド(ea1662)。どうやら行動を共にする仲間がいたようなのだが、チームというほどではないためはぐれてしまった様だ。それでなくとも数分で様相が変わってしまうこの砦内で迷わないほうが奇跡に近い話なのだろうが。
突入したメンバーは大勢いたはずだ。しかし砦内部の警戒に当たっていた冒険者は意外に少なく、主に外部からの侵入を防ごうとしていた。その少ない内部人員がさらに散り散りになり人数が減っていく。五分の一ぐらいまで減ったところで突如開けた空間に抜け出た―――いや、誘導されたというほうが正しいのかもしれない。
広間に入った瞬間に無数の気配に包まれる。現れたのは多数のアンデッド軍団と下級デビルの群れ。
「押さえたとはいえこの地は敵地、当然のお出迎えですね」
巨大金槌ミョルニルを握る手に力を込めながらヴェルディア・ノルン(ea8937)は目の前にせまるアンデッド軍団をキッと見据えた。
「邪魔です‥‥どきなさい!」
前方の敵の集団めがけてローリンググラビティを放つのはサラ・シルキィ(ec4856)。敵の一部が弾け飛ぶように広間の天井に叩きつけられていく。しかしどんなに減らしても次から次から湧き出てくる異形の者たち。
「くっ‥‥キリがないです‥‥っ!」
「諦めちゃダメだよっ!」
迫ってくる敵を蹴り飛ばしながら呟くように吐き出す紅 小麗(ea8289)と背中合わせで強烈な連撃を放つ鳳 蓮華(ec0154)。ここを乗り切れば―――そんな思いを胸に戦っていた冒険者たち。しかしそんな一行の視界に悪夢のような光景が飛び込んでくる。
「‥‥まさか‥‥砦から吐き出されてるというのか‥‥」
唖然として呟くのはタウルス・ライノセラス(eb0771)。それもそのはず、壁が蠢いたかと思うとそこからぬるりと抜け出てくる異形の怪物。どうやらこの砦の動きに飲み込まれたデビルたちが吐き出されてきているようだ。
絶望。
そんな感情が嫌でも襲い来る。
魔王の勢力のすぐ直下にある、そんなことはわかりきっていたはずだ。
準備も十分行ってきたはずだ。
しかし予測は全て裏切られた。
戦力も分断されてしまっている。
しかも敵はまだ沸いてくる。
「情報が‥‥足りなさ過ぎる」
ミカエル・テルセーロ(ea1674)は唇を噛みしめて呻く。
悪魔の本拠地地獄。そこにはまともな常識は一切通用しない。改めてその事実を思い知らされる冒険者一行であった。
(担当:鳴神焔)
●探索するものたち
ディーテ城砦のおそらく奥深く。
仮定の話になるのは、城砦の内部が奥に進んだと思うほどに刻々と姿を変え、突然違う場所に飛ばされることが多発しているからだ。この強制転移が敵味方の区別なく混乱を引き起こしていることは、早い時期にステファン・ラティル(ea0014)などが気付いていた。
なにしろ、敵もこちらを迎え撃つ都合上陣形があるはずだが、それを考慮しない変化が起きていることが下級デビル達の慌て振りで見て取れるのだ。反面、時にきちんとした陣形を保った敵が出てくる場所があり、そいつらは城砦の変化にも慌てる様子がない。
こうした情報は、自らの位置を時に見失ってもテレパシーの魔法を使うことで仲間との連絡を可能にしているレティシア・シャンテヒルト(ea6215)や【TN口伝部】のクリス・ラインハルト(ea2004)達から、城砦内各所で強制的に道に迷わされている偵察の面々に伝えられていた。はぐれた仲間の安否なども、彼女達に伝えてもらった者達は多い。
そうやって、変化し続ける場所での連絡は状況に反してかなり密に取れていた冒険者達だが、内部の情報収集にはやはり手間取っていた。強制転移に掛かると、道を見失うというより、もう迷子の風情だ。実際、一人で飛ばされてしまったルディ・ヴォーロ(ea4885)は、テレパシー連絡の連携でようやく出会えたオルフェ・ラディアス(eb6340)と一緒に、他の冒険者を探す羽目に陥ったりしている。
「見取り図が書けなくても‥‥何かしら、法則めいたものはあると思うのですが」
この意見は多くの偵察に向かった冒険者に共通していて、【皇牙】のゼルス・ウィンディ(ea1661)達は壁に目印を派手に残しつつ、城砦内を巡っている。そこまでの道も簡素に記して、移動の最中に印を見付ければ、周囲の光景と照らし合わせられるように記録を取る。
「こういう時こそ隠し扉の法則です!」
