■呪眠〜死の風〜第2回リプレイ


■<シュネイテーシス首魁戦>

 彼の地に現れたモンスターの撃破。それがシュネイテーシス拠点で待つ彼等に与えられた、最大にして唯一の使命だった。
 おそらくこの度の戦の仕掛け人――倒すべき首魁であろう謎の女性、そしてそれまでとは比較にならないほどの巨体を有したスエーノ。両者を倒せばこの戦いは終わる――曖昧模糊とした闇の中で足掻いていた状況から、ようやく彼等は標を見つけたのだった。
 それは彼等をこれまでになく奮い立たせ、前回の戦いで傷を負い力を失っていた者達の目にも闘志を蘇らせた。
 ――自分たちの手で、この戦いを終わらせるのだ。
 空に満ちた薄明の光が夜明けの青へと変わって行くのを眺めながら、誓いを新たにし、彼等は再びその戦火に身を投じるのだった。

  「ってぇーーー!」
 戦端を開いたのは、シエラ・フルフレンド(ha1695)のその号令だった。高く掲げていた杖を一気に振り下ろす。同時に、後方に控えたソーサラー部隊から、一行の視界を遮る濃い霧に向けてファイヤーボムが放たれた。
 爆発。一点集中による爆撃で生じた凄まじい爆風が、一帯の霧を吹き飛ばす。
 その向こうに一瞬垣間見えたのは、大型スエーノのあの血に染まった目玉のような真っ赤な核と、鮮やかな青緑色の髪。
 彼女はうっすらとした微笑を口許に浮かべ、見下すように一行の姿を眺めていた。
「綺麗な花には棘があるとは言いますけどねッ」
 空白地帯に向かって最初に切り込んだのは、シエラ指揮する【商店同盟】の一員でもあるラグナス・フェルラント(ha0220)だった。
「俺達も続くぜ! 霧を吸い込まないように気をつけろ!」
 【翼団】を指揮するセイル・ファースト(ha0371)の声に、メンバーもまたラグナスの後を追って突撃する。皆、口にはマスクや濡らした布などを当て、万が一にも霧を吸い込まないよう『眠り』対策を施している。更に、謎の女性の目を見ないよう常に視線をずらす、或いはいっそ目隠しをしてしまうなど、ブリーダー達それぞれがこれまでに積み上げてきた一つ一つの情報――それがこの場において、まさに一つに集約していた。
「ふふ‥‥けれどそれも一時しのぎでしかない」
 謎の女性が笑う――と同時、スエーノの周囲で再び霧が発生した。先程吹き払われた空間に、瞬く間に流れ込んでいく。
「くっ、また霧が来るぞ! 全員息を準備!!」
 ペンギン次郎(ha1704)が叫んだ。だが、接近し過ぎていた者の内何人かは、濃すぎる霧がマスクの中にまで入り込んでしまい、意識を奪われてしまう。
「こんなんじゃ迂闊に近づけません!」
 たまらず後ろに下がる鳳双樹(ha0021)。と、まるでその声に応えるかのように、背後でヴォルク・クロウリー(ha2182)が霧を払うためにファイヤーボムを放った。僅かの間、払われる霧。
「行ってください、真司!」
「おうっ!」
 その言葉に応え、雷堂真司(ha0193)が飛び込もうとする。
 ――だが。
「その程度じゃぁ、まだまだよ」
 女性の嘲笑う声が響き、まるでその空間を埋めるかのように上空から恐竜型モンスター――ディモルフォドンの群れが襲い来た。
 スエーノの霧のために迂闊に近づけず、女性の視線から逃れるため行動は制限され、更に上空からはひっきりなしにモンスターが襲いかかってくる。
「ほらほらほらぁ! そんなんじゃ全滅してしまうわよ!」
 嬉々とした笑い声を上げる女性。
 だがそれでも、決め手に欠ける一行は決定的な行動に出ることが出来ない。
 ――苦戦、していた。
「いっそ、一思いに痛みを感じる間もなく皆殺しにしてやろうかしら」
 酷薄に唇をつり上げて、彼女が右手を天に向かって掲げる。
 そして、苦戦する彼等に向かって振り下ろし――

 一方その頃、拠点に残り船と拠点とを守る防衛戦に身を投じていた部隊、また救助・援護部隊は予想より遥かに善戦していた。
「幻影船団――召喚」
 リリー・エヴァルト(ha1286)の詠唱に従い、海上に現の影である幻の船団が現われる。
「いっくよー!」
 更にアルディス・エルレイル(ha0419)が、マジカルミラージュを詠唱、海上にまさに『船団』が出来上がる。これに飛行タイプのモンスターはその知能の低さもあって、完全に騙された。空を埋めつくさんばかりだったモンスターの大半が、その攻撃目標を幻影船団に移したのだ。
「効果は6分。‥‥攻めるなら、今です」
 リリーの言葉に、一行はおおお!と喊声を上げる。
「陸に銀糸の姫あらば、海に我らがあり! 己が力振り絞り、戦え皆の者!」
 【一家】の家長、ゲオルグ・エヴォルト(ha1327)が拳を振り上げ、そして戦いが始まったのだった。

