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■10月16日発行

■9月の重大ニュース

●【冒険者、頭を垂らす】

 昨今、ペットに対する認識の差異によるトラブルがしばしば見受けられます。
 一体何が切欠だったか、某日、不満を募らせた住民が守備隊長を通して、冒険者に責任を求める騒動がありました。
 しかし、不自然とも言える噂の立ち方に、怪訝な表情をする者も。
 ひとまず冒険者達はあがった声に応え、住民に対して謝罪と説明、そしてルールの制定を宣言しました。
 住民達は冒険者を見捨ててはおらず、冒険者に信用が有るゆえに声を大にして訴えられたとの事。
 いまだ両者の間に溝はあります。しかしその深さが狭まるも広がるも、これから次第と言えるでしょう。
 願わくば、その剣が賊徒の剣ではなく、騎士の剣として認められる事を。
(冒険者の掟〜随伴獣08月27日〜08月29日)

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●【球蹴り巨像】

 球を蹴りながら広場を駆け巡ると言われる天界の競技、サッカー。
 それをゴーレムで行うという、国をあげた催しW(ウィル)カップの予選が先日開催されました。
 分国のみならず、セクテとリグからも参戦がありました。
 チームに貸し出されるゴーレムは約半分がウッドであるものの、それらが並ぶ風景は壮観です。
 尚、主催者はあのエーロン王子。整備不良でその名誉を汚す事の無い様、ゴーレム一体に付き一人のゴーレムニストがついていました。
 晩夏と言えど、照りつける光は暑さを十二分に含み、選手達は試合で季節と戦う事にもなります。
 ゴーレムの円滑な操縦に対する難易度もさることながら、サッカーの経験が無い鎧騎士の参加が多かったため、はじめのうちはそれぞれのチーム、あまり思うようには動けなかったようです。
 こうなると、事前知識のある天界人が有利となりました。しかし、そのテクニックを見ていくうちに、鎧騎士達も学習していきます。
 浮き沈みはあったものの、そのゴーレムの躍動を戦争以外で見る事の出来る機会として、見る者にとって、それなりに良き娯楽となったようです。
 良き娯楽は、見る者の不満を解消させる働きがあるでしょう。
 そして選手にとっては、このゴーレム操縦経験が、いずれは戦場の誉れとなるために活かされる‥‥かもしれません。

(Wカップ開催A〜チームイムン08月24日〜09月02日)
(Wカップ開催B〜チームウィエ08月24日〜09月02日)
(Wカップ開催C〜チームササン08月24日〜09月02日)
(Wカップ開催D〜チームセクテ08月24日〜09月02日)
(Wカップ開催E〜チームセレ08月24日〜09月02日)
(Wカップ開催F〜チームトルク08月24日〜09月02日)
(Wカップ開催G〜チームフオロ08月24日〜09月02日)
(Wカップ開催H〜チームリグ08月24日〜09月02日)

●【海水と罠の迫る祭壇】

 国王から、武者修行のためにウィル国内を旅する事を許された騎士カティア・ラッセ氏。そして、それを手伝う冒険者達。
 今回の冒険の舞台はシム海付近にある、打ち捨てられた祭壇です。
 幾つかの罠を越えた先にあったのは、『生贄の祭壇』と刻まれた文字と、凶暴なシーウォーム。
 全長8mにも及ぶそれを倒した後、冒険者達は得た装飾品系のアイテムを山分けし、祭壇を後にしました。
 海辺と言う事でその後、一同海岸の娯楽を満喫していったようです。

(【遺跡探索記】干潮時のみ現れる祭壇08月25日〜08月29日)



●【按察官『チーム』、結成】

 現在空席である按察官。この立候補者が募られました。
 もし就任したら何をするか、何を目指すか‥‥それを、マーカスランド内特設ステージの上から発表されました。
 出てくる言葉の中には天界の概念もあった様で、思いを上手く伝える事ができない者もいたようですが、確固としてその思いは在ります。
 その熱意が買われ、集った四人で按察官を務める事と相成りました。
 これからの王都のイベントは、その双肩‥‥いえその八肩にかかっていると言えるでしょう。
(按察官公募す!09月02日〜09月06日)

