第2回行動結果報告書

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黙示録の戦いの勇姿を!

3人で!

4人で!

皆で!

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■第2回報告書

●地獄の道行き
 地獄への往路‥‥現在のところ、かの地へ行くためにはその場に固定された次元転移門を使うか、あるいはいつの間にか引き込まれれる様に辺りの風景が変化し地獄へ‥‥という2つの手段。門を潜るか、迷い込むかの移動の理由は分っていない。そもそも手段を確立する方法などがあるのかすらもわからない。往路が不確かであれば、当然の如く帰路も不確か。退路を失う事を恐れて戦う事などできはしまいと、剣を、槍を手に‥‥辺獄で激しい戦火が散っていた。
「ここが地獄‥‥1丁目はどの辺りかしら?」
 薊 鬼十郎(ea4004)は聖十字の盾を掲げ、デビルの攻撃をいなしながら辺りを見回す。
 そこは空と大地が赤で染められた場所‥‥彼らの流した血すら吸い込み鮮烈さを増すかの如き、まさしく地獄の最前線。遥かに見えた川も近くなり、この勢いならば地獄の門へ押し進む事もできそうな。
「護るより攻める方が性にあってる。先陣をきって戦うぜ」
 右手にルーンソード、左手にイーストウィンドソードと2刀でデビルの爪を掻い潜り剣を閃かせるカルロス・ポンザルパルク(ea2049)のように、文字通り地獄への道行きを己の血で露払うかのごとく切り開き進む者達で、血を流していない者は見当らぬほど、そこここで剣戟の音が響いている。
 多くはデビルらの進攻に対抗すべくチームを結成し向かっていたが、その中で一際大きな一団が【TN特攻隊】の面々だった。
「この国にてめえらの居場所はねえ!」
 デビルを屠り平らげる霊剣を振るい、仲間の戦闘を切って進むセイル・ファースト(eb8642)は既に返り血か自分達の血か判らぬほどの激戦の中にいた。ノルマンからデビルを叩き出し、余勢をかって地獄まで突き進む――そんな勢いの下、集った彼らはその名の通り、地獄の奥へ奥へと特攻を重ねる。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 アガルス・バロール(eb9482)は気合一閃叫びと共に大斧をデビルの身へ叩きこむ。オーラシールドの守りを得てシャロン・オブライエン(ec0713)もデスサイズを振るい大地を平らげる。仲間達にオーラパワーを付与して回っていた猫 小雪(eb8896)は、今は味方が攻撃し易い様にその身を活かし惹き付ける。突出せず連携し、大地だけでなく空からの猛攻を軽減しているのはデニム・シュタインバーグ(eb0346)。尾上 彬(eb8664)のグリフォンも主を助けるべく空へと翔ける。
 戦えるのは後方よりの支援あってこそ‥‥感謝の念は、一体でも多く敵を片付け、一歩でも進む事で返す。一刀で断ち切れなければ、断ち切れるまで剣を悪しき身へ叩きつけるのみだ。
 個対個ではなく集団戦に持ち込み確実に屠っていく形をとるチームも多い。【西中島隊】もその中の1チーム。西中島 導仁(ea2741)は出来るだけ多くのデビルを倒せるよう、戦線維持を目標に仲間達と共に地獄の戦いに身を投じていた。突貫し道を切り開く者達の道幅を広げ、維持すべく赤き大地に緋色の道を築く。門へ、最下層へ続く道を。目指すは地獄の奥‥‥悪意の王が眠りにつく敵の本拠地まで、地獄を進む。

 赤く染まる空と黒く染み渡る大地――地獄の情景、それに続く世界の色。それは神の悪戯か、それとも決まっていた必然かはわからない。
 開いた地獄の門に招かれた人々は、地獄(インフェルノ)住まう世界の諸悪の根源――悪魔たちを屠るためにその身を賭し戦っていた。
 奥に行けば行くほど、堕落した魂と堕天使たちの牢獄に相応しい厳しい環境に変わっていく地獄の中‥‥辺獄とも呼ばれる入り口近くは比較的ジ・アースやアトランティスに近い雰囲気をもっているその場所での戦い方‥‥そこは前線とは違う、支えるための人々の戦線が広がっていた。
 目指すは最奥、されど今はほんの入り口。僅かな陣地とはいえ、攻め入られるばかりでなく攻め入る機を逃し、足がかりとなる場を失うわけにはいかないと陣を守るために奔走しているのはエリー・エル(ea5970)ら。エリーは魔法を用い、白兵戦で戦う人々の援護をし、【TN支援し隊】のシェリン・ミドラス(eb8356)のように前線を切り開くように戦う仲間達が傷つけば、怪我を癒すために心を割く者もいる。
「この道は‥‥開けておく‥‥頼んだ」
 前線へ向かえるようウリエル・セグンド(ea1662)は、防衛線にて剣をとる事を決めた者達と共に道を開き、維持する事に力を尽くしていた。ローガン・カーティス(eb3087)は石の中で羽ばたく蝶を確認し、カドゥケウスを振るう。
 ジャネット・モーガン(eb7804)やバ・ジル(eb0246)のように前線から隙を突くように回り込んできたデビルを退ける事も大切なだった。
「うーむ、お迎えが来る前に自分で来てしまうとはのぉ。出来れば地獄より天国に行きたいものぢゃ」
 偵察に向かう者を援護するため、弓弦を引き絞りながらぼやきにも似た呟きを零すバ・ジルに苦笑しながら、【TN支援し隊】のシェアト・フロージュ(ea3869)は傷ついた者達のためにムーンフィールドを広げる。陽 月斗(eb8229)や鳳 双樹(eb8121)は二人揃って【TN特攻隊】を始めとする前線へ向かう者らへ、激励と共にオーラパワーを付与して回っている。
 食事も睡眠‥‥寄って立つべき所がなくては、人は進み続ける事ができないから。その基本に立ち返り、火を熾しておさんどん役を買って出たのは、カンター・フスク(ea5283)。腹が減っては戦は出来ない。
 皆、傷を癒し、気力を補っては再び前線へ帰る者達の背を見送り。あるいは傷ついても戻る場所を確保するために、彼らの戦いを続けていた。
 アケロンの川を渡り、亡者たちの巣食うの集う前庭を越え‥‥門へと至ってなお続く、先の見えぬ長き戦い。
 最奥まで、進み、進め。

(担当:姜飛葉)


