<第3回戦況>
地獄のアケロン川河岸での戦いが今回は中心となったため、各都市への侵攻は規模は小さくなり、大きな被害は発生しませんでした。
アケロン川での戦いは、中級デビルの容赦ない攻撃により、一時は敗北が予想されたものの、敵指揮官アロセールを倒したことにより、デビルは一時的な撤退を決定。戦術的勝利を得ています。
撤退した後の、次回の敵の侵攻には間があくと予想されていますが、一方で地獄の門ではケルベロスが猛威を振るいながら、地獄の門を閉ざそうとしている模様です。
■第3回報告書
●京都調査 〜呼ばれ方など記号に過ぎない〜
お国柄というものがある。
今日までに築かれてきた文化の差。遠い西洋と東洋では考え方が違って当然。
西洋ではデビルといえば恐怖の対象だろうが、日本においては少々違う。
その凶暴さや狡猾さから恐れられもするが、大部分においてその他の妖怪たちと一線を画すものでない。
「古い文献になる程、記載が曖昧になりますね。目的を調べようにも、どれがデビルでアンデッドで鬼なんだか‥‥」
綾小路瑠璃(eb2062)が盛大に溜息。
陰陽寮にて、山と詰まれた竹簡に木簡。蓄えられていた書物は豊富であるが、そこから目当てのものを見つけ出せるかは、ひたすら根気しかない。
「鬼、不死者は勿論、精霊、妖怪もまた仇を為すなら魔性とされる。反面、そういう類のものであっても力を持てば神としても敬われる。そういう事でしょう。‥‥日本の魔物で今顕著なのは虎長公かもしれません」
チーム【翠志】の仲間にも手伝ってもらいながら、寺社にて魔物について調べていた室川太一郎(eb2304)。
だが、仏敵として恐れられるモノはあっても、その内実は分からない。
元京都守護職・平織虎長とて、延暦寺が魔王と蔑み、自らも第六天魔王を名乗ったが、その真意は今だ謎のままだ。
「けれども。推測から察するこの国のデビルの活動は、下手するといるかどうかも疑わしい程度でした。京都ギルドが出来てから明確な記載が増えて区別しやすくなった事もあるでしょうが、それでも明らかにここ数年の動きは顕著なものがあります」
図書寮にて調べていた鏡桃菜(eb4540)が表情を曇らせる。
デビルの暗躍が噂される日本にて、さらに今回の騒動。
何故、今のこの時期にいきなり侵攻なのか。
それを疑問に思う者は多いが、答えを知るのは恐らく地獄にいる。
「デビルであってもその調子なら、カオスならさらに不明瞭で当然かもね」
七瀬卯月(eb1785)もまた疲れた表情で思い悩む。
カオスや混沌について調べれば、インドゥーラやエジプトでそう名乗るものが出たらしい、という噂は聞いた。しかし、噂であって確証には乏しい。
「しふしふ〜☆ でも、きっと大丈夫しふ〜☆ 各地のデビルの動きは鈍り出して地獄に追いやられてきてるしふ〜。きっと地獄に行った人たちが頑張ってくれてるしふ〜」
あっかるい声でくるくると飛び回るダリア・ヤヴァ(eb1535)。チーム『しふしふ同盟』として精力的に各地の偵察に回った結果、デビルの動きはしっかり把握している。
「奴らの狙い。何かを探しているのは確かな模様。それが為せぬ内に劣勢になってきたと見受けられる。奴らにいささか焦りを見た」
対照的に、静かな百鬼白蓮(ec4859)からの声。
「七つの大切な物か‥‥何の事かさっぱりだな」
「そして、冠。キンヴァルフの1000本の剣にも頼ってみたが、どうにも手がかりが無いな」
茉莉花緋雨(eb3226)とランティス・ニュートン(eb3272)は揃って首を傾げる。
(担当:からた狐)
●カオス――その根源
デビルとカオスの魔物は違う――明確な違いはなかなかはっきりとはしない。だがデビルにカオス、本人達が互いとは違うと認識しているらしい。とすれば、カオスとは何なのだろうか――?
――ウィル
「一体なぜ、デビルとカオスの魔物は別物なのかしら? 本人達までもがそう認識しているわ。何の理由があってそうしているのかしら? 同じ故郷なのに」
アリシア・ルクレチア(ea5513)が不思議そうに首を傾げた。ジ・アース出身の彼女が見るに、こちらで『カオスの魔物』と呼ばれているモノにはデビルと酷く似たモノだけでなく、ジ・アースでアンデッドと呼ばれているようなモノたちも混ざっている。
「カオスは混沌神の天使達で、デビルは慈愛神の天使が堕天したもの。出自が違うのでまったく別物なのでは?」
ヘクトル・フィルス(eb2259)が見解を述べれば、セーツィナ・サラソォーンジュ(ea0105)も口を開く。
「こちらの世界では『神』という概念がない。『天使』という概念もないが‥‥その例えは面白いわね」
「アケロン川はいわゆる三途の川だろ? カロンとかいう渡し守がいるっていう」
地球での地獄に関する伝承を、田辺翔(eb5306)は一つ一つ思い出して聞かせる。『神』『天国』『地獄』などの概念のなかったアトランティスの人々にとっては参考になる。
「色々な文献を当たりましたが、『冠』に関する記述は見当たりませんでした。ただ――」
リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)が言葉を切る。
「『カオス』の力は『地獄』の奥から沸いている、というような記述を見つけました。真意は定かではありません」
伝令に当たっている【しふしふ同盟】のシフール達が、これらの情報を運ぶべく、地獄を介して他国へ飛んでいく。
――パリ
「インドゥーラへ行った事のある友人から気になる話を聞いたことがあるの」
彩月しずく(ec2048)は情報伝達に訪れた【しふしふ同盟】のアメジスト・ヤヴァ(eb5366)にゆっくり話して聞かせていた。しずくの友人はパラディン候補生だ。
「インドゥーラで、カオスの現れる事件があったらしいわ」
「ジ・アースの他の場所でもカオスが現れたって報告があるかも知れないしふ〜☆」
アメジストは情報を手に、再び他国へと飛んでゆく。
――キエフ
世界の成り立ち、地獄の創生、天使の堕天についての文献を調べていたレナフィーナ・フリーア(ea8009)は気になる記述を見つけた。
『カオスの力は全ての悪の起源』
これはどういう意味だろうか?
「何‥‥?」
幅広く文献を繰っていたラドルフスキー・ラッセン(ec1182)の手が止まる。それは比較的新しい情報だった。伝令のシフールから連絡を受けてもしやと思ったところ、見つけることができた。ジ・アースでのカオスの魔物の目撃例を。
それはインドゥーラだけでなく、エジプトやオーストラリアに赴いた者達の報告の中にあった。
――メイディア
「別の次元に置かれたことから悪魔とカオスに分岐したとも考えられる」
地球人であるが故か、布津香哉(eb8378)の思考は柔軟だ。側で文献を繰っていたマリア・タクーヌス(ec2412)がそれを聞きとめる。メイディア出身の彼女にとっては、いまいち地獄や悪魔といった名称は馴染みが薄い。
「先ほど来た伝令の内容が気になるのか。『カオスの力は地獄の奥から沸いている』『カオスの力は全ての悪の起源』だったか」
「ああ。もしかしたら、カオスというのは『悪のエネルギー自体』を指しているのかもしれない。地上に出て何らかの方法で実体を伴ったモノが悪魔。地獄に残ったエネルギーがカオス」
「ほう、面白い」
「しふしふ〜その悪のエネルギーに染まったらどうなるしふ〜?」
机に座ったクリスタル・ヤヴァ(ea0017)の言葉に考え込む一同。
悪のエネルギーに汚染されたらどうなる?
――『何』が『悪のエネルギー』に『汚染された』ら、どうなる――?
