■決戦!聖夜の熱き戦いリプレイ

■<ツリー守備>

 奴等は夜の闇に乗じて現れる。
 赤いサンタの格好をした、自称「赤の一団」
 彼等は何を思ってか、湖のほとりに飾られた巨大なクリスマスツリーから、魔光石を奪って行くのだ。
「みんなで飾ったツリーを台無しにするなんて許さない!」
 シアル・クーハン(ha1937)が、ぐっと拳を握り締める。
 そう、皆の楽しみを奪う悪い人には、きっちりお仕置きをしなければ‥‥!


 そして、奴等はやって来た。
 例のふざけた予告状のせいで、ツリーの周囲には大勢のブリーダー達が集まり、手ぐすね引いて待ち構えているというのに。
 余程自信があるのか、それとも単に何も考えていないだけなのか、或いは何か裏が‥‥?
「ま、イベントの一環と考えりゃ楽しいかもな」
 キオルティス・ヴァルツァー(ha0377)がサウンドワードで周囲を警戒しつつ、ニヤリと笑う。
「‥‥来たね」
 ツリーへ向かう敵がいるのは確実と、暗い路地から飛び出して来るであろう敵を警戒していたクシュア・ンドゥアナ(ha0262)が刺又を構えた。
 夜の闇に紛れてさえはっきりと目立つ、派手に赤い服。
 まるで見付けてくれ、捕まえてくれと言っている様なものだ。
「来た来た〜♪」
 ツリーの上空を旋回していたシャール(ha2208)が仲間達に敵の襲来を報せた。
 ついでに、イリュージョンで「ツリーに魔光石が無い」という幻影を見せて混乱を誘う。
「周囲に一般の人はいないみたいです」
 シャクリローゼ・ライラ(ha0214)は安全を確認すると、小さな手で大きな丸を作った。
「皆さん、思いっきりやっちゃって下さい!」
 それを受けて、迎撃班が飛び出して行く。
 だが、その時‥‥!
「ハーッハッハッハッ!!」
 上空から、何となくバカっぽい高笑いが聞こえた。
 声の出所は、湖のほとりに建つ数少ない建物のひとつ、教会の赤い屋根。
 その尖塔に仁王立ちしているのは、ド派手なパピヨンマスクに真っ赤なローブという出で立ちの男だった。
「我が名はシオン・クレイバー! ブリーダー諸君、ようこそ我が華麗なるショーの舞台へ!」
 ‥‥何だ、こいつ。
 つまりは‥‥ボス?
 いや、ボスって某ショップのあの人じゃなかったの?
 ブリーダー達の頭に様々な疑問が渦巻く。
 だが‥‥
「何でも良い。要はアレを倒せば良いって事ろだ?」
 誰かが呟いた。
「ふ、この私が貴様らごとき三流ブリーダーに捕まると思うのか!」
 シオンと名乗った男は腰の刀を抜くと、配下の一団に号令をかける。
「行け! 魔光石を奪い尽くし、エカリスのクリスマスを失意のどん底に叩き落とすのだ!」
 ‥‥叩き落として、どうするんだろう。
 悪役の考える事は、どうも良くわからない。

