■04月01日発行
天界人は救世主。竜と精霊が招きし客人。一つ一つは小さいけれど、ウィルの明日を動かして行く。
03月04日 挑戦者達
ウィルの国の片田舎。夢へと進む挑戦者達。五つの指を拳と為し、八つの力を一つに合わせ、阻む障害突き崩せ!
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木の皮、麻の茎、麦藁‥‥。沼で発見されたマロウ。思いつく限り集められた材料を前に試行錯誤が始まる。配合やら手順やら、組み合わせ表を作り、一つ一つ潰して行く泥臭く、そして気の遠くなるような作業だ。しかし、何百年も前から研究者が遣ってきたのはこういう地道な作業。万に一つ。いや億に一つの成功も最先端の研究では僥倖。それに比べれば進むべき方法が判っている実験は平易なものだ。
ソフィアは材料を柔らかくする方法として腐敗を試みる。茹でた木の皮や麻の茎にカビなどを混入し寝かせる。しかし、腐って欲しい時に直ぐ腐らせる事は難しく、保留となる。
「か、堅いわね‥‥」
刻んで石臼で挽くが、思うようにならない。
「どれ。貸してみな」
秀之は流石大人の男の人。ゴーゴーゴーと喧しく音を立てて石臼が回転する。
(「ん? まて。変な匂いがするぞ」)
「おわ! 水! 早く水だ!」
勢い余って挽いた木屑から煙が出ている。
「力のいれ過ぎか、手順違いってようですね。茹でてからのほうがいいかも知れません」
濡れた布で火の気を消しながらリリアが呟く。
「俺は木の皮を叩いて柔らかくするか」
九龍は拐を取り気合いを入れて
「ほぉぅわぁちゃ! あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ‥‥」
「沢山造るようになったら、それ九龍君に任せようかな」
マリエの有り難いお言葉。ぎくっとなる九龍。
「ほぉぅわぁちゃ! ほぉあちゃ! ふぁちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ! はぅあ〜! ふぅぅ‥‥」
体力を消耗するわりに、大して柔らかくならない木の皮。とうとう息が切れる。仮にこの方法で上手く行ったとしても。彼以外に出来ないのでは、大量生産などおぼつかない。そこで木槌を借りてきて叩く。今度はゆっくりとリズミカルに。
「これなら、水車を使ってもできそうだわ」
くすりと笑うマリエ。
(『まりえのアトリエ〜かみへの挑戦:準備編』より) |
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失敗、失敗、また失敗。失敗の道を一つずつ、潰して行くが研究ぞ。汚く辛い地味な作業。白い地図と望遠鏡と熱い心を携えて、千里の道も一歩から。
03月06日 国王陛下に捧げし命
竜こそ知恵と力の証、戦い挑む者は誰ぞ。シャリーア・フォルテライズここにあり。レイ・リアンドラここにあり。
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ミントリュース号が回頭する。だが、尾根の合間で60メートルもの船体を動かすのだから小回りがきかず、動きがもどかしい。その間にもドラゴンはアルテイラ号の舷側や甲板をぶち壊し、人を船外へ弾き飛ばす。
ようやく回頭を終えるや、ミントリュース号は急速前進。甲板のバガンは動き出していた。その制御胞内にはシャリーア。自分の待機中にドラゴンが襲って来たのは幸運か不運か? それを問う閑は無い。ミントリュース号の動きを見計らい、シャリーアはバガンを甲板後方に後退させるや、アルテイラ号に飛び移るべく勢いつけて助走させた。ドラゴンがミントリュース号に攻撃を転じる。翼を大きく広げて襲いかかるその姿がバガンの目の前に。だが駆け出したバガンの勢いは止まらない。
「とべぇ! バガン!」
甲板を蹴り、バガンがジャンプ。突っ込んできたドラゴンの首を、バガンの巨大な腕ががっしり掴む。ドラゴンが吼えた。バガンをしがみつかせたその巨体がミントリュース号の甲板を掠めて過ぎ去る。ドラゴンはバガンを振り落とさんと空中で暴れ出したが、シャリーアも振り落とされまいとバガンの腕に力を込め、あらん限りの声でもってドラゴンに叫ぶ。
「マリーネ姫をあなたが害せば、人と竜は戦争になる! 関係無いあなたの全ての同族も狙われ、私たちとお互いに殺し合わねばならなくなる! お互いの世も大いに乱れ、喜ぶのはカオスの魔物ばかり! そんな事は、断じて許すワケにはいかぬ!」
「ほざくな! 汚らわしき虫けらども! 貴様らが犯したその悪行、その体を千に切り裂いて贖わせてくれる!」