――地獄
「全ての地獄の門への道は同じ場に繋がっているようだが」
ジェレミー・エルツベルガー(ea7181)が見渡せば、他国から来た人間も多くいるようだった。
戻る道――デビル達が出てくる月道は固定されたものではなく、開いている時間も場所もそのときによって違うようだった。その月道は、普段冒険者達が利用しているものとは違うもののようであり――
「謎の壁の時と同じ、精霊の動きがあるのかもしれないな」
ジェレミーは黙々と、月道についての調査を進めるのだった。
「ねえあなた、カオスの魔物とデビルの違いを教えてくれない?」
自らの身を省みず目に付いた魔物にチャームをかける鳳凰院あすか(ec5863)。
「我々ハ天使ヲ悪魔ニ変エル事ガデキル。我々ハ死体ニ取リ憑ク事ガデキル」
「――なんですって?」
あすかの瞳が大きく見開かれた。
(担当:天音)
●反撃の開始
常に変わる事の無い赤く染め上げられた空の色は、時間の感覚さえ麻痺させる。まるで子供の頃聞かされた絵物語のように地獄よりあふれ出る亡者やデビル達の姿に、どれほどの間剣を振るい、魔法を手繰り、己が身を賭し戦い続けているのだろうか。
そんな勇士達の戦いは、決して無意味なものではなかった。
冒険者達を始め、各国の有力者や騎士達の働きかけで地獄よりの門扉の出現により陥った各都市の少なくない混乱も、徐々に落ち着きを取り戻してきていた。それは、門を潜り文字通り地獄への道行きを彼ら自身が流す血で露払われた結果。
黒々と染まる大地は、既に何れかが流した血かもわからぬほどに、どろりとした血肉や脂‥‥あるいは腐肉が降り重なって、錆色に飾り付けられていた。
デビルの進攻を受けていた都市の一つ、ドレスタットでも領主であるゼーラント辺境伯エイリークを中心として防衛陣が敷かれていた。
攻守に振り分ける事も難しい少ない人員で良く守り戦っている事に満足はせず、ドレスタットのギルドマスター・シールケルは冒険者達を叱咤する。
「デビルどもに攻め入る隙など与えてやるな、敵の勢いが削がれている今畳み掛けろ!」
短くは無い日々を戦い続けた冒険者らは、みなまで言わせぬ勢いで、気力を振るって最後の攻勢と防衛にうって出た。
実際のところ、アケロン川へ地獄門の方からの増援は当初の攻勢を思えば少ないように見受けられた。一つしかない命を惜しみ迷う事無く、けれどその価値を理解している者達の、ケルベロスを相手に退かない果敢な地獄の門突破部隊の活躍があったからだろう。
そんな前線に近い場所で防衛線へ辿り着かせぬよう荒くれ者の多いドレスタットの騎士達と共にドルニウス・クラットス(ea3736)は戦っていた。
通常の武器では元々デビルにダメージは与えられない。それ以上に力の強いデビルには魔法も剣もこれまでの武器では効かぬ存在の報告が上がっていた。その苦戦は、どの場所の騎士や冒険者も変わらない。
「これ以上、地上にのさばらせる訳にはいかないな‥‥」
裁きを与える剣でアンデッドを屍へ叩き戻しながら、イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)は呟きを零した。
ギルドマスターにはっぱを掛けられずとも分っている。これ以上、地獄の住民を地上へ出すわけにはいかない。地獄から地上への拠点防衛に加勢し戦うヘヴィ・ヴァレン(eb3511)も、魔法で敵を落し、味方を支援する術士達を護り破魔弓の弦を引き続けるローラ・アイバーン(ec3559)らと共に近付くアンデッドやデビル達の進攻を食い止めている。
対岸へ引きずり出した獅子の大公・アロセールすら長く深い地獄に陣取るデビル達との戦いの前哨戦に過ぎない。
かの大公を討ち果たせたとしても、その奥へは更なる巨悪が控え、その牙を研いでいるのだから。
アロセールの下へと向かうユノーナ・ジョケル(eb1107)らの道行きを切り開くべく、攻めこそ守りにつながるその一手を打つ為に冒険者らは、屍の山を踏み越えて行った。
(担当:姜飛葉)
●悪魔との戦い
──ヒュンッ!!
一瞬の出来事。
目の前から飛んできたブラックホーリー
たいして、バーク・ダンロック(ea7871)は高速詠唱によるパラスプリントで回避。
そのまま敵悪魔の背後に姿を表わすと、其の手にかまえたシャクティで力一杯悪魔を切り捨てる。
──ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
その場に崩れ、動かなくなる悪魔。
「黒い霧‥‥これを纏った奴は、格段に強くなっている‥‥」
ボソッと呟くと、パークは前線を維持するために、次の獲物に向かって走り出す。
先日より繰り広げられている地獄での戦い。
その前線を維持しつつ、さらに億を目指す進軍部隊。
その一部は、既に敵大将格の悪魔との交戦状態に入っている。
そこまでの前線を維持するこのエリアでは、今だ悪魔の方が戦力として上、ここを分断されると最前線の仲間たちの生還刃は可能となる。
その為、彼等は死んでもこのエリアを護りとおさなくてはならなかった。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
アガルス・バロール(eb9482)が手にしたホーリーパニッシャーで悪魔の頭部を破壊する。
その後方からは、リディア・レノン(ec3660)がグラビティキャノンで援護を行なっている。
後方からの魔法支援、そして屈強なる戦力、この二つにより、前線は維持されている。
だが、それでも命を散らしていった仲間たちは多い。
後方支援部隊の手によって前線から後方に送られていくもの。
無念の中、命を散らしていった仲間の死体を運び出すもの。
それらの遺志を受け継ぎ、なおも戦いは激化の一歩を進みつつある。
「スズ・シラカワの仇ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」
霊剣ミカヅチを操る大宗院鳴(ea1569)が、絶叫と同時に目の前の悪魔を切り捨てる。
その近くでは、大宗院を護る為に楯となり命を散らしていったスズ・シラカワ(eb5815)の死体が転がっている。
頭部はなく、目の前の悪魔によって食いちぎられてしまっている。
その匂いに引き寄せられるかのように、一体、また一体と悪魔が近寄っていく‥‥。
──ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
そのエリアに向かって、後方からミルファ・エルネージュ(ec4467)の放ったアイスプリザードが炸裂。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォツ
さらにアルター・ウィラ(eb3517)が同じエリアに向かってファイアーボムを叩き込む!!
その二人の連携により、ひきよせられていた 悪魔立ちは見るも無残な姿に変貌する。
そこに後方より突入する部隊。
「生きたまま‥‥三途の川を見るとは思いませんでしたよ‥‥」
「ウア!! ギュンタも初めてみた!!」
薊鬼十郎(ea4004)とオーガのギュンター君の二人が大宗院の元に駆けつける。
「助太刀します!!」
「うあ、すけだち!!」
「助かります‥‥」
大宗院は静かに頭を下げると、悪魔達に向かって刃を構えた!!
──一方そのころ
「貴様に、阿修羅の加護のあらんことを!!」
全身にながれる闘気を操り、己の体内に無限の力を呼び覚ますエビータ・ララサバル(ec0202)。
「パラディン及び候補生全てに告げる、今立っているその場より、悪魔を先に進ませるな!!」
先陣に立つパラディン八部衆天位・フィーム・ラール・ロイシィの声が戦場に響く。
その声に鼓舞されたパラディンたちは、体内よりさらなる力を引出す!!