「そこから下りる気はなさそうね?」
 木刀を構え、顔に微笑みを張り付かせたエミリア・F・ウィシュヌ(ha1892)が言った。
「なら‥‥全力で捕まえにいくから覚悟しなさいっ!」
 それにはまず、地上の雑魚敵を一掃しなければ。
 エミリアが魔法で相手の大まかな位置を特定し、それをワン・ファルスト(ha2810)が補完、仲間達に伝える。
「人々の楽しみを邪魔するとは迷惑な奴らだ」
 カナタ・ディーズエル(ha1484)は駿脚を使い、トリッピングから瞬即撃の流れで敵を落とす。
「お遊びはこれで終わりだ。大人しく魔光石を返せ」
「クリスマスに泥棒なんて、許さないわ!」
 ツリーに残った魔光石の僅かな光によって出来た影で、ユノ・イェメレイア(ha2519)は相手の動きを封じた。
「よーし、とっ捕まえたらお仕置きだー! 覚悟してね!」
 動けなくなった敵を、フィン・ファルスト(ha2769)が縄で縛り上げる。
「子供達の夢を壊そうって輩にはお仕置きをプレゼントしてやる!」
 レイ・アウリオン(ha1879)が刺又を振り回し、そしてリント・ホワイトスミス(ha2209)は何故かおたまを振るう。
「手加減がね、出来ないからコレでいくよ」
 何となく、精神的なダメージの方が大きそうな気がするが。
 大きな袋を背負った敵には、メイ・シェンラーテ(ha0421)が背後に回り、それを奪い取る。
「せっかくのクリスマスなのに、騒いだら迷惑でしょう? ねぇ?」
「一緒に、楽しく聖夜を過ごせませんか?」
 袋を奪われてまごついている相手に、シェアト・レフロージュ(ha0368)がにっこりと笑いかけた。
 前衛の攻撃が届かない相手には、ミルージュ・シアン(ha0372)が矢を放ち、サーシャ・クライン(ha2274)がウインドスラッシュを見舞う。
 勿論、急所は外すが‥‥
「おとなしくしといた方が、痛い目を見なくて済むわよ?」
 それさえ抜けて来た一団には、セイル・ファースト(ha0371)とルオウ(ha2560)が当たる。
「盗人ども!年貢の納め時だぜ!」

「おお、盛り上がってきたな」
 仲間達の戦う姿を横目に、アウィス・ラパクス(ha0543)は見物客と博打に興じていた。
「よし! ブリーダーが勝つに、俺の持つ魔光石を賭けるぞ!」
 そして、おもむろに立ち上がり‥‥
「ついでだ、俺も目の前を通る赤いのは殴っとくか!」
 赤いの‥‥赤い、髪。
「アハハ、ボクが赤髪だからって赤の一団と一緒にしないでネ〜」
 ディーロ(ha2980)が牽制するが‥‥ちょっと遅かった、かも‥‥?
 

 一方、ツリーの周囲でも戦闘が始まっていた。
 ――ぴくり。
 クリス・ラインハルト(ha0312)の相棒、コーラスの耳がぴくりと動く。
 敵の接近を察知した合図だ。
 クリスはそれを受け、妖精のトランペットを吹き鳴らした。
「あなた方の行く末はこちらです。喧嘩を売っておいて逃げるのは許しません」
 ミスティア・フォレスト(ha0038)がストーンウォールやマグナブローを使い、敵を罠の方へと誘い込む。
 その罠はジェフリー・ジョンストン(ha1056)発案の、杭の間にロープを張っただけの単純なもの‥‥と、思いきや。
 ロープで足を引っかけ、転ばせるのが目的ではない。
「相手はこれを避ける為に飛び越そうとするだろう? その着地点に‥‥」
 水を撒き、凍らせる。
 着地した途端に氷で滑るという寸法だ。
 更にはバナナの皮までもが‥‥
「コレでユーたちは吃驚仰天さ!」
 置いたのはルド・バイゾン(ha2339)だ。
 だが、その罠に最初に引っかかった人物は。
「な、なんでいつもこんな事にぃー!!」
 せめて屋根のある場所で野宿をしようと町をさ迷っているうちに、何故か戦闘に巻き込まれたレビィ・ジョーンスタイン(ha2310)だった。
「向かって来るなら手加減はしませんよ?」
 ラグナス・フェルラント(ha0220)が罠に誘い込み、上手く引っかからなかった敵にはバトラー(ha2211)がスタンアタックで沈め魔石を回収する。
「この時期は年甲斐もなくはしゃぐ大人が多くて困りますね」
「逃げる奴は一団だ! 逃げない奴は良く訓練された一団だ!」
 海野雅楽(ha2141)が嬉々として弓を射る。
「まったく聖夜は地獄にござる! ふぅーはははー!!」
 ‥‥なんか、味方にもいますけど、年甲斐もなくはしゃいでる大人。
「皆の楽しみを奪うような真似は許しません!」
 そこに、レイン・ヴォルフルーラ(ha0048)とジョジョル・マルーン(ha0413)、ソーサラーの二人がウォーターボムを見舞う。
 全身ずぶ濡れになった所に、今度はアイスブリザード。
 これは‥‥痛いし寒いし、何となく可哀想な気もする。
「はいっ、温かシチューをどうぞなのです。陽だまりのカップで、ホカホカですよぅ」
 凍えたサンタに、マルヴェ・エヴォルト(ha1301)が湯気の立つシチューを差し出した。
「クリスマスのご馳走を用意しました♪」
 他にもハンバーグや甘〜い焼き菓子、それに李蘭花(ha1693)の天心など。
 ツリーから少し離れた屋台から、美味しそうな匂いが漂って来る。
「寒い中どっちも戦うんですもの、終わった後暖かいもの欲しいでしょ?」
 エヴァーグリーン・シーウィンド(ha0170)も、幼馴染のアスラ・ヴァルキリス(ha2173)に手伝って貰いながら、暖かい軽食やお茶を用意していた。
「早く終わらせて、皆で仲良くお茶したいですの」
 折角のクリスマスだから‥‥。