ルンルン・フレール(eb5885)は独自の視点で、城砦の変化とデビルの動きを観察する。少しでも多くの場所を見て、なんらかの共通点が発見できれば、それはより奥への進軍に必ず役立つはずだ。
こうした偵察の護衛に付いた人々の苦労は絶えないが、もとより激戦は承知でここまでやってきている者ばかりだから、不測の事態の大半はいずれの冒険者達もなんとか乗り越えていた。当然救護所に運ばれたり、回復薬の世話になる者もいるものの、大規模な戦闘が起きた気配もなく、冒険者達とデビルとがそれぞれ城砦内を駆け巡っている感じだ。
そんな中で、新たな情報が一つ。
「アビスとは無関係だ。癖が全然違う」
TN偵察隊と仮に名乗っている一団の先頭にいたリスター・ストーム(ea6536)が、傍らの羽鳥助(ea8078)に他に情報を回すように伝えた。突然罠が多い場所に出て、当人はその解除に忙しい。
けれどもこうしたモノには設置者の癖が出るから、ノルマン・パリ方面にある迷宮とはほぼ無関係だと判断したようだ。他の地域のレンジャーなどなら、それぞれの経験から似たような結果を導き出しているかもしれない。
そうして、情報は持ち帰ることが大事だから、記録出来たことは忍犬はじめ連れてきた動物達に託されることもある。不用意に放つと迷うので、余程の状況でなければそのまま連れて歩くが‥‥
そうした動物達が進もうとしなくなったある一点に、幾人かの冒険者がいた。丁度魔法で壁を崩す大きな音がして、状況確認に向かって、それを見たのだ。
この城砦の造り手、ムルキベル。
だがなによりも、磯城弥夢海(ec5166)やヒムテ(eb5072)などの目には、その足元で今まさにどこかと入れ替わっている地下への階段がはっきりと見えていた。それが他の場所が転移するときより素早く、見ようによっては慌てて隠したようにも見えたと皆に伝わるのは、もう少し後のこと。
すべての情報を付き合わせれば、何かが見えてきそうだった。
(担当:龍河流)
●深淵に触れて
「ふむ‥‥」
目の前でぐにゃりと曲がった城の構造を見て、ローシュ・フラーム(ea3446)は小さく頷く。
「魔力によって物理的に変化させられているということでしょうか」
エリンティア・フューゲル(ea3868)もその変化を観察していた。
「成果は上がってますか?」
「結構難しい」
護衛の尾上楓(ec1272)に尋ねられたアン・シュヴァリエ(ec0205)は、マッピングをしながら進んでいた。なんとか変化に対応したマッピングをすることは出来ているが、一筋縄ではいかない。
「少しでもわかれば上場です」
図書室のようなものはないでしょうか、とアイディール・コクトー(ec4822)は呟いた。
「城探索の際に入手した書物があるのですが」
土御門焔(ec4427)はリードセンテンスのスクロールを駆使してその内容を紐解いていた。
「どうやら城の奥にはコキュートス、ならびに万魔殿への道が続いているようです」
「それを封印しているのがムルキベルというわけか」
同じく書物を手にしていたエリオス・ラインフィルド(eb2439)がそれに答えた。宿奈芳純(eb5475)やローガン・カーティス(eb3087)らも同じような情報を入手している。
「命令してる悪魔は誰なんでしょうね」
「何か見つかればいいのですが」
どんどん奥へと進んでいった神名田少太郎(ec4717)とエミリア・メルサール(ec0193)は何かとてつもなく恐ろしい視線を感じ、そして振り向いた。
すると何十メートルも先に、炎に包まれた、まるで自身が要塞のような姿をしたデビルが立っていた。何をするでもなくこちらを静観している。
「さて、地獄の建築士ムルキベルとやらのお手並みを拝見させてもらおうか」
南雲康一(eb8704)が呟く。
そう、あれがムルキベル――。
「‥‥ストラス、行くのか?」
「ええ。少し人間をからかって遊んでみます」
冒険者達からは見えないムルキベルの背後、そこには一羽の梟がいた。
「しばしお側を離れることをお許しください」
「‥‥構わぬ」
その口ぶりからしてムルキベル配下のデビルだろうか。
梟は許可を得ると、すっと迷うことなく迷宮内を飛び、そして消えていった。
一体どこへ行くのか――。
(担当:天音)
●堕天使の疑念
ディーテ城砦の奥への冒険者達の進軍は、途中までは順調だった。
