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  真の敵は何物ぞ。混濁(こんだく)の世に義士は立つ。

03月29日 魔物襲来
 王都の中に忍び寄る影。虎視眈々と爪を研ぎ、人の迷いに棲み着く物。
 闇に染まるその腕(かいな)、何故狙う稚さき者を。

 夜は更けゆく。牢番の控え室は地下牢への入口を見張る場所にあり、レフェツィアはそこに待機していた。
  通路の暗がりで何かが動く。黒い猫だ。
「迷い猫か? 捕まえて外に逃がしてやれ」
  牢番が面倒くさそうに頼む。猫は地下牢に続く階段をするすると下りて行く。
「あの猫、まさか‥‥」
  レフェツィアは猫を追って地下牢へ。牢の中にはまだ竜志とエデンがいる。
「気をつけて! 怪しい猫がいるの!」
  叫んで注意を促した時、黒猫は牢の鉄格子をするりとくぐり抜けていた。竜志の手がさっと伸びて黒猫を捕まえ、持ち上げてじっくりと観察。
「う〜ん、見たところ普通の猫‥‥」
  言いかけた矢先、猫の体がもあ〜っと膨れあがった。
「うわ! この猫、普通じゃねぇ!!」
  叫んで尻餅をつく竜志。その上から黒い獣の体がのしかかる。黒猫は蝙蝠の翼持つ黒豹に変じ、不気味に光る目で竜志をにらみつけ、耳障りなしわがれた声を発した。
「おまえがククスか?」
「魔物よ! 去れ!」
  咄嗟に鞘のまま突き入れるエデン。前足で払われたレイピアが壁に突き刺さり鞘が割れる。
「邪魔をするな。ククスをよこせ」
  魔物の下敷きになりながらも、竜志の手が七支刀の柄を握り斬りつけた。肉を切り裂かれ、魔物は苦痛に叫ぶ。
「主なるセーラよ! 悪魔に滅びを!」
  牢の外からホーリーを放つレフェツィア。聖なる白い微光が魔物を包み、その体が焼けただれる。魔物は絶叫して狭い牢の中で暴れ回り、鉄格子にガンガンぶつかった。
「これは何の騒ぎだ!? ‥‥うわあっ!」
  騒ぎを聞きつけやって来た牢番は、牢の中の魔物を見て腰を抜かした。すると魔物の体が縮み、黒猫の姿となって鉄格子をするりと抜けた。
「フギャーッ!!」
  さらなる魔法を唱えようとしたレフェツィアに黒猫は飛び付き、顔面を思いっきりひっかく。魔法は成らず黒猫は闇に消える。
「はぁ‥‥死ぬかと思った」
  壁際に張り付いて暴れる魔物をやり過ごした竜志が、ほっと安堵のため息。ククスは牢の隅っこに縮こまって、がたがた震えている。
「大丈夫ですか?」
  ククスに近づいたエデンは異臭に気づく。漏らしていた。

(『少年色の尻尾5〜追跡開始』より)

 理非も解らぬ混濁の世。忍び寄る影、名はカオス。
 悲歌慷慨(こうがい)の日を棄てて、憂国の士よ立ち上がれ。
 ここに民の為 降魔の剣を試し見ん。

04月07日 そうだ、学校つくろう
 仁を好みて学好まざれば、その弊は愚。
 信を好みて学好まざれば、その弊は賊。
 樹も縄(じょう)を受けて直(なお)くなる。
 人の性は善にして、胎を通らず生まれ変らん。

