■呪眠〜死の風〜第1回リプレイ


■<シュネイテーシス上陸戦>

 空に、海中に、海上に――敵がひしめいている。
 シュネイテーシスへ向かう海路には、まず血路を切り開くべく海上援護組の船が前面へと出ていた。
 空からこちらを狙うのは、鳥型暴走エレメントと恐竜系のモンスター。中にはそれらに騎乗しているもの達もいる。
 海からこちらを狙うのは、魚型暴走エレメントや水棲系のモンスター。船を破壊すべく、こちらに敵意をむき出しにしている。
「‥‥俺達の都合だけど、ここから先は‥‥ダメなんだよ」
 船上からその光景を見つめて呟いたのはアーク・ローラン(ha0721)。そして決意を固め、自ら弓に矢を番える。
「【斉射】部隊準備はいいか?」
 彼らが決めたのは舞台や小隊に捉われずに接近される前に一斉射撃をする作戦。接近される前にできる限り遠方から敵へダメージを与えておき、戦いを有利に進めるというもの。それに呼応した者達が、アークの声に従い、弓に魔法に飛び道具に‥‥それぞれ発射の準備をする。

「撃てーーーー!!」

 号令と共にアークの矢が飛び来る恐竜へと放たれる。号令に従い、一拍二拍の遅れはあるが、あちこちの船から矢や魔法が飛び始めた。
「(僕にできることは少ないけど‥‥皆と力を合わせたら、きっと‥‥)」
 ヴィンデ・エヴォルト(ha1300)は自らも矢を射つつも、同船の者達の攻撃へと気を配る。
「すいません、少しタイミングをずらしてください‥‥! そう、間断なく敵に攻撃が行くようにお願いします‥‥!」
「ふぅ‥‥さて、この戦いは記録に残るのかな‥‥?」
 ライトニングサンダーボルトで4体を巻き込んで打ち落としたブラッド・ローディル(ha1369)が軽く種息をつきながら一人ごちた。

 どんっ‥‥

 小さな衝撃を船が襲う。一斉攻撃をかいくぐった水棲モンスターたちが船へと体当たりしているのだ。だが仮にもこちらは王国の出した大きな船。モンスター1体2体の体当たりでどうにかなるものではなかったが、放っておいたらどんな被害に繋がるか分からないのも事実。
「右の船へと寄せてくれ!」
 その時指示を出したのは、ゲオルグ・エヴォルト(ha1327)だ。予定外の動きではあるが、こういうときは臨機応変な対応が求められる。
 ゲオルグ達の乗った船が右の船へと近づく。すると水棲モンスターたちはそれを追うようにまとまってこちらを目指して――
「はっはっは! この船はミスター・ダンディの指揮下にあり! 行くぞみんな!」
 ゲオルグの掛け声で小隊【一家】の皆が群れた水中モンスターへと攻撃を放つ。一箇所に固まるようにしていた敵たちは、一斉攻撃を受けて次々と光へ還っていった。
 このままならば楽に上陸・攻防部隊をシュネイテーシスへと送り届けられる――そう思ったその時、前方に怪しい影が現れたのにアレン・エヴォルト(ha1325)が気付いて声を上げた。
「前方から船が‥‥!」
「!?」
 そう、その時前方から現れたのは多数のモンスターを乗せた船。船の大きさは大小様々だが、どの船にも陸生のモンスターたちが沢山乗っている。詰め込まれるように――否、
「まるで、無理やり詰め込まれたみたい‥‥」
 呟いたのは負傷者の手当てをしていたてる(ha2105)だ。
「いや、間違っていないでしょう。どの敵も船を操るほど知能があるように見えません」
 上空から襲い来る敵から彼女を庇いながら告げたのはアーバイン・エヴォルト(ha1280)。多くの敵と戦ってきた彼の知識と直感とでもいうべきか。

 では、あのモンスター達を船に乗せて送り出したのは誰か――?

 一同の頭にそんな疑問が浮かんだ。だが今はそれを考えている余裕はなさそうだった。

「援護部隊は左右に別れ、敵の船を抑えて道を作ってくれい!」
 上陸・攻防部隊の船上で飛行モンスターの相手をしながらエイリーク・テンペスト(ha1167)が叫んだ。それに従い、援護部隊の船は前方に少しずつ進みながら徐々に敵の船を押して行き、道を作るようにして前線を上げていく。