「どんどん作るから、片っ端から撃ち込んでやりな!」
 ブリーダー側の船の上では、イーリアス・シルフィード(ha1359)とゲオルグによって次々に火矢が準備されていた。これを射手が次々に敵モンスターを詰め込んだ海上の輸送船に向かって撃ち放つ。
「燃えて‥‥お願い‥‥っ!」
 ヴィンデ・エヴォルト(ha1300)が一際強く願いを込めて火矢を放った。空高く弧を描き、その矢はまるで吸い込まれるように敵船に突き刺さる。そして、炎を燃え上がらせた。
「風はありませんっ。皆さん、無風状態を想定して射て下さいっ」
 すぐさま得た情報を周囲に伝えつつ、次の矢を番える。これを聞き、アレン・エヴォルト(ha1325)は言われた通りに火矢を放った。弧を描いた矢は、見事に敵船に命中。
「ふむ、さすがヴィンデ――っと」
 アレンの目が、弟を狙い上空より飛来するモンスターを捉え、きゅっと細められた。
「家族には指一本触れさせない――!」
 一瞬の間に番えた矢を、射る。矢はモンスターの目を貫き頭部に抜けて、断末魔の声とともに海に撃ち落とす。
「はっはっは! 一家の絆、良い物にござるな!!」
 海野雅楽(ha2141)が暢気な笑い声を上げる。だがその弓から放たれる矢は精確に敵船の燃えやすい箇所に突き刺さり、炎上させる。
 そうして、次々に船上から放たれる火矢によってあっという間に敵船は炎に包まれていった。それでもなお航行しようとする船に対しては、自らの船を直接動かし、近距離から魔法を叩き込むことで沈黙させた。
「仲間を傷つける奴ぁ、許せねぇ、覚悟しやがれッ!」
 いまもまた、秋水(ha1446)が柳眉を逆立たせて、火矢と同じく先端に炎をまとわりつかせた短槍を敵船に投げ込んだ。更にブラックフレイムも撃ち込み、大穴を開けたところで離れていく。
「敵が近づいてるっ。みんなの乗る船、これ以上は近付けさせないんだから‥‥!」
 その時、イーリアスと共に水中索敵を行っていたマルヴェ・エヴォルト(ha1301)が声を張り上げた。船体三時方向から五体、零時方向から七体。
「この船に乗りたいっていうなら、相応の犠牲を覚悟なさいっ! すっごく高いんだから!」
 李蘭花(ha1693)は敵に乗り込ませる隙を与えず、水面から顔を出したモンスターを次々に弓矢で屠っていく。しかしそれでも全てを防ぎきることは出来ず、何体かの敵の侵入を許してしまう。
 縁に手を掛け、飛び上がるようにして甲板上に降り立った敵は、だが、
「――ここを征きたくば、我が屍、乗り越えてみせよ」
 アーバイン・エヴォルト(ha1280)が両手に構えたクリスタル・ナイフに一瞬にして寸断された。
 ブリーダーを乗せて海上を進むその船は、万全に近い態勢を整えていた。

 陸上の拠点においても、配置された部隊はよく持ち堪えていた。
「カッパッパ! ここは通しやしねえさ!」
 【WO】所属の前衛、アクタ(ha2225)が短剣を構え敵に張り付くようにして、そののど笛を切り裂いた。そのやや後方では、ロジーナ・シュルツ(ha2085)が、敵を後方に控えたソーサラーの直線上になるよう時に押し、時には引き上手く誘導していた。
「今なのっ!」
「死にさらせ害虫ども――ですわっ!」
 ロジーナの声に応え、サヴィーネ・シュルツ(ha2165)がグラビティーキャノンを放った。黒い光の奔流が迸り、その直線上に並んでいた敵を呑み込んでいく。
 防衛部隊がそうやって戦線を持ち堪えている傍らで、救護・援護部隊は忙しなく戦場を行きつ戻りつしていた。
「怪我人が多すぎますわ!」
 負傷者ですし詰め状態になっているテントでそう叫んだのは、ラピス・ヴェーラ(ha1696)だった。
「このままでは、人手が足りなくなってしまいますわね‥‥。優先順位をつけて対応するしか‥‥」
 そこで彼女は何かを堪えるようにぐっと唇を噛んだ。非情な現実。助かる見込みのない者は切り捨て、見込みのある者を優先して治療していく――こうした状況下で効率的に治療を施すための一つの解。
「ラピスさん‥‥」
 ジェイミー(ha1414)が迷う彼女に何かを口にしようとした時、セラ・ヘイムダル(ha2036)と共に新たな負傷者が運び込まれてきた。
「重傷ですっ」
 心なし引きつり気味のその叫びに、ラピスは一瞬だけ何かを諦めたような表情を浮かべて俯き、しかし次の瞬間にはあらゆる煩悶を振り切った迷いなき動きで顔を上げた。
「治療は、事前に決めた優先順位の通りに。助からない者は――ッ」
「――はい」
 それを以上を言わせず、ジェイミーは覚悟を決めたように決然とした面持ちで頷くのだった。