「地図屋泣かせな能力の方には‥‥さっさと退場していただきたいのですけど‥‥」
アルフレッド・アーツ(ea2100)が道中呟いた通り、これまでの偵察や依頼活動の折に製作された地図は大部分が役に立たなくなっている。なぜなら、城砦は奥に行くほど建物の配置が変化しているからだ。
そして更に、
「分断されたか。偵察隊、そちらは揃っているか」
冒険者達の移動中にも、突然景色が変わることがある。今通ってきたまっすぐな道が、突然分岐路になっていることも珍しくはない。TN特攻隊のセイル・ファースト(eb8642)が前を行く仲間に声を掛けるも、そちらの隊も数名どこかに飛ばされたようだ。
「城内が変貌しても刃を交えるには関係無い!」
だが突如移動されられたとて、ケイ・ロードライト(ea2499)のように臆することなくデビルと戦えるものが大半で、十野間空 (eb2456)など月の精霊魔法の使い手が相互の連絡に尽力している。単身引き離されなければ、いずこもなんとか持ちこたえている。
また、各所で合流した数名でより奥を目指していた孫陸(ea2391)、シン・オオサカ(ea3562)のように、
「よっしゃ〜、天はうちに味方したでっ」
目の前の景色が変わった途端、どこかから単身飛ばされてきたデビルと相対して、想定していなかったが奇襲に成功した者達もいる。予想以上に城砦内の変化は頻発していた。
そうした中で、偵察を目的とした冒険者達は城砦内の情報を集めていたが、彼らの護衛を努めたり、同行して敵を追い払うことを主眼に置いている者達も城砦構造の変化には気を配っていた。
「たとえ構造が変化しても、どこかに敵の使う道が存在するはずだ。必ず見つけ出してみせる!」
【皇牙】の天城烈閃(ea0629)は幾人かはぐれているが、仲間達に注意喚起を怠らない。罠の警戒も重要だが、彼らの観察では突然の移動にもまったく慌てないデビルがごく少数だが存在していた。現われる方向に統一性はないが、明らかに様子が違う。
そのデビル達は刻々と変わる城砦の正しい道を知っているのか、それとも不変の隠された通路でもあるのか。Ochainの御神楽澄華(ea6526)達は奥に進むことより、デビル達の進み方に着目しながら、徐々に攻略を進めていた。時に誰かが付けた目印を眼にすることもあるから、そういうものの位置も出来るだけ観察しておく。
とはいえ、常にそうした進み方が出来るわけではなく、意図された変化か幾らか広い場所に何人もの冒険者が飛ばされて、そこから出る通路にはデビルどもが群れを成しているという状態に追い込まれた。
まったく引く場所がないのは不利だと、リーマ・アベツ(ec4801)が手近の壁へグラビティーキャノンを放つ。幾人かが警戒したような魔法の衝撃の反発はなく、案外と薄かった壁が音を立てて崩れ落ちる。
「地下への通路が!」
声を上げたのは、常に下層、より地獄の奥へと繋がるだろう扉を探していた七瀬水穂(ea3744)だったが、その階段は彼女達の目の前で別の景色に取って代わった。そうして、これまでなかった大きな影が皆の上に落ちる。
『なぜ、お前達は我々の世界の奥底へと向かうのかね?』
心底不思議そうな声の主は名乗らなかったが、周囲のデビルの呼ばわる声から正体は知れた。
ムルキベル。このディーテ城砦の造り手で、今内部を作り変えている張本人。
問い掛けには答えた者と、答えなかった者と。そうして半数以上が、ムルキベルへと攻撃を掛けようとした。実際に攻撃が届いた者も、いたかもしれない。
『それだけの力があれば、我らの世界となっても上位者たれるのだよ』
身に受けた攻撃がどれほどの効果を発揮したのか、ムルキベルはそれだけを言い残して、転移の術で姿を消した。周囲のデビルもそれを目にして、慌てて姿を隠したり、どこかに向かったりと陣を薄くする。
問い掛けの真意を考えるのは、冒険者達が目の前のデビルを平らげてからだ。
(担当:龍河流)
●つかのまの平和
──ベースキャンプ
井伏響(ea0347)達の提案でベースキャンプのなかに作られた『特別救護所』。
ここでは、前線で怪我をしてきた者たちが次々と運びこまれ、待機していた者たちによって治療行為が行なわれていた。
「地上からの追加物資が届きました!!」
ゲートから飛び出してきた先発隊が、待機していた救護班に向かってそう叫ぶ!!