●【小さなお友達】

 ウィンターフォルセの男爵、ユアン氏のお体があまり丈夫ではない事は、ある程度付き合いのある者ならご存知でしょう。
 ユアン氏は外出の頻度が低く、引き篭りがちとも言える状況。故に、身近に会える友達には、甚く熱心な様です。
 ユアン男爵は新しい友達に『レセリア』と名付け、屋敷で冒険者達と一緒にふれあいや躾を行うという、微笑ましいシーンが見受けられました。
 来訪した冒険者の中には歴戦の猛者もいましたが、わんこの可愛さはある意味反則的で、思わず頬を緩めていた様です。

(男爵のペット奮闘記09月06日〜09月10日)

●【潮風と共にある熱狂】

 かのショア城にゴーレム工房が出来る事になりました。という事で、町ではバガンのお披露目パレード等の催しが行われました。
 それに際して、ミミナー商会の手配によって警備に冒険者が募集されました。
 この商会の少女と面識のある冒険者もいて、再会の際少女の、学問の習得具合に驚いていました。商人ならそれは必要な能力。裏を返せば、それ以外には不要とも言えますが。
 ショアの港町は、平常でさえ賑やか。それで祭事となれば、更にその度合いを深めます。
 ここでも、屋台で天界料理が振舞われていました。しかし、このウィルの地の食材のみでは、その真価が発揮できない模様。
 パレードでは、大人も子供も分別なく盛り上がり、中にははしゃぎ過ぎて海に落ちた者達もいたようです。
 通りでは、喧騒に混じって、あの噂の『魚の歌』も聞こえてきました。
 喧騒には、コソ泥も混じっていたようです。しかしスリ犯は逞しい冒険者に捕まり、あえなく御用となりました。
 最後に、幾機ものゴーレムグライダーが晴天を踊り、文字通り、綺麗に締めくくってくれました。

(港にゴーレムニストがやって来た☆09月01日〜09月05日)

●【賢者のテーブル】

 護民官の願い出によりエーガン王から発せられた招賢令。国王から、以前のそれよりも多くの冒険者に、賢人会議参加の権利を与えられました。
 更には冒険者の他に、仮面を着けた天界人オーラム・バランティン氏、騎士学院教官からカイン・グレイス氏‥‥この二人も参加しました。尚、カイン氏はジーザム陛下名代として参加、との事。
 以前のそれにも増して、より多く、より広くから声を聞こうと開かれた賢人会議。
 此処にきて、驚愕の事件が発生しました。
 なんと天界から来た冒険者で、自殺を図った女性がいたのです。しかし、その場の人間の処置により、死には至りませんでした。
 発言の罪を咎めぬ約束で発せられた招賢令。もしこの場で死者が出た場合、エーガン王は武力で王錫を取り上げるに相応しい悪王と言うことになっていました。約束の守らぬ王の治める国に、如何なる国威が備わりましょうか。もしかしたら、フォロ王朝が倒れる一大事に発展していたかもしれません。
 しかし彼女は、理由も無く割腹を試みたわけではありません。どうやら彼女が学んだ文化によると、それが尤も深い謝罪の意であり、責任の取り方の様です。
 一度は止めたものの、再び彼女がその決意を行使する恐れもあったので、その武器は没収となってしまいました。
 以上の騒動はあったものの、その他奏上された建白は、大変実りのある者でした。
 冒険者審問官、冒険者ギルド総監、これらの任命。
 そして、これからのものとしては下記の様に。
 救護院、庶民の学校、広報官制度、エーロン王子の治療院、開拓事業、ウィザードギルド。
 どれもが意義のあるものと王を納得させ、提唱者はそれぞれ実現のために行動する権限を授かりました。
 王も、民も、冒険件者も、その実現を望んでいます。

(招賢令〜冒険者審問官制度09月03日〜09月07日)
(招賢令〜冒険者ギルド総監09月03日〜09月07日)
(招賢令〜民の幸せ09月03日〜09月07日)


●【まともな酔狂】

 エーロン王子提供の屋敷と土地を用いた治療施設。冒険者発案のそれの建設に向けた準備が進んでいます。
 教会において傷の治療は出来るものの、病となれば別物。
 治療院に必要なものは色々ありますが、まずは運営資金です。
 Wカップ開催中という事で、資金の頼りにも行き易い時期でした。
 奔走する冒険者達。それはしっかり報われ、各々約束を交わしていきます。
 この活動が噂となり、貴族お抱えの医者などと摩擦もあったようです。もっとセトタ語に長けた者がいたら、治療院の方向性が上手く伝わったかもしれません。
 問題は起きたものの、悪くない出だしと言えるでしょう。