このエリアでは、そのラインより悪魔は侵攻することが出来なくなっていた‥‥。
(担当:久条巧)
●魔の眠る秘密
デビルが探す何か。
デビルの不可思議な力。
そして、地獄へと向かった仲間達の前に立ちはだかるデビル。
分からない事は多く、時間は足りない。
溜息をついている時間も惜しい。
教会から借りて来た古い文献を注意深く紐解くと、ゼノヴィア・オレアリス(eb4800)は仲間達の前に広げてみせた。
「古来より、7という数字は神の世界において大きな意味をもつとされているわ。北の空に輝く導きの星も7つから成るし、7つの大罪というものもあるし」
「デビルが探しているものと‥‥関係‥‥あるのかな?」
問うたラルフィリア・ラドリィ(eb5357)に、ゼノヴィアは緩く首を振った。
「まだ分からないわ。ただ、7つの大罪は、「暴食」、「色欲」、「強欲」、「憂鬱」、「憤怒」、「怠惰」、「虚飾」、「傲慢」から成っているのだけれど、この文献によると、これらの罪は魔王と呼ばれるデビルを象徴するものだと記されている‥‥。デビルが探しているものが7つの大切なものが、この罪をさすものだとすると、彼らは魔王を探しているとも取れるわよね」
だが、と声が掛かった。
外套の土埃を払いながら部屋に入って来たのはキット・ファゼータ(ea2307)とテティニス・ネト・アメン(ec0212)だ。
「あいつらには「頭」がいるぞ。それも、多分、大物だ」
デビルが探しているものを追って各地を回っていたキットは、デビル個々の動きとは別に、何者かの意志のようなものを感じ取っていた。手短にそう告げたキットに、テティニスも頷く。
「これだけの数を動かす者、そして統率する者となると、キット殿のおっしゃる通り、小物では有り得ない」
魔王‥‥。
先ほど、ゼノヴィアが語った言葉が、それぞれの胸に重くのし掛かる。
「それから」
キットは腕を上げた。彼の外套の下から飛び出して来たのは、マール・コンバラリア(ec4461)だった。
「そこの所で潰れかけてた」
手に持った巻物で肩を叩きながら、キットが苦笑する。
「潰れてないわ! ちょっと休憩してただけよ!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向いたマールに、ああ、と彼らは事情を悟った。抱えた巻物の重さで飛べなくなっていた所を、キットに拾われたのだろう。
「それで、何の巻物を運んでいたの?」
覗き込んで来たテティニスの腕に飛び乗って、マールはキットから取り返した巻物の紐を解いた。
「この中に、アロセールって名前があったの」
アロセール。
それは、地獄に向かった仲間達の前に現れたデビルと同じ名だ。
「獅子の頭を持ち、炎のように燃える目を持つとされる地獄の戦士‥‥ですか‥‥」
エリンティア・フューゲル(ea3868)の呟きに、キットはぱしり、と拳を手のひらに叩きつけて歯ぎしりをした。
「上等だ」
文献には、アロセールはあらゆる格闘技に通じており、その身に纏った甲冑は敵の攻撃を弾き返したとある。
書かれてある内容は、地獄の仲間達から伝わって来た情報と重なっていた。つまり、この文献にあるアロセールが、地獄の門で立ちはだかっているデビルである可能性が高い。
「‥‥どんな攻撃も跳ね返すほど強固な鎧? ただでさえデビルに攻撃が通用しない‥‥のに、この上、鎧?」
ラルフィリアの声に微かな苛立ちが混じった。その気持ちは、皆同じだ。
「そういえば」
エリンティアが思い出したように声を上げた。ぽむ、と軽く手を打ってにっこり微笑む。
「遙か昔に刻まれた碑文の中に、攻撃が無効化されるデビルについての記述を見つけたんですよ〜」
え、と驚いた顔をして固まった仲間達に、ほけほけとした笑顔を浮かべたままでエリンティアは続けた。
「それによると、あの攻撃を受け付けない状態はデビルが本来持つ力によって差があるみたいですねぇ。つまり、弱っちぃデビルは無敵状態も長く続かないって事みたいです」
「‥‥となると、元々の力が強いデビルだと‥‥」
「無敵万歳」
いやぁっ!
冗談だろっ?
途端に上がった仲間達の悲鳴のような叫びを聞き流しつつ、エリンティアは冷めた香草茶を啜った。
「‥‥でも、本来持つ力って、一体何の事でしょうね‥‥。僕達の知らないデビルの力? それとも、別の何かを意味するのでしょうか‥‥」
(担当:桜紫苑)
●地獄と現世にて待つもの
地獄と繋がる門が、一度人々を飲み込んで再び開いた時、フォン・イエツェラー(eb7693)は自分の目の色が変わりかけたのを察した。仮にも故郷防衛に働く人々の一翼を指揮する任を負った身なれば、ここで狂化してはならない。
そのために一度目をそむけた時間の分、号令は少し遅れた。
「教会までの道、けして塞がれぬよう!」
重傷なのか、すでに骸か、判然としない状態の人々が、キエフと近郊から集まった自警団や志願兵の手で荷車に載せられて運ばれていく。道を示すのはフライングブルームで空を行くサイーラ・イズ・ラハル(eb6993)などだが、当然その姿はシフール達より目立つゆえに狙われる。空飛ぶ騎獣に乗った冒険者達が助けに回り、多くは難を逃れ、
「あなた達は、今は自分のことだけ考えていなさい。それで十分よ」
「そう、元気に戻るまでは守ってやるさ!」
「周りは気にせず進んでくれ」
当人なりの励ましだろう、少々きつくなった物言いのアクエリア・ルティス(eb7789)やキル・ワーレン(ec2945)、声を上擦らせることもなく自警団員達を促す蓬仙霞(eb9212)が、示された場所を無事に通り抜けられるように剣を振るう。門からは戻る仲間のみならずデビルも溢れてくるから、怯えてしまう馬など役には立たない。一刻を争う怪我人がいても、運ぶのは人力だ。
「主の慈愛は無限ですもの。必ずや救いの光がもたらされますわ」
中には荷車に付き添って、ひたすらにリカバーを施すコンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(ec1983)などもいる。
「皆さんが帰る場所を守り抜きましょう」
少し下がれば、キエフまで行かずとも救護所があり、アナマリア・パッドラック(ec4728)達が治療のために控えていた。持てる治癒の道具はすべて持ち込んだものも少なくはなく、各所で祈りを捧げる姿がある。その魔法の発動光の色は違えど、傷を癒そうとする気持ちに変わりはない。
けれど。
ヴィタリー・チャイカ(ec5023)は思わず祈りの姿勢をとった後、運ばれてきた骸の様子を改め始めた。キエフまで運ばれてくるのは、救護所では対処出来ない者が多い。中には狂化を起こして、仲間に意識を奪われた者も含まれるが、骸は蘇生するとしても欠けたところがあってはならないのだ。
周囲では、住民の協力者に指示を出しながら、怪我人の治療を行うカグラ・シンヨウ(eb0744)もいる。どちらも先程まではキエフ近郊の人々の避難誘導に多くの仲間と従事し、休む間もなく次の仕事に当たっている。
そんなところまでも、稀に紛れ込むデビルがいるも、身動きままならぬ人々はフィニィ・フォルテン(ea9114)の展開したムーンフィールドに阻まれて目的は果たせず、キエフの守りの残る者達によって塵に変えられた。大半はインプなどの下級のデビルで、高位のデビルの助けがないと察したのか、このところ振るっていた特殊な力を使ったものは数少ない。
「復活にどれだけ掛かるか知らないが、後日に再起を賭けるのか」
蘇生したばかりの者はともかく、傷を癒した仲間の大半が再度戦線に戻っていく中、サラサ・フローライト(ea3026)は今目の前で消え去ったデビルの思考を思い返した。
何を探しているかと問い掛け、リシーブメモリーが読み取ったのは『手に入れれば、上の階級に昇れる』と。
ラスプーチンの動向を知るデビルには出会わなかったが、デビル達が探している『七つの鍵』とやらは、奴らがいかに復活が叶えど死の苦しみを味わい、時に絶対的な死を賭けても手に入れたいものだと察せられた。
その情報を皆に知らせるには、もうしばらくの時間が必要だけれど。
山積みされた羊皮紙が、冒険者ギルドの係員に混じったセツィナ・アラソォンジュ(ea0066)を迎えてくれた。
「これが、ラスプーチンの残した書類ですか」
「それは一部ね。大半は彼の甘言に乗せられた輩の調書よ」
デビル達は『冠』と称するものを探している。それの手掛かりを、多数の書物に当たる他、その言動の一端をしるすことになった書面に求める。徒労かもしれないが、それでも地獄への門をくぐった人々の労苦に比べれば何程のものか。
地獄の門の向こう側、見慣れた太陽の片鱗たりとも見出せない地で、クレムヒルト・クルースニク(eb5971)の体が白い輝きを放った。
「大丈夫です。聖なる母は今も私達を見守っていてくださいますから」