「助かります。治療薬はこちらに御願いします!!」
エルシー・ケイ(ec5174)がそう叫ぶと、いま届けられた物資の中からソルフの実を人袋取出す。
それを一つ口の中に放り込むと、すぐさまエルシーは簡易ベットの上で眠っている怪我人にリカバーを施す。
そして怪我の回復か゛確認されると、すぐさまその怪我人は別の救護班に任せて、自分は別のベットに向かって走る。
「瀕死の方はこちらに運んでください!!」
アナマリア・パッドラック(ec4728)がホーリーフィールドの内部で怪我人を運搬してきたものたちにそう叫ぶ。
その手には、ジャパン伝来の魔法扇『アユギ』が握られている。
アナマリアの魔力では、一日に治療できる人数はせいぜい8名程度。魔力を回復す薬を用いても、それほどの数の治療は出来ない。
が、アナマリアによって治癒を受けたものは、すぐさま前線に復帰するだけの力を取り戻す。
それが判って居るからこそ、前線から運びこまれてきたものは彼女の元に優先的に運びこまれているのだろう。
「隊長、いそいでこっちの方にリカバーを!!」
「運びこまれた物資はどうしますか!!」
「前線よりシフール偵察部隊が帰還。怪我人がかなり運びこまれるとの報告がありました!!」
【TN守護隊】隊長であるリーディア・カンツォーネ(ea1225)に、隊員達が次々と連絡。
「物資については別のチームの方たちと連携して下さい。医薬品は救護詰め所に!! シフール隊からの連絡についてはすぐさま受け入れ態勢を御願いします。重体もしくは瀕死の方たちには『河童膏』を施した後、『春眠暁覚』を焚いた部屋に運びこんでください。比較的怪我の少ない方達についてはクレリックによるリカバーを!!」
次々と指示を飛ばしつつも、リーディアはすぐさま近くで待機している怪我人にリカバーをヘ施す。
──ドドドドドドドドドドドド
「どいてください!! 怪我人の到着です!!」
土方伊織(ea8108)が怪我人を背負って救護所にたどり着く。
「急いでこちらに御願いします!!」
カグラ・シンヨウ(eb0744)が土方に指示を行ない、すぐさま治療を開始する。
「心優しき魂よ。安らかに眠りたまえ‥‥」
その近くでは、志半ばにして倒れ、その命を散らせてしまった仲間たちを静かに弔っているフィン・リル(ea9164)の姿があった。
ノルマンのノートルダム大聖堂から派遣されてきた司祭によって略式な葬式が行なわれ、もまもなく地上に運ばれていく。
そうこうしているうちにも、次々と怪我人は運びこまれてくる。
この救護班は、休まる暇のない場所であった。
(担当:久条巧)
●闇に飲まれぬ光と祈り
城砦奥――刻一刻と変化していく砦内部の構造に、場内のデビル達も巻き込まれ、戸惑っている様子が見えた。
それでも敵との戦いは続く。勿論怪我人もでる。自身の力で後衛にできた取り急ぎの救護所まだ歩いて来れる者はまだいい。そうでないものほど急を要するのだ。
「邪魔立てするなぁっ!」
オーラを身に纏い、最前線で武器を振るうのは【西中島隊】の西中島導仁(ea2741)。彼に付き従うようにして李雷龍(ea2756)やクレア・エルスハイマー(ea2884)が続く。「ここを通りたければ、僕たちを倒してからにすることです!」
「覚悟なさい! 『我は導く魔神の息吹!』」
武器で、魔法で。彼らは負傷者の後退の間の時間を稼ぐ。
「他の仲間の移送をする前に、まずはパーティの仲間を守り万全な状態にせねばな」
李風龍(ea5808)は仲間に癒しの魔法をかけてその行動を助ける。
「あそこに負傷者二名みつけましたわ」
「負傷者確認した。頼む」
