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 金色に輝く麦の波。牧場の風に草香る。
  アトランティスを吹く風に、行く先は書いて有らじ。

 04月25日 ファミレスOPENへ向けて
  天界よりもたらされた居酒屋でも無い食事の店。
  食を楽しむファッションは、いまこの地より発信す。

●ファミレスを知ろう

九条玖留美と神林千尋の依頼を受けた者達は、冒険者ギルドの中にある個室に集まった。
「あーっ、本物のiランドの制服だー! 前に見掛けた時気になっていたけど、何だか懐かしい〜」
「これ、マーメイドタイプだよね?」
「ええ、そうよ。皆さん、今回はスィーツ・iランドinウィル店の立ち上げにご協力下さり、ありがとうございます。私が店長の九条玖留美です」
「マネージャーの神林千尋です。アトランティス初のファミレスですので、アトランティスやジ・アースの方の忌憚のない意見もお聞かせ下さい」
  玖留美の着ている『マーメイドタイプ』と呼ばれるスィーツ・iランドの制服を間近で見た天野夏樹(eb4344)とクーリエラン・ウィステア(eb4289)は話が弾む。ファミレスの立ち上げの依頼書を見て天界を懐かしく感じて参加したのだから無理からぬ事だろう。
  玖留美と千尋は、二人に応えてから自己紹介を切り出した。
「今回お世話になる、ロイシャ・ヘムリアルです。よろしくお願いしまっすね」
「僕らとは別の“天界”の事に興味があるので、お手伝いがてらに色々と学ばせて戴きますね」
  ロイシャ・ヘムリアル(eb2744)とショウゴ・クレナイ(ea8247)が挨拶を返す。
「‥‥どうやら、主に力仕事を任されそうですね。いえ、逆にこれといって良い案がある訳で無いので、お役に立てるポイントがあるというのは嬉しい事ですけどね」
  集まった冒険者達を見回して、自らの二の腕を叩くショウゴ。男性は他にロイシャと音無響(eb4482)がいるが、その身体付きを見れば自分より体力はないと思われた。
「こっちに来てからまだ2ヶ月だけど、ファミレスって聞いただけで懐かしくなるよね」
「ファミレスはあたし達にはお馴染みの場所だから、あれば気兼ねなくくつろげるよね」
  響が屈託のない笑顔で、白澤雪花(eb4496)へ話し掛ける。
「初めまして、俺、音無響って言います。お二人は全然知らないかもしれませんが、学校の女の子達に引っ張ってかれて、お店に何回か行ったんですよ」
「私も秋葉原店は何度も行ってるんだよ」
  スィーツ・iランドはウエイトレスや制服も売りの一つだが、基本は味とサービスであり、女性向けのファミレスにも関わらず響のように男性客も少なくない。クーリエランは年齢的に天界でアルバイトをする事は出来ないが、制服に惹かれて通っていたようだ。
「統一された制服でお客さんをお出迎えする店って、この世界じゃあ珍しいと思うので、その統一感のかっこよさでもきっと人を引けますよね」
「アトランティスでファミレスって、面白くて良いと思います。私もお手伝いしますっ! 一応、余所のお店ですけど、ファミレスでバイトした事はありますし」
「経験者がいてくれると心強いわ」
「私もiランドの制服着てみたいし♪」
  響と夏樹が賛同すると、クーリエランと雪花も頷く。特に夏樹というファミレスのウエイトレス経験者がいる事が、玖留美にとっては心強かった。
「制服といえば、お願いが‥‥」
  はにかみつつ響が玖留美へ差し出したのは、女性制服をアレンジした男性制服のイラストだった。
「店長が着ているのはウエイトレスの制服ですが、ウエイターの制服もありますよ」
「へぇ、制服って、玖留美さんが着ている他にもあるのね」
  スィーツ・iランドに何回か行った割にウエイターを見ていない響は、悲しい男の性だろうか。
  千尋の返答に、セーラ・ティアンズ(eb4726)が興味津々といった感じで、玖留美と男性制服のイラストを見比べた。
「この制服は海の妖精をイメージしたデザインなの。秋葉原店ではこの他にも二種類の制服があって、月替わりで変えているのよ」
「他の制服の色は?」
「エメラルドグリーンやアメジストだけど」
「それなら私は玖留美さんの着ている制服がいいわね」
  セーラは玖留美の着ているマリンブルーの制服が気に入ったようだ。
「‥‥むぅ。ファミレスとか制服とか言われても、イマイチピンと来ないんだよねぇ‥‥先ず、その辺りを色々教えてもらえないかな‥‥?」
「ファミレス、というか、玖留美さんのお店の外観や中の様子はこんな感じだよ」
  成り行きを見守っていたリーザ・ブランディス(eb4039)が唸ると、響が携帯電話を渡した。画面には彼が携帯電話で写した秋葉原店の外観や中の様子、ウエイトレス達が映し出されていた。
「音無くん、店内は撮影禁止なんだけど」
「まぁまぁ、実際の様子を見てもらった方が説明しやすいよ」
「‥‥店舗は明るい雰囲気だし、窓には透明なガラスを使っているのかな? これが制服か‥‥清潔感があって、且つ可愛い衣装‥‥みたいな認識でいいのかな? ‥‥まぁ、エプロンドレスもそれだけで結構可愛いもんだけど‥‥」
  苦笑する玖留美を宥めるクーリエラン。リーザを始め、セーラ達はファミレスがどういうものか、朧気ながら分かってきたようだ。
「あたし達の世界では、ファミレスのお客さんの中には料理そのものよりも、スイーツやコーヒーやお茶を求めてやってくるお客さんも多いんだよ☆ 2〜4人ぐらいでおしゃべりしながら食べたり飲んだりするの。だから家族や十代向けに明るい雰囲気になっているよね☆」
「エールハウスみたいなものかな?」
  雪花の説明をロイシャがエールハウスに揄えると、セーラとショウゴは納得した。
  ジ・アースにおけるエールハウスは、天界のイギリスにあるパブの前身で、エールの他にちょっとした飲み物もあり、食事も採れるので、酒場というよりファミレスに近い。
「アトランティスの酒場が落ち着いた大人の社交場なら、ファミレスは老若男女が気軽に食事を、と差別化してみたいところですけど如何でしょうか?」
「‥‥悪くないと思うよ。ただ、アトランティスでは外食をするのは冒険者で、庶民はあまりしないから、庶民への宣伝と触れやすいようになるべく価格は安くした方がいいだろうねぇ‥‥」
  雪花の提案に、アトランティスの事情を付け加えるリーザ。
  取り敢えず、ショウゴやロイシャ達のファミレスへの理解が出来たところで、玖留美は締め括るのだった。