「ツリーが‥‥二本!?」
 いや、そんな筈はない。
 だがリリー・エヴァルト(ha1286)のイリュージョンによって突然現れたもう一本の巨大ツリーに、赤服はちょっぴり動揺した。
 そこを突いて、弟のヴィンデ・エヴォルト(ha1300)が足を絡め取る様に鞭を振るう。
「やれやれ、聖夜だってのに騒がしい事だね」
 更にイーリアス・シルフィード(ha1359)がホーリーライトで出来た影を使い、シャドウバインディングで敵を縛る。
 それでもツリーに取り付き、魔光石を奪おうとする者には‥‥
「コレがあなた達の欲しがってる魔光石ですわよ! キラキラして綺麗でしょ?」
 レティア・エストニア(ha0383)がアイスブリザードをぶちかます。
 確かに氷の粒が光を反射して光ってはいるが‥‥何か違う、と思います。
 そしてツリーの上からはリュミヌ・ガラン(ha0240)がホーリーを放ち、てる(ha2105)とリル・オルキヌス(ha1317)の威嚇射撃が降って来る。
「もーっ、楽しいハプニングは歓迎だけど、派手にやりすぎ!」
 アルエット・ベイル(ha2736)がレッグシューティングで足止めを狙う。
「ツリーも聖夜も皆の物なんだからねー!」
 カフス・カーチェス(ha2346)はほしくずの唄で混乱を誘い、イニアス・クリスフォード(ha0068)がダークネスで視界を奪う。
「何者か知らないが、易々と魔石を渡しはしないぜ!」
 それさえ潜り抜けた者にも、ちゃんと制裁は待っていた。
「油断大敵というやつじゃな!」
 ツリーに登り、枝の影に隠れたフリーデライヒ・メーベルナッハ(ha2051)はライトスピアでド突いて叩き落す。
「残念だが、ここからは通行止めだ」
 下からはヴィント(ha1467)が、飛爪を服や袋に引っ掛けて下に引きずり落とす。
 敗れた袋から、様々な色の魔光石がばらばらと落ちて散らばった。
 落ちた石をディアッカ・ディアボロス(ha0253)がパートナーと一緒に拾い集める。
 そしてシフールの様に飛び回る敵には、魔石錬師のプラントコントロールが大活躍。
「全体、シフールに己が身を絡めるのだ!!」
 トーイ・バタリオン(ha2829)がツリーに巻き付けた蔦を敵に絡めたり、振り払ったりと自在に操る。
「来た来た♪ それ行けー♪」
 アキ(ha2915)が楽しそうに蔦を操る傍では、ブルー(ha2584)が護衛の任に当たっていた。
「‥‥楽しみを取るのはダメ、です」
 雛花(ha2819)は魔光石周辺の葉を棘状に尖らせ、略奪からガードする。
 セイクリッド・アリン(ha2818)はツリー自身に己の身を守る様に働きかけた。
 それでも手を伸ばして来る者は、ナイン・フォーチュン(ha0533)が仕掛けたロープの罠で容赦なく吊し上げられ、更にはカラフルなロープで相手をミノムシ状態にされ、そのままツリーの飾りに。
「ツリー故に『吊りー』‥‥いや、今言った事は忘れてくれ」