手を握られたジル・アイトソープ(eb3988)は、リカバーを受けてもなお血を吐き、力なく目を閉じた。魔法で大量の敵を一時になぎ払ったものの、そうした者を集中で狙うデビルの動きに倒れ伏した魔法使いは、彼女の他にも少なくない。
少々の傷なら秦孫諭(eb2279)やクレイ・バルテス(ec4452)などのリカバーを受け前線に戻るが、もはやその段階ではない者達の多くは『白騎士団』を名乗る一団に回収されている。
「バラバラになったら負けよ!」
コアギュレイトで前衛を補佐するマリア・オロソフ(eb8873)が声を上げるも、デビルは集団があれば解体するために突撃してくる。最初は戦線維持のための補給に努めていた『白騎士団』フローラ・タナー(ea1060)達だが、いつの間にか彼女達のいる場所こそが前線になっていた。
挙げ句、死傷者をキエフに送り帰そうにも、門は今閉ざされている。
「こんなんじゃ、情報の送りようもなかったね」
ルカ・インテリジェンス(eb5195)の背後に隠された状態で、揚白燕(eb5610)はかろうじて笑顔を保っていた。情報の周知のために飛ぶと決めたのだから、怖気づいている場合ではない。行けと囁かれ、ハロルド・ブックマン(ec3272)の魔法の合間に飛び出す。
地獄の大公の元に向かった人々は、とうに見えない。そこに至るまでには、倒れ、うずくまる人々で作られた道がある。デビルは斃れれば塵となるが、切り刻まれたアンデッドはそこかしこで未だ蠢いていた。
「後は任せて‥‥大丈夫そうか」
そこに埋もれていたラザフォード・サークレット(eb0655)は、前線の様子を聞く力が残っておらず、目を潰されたデュラン・ハイアット(ea0042)が『白騎士団』の補給の一つであるソルフの実を飲み下してから言った。
「で、どこなら自力で避けられる連中がいる?」
誰もがぎりぎりの状況で、余力を寄越す余裕などなく魔法を放ち、刃を振るい、持てる技を出し尽くして、守ると守られるとが時に入れ替わりながらじりじりと待っている。
門が再び開かれる時、大公が倒される時、それと、
「夫も子も残して、ここで朽ち果てるわけには参りません」
大切な人のもとに帰れる時を。
(担当:龍河流)
●京都の情勢 〜問題はそれだけではない現状〜
京を守る治安組織は多い。
現在最大規模を誇り、守護の要となっている新撰組。その他にも黒虎部隊や各種見廻組など。
妖怪の大量発生に普段より警備を強化。さらに冒険者たちが手伝い、街中は物々しい限りだ。
「敵の侵攻も落ち着いてきたか?」
「そうそうデビルに好き勝手させる訳にはいかん」
京都見廻組の備前響耶(eb3824)に、新撰組九番隊隊士である榊原康貴(eb3917)。組織として反りは合わずとも、その志は同じ。
鉄の御所・酒呑童子たちの襲撃による壊滅からようやく立ち直った所。また壊されるなど溜まったものでない。
ただ要所であるが故に守りが厚く、奴らも攻めあぐねるのか。デビルからの大きな被害はまだ無い。
「京から伊勢を行き来するが、各所の対応も上手くやっている」
チーム『伊勢ノ志』は京都・伊勢周辺の防衛に力を入れる。天城月夜(ea0321)も天馬を駆り、京から伊勢までを周回していた。
デビルたちの対処は各国主や藩主に任され、故に国によって方針様々。
ただ、幸か不幸か京都周辺は以前からアンデッド・黄泉人やら鬼やらの脅威に曝されている。襲撃に対する警戒はそれなりにあり、けして遅れはとらない。
「長州は黄泉人共々上手く食い止めてるようだよ。災厄からの守護として大宰府の五条の宮の人気がまた高まりそうなのが難だけど」
草薙北斗(ea5414)は大阪、長州を始め、西方諸国の状況を調べていた。
神皇家の血筋を引く五条の宮を掲げて、長州が現神皇に反旗を翻したはかれこれ三年前。
一応講和はなされたが、それもどこまでアテになるやら。確実に西方でその基盤を築いていた。
それでも、抵抗できる内はまだいい方。
黄泉人に蹂躙され壊滅した国に至っては一体どうなってるやら。
出雲を中心に、伯耆、備後、備中、石見、安芸、美作、因幡、但馬、丹波。
中には内実がまるで覗けない地域もある。
国が健在でも、有権者のお膝元を離れるにつれ被害が大きくなるのは仕方が無い。何より黄泉人の活動と合わさってアンデッドたちの動きが活発だ。
安全を求めて、また傷付いた仲間を治療する為に、都に駆け込む動きは絶えない。
「慌てないで。お汁粉に柚子湯、たーっぷりと用意してあるからね」
とある寺に出来上がった救護所にて、陽小娘(eb2975)が長蛇の列を裁いて食事を振舞う。
白翼寺花綾(eb4021)がメロディーで人々を落ち着かせる傍ら、他のチーム【ジャパン医療局】の面々も忙しそうに走り回っている。
「こういう事にはほんま秀吉はんはやる事早いで」
チーム『【誠刻の武】京都部隊』として医療局を手伝っていた将門雅(eb1645)は届いた物資の量に呆れる。
救援物資を征夷大将軍たるお市に頼むつもりだったが、尾張は遠い上に先方も忙しい。
そして、それよりも早く動いたのが関白・藤豊秀吉。
商人の街・大阪を支配するだけあって手早く物資を調達するや、ぽんっと各地の救護施設に送り届けている。それも大量に。
デビルの目的は分からぬものの、妖怪が跋扈し各地を襲っているとあれば寺社仏閣も黙ってはいない。各地にこうした救護所が出来ている他、自発的に調伏に出向く僧侶や僧兵もいる。
「黄泉人の警戒も必要だから、大規模には動けないけど。それでも天台宗総本山の延暦寺を始め、寺門派の園城寺や新興の宗教でも浄土真宗の親鸞さまとかその他諸々動いてるとかいないとか」
協力を仰ぐ為、殴りこむ勢いで文字通り飛び回ったフィン・リル(ea9164)は若干肩透かしを食らった感じだ。もっとも、全てが彼女の望む形ではない。
宗派や派閥の垣根はこの際取っ払って欲しかったが、むしろ衝突している感がある。
皐月の比叡山の乱で御所と反目した延暦寺は、その後和解したとはいえ、失った信用回復に必死。
白魔法の使い手と黒魔法の使い手両方を有し、長年鉄の御所との対峙で培ってきた武術は頼もしい限りだが、これまで延暦寺によって日の目を見なかった寺社にすれば黙っていられない。
この機会により多くの信頼を得ようと救済の手は緩めない。
不和による競争を嘆くか、競争による切磋琢磨を良しとするか。それはまだ何とも言い難い。
「それと‥‥ジーザス会もね」
相手がデビルなら、ジーザス教こそ黙ってられない。弾圧にもめげずに率先して動き出していた。
ただその中にはデビルとの仲も噂されるジーザス会の姿もある。トップのフランシスコ・ザビエルの姿は見当たらず、大人しく隠れるような活動だが、ネフィリム・フィルス(eb3503)としては警戒せざるを得ない。
「避難は順調。悪鬼であれば、わざわざ戦う力のある相手よりそうでない相手を狙うと思いましたが、今の所その気配もありませんね」
気は抜かず、御神楽澄華(ea6526)は周囲に視線を走らせる。
(担当:からた狐)
●防衛
軍勢。
デビルの軍勢と、それに抗う人々の軍勢のぶつかり合い。
それは地獄だけではなく、キャメロット周辺でも繰り広げられていた。
「ここから先には行かせませんわ。ソードボンバー!」
セレナ・ザーン(ea9951)のオーラが付与された聖なる槍が多くのデビルを一度になぎ払う!
黒き靄を纏ったとはいえ、下級デビルではこの威力に耐えられないのだろう。次々に光へと化していく。
「‥‥妙ですね」
「何がだ?」
デビルが連れているアンデッドに狙いを絞り剣を振るうヴェルディア・ノルン(ea8937)がぽつりと漏らす。同じく大物ではなくあえて小物の数を減らすことに集中しているテリード・リューガ(eb0585)が問う。
「いえ、敵の勢いが衰えているような‥‥」
「俺にはよく分からんが、それならそれでいい。これ以上奴らにこの地は汚させねぇ」
敵の勢いが衰えている事に気づいたのは彼らだけではなかった。
デビルの動きに注意を払っていた来生十四郎(ea5386)やチップ・エイオータ(ea0061)も不審に思っていた。
「なんだ‥‥数が減っているのか?」
「もしかしたら敵の策か?」
と、そこに1人の忍者――環伽羅(ec5129)が体中を傷だらけにしながら突然現れる。恐らくは微塵隠れを使ったのだろう。
「敵陣に潜り込み、様子を伺ったのですが‥‥地獄の門突破部隊の活躍により、どうやら敵の増援が減っているようで‥‥くっ!」
「おい、大丈夫か!?」
「本陣まで下がれば治療ができるはずだ。連れていくぞ!」
「すみません‥‥」
十四郎とチップの2人は敵陣に潜り込んだ為大きな傷を負った伽羅を抱えると、撤退の準備を始める。
「ここは俺達に任せて! 絶対に皆を守ってみせるから!」
「私たちががんばらねば――誰が民を守るのだ!」
撤退する者達を助ける為にも龍一歩々夢風(eb5296)が最前線で鞭を振るい、メアリー・ペドリング(eb3630)のグラビティーキャノンがデビルをなぎ払う!