「学校を作りたいと思いまっす!」
  元気よく宣言したファム、ゴドフリーの前に“ドォ〜ン”と100Gを差し出した。その隣に、天龍がどちゃっと50Gを上乗せする。
「あれから皆で考えたんだが、わるしふ達が職に就ける様に仕事を覚える為の学校を作ろうと思う」
  ふむ、と天龍を見据えるゴドフリー。元々彼らが遊びや冗談でこんな事を言っているのではないと分かっている彼なのだが、その発想には、やはり驚きを禁じえない。
「あたしのいたケンブリッジの学校は、皆で何かするの凄く楽しかったの。だから、わるしふの皆に悪いことじゃなく良いことで楽しくして欲しいの」
  少しでも分かってもらおうと、ファムは一生懸命に説明する。
「人から聞いたんだけど、チキュウの人達はそういう所に行って、働くのに必要なスキルを得るんだって。そういうのをうちらが作ってあげたらいいんやないかな。あたいは料理のスキルを教えてあげるよ〜、料理を学べばそれこそ食いっぱくれはないしね〜☆」
  楽しげに語る桂花に、ファムもうんうんと頷いた。
「教える事は本人の希望や適性に応じて、シフールでも出来る仕事、つまり俺達しふしふ団がしている仕事をメインに、とちのき通りで協力してくれる者がいるならそれも視野に入れていけば良いと思う。俺達が来れない間は、出来る範囲で通りの手伝いに使ってもらえれば良いだろう」
  天龍がより具体的な姿を提示する。
「職業訓練中の家賃や食費はわるしふ更生基金から出し、職に就いた後余裕が出来た者には無理をしない程度に基金に収めて貰う事で、続く者達に希望を与える事が出来ると思う」
「本当にそこまで持っていけると? 始めから拒否されるか、それならまだしも、体よく溜まり場にされてしまう危険もある」
「彼らも、本当は変わりたいと願っていると、俺はそう信じている」
  ゴドフリーの懸念に、天龍はそう答えた。
「わるしふ更生にはこれかなって思うし、とりあえず住めるところと、手に職をつける機会と場所があれば、説得もし易いと思うの」
「みんな一緒の受け入れ口の方が、わるしふ達を受け入れ易いでしょう。彼らを報復から守る安全の確保という面でも、これはかなり有効だと思うのです」
  ありったけの言葉は、ファムとディアッカで締めくくられた。椅子の背もたれに身体を預け、考え込むゴドフリー。仕事を学ばせようと思うなら、丁稚奉公に出すのが常識だ。わざわざ大金を投じて特別に場所を設けるなどと、それだけを聞いたなら笑い飛ばしてしまうところだ。‥‥ただ、ではわるしふ達に奉公を望む者がいたとして、それを受け入れる勇気と度量があるかといえば、悩まずにはおれない訳で。この適度な距離感は、案外と良い結果を招くかも知れない、と、そんな気もして来る。
「大勢を内に抱えて面倒を見るのは、決して簡単な事では無いよ。増してやそれが、必ずしも心通じていない相手というなら、尚更だ。彼らを抱え込んでしまったばかりに、君達がとても辛い目に遭うかも知れない。もしもの事があった時に、人々の怒りはわるしふ達より先に君達に向くかも知れないよ?」
  そんなの分かってるよ、と、皆笑う。ゴドフリーは、ふう、と溜息をついた。
「‥‥一先ず彼らを裏通りと切り離すのは大事かも知れないな。分かった。私も出来る限り協力しよう」
  やった! と声を上げて喜ぶ一同。でー、とファム、早速ながらおねだりモード。
「先に学校の宿舎だけでも、何とか出来ないかなーと。イーダさん達の改心に成功したらそこに住んでもらうの。出来れば教室になる部屋もあるといいんだけど‥‥」
  なんとかしよう、とゴドフリー。やったね、とファムがくるりと回った。

(『とんでもわるしふ団4〜真昼のらくがき』より)

 学は鋭き鉄の鏃(ぞく)。行い正す鷹の羽根。
 恵みと愛との肥を受けて、飛べ一筋に南山の竹。

04月18日
 王徳かの地に及ばざれば、この地を統らすは如何せん。
 剣(つるぎ)と火以て討つべきや、爵禄を以て封ずるや
 与力は赴く難治の地。千里腥しルーケイ領。