「大人しく捕まってろ。これ以上騒ぐと‥‥」
 捕縛した敵を一箇所に集め、それをギルド長に監視させるというミース・シェルウェイ(ha3021)の案は残念ながら実現出来なかったが、それでも。
「折角祭でエエ気分やったのにお前らのせいで台無しや! ドアホウ!!」
 斎賀東雲(ha1485)が怒鳴る。
「ほら? 怖いぞ」
 そしてツリーの周辺に設けられた救護所には、次から次へと怪我人が運ばれて来る。
「ケガしたヤツはムリしないですぐに来いよ!」
 久遠真白(ha3026)が呼び掛けて回り、ジュリオン・ミラン(ha0358)やルイーナ・オルテンシア(ha2044)がそれを治療する。
 だが、どの怪我もそれほど酷いものではなかった。
 そして、見た所怪我人は味方よりも敵の側に多い様な。
「おい、そこの! いいからちょっと来い! 怪我してるじゃないか‥‥!」
 アン・ケヒト(ha0148)が赤い服を纏った男を手招きした。
「怪我人に敵も味方もないだろう!」
 そして、治療が終わった後は素敵なお説教タイム♪
「いいか、よく聞くが良い‥‥そもそもだな‥‥」
 くどくどくどくど‥‥‥‥‥‥


「‥‥くそっ、役立たず共め‥‥!」
 チームワークのなさ故か、次々と捕縛されていく赤装束の一団。
 教会の尖塔に立ったまま、その様子を見つめて歯噛みをしているのは‥‥もう殆ど存在を忘れられた、シオン・クレイバー。
 え?
 誰って‥‥敵のボスですよ、ボス。
「ここはやはり、この私が直接出るしかない様だな!」
 いや、もう遅いと思うけど。
「見ているが良い、クルトス! 今日こそ貴様に、この私の素晴らしさを教え、跪かせてくれるわ!!」
 あれ、仲間じゃなかったの?
 って言うか、キオいないし。
 その時‥‥
「――わっっっ!!!」
 シオンの耳元で大音声が炸裂した。
 イルク・ヴァルーラス(ha2244)のヴェントリラキュイだ。
「☆▲★●◎▽□▼っ!!?」
 ――ずるっ!
 突然の出来事に驚いたシオンは、思わず足を滑らせた。
 その手は虚空を掴み‥‥
「お、落ちるうぅぅっ!!」
 だが、間一髪。
 その体は四方八方から伸びて来た木の枝や蔦に絡め取られ‥‥
「‥‥人の楽しみを奪うとは、貴方たちは何をしたいのですか?」
 危機を救ったひとり、蒼月海月(ha3004)が無事に地上に降り立ったシオンに尋ねる。
 だが、その理由が明かされる事はなかった。
 どうやら口止めされているらしい。
 しかし、理由はどうあれ。
「さて、おイタをした坊やにはオシオキをしないとね?」
 紫葵(ha3010)がにっこりと微笑む。
「お仕置きとは何だ! 私はまだ、負けてはいないぞ!」
 そう言い放ち、胸を張ったシオンに、エレミア・エルドナーシュ(ha0185)はおもむろに抱きつき、身体を摺り寄せた。
「盗んだモノ返してくれたら、好きにさせて、あ・げ・る・♪」
「何だと!? この私が色仕掛けなどに‥‥など‥‥」
「こんな事するよりもぉ〜、もっと楽しい事しましょ〜よぉ〜。ね?」
 エレミアは約束は守るらしい。
 そして例外も無いそうだ。
 その後、二人は‥‥どうなったんでしょう、ねえ?


 かくして。
 とりあえず、何とか無事に、ブリーダー達は奪われた魔光石の殆どを取り返す事に成功した。
 ツリーの近くで戦った為に多少の被害は出た様だが‥‥まあ、許容範囲だ。

 巨大ツリーに、再び明かりが灯る。
 静かなクリスマスがエカリスの町に戻って来た。
「‥‥っくしっ!」
 キラキラと輝くツリーを見上げ、くしゃみをしているのは‥‥アレン・エヴォルト(ha1325)。
 彼は風邪気味の体を押して参加してしていたらしい。
「‥‥早く帰って寝よう‥‥」
 折角の聖夜なのに、勿体ない。
 でも、体は大事にしなくちゃいけませんから、早く休んで下さい。
 他の皆はもう少し、この夜を楽しんで行くけれど‥‥ね。