●明かされる謎と深まる疑問
 赤い空と大地に響くのは、剣戟の音と断末魔の叫び。
 デビルとの戦いに殉じた兵士達の亡骸が点々と大地に伏しているのとは対照的に、デビルの亡骸はおろか血の跡さえも見当たらなかった。
「ちっ。死体を持って帰ろうと思っていたが、消えちまうんじゃ無理だな」
 キット・ファゼータ(ea2307)は、付着したデビルの血が跡形もなく消えている己の武器を見つめる。
「よお、キット。無事だったんだな」
 背後から聞こえた声に振り返ると、キットが隊員でもある【威力偵察隊・月】の隊長リ・ル(ea3888)がにやりと微笑んでいた。
「当たり前だ。あんな小者にやられてたまるかよ」
「だな。色っぽくてとびきりの美女のデビルならともかく、アイツ等には御免だぜ」
 そう言いアケロンの川を見つめるリルの目に、次から次へと湧き出て来る様な下級デビル達の姿が映る。
「男たるもの、引き際が肝心だな。下がるぞ」
 リルの言葉にキットは頷く。
 得た情報を仲間に伝える為にも、ここで命を落とすわけには行かないのだ。
「ったく、しつこい奴等だぜ」
 疾走の術を使い、デビルとの無用な戦闘を避ける様に戦場を駆けるのは【VizurrOsci】隊員の鷹峰瀞藍(eb5379)だ。
 彼は広範囲を移動し、敵が手薄な場所を突き止めては仲間に逐一報告していた。
「それにしてもデビル達を包んでるあの霧‥‥厄介な効果がある様だな」
 オティスと名乗っていた中級デビルとの戦闘を目にした瀞藍は、悔しげに唇を噛み締めた。
『黒い霧を纏っていても攻撃が効かない訳じゃないわ! 安心して!』
 フィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)のテレパシーを用いた助言と励ましは、デビルとの戦いに不安を抱く者達を鼓舞する。
 彼女はその視力を活かし、敵の情勢や地形の情報を相次ぐ戦闘でその場を動けない者達に伝えていた。
「きゃっ!」
「っ!?」
 ぶつかった透明な何かがデビルだと思い武器を構えた【VizurrOsci】隊員・黒宍蝶鹿の前に、インビジブルのスクロールの効果が切れたルンルン・フレール(eb5885)が姿を現した。
 相手がデビルと戦う同志だとわかった2人は、ふっと表情を緩めて微笑み合う。
「あなたもアケロンの川の向こう側を調べに来たのですか?」
「はい! って、あなたも!? 目的が一緒の方が見つかって嬉しいです♪」
 蝶鹿の問いにルンルンはホッとした様に微笑んだ。
『この川の先に在るは亡者の巣食う庭。無力な人間の乙女達よ、その四肢を亡者に引き千切られたくなくば早々に立ち去るがいい』
 突如聞こえてき低く暗い声に2人は視線を彷徨わせる。
 そこにはアケロンの川の渡し守カロンの姿があった。
「‥‥何だあのインプ達は? 様子がおかしいぞ」
 ユニコーンで駆けていたゼナイド・ドリュケール(ec0165)は、辺りをきょろきょろとしている数匹の下級デビル達に目を留める。
『ない! ここにもない!』
『くそっ! そこにあるんだ!?』
『あの冠さえ見つかれば、人間共等、恐るるに足りんと言うのに!』
 その会話を耳にしたゼナイドは、そっとその場を離れて仲間の元へと急ぐのだった。
 デビルの目から逃れる様に集まった一同は、早速情報交換を始めていた。
「どうやら地獄の門突破部隊が出撃したらしいわ。誰が参加しているのかまでは解らなかったけれど」
 フィオナの情報に全員は、戦いが新たな局面を迎え様としていると気づく。
「アケロンの川を渡るにはやっぱりフロートシップが1番有効みたいだ。泳いで渡るにも敵に囲まれそうだしな」
 困った様に頭を掻くリルの言葉を継ぐのは蝶鹿とルンルンだ。
「その向こうには亡者達の巣食う庭がある様です。数や種類に関してはわかりませんでした」
「地獄にいるのですし、もしかしたらそのアンデット達は特別なのかもしれません。あ、これはあくまで私の推測ですが‥‥」
 特別、と言う言葉に瀞藍とキットの眉が微かに動く。
「中級デビルとの戦闘を見かけたんだが、駆け出しウィザードの初級魔法は全く効いていなかったぜ」 
「俺はオティスって奴を倒した連中に話を聞いてきた。どうやら+1以上の武器でなければ、中級デビルにダメージを与えられないらしい」
 黒い霧がデビルを強化しているのは間違いない様だ。
「私はデビル達が必死に冠を探しているのを目撃した。それがどの様な効果を持つまではわからなかったが、あなり重要な物の様だ」
 ゼナイドの情報は不穏な謎を孕んでいた。
「デビルの目的は未だよくわからないけれど、もしこの戦い自体が罠だったら?」
 それまで口を閉ざしていた宿参対向刈(eb0948)はある推測を口にする。
「あえてこちらに乗り込ませて、手薄になった各地域を襲う。各都市の防衛線が突破されたら大変よ」
「‥‥確かにそうだな。敵さんの本拠地を攻めるより、自分達の世界を守る方が大切ってわけだ」
 リルの言葉に全員は神妙な面持ちで頷く。
 仮に地獄での戦いに終止符を打ったとしても、帰るべき場所が無くなってしまえば意味がない。
 そこに住む人々の命を守れなければ、その勝利に価値などないのだ────。

(担当:綾海ルナ)


●戦いの始まり
 赤い空。
 黒い大地。
 生と死の狭間に流れる大河、アケロン河。
 辺獄。

「しふしふ〜、偵察任務しふ〜☆」
「スゴイしふ〜! ズゥンビとデビルと冒険者とおっきなゴーレム。おっきな船まで飛んでるしふ〜?」
 揚白燕(eb5610)とアメジスト・ヤヴァ(eb5365)が、驚きの声を上げる。
 それは、何から何まで初めての光景。
 陰鬱な地獄の風景、そしてアンデッドとデビルがいることまでは何となく予想していたものの、そこでゴーレムと人間をこぼれる程に満載した空飛ぶ船に出会すとは、まさか夢に思いもしなかった。
 彼らがアトランティスの冒険者達であり、空飛ぶ船が「フロートシップ」という精霊の力を使った乗り物であることは、当のフロートシップに乗船していた、アトランティスのシフール達から教えて貰った事である。
 はじめは別世界の人間だと警戒していても、どうやら同じ冒険者。
 同じ敵を持つ者同士、ここは一つ手を組もうと、戦線のあちこちで国と世界を越えた同盟が次々と設立。異国、異世界の冒険者達が、揃ってデビルの群へと攻撃を開始した。

 地獄で、思わぬ仲間を見出した冒険者達の意気は高い。
「ここが地獄か、面白い!」
 デュラン・ハイアット(ea0042)の放つライトニングサンダーボルトが、宙を飛ぶデビルの群を引き裂く。
 続いてジル・アイトソープ(eb3988)のグラビティーキャノン、ハロルド・ブックマン(ec3272)のアイスブリザードが駄目押しをすると、上空の小悪魔共が羽虫のようにぼたぼたと落ちてきた。
 その空いた敵戦線の空隙を狙い、デューセイグ・ヴォルザース(ec1788)、シーリス・ヴォルザース(ec1789)が突撃をかける。【TK突破】チームの面々がそれら前衛のフォローに入ると、デビル達の前線は、冒険者達の組織的な戦法を前にいとも容易く切り裂かれた。
「いけるか?!」
 馬上から斬妖剣を振るうデューセイグ。
 その魔剣の刃が不可思議な感触を伝えてきたのは次の瞬間。
 刃の先には、黒い霞のような物をまとった、見慣れぬ黒鬼が笑っていた。
 二体。

「生きてる内から地獄へわざわざやって来るとは、随分と気の早い奴らよ」
「来たからには生かして返さん。ほら、お前達も歓迎してやれ」
 二体の黒鬼の後ろから、ボロを辛うじて身に引っかけただけの、責め苦の跡も無残な地獄の亡者共がゾロリゾロリと這い寄り出す。亡者達にまじり、黒鬼達と同様、黒霞をまとったグレムリン達が戦線に参加すると、冒険者達は潮が引くように後退する。
 黒い靄をまとったデビルに対しては、余程の魔剣か呪文でもなければ有効打を与える事は難しい。それは前回までの戦いによって、冒険者達に広く行き渡った情報の一つである。

「あれはマレブランケ‥‥地獄の獄卒鬼か‥‥!」
 イグニス・ヴァリアント(ea4202)が黒鬼の正体に気が付く。
 亡者相手なら何とかなる。グレムリンら小悪魔共も、どうやらあまり長くは黒霞の力は持続しないらしい。
 しかし中級デビルである、二体の獄卒鬼はいけなかった。
 二体の鬼が黒霞を身にまとったまま、振るわれる魔剣、降り注ぐ魔法の矢をまるで意に介した様子もなく、ニタニタと笑みさえ浮かべて冒険者達を切り裂くと、支えきれなくなった前線の一部がどっと崩れ落ちる。

「踏み留まりなさい、白騎士団!」
 あわや、戦線の崩壊かというその時、自らの所属する騎士団に檄を飛ばしたのはフローラ・タナー(ea1060)だった。同時に、同騎士団のアルビオス・レイカー(ea6729)、ドナン・ラスキン(eb3249)らが彼女の前に盾を構えて立ちはだかる。
「おやおや、随分と元気の良い」
「お前達の武器など効かぬと言うのに。よしよし、特別にお前達から亡者の仲間にしてやろう」
 決死の覚悟で防衛戦を張る十数名の白騎士団を前に、しかし、獄卒鬼達は黒霞の力に絶対の自信があるのだろう。まるで散歩にでも行くような足取りで、いとも無造作に近付いていく。

「‥‥私達の武器が効くかどうか、これを受けてから判断しても遅くはありませんよ?」
「ぬぐっ?!」
 声と同時に、黒霞を貫く一条の槍。
 槍は霞を貫き、咄嗟に掲げた獄卒鬼の腕に深々と突き刺さった!
「魔槍ドレッドノート。如何に地獄のデビルと謂えども、これは痛いようですね?」
 セシリア・ティレット(eb4721)が魔槍を構え、にっこり笑う。
 その傍らでは、ディアルト・ヘレス(ea2181)が、やはり両刃の直刀を構えて二体の獄卒鬼と対峙していた。
 魔剣デュランダル。天が人に与えし、悪魔を切り裂く真なる一振り。

 二人の持つ武器を前に、獄卒鬼達の顔からようやく笑みが消えた。
「どうやら、分に沿わぬ玩具を持ってる者がいるようだな‥‥」
「いいだろう。人の力の愚かしさを教えてくれる」
 レジストゴッド。
 より濃さを増した黒霞を前に、冒険者達もゴクリと唾を飲む。

 ―――ここはアケロン河の畔。
 人とデビルの戦いは、まだ始まったばかりであった。

(担当:たかおかとしや)


●激戦
 地獄の入り口、アケロン川。そこではウィルのみならず、メイ、ジ・アースからの冒険者達も集っていた。ある者は武器を手にしてカオスの魔物に立ち向かい、または魔法を駆使し、ゴーレムに乗り、傷付いた者を治療する。
 地上から、空から。