(狂王子の酔狂〜治療院〜医療準備会09月07日〜09月13日)

●【激写! 修羅場の現場!】

 エヴァンス子爵家令嬢リデア氏とサデュス男爵家ピエール氏との縁談が‥‥あるはずだったのですが、急遽取りやめとなりました。
 ピエール氏の色恋における節操の無さが、冒険者達の囮捜査によって白昼の下の晒されたのです!
 精神面の治療を生業とする冒険者からも言葉を受け、それをピエール氏は噛み締めていた様子。
 貴族である限り、政略結婚は無視できる問題ではありません。しかし出来るなら、生涯のパートナーは納得の出来る相手が‥‥いいですよね?

(爪先立ちの恋〜結婚するって本当ですか?09月11日〜09月13日)

●【これは『王』の行事】

 王都付近の貧民街で、突如計画された『マリーネ姫懐妊祝い行列』が行われ、民衆達を熱狂の渦に飲み込みました。
 あのぱこぱこ子爵と天界人の冒険者が、硬貨をばら撒きながら王と姫に対する祝辞を述べ、貧民街を練り歩きました。
 しかしこれに対して、街の警備隊は『何故か』苛立ちを覚えていた様です。
 路地裏でも何か一悶着あったらしく、その解決には通りがかりの冒険者も協力していました。
 尚、この際に名乗りを上げた盗賊(と思われる)女性が、この警備隊のブラックリストに載ったらしいです。

(闇夜に救え09月10日〜09月12日)

●【悪戯の理由】

 悪戯好きとして知られるアルフレート男爵のご子息イェールク君が、変わった悪戯をしでかしました。
 なんと、自分とそっくりの平民の少年と入れ替わったのです。
 しかしこの悪戯によって、彼は庶民の苦労を体感することになりました。朝は早くから叩き起こされ、家の中の掃除、水汲み、お使い‥‥どれも普段は執事達に任せてばかりの仕事です。
 貴族の自分に戻ろうとしますが、ひょんな事から屋敷に戻れずにいる彼。また、アルフレート男爵も多忙により事に当たれないという事で、代わりにそれの解決に冒険者が募られました。
 無事屋敷に戻った後のイェールク君の告白により、彼の悪戯は、自分を見てほしい一心で行っていたとのことです。
 仕事も確かに大事です。しかし、子への愛情も、親は忘れてはいけませんね。

(ザ・ちぇんじ〜入れ替わった子供達09月15日〜09月19日)

●【新米男爵の領地の事情】

 シグの漁村にて、シフールの子爵、ププリン氏が猫に誘拐されました。
 トルク家男爵の蒼威氏が仲間の冒険者を連れて、この交渉と救助に向かいます。
 蒼威は事前に、凡そ100匹と言われるその猫の群れを受け入れる事を、自領民に説明しておりました。
 猫の群れの代表は、なんと人語を解するケットシーです。子爵の解放を話し合いの条件として提示すると、思いのほかあっさりププリン氏は解放されました。  そうして蒼威氏が猫に発したのは、『互いが友好を望む限り、共存の道を模索する』宣誓です。
 猫側もこれを受け入れ、平和的解決となりました。
 余談でありますが、天界では、猫の餌に魚の切り身を用いる事があるようです。尤も、シグでは小魚は塩漬け、腐った物は肥料に利用しており、餌に出す程の余分な魚はありませんが。
 トルク家新米男爵の領地では、今日も猫が鼠捕りに勤しんでいます。

(私を領地へ連れてって☆2 猫の軍団♪09月11日〜09月17日)


●【ウィンターフォルセ事変】

 その時ウィンターフォルセに衝撃が走りました。
 二人の軍師の拉致、更に追い討ちをかけるかの様に迫る、突然の敵襲。
 フォルセを堕とさせまいと、冒険者が防衛のために集まりました。その一部は、獣耳装備の真田獣勇士隊に混じり、参戦します。
 早急に住民を避難させた後、冒険者達は戦場に躍り出ました。
 各人奮戦するも、増援を呼ぶ相手に数的不利を強いられます。
 苦戦の先にあるのは絶望のみ‥‥そう思いかけた時、彼方から二つの援軍がやって来たのです。
 一つは、スレナス氏の率いるルーケイ軍。ルーケイ伯の要請によって参上した模様です。
 もう一方は王都の援軍。指揮官は、冒険者ギルド総監カイン氏です。
 こうして賊兵の制圧と、軍師の救出が成功しました。
 最後に局面を動かしたのが味方の援軍だけに、その大軍に目が行きがちになりますが、それまでフォルセを守ったのは冒険者達です。
 その一人一人の行動が王都の門を守った事は、誰もが疑わぬでしょう。

