■ジューンブライド「祝福の花」

■<A区域>
●トラップ・ショップ
 ジューンブライドを祝う「ジュノーの祝福」。その中で最大のイベントとされたのが、今まさに幕を開けた花集めである。
 街中に飾られた花を集めるべく、ブリーダーたちがエカリスの街中をまさに東奔西走する中で、何故かブリーダーショップ『Fennec』の、それもカウンターに居座って観客に徹していた男が一人いた。アーク・ローラン(ha0721)である。
 無論、このFennecも、皆が捜し求める祝福の花が配置されている。結構な数のブリーダーが、店中を探索・奮闘していた。
「あ。そこ踏むとっ‥‥!」
 エナジー・コア(ha4282)が近くを通りがかった瞬間を狙って、突如大声を上げるアーク。思わずぴしりと固まり、硬直したままぎぎぎと振り返るエナジーに、
「――床が軋むんだ」
あは、と笑ってみせるアーク。エナジーはぐったりと肩を落とすのであった。

 ‥‥そう。ただの花探しで済む筈がなく、多数仕掛けられた妨害トラップをかいくぐらなければならないと言う、サバイバルにしてアスレチックな、トンデモ花探しなのであった。

 Fennecには当然、各種商品が置かれている。商品の影や下など、花を隠すには格好と思われる場所は多い。
 ジノ(ha3281)やリル・オルキヌス(ha1317)もそう判断し、商品の並ぶ一角を探索していた。ショップの売り物を見て回り、確かに置かれた、あるいは隠された花を一つ一つ集めていく。
「僕だっていつかは素敵な人を見つけてお嫁さんになるもん!」
 意気込んだジノが、陳列棚に置かれた兜の奥を覗き込もうとした瞬間。
「きゃっ!?」
 びよぉん、びよん、びよん。下に仕込まれたバネで兜が飛び上がり、ゆらゆらと揺れる。ちょっと呆然とした彼女に、すぱーんと小気味良い音を立てて容赦なくハリセンが振り下ろされた。
 その傍では箱の中を覗き込んだリルが、慌てて顔を引っ込める。
「こ、こっちはトリモチ‥‥」
 手を入れたら手を取られる仕組みだったのだろう。冷や汗をかきつつ改めて箱を覗き込み、真ん中に置かれた祝福の花だけをそっと引き抜いた。
「幸せになってもらえれば、‥‥嬉しい、です」
 その祈りは、誰に向けられた物なのか。
「暗い場所に多そう‥‥あっ」
 ツェリア(ha2134)の言葉を隠す、ぶしゅーっという音。‥‥声どころか、姿までが煙に隠れている。隙間や暗がりを確認しようとしていたのだが、どうやら煙の出るトラップを引いてしまったようだった。

「いやあ、頑張ってるみたいだねえ」
 喧騒をよそに、暢気に笑うアーク。傍にあった試食品のお菓子を一つまみ口に入れて、
「‥‥!? 〜〜ッ!!」
口を押さえて転げまわった。試食品が全て、激辛のトラップにすりかえられていたのである。
「‥‥ふむ、少々辛みが足りませんなあ」
 アークの様子を見てひょいと一口つまみ、平然と言うのはニキ・ラージャンヌ(ha0217)。もっと持ってこいと言わんばかりに、彼は次々激辛試食品を貪り食って行く。‥‥試食品を全て食い尽くさんばかりの勢いを見るに、どうやら後でスタッフが美味しくいただく必要はないようである。

 そんな喧騒を少し離れて、花を探す一組の男女。
「皆‥‥楽しそう、です」
 小さく笑みを浮かべるのは、ルナ・ティルー(ha0318)である。彼女は柴犬のヘレスの嗅覚を頼りに、花を捜し歩いていた。
 そのうち、ヘレスがふんふんと鼻を鳴らして立ち止まる。その先を見れば、花器に品良く花が生けられている。
 ‥‥その一本に、祝福の花を示すリボンが巻かれていた。
「それじゃ、あれを取ってきますね〜」
 言うが早いか、ミュワ・アスラーダ(ha3760)が同じく柴犬のウメを先行させる。トラップ確認の偵察に駆け出したウメは、ややあって‥‥何かを咥えて戻ってきた。それを覗き込む二人。
「‥‥カリントウ?」
 何故こんな物が。かつかつとカリントウを齧るウメとヘレスをなんとか抑えつつ、二人は顔を見合わせて首を捻るのだった。
 ちなみに残ったカリントウは、その後スタッフが今度こそ美味しくいただきました。

 Fennec店内だけではない。店を出た周囲にも勿論、花は置かれている。
 特に屋根の上に目をつけたのが、豊田泰久(ha3903)であった。どうやったのかFennecの屋根に登り、上から探すという荒業に出たのである。ハヤブサのカズキを空に回し、屋根の上を調べていく。罠と言うよりも、むしろ足を滑らせないよう注意を払う必要があった。
「六月の花嫁‥‥俺はお呼びでない気もするが」
 そう呟きつつも、本当に屋根にあった祝福の花に手を伸ばそうと一歩踏み出した瞬間、ばきりと乾いた音。泰久は思わず目を見開く。
「落とし穴ぁっ!?」
 ばきばきずどーんと、豪快な音を立て‥‥泰久は屋根裏部屋へとご招待されたのだった。
 その音を聞きつけ、アルビスト・ターヴィン(ha0655)が、上を見上げる。
「‥‥今の‥‥何‥‥?」
 天井の更に上では、彼にわかるはずもなく。やや首を捻りながらも、
「‥‥ともかく、花集めればいいか‥‥」
と、花探しを再開するアルビストであった。
 ちなみに屋根は店主了解の元、一部を改装し落とし穴仕様にしてあります。イベント終了後、速やかに元に改装し直されますのでご安心ください。