   だがまさにその時、彼女達は、外で仲間達の叫び声を聞いた。
「スエーノを討伐にいった方達がっ」
 テント内に慌てた様子で飛び込んできたのは、シフールのベリアル・ブラウニー(ha2267)だった。
 彼が口にしたのは、果たして――

 ――いっそ、一思いに痛みを感じる間もなく皆殺しにしてやろうかしら。
 傲慢な口調でそう呟き、苦戦する部隊に向かって振り上げた手を振り下ろそうとした謎の女性は、しかし、その直前でハッと何かに気付いたかのように首を逸らした。
 直後――その頬を掠めて、一本の矢が顔のすぐ傍を通り過ぎていった。
 弾かれたように彼女が振り返った先には、彼女に背を向けてその場を離脱しようとする男の背中。
 ジェフリー・ジョンストン(ha1056)である。
「いやぁ、参ったね。完全に当たるタイミングだったあれを躱すとは」
「しかし、これは我々にとって格好の好機となるでしょう」
 答えたのは、今までじっと機を待ち続けていたジェフリーの護衛をしていたバトラー(ha2211)。二人は脱兎の如くといった表現がぴったりの速さで女性の視界から消えていこうとする。
「人間風情がッ‥‥!」
 己より弱小な存在に不意を打たれたという事実に、瞬時にして女性の頭は沸騰した。眉尻をつり上げて、美しい顔から一転、般若の如き形相へと変わる。
「うわっ、すっごく怒ってる。本当はあと一度か二度ぐらいは繰り返そうと思ったけど、一足先に逃げちゃおう」
 この場どころか戦場自体から離脱しようとする飄々としたジェフリーの態度にに、ますます彼女の怒りはかき立てられる。だがしかし。
「――ッ!?」
 彼女の周囲に炸裂した、ジル・ヴァナディス(ha1977)によるファイヤーボムの爆風に、ハッと彼女は前に向き直った。
 吹き飛ばされる濃霧。
「今だ! シルビアッ!」
「はい! 金と銀の閃光の一撃、受けてみなさい!」
 アーク・ローラン(ha0721)とシルビア・アークライト(ha0870)。背中合わせに並び立つ二人は、寸分違わぬ動き、タイミングで二本の矢を弦に番え――生じた隙を貫く一撃を放った。
 再び漂い始めた霧を切り裂き、吹き飛ばしながら、四本の矢は唸りを上げて直進し、

 ズガッ!!

 スエーノの鮮血の核に突き刺さった。この戦いで初めてのクリティカル・ヒット。
「チィッ!」
 忌々しげに舌打ちをした女性がその呪いの眼を二人に向ける――よりも早く、
「させません!」
 藤宮静霞(ha0029)がストーンウォールを詠唱、地中より出現した壁が視線を遮る。さらに海神竜(ha0194)も同じく詠唱、二人は次々に防壁を場に作り出した。
「行きますっ!」
 その壁を利用し、スズカ・アークライト(ha2337)が武人特有の素早い動きでスエーノに迫った。一撃を加える。更にシエラによる魔法が次々に放たれ、その悉くがスエーノに直撃。
 その魔法の衝撃により生じた道筋を駿脚による高速移動、使人風棄(ha2020)はスエーノの手前で跳躍した。空高く跳び、
「この攻撃ッ、避けられますかッ!」
 その両手に装備したクローをバツの字に振り下ろした。スエーノの肉が、ざっくりと裂ける。その痛みに対する悲鳴の代わりでもあるのか、スエーノの裂けた傷口から凄まじい勢いで霧が噴射された。
 近くにいた仲間が次々に倒れ込む。
 だが、それでも彼等の勢いは止まらなかった。
「でえぇぇぇぇい!」
 虎牙こうき(ha1742)が、ランスを構えてペンギン次郎と共に突撃。
「この、調子にのって――」
「マジカルミラージュ発動」
 女性がその視線で呪いを掛けようとした瞬間、こうき(ha1504)による魔法が発動、二人の姿は幾体にも分裂する。
「なっ――!?」
 さ迷う視線。どれが本体であるか見分けがつかない。
 その隙に、こうきのランスがスエーノの核に深々と突き刺さり、そして――