キャメロットは本陣。
そこでは怪我人の治療や、一般人の避難などを行っていた。
「もう大丈夫だよ、安心おし」
陽光隊のベアトリス・マッドロック(ea3041)は戦闘の余波で怪我を負った一般人に優しく声をかけると共にリカバーの魔法で傷を癒す。
「皆さんの奮戦のお陰で一般の方々の負傷者は少ないですが‥‥」
今も運び込まれた冒険者に同じく治癒の魔法をかけるはマーナ・リシア(eb0492)。負傷した冒険者が次々と運ばれる現在、彼女達は休む暇もないといったところだ。
だが、そんな状況にもめげずラディッシュ・ウォルキンス(ec1503)を始めとする治療班の士気は落ちない。
「こいつらが気張って戦ってるんだ、この癒しが俺達の戦いだ! 俺の癒しを‥‥食らえぇぇ!」
癒しは食らわせるものではないと思うのだが、どうなのだろう。
「‥‥あっちの女性に治療してほしかった」
「贅沢言ってんじゃねぇ! 次!」
こうして治療された者達のうち、戦える者はまた前線へ。戦えない者は本陣にて避難をしていた。
また戦いの影響で家族とはぐれた者もおり、それによる混乱も予想された‥‥‥が。
「金髪で背が小さい男の子、ね。どんな服を着ていたか分かるかしら‥‥‥ふむふむ。ちょっと待っててね」
息子の姿が見えないと訴えてきた女性の対応をしていたのはサラン・ヘリオドール(eb2357)だ。彼女は家族からはぐれた者の特徴や名前を本部の者の協力のもと名簿として作成していた。これが大いに役立ち、当初予想された混乱より遥かに落ち着いたものであったのは特筆すべき事だろう。
「こちらに、毛布と薬が届きました!」
救援物資の運搬を行っていた桜葉紫苑(eb2282)が到着すると同時、避難所に集まっていた手伝いの冒険者が一気に殺到する。彼がある程度整理してた事もあって、物資はすぐに必要なところへと届けられたようだ。
「‥‥また手配しなくてはなりませんね」
戦うだけではないもう一つの戦場の慌しさが収まる事は当分無さそうだ。
こうして冒険者や騎士達の撤退、復帰が繰り返されるキャメロットの防衛線。
王宮騎士団の位が高い者などが奮闘し、指揮を取っているがそれでも状況の変化が激しい戦場では限界がある。
しかし、これに冒険者達の協力があるとすれば別だ。
「右翼の人たちの消耗が激しいから、そっちに入ってくれ!」
「了解!」
シュトレンク・ベゼールト(eb5339)が騎士団と冒険者が協力する為の防衛網を提案し、それの元に動いていた。
キャメロットの地域防衛にて、チームとしての形を成していたのは陽光隊ぐらいであり、他はそうでもなかった為、この防衛網による冒険者達の協力は非常に有効であった。
尤も彼の指揮能力が優れているというわけではないが、それならそれで別の指揮に優れている者がサポートをする。集団で戦うというのはこういう事であり、纏まる為の器を作ったという事が彼の功績である。
「ここを乗り切れば‥‥!」
閃我絶狼(ea3991)が重力を操る魔法にて、多くの敵を翻弄する。ダメージを与える事ができなくても隙を作るには十分だ。
その隙をついて攻撃力のある者が仕留める事ができるからである。
戦いの一先ずの終わりは近い―――。
(担当:刃葉破)
●江戸市中
これまでの戦いで地獄への攻撃が功を奏したのか、各地域での戦闘は小康状態に落ち着いている。
とは言え、デビルの攻撃が無くなったわけでもない。ジ・アース側におけるデビルの攻撃は散発的なものではあるが、継続されていた。
最前線にて、江戸の防衛に回った冒険者達は攻め込んでくるデビルの撃退に奔走していた。
「全く面倒な。敵さんも何が楽しくてこんな事やってるんだか? ま、人様の世界はそう簡単に踏みにじれるもんじゃねえぞ‥‥と!」
龍深城我斬(ea0031)はデビルを叩き切った。
「デビルたち、これ以上、この世界には入れません‥‥!」
林麗鈴(ea0685)、東儀綺羅(ea1224)、王冬華(ec1223)も最前線に立ち、でデビルの攻撃を撃退していた。
「アイスブリザード!」
マリー・ベネディクティン(eb3236)の魔法がデビルたちを打ちのめすが――。
「アケロン河を突破されるとは‥‥人間の力を見くびったか‥‥」
黒いもやに包まれたデビルはマリーの魔法にびくともしない様子で浮いている。これまでの情報でデビルが謎めいた力を発揮することは知られている。魔法の武器などが通じなくなると言うものだ。
「去れ悪魔、この世界はお前たちに渡しはしない」
小鳥遊郭之丞(eb9508)はロングソードの魔剣を構えてデビルに言い放つ。
そこへ小悪魔が飛来する。
「オ伝エシマス! 門前ニテ、アロセール大公ノ戦イガ始マッタヨウデス!」
「おのれ‥‥いつまでもこちらに関わっているわけにもいかん‥‥者ども退くぞ」
そう言って逃げを打つデビル。
「逃がすかよ! ――小鳥遊!」
疾走する龍深城ともに小鳥遊もデビルに切りかかる――。
「お前達と遊んでいる暇はない、さらばだ!」
デビルは配下をつれて飛び去った。
江戸市中――。
突如として現れたインプの大軍に人々は逃げ回っていた。
「ここはあたい達が護る! さぁ、みんなこっちよ!」
郭梅花(ea0248)は人々を逃がしながらデビルに立ち向かう。
「探セ! 冠ハドコカニアルハズダ!」
飛び交うインプたちを風羽真(ea0270)は追っていた。冠とは何なのであろうか?
「住民の避難が最優先だ! 時間を稼げ!」
タイタス・アローン(ea1141)、東儀綺羅(ea1224)、九竜鋼斗(ea2127)、ルナ・フィリース(ea2139)らは陣形を組んでインプの群れの盾となる。
「急げ! みんな下がれ!」
三菱扶桑(ea3874)はタリスマンを起動して人々を逃がす。大曽根浅葱(ea5164)、ルルー・コアントロー(ea5487)らも住民らの盾になる。白昼のインプの大群、だが江戸防衛に回っていた冒険者達には準備が出来ていた。
「紅葉の炎に焼かれたくなければ、直ぐに地獄へお帰りなさいませ!」
火乃瀬紅葉(ea8917)はインプたちにマグナブローを叩きつける。
「八王子軍の攻勢に加えて悪魔とは‥‥だが、どちらにも江戸は渡せませんな‥‥」
鶺鴒団の伊勢誠一(eb9659)、荊信(ec4274)らはインプたちを蹴散らしていく。リーリン・リッシュ(ec5146 )はローリンググラビティーで援護。
逃げる人々の避難所となったのが、冒険者チーム中心の救護所だ。各チームは江戸市中の寺などに救護所を設け、人々をかくまった。
【誠刻の武】のジュディス・ティラナ(ea4475)は人々を誘導し、天涼春(ea0574)、ラン・ウノハナ(ea1022)らは運ばれてくる怪我人達の手当てに当たった。
「み、皆さん‥‥こちらに避難‥‥して下さい‥‥」
ラースタチカ・ヴィチローク(ea9955)は避難誘導を務める。
「江戸市中に乗り込んでくるとは‥‥大胆不敵な‥‥」
江戸雛隊の土方伊織(ea8108)は逃げ遅れた子供の手を引いてデビルの追撃をかわしていた。
「伊織殿、無事か」
同じく雛隊の綾織初音(ec5122)の背後にも住民たちの姿があった。
雛隊には雛隊の戦い方がある。雛隊のソペリエ・メハイエ(ec5570)、緋村櫻(ec4935)、イクス・エレ(ec5298)、ディファレンス・リング(ea1401)らも市中を回って人々の避難を最優先に動いた。
‥‥この戦いの渦中にあって、現在江戸で行われている諸侯同士の戦にデビルの暗躍があるのでは? と警戒する者の何と多かったことか。この危機に戦をしている場合ではないと考える者も多い。ただ幸運なことに、地獄より出でるデビルたちの関心はそちらにはない様子であった‥‥。
‥‥人々でごった返す救護所の寺社に紅谷浅葱(eb3878)の姿があった。非戦闘員や周辺の警備に当たりつつ、親とはぐれた子の保護者を探したり。また炊き出しの手伝いや救援物資の運搬等、安全な仕事を市民にも手伝ってもらう。こんな非常事態には何かしていた方が気も紛れるだろうとの心遣いだ。
インプたちの襲撃は一時的なものだった。冒険者達に撃退され、やがて潮が引くように後退していく‥‥。
「もう大丈夫ですよ、魔物は引き上げていきましたから」
デビルが引いたとの知らせを受けて、高川恵(ea0691)は怯える人々をなだめていた。
「恵殿――悪魔は引き上げた様子だ」
浅葱は警戒しつつも、胸を撫で下ろしていた。デビルも江戸を本格的に攻める余裕はないのだろう。市中に押し寄せてきたのは小悪魔程度であった。
(担当:安原太一)
●後方支援〜命〜
「急いで怪我人はこの中に!!」
十野間空(eb2456)の生み出したムーンフィルドに、最前線より次々と怪我人が運びこまれる。
「お湯を沸かしてください!! 怪我人はこちらに」
「しっかりしてください。大丈夫です、傷はそれほど深くありません」
サラ・クリストファ(ec4647)とロラン・オラージュ(ec3959)の二人も後方支援部隊で、怪我人の地上搬送や応急手当、炊き出しなどを行なっている。
──ギィィィィィィィィィィィィィン
倒れている者の傷に手をかざし、リカバーを唱えているサラフィル・ローズィット(ea3776)。
「もう大丈夫です‥‥傷は塞がりました」
「かたじけない!!」
サラフィルにそう頭を下げ、愛刀を手に前線に向かって走り出す土屋三郎(ez0087)。
さらに入れ違いに運ばれてきた者たちに、サラフィルはさらに救いの手を差し伸べる。
「いそいで地上班に連絡を!! 司教どのに甦生手続きを頼んでください!!」
運びこまれた死体を見て、セレナーゼン・ナッドラース(ec4453)は絶叫する。
最前線で戦っていたルイス・フルトン(ec0134)と災魔鬼影(ec4055)、雪月華(eb0597)の3名が、たったいま、死体で運びこまれた。
前線での報告によると、かなりのかずの悪魔を道連れにして、最後まで戦いぬいていたらしい。
「最後まで戦い抜いた‥‥頼む、彼等を!!」
3名の死体を搬送してきた天岳虎叫(ec4516)がそう叫ぶ、
と、突然、十野間の生み出したムーンフィルドの直前に、悪魔の集団が姿を表わす!!