 喧騒に包まれたFennecに、敢えて時間を置いて現れたのがエルンスト・ヴェディゲン(ha0252)である。
 他の者が既にトラップを作動させ、安全になったところでゆっくりと花を探して回ろう、という心算であった。
 しかし、トラップが作動したと言う事は、大体においてその場所は既に調べつくされ、の花は既に持って行った後である。最初からトラップがないところは、それこそしっかり調べられてしまっていた。
 そう簡単に行く訳がないかと、更に奥を調べようと足を踏み出したときだった。
 ずぼっ、とエルンストの片足が床板に沈む。いや、床板ではなく、それっぽく見せられた紙であったようだ。落とし穴、と思う間もなく、エルンストの下半身は床下に埋まってしまった。
「‥‥ふん」
 不機嫌そうに鼻を鳴らすエルンスト。どうやら、花よりもトラップの方がまだ残っていたようだった。

 さて、そんな中。一人、頬を赤らめる少年がいた。
(「アディさんが臨時店員をしていた事があるショップは、実はボクが一目惚れした思い出の場所‥‥」)
 ミシェル・シェリエール(ha3393)は、きょろきょろと周りを見回し、そのアディ・マクファーレン(hz0033)の姿を探す。しかし運悪く、この場にアディはいないようだった。少々気落ちしつつも、彼女と刻銘をとばかりに花探しに奮闘するミシェルであった。
 アディが彼の想いに応えるか否かは、ジュノーのみが知りうるのだろう。

●パニック・ギルド
 ところ変わって、皆様ご存知ブリーダーギルド。
 普段は依頼を求めるブリーダーがあつまるこの施設も、今日は花集めのポイントの一つとして、その様相を激変させていた。
 それはさながら、ブリーダー達による強制捜査のよう‥‥とは流石に言い過ぎか。ともかく、中々壮絶な状況であった。
 その強制捜査っぽさを演出しているブリーダーの一人が、シャクリローズ・ライ(ha2784)であった。
「一応人が隠すものだから人の考えを読んで、裏を読んで‥‥ありえないところを」
 中々の推理である。勿論見つけやすい花もあるにはあるが、ありえないと思えるところにも隠してあるはずであった。
「天井板はずしていいかな? 床も壊していい?」
 流石にこれは、ギルド職員に止められたのだが。
 そんなシャクリローズの脇を通って、ギルド内を飛び回るのはテフテフ(ha1290)。シフールの身軽さを活かして隅々まで調べようとする彼女は、天井から下がる糸に気がついた。思わず糸を掴み、その先を見下ろすと、花瓶に活けられた祝福の花。反対側、すなわち天井を見上げると‥‥。
「え、あ、きゃぁっ‥‥」
 途中で悲鳴が聞こえなくなったのは、上から降ってきた熊の彫像。中というか、下からくりぬかれた作りになっており、花瓶から造花を取ると彫像に閉じ込められる‥‥という寸法である。中で必死に壁を叩くテフテフだが、ジャイアントでも閉じ込められるよう大きく作られた彫像はびくともしない。
 ‥‥なお、熊の種類についてはお察しください。たとえそれが、ブリーダーギルドでしか見かけられない希少な熊であったとしても。
「ぶっ! ‥‥そんなとこに罠あったのかー」
 テフテフが閉じ込められる瞬間を目撃して、浅野任(ha4203)が思わず吹き出した。彼も絶対ない場所を探そうと、壁にかけられた絵に手を掛けていた。額縁の裏を調べてみようと試みる途中の出来事であった。

「この部屋とか、怪しそうだね」
「‥‥フィンちゃん、気をつけなきゃダメだよ?」
 ギルドの一室を覗き込む、フィン・ファルスト(ha2769)とレイス(ha3434)の二人。彼らが覗き込む小部屋で、特に目を引いたのはテーブルの上に置かれた‥‥クッキーやカップケーキなどのお菓子であった。
「『ご自由にお食べください』だって。‥‥ちょっと貰おっと」
 部屋に入り、クッキーをひとつ摘み上げるフィン。「行儀が悪いなあ」と、続いて入ってドアを閉めるレイスを尻目に、ぱくりと一口齧る。
「うん、美味しい‥‥って、え!?」
 食べた瞬間を見計らって、物陰に潜むハーモナーがイリュージョンを詠唱。果たしてその幻覚は。
「ふ、服が‥‥キツく‥‥!?」
 フィンは自らの身を見下ろして硬直する。古来より、甘いものは乙女の大好物にして、最大の罠でもあるのだ。
「うわあ、フィンちゃん、む、胸がっ!!」
「って、何を見てるのよぉっ!」
 レイスが見た幻影は何だったのだろうか。顔を赤らめ、胸元を隠して思わずうずくまるフィンであった。
 ちなみに残ったお菓子については、例によってその後スタッフが美味しく頂きましたが、その後運動を余儀なくされたのはここだけの話です。

 そんなドタバタ騒ぎを他所に、黙々と花を集めていくのはアッシュ・クライン(ha2202)である。罠には注意を払い、確実に花を集めていく。
 彼が次に目をつけたのは作戦会議室であった。程ほどの広さがあるし、テーブルや椅子、書棚など、物を隠す場所も多い。
 アッシュが会議室のドアを開け、中に踏み込もうとすると、
「‥‥! 何だ!?」
 突如視界を遮る何かに、条件反射的に抜剣しようとし‥‥すんでの所で踏みとどまった。
「肖像画‥‥か」
 何故か天井から、強面の中年男の肖像画がぶら下がっていた。ドアを開けると落ちてくる仕掛けだったようだ。
「‥‥恐らくはトラップなんだろうが、意図が判らんな」
 冷静に肖像画を除け、今度こそ会議室へ踏み込むアッシュ。普通にスルーされ、強面に無理やり笑顔を浮かべアブドミナル・アンド・サイをキメる中年男の肖像画の目の端に、涙のような光が見えたのは恐らく気のせいであろう。

