ハロウィンと呼ばれる夜は、秋の収穫を祝うと同時に死者の霊が家族を訪れたり、精霊や魔女が出て来るといわれていた。
だが今やそんな起源など、忘れてしまっている人のほうが多いだろう。
仮装をしてお菓子を貰って、カボチャを食べるお祭――そんな風に認識している人も多いかもしれない。
恐ろしい仮装をするのも、家の周りを徘徊して人間に取り憑こうとする恐ろしい悪霊たちを驚かせるためであったというが、今は仮装といっても恐ろしいものに限らない場合が多い。
「Trick or treat!」
黒とオレンジ色を基調に、例外なくエカリスの街中も飾り付けられていく。
ジャック・オー・ランタン用のオレンジ色のカボチャも売り出され、街中の人々の話に耳を傾ければ、今年はどんな仮装をしようか、そんな話も聞こえて来る。
「今年のお菓子はどんなのかなぁ」
「誰が沢山もらえるか、競争しようよ!」
子供達は夜、仮装をして家の外に出る。そして近所の家々を回って「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ」と唱えるのだ。そしてもらったお菓子をあらかじめ用意しておいたバックや袋に詰めていく。これがいっぱいになったら、さぞかしホクホク気分だろう。
親に怒られる事なく夜外出し、そしてお菓子を貰ってその後は楽しいパーティ。子供たちが楽しみにしないわけがない。
大人も子供も和気藹々と楽しめるお祭だ。準備からして楽しい。
洋服屋は様々な衣装を売り出すし、商店街には黄色いカボチャ専用の出店がでる。各所でジャック・オー・ランタンも売られているし、飲食店ではこの次期限りのカボチャ料理やカボチャのお菓子を売り出していた。雑貨店ではハロウィンのカボチャや仮装をモチーフにしたグッズを売り出すところも多い。ハロウィン商戦というわけである。
おいしそうな香り、素敵な衣装、きらきら飾り付けられた店内に惹かれて店の前で足を止める人も多い。
とにかく、エカリスの街中はにぎわってた。
「ハロウィン、ですか! 人間は面白い事を考えるです!」
ハロウィンムード一色のエカリスの街中を、きょろきょろしながら歩いている一人の少年がいた。
年齢で言えば10歳そこそこといったところだろう。
気が早いのだろうか、すでに仮装を済ませているようで、小さな身体に執事服を纏い、頭に羊の角のようなものをつけている。
執事‥‥羊???
まあともかく黒を基調にした執事服、多少癖のついた黒髪にくりくりの黒瞳の中で、襟元の臙脂色のリボンが際立って見えた。
「カボチャがいっぱいなのです! おいしそうなものがいっぱいなのです!」
少年はくるくるとあちらこちらの商店を、目を輝かせて見て回っている。
「あら、可愛い執事さん。試食いかが?」
店の店員は演出として仮装している者が多い。その中に混ざってしまえばたいして目立たなかったし、子供が一足早く仮装をしていたとて奇異の目で見られるよりは微笑ましく思われるものなのだろう。飲食店の店頭に立つ妖精の仮装をした女性が、小さなカボチャケーキのかけらを差し出した。
「ありがとうなのです!」
ぱくっ。
口の中に放るとふかふかの触感。そしてカボチャの自然な甘さが口内に広がっていく。
「う〜ん!! 美味なのです!」
少年は目を細めると、次の店を覗きはじめた。特別な雰囲気の街中は、いくら見ていても飽きなかった。
「んー、もっともっと面白くしたくなってきました」
一通り街中を見て回り、休憩にと噴水の淵に腰をかけた少年は、何かないかとあたりをきょろりと見渡した。そして目に付いたのは、黄色いカボチャとジャック・オー・ランタンを山盛りに積んだ屋台。
ぴょこんっと弾かれたように角が揺れる。
「あのカボチャ! ああすればきっと、もっと面白くなるです!」
ぴょんっと立ち上がった少年は、パチンと手と手を合わせて。
「こうなったら、エカリス中のカボチャを全部面白くして、僕の実力を思い知らせるですよ!」
スワローテイルを靡かせて、スキップしながらその少年は人ごみに紛れて行った。
――Trick or treat?
■解説
情報1(連動シナリオについて)
情報2(怪奇事件と現れた謎の少年)※10月21日更新
情報3(連動シナリオ一覧)
●過去のイベントについてはこちらからどうぞ●
■NPCより
皆様、どうか犯人と原因を突き止める為ご協力をお願いいたしますわ! |
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