(陥落の危機〜狂い出した歯車09月17日〜09月21日)

■ニュース記事

●干潮時のみ現れる祭壇

 干潮になると洞窟の入口の大半が露わになる。水深はカティアの膝程度。ちょっと足を取られ、動きが損なわれるくらいだ。
 先頭はイェーガーとイフェリア、二列目はカティアとレイリー、三列目は蒼威、四列目はオラースとアレス、そして最後尾はシュバルツとアシュレーという隊列だ。灯りはイェーガーとイフェリア、カティアと蒼威、オラースがランタンで、アシュレーが腰に括り付けた手回し発電ライトで確保し、ほぼ周囲をカバーする。また、レイリーが懐中時計で、蒼威がソーラー腕時計で時間を計る二段構えだ。
「足元が悪いので、滑ったり転んだりしないよう、皆さん、十分に充分に注意し‥‥」
「わきゃ!?」
 イェーガーが伝えた矢先にカティアが転け、盛大な水飛沫を上げる。時間が惜しいので着替えるのは探索が終わってからだ。
 入ってすぐに打ち捨てられた祭壇があった。
「移す前の、海の精霊を奉った祭壇ですね。海の平穏と大漁を祈願する祝詞が掘られています」
(「この妖精、うちのミューズに似てるな」)
 祭壇には海の精霊や妖精を思わせるレリーフが微かに残っていた。シュバルツが祭壇に刻まれたセトタ語を読み取る傍ら、レイリーがレリーフを見ながらそんな事を思う。
 祭壇自体はその機能を移されたのと、海水に浸かっていたので何も残されておらず、その横にある洞穴に入る。


ランタンを持つ、オラース・カノーヴァ(ea3486
鎖分銅を使う、イェーガー・ラタイン(ea6382


 しばらく真っ直ぐな通路が見える(「│」)。
「罠があったのかもしれねぇが、海水に浸かって使い物にならなくなったか?」
「これが噂の耐震偽造問題‥‥合掌」
 床に罠の痕跡はあるが、肝心の罠自体はない。軽口を叩くオラースの前で、何故か手を合わせる蒼威。
 通路はまだ真っ直ぐ延びている(「|」)。
「妙だな、ここはやけに上の方に横穴が多いな」
「‥‥!? ‥‥蒼威さん達はその場で止まって下さい!!」
 満潮時の洞窟の様子を見ているアレスは、浸水の高さも確認済みだ。この洞窟も四分の三は浸水するが、四分の一は海水の影響を受けない。彼が浸水していない上の方を見ていると、複数の穴が見受けられた。
 イェーガーは蒼威以下、後ろのアシュレー達を止める。どうやら、両サイドの斜め上の壁から複数の槍が飛び出す罠のようだ。特定の範囲の床全体がスイッチになっており、その範囲内に決められた重量が掛かると槍が飛び出す仕組みだ。
 アレスのお陰で早期発見に至ったのと、海水が全員の重量を若干軽くした為、まだ罠は起動していなかった。
 先ずイフェリアとカティアが先に進み、その後も二人ずつ通り抜けて事無きを得た。
 すると、右手に脇道が見えてくる(「├」)。しかし脇道は細く、シフールでもなければ通り抜ける事は出来ないだろう。
「‥‥この亀裂は外に繋がっているようですね。微かに風の通りを感じますが‥‥罠らしい罠はないようです‥‥」
 イェーガーはそう判断し、先へ進むが‥‥。
「!? 走るんだ!」
「きゃあ!?」
 最後尾で罠の再確認をしていたアシュレーが叫ぶ。ワンテンポ遅れたシュバルツは、隙間から噴出した海水を浴びてしまう。咄嗟にライトシールドを構えたが、鉄砲水という程ではないものの、亀裂を抜ける間に圧縮された海水という自然現象では意味がなかった。
 濡れ鼠だが、彼女も着替えは遺跡を出てからだ。
 その先はT字路になっている(「┬」)。
「右側に落とし穴の罠があったようね‥‥!!」
「でも、落ちたら精神的に大ダメージだな」
 イフェリアがランタンを照らして左右の通路を確認すると、右の通路を見て思わず息を呑む。右には落とし穴があったが、ダミーの地面を支える木の杭が腐食して折れており、落とし穴が姿を現していた。レイリーが彼女の後ろから覗き込むと、落とし穴の中には海辺の気色悪い虫がわらわら蠢いている。流石にレイリーでも近寄りたくない。
 左に進むにつれ、海面を何かが叩く音が聞こえてくる。
「干潮まで残り時間が半分を切った。どうするカティア?」
「この先で終わりにしましょう」
 蒼威が残り時間を確認するとレイリーも頷く。最終的な決定はカティアへ委ねられると、彼女はこの先の調査で終わりにすると決めた。
 左側の通路の突き当たりはちょっとした空間が広がっており、その中央には潮だまりが出来ていた(「□」)。
「‥‥『生贄の祭壇』と刻まれていますね」
「ヤツだ! 全員灯りを消せ!」
 シュバルツが入口の壁面に落書きのように書かれたセトタ語を読むと同時に、オラースの声が飛ぶ。おそらく干潮時に迷い込んだのだろう、鮫がいたが、鞭のようにしなる触手でその体を叩き、補食しているシーウォームの姿があった。
 打ち合わせ通り、オラース以外のランタンのシャッターを閉じて灯りを消す。アレスとレイリーが得物にオーラパワーを付与していき、アシュレーは自らにウォーターウォークのスクロールを使う。
「おら、こっちだ!」
 オラースがランタンを持って潮だまりに沿って駆けると、彼目掛けてシーウォームの全長8mにも及ぶ巨体が突っ込んでくる。元々大きいだけに、オラースにとってかわすのは訳はない。
 だが巨体故に皮膚が厚く、攻撃が効きにくいのもまた事実。アシュレーとイフェリア、蒼威の、比較的軟らかい部分を狙った援護射撃の元、レイリーのレオンの双牙とアレスのサンショートソード、シュバルツのハンマーによる重い一撃とオラースのサンソードの重さを乗せた一撃、カティアの攻撃を受けても、ピンピンしている。イェーガーが鎖分銅を体に絡ませて動きを止めようとしたが、逆に彼が潮だまりへ引きずり込まれそうになるくらいだ。
 しかし、オラースの囮作戦は功を奏し、持久戦となったが、シーウォームは彼に一撃も浴びせる事なく、その巨体を地に臥せる事となった。