「ほっーほっほっほ! A地区のトラップ班の腕前、見せて貰いましょうか!」
 既に一部では炸裂しまくっているのだが、それはともかく。高笑いとともに登場したのはロゼッタ・ロンド(ha3378)その人である。
「普段入らない部屋って楽しみじゃない。花探しついでに見物するわよー」
 そんな訳で、普段入る事の出来ない部屋‥‥すなわち、ギルド長の執務室に侵入を開始した。物珍しげにきょろきょろと見回すロゼッタ。執務室を歩いていくと、途中で何かに足が引っかかった。
 頭に疑問符を浮かべたロゼッタが足元を見下ろすと、そこにはいかにもブービートラップなワイヤーが。顔を上げたロゼッタの、それも口を目掛けて何かが射出された。
「むぐっ‥‥んむぅーっ!?」
 呆然と開いた口に突っ込まれたそれは‥‥一部で有名、ある意味お馴染み例のアレ。モヤシが禍々しく突き出た通称MP、正式名称モヤシプリンであった。あまりの不味さと不自然な食感に、思わず倒れ臥すロゼッタであった。
 ちなみにもしもこのトラップが発動しなかった場合、例のまた例によってスタッフと言う名のギルド職員が処理と言う名目で美味しく‥‥美味しく!? ‥‥いただく羽目になるところであり、職員たちは密かに胸を撫で下ろしたとかしないとか。

「あった! ‥‥うぅっ」
 エリアーデ・クロスフィア(ha4264)は、ちょっと鼻をぐずつかせながらも、ギルド前の花壇で見つけた祝福の花に喜びをあらわにする。先ほど、集める花‥‥にそっくりな偽の造花に引っかかり、仕込まれていたコショウで盛大なくしゃみを連発させたところである。花が鼻を攻撃するトラップに、
(「誰も上手い事言えなんて、言ってないよ‥‥」)
とちょっぴり涙目のエリアーデであった。なお、涙の原因は主にコショウである。
「こんなに一生懸命咲いているのに、手折るのは残酷‥‥かな」
 今回の花探しでは殆どが造花を使っているのだが、一部にはこうして生花も使われている。やがて思い立ったように、その場を立ち去るエリアーデだった。
 ――花壇に咲く祝福の花が、彼女を見送った。

 さて、花集めであるからには、今日のギルドはいたるところで花の香りが漂っている。そんな中、それを逆手に取る者もいた。ミスティア・フォレスト(ha0038)は、自分が探索を済ませた場所に香水を振りまき、後続への撹乱としたのである。
 そうやって花を確保した彼女は‥‥今度はギルドの中庭に石を積んで網を敷き、火を入れてBBQを強行し始めた。花の匂いと相まって、何と言うか筆舌に尽くし難い匂いになりつつある。
「たまにはこういうのも悪くないな」
 BBQに参加し、串焼きの肉に舌鼓を打つカナタ・ディーズエル(ha1484)がしみじみとこぼす。あまり躍起にならず、散歩ついでに花集めをと考えていた彼には、この誘いは魅力的であった。
「焼肉の仲なカップルも、おつな物と思います」
 カナタの他にも集まった、意外と多くのブリーダー達に快くBBQを振る舞いながら、ミスティアは他人事の様に呟くのであった。

「‥‥あら、これは‥‥?」
 カーラ・オレアリス(ha0058)は、ホーリーライトで照らした物陰に見つけた花を、エレメントの鳥子に回収して貰い、受け取った花を手に、小首をかしげていた。
 祝福の花には、それを示すリボンが巻かれているのだが‥‥それとともに、なにやら別の紙が巻きつけてある。紙を引き抜いて、広げてみると‥‥。
「これは‥‥被害届に、破損届‥‥の、写し‥‥かしら」
 過去の依頼で出た損害をまとめた報告や、他にも職員の愚痴。やけに生々しく、かつ現実的な内容に、ちょっぴりお祭り気分に水を差されるカーラである。
「ま、まあともかく‥‥皆さんお幸せに♪」
 それでも、恋人たちを祝福して微笑むカーラであった。

 ――時間は進み。
 そんなこんなで花探しがひと段落ついて、ギルド職員やヘヴィ・ヴァレン(ha0127)らブリーダー有志が強力して後片付けを行う中。
 一輪の花を持ったジェファーソン・マクレイン(ha0401)が、ある人物に微笑みかけていた。
「お疲れ様、よければで構わない‥‥受け取ってほしい」
 そう言って、花を差し出すジェファーソン。彼に相対するのは、管理局局長ことローラ・イングラム(hz0004)であった。
 このために、彼は極めて真剣に花集めを行っていたのだが‥‥今の彼は、そんなそぶりを微塵も見せず、穏やかな笑みを浮かべていた。
 ローラはそんな彼の表情を見て、それが真剣な物と判るからこそ――。
「‥‥その花は、受け取れません」
 静かにそう告げると、立ち去っていった。
 ジェファーソンは差し出していた花を下ろし、やるせない笑みを浮かべてため息をひとつ、つくのだった。
「――振られた、か」
 恋をする全ての者に、祝福を。