(『スィーツ・iランドinウィル店開始!?』より)

手軽でおしゃれで可愛いお店。天界の文化が旋風(かぜ)となる。

 05月02日 もっとゴーレムを
  ショアに現れし大怪獣。対抗し得るはただゴーレム。
  トルクが占するゴーレム技術解放を望む声は高らむ。

上座に座る伯は静かに開会を宣言した。
「この様な形で会議を開く事に到ったのは、既に知っての通り、ショアを襲った空飛ぶ怪獣への対策を考える為だ。そこで先日、陛下に願い出、トルク王に謁見を求めた。そして、ゴーレムグライダー2機の購入と、その緊急性故のご理解を戴き、早期完成分からの引渡しをお約束戴けた。ただ、その運用面からの問題がある。その辺りは、カリメロ殿が詳しいのでは?」
  ゴーレムグライダー導入に少なからず、動揺する空気。レイナード子爵はそれらを小馬鹿にする様に鼻で笑い、恭しく起立した。
「只今の件、日々の維持管理が問題になると思われる。何しろ、ゴーレム技術は秘中の秘。私も陛下から1機お預かりしている身ではありますが、定期的にトルク王の工房まで運び、点検を受けませんと。こちらもその様になさる訳で?」
「致し方無い。ゴーレムニストを派遣する事は難しい様だ。トルク王の工房に到っては、諸侯からの注文をこなすだけで精一杯との事。陛下においてもお手元にゴーレムニストを置く事が叶わぬ現実。トルク王の独占管理は、王として当然の事とは思う。今後、粘り強く交渉する必要があるが、トルク王はその供給と維持を盾に、その発言力を更に増して行くであろう」
  そこで伯は言葉を区切る。
「話がそれた。ゴーレムグライダーの件で、意見のある者は無いか?」
  ようやく話がこちらへ来たと、数名が挙手する。真っ先に指名されたのは、アリルであった。