「オオオオオアアアアア――――!」

 ペンギン次郎の渾身の力でもって振り払われたアックスが、スエーノの半身を微塵に吹き飛ばした。
 その瞬間を、その場にいた誰もが見た。
 まるで時が止まってしまったかのような刹那。
 半身を失い、浮遊していたスエーノの身体はずしんと地響きを立て地面に倒れた――墜ちた。ごろりと転がり、間もなく眩い光の粒子となって空気に溶けていく。辺りを包んでいた霧とともに天に昇り、まるでそこには初めから何もなかったかのように、消えていった。
「‥‥‥‥」
 誰もが、呆然とそれを眺めていた。
 ――勝った、のか?
 胸中にわき上がる思い。
 霧の効果によって時が止まっていた者達が起き上がるのを見て、自分たちは勝利したのだという思いが更に強くなり、

「――皆殺し、だ――」

 それを打ち破ったのは、恐ろしい程の冷たさを含んだ、その声だった。
 ハッと一行は声の先を振り向きそうになり、慌てて思いとどまる。
「そこまで殺して欲しいのなら、お望み通り、殺して殺して殺し尽して、この世界から消し去ってあげる」
 その声にはあらゆる感情が宿っていない。背筋が冷たくなるほどの冷淡さ。だが、その場に居る誰もが理解していた。
 それは、嵐の前の静けさなのだと。

「――風よ、薙ぎ払え――」

   そしてまさしく、その場に嵐が巻き起こった。すっと天にかざされた女性の手が振り下ろされた瞬間、踏ん張ることさえ出来ない強風が周囲に向かって放たれたのだ。
 ストーンウォールも、彼等も、一緒くたに吹き飛ばされる。だがそこはさすがに歴戦の強者達、地面に叩きつけられるということはなく、上手く受け身を取って着地した。
「かかってきなさい、矮小なる人間ども――」
 いつの間にか握られていた茨の鞭をぱしんと振り回し、彼女は言う。
「――ただの肉片になるまで切り刻んであげる」
 それが、合図だった。
 雄叫びを上げて、彼等はその女性に向かって突進した。ソーサラーの魔法により再びあちこちにストーンウォールが隆起し、女からの視線を遮る。だが、彼女の鞭が一振りされただけで、旋風が巻き起こり、壁をズタズタに引き裂いた。更にそれだけでは勢いは弱まらず一行に対しても襲い来る。
 舞い上がる血しぶき。噛みしめられた悲鳴。
 だが、これしきのことで、今の彼等が止まることはない。
 ソーサラー部隊が魔法を放つ。まるで色彩豊かな絵のように、空間が極彩色に明滅する。
 狙撃手部隊が一斉に矢を放つ。僅かな隙を逃さず、針の穴に糸を通すが如き精密さで狙う。
 武人が、その俊足で敵を翻弄し隙を突く。
 ウォーリアーが己が武器を振りかぶり、渾身の一撃を放つ。
 ハーモナーが幾つもの幻影を生み出し、敵の攻撃を分散させる。
 プリーストが傷ついた者達が片端から治療していく。
 ――しかしそれでもなお、敵は倒れない。
 その放たれた魔法を己の風魔法で相殺し、掃射された矢を鞭の一振りで打ち落とし、その時生じた旋風により近接距離に居た者を残らず吹き飛ばし切り裂く。
 ――しかしそれでもなお、彼等は倒れない。
「ッ――いい加減鬱陶しいのよ虫けらどもが!」
 彼女は一際大きな旋風を巻き起こすと、彼等から大きく距離を取り、怒りで青白くなった顔を歪ませた。
 その目が、ギラリと凶悪な輝きを放ち、先程のように天に向かって手をかざす。
「もう、関係ない。ここまで私を怒らせた人間どもを、一人たりとてこの場から生きて返さない。あの方が何を言おうと、私は――」

「もうよい」

    声が、響いた。冷淡な、感情を全く感じさせない無機質な声。
 その声を耳にした途端、彼女の顔が驚愕に引き攣った。弾かれたように振り返る。
「‥‥‥‥‥さま」
 一体いつの間に現われたのか、彼女の背後に立っていたのは、流れるような銀髪を長く伸ばした線の細い青年だった。しかしその銀は、美しい――というより、どこか禍々しさを感じさせる妖艶さを秘めた不吉な色だった。
 その青年を目にした途端、彼女は小さな声で名前らしき言葉を口にし、背筋を震わせた。
「‥‥‥シャルローム。必要以上に相手に力を見せてはならないと言ったはずだ」
 特に叱責する風でもないその言葉に、しかし彼女はまるで死を言い渡された囚人の如き絶望に満ちた形相を浮かべ、憤激していた時以上に顔を蒼白にした。
 カタカタと、その肩が震える。
「も、申し訳ありま――」
「帰るぞ」
 彼女の言葉を遮り短く言うと、青年は、あとはもう興味を失ったかのように背を向け、さっさと歩き出した。その様子に、安堵のためか、ほっと息を吐いた彼女は、自分も後に続こうとして――
「いつか、必ず」
 振り向いて、酷く冷たい眼差しを一行に向けた。
「細切れに切り刻んであげるわ」
 冷笑を浮かべてそう彼女が口にした次の瞬間、彼女を中心として竜巻のような風が発生し、思わず一行は顔を手で覆った。
「‥‥‥‥」
 風がおさまった時、既に辺りからはあの青緑色の髪の女性も、銀髪の青年の姿も消えてなくなっていた。
 一体あの二人は何だったのか――?
 何のためにこのようなことをしでかしたのか。
 疑問は尽きないが、しかしこの場にその答えはなかった。
 きっとそういったことは、自分たちを送り出した上の人間達――あの人達が考えてくれるだろう。 
 だから今の自分たちは、ただこの喜びだけを噛みしめよう。 
 ――ようやくこの戦いは終わったのだという、思いを。
 おそらくスエーノを倒したことで、霧によって眠っていた人々は目を覚ますだろう。あとは、残存勢力を掃討すればこの地での彼等の任務は終わりを告げる。
 ――眩しいなぁ‥‥。
 すっかり日が昇りきってしまった、眩い青空を見上げる。
 次いで、その視線を、やや下げて空の彼方に向ける。
 そして、思うのだった。
 アレハンドロの人々ははどうなっただろうか――。