●風雲!・ホール城
 少々時間は前後して、花集めに巻き戻る。
 エカリス市内で建設作業が進められているホールは、本来ならば立ち入り禁止とされている。この日は特別に、花集めのために開放されていた。
 多くのブリーダーが花集めに精を出す中、ホールの観客席に座る一組の男女の姿があった。
 男性の名を、ライディン・B・コレビア(ha0461)。女性の名を、ラピス・ヴェーラ(ha1696)。恋人どころか、結婚を間近に控えたカップルである。
 早々に刻銘を済ませた二人は、ティーセットとお弁当とケーキでピクニック気分。もはや完全にデートであった。

 工事の進められているホールの、それもコロシアム部は特に足場が悪い。何箇所かに足場となる板を渡し、どうにか通行を確保する状態だった。
 ‥‥密かにその板に、脆い板が紛れ込んでいた。工事で掘られた穴に落ちるよう、落とし穴として機能してしまっている。ロット・ヘーゲン(ha3574)も、そうして割れた板ごと掘った穴の下に落ちた一人だった。
「大変じゃのう」
 と、そんな彼らを尻目に飛んで行くのは、シフールのユラヴィカ・クドゥス(ha0123)とディアッカ・ディアボロス(ha0253)の二人である。
 コロシアムは特にこの手のトラップが多いため、これらを避けて屋内に入り、観客席へと上がる階段を上ろうとした二人だが。
 ごろん、という大きな音にふと見上げれば、階段の上から大きな球が転がり落ちてくる。そのサイズたるや天井まで塞ぎ、これにつぶされてはたまらないと慌てて回れ右、そのまま大玉に追いかけられて一直線にコロシアムに逆戻りする羽目になる二人であった。

「ポ〜〜〜〜〜〜ッ!」
 突然響き渡る奇声。中田二郎(ha2131)ら、近くのブリーダー達ががぎょっと目を剥いてきょろきょろ見渡すと、コロシアム中央で指を天高く突き上げたミヒャエル・ヤクゾーン(ha0448)の姿が目に入った。
「アオッ!」
 やたら甲高い奇声を発し、彼は踊りだす。やや前傾の姿勢で前に歩くような足つきで後ろに下がるバックスライド――俗に言うムーンウォークを決めて、注目を集める‥‥かと思われたが、他のブリーダーは花探しの真っ最中。残念ながら、ゴージャスでビューティホーな踊り(自称)に目を向ける者は殆どいなかった。二郎も結局スルーして、花探しを再開する。
 観客はいない。だが、それでもミヒャエルは踊るのである。花そっちのけで。

「まったり‥‥ですわ」
 花探しに奔走する他のブリーダー達を尻目に、嫣然と微笑むラピス。ライディンはそんな彼女の肩を抱き寄せ、同じく微笑を浮かべる。
 二人の時間は、ゆったりと流れていた。
「う〜ぼぁ〜!!」
 割と近くで落とし穴に落ちるリント・ホワイトスミス(ha2209)の姿は、勿論目に入らない。恋とは盲目なのである。

 コロシアムの探索を終えて、外に出て行く一人の少女。
「お嫁さんかぁ‥‥ぼくにはまだ早いね!」
 そう言って笑う彼女は、手に抱えた祝福の花を別のブリーダーに手渡す。
「拾って、捕まえて、人にあげればいいんだよね! はいっ」
 受け取ったブリーダーは彼女に手を振ると歩いていく‥‥B区域へ。
「ええっと、失格じゃないよ‥‥ね? もしバレたら、笑って誤魔化しちゃえ☆」
 ――アリエラ・フィンブル(ha2887)。彼女は、B区域のブリーダーから派遣された、妨害工作員であった。

 特に罠の多く体の動かしやすいホールでは、ちょっと目的を勘違いする人たちもいた。
「うおぉぉっ! バナナの皮は俺のもんやぁああっ!!」
 ずるっすてーん、と豪快にすっ転んでみせるのは斎賀東雲(ha1485)。そのまま更に、階段から転げ落ちてみせる芸人根性ぶりである。
「フッ、いかなる罠も踏み越えてみせる!!」
 不適に笑うルイス・マリスカル(ha0042)。コンバートソウルをしてまで、わざと作られたコブで転び、花を狙ってあからさまに怪しい茂みに突撃してそのまま泥沼に落ちる。
 アルフレッド・スパンカー(ha1996)も負けてはいない。小麦粉を被り、水を被り‥‥もうなんというか、真っ白で元がだれだかさっぱりわからなくなりつつある彼だが、それは気力と体力の続く限りトラップを踏み越えてきた証である。後続の者たちの為の露払いという名目だったが、途中から花ではなく罠にかかることがメインになっている。
「愛はためらわないこと、愛が苦しみならいくらでも苦しもう!!」
 高らかに宣言するルイス。泥まみれの彼は、何故か輝いて見えた。
「まだまだ、これからだ」
 ずんっ、と立ち上がり、きっと前を見つめるアルフレッド。その雄々しき姿は、まさしく漢のそれであった。‥‥水に溶けた小麦粉が貼り付き、相変わらず誰だかさっぱりわからないが。
 三人の男たちは頷き合い、次の罠を求めて駆け出す。
「‥‥って、こんな催しでしたっけ?」
 ふと我に返るルイスだが、既に本末は転倒していた。
「次のバナナはどこやぁーっ!!」
 東雲の雄叫びが響き渡った。

 相変わらずいちゃいちゃしているライディンとラピス。彼らの話題は、やがて近くに控えた結婚式の話になり、その後の生活の話へと変化して行き――。
「幸せに‥‥するから、ね」
 そう言って、ライディンはそっと愛しい人に口付ける。
 桃色全開の空間を生み出す彼らに、周囲のブリーダーも近寄れず‥‥見事なまでに二人の空間を作り上げていたのであった。
 ――ジュノーの祝福の、あらん事を。