「巨大生物はグライダーの哨戒等で早期発見が肝心に思う。簡単な救命具とか信号用の発煙筒みたいなモン常備でどーだ?」
  頷く諸侯。
「アリル卿の意見は尤もだ。その為のゴーレムグライダー導入である」
  伯は次にフラガ卿を指名した。
「先日の巨大生物接近の折、情報が錯綜し、事態を把握できたのは、件の生物が飛び去った後であったように見受けます。そのため迎撃の際には散発的な攻撃のみで、組織的な迎撃が出来なかった点は大きな反省点です。状況の把握は、有事の際、最重要課題です。どれほど強力な武器を揃えようとも、それをどこに向ければ良いのか分らなくては宝の持ち腐れとなりましょう。対応策として、風信器とゴーレムグライダーによる通信・連絡網の構築を提案します」
「情報を制する者が、大局を制す」
  ボソリとギルが漏らし、一同ちらりと見るが、伯は話を進めた。
「卿の意見は尤も。今回、ショアを怪獣が襲撃する半日前に、馬を襲われた話が後から出て来た。その後、ゴロイへ出没し、怪物はショアを襲撃している。狼煙やかがり火で急を告げ、湾全体で動く体制をとる前に、怪物はショアを襲い、夕闇に消えたのだ」
  そこで商人のキノーク老人が挙手。
「風信機なる物は、通信出来る距離が限られているという事を聞いた事が御座います。それで湾全体をカバーするとなれば、かなりの台数が必要になるのではありませぬか?」
  すると、伯はそれに頷きつつも話をする。
「それは各地の経済的な差異もあり、急ぎその様な魔法の品を揃える事は難しいであろう。取り敢えずは従来どおり、狼煙とかがり火によるネットワークを中心に、早馬、そしてゴーレムグライダーを加えた哨戒活動に頼る事になろう。キノークよ、風信機購入の件は、お前の方で相談に乗って貰いたい」
  キノークは恭しく一礼した。

 次に天界人のレオン。
「要は巨大生物が飛ぶ事より、領地に被害が及ぶのがまずいんだよな。なら、エレメンタルキャノンって大砲もどきはある程度有効だと思うぜ。空飛ぶ巨大生物や海中の巨大生物には近づくのは難しいし危険だろうからな」
  頷く諸侯に、続けてリュードが発言の許可を求めた。
「その特徴は、大型ゆえの脅威、飛行による急接近、無作為な捕食行動、生命保全第1、以上の4点が考えられます。これに対し、早期発見、正確な状況の分析、整備された避難所への適切な誘導、追い払う事を目的とした迎撃、以上の4点が被害を最小限に食い止める為に必要と思います」
  これに一同、得心がいった様子。
「飛行生物の視野内に体を晒すことで襲われるため、地下や建物に避難したり偽装したりする避難体制を準備。追い払う為でも巨大飛行生物が傷つくだけの威力のある攻撃でなければ危険を感じて逃げ去らない。出現の報を受けたら駆けつけて迎撃する機動迎撃隊の運用が望ましい。機材、人材、法整備が必要。そのための武器としてのゴーレム機器とエレメンタルキャノン。つまりは、エレメンタルキャノン装備のフロートシップか、ゴーレムが船上で活動できるフロートシップが必要かと」
  するとギルがやれやれと言った口調で割って入る。
「どこもかしこも、ゴーレムゴーレムと‥‥そんな金がどこにあるのかね? フロートシップが幾らする? よしんば、そんな物を欲した所で、伯程度の後ろ盾では、叛意ありと疑われてどこぞの侯爵や、子爵の様に潰されるのがオチであろう」
「そうはならぬ。手に入るのならば理想的だが、現状何が可能かを探る事がこの会議の意義。確かに、海戦騎士団への導入は後回しにされているが、それもこれもギル殿の率いる海戦騎士団が問題無くシムの海を治めているからではないか」
  そこで言葉を止め、伯はギルをじっと見やった。
「よしんば、手に入った所で、維持管理運用が出来ぬでは、それこそ宝の持ち腐れ。ただし、それは各諸侯も同じ事。その様な不満が募れば、いずれは外に出さねばならぬ技術。そうなった時に王としての器量が試されもしよう」