<担当 : 荻野ナオ>


■<要塞都市アレハンドロ防衛戦>

「何でしょう、あれは‥‥!?」
 要塞都市アレハンドロ。その城門の上から海の方を見やったメリル・スカルラッティ(ha0444)は、思わず声を上げた。
 そこに見えるのは、一面の青白い波。まるで、海がこの城塞のすぐ目の前まで迫って来たかの様な錯覚を覚える。
 だが‥‥
 それはブランカの大軍。平原を埋め尽くしたその姿は、味方の兵力を圧倒的に凌駕していた。
「くそ、こっちの戦線がモヤシみたいにひょろひょろで頼りなく見えるぜ!」
 ライディン・B・コレビア(ha0461)が呟く。これではただでさえ後退した戦線がこの城門のすぐ目の前まで下がって来るのは時間の問題に見えた。
「だが、モヤシってのはああ見え結構しぶといんだ。頑張ってくれよ‥‥っ!」
 前線に赴いた仲間達の無事と、武運を‥‥!


 その祈りが届いたのか、カーリン(ha0297)は仲間達に呼び掛けた。
「皆さん、眼前の敵だけではなく、隣には‥‥そして後ろにも仲間がいる事も忘れないでください」
 味方の数は少なく、しかも目の前にいる敵はブランカだけではない。守勢に回っても、ずるずると後退するだけであろう事は目に見えていた。
「ならば‥‥攻撃あるのみ、ですね」
 上空に、エミリア・F・ウィシュヌ(ha1892)が描き出した大きな緑色の犬が姿を現す。
「厳しい戦いになりそうですが‥‥皆、がんばりましょう!」
 合図と共に、弓や魔法での一斉攻撃が開始された。
 ミスティア・フォレスト(ha0038)が石壁の影から続けざまに電撃を放つ。ジョジョル・マルーン(ha0413)も混戦になる前になるべく多くの敵を巻き込もうと、電撃と吹雪を惜しまずに見舞った。
「今回も驚きの数‥‥?」
 この程度では足止めにもなりそうにないと思いつつ、ルー・ルーキン(ha2129)は矢を放っていく。
「これ以上は通行止めなのですよ〜‥‥って言ってるのに!」
 西村京香(ha0146)の攻撃にも怯まず、相手は着実に前線との距離を縮めて来る。
「そろそろ、私達の出番ですね‥‥さて、気合い入れていきますか」
 肉弾戦を担当するルイス・マリスカル(ha0042)が腰の剣を抜き放った。
「よっしゃ、行って来い!」
 キオルティス・ヴァルツァー(ha0377)は、そんな最前線で戦う者達に加護の舞を送り、守りを強化する。
「一人じゃないんだから、絶対勝てるって‥‥まあ、頑張ろうぜ?」
 気楽そうに言ったのは武人のイザナギ(ha1985)だ。だが彼にもこの戦いが厳しいものである事はわかっている。集団行動は趣味ではないが、単独で突っ込んでどうにかなる相手ではなかった。
「恨みがある訳じゃないが‥‥此処まで来られると流石に無視出来ねえな」
 これ以上進ませる訳にはいかない。ヘヴィ・ヴァレン(ha0127)は青白い集団の波頭に震天炎を投げ付け、隙を見て斬り込んで行く。
 だが、敵の数が余りに多すぎた。それに加えて、ブランカ達は自らが傷付く事も厭わずに‥‥いや、傷付いている事さえ感じていないかの様に突き進んで来る。
「通さない‥‥とまれ! とまりなさい!!」
 力の限りに剣を振るいつつ、ナナルネ・ナル・ナラン(ha1709)が叫ぶ。だが、ブランカ達は止まる筈もなかった。
 それどころか‥‥
「こいつら‥‥動きが良くなっている!?」
 アスティ・ザイラ(ha1678)が叫ぶ。それまではただ、数に任せて闇雲に攻めるだけだったブランカ達に、僅かだが戦略的な動きが見え始めていた‥‥まるで、指揮官でも存在するかの様に。
 ブランカ達は防御が手薄になった箇所に押し寄せ、突破を図る。
「誰か、援護を!」
 カーリンの声に応え、ミカエラ・アルディーティ(ha0465)が飛び込んで行く。
「急所は‥‥人間と同じかな?」
 ポイントアタックで「そこ」を狙うが‥‥一体の動きを止めても、ブランカ達は波の様に次々と前に追い出されて来る。
「それでも‥‥これ以上進ませてなるもんか‥‥ッ! コイツら押し返して、絶対守り通そうぜ!」
 アニステーミ(ha1945)は破壊力よりも命中率を重視し、確実に攻撃を当てて行く。しかし、かなりの数を倒した手応えは感じるものの、敵は少しも減った様には見えなかった。
 やはり、何かがある‥‥アスティは手持ちの意思疎通薬を飲み干し、手近なブランカに近付いた。
「思いつきに過ぎないが、うまくいけば戦局が変わる‥‥!」
 それは相手に触れなければ効果はない‥‥捨て身の作戦だった。
「大丈夫か!?」
 ブランカの爪にかかり、倒れたアスティをアルフレッド・スパンカー(ha1996)が担ぎ上げ、安全地帯まで運ぶ。
「やはり、指揮官がいる様です‥‥明確な思考は読み取れませんでしたが‥‥」
 治療を受けながらそう言ったアスティの言葉に、リル・オルキヌス(ha1317)が上空へと舞い上がった。
「あれは‥‥人間?」
 一面の青白い波の彼方、後方に見えた人影。
「男の人‥‥みたいだけど‥‥?」
 だが、その人影は続々と迫り来る青白い波に呑まれ、見えなくなってしまった。
「‥‥撤退、しましょう‥‥」
 これ以上は戦線を支えきれないと判断したカーリンは、エミリアにそう提案する。
 またしても、苦渋の選択。
 しかし今度は、ただの撤退ではない。相手を水際で罠にかける、その為の作戦でもあった。