<担当 : 越山 樹>


■<B区域>

●公園は花一色

 町中を飾る沢山の花々が馨しい香りを風に運ばせている。ジョジョル・マルーン(ha0413)は「なんとも美しいことだねぇ」と目を細めた。そんな中、競うように花を探る人々の姿があった。オルザ・アルザール(ha2343)は「なんだろ‥‥」と小首を傾げた。ゆっくりとベンチからタルト・マグナス(ha3327)が立ち上がる。
「さて、行くとしますかね」

「やる気だけなら、200%ぉ〜! お花集めて運動不足解消なのよ!」
 コチョン・キャンティ(ha0310)は猛ダッシュで公園の中へと駆け込んだ。花壇へ向かおうと木々の間をすり抜けた時、足元に嫌な感触があった。
「へ? ‥‥ふぎゃー!」
 ぷつん、と糸が切れる小さな音が耳に入った。次の瞬間、粒つぶした何かがざーっと雨のように降り注いできた。後ろから走ってきたアレス・ヘーゲン(ha3575)も巻き込まれる。粒つぶは髪に絡まり、なかなか振り落とせない。
「うわあああ!」
 ばさばさ、と羽音を響かせて、多数の土鳩がコチョンとアレスに群がった。頭に顔に肩に腕に、至る所を啄ばまれる。2人が鳩を追い払おうと必死になっているところを、にやりと笑って扇獅童(ha2126)が通り過ぎた。
「警戒を怠るとは甘いですね。さて、探しますか」
 慎重に花壇に向かうが、花がいつもより多く生えているように感じられる。一体どれが祝福の花なのだろう?
 う〜ん、とネルネル(ha3438)も腕組みをしながら花壇の中を探していた。
「どれが祝福の花なのか、わからないです」
 これかな、と引っ張ってみると、最近植え込まれたばかりの花のようだった。しかし、祝福の花ではないと言い切れるだろうか? このイベントのために植えられた祝福の花かもしれないのだ。
「これがそう‥‥か? しかし、なんか町中の女ががっついてみえて怖いんだが‥‥」
 ジェレミー・エルツベルガー(ha0212)が、がさがさと花壇を荒らしながら悩んでいた。花を摘んでは首を傾げる、その繰り返しだ。ライラ・バーストン(ha4279)も花壇で足止めを食っていた。花は手に入るのだが、祝福の花に似ているため判別がつかない。ともあれ、銘々にこれが祝福の花だと思うものを手に取った。
「のんびり行こうか、ルリミス」
 柴犬のルリミスを散歩させていたバルク(ha3615)は、そんな光景を横目に、何となく気紛れに植え込みの奥にひっそりと生えていた花を摘んでみた。
「誰か‥‥知ってる? ‥‥お祝いする‥‥お花‥‥」
 空から舞い降り、グリーンワードで花に直接語りかけたルシオン(ha3801)はバルクの手にした花が本物だと確信し、「‥‥女神のお花‥‥綺麗‥‥」と呟いた。
 先刻まで花壇を漁っていた面々の目が光った。にじり、にじりとバルクに距離を詰めてくる。本気で探している人に花を差し上げてエレメントの散歩を続けよう、と思っていたバルクは、思わず後図去った。
「花を、花をよこせぇぇぇ」
「うわああああ!」
 バルクはもみくちゃにされ、祝福の花を奪われて芝生にどうと倒れこんだ。ぺろぺろとルリミスが頬を舐めて労わってくれる。目の端に、1輪の花を巡って更なるバトルが展開されているのが映った。
「‥‥人の欲たるもの、恐るべし‥‥がくっ」

 そんな阿鼻叫喚を空から楽しみながら、シャクリローゼ・ライラ(ha0214)は歌の題材としてメモを取っていた。とっても、とっっても楽しそうにふんふんと記録を続けている。
「みんながんばって下さいね〜」
 にこにこと手を振るその下で、シェルシェリシュ(ha0180)がディテクトライフフォースを使って人の気配を探りながら、造花を探していた。素手でさわさわっと撫でて探りを入れる。
「伏兵はいないようですねー。頑張るのですよー!」
 造花は点々と植え込まれていた。シェルシェリシュは見つけた造花に誘導されるように、ふらふらと公園の奥へと入っていく。積極的に何かするわけでもなく、クーナー(ha4246)が傍観しながらついてきた。
「皆なんだか‥‥いつもより幸せそうです‥‥」
「‥‥いつもより殺気立っている、の間違いじゃないでしょうか〜。でも面白いからいいですね〜」
 空でメモを取る手を止めてシャクリローゼが微笑んだ。柴犬を放して様子を見ていた嵯峨空也(ha4265)は何となくシェルシェリシュと自分のエレメントの動きを見て、罠の気配に気付いていた。
「どんな意地悪な罠があるだろう、わくわくするよな」
 空也のエレメントがうろうろ困っている。シェルシェリシュが手を伸ばした造花におしっこを引っ掛けてみたり、造花を嗅いでみたり、ある意味邪魔になっているといえなくもない?
「あ、ここにいっぱい花があるのですよー!」
 造花を追って花の絨毯に入り込んだ刹那、シェルシェリシュの姿が消えた。一緒にクーナーと空也の柴犬も見えなくなる。足元に気をつけていたエルマ・リジア(ha1965)は、何事かという様子で、ぽっかり口を開いた落とし穴を覗き込んだ。中で泥だらけになった2人と一匹がもがいている。
「あ、あ、皆さん大丈夫ですか?」
 迷子になって造花の絨毯に入ってきていたマルヴェ・エヴォルト(ha1301)に助けだされる。泥まみれになった柴犬が空也の顔をこわごわ見つめてお仕置きを待っていた。マルヴェはシェルシェリシュとクーナーの手当てをしながら、自分の想いを打ち明けた。
「大好きなお友達のルサナちゃんに笑って欲しくって‥‥お花を探していたら、迷子になっちゃいました。ここ、どこでしょう?」
「ここは公園の東側ですよ」
 エルマがマルヴェに簡単に公園の見取り図を指で宙に描いてみせた。
「笑顔がほんとに欲しいなら、自分で花、探せよ。それが愛ってやつだろ?」
「はい! 花集め、頑張ります。街中がお花いっぱいになったら‥‥ルサナちゃん、笑ってくれる、かな?」
 クールな空也の言葉に、マルヴェはにこっと微笑を返した。