イフェリア・アイランズ(ea2890)と十野間修(eb4840)によって連絡を受けた者達が、素早く負傷者を確保していく。ドミニク・ブラッフォード(eb8122)はチャリオットを利用し、負傷者の大量搬送を勤めていた。
「義によって、後退の援護を務めますわ!」
そんな負傷者運搬を守護するのはマミ・キスリング(ea7468)。日本刀を振るって追い縋る敵を撃破していく。だがあくまで目的は負傷者運搬の護衛。それ以上の手出しは避ける。
「なんだ、これは‥‥魔力?」
援護をしながら城の構造を観察していた【翠志】の室川太一郎(eb2304)は城がぐにゃりと歪むようにしてその構造を変化させていることに気がついた。敵であるデビルも、その変化に巻き込まれている。
「トラップはないようだが、怪我人が出てるな」
勇貴閲次(eb3592)は見つけた怪我人を背負い、救護所へと急ぐ。だが救護所までの道もこれまでと同じでよいのだろうか‥‥ふとそんな疑問も沸いて出た。
後方の救護所では前線もかくやという程の喧騒が飛び交っていた。
「この方重体です!」
フォルテュネ・オレアリス(ec0501)によって運ばれてきたのはアイスコフィンで固められた冒険者。すぐにシェリル・オレアリス(eb4803)、セフィナ・プランティエ(ea8539)らによるホーリーフィールドの張られた救護所内へと運ばれる。
「皆で無事、生きて帰る、その為に」
懸命にリカバーを施す。一人でも多くの人を生還させたい、その想いが募る。
「はいはい、痛いのは生きてる証だ、もーちょい我慢しな。ん、よしっと、動いてみ」
明豹星(eb3669)によって運ばれてきた冒険者はまだまだ軽症のようだ。峰春莱(eb7959)がリカバーと薬でその治療を施していく。
だが――救護所の端には重苦しい沈黙が降りていた。
そこはすでに普通の治療者の近寄らない場所。
近寄りたくないのではない。近寄っている余裕がないのだ。
――そこに寝かされているのは命の灯火尽きた者。
普通の治療者では手の施しようがないのだ。必然的に、生きている者への治療が優先される。
だがそこに一人の男性の姿があった。
導蛍石(eb9949)はまだ暖かい遺体に触れ、そして詠唱を始める。
「――」
その詠唱が終わった時、そこには奇跡があった。
「お、俺は‥‥」
命尽きたはずの冒険者が瞳を開け、かすれた声で記憶をまさぐる。
「間に合ってよかったです」
超越レベルのリカバー。それはまさに地獄の中の奇跡というべき蘇生を可能にしていた。
地獄という希望断たれそうな中での一筋の希望――救護所で働く仲間たちに光明がさしたようだった。
(担当:天音)
●妨げられた祈り
「ゲヘナの丘を、善なるものの力として活用出来ないでしょうか」
瘴気の立ち込めるゲヘナの丘を登りながら呟いた綾小路瑠璃(eb2062)の肩に乗っかっていたティアラ・サリバン(ea6118)が、腕を組んで唸る。
【白騎士団】の魔物博士を自称するティアラも、その事を考えなかったわけではない。ゲヘナの丘で燃えている炎を鎮め、モレクやエキドナが蓄えらていた力を全て消し去る方法も捧げられた魂を救う方法も、持てる知識の限りで対策を考えて来たのだ。
だが地獄は、「知識」として蓄積された地上の情報だけでは補えないものが多い。それに‥‥。
「ゲヘナの丘の力は魂を犠牲にしたものと聞く。それを良い力に使う事は出来るのであるか?」
「それは‥‥」
言葉に詰まり、困った顔をした瑠璃に、ティアラはぽんぽんと頭を軽く叩いてやった。
ここは地獄。
地上とは何もかもがあまりにも違い過ぎるのだ。