 一方、要塞の内部では小型スエーノの殲滅作戦が展開されていた。
「なっ、なんだこの目玉の化け物!?」
 扇獅童(ha2126)は初めて見るそのモンスターに恐れをなし‥‥たりはしない。霧を吸い込まない様に気を付けながら、仲間の助太刀に入る。
「突破されれば、多くの人が危険に晒される‥‥それだけは避けなければ」
 ルイーナ・オルテンシア(ha2044)が呟く。ここはもう、一般人の住む居住区とは目と鼻の先だった。
 だが、危険に晒されているのは一般人ばかりではない。要塞内部に待機していた何人かのブリーダーまでもが、その霧を吸い込んで眠りに落ちていた。
「だが、こいつらを倒せば眠った奴等は起きる筈だ!」
 ライズ・イーストン(ha2030)がサンレーザーで水菓子を焼き払う。それでも起きない者は‥‥
「大陸の方に現れたっていう、巨大な奴にやられたのか‥‥?」
 だが、何故? いつの間に、この要塞の中へ? 今、この要塞の中に「それ」それがいない事は確かだが。
「今は気にしても仕方ないな」
 小型のスエーノを倒し、目覚めた者達にはライディンが安全な場所に避難する様に指示し、戦える者には協力を仰ぐ。
「単独行動はするなよ!」
「わかってるさ」
 ライディンの声にレイ・アウリオン(ha1879)が応える。
「街は活気に溢れてないとね、みんなの時間を返してもらうぞ!」
 活気の代わりに溢れているスエーノ達を、トリストラム・ガーランド(ha0166)やセリオス・クルスファー(ha0207)と連携し、次々と倒していった。
 ヴィント(ha1467)、ナラン・バヤル(ha1609)、そしてセシル・シャイア(ha2188)の三人も加わり、内部に侵入した水菓子達は確実に駆除されていく。
 ここ、要塞内部の戦いに限って言えば、ブリーダー達が有利に事を進めていた。
 だが‥‥


「城壁の付近で眠っている方は、もういませんか?」
「はい、眠っている方達は既に安全な場所に運び込みました」
 ゲオルク・グートシュタイン(ha0507)の問いに、アスラ・ヴァルキリス(ha2173)が答えた。
 城壁の付近は万が一敵に突破された時には最も危険な場所となる。そんな場所にもし身動き出来ない者がいるなら、放っておく訳にはいかなかった。
「まぁ、これも地味じゃが必要な仕事故にの」
「武器を持たない俺にも、出来る事はあったという訳ですね」
 フリーデライヒ・メーベルナッハ(ha2051)が豪快に笑い、十六夜幻夜(ha2277)は少し照れた様に苦笑いを浮かべる。
 彼等はヤルマル(ha1890)と協力し、迅速に作業を終えていた。
 これでもう「万が一」の事態が起きても、身動きの取れない者を気にする事なく作戦行動が取れる。彼等の事も気掛かりではあるが、救助や治療行為において優先すべきは動ける者。起こす術もない者達に構っていられる余裕はなかった。
 今のところ、運ばれて来る怪我人は少ないが‥‥ その時‥‥クリス・ラインハルト(ha0312)が片手にメモを握り締め、救護室に駆け込んで来た。
「た、大変‥‥です!」
 彼がもらたしたのは、戦線が後退し、遂にこの要塞の目の前が戦場になったという知らせだった。