「やれやれ。あんな見え透いた罠にかかるとはねえ」
 落とし穴に引っかかった面々を横目に、ジュネイ・フォルト(ha3516)はエレメントのジオに花の臭いを嗅がせながら探索していた。
「ま、のんびりやるさ。とはいえ、それなりに本気は出させて貰うがね」
「そうですね。え〜と‥‥がんばりましょう?」
 エレメントとのんびり花を探しながら、レイチェル・リーゼンシュルツ(ha3354)が挨拶をした。
「この辺りは人が少なさそうだねぇ。ま、ぼちぼちやるかねぇ」
 デティクトライフフォースを使って人の少ない場所を選び、探っていたイニアス・クリスフォード(ha0068)がレイチェルとジュネイを見かけて挨拶をした。2人が見えなくなると、「お疲れ様です。少し休憩をされてはいかがですか」とシスターが現れ、パンとワインを差し入れてくれた。近くを通ったヴェイル・フォルト(ha0283)と
三野水亮太(ha4277)にも差し入れを配っている。「どうぞ」とアリシア・フィンブル(ha2886)もシスターを手伝う。
「ああ、有難くいただくよ」
 男性陣がパンとワインを口にする。彼らは食べ終わるかどうかという頃にはすっかり寝入っていた。
「‥‥本当にいいのでしょうか‥‥?」
 アリシアは少々良心が痛むようだったが、容赦なく男性陣から祝福の花を奪い取った。
「これをこっそり渡せばいいのですね‥‥」

「ああ、暑い、暑いですねぇ。かき氷は、いかがですか?」
 ゼロ(ha0400)は公園の水浴び場でにゃんごろーと一緒に水遊びをしながら、特製のかき氷を売っていた。しかしその頃にはアリシアの話が噂話となって流れていたため、誰もが罠だと用心して、売れ行きははっきり言ってないに等しい。
「何が楽しいのか知らないけど、邪魔するってんなら容赦しないよ!」
 攻撃姿勢まんまんのサーシャ・クライン(ha2274)に威圧されてしまう。
「そんなつもりじゃないのですよ、本当に、ただのかき氷なんですよー」
「騙そうったってそうはいかないよ! ウインドスラッシュー!」
「待って下さいよー! 話を聞いて下さいよー!」
 水浴び場付近では、死力を尽くした追いかけっこが始まっていた。

 こそこそ、と公園敷地内の店に、エヴァーグリーン・シーウィンド(ha0170)が入っていった。
「公園周辺施設のトラップが一番数少ないように感じたですの。お邪魔しますですの」
 そろそろ、日が暮れようとしていた。1部屋1部屋を虱潰しに探しながら、エヴァーグリーンは「お花一杯集めて、ブリーダー仲間のお祝いするですの!」と怪気炎を上げていた。
 と、微妙な匂いが漂ってくる。焼肉パーティの香りと、花の香りが混じったような‥‥ん?
「そういえばお腹がすいたですの」
 ぐう、とエヴァーグリーンのお腹が鳴る。
「うむ? だいごろう? どうしたのだ?」
 御手洗育夫(ha4228)が焼肉パーティの匂いにつられて立ち止まったエレメントの様子に、周囲を見回した。
「これでは花の匂いがわからなくなるではないか‥‥困ったものだな」
 コンバートソウルしたままデート気分でうろうろしていたまひる(ha2331)とクラリーネ・オーガスクロリア(ha2363)は、きょろきょろと周囲を見回した。
「私んちも公園敷地内だけど‥‥まさか、こんなとこで焼肉なんて?」
「ふむ、ここもまた‥‥罠の予感だな」
「罠‥‥ですの?」
 エヴァーグリーンがこわごわとクラリーネを見る。クラリーネは店内の至る所に飾られたアロマキャンドルや香水瓶を示した。
「きっと匂いで探すものを惑わせようというのだろう‥‥」
 なあまひる、ええクララ、と見つめ合う2人の距離は零距離に近しい。御手洗の目が泳いだ。
「御手洗さんも刻銘されるんですの?」
 エヴァーグリーンの問いに、思わず拳が震える。
「ふん、わしに彼女などいるわけがない! ‥‥わるかったなあー!!」

 焼肉パーティには目もくれずに歩いていたリリー・エヴァルト(ha1286)は、1輪の花を手に教会へ向かっていた。結んである紙には亡き夫の名前。友人たちの幸せを願い、奇跡を祈りながら、一歩ずつ歩いていく。
「『心に想う相手』と近付く機会‥‥か。‥‥もう一度、と願ってしまうのは何故だろう。――かみさま」