 この空間は海の精霊へ供物を捧げる、精霊使いしか知らない秘密の場所のようだ。供物といっても人の生贄ではなく、海では獲れない陸の動物が主だったものらしい。
 祭壇を探したり、シーウォームの腹を捌くと、儀式の時に使う香油(今で言う香水)や精霊使いが装飾品として使っていたであろうシルバーリングや羽扇が出てきたので全員で山分けした。
 残念ながら魔法の品は無い事から外れだったかもしれないが、中には妻や恋人へのプレゼントが手に入った者もいるだろう。
 帰る途中でランタンの油が切れ、油の予備を持ってきていなかったイフェリアはアレスから油を買い取って補給しつつ、干潮までに遺跡から出られたのだった。



●説明会

 準備も整い、説明会を行うと街の人達に声をかけていく冒険者達。
 その事もあってか、予想外だと思えるぐらいの人数が其処に集まった。
 その中には守備隊長の姿もあった。
「まずは、我々の行動の一部に、皆様へ恐怖や不安を与えるものが有った事を深く陳謝致します。そして、このような機会を設けて頂いた事を皆様に感謝致します」
 クウェルが頭を下げると、他の冒険者達も頭を下げる。
 まずは謝罪。そうして街の人達への威圧感をなくすというもの。
「現在起こっている問題に関しては、今後は皆様が安心して暮らせる様に被害状況を調べ、これを解決する為に後日ギルドを通じて無償にて冒険者を派遣することを約束致します」
「本当なの!? 私のワンちゃん、探してくれるのね!?」
「はい、勿論です」
 そう答えたのはリオン・ラーディナス(ea1458)だ。
 その姿は堂々としたもの。冒険者を代表する者の顔つきだ。
「今後も問題を起こさぬよう対策を取ることでこれ以前の冒険者の行動については深く謝罪すると共に以降の冒険者の処罰に関しては第三者を立て公正に検証した上で判決を下します」
「なるほど。しかし、其れだけではその声を無視して連れて行く者もおるだろう?」
「場を弁えない同伴をした冒険者に対する罰則の制定を施しました。但し、過去罪は此れでは裁けませんが」
 リオンがそう落ち着いて説明すると、街の人達からもざわめき声があがる。
 そして更に彼はこうつけくわえるのだ。