「レンジャーが白兵戦しかできない職業でない事を教えてやる」

 ソウガ・ザナックス(ea3585)が勇ましくグライダーから飛び降り、真下に居た魔物に剣を叩きつけた。さらにはシン・ウィンドフェザー(ea1819)、阿武隈 森(ea2657)なども仲間と連携を取りつつ、切り込み隊よろしく突っ込んでいく。
 突如現れた、黒い靄を纏った魔物。それに対抗する為に多くの冒険者が、魔法抵抗を高めた武器や、高位の魔法、スクロールなどを携えてきた。またゴーレムやドラグーン、グライダーを駆使した作戦も幾つも編まれている。
 とはいえ。

「皆さんの渡河のお手伝いを!」

 川面に浮かぶFSから仲間の支援を行う越野 春陽(eb4578)だが、対岸で橋頭堡確保は思うように進まない。双眼鏡で敵を偵察しつつヘブンリィライトニングを放つ木下 陽一(eb9419)も不安を感じている。
 仲間の引く防衛ラインは突破されていない。

「通すわけにはいかない!」

 グライダーを降りて持てる技を駆使して戦うリール・アルシャス(eb4402)、タイラス・ビントゥ(eb4135)らも奮闘中。さらにグリフォンを操るフルーレ・フルフラット(eb1182)も、魔法抵抗の高い槍を携え魔物を覆う黒い靄を切り裂かんばかりに戦っている。
 が、簡単に言えば

「敵が多すぎる」

 のだ。突っ込みすぎて孤立しないよう周囲状況に注意しつつ戦っている陸奥 勇人(ea3329)の目から見ても、それは歴然としている。
 防衛、偵察部隊からも攻撃に転じる者が居るが、それとて限りがある。さらに黒い靄を纏う魔物の存在。以前に見えた事のあるカオスの魔物が、以前よりも強い力を持って冒険者の前に立ちはだかる。それはここが彼らのホームグラウンドだからなのか。
 先行偵察部隊からは随時情報がもたらされる、それは今目の前に居る何倍もの敵が待ち構えているという知らせ。

「コアギュレイト!」
「ムーンアロー!」
「ホーリー!」

 カルナックス・レイヴ(eb2448)、孫 美星(eb3771)、富島 香織(eb4410)らが、次々と現れる魔物目掛けて魔法を繰り出すが、思うほどの威力は得られない。さらにドラグーンを駆る加藤 瑠璃(eb4288)やエルシード・カペアドール(eb4395)、リィム・タイランツ(eb4856)も交代に攻撃を仕掛けるが、起動時間の制限もあった。

「カオスなど剣の錆にしてくれる」

 意気込むケリー・クーア(eb8347)の向こうには、マトックofラックでカオスの魔物と相対しようとする武者小路 繰空(eb4606)。
 シルバー・ストーム(ea3651)がウォーターボムのスクロールで、二人と相対峙しているカオスの魔物に攻撃を仕掛けた。何とか成功。立て続けに飛 天龍(eb0010)が龍爪を振るう。何とか倒したものの、振り返れば迫り来る敵はまだ数多い。
 どうやら魔物は、常から黒い靄を纏って居る訳ではないようだ。力が増し、こちらの攻撃が効かなくなるのはその間のみ。それも低級の魔物ほど短く、強くなるに従って靄をまとう時間が長くなる。
 だが数の論理で来られれば、攻め手が限られて居る攻撃部隊が苦戦を強いられるのは必然。次第に戦況は攻めから守りへ、防衛部隊の引いた防衛ラインを突破されぬ事がメインになって来る。
 ここには怪我人が居て、その向こう、月道の先には民が居る。何としても守りたい一線。
 ゴーレム、そしてグライダー部隊が救援に駆けつけた。偵察部隊からも新たな敵情報がもたらされる。
 やがて、どうやらアケロン川の対岸、地獄門を突破する為の別動部隊が出撃したらしい、と言う噂も流れ出した。そこが突破されれば、新たな戦線を仕切りなおすことが可能だろうか。
 冒険者達は必死に武器を取り、魔法を駆使して戦い続ける。

(担当:蓮華・水無月)


●悪魔との戦い
──グオングオングオングオン
 血に染まったような空。
 その向うを、数隻のフロートシップが飛んでいく。
 そのはるか手前、荒涼たる大地では、地獄の門を突破してきた冒険者とデビルの先遣部隊との激しいバトルが始まっていた。
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
 オーラの輝きが中空を斬る。
「私の前に出るもののは全て切り払います!! そのつもりで掛かってきてください!!」
 ヘルヴォール・ルディア(ea0828)が『紋章剣・疾風』を振りかざし下級悪魔達に突っ込んでいく!!
 敵下級悪魔のうち数体は、その身に黒い霧を纏っているのだが、疾風はそんな霧をいとも簡単に霧散化させると、そのまま悪魔本体に向かって致命的なダメージを叩き込む!!
「さあ、次は誰!!」

 そんなヘルヴォールから少し離れたエリア。
 場所的には後衛、まだそれほど激戦区にはなつていない場所では‥‥。
(認めない!! みんなの認めないっ!!)
 大地に伏してノンビリと動く亀。
 突然両サイドから姿を現わした悪魔の軍勢。
 その中のインプの奇襲により、その姿を『陸亀』に変身させられてしまったエイジス・レーヴァティン(ea9907)である。
 その近くでは、同じ様に亀にされてしまったカルロス・ポルザンパルク(ea2049)と西中島導仁(ea2741)が徘徊している。
(3体までは潰せたのだが‥‥口惜しい)
(ポルザンバルグ殿などまだ増しだ!! 俺は奇襲を受けてこの様だ‥‥仲間に会わせる顔がない!!)
 カルロスの呟きにそう言い返す西中島。
 だが。
──グシュッ!!
 ヘルホースの蹄によって踏みつけられ、くだけ散るカルロス。
 そのヘルホースの上には、全身を漆黒の鎧に包んだアビゴールが乗っている。
「インプ共。いつまでも遊んでいるな、人間風情など、とっとと踏み潰してしまえ!!」
──グシュッ
 続いてエイジスも蹄に踏み潰される。
 おそらくは即死だったのであろう、瞬時にカメは元の人間の姿に変化する。
 が、そこには全身が砕け、臓腑や脳漿を巻散らして倒れているカルロスとエイジスの姿が現われた。
「ケケケ‥‥だってさ」
「御免な、もっと遊びたかったんだけれどな」
 笑いつつカメの西中島を掴むと、力いっぱい振りかぶるインプ。

──ドシュッ

 と、その瞬間、インプの頭部が真っ二つに切り裂かれた!!
「人外の戦い‥‥まさに悪夢そのものだな‥‥」
 手にした物干竿でインプを背後から切り捨てるケイ・ロードライト(ea2499)。
 その動きに、周囲のインプ達は一目散で退散していく。
「強いな人間。名をなんと申す?」
 アビゴールがそうケイに問い掛けるが、ケイは返答を返さない。
 ブゥンと物干竿を振回すと、切っ先をアビゴールに向ける。
「済まない。悪魔に名乗る名前などない‥‥覚悟」
 そう叫んで、アビゴールに向かって切りかかるケイ。
──カギィィィィィィィン
 ケイの物干竿を馬上より長槍で弾き飛ばすアビゴール。
「愚かなり‥‥」
 そのままヘルホースに跨がったまま間合を取ると、そこから全速力でチャージを仕掛けてくる。
「動きが判って居る。愚かなのはそっちだ!!」
 カウンターの構えを取るケイ。
 もっとも、ケイ自身カウンターを仕掛けるのは生まれて初めて。
 そのまま相手の動きをじっと観察し、そして一撃に賭ける!!
──ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 間合は十分。
 タイミングも問題はない。
 だだ、相手の腕が良かっただけ‥‥。
 頭部が吹き飛び、顎から上が破壊され、ケイはその場で絶命した‥‥。
「さて、ではそろそろ我々も本気を出させて戴きますか‥‥」
 そう呟くアビゴール。 
 と、その背後に大量の悪魔達の姿が現われた。
 アクババやネルガル、ツインヘットドレークなどの悪魔の群れなど、見るもおぞましい、まさに地獄絵図が広がっていった‥‥。
「人間共を殲滅せよ‥‥」
 長槍を前方にかざし、そう叫ぶアビゴール。
──ウオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ
 覇気の混ざった声を揚げつつ、悪魔達は一斉に前衛の戦っている場所まで進軍を開始した。

──グオングオングオングオン
 血に染まったような空。
 その向うを、数隻のフロートシップが飛んでいく。
 別エリアではアビゴールが猛威を振るっている沙那カ、このエリアでは逆に冒険者達が悪魔の手勢を押している。

──ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
 手にしたシャクティにはオーラパワーが付与されている。
 激しい連撃を繰り出し、次々と下級悪魔を倒しているのはエビータ・ララサバル(ec0202)。
「次は誰なの? どこからでも掛かっていらっしゃい!!」
 そう叫ぶエビータに向かって、次々と飛んでいく悪魔達。
 その少しはなれた場所では、鳳美夕(ec0583)が悪魔の群れに向かってファィアーボムを発動。
「ぶっ飛びなさぃぃぃぃぃぃぃっ」
──チュドーーーーーーーーーーーーーーーン
 爆音と共に吹き飛ぶ悪魔達。
 かなりの深手を追っているもの、まったく無傷のものなど、悪魔によってその効果は様々である。
「あたいの弓から逃げられると思って?」
──ヒュンッ
 殆ど無傷の敵に対しては、後方からリンカ・ティニーブルー(ec1850)の魔弓がうなり声を上げる。
 その手の中の『破魔弓』より繰り出されるやらよって、次々と悪魔がその場に崩れ落ちていく。
 さらにその近くでは、到着した魔法兵団が敵悪魔に向かって次々と詠唱を開始。
「これでも食らいなさい!!」
──バリバリバハリリ
 レミア・リフィーナ(eb8754)の放ったライトニングサンダーボルトが炸裂。
 こちらに向かってくる敵隊列の一角を崩す。
 と、そこに向かってリディア・レノン(ec3660)のグラビティキャノンとデュラン・ハイアット(ea0042)のライトニングサンダーボルトが直撃!!
 完全にそのエリアを混乱に陥れる。
「それ以上の接近を認めません!!」
 敵の更なる進軍にたいしては、ミカエル・クライム(ea4675)が高速詠唱でマグナブローを発動。
 大地より吹き出す灼熱のマグマによって、敵悪魔を一掃していく。
 
──ヒュヒュヒュッ
 さらに、ミカエルのマグナブローから逃れて進軍してくる敵に対しては、虚空牙(ec0261)とシャロン・オブライエン(ec0713)、イリュード・ガルザークス(ec2015)の3名が突入、次々と敵を撃破していった。
 ちなみにイリュードの獲物は斧。
 最初使っていたダガーが、まったく役に立たなかったので急遽持ち変えたようである。
「この程度か‥‥いや、そんな筈はない‥‥」
 敵を観察しつつ攻撃を繰り返すイリュード。
「フッ、面白い。地獄であれば倒す敵には困るまい。磨いてきた技、存分に試させてもらうぞ!」
 口許に笑みを浮かべて、星君朧拳で正面から悪魔に向かっていく空牙、その手には後衛によって施されたオーラパワーが纏われていた。
 さらにシャロンはオーラシールドも展開、攻防一体というシフトで次々とあくまを屠っていく。
「なんだこの程度か‥‥戦いたりないぞ‥‥」
 そう呟くと、シャロンもまた次の獲物を発見し、戦いに繰り出していく。
 こっちのエリアでは、どうやら冒険者にも歩があったようだが、全体を見ると敗戦一色。
 ここでこれ以上戦っていても勝ち目が無いと判断した一行は、一旦後方の本部隊へと合流していった。

(担当:久条巧)


●地獄とつながる世界
 地獄への門が開いて、待ち構えていた人々が中へと飛び込んでいく。
「お、おいら、戦うのは得意じゃないよ」
 サンテ・シャルマン(eb0595)が及び腰なのを、テオフィロス・パライオロゴス(ec0196)や不破斬(eb1568)が蹴飛ばすように急かして進んでいる。突撃する本隊と、それに紛れるように内部深くまで偵察を行う一隊と、それぞれの目的を達するためにひたすら進む集団を飛び越えるようにして、デビルの群れもまた地上へと現われていた。
 それを迎えるのは、アン・シュヴァリエ(ec0205)達の神聖騎士中心の結界と浄化の魔法や、リオ・オレアリス(eb7741)などの魔法攻撃だった。更に続いて、ローラ・アイバーン(ec3559)など魔法を弓を持つ冒険者と弓兵が次々と矢を放つ。
 こうした陣営の組まれる前には、領主館や冒険者ギルドでの、
「銀の矢の支給は出来ませんか」
「んな金の掛かる代物、何百本も用意してあるかよ」
「武器庫の目録に魔法の掛かった弓がまだ残っているようですわ」
「あぁ、ひところ集めたからな。全部出せ」
 マクダレン・アンヴァリッド(eb2355)の進言が、ゼーラント伯エイリークに伝法な口調で無理と言われかけたところを、文官と一緒に必要物資の手配に走り回っていたエルティナ・アンヴァリッド(ec5918)が解決策を見つけたり、
「この状況で、イグドラシルの精霊達は何も動きはないのかよ」
「あそこの精霊はその辺にいるのとは視点が違う。出てこないって事は、まだ平気だと思ってるんだろうな」
 ジェレミー・エルツベルガー(ea7181)がわざわざ確かめに向かったのには、冒険者ギルドマスターのシールケルが平然と返したりしていた。確かにドラゴンも精霊も、高位と呼ばれるものは姿を見せていない。
 けれどもリン・シュトラウス(eb7758)のつれた精霊達をはじめ、幾体もの精霊やドラゴンがドレスタットの街やその近隣を行き交っており、中には誰のものか分からないドラゴンが混じっていたとも伝わってくる。
「流石にこの有様で、あっちにつく奴はいないか」
 夕弦蒼(eb0340)がシールケルに差し出した小さな羊皮紙には、ドレスタット近郊の貴族や有力者の動きが書かれていた。以前、ドレスタットが襲撃を受けた際には敵方についた愚か者も散見されたが、此度の事態では今のところそんな様子は見付からない。
 そうやって、近郊から集まった騎士や魔法使い、傭兵に冒険者と連なった中で、こちらの世界に残った人々は、再び門が開く刻を待ち焦がれてもいた。再度開かねば、あちらに行った人々は戻ってこられない。
 やがて、その刻限が来て、仲間と共にそれを追うためか、ただこちらの世界へ出ることを望んだのか、デビルも共にまた溢れ出てくる。
「帰ってきた奴らを出迎える予定が詰まってんだ。さっさと終わらせるぜ!」
 武器だけあっても役には立たぬとばかりに、海鮮騎士団に貸し出したリュリス・アルフェイン(ea5640)が、それでも両の腕に刃を煌かせてこちらに零れ落ちたデビルを屠っていく。これをこなさねば、戻ってきた人々の話を聞くことも出来はしない。
 そうして、ようやく。
「宝物に、人探しもしてるってか」
 誰かが呆れたように口にしたのは、地獄の中でデビル達の一部が命じられていたことだ。
 その意味は、定かではない。

 複数のゴーレムが、時折開く異世界への門から溢れ出てくるカオスの魔物を迎え撃つ態勢を整えていた。
「ゴーレム以外、下がってください。魔法効果時間を忘れないように」
 深螺藤咲(ea8218)がゴーレムの武器にバーニングソードを付与して、後方に下がっていく。やがて開いた門を通ってくる魔物を、ゴーレムで形成された前線が手当たり次第に薙ぎ切っていく。
 もちろんそれで全てが倒しきれるはずはなく、今度は人で構成される防衛線と魔物が衝突した。風姫ありす(eb7869)などが前線を維持しようとする仲間にオーラパワーを付与し、アリス・メイ(ec5840)が作り出したクリスタルソードは使える者が次々と奪うように持っていく。効果時間が限られていても、魔力の籠もった武器を持たないものには必要な品だ。
 同様にアルフレッド・ラグナーソン(eb3526)が魔物の存在を魔法で感知し、皆に伝える。更にレジストデビルも付与するとなれば、メイの冒険者ギルドか王宮のどちらか、それとも両方に各種ギルドがかき集めたのかもしれない各種の回復アイテムも、見る間に少なくなっていく。
 門が開くのは、月道のように僅かな時間だ。けれどもそこから飛び出した魔物達は、人を見ると襲い掛かり、または身を翻してどこかに向かおうとする。それらに追いすがる人々が無傷であろうはずもなく、後方に設置された救護所は運び込まれる者が増えてきた。
「ほら、ちゃんと支えてあげてくださいよ」
「‥‥引き摺ったら駄目よね」
「そういう時は薬を持ってきて!」
 夢野まどか(ec5194)が怪我人と一緒に転がってしまったマリアール・ホリィ(ec5844)を助け起こし、他人の血で真っ青になったマリアールに指示を出している。出した側も真っ青だが、前線に出る力量に足りないのならとここで立ち働いている者は多かった。
 更に後方、戦闘の様子など見えない辺りでは、万が一に魔物が戦線を突破してくる可能性を考えて、マフマッド・ラール・ラール(eb8005)やレムリナ・レン(ec3080)が周辺地域の人々に避難を呼びかけていた。幸い人里が大規模に襲われる事件はまだ起きていないが、それでも戦線を抜け出してきた魔物と遭遇することもある。
「どうして、戦う力のない人達を狙うんだ!」
『そりゃあ、痛い目は見たくないからなぁ』
 レムリナの怒声に、逃げの一手を打った魔物はそう捨て台詞を吐いた。必死に逃げる姿に、何か不審なものを憶えもしたが、それを追求する余裕はここにはない。
 代わりに前線で、
「七つの、なんですって?」
 土御門焔(ec4427)が、傷付いて消滅寸前の魔物の目的を問い、リシーブメモリーで志向を読み取って首を傾げた。七つの大切な物を探せと、そう命じられたようだが‥‥あいにくとその魔物がそれ以上の事柄を語る事はない。
 そして、異界への門の近くでの攻防は、
「ここが破られたら、中に行った連中が帰ってこれないしな」
 風烈(ea1587)の呟き通りに、仲間の戻るまで続けられたのだった。