<担当 : STANZA>


■<赤の一団迎撃>

●攻防
 リーンゴーン‥‥リーンゴーン‥‥
 まるでそれが開戦の合図であるかのように、エカリスの街から教会の鐘の音が響き渡った。
 ここ、決戦の地となるツリーの周りには現在民間人の姿はなく、ブリーダー達が魔光石を護り、取り返そうと集っていた。
「へえ〜みんななかなかやる気だね〜」
 それを高い位置から眺めているのは、サンタ服に身を包んだ男――Fennec店長キオ・クルトス。大方の予想通り、この男が赤の一団の黒幕だ。いや、バレバレだったかもしれないけど。だって、うん、隠すつもりなかったみたいだし?
 赤と白のサンタ服に身を包んだ赤の一団達はキオが独自ルートで集めてきたブリーダー達であり、それぞれ仮面をしたり付け髭をつけたりフードを深く被ったりと顔を隠している。
 ダダダダダッ!
 白い袋を担いだ赤の一団が怒涛のように攻めてくる。だがブリーダー達は引くつもりはない。そんなつもりだったら元々、この場にはいない。
「不届き者は死ね」
 真顔でそう脅しながら、木刀でスタンアタックをかますのは【姉御同盟】のバニシニア・フィアレス(ha0397)。「‥‥良いのか、これで」と問えば視界の隅で同じ様にスタンアタックをかましているリオ・ヨーウィ(ha0188)が目に入って、良かったのかと次の一撃。
「容赦しないぞ」
 同じ様に、可愛い顔を真剣一色に染めて脅して追い込むのはショウ・レヴァンス(ha1449)。彼もまた木刀でスタンアタック。殺さないことが条件なんだから、仕方がない。
 スレイ・ウォーホーク(ha1840)、リン・カー(ha1967)、煌美星(ha0279)、ミヅチ・ユガ(ha2907)ら武人が攻撃すると見せかけて敵を一箇所に追い詰めれば、一足早く魔法を発動させたマイカ・サツキ(ha1238)とユノ・イェメレイア(ha2519)が逃げようとした敵からダークネスで視力を奪う。ジュゼヴェ・ベルデヴァイラ(ha2906)とファルビシア・E・アルベリオ(ha2872)はプラントコントロールで足元の草を操り、自由を奪った。
「女の子を追いかける! そして目的地に追い込む‥‥って何か危ねぇな俺」
 涙目でこちらを見上げているように見える仮面の女の子を見てロイ・ジーラッハ(ha2323)は呟いたが‥‥大丈夫。あっちの方で敵を捕縛すると見せかけて公然とセクハラをしている人がいますから。ほら、セラ・ヘイムダル(ha2036)の攻撃(?)で赤の一団からの悲鳴が。精神的には効いているようですけど。
「おとなしく、魔石を返して下さいね?」
 にっこり――底の知れぬ笑顔を振りまくカーリン(ha0297)と、対のように彼女の隣に立つヴィエラ・ヴィンス(ha0394)。
「折角の聖夜だ。もうちっと、淑やかに行こうぜ?」
 二人に加えノーティア・エルン・シーン(ha1298)とヴィオル・ラヴ(ha2564)の作ったストーンウォールが、一箇所に集められた赤の一団達を無情にも閉じ込めた。