クウェル・グッドウェザー(ea0447


「冒険者同伴のペットは基本的に躾がされている状態です。その事も理解して頂けたらと思います」
「でもそんなの私達に分かるわけないわ」
「他人のペットだもんなぁ‥‥飼い主が無事でも、俺達が無事だとは思えないぜ、猛獣ならさ?」
 思った通りの声が出た。彼等は怯えているのだ。
 その強大な刃となりうるそのペット達に。
 安全は、安心なくしてありえない。逆もまた然り。分かりあうのには時間がかかるだろう。

「我々冒険者にとってペットは単なる愛玩動物ではなく、共に冒険を行うパートナー足る存在である。故に我々のペットへの認識は、民である皆のそれと大きく異なる。しかし、この点を看過し民への配慮を怠ったのは我々冒険者の非であった。今後我々が帯同するのは原則として必要十分な躾を済ませたペットである事を認識されたし」
「認識するにしても認識できるものがないと困るわ‥‥」
「僕達が場を弁えます。其れで管理をしっかりし、皆様に危害をくわえないようにする事をお約束します」
 陸奥勇人(ea3329)の難しい説明に不満そうな街の人に対し、クウェルはそう答える。
 認識できる材料がなければ、認識も難しいという事だろう。
「騎士の持つ剣が、人々を、皆さんを守る為にあるように。冒険者の持つ猛獣や魔獣もまた、その剣足り得る存在です。皆さんを守る為に振るわれる剣を、どうか恐れないで頂きたく思います。‥‥勿論剣には鞘が必要です。それが今回の規範であり、自警団であります。冒険者ギルドは人々が安心して眠る事が出来る生活の為にある。その事を我々は心に刻み、皆さんと我々、双方の理解が深めて行く事ができたならと思う所存であります。冒険者として。騎士として」
 フルーレ・フルフラット(eb1182)がそう告げると立ち上がったのは守備隊長だ。何やら神妙な面持ちである。
「此れは、冒険者街の空き巣対策や、野良ペットの対策にもなると思います。自警団を独自で設立出来れば、私達冒険者が未遂に止められると思うのです。勿論、自称になりますが」
「その為にペット預かり所を設置するのである」
 富島香織(eb4410)と中州の三太夫(eb5377)の言葉を聴いて、やっと重い口を開く。
「‥‥待て。一つ問いたい。貴殿等の職は何だ?」
「冒険者、です」
「では、自警団というのは貴殿等の仕事ではない。自警団とは街の有志達で結成されるもの。街の事は此方に任せて貰おう。貴殿等の出る所ではない」
「しかし、其れでは‥‥!」
「‥‥我々を信用しないと? 我々に信用してくれと声をあげて言うのならば、貴殿等も民を信用してはどうか?」
 守備隊長がハッキリとそう告げる。冒険者とは、困っている者の声を受け止め助けるもの。それ故、色んな土地に出歩く事も多い。その行く先々で自称するならばいいだろうが、しかし其れではその街の自警団を信用していないという事に繋がってしまう。
「其れにペット預かり所はダメだ。聞いた話ではウィンターフォルセが其れを受け持つそうだな? 其れは其方に任せては如何だろうか?」
 そう言えば、守備隊長は踵を返し街の人達の方へと向かい声をあげる。

「聞いたか、皆の衆よ! 冒険者は貴殿等の声を聞き入れ、規約を作られた! 信用の第一歩として、互いを信じてみるという事をしてみては如何だろうか!」
「守備隊長殿‥‥!?」
「もし今後冒険者の中で規律を破る者がいた場合、冒険者は我々を信用してなどいない。そういう事にしようではないか。‥‥貴殿等の動きが求められている。頑張りたまえ」
 守備隊長の言葉は優しいものだった。クウェル達にとって、其れがどれだけ嬉しかっただろうか。
 彼等が何の為に声をあげたのか。恐れを抑え、例えヒステリックを起こしても。民は不満を訴えた。いや! 不満ではない。不安なのだ。冒険者は其れに応えなければいけない。
 皆、冒険者が嫌いなわけではないのだから‥‥。