(担当:龍河流)


●防衛戦
──パリ郊外・旧街道付近の大草原
「敵は5km先か‥‥」
 天馬の前に立ち、じっと悪魔の軍勢のいる方角を睨みつけるのはリリー・ストーム(ea9927)。
 全身を大天使装備で固め、淡く白く光る大天使の槍+2を手に、じっと敵の出方を待っている。
 その後方には、現在のノルマンエリアの最終防衛ラインが作られ、随時地獄の扉空の帰還者の受け入れや、別働隊を援軍に出したりなど、とても慌ただしい情況になっている。
「敵の情況は?」
 そう偵察に問い掛けるリリー。
「前方3kmまで敵は進軍。下級、中級合わせて総数500。前衛部隊では対処不可能な域に達しています‥‥」
「了解。戦乙女隊に伝令、これより防衛ラインを死守する!!」
 そう告げると、リリーはペガサスに跨がり飛翔した!!
 そして後方からやってくる戦乙女隊と合流すると、前線へと向かっていく!!

「司令官殿、戦乙女隊が前線ライン防衛に出ました」
「了解です。各部隊にその事を伝達して下さい」
 救護エリアで負傷兵に治療を施しているリーディア・カンツォーネ(ea1225)の元にも伝令が走った。
「了解しました!!」
 そう告げて出て行く伝令と入れ代わりに、担架で運ばれてきた死体が3つ。
「地獄の門の中で回収された死体です!! 治療可能なクレリックはいませんか!!」
 そう叫ぶ地獄からの伝令。
 担架で運ばれてきたのは『カルロス・ポルザンパルク』『エイジス・レーヴァティン』『ケイ・ロードライト』ら3名の死体。
「ノートルダムの司祭に伝令を御願いします!!
 まだ死んでから時間は立っていないのでしたら甦生は間に合うかもしれません!!」
 そのリーディアの叫びに、伝令がまた走っていく。

──その頃の最前列
「ここから先は一歩も通しません!!」
「その通りです!!」
 ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)とシルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)の二人が、悪魔軍勢の一角を切り崩していく!!
 敵が数で押してくるのにたいして、一つずつ着実に破壊していく二人。
 その近くでは蒼麗風(ea8934)が魔槍『レッドブランチ』を振回し、敵の前衛を切り崩しに掛かる。
「次に死にたいのは何方ですか? 私は逃げもかくれもシません!! 掛かってきてください」
 そう叫ぶと、敵を自分にも引き付ける。
 蒼麗風の討ちもらした敵に対しては、フォルテ・ミルキィ(ea8933)のサンレーザーの迎撃がまっていた!!
「後方支援は引き受けていますから、皆さんは力一杯戦ってきてください!!」
 そう呟くと、ミルキィは再び別の敵に向かって詠唱を開始する。
 
 敵前衛と防衛ラインの攻防戦は、やがて一進一退の攻防というかたちで沈静化し、両部隊共に距離を置いて相手の出方をまつ形となってしまった‥‥。

(担当:久条巧)


●護る者たち
 避難所の近くにデビルの群れが現れたとの報に、ヴェルディア・ノルン(ea8937)はシールドソードを手に駆け出そうとした。
「わたくしが敵を引きつけます! その間に皆様は‥‥」
「ちょいとお待ち!」
 ヴェルディアの腕を掴み、ベアトリス・マッドロック(ea3041)が呪を唱える。
「聖なる母のご加護を。無茶するんじゃないよ」
 はい、と頷いて、ヴェルディアは口元を引き結んだ。ユーリユーラス・リグリット(ea3071)が伝えて来た情報によると、デビルの数は30匹前後。避難所で救護活動を続けている者達で対応出来ない数ではない。
 しかし、デビルに対して術や攻撃が効かなくなったという報告もある。
「油断は禁物だ。ここは、地獄へと向かった者達が戻る場所。何としても守らねば」
 決意の籠もったシュトレンク・ベゼールト(eb5339)の言葉に、予め仲間達と防御柵や罠を周囲に張り巡らせていた森里霧子(ea2889)がぽつりと呟く。
「‥‥デビルに向かう前に、罠に引っ掛からないように」
 えっ?
 ぎょっと振り返った冒険者達の耳に、どんと何か重いものが落ちたような音と振動が響く。
「言った側から‥‥。さて、掛かったのは敵か味方か」
「待て。罠というのはどの辺りに‥‥!」
 呼び止めたレンを、霧子は怪訝な表情で見返した。どこから現れるか分からない敵が相手だ。隙があっては戦えない者達を守れない。
「全方位」
 きっぱりと告げて、軽く地を蹴る。
 遠くで何かが吹き飛ばされる音がした。続けて、耳障りな叫びも。
「‥‥と、とにかく。後ろはじじばばに任せて、とっとと悪魔なぞ倒しておくれ」
 怪我人と女子供が多い救護所を中心にホーリーフィールドで囲むと、峰春菜(eb7959)はしっしと手を振った。呆然としていた冒険者達も、我に返ったように動き出す。
「ふむ。では私は先に行く。何が待ち受けているのであれ、私は人々を守りたい」
 メアリー・ペドリング(eb3630)が羽根を広げて飛び立った。
「いけません、メアリーさん!」
 慌てて、アルアルア・マイセン(ea3073)がメアリーを止めた。伝令としてやって来た彼女の外套の裾が焦げている。どうやら、彼女は罠の威力を身をもって確認したようだ。
「飛ぶデビルを想定した罠もありますから、注‥‥」
 彼女の言葉が終わらぬうちに、木々が揺れる音と発射音が響く。
 と同時に、アルアルアの傍らを何かが走り抜けた。巻き込まれた空気が、アルアルアの金色の髪を乱す。
「問題は無いが?」
 グラビティーキャノンで罠が仕掛けられた木ごと薙ぎ倒したメアリーが、不意に宙で動きを止めた。
「‥‥ユーリユーラス?」
『大変っ、大変だよ! またデビルが増えたよーっ』
「増えた‥‥? デビルが?」 
 その呟きだけで、粗方の事情を悟った日高瑞雲(eb5295)は、野大刀の鞘を払った。
「ったく。人様の家に勝手にあがり込むんじゃねーっつーの」
 傍迷惑な来訪者には、早々にお帰り頂きたい。
 ぼやきながらも気合いは十分だ。
「悪い子には仕置きが必要だ。さあ、行こうか」

「多勢に無勢‥‥か」
 門前に迫るデビルの群れを見据えて、ロイ・クリスタロス(eb5473)は笑った。
 こちらの数、そして、あの黒い霧に包まれたデビルの力を考えれば、状況は不利に思える。
 だが、退くわけにはいかない。
「それは楽しそうだね」
 ロイの独り言に肩を竦めてみせたフローライト・フィール(eb3991)の顔にも、焦りも悲壮感もない。
 気負っているわけでもなければ、自棄になっているわけでもない。
 ただ、彼らは知っていた。
 守るべきものと、共に戦う仲間を。志を同じくする者達が、この地を守る為に動いている。そして、遠く離れた場所でも。
「今はまだ黒い霧は発生していないみたいだね。あの霧は、どこから流れて来てるのかな?」
 頭上から聞こえたライア・マリンミスト(eb9592)の声に、ミリア・タッフタート(ec4090)は分からないと首を振った。
「でも、黒い霧が出て来たら要注意だよね。デビルの全てに影響があるのか、それとも一部だけなのか、私もよく見ておくよ」
「来ましたわ」
 幾分硬いミシェル・コクトー(ec4267)の声に、ミリアは縄ひょうを手に身構えた。
 突破されるわけにはいかない防衛線。持てる力の全てを尽くしても、それを守り抜かねばならない。
「我が炎の前にぃ、燃え尽きろぉぉっ!!」
 シャルロット・スパイラル(ea7465)の放った炎の玉が前方のデビル達を吹き飛ばす。手応えを感じて、シャルロットはすぐさま二発目を放つ為に呪を唱え始めた。
「来な、デビルども!」
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)の渾身の一撃が、セレナ・ザーン(ea9951)の天使の力を宿すと言われている槍が、更にデビルの数を減らす。
 彼らの反撃に圧倒されたのか、デビルは動きを止めた。
 不審に思うと同時に好機だと悟る。
「一気に押し返す!」
 突撃をかけたウィル・スミス(eb2921)が剣を振り下ろして、息を呑んだ。
 デビルの周囲に、黒い霧のようなものがまとわりついているのに気付いたのだ。と同時に、剣がデビルを切り裂く感触が伝わって来る。しかし、魔法の力を纏わせたはずの剣は、その威力を減じていた。
 前回と同じだ。
「霧!? どこから?」
 ミシェルが周囲を見回す。ミシェルと背中合わせになったセレナも、槍を構えたまま、注意深く気配を探る。
「この霧がデビルに力を与えているのかな? なら、吹き飛ばしてあげるよ!」
 呪を完成させたライアの手から、雷が飛んだ。けれど、霧は晴れない。
「術が‥‥」
 一撃目には打撃を与えたシャルロットの魔法も効果を失していた。
「この霧は‥‥。そうか! これは術者が魔法を使う時と同じだよ!」
 弓に矢をつがえていたフローライトが、赤い光に包まれたシャルロットの姿と、デビルを取り巻く霧とを見比べて叫ぶ。
「つまり、魔法の力って事ですか? それで私達の攻撃の効かなくなっている? ‥‥生意気」
 ラピス・ブリューナク(ec4459)のアイスコフィンが、先頭のデビルを凍り漬けにした。攻撃が効かないわけではなさそうだ。
「ならば、打撃を与え続ければよいだけのこと!」
 冷気を纏わせたロイの拳が、デビルに叩き込まれる。
「その通りだ。行け、炎よ! 万象一切灰燼と為せ!」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)の宣告に応えるようにマグマが地面から吹き上げる。灼熱の炎柱に取り込まれたデビルは、その圧倒的な力を防ぐ事が出来ず、焼き尽くされた。