「ここより先には進ませない!!」
マラキム・ニカマ(eb7696)が真っ先に飛び出し、ムーンフィールドに向かってくる悪魔に叫ぶ。
さらにソーンツァ・ニエーバ(eb5626)とエイジ・シドリ(eb1875)も防衛にまわりこむ。
「仲間たちを護る為の楯とならん!!」
「俺の可愛いこちゃんに、指一つ触れさせないぜ‥‥」
その言葉の直後、後方から次々と飛んでくるライトニングボルトとソードボンバーの衝撃波が、二人の前方の悪魔に叩き込まれる!!
ジャン・シュヴァリエ(eb8302)とヘヴィ・ヴァレン(eb3511)にる追撃である!!
この一撃で悪魔達は体勢を崩し、そこに全員が畳み込むように攻撃を開始。
「フレイムエリベイション発動!! 貴方たちに炎の加護を!!」
リンデンバウム・カイル・ウィーネ(ec5210)が防衛隊にフレイムエリベイションを発動。
士気の高まりを感じつつ、全員で目の前の悪魔の排除を開始した。
そして1時間ののち、後方部隊は平穏を取り戻し、今までの業務を続けることとなった‥‥。
(担当:久条巧)
●誘惑
「来た‥‥」
現れたデビルの群れに、ライア・マリンミスト(eb9592)はぎゅっと手を握り込んだ。前回、デビルが出現した場所に、再び数十のデビルが現れたのだ。出現の間隔は不定期だ。
ぞろぞろと群れたデビルに嫌悪感を抱きながら、ライアは小声で呪を唱えた。
迸った雷に、何体かのデビルが吹き飛ばされる。
けれど、デビルは何事もなかったかのように吹き飛んだ仲間の穴を埋め、ゆっくりと進軍を開始した。
「来たネ。デビルの好きにはさせないアル!」
飛び出して行った紗夢紅蘭(eb3467)に続き、シャルロット・スパイラル(ea7465)が詠唱しながら走り出す。決意を込めた一撃を、叩き込む為に。
「焼き、払えぇ!」
炎の玉が先頭のデビルへと直撃すると同時に大きく爆ぜた。
「あちちっ! こら! あたしまで巻き込む気アルか!」
「効果範囲は考えてある!」
紅蘭とシャルロットの緊迫を孕みながらも砕けた会話に、ライアはくすりと笑った。この仲間達がいれば、こんなデビルの襲撃なんて何でもない事だと、すぐにいつもの‥‥授業や課外に追われる生活が戻って来るように思える。
「そう。ここは私達の帰る場所。生きる場所なんだから! デビルの好きになんかさせない!」
再び意識を集中する。まだ、デビルはもやに包まれていない。あれがデビルに魔法や攻撃への耐性を強化している証だというならば、今はまだ攻撃が通じるはずだ。
「ロイ」
「分かっている」
短い会話を交わして、ロイ・クリスタロス(eb5473)は防御の為に閉じられていた門の隙間から、するりと外へと出た。そのまま、群れに向かって駆け出す。門の上からロイを援護するのは、フローライト・フィール(eb3991)だ。
絶妙に降らされる矢の雨と共に突っ込んだロイは、振り上げられた爪を篭手で受け、冷気を帯びた手で頭を掴んで押さえ込んだ。しかし、その周囲を他のデビルに囲まれてしまう。フローライトの援護があるとはいえ、数が違い過ぎる。
「消え失せろ、デビル共!」
ロイを囲んだデビルの輪が崩れた。
共にケンブリッジを守ると誓った仲間、メグレズ・ファウンテン(eb5451)の刃が閃き、次々にデビルを屠っていく。
「あー。鬱陶しい。誰の許可を得てこの地に現れているですか」
度重なる攻防に、少々ご機嫌斜めらしいラピス・ブリューナク(ec4459)が、氷の棺を乱立させていけば、門の中で固唾を呑んで見守っていた人々の間に歓声が沸き起こる。
けれど、レイル・セレイン(ea9938)は冷静に状況を見ていた。
今はまだ、デビルは黒い霧に包まれていない。つまり、あちらもまだ小手調べの状態なのだ。
「直接あいつらを殴れるのは、ちょっとうらやましいわよね。‥‥あらやだ私ったら僧侶にあるまじき暴言を」
口元を押さえて、怪我人の治療に専念しようとしたレイルの上に、黒い影が落ちる。
何気なく振り仰ぐと、黒い髪の青年がレイルの手元を覗き込んでいた。
「あら。あなたもお怪我を?」
「え? 違うよ。ただ、ちょっと興味があって」
デビルに襲われた生徒の傷を癒す様子をじっと見つめてくる青年に、多少の居心地の悪さを感じて、レイルはわざとぶっきらぼうな言葉を投げた。
「暇なら少しは手伝ってくれてもいいんじゃない? いつ、デビルが黒い霧に包まれるか分からないんだから、1人でも多くの人を安全な場所に移したいのよ」
「手伝うのはいいけど‥‥。ご褒美は何をくれるの?」
笑いながら尋ねて来る言葉にかっとなる。
「あのね、今はそういう場合じゃないでしょ!」
だが、青年はただ笑っているばかりだ。
ちょっと脱力しつつ、人差し指を立てた。
「‥‥学食、1回奢ってあげるわ」
「本当? その言葉を忘れちゃいけないよ?」
くすくすと、青年は笑う。
半ば自棄っぱちで、頬を膨らませ、レイルは青年を睨め付けた。
「言った事は忘れないわよ。だから、あなたも早く‥‥」
そっと、耳元に囁かれる言葉。
「あそこにいるのはね、デビルの仮初めの体なんだよ。だから、本体を倒さない限り、いくらでも湧いて出るってわけ」
「え‥‥?」
驚いて目を見開く。仮初めの体? 本体? この青年は、一体何を語っているのだろう?