 
●きれいな花には

 その日、ピエールはいつものように街を歩いていた。周囲にさり気なく視線を走らせながら。無意識に探してしまう‥‥理想の相手を。今までも数々の美しい人可愛らしい人に逢い、その度に恋に落ちた(と彼は信じている)が、未だ運命の相手には巡り会っていない。
 と、目が一点で止まった。引き寄せられる、三人の美女達。上から下までざっと視線を走らせるまでもなく、ピエールの胸は高鳴った。
 豊かな双丘を示すふくらみ、決して華美でないがセンスの良さを感じさせる清楚なドレス、そして何より、談笑する彼女達が浮かべる、慈愛に満ちた笑顔! 女性達はピエールの直球ど真ん中だったのだ。
「君達、この辺りは初めて?」
 居ても立っても居られなくなったピエールはそして、飛び込んだ。自ら、その甘美な罠に。
 そう‥‥実はこの美女三人というのは、クレアとニルナとリーザなのだ。
「女は、遣り方次第で色々と化けれるのよ」
 とは、クレアの弁。
「くっくっく、今回の3人の化粧は凝ったぞえ」
 こちらはマルト。今の三人は、ゴードン達の集めた情報を元にした、マルトの力作と言えよう。
「私は‥‥ニルナ・ヒュッケバインです‥‥今日は仕立て屋に用事があってきました」
「あぁ、成る程。それで君達の様な女性がこのような場所にいるのだね」
 楚々と微笑むニルナに、ピエールが何度も頷く。店主の腕の確かさから、貴族のお嬢さん方も密かに出入りすると噂の仕立て屋‥‥ニルナ達もその類の令嬢だと当たりをつけたらしい。
「その店なら知っているよ。よければ案内しようか?」
「魅力的なお誘いですね。皆さんはどうします? 私は結構好みなんですけど‥‥」
 ニッコリ笑んで誘いに乗る。後半は囁くように連れのクレアとリーザに‥‥勿論、ピエールの耳が拾える音量で。
「あたしは構わないわ」
 リーザにクレアも頷き、四人は他愛の無いお喋りを交わしつつ、歩き出した。
「ピエール様は随分と女性の扱いに長けていらっしゃいますのね。もしかして、たくさんのお相手と‥‥?」
 ホンの少しの嫉妬をにじませつつ、クレアは問う。
「確かに、多くの花々を渡って来たけどね、真実の愛にはまだ辿り着けない‥‥いや、着けなかった、かな」
(「何が真実の愛だか」)
 内心冷笑しつつ、クレアは「まぁ」と頬まで染めてみせ、問う。
「では、今お付き合いしている方はいらっしゃいませんの? 結婚してらっしゃる、とか」
「結婚か‥‥そういう話はあるけど相手はまだガキ、君達のような可憐なレディの足元にも及ばない‥‥胸も無いって事だし」
 やはり判断基準はそこなのか、クレアの作り笑顔に一瞬ヒビが入る。察して、リーザはそっとピエールの肩に指先を触れさせた。
「でも、結婚なんて‥‥こんなことしてて大丈夫なの?」
 寄り添うようにしながら、躊躇いがち(を装って)に尋ねる。控え目な、優しい表情を作り‥‥実は鳥肌が立っていたりするのはガマンガマン。
「結婚してもあたしたちが言ったら妾にしてくれる?」
「あぁ、いいとも。君達は本当にステキだ」
 気づかぬピエールはうっとりと囁く。本当にこの女性達が――誰か一人が、と思わない辺り終わっているが――運命の女性なのかもしれない、ピエールは真剣に思い始める。
 ニルナとクレアはその内心を正確に見抜きつつ、チラリと『ある地点』を確認してやはりピエールに身を寄せるように‥‥イチャイチャしてるとしか思えない位置を形作った。

「見ての通りです、ヘンウィ卿」
 その場所で待ち構えていたアッシュ・クライン(ea3102)は、傍らの紳士に語りかけた。
「ピエールという男はああいう男だ。もしリデア嬢と見合いし、いずれ婚約・結婚という形になったとしても‥‥彼女を幸せにするどころか逆に不幸にしてしまう可能性が大きい」