人と竜の叫びが入り交じる。両者は空中で揉み合いながら、徐々に谷底へと降下していく。
「あなたの怒りは自分の為ではないだろう! あなたを敬愛する方々を悲しませる所業はお止め下さい! 私はあなたと殺し合いたくなどない!」
涙目で迸らせたシャリーアの叫び。その後に信じられない事が起きた。
しがみついていたドラゴンの巨体が消えたのだ。
「あっ‥‥!」
シャリーアの小さな叫びと共に、バガンは雪の谷底に墜落した。
船上で戦いを見守っていた仲間たちもまた、信じがたい光景を目にしていた。
ドラゴンの巨体があっという間に縮み、その本来の姿を現したのだ。
それは人の上半身と蛇の下半身を持ち、その体に鱗を有し、背中には翼を生やす者。ナーガの娘だ。ナーガは谷底からミントリュース号に向かって舞い上がり、その喉から竜の咆哮に似た叫びが迸る。それはナーガの使う竜語魔法の呪文。魔法は成就し、ナーガは再び巨大な青き竜に変じると、ミントリュース号に襲いかかった。
体当たりをくらい、大きく傾く船。そしてドラゴンは甲板に舞い降りる。マリウス・ドゥースウィント(ea1681)がオーラテレパスで、葵もテレパシーでドラゴンに呼びかけ、攻撃の中止を求めるが、返って来るのは怒りと憎しみの咆哮ばかり。
「憎い! 憎い! 人間が憎い! 皆殺しにしてやる!」
「っく、死なせるもんかぁぁぁぁ!!」
仲間を庇るように、クロスは剣を振り上げて飛び出したが、剣の切っ先も届かぬうちにドラゴンは甲板から空中へ舞い上がる。アルテイラ号やジニール号から飛来したグライダーに引き寄せられたのだ。ミントリュース号号からもディーナ、エルリック、レイのグライダーが飛び立っていた。
レイのグライダーがドラゴンに肉薄する。その巨体の間近を掠めるや急上昇に転じ、今度は落下による加速を加えてドラゴンの頭上から急降下。翼を狙ってランスチャージ。だが、攻撃は無謀すぎた。ランスの切っ先がドラゴンの翼の端を掠った次の瞬間、グライダーの翼がドラゴンの翼と接触。その弾みでグライダーが空中で駒のようにスピン。レイは座席から投げ出され、雪の地面に向かって転落。操縦士を失ったグライダーも、レイの後を追うように落下した。
「レイさん!」
空中でディーナが叫ぶ。と、そのグライダーの前方に巨大な影が現れた。青いドラゴンにも匹敵する巨大なドラゴンだ。それが2匹も‥‥いや、よく見ると3匹だ。銀色と黒の鱗を持つ巨大なドラゴンの後に、それよりもずっと小柄な金色のドラゴンが付いている。
「掟を忘れたか! 偉大なる竜達は、この地でヒトの血の流されることを望んではおらぬ!」
青いドラゴンを一喝するかのごとく、銀色のドラゴンが吼える。それを受けて、それまでの猛々しさが嘘のように、青いドラゴンは身を翻して飛び去った。
新たに出現したドラゴンを話の分かる相手と見たマリウスが、オーラテレパスで呼びかける。
「天掛ける者よ。ヒトにも色々いる。世界を破滅させようとする者もいれば、守ろうとする者もいる。私達は聖山がどうなっているか、巡礼という形をとって確めたいのだ。もし意図的に聖山を汚す者がいれば、私達もその者たちと対抗する」
銀のドラゴンは咆哮をもって答えた。
「これ以上、聖山に近づくな! おまえ達ヒトにまだその資格はない!」
雷鳴のごとくに吼えて答えると、銀色のドラゴンもまた他の2匹と共に、冒険者たちの船を離れて飛び去っていった。
(『竜の力を継ぎし者3』より)
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国王陛下に捧げし命。命惜しむな名こそば惜しめ。心中一句のエレジーを詠む。
「栄光の道は墓へ通じたり」と。
03月16日 疾風のオリエ
闘魂ここに幾日たり、騎士の名誉とアイテム懸けて目指すは勝利の二つ文字。何をか哭かん荒御霊、歓声沸き立つ晴れ舞台。
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「さあ! いよいよスタートです! 速い! 数段速い! 矢張りインか!? おっとファイヤーボムです! 春陽卿のファイヤーボムが右コーナー沿いの人形を焼いた〜っ! 替えはあるのか!? その炎を突っ切る様に、オリエ卿は機体を走らせる! 同時だ! ほぼ同時にヴァイス卿のスピアが左の人形を突き倒した〜っ! これは派手なスタートになったぞ、レッドスフィンクス! 最初のコーナーは、やはり機体コントロールが難しいか!? 速度がかなり落ちる! かなり落ちる! 左はヴァイス卿が無難に倒す! 左のコーナー沿いは、春陽卿が焼き尽くすぞ! おっと、だがやはり、右手奥の一体は残った! 機体のスピードもかなり落ちるぞ! 大丈夫か!? 左手には間隔を置いて二体、右手奥にも同じく二体! あっと、ヴァイス卿が外した! 一体残した! シュバルツ卿もこれには追いきれない! 右手は、無難に春陽卿が一体を焼いた〜!」