「約束、忘れちゃ駄目だよ?」
振り返れば、青年の姿は消えている。
くすくすと笑う彼の声だけが、レイルの耳の奥でいつまでも木霊していた。
(担当:桜紫苑)
●健闘、そして突破
ベースキャンプより辺獄越しに見据えるのは、押し寄せる魔物の勢の向こう側を流れるアケロン河、そしてその先に口を開ける地獄への門。
冒険者達の準備は整った。後は、この軍勢の只中を突破し、その先に待ち受ける者を討つばかり。
――火蓋を落とす一声は、誰が叫んだか知れない。
気迫と覚悟の篭もった号を上げながら、冒険者達は剣を、弓を、魔法を、ゴーレムを駆り、一斉に魔物の軍勢へと向かって行った。
エルファレア・エルファレリアス(ec3896)やキル・キラー(ec2773)ら『遊撃隊』に属する者達が河岸へ殺到する魔物達を押さえ込み、河を渡る為の血路を拓く。
そして鳳レオン(eb4286)達の操るゴーレムシップ等など、空路に水路に様々な手段を持って、冒険者達は対岸へと攻め込んで行く。
その勢いもさる事ながら――前線で戦う者達は魔物と対峙する内、なにやら得体の知れない違和感を感じていた。
と言うのも、今までは無尽蔵に沸いているかと思われた敵勢力が、今回においてはどう言う訳か少なく思えたのだ。
その疑問の答えは――やがて確たる情報を持ってして、彼らの前に姿を現した。
「剣を枕に討ち死してでも突貫」と言う並ならぬ覚悟をもってして敵前線を突破し、後方の部隊へと切り込んだケリー・クーア(eb8347)。
間も無く一身に迎撃を受け、拠点へと連れ戻される事になるのだが‥‥。
その直前に彼が見たものは、焦る魔物達の下に、地獄の門からの伝令と思われる者が訪れている場面であった。
そしてその内容は。
「地獄の門突破部隊の活躍により、敵の増援が滞っている、と。‥‥これは好機っ!」
情報が耳に届くや南雲康一(eb8704)は一声叫び、そして剣と盾を持って敵に向かって行く。
――そう、精神攻撃を行うと思われる魔物に向けて。
オーラエリベイションにより士気を高めた康一の前には、魔法によるあらゆる精神作用は意味を成さない。
それ故彼は率先して、厄介な術を使う魔物を倒しに掛かったのだ。
そんな彼の奮迅が功を奏し、敵の精神攻撃に悩まされる仲間が激減していた事は言うまでも無い。
そんな只中、ドラグーンやゴーレムグライダーなどを持ってして、頭上を抜けて行く者達が居た。
【☆ メイ・ゴーレム隊】の講じた【G作戦】、それは即ち地獄の門を護る番人たるケルベロスに攻撃を仕掛け、門の前に拠点を確保しようと言う策。彼らはそれに賛同し、協力を願い出た冒険者達だ。
周辺では唯一【☆ メイ・ゴーレム隊】直属のグラン・バク(ea5229)。彼の指揮の下、真っ直ぐに地獄の門へと向かって行く仲間の背中を、他の者達は祈りにも似た想いの篭もった視線で見送っていた。
――戦いは、前線ばかりで起こっている訳ではない。
後方の拠点に留まる者達は、傷付いた仲間の治療やゴーレム兵器の修理を行う事で、戦線を支えていた。
「戦場で整備作業ですか、なかなかスリリングな体験ですねぇ」
「あたし達が頑張る分、皆が無事に帰って来られるのよ!」
愚痴る様にこぼす岬沙羅(eb4399)と、意気揚々と叫ぶラマーデ・エムイ(ec1984)。 彼女達の様なゴーレムニストもそうでないものも、目が回る様な忙しさの中で必死にゴーレムの修理に当たる。
すると、ふと怪我人の治療を行っている方から漂ってくるのは、食欲をくすぐる何とも言えない香り。
ミスリル・オリハルコン(ea5594)が治療の合間に炊き出しを行って居るのだ。
温かなスープは傷付いた者達の五臓六腑に染み渡り、俄然やる気を奮い立たせていく。
「地獄でもお腹は減りますもの。さ、どうぞ♪」
「ありがとう、ミスリルさん! 俺、またこのスープを飲む為に、必ず帰ってくるよ!」
「ええ、頑張って下さいね。今度はサラダも作って待っています」
‥‥誰だか知らないが、死亡フラグを立てるでない。
ともあれ、そうしている間にも市川敬輔(eb4271)のグライダーやリーン・エグザンティア(eb4501)の軍馬により、絶え間なく運び込まれてくる負傷者。
彼等が皆、最後の瞬間まで心折れる事無く戦い抜けたと言う事実の裏には、彼女の心の篭もった炊き出しの存在があったのかも知れない。
と、その時、ふと前線の先から数名の者達が戻ってくるのが見えた。
次いで、知らされる報‥‥ケルベロス撃破、及び門前の確保の失敗。
話に因れば、精霊砲を撃ち込めどその身体は揺らがず‥‥。やはり名だたるデビルは違うと言う事か。
ともあれ、失敗してしまったものは仕方が無い。それより今優先すべき事は、撤退してくる仲間達の殿。そう、悔やんでいる暇など無いのだ。
前線を仲間達に押さえて貰いながらのシルバー・ストーム(ea3651)や木下陽一(eb9419)達の魔法攻撃。彼等の援護を受け、撤退する仲間は一路拠点へと向かって行く。
だがしかし、それでも全ての敵を撃ち落す事は叶わず‥‥更には魔法の使用者までもが狙われ易い位置に出なければならない為、中々思うように事が進まず――。
「どいてーなのーっ!!」
――グォオオオッ!!
と、轟音を立てながら前線、そして空に群がる魔物を纏めて穿つのはレン・ウィンドフェザー(ea4509)のグラビティーキャノン。
それだけではない、彼女はストーンウォールの魔法により堅固な壁を作り上げ、魔法を中心に立ち回る者達の支援をも行っていた。
遮蔽物の出現。これにより後方支援の者達の被害はほぼ0に近くなり、それに伴って前線の者達も更に敵陣へと攻め立て易くなる。負傷者の後退も比較的安全に行える。
結果として彼女の行動が多くの者達を救った事は、言うまでも無い。
ストーンウォールを渡り歩く様にして、ジリジリと確実に、魔物達を圧倒して行く冒険者達。
その中で――突然一人のシフールが、近辺の冒険者の間を忙しなく飛び回り始めた。
【しふしふ同盟】所属のフィリア・ヤヴァ(ea5731)である。
彼女が耳打ちで一人ひとりに知らせる報、その内容が伝わった時――前線で戦っていたドミニク・ブラッフォード(eb8122)は、剣で魔物の攻撃を受け流しながら、不敵に呟いた。
「やはり一筋縄ではいかない相手‥‥だが、戦いはこちらの勝ちだ!」
大公アロセール、墜つ。
その報せは、瞬く間に両軍の間を駆け巡り――。
そして気が付けば、門の眼前とは行かなくとも、冒険者達の拠点は以前に比べて遥かに前方へと、押し込められているのだった。
(担当:深洋結城)
●獅子の大公
地獄の大公アロセールの率いる悪魔達と、冒険者の戦いは熾烈なものだった。
アロセールを取り巻く、様々な中級悪魔達の猛攻に、冒険者達は非常に厳しい状況に立たされていた。
「ぐうっ! 何故なのだ!?」
その騎士、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)はその肩を槍に貫かれ、顔を歪める。仲間達の盾となるべく前に出た彼に、対峙するは翼持つ黒馬を駆りし者、地獄の騎士アビゴール。
『どうした人間ども。貴様らの力は、そんなものか?』
「おのれ悪魔ども‥‥! いったい、何をした!?」
『さてな。それを知ったところで、お前らがここで死ぬことに変わりは無い』
叫ぶ真幌葉京士郎(ea3190)を、サブナクの魔剣が追い詰める。
彼らだけはない。至る所で困惑、あるいは驚愕の表情を浮かべ、悪魔達の猛攻に苦戦を強いられる冒険者の姿があった。
「‥‥あれが、全ての原因か」
グリフォンを駆り広く戦場を見ていたテラー・アスモレス(eb3668)の視線の先にあるのは、悪魔達を統率するアロセールの姿。問題は、そのアロセールの持つ武具より発せられる禍々しき波動のようなもの。
周囲一帯に広がるその波動の中では、白と黒の神聖魔法、そしてオーラ魔法までもが一切の効果を発揮できずにいる。悪魔の力に抗するレジストデビルも、傷を癒すリカバーも、武器に力を宿らせ魔を切る力となるはずのオーラパワーでさえ。
一方、多くの冒険者達の魔法が無効化された空間で、敵の悪魔法は何の阻害も受けていない。悪魔の魔法は屈強な戦士達の姿を矮小な動物へと変え、神の加護を失った聖職者達を黒炎で焼いた。
『‥‥所詮、この程度か。もう少しは、我を楽しませてくれると思ったのだがな』
アロセールはあらためて周囲を見る。
空では、双首を持つ飛竜を駆るヴォラックや美麗なる悪魔の剣士ダバが、アトランティスより来たゴーレムグライダーやドラグーン、フロートシップに炎のブレスを浴びせ、地上でも七つの首を持つ邪竜アバドンや毒蛇の尾を持つマルティムが、まるで力を失った冒険者達を弄ぶかのように‥‥いや。
――ッ!!!