クレア・クリストファ(ea0941
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907


 苦々しげな、ヘンウィ卿に。
「失礼を承知で言わせてもらえば、今回の見合いの話は考え直す事をお薦めする」
「女性としての幸せに結婚が大きな意味を持つのはわかります。しかし、結婚するにしても相手の方がどういう方かと言うのが更に大きな重みがあるのではないでしょうか?」
 と、デジカメで隠し撮りしていた香織は、ふとヘンウィ卿に向き直った。
「確かに養女であるリデアさんの立場では、貴族的な価値観からすると一歩劣る縁談しかないのかもしれません。それにしても限度があるのではないですか?」  視線で、クレア達に囲まれデレデレしているピエールを指し示す。
「結婚すれば男の方は自覚をもって行動を改めると言う俗説がありますが、そういった例が皆無とは言いませんけれども、ごく稀な幸運に過ぎません。実際には女性は不幸になるだけです」
 真面目に説く香織に、ヘンウィ卿の表情が動いた。
「結婚できない事も不幸な事に違いはありませんが、ピエールさんのような相手では、リデアさんは結婚できない以上に不幸な事になるのではありませんか?」 「さよう、此度の縁組は双方を不幸にしかせぬと、そう思うのじゃ」
 マルトはヘンウィ卿は公平な人物だと評価している。これを見て尚、事を強引に纏めるような人ではないと、信じている。
「‥‥確かに。これは重大な問題があると言えような」
 果たして、溜め息と怒りの入り混じったぼやきがもれ、リデアはパッと顔を輝かせた。

 そして。マルトからの合図を受け、ニルナとクレアは同時に獲物へと笑顔を向けた。
「あ‥‥え‥‥あの‥‥」
 ピエールは今まで、笑顔を怖いと思った事はない。ましてや女性の笑顔だ。なのに、今‥‥自分に詰め寄るクレアやニルナの笑顔に、背筋がゾクゾクする。身体が勝手に震えだす。
(「知ってる奴ならあたしは兎も角、クレアとニルナは敵に回したくない女だろうねぇ‥‥後が怖い」)
 横目で見ながら、リーザは内心呟いたのだった。



●猫の親分、ケットシー

 その日の内に、蒼威を筆頭に、リューズ・ザジ(eb4197)ら冒険者が同行し、会談に臨む。
 唯一、リディリアの姿がそこには無い。余りの取り乱し様に、どこかにしまわれているのだ。
 猫の軍団が駐屯している、少し小高い岩場を目指した。
 な〜
「あ、猫だ!」
 な〜な〜
「あそこにも!」
 木々や草むらの間のそこかしこに、猫の姿。そして、サッと身を翻して退散する。
「どうやら、かなり統率がとれているみたいね」
 アレクセイは、ユニコーンのアリョーシカと思念で言葉を交わしながら、蒼威にそう告げた。
「ああ、だから俺はこうして話をしに来た」
 にゃ〜
「猫か‥‥猫はいいな。うん」
 もふもふとトリアの猫を抱きかかえながら、リューズはそんなやり取りを眺め、腕の中のドルバッキーの手足をくいくいと動かしては頬を寄せた。肉球がほわ〜んと柔らかいのである。


ププリンスケッチ
  ケットシーの抱擁を受ける、時雨蒼威(eb4097


 暫く進むと、シグの領地を見下ろせる岩場に多数の猫の群。その中からのそり、ブーツを履いた大きな猫が、マントをたなびかせ、しなやかに、岩の上に姿を現した。
「高い所から失礼。どうやら、貴方がこの地の、人族の代表の様ですね」
 とび色の瞳が、静かに、だが油断無く蒼威を見つめている。
「ああ。ケットシーよ、お前の要求は、条件によっては飲んで構わないと想っている」
「その条件とは?」
「それを話し合う為にも、お前の捕らえているププリン様を返して貰いたい。その方は、我等にとり大切なお方であり、俺の上の立場の方でもある」
「いいだろう」
 そう言ってケットシーが手を挙げると、ぽ〜んと一匹の猫に跨ってププリン子爵が飛び出して来た。
「宜しい☆ 時雨蒼威男爵、ご苦労〜♪」
「ご苦労じゃないです」
「ぶ〜、バガンを取りに来てたの!」
 そんなやり取りを前に、前脚の毛づくろいをしながらケットシーは話を先に進める。
「で、そちらの条件とは?」
「俺は、ここで互いが友好を望む限り、共存の道を模索する事を宣誓する。当地は、今いる猫の倍までならば受け入れる。それ以上は無理だ。シグとシグに錨を降ろす船のネズミは、全てお前達の物だ」
「同感だ。我等もこの地に留まる限り、その誓いを護ろう」
 すると、一斉に猫達が、な〜な〜と鳴きだした。