「大変大変〜っ! 大変です〜っ!」
ふいに頭上から聞こえて来た声に、2人は同時に顔を上げた。
薄気味悪い色をした地獄の空を飛ぶのは、鳥ではなくシフールだ。
「【しふしふ同盟】の子だ。待っているのである」
瑠璃の肩から飛び立ったティアラが、空を行くベル・ベル(ea0946)を追いかける。慌てた様子のベルと2、3言葉を交わすと、ティアラは難しい顔をして瑠璃の元へと戻って来た。
「どうかしたのですか?」
「麓にデビルが現れたらしいのだ。ベル達が上にも皆にも伝えに走ったから、すぐに援軍が来ると思うが」
丘の上では、捧げられた魂を慰める為、そして未だに燻る儀式の力を鎮める為の試みが行われている。モレクは倒れ、エキドナは去ったが、丘には瘴気が満ち、魔物が闊歩する。祈る彼らを守る為に仲間達が警戒してはいたのだが、ベルの話を聞く限りでは不安だ。
「急いで皆と合流するのだ。ここは危ない」
そう判断して、ティアラと瑠璃が調査を切り上げた頃、麓では突然に現れたデビルの軍勢を相手にデュラン・ハイアット(ea0042)が渾身の力を込めた雷を放っていた。指揮を執っていそうなデビルを狙ったのだが、倒れたデビルを踏みつけ、乗り越えて、他のデビルがデュランに迫って来る。
「‥‥っ!」
舌打ちして、デュランは再び呪を唱えた。気力を奮い立たせてなお、戦う気が削がれていくようだ。今なら、ほんの少しだけ蟻に群がられる蜜菓子の気持ちが分かった気がする。
「デュランさん!」
グリフォンに乗って舞い降りて来たコルリス・フェネストラ(eb9459)が鳴弦の弓をかき鳴らしている間に、デュランは何発目かも分からない雷光を放ち、背後へと飛び退る。間合いは十分ではないが、これだけ距離があれば巻き込まれるのは避けられるだろう。
背後から降下して来る気配に、身を低くして転がった。
コルリスもグリフォンの手綱を引いて、上空へと退避する。
デビルを威嚇するように飛翔したグライダーから、月下部有里(eb4494)の放ったヘブンリィライトニングがデビルの群れを吹き飛ばす。
「ふふふ。準備は万端整えておくものよねぇ」
有里の呟きはグライダーの巻き起こす風に散らされて、誰の耳にも届かなかった。
先触れのグライダーの後は、チャリオットだ。
「ボンバーぁああっ!」
真崎翔月(eb3742)が駆るチャリオットの後部座席で叫んだ瀬名騎竜(eb5857)の言葉の意味を正確に理解出来たのは、翔月だけだろう。彼の意図を汲んで、翔月はチャリオットで再びデビルのど真ん中を突っ切っていく。
「む‥‥無茶をするなぁ」
地獄で何度かゴーレムでの戦いを見たが、疾走するチャリオットとグライダーの攻撃は、まるで気の荒い戦闘馬で暴走する若い騎士のようで、無謀な戦いも形振り構っていられない不利な戦いも一方的な戦いも経験した‥‥戦いの酸いも甘いも噛み分けたフリッツ・シーカー(eb1116)でさえもハラハラさせられる。
これがゴーレムの戦いと、生身をぶつけ合う戦い方の差なのだろうか。
「って、悠長な事を考えている場合じゃないな。行くぜ!」
自分達には自分達の戦い方がある。
自分への気合いと仲間への合図を兼ねた叫び声を上げると、フリッツは破邪の剣を抜き放って駆け出した。
(担当:桜紫苑)
●天使の守護者達
──ベースキャンプ・特別救護所より前線へ5km
「ここから先には一歩も進ませねえよっ!!」
ジャッジメントソードを構えたイェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)が、眼の前にヤってきた悪魔の軍勢に向かって叫ぶ!!