(担当:桜紫苑)


●カオス 〜混沌の存在〜
 カオスとデビルに違いはあるのか――?


 ジ・アースに住む者達にしてみれば「カオスの魔物」と言われてもピンと来ず、宗教という概念が存在していないアトランティス出身者にしてみれば、「デビル」と言われても良く分からない。地球から来た者にしてみれば、どちらも存在自体が空想の中の産物だったりする。
 だが、彼らは現実としてアトランティスに、そして今は地獄の門から出てきているのだ。

 ――ジャパン。
「江戸にもカオスがいるのかが気になる」
「カオスってのはよく判らないからきちんと調べないと駄目だよね」
 室川風太(eb3283)とコンルレラ(eb5094)はカオスについて調べようとしたが、そもそもカオスとはデビルとどう違うのか。
「人間側にも、古いデビルの資料はないかしら‥‥」
 デビルについて書かれた資料は見つかるも、ステラ・デュナミス(eb2099)の期待した『カオス』に関しての明確な記述はなかなか見つからない。
「『悪魔に似て非なるもの』‥‥悪魔が天使に似た姿をとっているという話は聞きますけれど‥‥」
 キルト・マーガッヅ(eb1118)は文献を繰る手を止めない。だがなかなか目的の情報は見つからず――。

 ――ウィル。
「私、ジ・アース出身なのですが、カオスの魔物とデビル、呼び名以外に違いがないように思えるのです」
「いや」
 テレーズ・レオミュール(ec1529)の言葉に答えたのはアルジャン・クロウリィ(eb5814)。アトランティス出身者だ。
「デビルについては伝聞にだが‥‥カオスの魔物とデビル、その目的からして違うように思える」
「どういうことですか?」
 問い返したのはカオスの魔物の目的について調べていたリーナ・メイアル(eb3667)。
「例えだが、デビルとやらは神や天使などに対する対抗意識が行動理念なのに対し、カオスの魔物はそういった特定の対抗意識はなく‥‥アトランティス全体を混乱に陥れ、民を多く苦しませ、世界を破壊するのを目的にしているのではないだろうか」
「カオスの魔物は、世界を破壊できるという大目標を達成させられるならば、細かい事は気にしないということであろうか」
 カオスの魔物についての記述から目を上げて、バシレイオス・フェビアヌス(eb7842)が呟いた。

 ――地獄。
「カオスって確か『混沌』って意味の筈。その力を悪魔が利用しているのでは?」
「ううん、デビルとカオスの魔物って全くの別物みたい。私達には姿は同じに見えるけど」
 エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)の肩に止まったマール・コンバラリア(ec4461)が告げる。マールはアトランティスにいた事のある人に尋ね、そのような証言を得ていた。確かに外見や能力こそ似ているが、その行動理念が違っていて。
「貴方達はデビル? 何をしているのかしら? お手伝いしするわよ?」
 目に入ったカオスの魔物にチャームを使った鳳凰院あすか(ec5863)が、敵の目的を探ろうと試みる。
「デビル? ソンナモノト一緒ニスルナ。我々ハ、カオスノ魔物。『冠』ヲ探シテイル」
「冠? それは何?」
 追うように問うが、そのカオスの魔物の知能はそれほど高くなかったようで、その『冠』が何を指すのかまでは判らなかった。
「本人達は互いに自分達は別物だという意識があるようですね」
 倒れたカオスの魔物にデッドコマンドを試してみようとしていた晃塁郁(ec4371)だったが、カオスの魔物は死体が残らない為、その試みを実行する事はできないでいた。

 ――メイディア。
「参ったな。この世が不安定になればなるほど彼らの力が増していくじゃないか」
 溜息にも似た呟きを漏らしながら文献をめくる布津香哉(eb8378)がふとその手を止めた。
「『カオスの魔物』‥‥『本体』‥‥『力』?」
「私が代わりましょう」
 香哉よりアプト語に詳しいシファ・ジェンマ(ec4322)が代わりに文献を読み上げる。
「『これは推測ではあるが、忌まわしいカオスの魔物、その本体は地獄に存在するのだ。この世界に現れている魔物共はかりそめの姿であり、本体が倒されぬ限り何度でも蘇ってくると思われる』」
 誰が書いたとも判らないその古い文献を、シファはゆっくりとめくった。
「『本体から力を得られる状態であれば、その格により度合いは違うものの、かりそめの姿では顕現させる事のできなかった本来の力を開放することができるのだ』」
「つまり、この間カオスの魔物がパワーアップしたような感じだったっていうのは」
 香哉とシファは顔を見合わせて、そして呟いた。
「――地獄に近づいた事により、本体の力を開放したカオスの魔物が力を増した結果、でしょうか?」


 ――地獄では未だ、デビルとカオスの魔物に対して仲間達が戦いを挑んでいる――。

(担当:天音)