●湖も花盛り

 ラグナス・フェルラント(ha0220)は湖一番乗りを目指してひた走っていた。それを見たルー・ルーキン(ha2129)も「適当に走っておこうかしら」と走り出す。
「先んずれは人を制すと言います。一番乗りはもらいましたよ!」
「負けないから! リアン、目指すは花集めNo1! 急いで‥‥って、きゃあっ! バカっ!」
 ジャニス・テート(ha3000)はリアン・ソーヤ(hz0006)の手を引いて走り出し、盛大にすっ転んだ。
 キース・ヘーゲン(ha3572)が「ひゃっはー」と隣を通り過ぎていく。重なるように転んでいるジャニス達を横目に、レビィ・ジョーンスタイン(ha2310)は「幸せを、幸運を掴みたい……」と呟いた。
「刻銘についてはごめんなさい。でも、花集めがんばろうね」
 リアンは体を起こすとそう言ってジャニスに手を差し出した。
 皆、花に溢れた湖周辺に辿りつき、はたと足を止める。

「さて、祝福の花とはどんなものかしら? うーん、これは違いますわねー」
 シフールのアストレア・ユラン(ha0218)がひらひらと蝶のように宙を舞いながら花を調べている。ヴィンデ・エヴォルト(ha1300)が愛馬チルハと遊んでいた。チルハが花を踏みつけているのを見て、ラグナスはやんわりと注意した。
「花は女性同様、優しく扱いましょうね」
「‥‥。がんばる」
 ヴィンデはチルハを連れて場所を移動した。
「今日は熱血で‥‥行くよ、りゅーこ! コンバートソウル!」
 てる(ha2105)が猛然と湖周辺を走り回っていた。罠をもぶった切る勢いだ。トーイ・バタリオン(ha2829)もアルテミス・フォード(ha3933)も負けていない。
「どうあっても探し出してみせるであります!」
「お花はどこにあるのかな〜? ね、ホークアイ。疲れたから遊ぼうか!」
 ‥‥いや、若干、負けて‥‥いるかもしれない。

 敢えて人の少ない場所を選び、シャール(ha2208)は低空飛行をしながら茂みやら岩陰などを探していた。
「ハナハナハナハナ‥‥」
「花、花‥‥あ、あらあら〜?」
 いかにもな造花を手に取り、降って来た大きな籠に閉じ込められ、アナベラ・ハーミンス(ha2132)はエレメントのサンカラと一緒に途方に暮れていた。その罠をするりと回避し、まだ何か無いかと砂糖な親友ジェリー・プラウム(ha3274)を守りながらレイ・アウリオン(ha1879)は造花を調べた。
「それが幸せの花? いっぱい集めて幸福を呼ぶ栞にしたいな」
 期待するジェリーに、レイはがっかりして呟いた。
「偽モノだな‥‥次行くぞ、ジェリー」
「あの〜、ここから出してもらえませんか〜?」
「悪いな。砂糖な親友がいてね、その祝福の為にも花を集めさせてもらうよ!」
 アナベラの悲痛な訴えにレイは爽やかにそう答え、親友と共に去っていった。

「うっしっし、罠なんて怖くないもん♪」
 セティリア(ha2322)は空を浮遊しながらじっくり花を探していた。これくらい集まればいいかな、と思った矢先、羽が何かに絡まり、花をはらはらと落としてしまった。見ると木々の間に細い糸が張り巡らされていた。
「いや〜ん、誰か取ってー!」
 通りがかったルド・バイゾン(ha2339)は困ったようにセティリアを見上げた。
「罠を壊してあげたいのは山々だけど、弓ではどうにもならないなあ‥‥いやぁ、風が涼しいねぇ」
「誤魔化さないでよー!」
 そこへ蒼月海月(ha3004)が通りがかり、「さて、どうしますか‥‥」とセティリアを見上げた。零れ落ちた花を拾い上げ、「これをくれるのなら助けてあげてもいいですよ」と交渉する。セティリアは「駄目ー、セティちゃんのお花ー!」と叫び、放置されることとなった。
「造花じゃなくて生花にリボンを付けたお花ってないかなぁ? 摘むのは可愛そうだから集めるんじゃなくって、そういうお花がいくつあるか、数えに行きたいな♪ ひよりが祝福の花を飾るなら、絶対に生花にリボンをつけるよ!」
 天 ひより(ha4267)がひらひらと舞いながらセティリアに気付かずに通り過ぎていく。
「花を隠すなら森の中? んふふ♪ 皆そう考えるよね〜。祈りを込めたお花を僕が集めれば、想いが人から人へ伝わると信じて‥‥」
 クリス・ラインハルト(ha0312)は厚手の装備で藪をかき分けていた。バイブレーションセンサーでひよりとセティリアの気配を感知し、ほしくずの唄を歌う。
「やーん、お花を摘むのは可哀想なのに〜」
 意思と逆の行動を強いられ、ひよりは祝福の花を集めてしまった。セティリアは罠からの脱出を諦めてしまう。クリスが赤い風車を残して通り過ぎてから暫くして、「うーん、そんなにいっぱい要らないけど、お世話になった人に配ってみようかな〜」と御影藍(ha4188)がゆっくり注意しながら木々に分け入り、セティリアに気付いて罠から解放してあげた。
「大丈夫? これからもよろしくねっ!!」
 そこへ「きゃあああああっ」という悲鳴と共に、アリアローゼ・ライラ(ha2884)が飛んできた。風に流されたらしい。
「ごめんなさい!? おねーちゃんを探してるです、迷子です、お花は大きいです。きっと空飛ぶ花になるんです‥‥しくしく」
 半べそをかきながら、魔法を駆使して集めた花を抱きしめる。そして、藍とセティリアとアリアローゼの視線を捉えるものがあった。
 つぶらな瞳。可愛らしい動物さん、エレメント、そしてぬいぐるみが藪の向こうに見えたのである。
「ゆったりと散策しながら花を探しておきましょう‥‥そして花は、競争ではなく想いを伝える為に集めている人に譲りましょうね」
 湖へ向かっていたイヴリル・ファルセット(ha3774)の歩みが止まる。思わずつぶらな瞳たちに吸い寄せられ、何かの罠かと調べ始めた筈が、何時の間にか皆、時間を忘れて遊び呆けてしまった。