「いよいよ、ここが最終ラインか‥‥でも、通す訳にはいかないよね」
 跳ね橋の付近に待機し、シフォン・マグリフォン(ha0667)が叫ぶ。
「悪いけど、ここから先は通行止めだよ!」
 ここだけは、敵を通す訳にはいかない。ここを突破されれば身動き出来ない怪我人や一般人が危険に晒される。
 後退を余儀なくされた前線部隊に要塞の守備隊が加わり、跳ね橋の付近を中心に最終ラインが築かれた。
「チーム・鎖‥‥出番、ダ」
 マンクス(ha1728)の指示で、三人のチームが動く。
「蹴散らす‥‥跳ね橋を守りきってみせるとも」
 最前列に陣取ったデューラー・ロンバルド(ha1319)の背後に、仁凪龍造(ha0350)と司令塔のマンクスが控え‥‥
「来るぞ!」
 青白い波の様な、ブランカの大軍。
「ここを護る事は、みなさんを護る事につながる。通すわけにはいきません」
 上空から戦域全体を見渡したリュミヌ・ガラン(ha0240)は、視界を埋め尽くすブランカの数に圧倒されながらも冷静に状況を判断した。
 負傷者を安全な城内へ運び込む為、跳ね橋を上げる事は出来ない。ならば‥‥守るしかないのだ。
「絶対にここの人たちを守るんだ!」
 敵との戦力差を悟ったシアル・クーハン(ha1937)は普段の戦闘スタイルを捨て、二刀流で挑む。
「帰るべき場所に再び笑顔で戻るため、今は戦う‥‥無心で」
 前線から伝令に走り、休む間もなく戦闘に参加したジェファーソン・マクレイン(ha0401)が、剣を握る手に力を込めた。
 そして城壁の上やその周囲からは、アーク・ウイング(ha0375)やツェリア(ha2134)、セティリア(ha2322)達ソーサラーが状況に合わせた魔法で前衛を援護する。
「‥‥通さないですよ」
 レテ・メイティス(ha2236)が押し寄せる敵を食い止めている所に、黒羽武人(ha0452)が助勢に駆けつけ‥‥
 だが、そうして互いにフォローし合っても、彼我の戦力差は歴然だった。


「せめて罠にかけて、少しでも減らせれば‥‥!」
 別の戦場では、メリルが期待を込めて上空を見上げていた。そこには血の様な色をした狐の姿がある。
 前線から後退した何人かのメンバーが、ブランカ達を城壁付近の狭い場所へと誘い込んでいた。
「攻めるつもりで、深淵へ追い堕とされれば宜しい‥‥」
 背後に回ったミスティアがグラビティーキャノンを浴びせ、何体かを纏めて堀に落として行く。
 その頭上からは‥‥
「これでも食らえ!」
 レイが油壺を落とし、油まみれになった所にリュミヌがブラックフレイムで火をつけた。
 だが‥‥
「減りません、ね‥‥」
 疲労の色も濃いナナルネが小さく溜息をついた。
「わたしにはもう、うたうことしかできない‥‥うたうよ‥‥この声が、かれるまで」
 いろは(ha2158)が少しでも敵を食い止めようと、子守唄を歌い続ける。
「数が多い‥‥などと、泣き言は言えんな‥‥」
 と、アルフレッド。数が多い事はわかっていた筈だが‥‥ここまでとは。
 諦める訳にはいかない。諦めるつもりもない。
 だが、引けない状況に、減らない敵。いつ終わるとも知れない戦いに、仲間達は心身共に確実に消耗していった。