「ハッハハァ! 聖夜に地獄見てェのはドコのドイツだぁ!?」
 叫びながらバケツの水をぶっ掛けるのはリーブ・ファルスト(ha2759)とユーク・リースレット(ha2335)。
「‥‥風邪とかで布団から出れなくなっても‥‥恨まないでね?」
 後で温熱剤を配るつもりだが、とりあえず彼らの動きを止めるのが先だ。水攻めはあちらこちらで行われていた。
「あまり無理しないほうがいいよ?」
 シャドウバインディングで足止めした敵に声をかけるトリストラム・ガーランド(ha0166)。だが相手は降参する様子はない。となれば――
「ほら」
 横にいた幼馴染、セリオス・クルスファー(ha0207)がクリエイトウォーターで作った水を容赦なく頭から振り掛けて。
「まあ‥‥邪魔してくれたからには、それなりの対応をさせて貰うからな?」
 すぱこーんっ!
 ヘヴィ・ヴァレン(ha0127)の投げた雪球が顔面ヒットした男はそのまま派手に倒れ、気絶したのか動かなくなった。隣にいた男をハリセンでしばいていたルイス・マリスカル(ha0042)が、二人まとめて救助・援護班へと引き渡す。
「逃げると‥‥もっと面白い事になるぞ?」
 不利を悟ったのか逃亡しようとしている男の服を、武器で絡め取ったアルフレッド・スパンカー(ha1996)はそのまま勢いを利用して男を池に投げ込む。ああ、寒そう。
 そんな男から魔光石の入った袋を奪い取った黄桜喜八(ha0565)は目を疑った。水中に隠しておいた魔光石が減っている。ふと目をやると、そこには優雅に泳ぐ同族の姿が。
「‥‥待て」
 勿論彼が慌てて同族を追ったのは言うまでもない。


「あ〜あ〜。随分と派手にやられているね〜」
 そういいつつも楽しそうに笑っている首領は高みの見物。
「あ」
「あ〜‥‥見つかっちゃったかな?」
 隣の木。高い所で動きを観察していた雷堂真司(ha0193)とキオの目が合う。
 ヴヴヴヴ〜ワンッワンッ!!
 木の下を見れば、キオの匂いを追ってきたらしいミカエラ・アルディーティ(ha0465)のパートナーが吠えている。
「見つけたっ!」
 恋人を愛馬から下ろして素早くコンバートソウルを済ませたライディン・B・コレビア(ha0461)がレッグシューティングでキオを狙う。だが彼は木の上であることをまったく伺わせないような体捌きでそれをかわし。
「そっちからかかってきたんなら、容赦しないよ〜」
 すたっと地に降り立ったキオは、足元の雪を盛大に跳ね上げて視界を奪う。
「クリスマスを邪魔する人は許さないですっ♪」
 【商店同盟】のシエラ・フルフレンド(ha1695)がとりもち入りの雪球を投げるとそれを追うようにして事前に連携を約束していた【WO】もキオめがけて雪球を投げつける。
「お遊びは嫌いではありませんが、引き際を弁えなさいまし!」
 サヴィーネ・シュルツ(ha2165)がストーンウォールで行く手を阻めば、キオはさらっとそれを避けて。
「おっと〜」
 頭にぺしょっと雪球が落ちてきたかと思えば、上空から雪球を落としたのはシフールのセティリア(ha2322)。だがシフール故にその雪球は小さいので威力はあまりなく。
「(‥‥結局これは何の行事なんだ)」
 疑問に思いながらも放たれたカララク(ha2332)の矢はキオの足元に突き刺さり、一瞬体勢を崩した彼。
「みんなー! 今だー!」
 まひる(ha2331)の号令でエルシア・エルミナール(ha2633)と密原帝(ha2398)がキオへと駆け寄る。だが彼は捕まるより一瞬早く体勢を立て直し――
「皆様の努力の結果、返していただきましょう」
 ――たのだったが、その先に待っていたのはラピス・ヴェーラ(ha1696)、使人風棄(ha2020)の震天炎入り雪球に、ルーディアス・ガーランド(ha2203)のハロウィンボム。
「君達さ〜いくらなんでも容赦なさすぎでしょ〜」
 爆発の後から表れたキオは、いつもの笑顔だったがもう逃げる気はないようだった。


「大分取り返せましたわね」
 ナナルネ・ナル・ナラン(ha1709)はレテ・メイティス(ha2236)やウィンド・セフェル(ha2814)と共に取り返した魔光石を数えていた。
「子供の夢や楽しみを奪うのは許せないからね。無事に取り戻せてよかったよ」
 ウィンドの言うとおり、全部とはいかなかったが殆どの魔光石を取り戻すことができていた。
 と、皆が一息ついたその時。
「「「あ!!」」」
 ふと捕獲したキオを見ると、いつの間にやら縄から抜け出していて。
「あはは〜楽しかったよ〜。それではこれはクリスマスプレゼント〜〜〜」
 いつものへらへらした調子で手を振りながら遠ざかっていくその姿。
「待て‥‥!」
 絶対懲りてない。
 勿論彼を追おうとしたブリーダーもいた。だが他のブリーダーがそれを止めた。
 なぜならば、彼らの手元にはクリスマスプレゼントらしきものがしっかりと残されていたからだ。
 約束は、しっかり護るらしい。
「まったく、お騒がせですね」
 誰かが呟いた。
 だが、たまにはこういうのもいいかもしれない。
 ほら、年に一度の聖夜だから。
 この後は、皆で魔光石奪還を祝ったっていいじゃない?