「次は直線で御座るよ!」
「チャージングゾーンですね!?」
「オリエ卿! 高い掛け声! 機体を一気にアウトへ膨らませた! 素晴らしい速度! 左手は奥の土手に間隔を置いて二体! だが右手にはずらっと十体が並ぶぞ! やはりここは高得点狙いか〜っ!? あっと、竜志卿! スピア一閃! 一体を倒すぞ! そして〜やはり〜、すれ違い様にファイヤーボムだぁ〜っ! 一気に七体!! 一気に七体を巻き込んだーっ!! 観客席も炎が舐めるぞーっ!!」
「怪我人は無いで御座るよ!」
「歓声と悲鳴で、大気が震えていますわ!」
「インに切った! 竜志卿が返す穂先で一体倒す! ぴったりインだ! ぴったりインだ! 左手前の一体も逃がさない! ヴァイス卿が、一体! そして左右に、三体づつ横並びの! そしてコーナーの中心! 高台には四体が! ああっと、やはり右の三体は春陽卿のファイヤーボム! 左はヴァイス卿! シュバルツ卿が一体づつ受け持った〜! そしてコーナーです! ああっと!? 機体がぶれた! 先程の悪夢が! だが、オリエ卿はあきらめない! あきらめない! 抜けた〜! 高台の四体が春陽卿のファイヤーボム〜っ!! インの一体はヴァイス卿が! アウトの三体は捨てたか! 危ない! 実に危ないコーナーリング! だが、立て直した! 完全にオリエ卿は立て直した〜っ!」
「最後のコーナーは、左インの一体、右沿いには間隔を置いて三体あるで御座る!」
「当った! 当てましたわ! ヴァイス卿が精一杯腕を伸ばして左の一体を撃破ですわ!」
「おっと! 春陽卿のファイヤーボムは一体だけだ! いよいよ直線! 最後の直線! 行く手を阻む敵の陣営! 5掛ける2! 5掛ける2列の防御壁! 素晴らしい速度! 速い! オリエ卿、速い速い!! 真っ直ぐだ! 真っ直ぐ機体でチャージ! 全員で蹂躙! 全員で蹂躙! おっと! 残った一体に止めとばかりに春陽卿のファーヤーボム〜っ!! 最後に紅蓮の炎に染め上げて、ゴール!! ゴールです!! 疾風だ!! 疾風のオリエ、本当に速い〜っ!!」
(『輝け!第一回ゴーレムチャリオットレースC』より)
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紅蓮の炎に染め上げて、疾風オリエは風に乗る。諸侯の覚えもめでたくて、見事勝利をつかみ取らん。戦友(とも)よ見てくれこの勇姿。今日の勝利を胸に秘め、勝ち鬨上げん諸共に。
03月22日 招賢令
天界人の知恵聡し、世のしがらみも今は無し。王は自ら謙り、召すのではなく招き給う。
されど賢者よ心せよ。言葉は黄金、舌は剣。己(おの)が命を己(おの)が裁かん。
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最後の奏上を為すのはバルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)。母国語ゲルマンの詩を賦して訴えた。
♪儲(もうけ)の君の畏(かしこ)くも
聖上掲げん鴻鵠の志 愚民知らすは燕雀の治
日に新しく明たりて 安寧秩序を授け給え
民(たみ)哺(ほ)を含みてぞ充足す 美味し夢を与え給え
国の光は王独り 臣求むるは勅諭(みこと)なり
魔の棲む鉱山(やま)に古戦場 海賊王の庭たる海
万丈の山千尋の谷 越せば潤う難 数多(あまた)
あれあり望む大ウィルに 当(まさ)に大詔(たいしょう)下すべし
征け和げよと命ずべし
高き尊き大王よ
史(ふみ)繙(ひもと)きて見る毎(ごと)に
童(わらべ)も君に憧れん♪
最後の言葉を、バルバロッサは己の胸を指して言い放つ。武骨なる声ながらも、胸打つ響き。武人の熱き血潮の滾りに王も感じ入り、これに答える。
「なれば、その方の望む褒賞を授けよう。余の号令は明日にも下ろうぞ」
そして王は、冒険者全員に言葉を下す。
「その方達の進言は全て聞き届けた。明朝、謁見の間に集え。約束通り、その方達には褒賞を授け、そして新たなる王命を下す。心して待つがよい」
(『寵姫マリーネの宝物外伝〜招賢令』より)
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来たりし賢者は十有四。全て諸侯に列されん。犬に狩り場が与えられ、チャンピオンが君臨す。いでや行かんルーケイの地。勇み励みて勉むべし。
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