●デビル 〜悪意の集うもの〜
「創造の時、世界は多くの動物と人間が、天使たちに見守られて平和で幸福に暮らしていたと伝えられる。しかし、永劫とも思えるその平和な時代は、突如として破られた」
 オリタルオ・リシア(ea0679)が読み上げた文献は、誰もが一度が聞いた事のある物語。
 天使による神への反逆ーー堕天の伝承である。
「デビルとの戦いは、この時から始まっているのですね」
 オリーの呟きに、エリンティア・フューゲル(ea3868)が読んでいた書物から顔を上げる。
「昔は、ただの物語でしたけれどねぇ‥‥」
 指先で文字を辿り、エリンは重い息を吐き出した。書物に書かれている物語が、現実となって彼らの目の前にある。今、この瞬間も、仲間達は「辺獄」と呼ばれる地獄の入り口で戦いを続けているのだ。
「荒涼とした荒れた大地、空は赤く血と炎の色に染まり、大地と空気は黒く淀む」
 その更に奥には「魔王」と呼ばれるデビル達がいる。
「マンモン、アラストール、ケルベロス、ルシフュージュ、マルバス、リヴァイアサン、ベルゼビュート、アスタロト、ベルフェゴール、ベリアル‥‥伝承に語られるデビル達です。ああ、悪魔の皇帝、ルシファーも忘れてはいけませんね」
 かつて、天に属する者であった魔王達は、長い年月、地獄の奥底で何を思っていたのだろう。憂いた表情を浮かべながら、シャルル・ファン(eb5267)は前髪を掻き上げた。
「ルシファーと言えば、以前はもっとも輝かしい天使であったとか。魔王達は、闇の王となったルシファーに仕えているのでしょうか。‥‥だとしたら、一斉に動き出した今回は‥‥」
 もしかすると、ルシファーの思惑が絡んでいるのだろうか。
 光り輝く者から、果てしなく続く闇の世界の王へ。その心の深淵は、人には理解し切れるものではないだろう。
 そもそも、魔王と呼ばれる存在ですらも、人の世では伝承に語られている存在だ。魔王の上に立つ悪魔の王、地獄に封じられたルシファーは本当に存在するのだろうか。
「今回の事にルシファーが関わっているのであれば、もっと頻繁に同じような事件が起きていてもおかしくないですよね。でも、地獄の門が開くなんて記録が残っていませんし」
 考えつくままに言葉を連ねていたエリンの背筋に、冷たいものが走る。
「デビルが何を企んでいるにしても、私達が阻止します。‥‥そうですよね?」
 静かに、けれどもきっぱりと言い切ったフィーナ・ウィンスレット(ea5556)に、仲間達は力強く頷きを返した。
「というわけで、皆様、頑張りましょうね。あのデビルの妙な力の秘密とその対策を調べて、一刻も早く前線にいる方々へとお伝えしなければ」
 にっこり、妙な迫力のある微笑みを浮かべたフィーナに、はたと我に返る。彼らが調べ終わったのは、書庫という書庫から集められた膨大な量の書物の、ほんの一部だけ。
「‥‥もう‥‥お腹いっぱい‥‥」
 読み終わった巻物を手に、ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)がぱたりと倒れ込む。
「ぅわぁっ! こらっ! 動いたら駄目だって!」
 慌てて、クリス・メイヤー(eb3722)は傍らにある書物の山を押さえた。
 けれども、それは少し遅かったようだ。
 雪崩れを起こした書物の山に埋もれて、彼らは途方に暮れた。
 そして、同じ頃。
「なにしてるデスかねぇ〜」
 姿を消して、こっそり木の陰から覗いていたエンデール・ハディハディ(eb0207)は、デビル達の行動に首を傾げていた。
 何かを探しているように見える、と誰かが言っていた。確かに、そう見えなくもない。
「推測そのいち。食べ物を探している。推測そのに。落としたお金を探している。推測そのさん。帰り道を探している。推測そのよん。うぅん‥‥思いつかない‥‥」
「エンデさん、どうですか?」
 小声で尋ねるユイス・アーヴァイン(ea3179)の元へと、ふわりと舞い降りて、エンデはふるふる首を振った。
「そうですか。やっぱり分かりませんか。直接聞き出せたら早いのでしょうけれど‥‥」
 少なくとも、不可解な動きを見せるデビルがいる事は確認できた。
 気は逸るが仕方がない。
「‥‥もうしばらく観察するしかあるまい」
 用心深く周囲の様子を探り、アンドリュー・カールセン(ea5936)は考え込む。
 デビルという存在は、創世の昔から存在する。人の世に幾度となく干渉し、災いをもたらしてきた。
 だが、今、かつてない数のデビルが人の世に現れ、伝承に語り継がれた地獄への扉が開いた。そして、それとは別の意図を持って動くデビルがいる。
 これらは、全て繋がっているはずなのだ。
「いったい、何が始まろうとしている‥‥」
 まだ、全貌は見えない。

(担当:桜紫苑)


●古き時代の伝承
 うずたかく積まれた書物。
 カビの匂い。
 マリンスキー城宮廷図書館の奥、身の丈を遙かに超える書棚の狭間で、冒険者達は古い書物を片っ端から紐解いていた。

 書物に使われている言語は多様である。イギリス語、ゲルマン語、ラテン語。この辺はまだ手が付けやすい部類ではあったが、アラビア語、ヒンズー語辺りになってくると、キエフでは多少判るという程度の者さえそう多くない。
「これはスペイン語ですね。イスパニアの古い菓子の作り方。こちらはヒンズー語、インドゥーラの建築について‥‥」
 そんな、他の者では対応できない言語で書かれた書物が、ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)の周囲にドサドサと積まれていく。ヴィクトリアが言語と、大まかな概要を記したメモを書物に挟み込むと、それらの本は司書達の手によって、更に各言語の専門家の元へと運び込まれていく。
 現代に残る言語全てを能くする彼女には、この手の作業はうってつけだと言えよう。
 そうやって分類分けされた上で、解読に回された書物は既に数百冊以上。それでも、地獄の悪魔に関して判った知識はほんの僅かであった。

「『強き魔剣』の持ち主は、どうやら二百年程前の実在の人物だったようです。現在の冒険者のはしりのような人物だったようですが、具体的にどんな剣を使っていたかまでは資料がありませんでした‥‥」
 フェノセリア・ローアリノス(eb3338)が古いゲルマン語の書物を置き、立ち上がって、部屋の一つきりの小さな窓を開けた。冷たい外気が、カビと埃に埋まった部屋の空気を、緩やかに撹拌する。
「こちらも同様、デビルに関しては資料が少なくて‥‥。城の図書館と平行して、教会にある書物も浚った方がいいかもしれません」
 セツィナ・アラソォンジュ(ea0066)も、眉間を揉みほぐしながら書物を置く。
「噂では、各地でデビルは、人の街はもとより、精霊やドラゴン達まで襲っているらしい。奴らは何かを探しているという話も聞くが、一体、それは何なのか‥‥」
 サラサ・フローライト(ea3026)が、フェノセリアの横から、窓の外の光景に目をやった。
 丘の上に立つマリンスキー城からは、遠くロシアの大地が見渡せる。
 ロシア各地の街や村を守るべく、多くの騎士団、冒険者による義勇軍がキエフを出発したのが数日前の事。一見静かに見えるこの雪に覆われた大地のそこかしこで、彼らは今もデビルと戦っているはずであった。
 ‥‥再び、黙々と書物を調べ始めたサラサに感化され、一時手を休めていた他の冒険者達も、各自の調べ物を再開する。とにかく今は、時間が惜しい。


 ―――デビルがやって来る。
 突如ロシアの大地に現れた大河。その大河に近い街の幾つかは、デビル等の襲撃の直撃を受けた。
「神様、何処におるんや。この世はデビルばっかりになってもうたで!?」
 ジルベール・ダリエ(ec5609)が、無人の街路を必死に馬で駆け抜ける。前に一人、後ろに一人。逃げ遅れた子供を乗せた馬の足は鈍い。後方、上空から迫るアクババの鋭利な嘴が、耳のすぐ後ろでガチガチと鳴った。
 近い!
 何とか子供達だけでも‥‥、ジルベールがそう腹を括ろうとした時、前方の十字路から二人の女が飛び出した。
「こちらです!」
 セフィナ・プランティエ(ea8539)の手招きに、ジルベールは愛馬に最後に一蹴り。馬はグンと速度を増し、セフィナの横を疾風の速度で駆け抜ける。
「これ以上、みなさんを傷付けさせませんよ!」
 馬が駆け抜けた瞬間、フィニィ・フォルテン(ea9114)はその場でムーンフィールドを展開した。突如出現した半球状の結界に、高速で迫っていたアクババは避けきれずに激突。家の屋根を大きく越えて弾き飛ぶアクババの様は、いっそ滑稽な程。

 十字路の先の広場には、冒険者達が忙しく立ち働くテントのような物が林立していた。
 カグラ・シンヨウ(eb0744)が、そこへジルベールの馬を案内する。
「ようこそ、【TK堅牢】医療救護班へ。‥‥神様はいるよ、今のところは、この辺に」
 先程のジルベールの叫びに対する、それが答えなのであろう。
 丁寧に怪我人や子供達の面倒を見る救護班のメンバーの姿に、ジルベールは大きく納得。なんや、デビルばっかの世の中でもないんやな、と。


「しかし、いい加減キリがねーぜ?」
 馬若飛(ec3237)がアガチオンに止めを刺しながらぼやく。
 彼とルカ・インテリジェンス(eb5195)の二人は、捉えたデビルに対する尋問を繰り返していた。
 何が目的か、何を探しているのか? しかし、存外デビル共は口が堅く、何より下っ端のデビル達は、どうやら自分達が何を探しているのかもよく知らないようだった。
「ぼやくな、馬。なら、偉いのを捕まえりゃいいだけよ」
「偉いの、ね‥‥」
 馬はルカに応えつつ、弓を構える。
 街路の奥から近付いてくる、黒い馬に跨った、獅子の顔を持ったデビル。
 明らかな中級デビルであるそいつは、アガチオンを滅した二人に、憤怒の表情も露わに近付いてくる。

 確かにこいつなら、色々知ってはいるだろう。だが同時に、尋問に至るまでのプロセスが、ひどく手間取りそうな面構えだ。
 二人は、そしてデビルは、それぞれに戦いの姿勢を取る。
 先ずは一当て。
 逃げるのも、尋問するのも、全てはその後の事。

(担当:たかおかとしや)