総勢約100体。下級や中級クラスの悪魔達の中には、部隊を指揮しているのであろう上級クラスの悪魔さえ見え隠れしている。
「人間風情が‥‥こんな所にも拠点を作っていたとは‥‥」
漆黒の巨大な狼に跨った悪魔アンドラスが、アーヴァインに向かってそう笑いつつ呟く。
「悪いな。こっから先にはだれもいかせねぇよっ!!」
ブゥンとジャッジメントソードを振り、アンドラスに向かって構えるアーヴァイン。
──スッ
と、静かに手を上げると、アンドラスは前方の人間断ちに向かって素早く振りおろす!!
「殲滅しろ!!」
──グウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ
雄叫びと同時に、悪魔達の進軍が開始された。
「それ以上は進ませませんっ!!」
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
フレイア・ケリン(eb2258)の放ったファイアーウォールにより、敵との間に炎の壁が作り出された。
「フオォォォォォォ」
その壁を越えてやってきた悪魔に対しては、斉蓮牙(eb5673)が素早く対処。
「此処からは一歩も進ませねーぞ。ぶっとばされてぇ奴から‥‥かかってこいやぁ!!!!!」
そう叫ぶ蓮牙の頭上を、偵察のゴーレムグライダーが旋回し、後方に向かって飛んでいく。
「偵察のエリーシャ・メロウよりフロートシップに。ベース前方5km地点に悪魔の兵団確認。急ぎ援護を頼みます」
エリーシャ・メロウ(eb4333)がベースキャンプで待機しているフロートシップに通信を送る。
『こちらフロートシップ一番艦『キャノンボール』。至急援軍を送ります』
その通信がエリーシャの元に届くと同時に、彼女もまたイシューリエルの槍を構えて急降下を開始、前線の参列に加わった。
──ズバァァァァァァァァァァァァァァァッ
次々と迫る悪魔達。
その前でクァイ・エーフォメンス(eb7692)は、手にしたシルヴァンエペを振回し、雑魚悪魔達の数を次々と減らしていた。
「この人間風情が‥‥貴様など両手両脚を叩き砕いて●●●●を●●●●してくれるわっ!!」
聞いているだけで赤面しそうなことを叫ぶ悪魔・ダバ。
「こっ!! この変態悪魔ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
──ズバァァァァァァァァァァァァァッ
叫びつつ一閃。
そのままなにも言わぬ躯となった悪魔を横に棄てて、再び悪魔に向かって切りかかるクァイ。
──チン‥‥
襲いかかる悪魔の横を通り過ぎ、そのタイミングで悪魔を切り捨てていくのは小鳥遊 郭之丞(eb9508)。
「治療班を施術に専念させるが護衛の任務、近付く事努々叶わぬと知れ!」
そう呟くと、小鳥遊もまた悪魔に向かって刀を構えた‥‥。
(担当:久条巧)
●荒野に忍び寄る影
バアルの軍勢が姿を見せた荒野。
その迎撃のために、多くの冒険者が足を運んでいた。
だが、まだ大きな戦いは起こっていない。
「敵の陣は停滞したままね‥‥。まるで戦う気が無いみたい」
フェザー・ブリッド(ec6384)は望遠魔法を用いて、遠く敵軍の動向を監視していた。
もちろん、敵陣に接近しての偵察に動いた者達もいる。
「‥‥思ったよりも、敵の数が少ない」
双海一刃(ea3947)は、岩壁などに身を潜めながら、慎重に敵軍への接近を試みた。
その過程で、悪魔達の会話を耳にする。
『ええい、バアル様の本隊はまだ来られぬのか!』
大将が不在か。となると、ここにいるのはあくまで先遣隊というところか。
それを裏付ける情報を、ホアキン・ゴンザレス(ea3745)が別の位置から入手して、仲間達の元に戻ってきた。
「うひょひょ♪ 奴ら、わしらの対応が想像以上に早かったために、攻めあぐねておるようじゃ。隙あらばと襲撃も考えておったようじゃが、この人数相手には分が悪いとみて、考え直したようじゃな」