 次に巨大な羽が引き出された。
  外観は茶色い鳥の羽なのだが、その大きさたるや子供の背丈程。
「これが、先日、ショアを襲った怪物の羽だ」
  伯の説明に一同立ち上がって見入る。
  そして、ジ・アースの神官服をまとったモニカが恭しく一礼。
「これは、ロックと言う巨大な鷲の怪物ではないかと思います。私が山海経等の資料を調べましたところ、大型の家畜を狙う恐ろしい怪物であると」
  すると幸助が言葉を継ぐ。
「鷲のモンスターなら、海で餌を獲る事は困難だろうから、漁師、馬、家畜が狙われるでしょう。地元の漁師が身を守る方法として、火の出ない煙による狼煙による警告と、海に潜ってエサを取る習性が無い事から、船から海に飛び込み海中に逃れる方法を提案します。また、船の回収、撃退の為のゴーレムシップの配備を進める事を提案します」
「うむ。その身の護り方は、各地に持ち帰り伝えて貰いたい。火の出ない狼煙というのも、どの様な物か後で教えて貰いたい。また、ゴーレムシップは普通の帆船からの改装はそれほど困難では無いらしい。が、超えなければならない壁は、その技術がトルク王の秘中の秘である、という事だ。エレメンタルキャノンに関しては、炎の精霊砲ならば、この城にも2門ばかりある。これは、ランのラース伯を通じて購入した物だが、その運用に関してはアルフレッド、お前に預けてあるディアーナ号で試験運用を頼みたい。ギル殿、その際は貴君の艦隊に同道願えないだろうか? スターフィッシュ、ガーナード、シーアチン、カトルフィッシュ、今、港に停泊中の貴君が率いるどの船も実戦経験豊富な船員と騎士達が乗っている。互いに得る物も大きかろう」
「ふん‥‥、こっちの船員も訓練させて貰えるなら、悪い話じゃないな。だが、海賊相手のドンパチに何人死んだって、こっちに文句を言って貰っては困る」
「その辺は艦長も判っていると思う。良いな、アルフレッド」
「ははっ」
  初老の男爵は畏まって一礼。次いでギルへ一礼した。
「伯の艦隊指令代行、及びディアーナ号の艦長を務めております、アルフレッドで御座います。細かい打ち合わせを後ほど、お願い致します」
「まあ、胸を貸してやろう。覚悟するんだな」
  ニヤリと笑みに頬を引きつらせるギル。古傷の性か、ぞっとする顔になる。

「煩わしい障害と思ったら逃げてく獣も、こっちを敵と認識したら逆に攻撃しかけてくるかもしれない。昔から手負いの獣は危険って言うもんな。できれば、音の大きい虚仮威しの兵器でもあればいいんだが。天界では、鯨を音で追い払うような装備を付けてるしな」
「精霊砲は移動する目標に当てる事が難しいため、倒すには向いていませんが、追い払う為の威嚇としては、ある程度の意味があると思います」
  レオンとセオドラフの言葉に伯は穏やかな表情で頷いた。

「地のエレメンタルキャノンなら、グラビティキャノンの属性を持つ弾を作成し、海に叩き落し羽を濡らして飛べなくさせ包囲仕留める事が出来ると思います」
  幸助の発言に、紀子が手を挙げた。
「精霊砲って奴は、精霊力を収集してある意味結界の中に閉じ込めて打ち出すんだろう? 魔法みたいに力の指向性を定める細かいものと違って、精霊力の固まりをぶつけるもっと単純な物だよ。だから精霊の性質によって効果が違うんだよな。水風土に比べて、火は他を浸食する性質が強い。だから普通は火の精霊砲しか作ってないらしいな」

「攻撃より先に、出来れば相手に敵意があるか確かめてぇ。薮蛇は避けてぇし」
  壁際に背をもたらせ、天井を見上げアリルがこぼした。
「生物であれば、嫌いな音とかあるでしょう。竜の他に、意思疎通の出来る大型生物は存在するのでしょうか? 共存する事は可能でしょうか?」
  質問と言った感の発言がリールからなされ、これにマリンが答えた。
「は〜い! 以前、鯨にテレパシーでお話したウィザードがいましたね。でも、みんな縄張りがあるから、他所のテリトリーに入り込んでまで獲物を狙うのは、何か訳があるんだと思いま〜す☆」
「何か訳ねぇ〜‥‥うっ」
  アリルは伯がこちらを見、ニヤリとするのと目が合った。

(『第1回東方小貴族会議』より)