●苦戦
 訪れた地獄(インフェルノ)の空は血と炎の禍々しい赤色に染まり、広がる大地には生命の息吹が全く感じられず荒涼としている。
 吸い込む空気が黒く淀んでいる気がして、柊静夜(eb8942)は胸を押えた。
 アケロンの川の方角から現れるインプ達は、倒しても倒しても次々と姿を現し、終わりのない戦いに身を投じた様な錯覚に陥る。
「大丈夫ですか!? 怪我をしたのなら無理をせずに下がって下さい!」
 チーム【ベイリーフ】隊長シルヴィア・クロスロード(eb3671)は隊員の静夜を労わりながらも、飛び掛ってくるインプをスマッシュで薙ぎ払う。
 ペガサスに騎乗し空中で戦いながら、シルヴィアはいつもなら造作もないインプが手強く感じるのは、纏っている黒い霧のせいではないかと思う。攻撃が通じるのが不幸中の幸いか。
 黒い霧を纏っている者を優先して倒そうと思っていたのだが、向かってくる敵は全て同様だった。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。地上の敵はお任せ下さい」
 静夜はたおやかに微笑むと、シルヴィアを背後から襲おうとしていたインプを斬り付けた。
「‥‥人はデビルなんかに負けないわ」
 ライカ・カザミ(ea1168)はそう呟くと、メロディを唱えて近くで戦う味方の士気を上げる。
「ごちゃごちゃ考えるのも面倒だな。まとめて吹っ飛ばす! 前線組み、気合入れてつっこめよ!」
 向かってくるインプ達に痺れを切らしたカジャ・ハイダル(ec0131)は、仲間が射程上にいない事を確認した後、グラビティキャノンを唱えた。
 100Mという脅威の射程と達人級の威力に無数のインプ達は重症の傷を負い、力無く地へと落ちていく。
「掃討します!」
 そこへマリエッタ・ミモザ(ec1110)のストームが襲いかかり、巻き起こった嵐が治まった後には息絶えたインプ達の姿はなかった。
「あなた達の事、絶対に敵に回したくないわね!」
 ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)が敵を射落として笑顔を向けたその時。
「何? あんなデビル、見た事が無いわ」
 驚愕するトゥルエノ・ラシーロ (ec0246)の眼前に現れたのは、やはり黒い霧を纏った6Mもの大蛇だった。恐らくは中級デビルの1種だろう。
『我が名はオティス。アケロンの川を渡ろうとする愚かな人間共よ。己の脆弱を嘆き、無念の内に魂をこのインフェルノに捧げるがよい!』
 まるで足元から凍り付いていく様な恐ろしいオティスの声。
 だが勇敢な冒険者達は怯まず、先手必勝とばかりに攻撃を仕掛けていく。
「お生憎様、そんなに安い命じゃないのよ! 自分の命を捧げたらどう?」
「‥‥私達を侮った事を後悔してもらいますよ」
 渾身の力を込めて放つトゥルエノのソードボンバーの衝撃波の後、ユリアル・カートライト(ea1249)のグラビティキャノンがオティスを襲う。
 さらなる攻撃をと剣を突き立てる早河恭司(ea6858)だが、その切っ先はオティスの鱗に弾かれてしまう。
「‥‥攻撃が効かない!?」
「本拠地である地獄にいるデビルは皆、あの霧を纏っている‥‥これが本来のデビルの強さなの!?」
 狼狽する恭司に、ジョセフィーヌは額に冷や汗を滲ませて叫ぶ。
「どうやら苦戦している様ですね。加勢に参りましょう!」
 その様子を目にしたリースフィア・エルスリード(eb2745)はペガサスを駆り、救援に向かった。
「私達はここで持ち堪えるぞ!」
「誰1人として死なせないでござるっ!」
 仲間の盾となって戦うルシフェル・クライム(ea0673)に頷くと、葉霧幻蔵(ea5683)はソニックブームでインプを迎撃する。
「諦めるな! 俺が絶対に助けてやる!」
 重傷を負った兵士をテスラの宝玉で治療していくのは【VizurrOsci】隊員の空木怜(ec1783)だ。
 怪我人にきりは無いが、怜は己の疲労を省みずに数々の命を救っていた。
「こちらには近づけさせません!」
 即席の救護所を庇う様に【ベイリーフ】隊員シャロン・シェフィールド(ec4984)はダブルシューティングEXでインプを撃破する。
「その武器では無理です! これを!」
 一方、オティス相手に冒険者達は苦戦を強いられていた。
 恭司はユリアルから受け取ったクリスタルソードを突き立てる────手応えありだ。
 続けて突き立てられる槍にシルヴィアが視線を上げると、そこには‥‥。
「リースフィアさん!」
「再会を喜ぶのは後です。一気に行きますよ?」
 その声を合図に、怒涛の攻撃が繰り広げられる。
 舞い上がる粉塵が晴れた時、一同の目に映ったのは消え行くオティスの姿。
 苦戦の後の勝利に、全員は抱き合って喜ぶのだった────。 

(担当:綾海ルナ)


●一時の勝利
 まるで大地を覆い尽すかの如く押し寄せる、黒い波紋。
 その進行方向は、真っ直ぐウィルの街へと向いていた。
 ――カオスの魔物が、アトランティス西部地域の中枢たるウィルを落とさんと、いよいよ侵攻を開始したのだ。

 その余りにも禍々しい様相に固唾を飲みながら、それでも力強い視線で魔物の軍勢を迎えるのは、地域の防衛を選択したウィルの冒険者達。
 周囲を満たすのは風鳴りと不気味な静寂。まるで黒い波が押し寄せる中で、それ以外の時間が止まってしまったかの様な錯覚さえも覚える中――。
 冒険者をはじめとする防衛陣の前に立ち並ぶのは、『ウィル地域防衛隊』の者達。
 その隊長アレクシアス・フェザント(ea1565)はランス「先駆の勇」を高々と掲げ。
「‥‥民を、ウィルを、魔物の手より守れ! 全軍攻撃開始っ!!」
 彼の声と同時に、波紋へと向けて冒険者達は一斉に進撃を開始した。


 魔物の軍勢の只中へ向けて、真っ先に飛び込んだのは一番槍ではなく一番矢。
 リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)と愛馬のセラブロンディルに跨るジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)による、ダブルシューティングEXの弾幕射撃だ。
 それに続いて華岡紅子(eb4412)やヴァイエ・ゼーレンフォル(ea2066)達からの魔法の援護を受けながら、セシリア・カータ(ea1643)達前衛を担当する面々が敵中に飛び込んで行った。
 その後ろからオラース・カノーヴァ(ea3486)、ポーレット・シルファン(eb4539)、サイラス・ビントゥ(ea6044)達が、面での迎撃で侵攻を食い止める様に立ち回る。
 怪我を負った者達はジュディ・フローライト(ea9494)やヴェガ・キュアノス(ea7463)による魔法、そしてララーミー・ビントゥ(eb4510)のポーションにより逐次治療されていく。
「リカバーポーションはまだありますわ〜」
 彼女のポーションのストックは、ある意味冒険者達の命綱と成り得るかも知れない。

 集団で行動していたのは、『ウィル地域防衛隊』の面々だけではない。
 ヴァイエに柾木崇(ea6145)、成史桐宮(eb0743)の三名は【soin】を名乗り、相互に連携しあいながら前線に赴いていた。
 また、ソード・エアシールド(eb3838)にイシュカ・エアシールド(eb3839)の二人も、前後衛で分担し対応に当たっている
 彼らは正式にチームこそ組んでは居ないものの、それ故により柔軟に動き回る事が出来ていた。


 いくら数が多いとは言え、歴戦の冒険者達の前には、有象無象なカオスの魔物達では太刀打ちする術が無い。
 押し寄せる魔物はアレクシアスのチームぐるみでの指揮により押さえ込まれ、突破を許されないまま段々と数を減らして行く。
 しかしやはり数の差は如何ともし難く、冒険者達としても取りこぼしをも確実に仕留める事でウィルへの突破こそ許していないものの、完全に押し返すにも至らない。
 冒険者優勢で戦闘が進む中――魔物達が唐突に進軍を止め、ある者は引き返す様な動きを見せ始めた。
 撃退成功か。そう思った中、突然前線の一部からどよめきが上がる。

 その現場では、ソードとイシュカ、そして天谷優一(eb8322)の三名が、道化師の様な姿の者と対峙していた。
 名こそ知れないが、恐らくはカオスの魔物‥‥それも、今まで対峙していた者達よりも上位のものであろう。
「くっ‥‥剣が効かない!?」
 ソードがサンショートソード「ハガネ」を二度、三度と打ち付けるも、相手は不気味に口元を歪ませるばかり。
 イシュカがニュートラルマジックでその効果を打ち消してみようと試みるも‥‥これも効果が無い。
「どいて下さい! えいっ!!」
 その後ろから飛び出してくるのは、デビルスレイヤー効果を持つ聖剣「アルマス」を振り被ったアイリス・ビントゥ(ea7378)。
 だが、これも効果が無く‥‥次いで、右腕のオートクレールで斬り付けようとした瞬間――そのまま彼女は、深い眠りについてしまった。
 優一がオーラエリベイションを掛ける事で、精神系の魔法は無効化していた筈なのに‥‥周囲の者達は、驚き目を見開く。

 すると、唐突に道化師は踵を返し、他のカオスの魔物を引き連れて一斉に引き返し始めた。
 旗色が悪いと見たのか――。だが、冒険者達としても、不可知な敵が居ると言う以上、下手に追撃する事も出来ず。
 そのまま、波が引く様にウィルから遠ざかって行く軍勢を、ただ見送る事しか出来なかった。

(担当:深洋結城)