クリックすると地図を拡大 ●村を統べる者
  ルーケイ入りしてから先行班は延々と歩き続け、夜が明けると森の中に潜んで休み、夜が来ると再び歩き続ける。そろそろ村も見えてくると思われた頃。
「おい、あれは何だ?」
  平野に柱のような物が林立している。周囲に敵が潜んでいないのを確かめ、一行はその場所に近づき、その正体を知った。
  骸骨のくくりつけられた杭である。縛られて野ざらしにされた人間のなれの果て。その数あまりにも夥しく、しばし言葉を失う。
「なんかこう、イヤーな感じがプンプンするな」
  最初に口を開いたカルナックスだが、プンプンするどころの話ではない。
「三十四、三十五、三十六、三十七‥‥」
  骸骨の数をそこまで数えて、朧は数えるのを止めた。
「村一つ、丸ごと皆殺しにしたような数でござるな」
「これって子どもの骸骨かな?」
  さほど自分と背丈の違わない骸骨の虚ろな眼窩を覗き込み、アシュレーが言う。
「俺達もしくじったら、この骸骨の仲間入りか」
「縁起でもないことを言うな!」
  黒兵衛が叱った。杭の林の向こうには、村らしき物の輪郭が景色の中に浮かんで見える。すると、これは村に巣くう連中の仕業か? 骸骨をずらずら並べてお出迎えとは、気持ちのいい歓迎ではない。こんな代物を目にしたら、誰だってそのまま引き返したくなる。しかし彼らは冒険者。そうそう後戻りは出来ない。
「ここから先は身を低くし、草の陰に隠れて進もう」
  皆は黒兵衛の言葉に従い、じりじりと村への接近を始めた。

  月精霊の光の中に浮かび上がる村の全景。周囲にはぐるりと堀が掘られ、村の回りにはぐるりと堀が掘られ、その上には土塁が並び、さらに堅固な柵まで設けられている。しかも柵の内側には見張りの櫓が建てられ、夜を徹しての見張りが張り付いている。
「話によれば、村はルーケイの反乱が平定された時に焼かれたはずだが」
  先に宮廷図書館で聞いた話を思い出すユパウル。
「何者かが村を再建したということだな。しかもあの堅固な村の守りを見るに、そいつは兵法に通じた何者かだ。わしら全員が近づくには、ここまでが限度であろう」
  言って、黒兵衛はアシュレーに目線を送った。
「任せといて」
  小柄なアシュレーだけが只一人、草の陰に隠れた仲間達を離れて村に近づく。
「ふう‥‥潜入捜査は何度やっても緊張するねえ」
  のほほんと、どこかスリルを愉しむような呟き。見張りの目をやり過ごし、ゆっくりと時間をかけて堀に近づくと、中に飛び込む。
  ドサッ。その物音に気付いた見張りが視線を向けるが、アシュレーの姿はその目に映らない。姿を見えなくするパラのマントが、アシュレーの身を隠していた。見張りの注意が逸れたのを確かめるとアシュレーは堀から這い上がり、パラのマントで姿を消したまま柵の側に身を潜め、そこで朝の訪れを待った。
  柵の内側には麦畑が広がり、粗末ながらも家々が立ち並んでいる。朝の訪れと共に家々から人々が姿を現し、元気な声で挨拶を交わしながら仕事を始めた。畑仕事に炊事、洗濯。仕事の合間に立ち話する女将。その光景にアシュレーは戸惑った。
(「まるで、どこにでもある普通の村と変わらないじゃないか」)
  しばらくして騒ぎが起きる。村の倉の中から飛び出すジャイアントラット。それを村のこども達が手に手に鉈や棍棒を持って追いかける。村人たちも加勢し、すぐに大鼠は退治された。
「今夜はご馳走だ! お肉が食べられるぞ!」
  大鼠の死体を担いではしゃぐ子ども達。家の軒先を見れば、ぶら下がるのは大鼠やカラスの死体。
(「あれを食料に? 逞しい連中だね」)
  どこからか鶏や豚の鳴き声もする。普通の家畜もいるようだ。畑には小麦だけではなく、蕪やニンジン、レタスやセロリっぽい野菜も植えられている。クローバーの花咲く休耕地には、数頭の牛が草をはんでいた。
  どう見ても豊かで長閑な農村風景。潅漑も整備され、足踏み水車で用水の水を汲み上げる農民の姿が見える。
  村人の中に、見るからに他の村人とは雰囲気を異にする男がいた。通乗馬? いや、あれは騾馬だ。かなりがっちりとした騾馬の背に、彼は乗っていた。胸甲以外は革鎧、兜は傭兵が良く使う飾りのないタイプだ。細身の剣を吊るし、スピアを手挟み、軽めのショートボゥと矢筒を背負っている。似たようないでたちの部下数名。
  男が動くその周りで、村人が恭しく挨拶する。
(「村の支配者か。だが、あの安心しきった顔は何だ?」)
  身を屈め、様子を伺うヘクトルは村が醸し出す空気に違和感を感じだ。違和感は、手練の業と隠身の勾玉の魔力を使い最も間近に接近するアシュレーにより強く現れる。