 ――その夜、ブリーダー達だけではなくエカリスの住民の全てにクリスマスプレゼントが配られたことを皆が知るのは、明日の朝以降である。

<担当 : 天音>






■戦いの成果は・・・・

●エピローグ
 王宮の奥まったところにあるその部屋は、王が通常執務を行う際に使用している部屋だ。本棚には書物が沢山、壁際に置かれた机には書類が沢山積み重ねられている。
 中央に置かれた硝子テーブルは、透明硝子の板と板の間にレース編みで作られた花や、刺繍の施されたハンカチーフがはさまれているという凝った造りになっているがいささか少女趣味だ――どうやらそれがエリューシア姫の発注らしいという事を彼、キオ・クルトスは聞いた事があった。
「それで、ブリーダーたちはどうだった? キオ」
 執務机付近から投げかけられた言葉に、キオは視線を椅子に座る人物にあわせた。
「いや〜ブリーダー達もなかなかやるね〜。結構こてんぱんにやられたよ〜」
「ふふ‥‥相当手酷くやられたようですね」
 椅子に座っている人物――カルディア国王の横に立ったエリューシア姫が笑いをこらえるようにして口元に手を持っていく。
「たまんないね〜。手加減なしだものね。スキルだけじゃなく、罠も巧みに使っていたね。まあボクは捕まらなかったけど」
 王族に対してもいつもの口調を崩さない彼。それは彼だから許される行為だ。
「では、ブリーダー達の実力は十分あるとみていいのかな?」
「そうだね〜。残念だけど、ちゃんとクリスマスプレゼントを上げないといけないくらいね」
「あら、クリスマスプレゼントを上げたくないから逃げ回ってましたの?」
 あまりにキオが残念そうなものだから、姫は揶揄するように笑い。
「勿論王様から下された戦力調査が第一だったけど、それだけじゃつまらないじゃない? ボクも少しくらい楽しんだっていいでしょ?」
「まあ、キオはきちんと仕事をこなしてくれるからな。信頼している」
 あまりにいつもと代わらないキオの様子に、王もまた微笑んで。
 この男はこんなにへらへらしながらも国の上層部からの勅命で潜入調査や暗殺業をこなすから、王からの信頼は高い。
「ブリーダー達は力だけでなくそれらを使いこなす技量と頭、そして敵に立ち向かう勇気を持ち合わせている‥‥と」
 王の呟きを、キオは否定しない。
「ご苦労様、キオ」
「いえいえ」
 王に言われても、最後までこの男は態度を変えなかった。
「あ」
 退室しようとした彼を、姫が呼び止める。
「ブリーダーたちには約束通り、きちんとクリスマスプレゼントをあげてくださいね?」
「姫には敵わないいね〜。ちゃんと配っておいたから安心してよ〜」
 振り返ったキオはいつものへらへらとした調子で手を振り、部屋から出て行ったのだった。


「無事にツリーにも魔光石が戻って‥‥」
「皆もクリスマスの夜を楽しんでくれているかな?」
「ええ、きっと」
 にこり、微笑を浮かべて王を見る姫。
 自分達はツリーを見に行く事はできないけど、想像する事は難しくない。

 淡く、色とりどりに輝く魔光石に彩られた巨大ツリーの周りに集う人々。
 楽しそうな笑い声と、嬉しそうなはしゃぐ声と、微笑みの輪舞。
 ああ、今年も無事にこの日が迎えられて。
 人々が家族と、恋人と、友達と――大切な人と過ごすこの日。
 また、来年も無事にこの日を迎えることができますように。
 人々の笑顔を護れますように。

 メリー・クリスマス。



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