 鳥が空へ飛ぶように、夢は天(そら)を翔けて行く。
 多くの声が求め訴える。もっと、もっと、いやもっと。

 05月12日 未来予想図
  砦は堅く築かれる。一夫を以て万夫を制す。
  されど見よ。時の流れは留められぬ。
  ゴーレム一機は騎士十人。矢玉も剣も跳ね返す、さながらそれは鉄の城。
  天界人は未来を語る。

 農民がやったにしては、いいできに見えるけど」
「充分だろう」
  巴と清十郎はロッド・グロウリングが領民達に行わせ結果を確認しつつ、城砦の中に入ってきた。馬防柵も堀も不合格な部分はない。
「あえて言うなら、堀をもっと深くしてゴーレムが攻め寄せた時に、防げる方がいいかも」
  ファルもゴーレムの力は熟知していた。だからそう言える。
「セレに運んだ試作品のこと?」
「ゴーレムの放った矢一本で戦況が変わった。あれを見てしまうと」
「そうね。でもあれは特別なゴーレムだったのでしょう」
「う〜ん、今は特別でも近い未来には特別じゃなくなるかも。有効な武器は取り入れられるだろう」
  あの弓矢を使うゴーレムと弓矢が得意なエルフが協力して開発していくと、試作品よりもはるかに強力なゴーレムができることだろう。
「こっちのアトランティスだって飛び道具使っていけないということはない。正騎士を集中的に狙って狙撃しなければいいだけだ。となれば、ゴーレムが弓矢を次から次へと連射できるようになったら戦のやり方も変わるな。ゴーレムなら疲れることはないから」
「つまり堀を深くしても、ゴーレムに弓矢で攻撃されたら」
「ゴーレムは、ゴーレムで叩く。情報を交換しよう。明日にはしかけたい」
  キースが呼びに来た。
「たぶん、このあたりに拠点があるだろう」
  村で聞き回った範囲では、有る程度の位置が絞れた。村人の目につかない場所。いくら農繁期といえども、家で使う薪は集めに行くことがあるから、周囲の森では目につくはずだ。
「地下の方もだいたいのところは終わった。明日には、手分けして抜け穴に入る」
  抜け穴から一方が入り込んで追い出す、そして拠点の周囲は地上から包囲する。
「救出に失敗した場合、事故や病死なりの事を荒立てない後始末をロッド卿と協議しておいた方がいいか。そのときはその指示に従って執り行うってことで」
  それで会議はお開きになった。

(『城砦を修復せよ3』より)


  戦況を一変させるゴーレムの力。これからの戦いにゴーレムは欠かせぬ。
  城も戦いも騎士道も、これから変わって行くであろう。
  人道と、名誉と勲と効率と、それら全てが混ざり合い。

 05月13日 魚・魚・魚
  見よ、トリア卿の勇姿を。千余の耳目がそれを見る。
  湧き上がる歓声、沸き騰がる喚声。
  手練の業をしかと見よ。

 前半戦の結果のせいか、会場は静かなざわめきで包まれていた。すると、
「魚を食べるとぉ〜!」「頭が良くなる!」
  会場の空気を破るようにしてトリアらが掛け合いで叫んだ。
  トリアはセレスと閻水に笑いかけると、歌を続けながら定位置まで軽い足取りで行った。
  そして、天界の、魚の効用を褒め称える歌を口ずさむチーム。
「な、なんなんでしょうこれは‥‥!」
「どうやら士気を高めるための掛け声のようで御座る。相変わらず個性的なチームで御座るな」
一同は目の前の貴賓席の最頂部を見上げ、そこにいるフォロ陛下とマリーネ姫に一礼し敬意を払った。
  そして、その一段下にある貴賓席の、メーアメーア男爵に一礼し、チャリオットに乗り込んだ。
「さあ、後半戦がいよいよスタートします! 係員が兵隊人形を機体に取り付けています。後ろの二人が身構えた様子がこちらに伝わってくるような緊張感です!」
  フラグが空に突き出され、一拍おいた後、思い切り振り降ろされた。
「スタートしました! チャリオットが浮いて一斉に動き‥‥出さない?! 機体は前のめりになってそのまま各座してしまいました!」
「その間に後部の二人がスピアの石突で人形を叩き落しているで御座る」
「さー操手のセレス卿はなんとか機体を立て直したようです! ゆっくり走り出しました、そのままコースをアウトにとるようです!
  そして、トリア卿がシルバースピアを鋭く突き刺しました! カーブ入り口の右にあるターゲットを見事撃破です!」