「ルムスさま。今年もソバの備蓄は必要でしょうか?」
「今やっと2年分だ。飢饉や攻囲に備え村人全員が3年は食いつなげる備蓄が必要だ」
「水車小屋増設の件ですが、ご許可を」
「予定地の防備がまだ危うい。現地で直ぐに組み立てられるよう、制作を続けろ」
「ルムスさま。うちの息子が嫁を貰います。結婚のお許しを」
「許す。新床の買い戻しは、カマス一杯の小麦。さもなきゃ20日の労役。どちらか好きな方を選べ。後で祝いの酒を取りに来い」

  ガラこそ悪い。しかし、進みながら訴えを聞くその様は紛れも無き領主である。ルムスと呼ばれる男こそ、村の支配者であることは確かだった。
  できれば柵の内側にも忍び込んで調べたかったのだが、村の守りは固いため、それは難しかった。代わりにシンから預かったデジカメを使い、支配者の男の顔などを撮影。
  日が暮れ。闇に紛れてアシュレー達は村を脱出した。

  杭の柱が林立する場所で後続班を待つ。やがて現れた後続班の皆は、野ざらしにされた夥しい骸骨に驚き、続いて先行班からの報告を聞いて大いに怪しむ。
「あの村を治める者、ただ者ではなさそうだ」
  冒険者達がシスイ領に帰還して後、報告を受けたラベール卿は渋い顔で嘆息。
「どこの馬の骨とも分からぬならず者が、村一つを丸々手中に収めているとは。ああ、何と嘆かわしいことであろう」

(『風雲ルーケイ〜難治の地』より)

 吊す骸(むくろ)は案山子なり、綺麗事では済まされぬ別天地をばそこに見ゆ。

04月20日 軍神
 離騒(りそう)の騎士は現れる、誓いは堅く真鉄(まがね)なり。
 責めも恥も何あらん、男子(だんじ)が意気に感じては、成否を誰か論(あげつら)う。
 きれいな馬鹿こそ我が本懐。誠の騎士に二諾無し。
 滲む血潮の固まらぬ身を押し騎士は現れる。

 がやがやと兵達のざわめき。見ると、よろよろとあちこちに包帯を巻いた騎士が現れた。血の滲んだ包帯と、鎧を着けて歩くのも問題有りそうなローブ姿。
「鎧騎士フレッド・イースタン予てよりの誓願を果たすため伯爵の下に参じました」
  と、やっとの事で口上を言い終えたところで昏倒。慌てて飛び出したアレクシアスは、彼を抱き起こし。
「フレッド・イースタン卿。よくぞ誓いを守って参られた。貴殿こそ竜と精霊の意志がルーケイに使わした軍神に違いない」
  全軍に響き渡るような声で、宣言した。
「おお」
  と、どよめく声が波のように広がる。ホルレーの家臣からは感極まって咽ぶ声も。
  傍らで見ていたベアルファレスは、ふっと鼻で笑い
「茶番だな‥‥」
  小声で呟く。だが、彼も理解している通り、政治には茶番が必要なのだ。そして、それは進み出た吟遊詩人ルナ・ローレライの詩で確定的になる。

♪騎士の誠に二言無く 騎士の誓いは汗の如し
  傷つきながら着た騎士の 誓いを胸に立ち上がれ
  我らに宿るは一角獣 そは純白でありながら 真なる強さを秘めている
  衣と刃を血に染めど 心は染まらぬ混沌には♪

  流石は戦場の魔歌術師と呼ばれし者。茶番劇とも知らずに感激した騎士達の目がルーケイ伯に注がれる中、見事な鎧とサーコートが運ばれフレッドの脇に置かれる。白い布と槍で作った即席の担架に乗せられるフレッドを、全軍が鐙を外し剣を捧げて見送る。
  こんな状態にも関わらず駆けつけた彼と、その主アレクシアスの名はあっという間に広まる事になったのだ。
  エーロン王子に付けられた副官のルエラは後に、これを評してこう語っている。
「ルーケイ伯は手強い奴だ」

(『サン・ベルデ鎮圧作戦G【監軍】』より)

 一人の英傑ここにあり。獅子の心に狐の智、清と濁とを合わせ呑む。
  士心を得るは英雄の前方(まえかた)にして極意なり。