 そして城内の救護班は、ひっきりなしに運ばれて来る怪我人の対応に追われていた。
「ここが正念場、皆、耐えるのよ!」
 自身も疲れているだろうに、アリエル・セレナーデ(ha0747)は皆を励ます。
「みんな、げんきになってね」
「ほら、もう大丈夫‥‥ね?」
 テフテフ(ha1290)に、皆城乙姫(ha2276)‥‥そして、ジュリオン・ミラン(ha0358)が懸命に治療補施し、怪我の浅い者は休む間もなく再び戦場へ出て行く。
 そしてまた‥‥すぐに戻って来るのだ。前よりも酷い怪我をして。
「お茶をどうぞ。心の安定なくて、戦えはしないでしょう?」
 慌ただしく出入りする者達に、宵屋陽彦(ha2094)は相変わらずお茶を勧めて回っていた。少しでも心を落ち着けて、戦いに戻ってほしいと、そう願いつつ。
「お腹がすいたらお食事をどうぞですの」
「ご飯無いと力出ないですからね♪」
 エヴァーグリーン・シーウィンド(ha0170)とアーリス(ha2219)は主に炊き出しの係だ。エヴァーグリーンは他にも防衛隊の巡回をして治癒に当たったり、要塞内部の水菓子退治に協力したりとフットワークも軽く神出鬼没だったが‥‥若いって良いなあ。
 そんな彼女にはカリヤス・バエル(ha1828)が護衛として付き従う‥‥と言うか、振り回されている?
 エレミア・エルドナーシュ(ha0185)は、今回は真面目に仕事に専念しているかと思いきや‥‥そっと身を寄せて頬とか胸とか当ててみたり。
「うふふ、エレミアの気まぐれサービスですぅ♪」
 そして、カーラ・オレアリス(ha0058)は今回も眠った人々に治療を施そうと、様々な方法を試みていた。
 だが、何を試しても効果はない‥‥かの様に見えたが‥‥?


「くそ、キリがない‥‥!」
「諦めるな、頑張れ!」
 唯一降ろされた跳ね橋の付近で苦戦を続けるブリーダー達。
 気力も体力も尽き果てようとした、その時。
 それまでぴたりと閉ざされていた左右の城門が開き、跳ね橋が降ろされた。
「どうした‥‥何があったんだ!?」
 劣勢に立たされていたブリーダー達の脳裏には、最悪の事態が浮かぶ。つまり、内部を制圧され、敵に内側から門を開けられたのではないかと。
 だが‥‥そうではなかった。
 降ろされた跳ね橋を渡り、こちらへ向かって来るのはブリーダー達だった。
「目覚めたんです! 眠っていた人達が‥‥!」
 ティセラ・ウルドブルグ(ha0601)の報告は歓喜の声でかき消されそうになる。
 駆けつけたのは、アレハンドロに常駐し、今まで死んだ様に眠っていた者達だった。
「って事は‥‥倒したのか?」
 シュネイテーシスに向かった者達が、あの巨大な親玉を。
 まだ報告はない。だが‥‥そうに違いなかった。
 その時。
 それまで統率の取れていたブランカ達の動きが乱れ始めた。
「今だ! 一気に反撃に出るぞ!!」
 思わぬ援軍を得、希望を得たブリーダー達は青白い波を怒濤の勢いで押し返す。
 疲れも、痛みも、今この瞬間は何も感じなかった。


「‥‥ちっ」
 青白い波が蹴散らされて行く光景を何の感慨もなさそうな表情で見つめていた男は、小さく舌打ちをすると、くるりと踵を返した。
「自慢のオモチャはやられちまった‥‥か」

 後に残されたブランカ達は、なすすべもなく大気へと還って行く。
 全てのブランカが消えた大地に、男の姿はなかった。


「‥‥結局‥‥俺達だけの力じゃどうにもならなかったって事‥‥かな」
 全てが終わった後、休憩所に充てられた広間の片隅に座り、ライディンは放心した様にぽつりと呟いた。
 だが‥‥
「そんな事はないぞ」
 聞き覚えのある声が広間に響く。
「ギルド長‥‥!?」
 勝利の報を聞き、サームで移動して来たのだろう。オールヴィル・トランヴァースは、満面の笑顔でブリーダー達に歩み寄った。
「彼等が目覚めるまで皆が持ち堪えてくれなければ、要塞は陥落していただろう。皆、よく頑張ってくれた!」
 大陸へ向かった者達も、全員が無事に任務を終えた事を聞き、友人達の安否を気遣っていた者達はほっと胸を撫で下ろす。
「大きな怪我もなく、皆無事に戻れた事は幸いでした。あなた方の尽力に感謝致します」
 勝利の報告だというのに浮かれた様子の欠片も感じられないその声は勿論、管理局長ローラ・イングラムのものだ。
「いや、要塞は落ちなかったが‥‥」
 命知らずなジェファーソンが、局長の登場に目を輝かせる。
「ローラ嬢の瞳を見つめると、違う意味で落ちそうだな‥‥」
 だが。
「落ちる前に氷漬けにされるほうに、ハンマーロッド100万本賭けるぜ」
 そんな失礼な事を言う奴は、サボリ魔大臣フェイニーズ・ダグラスに決まっている。
「‥‥いや、モヤシプリン100万個が良いか?」
 祝勝会のデザートに。


 ともあれ‥‥戦いは終わった。
 全てが無事という訳にも、すぐに元通りという訳にもいかない。それに、姿を消した男の影も気にはなるが‥‥
 これで暫くは、穏やかな日々を楽しむ事が出来そうだ。

 その平和が、いつまた再び破られるか‥‥それは誰にもわからないが。

<担当 : STANZA>




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