「誰かが幸せになるのを、見ることが出来るのも嬉しいですね」
 杁畑相楽(ha3469)はグリーンワードで罠を警戒しながら花を探していた。
「罠ぁ?? そんなの気にしない! アハハ、全力で行くよD君!」と言う声と共に、ディーロ(ha2980)が現れた。幼馴染の月夜(ha3112)が続く。
「花を集めると幸せに‥‥か。信じていないが、たまにはいいな」
 2人は水辺の花に目を留めた。
「あ、花みっけ! これそうかなぁ、ゲッちゃん?」
「ゲッちゃんて呼ぶな!」
 月夜が憮然と抗議の声をあげ、グリーンワードを唱えようとした矢先、ディーロが花を掴んだ。
「「「きゃぁぁぁああああ!!! えっちぃ!!」」」
 全身タイツの頭に花を生やした変態が現れ、あろうことかその場の全員を変態呼ばわりした。物陰から森里雹(ha3414)が顔を出し、「酷い! 俺という相手が居ながら‥‥」と言いかけた瞬間、アスラ・ヴァルキリス(ha2173)が咄嗟に変態と雹をボコり、伏兵達は水面に浮いた。
「自然を破壊するのはよくないよ。‥‥でもこれ、祝福とは何か違う気がするんだけどなぁ‥‥」
「花集めも結構楽しいですね」
 にこにことリアナ・レジーネス(ha0120)がエレメントに水浴びをさせ始めた。
「6月の花嫁‥‥楽しくやるッス!」
 赤井勝実(ha4294)が森の中・施設からベンチの下まで細かく調べ、湖周辺は特に念入りに探っていると、橋の欄干に手をついてしまった。べたり、と粘っこい液体が手につく。
「誰ッスか、こんなへんなもの塗ったの!!」
 欄干から手が離れなくなり暴れる勝実。やっと手を放すと、ベトベトのドロドロだった。
(「水中から近づくのが吉だな‥‥」)
 黄桜喜八(ha0565)は水中から、花の咲いている浮島目掛けて泳いでいた。が、どうも水質がおかしい。何だかぬるぬるしている。やがて水がどろどろになって、沼となり、遂に動けなくなってしまった。鰻のような生物がぬるぬると体をすり抜けていくのが気持ち悪い。
「神様なんて信じちゃいないが、まあ折角だしな。ウォーターウォーク!」
 ルーディアス・ガーランド(ha2203)とサヴィーネ・シュルツ(ha2165)はデート気分で喜八の横を歩き過ぎていった。
「いい場所ですわねえ‥‥お弁当でも持ってくればよかったですわ。のんびり楽しみましょ♪」

「結婚とかは興味ないのですけど、国の祝福は興味ありますの♪」
 世界の女性の味方そして男性の敵、ジェイミー・アリエスタ(ha0211)は罠多発地帯に潜んで様子を窺っていた。自分の周囲だけは安全を確保してある。そこへ、祝福の花を手にしたジュエル・ダイアモンド(ha3158)が通りがかった。きょろきょろと誰かを捜している。
「えいっ、天誅!」
 ジェイミーが紐を引くと、ビスケットの欠片がジュエルに降り注いだ。匂いを嗅ぎつけた野鳥やペット達が群がってくる。
「悪いが、俺サマには目的がある。手段を選ぶ余裕はないのだ」
 ジュエルはビスケットを振りはたくと、動物たちの襲撃を猛然と掻い潜って空を仰いだ。
「キックミート! 居るんだろう!? 俺サマと刻銘してくれ!」
 エレメントのボクノツバサと共に花を探すも、人々の勢いに気後れしてなかなか花を手に出来なかったキックミート(ha3157)は、信じられない様子でジュエルを見た。
「‥‥ジュエル‥‥刻銘、してくれるの?」
(「ウソでも、ダメでも、泣かない、むしろ、それが、普通。きっと。‥‥ボク、は‥‥想う、だけ‥‥」)
 諦め気味のキックミートに、ジュエルは熱っぽく語りかけた。
「俺サマは本気だぜ! それとも、嫌か?」
「‥‥。‥‥嬉しい‥‥」
 ジュエルから祝福の花を受け取り、キックミートは俯いてかすかに微笑んだ。ジェイミーはそれを見て、(「女の子が幸せになるなら、今回は容赦しますわ」)と胸中呟いた。

<担当 : 神子月弓>


■トラップ考案者一覧■
ミスティア・フォレスト(ha0038)
ヘヴィ・ヴァレン(ha0127)
エヴァーグリーン・シーウィンド(ha0170)
シェルシェリシュ(ha0180)
陸珠(ha0203)
ジェイミー・アリエスタ(ha0211)
クリス・ラインハルト(ha0312)
ライディン・B・コレビア(ha0461)
てる(ha2105)
ルーディアス・ガーランド(ha2203)
リーブ・ファルスト(ha2759)
ディーロ(ha2980)
ロゼッタ・ロンド(ha3378)
ミシェル・シェリエール(ha3393)
森里 雹(ha3414)
ミュワ・アスラーダ(ha3760)
ルシオン(ha3801)
豊田泰久(ha3903)
アルテミス・フォード(ha3933)
浅野 任(ha4203)
沢渡 憂作(ha4227)
アディ・マクファーレン(hz0033)



戻る