荒野の一角では、他の冒険者達によって迎撃の陣の形成が順調に進められている。
その周囲には、バアル軍の襲撃に備えた、多数の武装した冒険者の姿。今現在、地獄における最大数の戦闘要員が集まっている。守りは固い。
「ゲヘナの丘の方にも、いくらかの戦力が向かっているようで御座るよ。しかし、そちらも本隊というわけではござらぬ様子。バアルなる悪魔の接近は確かなようで御座る故、このまま戦線の構築に尽力し、本格的な衝突に備えるが吉と見るでござる」
同じく、敵陣の偵察に赴いていた鳴滝風流斎(eb7152)の言。
集まった多くの冒険者にとっては肩透かしを喰らったような形。だが、これは、それだけ悪魔達が人間の力に脅威を感じるようになったことの現れかもしれない。アロセールやケルベロス、モレクといった大悪魔達を次々に撃破する冒険者の力を、彼らも警戒しているのだろう。
しかし、遅かれ早かれ戦いの時はくる。
「わわっ、見つかっちゃった!?」
マート・セレスティア(ea3852)は敵軍の上空に展開していた魔鳥アクババの一羽が自分に接近してくるのを見て、即座にその場を逃げ出した。
しかし、空を飛ぶ敵の動きは早い。いよいよ追いつかれると思ったその時‥‥。
「はあああっ!!」
勇壮な馬を駆るシルフィリア・ユピオーク(eb3525)が現れ、その刃でアクババの翼を切り払った。
「怪我はないかい?」
「ありがとう。助かっ‥‥え!?」
言葉を交わす二人の目の前で、突如発生する、赤い霧。
それは、今にも存在が消え去ろうとしていたはずの、地に落ちたアクババの身を包んで‥‥。
「消えた? 何だったんだい、今のは‥‥」
「わ、分かんないけど、何か気味が悪い‥‥」
姿を現した悪魔バアルが冒険者達に宣戦布告を行ったのは、このすぐ後のことである。
(担当:BW)
●破滅の宣告
「あれは、なんだ‥‥?」
疑問を表す声は、誰からともなくあげられた。
その声の指し示すほうに広がっているのは、見慣れてきてしまっている、地獄の赤い空。空を覆うどす黒い雲が、風もないこのとき、動きを見せていた。
動きが見えたかと思った瞬間、雲を散らしながら巨大な、大柄な男の姿が、空一面に映し出される。
いや、映ったのは明らかに人ではなかった。醜悪な笑みを浮かべるその男の両側には、カエルと猫の巨大な頭が、威嚇するかのようにうなり、息をしていたのだった。
「あー‥‥よろしいかな、諸君! 我輩は、この地獄の帝国随一の王にして、地獄の大元帥。バアル、である」
イリュージョンと同じ系統の幻影の魔法だろうか、それとも別の、人には知られていない魔法だろうか。甲高い声で威容ある名乗りをあげた悪魔は、幻影の中、その太った体を蜘蛛の指先で叩きながら、息の抜けるような笑いを忍び漏らしていた。
「諸君らの健闘、まっこと天晴れなものである。これには我らが帝国の、気高き悪の申し子たちも、確かに敗れることがあろう。いや、本当に見事、見事! ‥‥しかぁし」
瞳のない眼を細め、癇に障る声で笑っていた魔王は、しかし突然声を上げるのをやめ、顔に笑みだけを張り付かせていた。
「地を這う地虫の分際で、少々、図に乗りすぎたようだ、な」
声音そのものは変わらないが、なぜかぞっとさせる声が響き、そしてバアルは、小脇に抱えた赤い本を、大仰に持ち直して大仰に開いた。
「故に! 偉大なる我が帝国の皇帝ルシファーと、諸王が一位たる我がバアルの名をもって、諸君らに慈悲を下そう‥‥」
一声。語りかけながらページを繰っていた悪魔の手が止まり、改めて笑い声を上げながらバアルは書に記された呪いの言葉をつぶやき始める。
「我輩の手にありし赤の書は、我が王権の印、我が力の象徴、そして全てを支配するもの。貴様ら人間は、我が悪魔の帝国に反した罪により‥‥全て極刑に処す! 喜ぶがいいぞ!」
かくして、邪悪な笑いと幻影は宣告とともに消え去り、そしてはるか先、ディーテの向こう側に広がる荒野には、粛々として行軍する悪魔の群れが、姿を現していた。
(担当:高石英務)