「チャリオットの速度は少しづつあがってきたようで御座る」
「セレス卿、アウトコースに膨らんでいた機体をインに切りました! どういうことでしょう?」
「恐らく、カーブ中央に立つダミーバガンを、機体右に着いたトリア卿から狙い易くしたので御座る」
「なるほど! おお! トリア卿の目つきがガラリと変化しました! にこにことした面影は消え、シルバースピアを構え、ダミーバガンを睨んでいます! スピアがダミーバガンの巨体を捕らえたー!!」
「上手いで御座る! 反動で弓なりになったSスピアを、上半身を逸らして衝撃を逃がしたで御座る」
「ダミーバガンが揺れています! 私たちの見守る中、ぐらぐらとその姿勢を崩し、今、地響きをたてて地面に倒れこみましたー!」
「これは素晴らしいで御座る」
「このスーパーアクションに会場も大盛り上がりです! トリア卿が沸きあがる歓声に対して槍の穂先を振るって応えています!」

「再びこの歌です! トリア卿の士気が最高に高まっているということでしょう! さあ、次に待ち構えるのは第3直線!
  大きくうねる二つの山です! 山と山の間をすり抜けます‥‥っとその瞬間に! 閻水卿とトリア卿がそれぞれのスピアで一体づつ撃破しました!」
「コンビネーションプレイで御座る」
「機体は何とか次の山も乗り越えたようです! 第3カーブへ向かって一気に駆け抜けていきます!」

 機体はがくがくと大きく揺れながらも、ゆるやかにうねる第3カーブを駆けていった。
「さあ、第3カーブです! おおっと、コーナー沿いに点在する敵兵人形には目もくれません!」
「この先のダミーバガンに勝負をかけているので御座るな」
「トリア卿がコース中央の巨体を見つけたようです! スピアが今光のように飛び出しました!! 巨体はまたもトリア卿によって倒されましたー!」
  ずしん、とダミーバガンの倒れた衝撃で会場が揺れた。一瞬の静寂ののち、大歓声が沸き起こった。
『トリア・サテッレウス!』『トリア・サテッレウス!』
「おおっとぉ!観客席でトリア卿の名前の大合唱がはじまったぞ!」
  トリアは観客へ向かって向き直ると、改心の笑顔を見せた。

「な、なんということでしょう‥‥! 観客席の多くの人が魚の賛歌を大合唱しています!」
「我々も歌った方がいいので御座るかね」

「とにかく、今はレースです! レースを続けましょう! ゴーレムチャリオットは、悪路の第4カーブをインに切り抜け、コース中央にラインを戻しつつ、緩やかな上り坂を一気に駆け上っています!」
「行く手には雁行の陣に似せ、Vの字に並べられた7体の敵兵人形が待ち受けてるで御座るよ」
「セレス卿はチャリオットをそのまま驀進させています! 人形2体を轢いて突破! 左右に構えていた閻水卿とトリア卿が突き倒したー!! ゴール!」
  チャリオットがゴールに駆け込むと、会場は割れんばかりの歓声で包まれた。
  そして、湧き上がってくるのはあのメロディ。
「しかし、タイムこそは良くなかったですが、トリア卿は偉業を成し遂げました! あのダミーバガンを2体も倒すとは、並大抵ではできないことです!」

(『第3回GCR H【ソードフィッシュ】』より)

 会場を沸き立たせるは勝者に非ず。最下位チームの勇姿成り。
  魚、魚、魚! 勝者の名前を知らずとも、彼等の歌を知らぬ者無し。

 05月18日 ルムスへの使者
 ルーケイにある別天地。ここに一人の好漢あり。
 民のために堅甲を着け一剣を以て賊を降す。
 英雄を知るはただ英雄。
 信と義との名に於いて、万古より受け継がれたる盟を約す。

 ルムスの村ではちょっとした騒ぎが起きていた。見慣れぬ者が3人、紋章旗を掲げて村に近づいてくるではないか。
「あの紋章はどうやら、話に聞くルーケイ伯のものですな」
  王都で情報を仕入れてきたルムスの部下が、その主人に耳打ちする。
「冒険者上がりの代官が寄越した使者か。まずはお手並み拝見といくか」
  騾馬に跨ったルムスは、余所者の姿を目にして落ち着かなげな村人に呼ばわる。
「あれは、俺に会うためにやって来た使者だ! くれぐれも失礼のないようにな!」
  そしてにやりと笑い、独り言つ。
「盗賊蔓延るルーケイにたった3人で乗り込んでくるとは、いい度胸した連中だぜ」

