■エピドシス連動イベント「開国」09月09日公開OP■


 神秘の国、エピドシス。
 外国に対してその門戸を閉ざし、交流を拒み続けていたその国は、長きに亘る平穏の中に微睡んでいた。
 その眠りを破ったのは、ヒト型のエレメントが率いるモンスターの群れ――
 しかし、本当の意味で彼等の目を開かせたのは、危機に際して救助に駆け付けた見慣れぬ異邦人達だった。

「‥‥何だか、寂しくなってしまいましたねえ」
「ええ、あの人達には本当にお世話になったし‥‥もっと色々、外の世界の事を聞きたかったのに」
「そう言えば、きちんとお礼も言ってなかったわ」
 外敵の脅威と、それを退けた異邦人達の双方が去った数日後。
 エピドシスの首都エフィオラの街角では、そんな声が井戸端会議の奥様達を中心に広がりを見せ始めていた。
 それまで外の世界についてはさほど興味も示さず、関わりを持ちたいなどとは思ってもいなかった彼等だが、やはり実際の交流を通して得たものは大きかった様だ。
「もう一度、会えないものかしら‥‥」
「神官様達はどうしてあの方達を追い出してしまわれたのかしら?」
「そうよねえ、こんな恩を仇で返す様な事‥‥神様がお怒りにならなければ良いけれど」
 どこの国でも、奥様方の口に戸を立てるのは難しいものだ。
 ただの他愛もないお喋りが噂として広がり、人々の意識を変えて行く。
 それはまるで、流れ出る川もなく閉ざされた静かな湖の水面に投げ込まれた小さな石。
 たったひとつのちっぽけな石が生み出した波紋は、やがて大きな波となり湖を囲む固い岩をも砕く可能性を秘めていた。


「‥‥早急に、手を打たねばならんな」
 町の様子を聞いた大神官アンジェリカ・エピドスは、白亜の神殿から眼下を見下ろす。
 その瞳には怒りと苛立ちの色が濃く滲み出ていた。
 暇を持て余した主婦達の下らぬ噂話など意に介する必要もない‥‥放っておけばそのうちに自然と他の話題に流れ、そうなればもう以前の話題が顧みられる事もないと、そう思っていたのに。
 だが、これは良くあるそうした類の話ではないのかもしれない。
 人々の口に上る話の中には、自分達が長年に亘って国民に信じ込ませて来た「ある事」に対する疑問の声までが含まれていた。
 それは、この国を司る者達によって作られた事実――「エレメントが神である」という、誰もが信じて疑わない事実に対する疑問。
「そのような疑問、民の間から自然に生じる筈がない」
 それほどまでに、エピドシスの民はその教えを素直に信じ込んでいた。
 もしも疑いの芽が生じたとしても、それを早期に摘み取る事で完全に抑え込む事に成功していた‥‥これまでは。
「裏切り、か」
 誰か「真実」を知る者が、裏で手を引いてるに違いない。
「そう‥‥カルディアからの救援を受け入れたのも、私の決定ではない」
 大神官は、そして七人の賢者達も、外国からの救援を受け入れるつもりはなかった。
 例え国内がどれほど荒らされる事になろうと、自分達の権力を維持する基盤である鎖国と言うこの体勢を崩すつもりはなかったのだ。
 しかし、救援部隊はこの地に足を踏み入れた‥‥あの海流を超えて。
 外からの船を受け入れる事も、島を取り巻くバリケードである海流を操作する事も、一介の役人に出来る事ではない。
 いや、その権限を持つのは‥‥大神官アンジェリカ・エピドスと、直下の七賢者のみ。
「裏切者は、賢者か‥‥」
 その中のひとりか、ふたり‥‥或いは全員。
 探し出す必要がある。
 普段なら、賢者達は互いの行動を常に監視し合っている。
 だが、この状況下ではその機能は働かないと考えた方が良いだろう。
 大神官直属の隠密部隊を動かすべきだ。
 そして‥‥
「愚民共にも、新たな噂の種をくれてやろう‥‥神の怒りを思い知るが良い」
 エピドシスの上空を覆っていた暗雲は、カルディアのブリーダー達の手で取り払われた。
 だが、今度は‥‥白亜の塔に、目には見えない暗雲が渦巻き始める。
 それはやがて、首都エフィオラの全てを覆い尽くすまでに広がっていった。



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