風が吹いた。強い風だ。地獄の闇すらも吹き飛ばしそうなほどに。
獅子の燃える瞳に映ったのは、己がブレスの炎と酸を身に浴び苦しむアバドンと、その脇を抜け、こちらへ向かってくる数人の冒険者達の姿。
『ほう‥‥我に辿り着く者がいたか!!』
「アロセール!! その首、この俺が貰い受ける!!」
吠えるアロセール。そこに突撃したる一番槍は、水馬を駆り、黄金の騎兵の通り名を持つ男、イリアス・ラミュウズ(eb4890)。
「はああっ!!」
加速をつけての全力突撃。アロセールも迎え討つ。卓越した技量を持つイリアスの剣、強き魔力を秘めたデュランダルがアロセールの身を捉える。だが‥‥。
『甘いわっ!!』
振るわれるアロセールの剣。禍々しき波動を放つ漆黒の刃がイリアスを切り裂く。馬より落ちて地に転がるイリアス。
「馬鹿‥‥な‥‥」
一方で、アロセールは無傷。何と言う強固な防具か。
「正面からが無理なら‥‥!」
イグニス・ヴァリアント(ea4202)の放つ衝撃波がアロセールの馬を襲う。しかし、効いた様子は無い。その時、馬の身体が発光して‥‥。
「‥‥っ!」
気配を消し、後方より接近を試みていた霧島小夜(ea8703)は何かに身体を縛られたように動けなくなる。
『地獄の大公の馬が、容易く倒せるとでも?』
この馬もまた中級デビルの一種、アムドゥスキアス。小夜の身を縛ったのは、彼の使う月の精霊魔法。
まるで隙が無い。真なる力を解放した悪魔とは、これほどのものなのかと、冒険者達の間に諦めにも似た感情が漂い始めた‥‥その時。
――ゴッ!!!
『グアアァッツ!!!!』
天より降り注いだ巨大な雷がアムドゥスキアスを襲った。断末魔の声を上げて、その身は霞のように消え失る。
地に降りたアロセールは、怒りに満ちた瞳で魔法を放った相手を睨んだ。生きながらにして伝説の烈風と呼ばれる精霊魔法の使い手、ゼルス・ウィンディ(ea1661)を。
「ありがとうございます。お二人が敵の注意を引いてくれたお陰で、上手く倒すことができましたよ」
労いの言葉は、イグニス達に。
『‥‥先のアバドンを倒した者達か』
「ああ」
素っ気ない返答をして、一人の男がアロセールの前に立つ。この冒険者部隊『皇牙』を率いる彼の名は天城烈閃(ea0629)。
「そして‥‥お前を倒す者だ」
『抜かせ!! 叩き潰してくれるわ人間ども!!!』
「イリア、シーン。頼む。時間を稼いでくれ」
「はい!」
「ガンガンいったるでー!」
先の雷を見てか、万が一にもアロセールが倒されてはと、周囲に散っていた悪魔達も次々とこちらに向かって来る。イリア・アドミナル(ea2564)とシーン・オーサカ(ea3777)の手より放たれるは吹雪。恐るべき威力のそれは、中級のデビル達を牽制するに十分な効果を見せた。
――ッ!!
剣の交差する音が響いた。ガルシア・マグナス(ec0569)、マグナス・ダイモス(ec0128)の同時攻撃。
『その程度で!!』
アロセールはその強固な鎧で攻撃を受け止める。手応えはあった。だが、反撃の刃が振るわれて、ガルシアが深手を受けて倒れる。
「すまぬ‥‥子らよ‥‥」
ガルシアの子供らも『皇牙』に参加していたが、ここまでの戦いで戦闘不能に陥り、同じように負傷した冒険者らと共にこの戦場を一時的に退いた。『皇牙』だけの話ではない。どこの部隊も多数の負傷者を出し、苦しい状況にあった。ここで彼らがアロセールを倒せなければ、おそらくこの戦いは‥‥。
『やはりな。貴様達が、我を倒すなど‥‥』
「いや!!」
「できる!!」
『何っ!?』
マグナスの、そして烈閃の剣がアロセールを捉えた。痛みに呻くアロセール。
『ぐうっ!! 馬鹿な‥‥。人間ごときの剣が、何故‥‥』
彼らの剣には、アロセールの波動に消されぬ二つの力があった。一つはゼルスの施した火の精霊の力。もう一つは、マグナスの施した阿修羅の神の力。ここに至るまで、一人一人の力では越えられないものがあった。だが‥‥。
『認めぬ‥‥認めぬぞ!! この我が、人間ごときに!!』
振われた剣より放たれるは、渾身の力を込めた恐るべき威力の衝撃波。その身に受けたマグナスが倒れ、そして烈閃も‥‥否。
――ザンッ!
刹那の差。彼はアロセールの衝撃波をかわしていた。仲間達の力と想いを受けた赤き刀身。それが再び、アロセールを切り裂く。
そして‥‥!!
『‥‥ククク‥‥フハハハッ‥‥ハハハハハハッ!!!! ‥‥覚えておくが良い、人間ども!! 我を倒しても、貴様達を待つ運命は滅びだけだ!! そうだ!! けして希望ナド‥‥!!』
――――ッ。
地獄の大公と呼ばれた悪魔の身体は、まるで幻であったかのように消滅した。
後には主を失った剣や盾、鎧、兜‥‥。彼の身につけていた六つの武具が残る。
それは、もはや先ほどまでのような波動を放ってはおらず‥‥。
「なら、力尽くで変えてやるまでさ。そんな‥‥運‥めい‥‥」
目的を遂げて安堵したか、あるいは全ての力を使い果たしたか。烈閃もまたその場に倒れたのだった。
その後。アロセールの死によって戦況は一変した。
「こちらへ!」
白き神に祈りを捧げ、シェリル・オレアリス(eb4803)は仲間の傷を癒す。まさに奇跡とも言えるその治癒術は、彼女の仲間達を大いに助けた。
「俺達は怪我人の救助を優先だ! いいか、必ず皆で生きて帰るぞ!」
マナウス・ドラッケン(ea0021)が『VizurrOsci』の仲間達へ指示を飛ばす。
先までの結界が消えたことと合わせ、隊員達の手によって負傷者の救援と共に、アロセールが討たれたという確かな報せが戦場を駆け巡っていく。
冒険者達の士気は、これ以上ないほどに高まった。
『ガアアッツ!!!』
オーラを纏いし巨大な槍が天を舞えば、悪魔騎士アビゴールは絶叫と共にアケロン川の中へと堕ちていった。
「さあ、我らに道を開けるが良い、悪魔ども!!」
本来の力を取り戻したルミリア・ザナックス(ea5298)が、他の冒険者達の先陣を切って悪魔達を蹴散らしていく。
「さっきまでの礼、たっぷり返させてもらうぜ!!」
『グオオオウ!!』
「燃え上がれ炎の翼‥‥。例えお前達がどんなに強大だろうと、僕達は絶対に負けない!」
風烈(ea1587)がオーラを纏いし拳で巨大なる悪魔ベヒモスへと連撃を叩きこめば、空を舞う火の鳥となって沖田光(ea0029)がとどめを刺す。
『こんな‥‥こんなはずでは‥‥グアアア!!』
クレア・エルスハイマー(ea2884)の放った爆炎に巻き込まれて、孔雀の姿の悪魔、アンドロアルフェスは翼を焼かれた。
「皆が最後まで諦めず、ここまで戦い続けたからこその追い風。今こそ地獄の門を‥‥!!」
神の加護とオーラの助力を取り戻し、一気に進軍する冒険者達。アロセールという核を失い統率を失った中級デビル達は、彼らの手によって次々と倒されていく。
しかし‥‥。
――――ウオオオォォォォン!!!!!
「な、何ですか!? 今の!?」
WG鉄人兵団を率いて、残党デビル達との戦いを続けていたシャリーア・フォルテライズ(eb4248)は、地獄の門の方角から聞こえた声に不安を覚えずにはいられなかった。
そう。
この時、冒険者達の前には既に、新たな試練が立ち塞がっていたのだ。
地獄の門番ケルベロスとの、本当の戦いが始まろうとしていた。
(担当:BW)