 3人の使者の前で村の門が開く。中へ入ると騾馬に乗ったルムスが出迎えた。
「我が村へようこそだ! 見たところ、新しいルーケイ代官からの使者のようだな?」
  この呼びかけにバルバロッサが答えた。
「俺はルーケイ伯が与力の男爵、バルバロッサ・シュタインベルグだ。この度はこの村の領主殿との交渉に赴いた」
「俺がこの村の領主、ルムス・モールだ。貴公らを歓迎する。話は領主館でじっくりと聞こう」
  村の中程にあるその家を領主館とルムスは呼ぶが、立ち並ぶ村人の家より僅かに大きいばかりで、あまり変わり映えがしない。そこへ3人を案内して、ルムスは言う。
「見ての通りちっぽけな村だ。突然の訪問故、十分なもてなしもできぬが、今宵はゆっくりとお泊まりになってはいかがかな? 肉と酒を存分に振る舞おう。村の娘にとびきりの美女はいないが、お望みとあらば夜伽の相手もさせよう」
「肉と酒か‥‥」
  肉といえば‥‥バルバロッサは通りすがりにちらりと見た、家の軒先にぶら下げられた大ネズミの死骸を思い出す。酒は大方、古いワインであろう。
「いや。心遣いは有り難いが、ここは辞退致す。まずは我が主より授けられし使命を果たすが先」
  やんわり断るバルバロッサ。元からそのつもりだった。
「では、話を聞こうか」
  ルムスが真顔になった。
「我が主は貴殿と正式な封建契約を結ぶことをお望みだ。契約が成れば、ルムス殿は王家も認める正統な領主となろう」
  バルバロッサも単刀直入に答える。
「それは万古より連綿と受け継がれたる領主と騎士、騎士と農夫の契約。振り上げた拳たる我らの手をとるならば、火の粉を払いのける手へと変じよう」
「契約か‥‥」
  ルムスは呟き、じっとバルバロッサの目を見る。
「それは素晴らしい話だ。ぜひとも前向きに受け止めたい。だが、今暫く考えさせて欲しい。新しい代官殿について、俺にはまだまだ知らねばならぬ事がある」
「王領ルーケイ代官、アレクシアス・フェザント卿については私が話しましょう」
  セオドラフはバルバロッサより話を引き継ぎ、ルーケイ伯の人となりを掻い摘んでルムスに語り聞かせた。ルーケイ伯がジ・アースよりやって来た天界人であり、国王陛下の招集した賢人会議での献策によりルーケイの代官に任じられた経緯。並びに、先のサン・ベルデ鎮圧戦では早くも目覚ましき武功を成し遂げたことなどを語ると、話を次の言葉で締めくくった。
「アレクシアス卿はいずれ、全ルーケイを統治されるお方。いち早くその陣に加わりて助勢を為すならば、ルムス殿への覚えも良きことでしょう」
  続いて言い添えるユパウル。
「ルムス殿の治める村は、このルーケイの地に秩序をもたらさんとするルムス殿の尽力の証。ルーケイ伯においても、形は違えどもこの地を正そうとされている。封建契約については、熟考なされた末に良き結論を出されることを望む」
「分かった。俺は来月のうちにでもルーケイ伯アレクシアス卿への伺候に参ろう。返事はその時に。俺の口から直接お答えする。時に、この東ルーケイの街道筋に巣くう盗賊どもが、ずいぶんと騒ぎ立てている様子だが?」
  ルムスより話を向けられ、バルバロッサは盗賊討伐戦のことを仄めかした。
「古来、悪が栄え続けた例しはない。もしも盗賊の中にこの村の者と血を分けし者がいるならば、その命を救うは諦めるが賢明であろう」
  その言葉の裏に隠された意味を、ルムスは賢明にも察知した。
「そうか。それがアレクシアス卿のご意志だな? あの忌々しい毒蜘蛛団を叩きつぶすのならば、俺も協力を惜しまない。兵を率いて馳せ参じよう」
  ルムスのその言葉は、ルーケイ伯に対する支援の約束に他ならない。

(『風雲のルーケイ〜盗賊討伐迫る』より)



先ず一人。伯は頼もしき味方を得たり。