6月――女神ジュノーの祝福を得たという伝説にあやかったイベント、【ジュノーの祝福】は盛況のうちに終了した。
街中には様々なトラップと花々が仕掛けられ、人々は祝福の花を求めて街中を走り回った。
ある者はびっくり箱に驚き、ある者は粉まみれになり‥‥一部阿鼻叫喚の地獄絵図だった所もあるようだが、幸いどれも大怪我をさせるようなトラップではなかったし、中には楽しんでトラップに引っかかりに行った者達もいるという。
「でも、街中がお花で飾られているの、とても素敵だったよ」
「ん〜探すのが食べ物だったら、頑張ったんだけど」
ギルドの一角で【ジュノーの祝福】当日の事を語るリアン・ソーヤの横で、姉のジル・ソーヤがテーブルに肘をついてその上に顎を乗せている。この娘は年頃なのに、ジューンブライドよりも食べ物の方がいいらしい。
「同感っ! やっぱ食いモンがなけりゃ盛り上がらねーよな! 今度は食いモンの神様の祭りなんてどーだっ!」
「いい! 賛成っ!」
ばしっとテーブルに両手を突いて立ち上がったディアン・シュミットの言葉に、ジルががばっと顔を上げて瞳を輝かせる。
「食べ物の神様って‥‥豊穣の神様ってことになるのかな?」
当の本人達はそんな事まで気にしていないだろうけど、リアンは真面目に首を傾げた。
「まあ、楽しんでもらえたならギルド長室まで貸し出した甲斐があるんだがな」
聞くともなしに三人の話を聞いていたギルド長、オールヴィル・ドランヴァースが微妙な表情で笑ってみせる。
「後片付け、大変そうですね」
忙しそうに働くギルド員たちを見てリアンは何か手伝ったほうがよいのだろうかと腰を浮かせたが、オールヴィルに「まあ奴らに任せておけ」と言われて再び腰をおろした。
今回のイベントではギルドだけではなくギルド長室にもトラップが仕掛けられた。もやしプリンやお菓子が設置されていたこともあり、後片付けが大変だったとか何とか‥‥。しかも大量のブリーダーが花を求めて乗り込んだのだ。探されたくない場所には鍵をかけていたとはいえ、やはり色々な意味で心労は尽きなかったのかもしれない。
「しかし‥‥隠すものが食べ物だとしたら、ジルとディアンは集める以前に発見したら即食べそうだな」
「「もちろん!!」」
当たり前でしょ何言っているのというような表情で返され、それじゃ意味がない気がすると心の中で呟いた、オールヴィルとリアンだった。
そんな平和なやり取りがギルドで行われている頃――王宮の庭園にて。
「それでは、イベントは無事に終了したのですね?」
「うむ。そのようですな」
カルディアの姫、エリューシア・リラ・ジュレイガーに対しているのは管理局特別警備隊隊長のガ・ソイである。城勤めの彼は弟子であるオールヴィルより当日の様子を大まかに聞いていた。
「それならば、安心です。‥‥ふふ、きっと楽しそうな催しだったのでしょうね」
「姫様‥‥は‥‥」
イベントの様子を想像して微笑むエリューシアに、隣に座ってティーカップを見つめていたアイラ・バレッサがぽつり、呟いた。だがその続きを口にするのはためらわれ、彼女は言葉を飲み込んでしまう。
「やはり、女神ジュノーの祝福に憧れるのでしょうか?」
アイラの言葉を引き継ぐようにして紡ぎだされたのは、エリューシアの対面に座る金髪の男性の言葉。クレイ・リチャードソンだ。腹の底の覗えぬいつもの微笑を浮かべ、ティーカップを片手にエリューシアを見つめる。
「え、あの‥‥その‥‥」
その質問は意地悪ではないだろうか――エリューシアの気持ちを知っているアイラはそう思った。案の定、彼女は返答に困っている。
一国を支える姫とはいえ一人の女性。エリューシアが憧れぬわけはないのに。それも、仄かに思いを寄せる相手からそう言われては、返答に窮するというもの。だがクレイはそんな様子を楽しむかのように微笑んでいた。
「ごほん」
ソイは見かねて場の雰囲気を変えようと咳払いを入れてみた。やっぱりティータイム中に邪魔をしたのは間違いだったか――いや、ソイがおらずともこの展開は変わらなかったよな気もするが。
「楽しい話題のところ恐縮だが」
「あ、はい‥‥。パレードの時の事ですね?」
ソイの言葉に姫が顔を上げて姿勢を正す。
パレード――5月の式典の際に行われたそれにあわせて、エリューシアの暗殺計画が持ち上がっていた。ブリーダー達や管理局特別警備隊のおかげで幸い大事には至らなかったものの‥‥。
「一応王宮側の首謀者は突き止めたが、もう一つの、はっきりしない証言の方は未だ何の情報もつかめておらん」
暗殺者には二種類いた。お城の偉い人に頼まれたという者達と、暴走エレメント退治をしていたら、いつの間にか姫を暗殺しなければいけないような気分になっていた。不思議な人物と話をしていたら、いつの間にか姫をパレードで暗殺するという気になっていた――そんな証言をする者達。前者はともかく後者に至ってはまったく情報が得られぬままである。
「そうですね‥‥。何か、嫌な予感がします。何か‥‥が‥‥」
エリューシアはつ、と空を見上げた。アイラもつられるようにして空を見上げる。
空は雲ひとつなく、澄み渡っていた。
だが心に広がった不安という名の不穏は、空に雲を落としたようだった。
――某所。
「ねえ、この後どうすんの?」
「あなたの計画に協力してあげてもいいよ」
剣士や傭兵のような服に身を包み、肩に鳥の羽のような装飾品を乗せた青年の問いに、フリルたっぷりの黒を基調とした衣装に身を包んだ金髪の少女が高慢に答えた。
「でもさ、姫の暗殺って失敗したんだよね? そぉんな程度の力なんて借りたってしょーがないじゃん?」
男はくすくすと笑う。
が、相手の少女が頬を膨らませた様子を見て、冗談だと言う様に首を振った。
「‥‥って言いたいトコだけど♪ オレはまだまだ半人前だしね。オレひとりで、っゆーのが無理なのは解ってるよ」
男は長めの前髪をかきあげ、ふう、とため息をついた。その腹部には特徴的な刺青が走っている。
「姫の暗殺は余興だもの。今回は失敗しても問題なかったし。それにクリム様は可愛い私が大好きなんだもん。だから少しの失敗くらい許してくれるの。クリム様の命令だから、手伝ってあげる」
「は〜いはい。もう、キミもあの女と一緒だよねー。二言目にはクリム様クリム様って‥‥」
面倒くさそうに片手を上げた男に対し、少女は眉を吊り上げた。
「私をあんな年増と一緒にしないでっ! それにクリム様を馬鹿にしたら、仲間だって容赦はしないんだからっ!」
「わかった、わかった。とりあえず落ち着こうよ、ね? キミにはこれから重要な役目をしてもらうんだからさぁ」
「わかればいいのよ、わかれば」
とりあえず少女の機嫌を取ることに成功した男は、表情を真剣なものに変えて。
「で〜っかいのを一発‥‥ドカンってやっちゃおうね♪」
視線を――南東の方角へと向けた。
■解説
◇ジュノーの祝福(基礎情報)
情報1(妨害トラップとは?)
情報2(各施設について)
情報3(関連依頼一覧)
情報4(採用妨害トラップ案一覧)
情報5(特別功労者一覧)
情報6(刻銘一覧)
情報7(花集め功績ランキング)
■NPCより
みんなありがとう! |
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