 ドンドンドンドンドン‥‥

 響くのはマルヴェ・エヴォルト(ha1167)の叩く太鼓の音。上陸・攻防部隊の船に届くように――「前船前進」の合図。
(「繋がって! 海の、空の果てまで♪」)
 そんな彼女を襲おうとする飛行モンスターから護るのは、【商店同盟】の者達。上陸するまでできる限り力を温存したいが、降りかかる火の粉は払わねばならない。
「俺たちは負けるわけには行かないんでね♪」
 縄標で敵を落とした虎牙こうき(ha1742)は、標を回収しながら光となって消え行く敵達へと声をかける。そう、負けるわけには行かないのだ。
「舵手を意識的に狙っているってわけではないみたいだけれど」
「飛行系は動きが自由な分、護られている弱そうな敵を狙う、位の頭は働くのかもしれません」
 船内構造の把握と舵手及び航海に必要な魔道具守備に立っていたジェフリー・ジョンストン(ha1056)は、バトラー(ha2211)と共に舵手を狙う飛行モンスター系を相手にしていた。懐に入られたということは、内側から後衛を狙われる事もありえる。幸い敵達はそこまで頭が回るわけではなく、ただ明らかに武装していない舵手を狙ってきただけのようだが、いつこちらの後衛に気がつくかは分からない。敵をひきつけておくに越した事は無い。
「援護部隊が船と水中の敵を抑えてくれている! 今のうちに接岸して上陸する!!」
 ペンギン次郎(ha1056)の声に応えるように、船は速度を上げる。対岸――目的のシュネイテーシスには見たことも無いような姿の敵達が見えた。未知の敵との戦い――不安が無いわけではない。だがここで引き返すわけにはいかない。
 上陸・攻防部隊がシュネイテーシスに近づくのにあわせて、援護部隊の船はその背後を守るように陣形を整えなおす。彼らもまた、上陸・攻防部隊とは違った意味で最前線だ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 雄たけびを上げながら、上陸・攻防部隊が次々と陸へと上がっていく。そして未知のモンスターへと刃を振り下ろし、魔法を浴びせかける。
「ほら、怪我をしたら下がっておいで!」
 流れ続ける血にも構わず敵の群れへと突っ込もうとした者の腕をイーリアス・シルフィード(ha1359)が引っ張り、後方へと引き戻す。リカバーで治療を施した後、ディティクトライフフォースの光を手に宿し、諭すように周りのブリーダー達へと告げた。
「敵は前からだけじゃない、横からも沢山きているよ!」

 ジャバンッ‥‥
 戦いの音にまぎれてかき消されそうになるその音。だが黄桜喜八(ha0565)はその音を聞き逃さなかった。船から陸に飛び移る時に上空から襲われたのだろう、落水者だ。
「おい、大丈夫か?」
 河童という種族の有利な点を生かして、喜八は落水者を次々と助けていく。戦いに備えて重装備の者達は、たとえ泳ぎが得意であっても装備が邪魔をしてそれすらままならないことが多い。そんな時彼のような者に文字通り命を助けられるのだった。
「‥‥忙しいな‥‥」
 水中からの彼の呟きは、剣戟の音にかき消された。

「足を止めない事! 誰か一人が孤立しないように気を配れ!」
 ナイン・フォーチュン(ha0533)が叫ぶ。それに従うように前線はどんどんシュネイテーシスの奥へと進み、カニャス観測所が近づいてきた。
 前線と後方の距離が大分開いたことを確認し、その間が安全地帯だと確認した上で拠点作りが始められた。いまだ上陸した前線と、海上の前線は奮戦を続けている。作業も迅速に進めねばならない。
「怪我人はこちらにきてくださ〜い! 治療は任せてくださ〜い!」
 アナベラ・ハーミンス(ha2132)が声を張り上げる。後方では拠点の確保と負傷者の治療が同時進行で始められていた。
「前線は奮戦しているようです。このままここを拠点として問題ないようです。今のところ負傷者の救助も何とか回ってますし」
 前線へと伝令に出ていたディアッカ・ディアボロス(ha0253)が戻ってきた。一応仮の拠点を築き上げた救助援護部隊と他のブリーダーや兵士は、小さく安堵する。まだ戦いは終わったわけではないのだから、油断する事はできないが、それでも事はひと段落しつつあるように思えた。
「ご苦労様です。重傷の怪我人は船へと下げ、救助援護部隊の方々も順次船へと戻ってください。後の回復は、前線部隊の中で――」
 船から降り立った銀色の髪の女性、今回の指揮官エリューシア・リラ・ジュレイガーがその場にいる者達に指示を出す。だがその最中に息を切らせながら駆け寄ってきたのは、伝令の為にと前線に赴いていたユラヴィカ・クドゥス(ha0123)だった。
「大変です、前線が――!!」


 それは突然のことだった。
 気がつけば、倒れだすブリーダーの数が増えていたのだ。治療を、と駆け寄ったブリーダーが見るに、彼らはどこにも傷を負ってはいない。よく見れば、ただ眠っているだけのようだった。
「前に!」
 声を上げたのは周囲の状況に常に気を配っていたノルマ・コノエ(ha1672)だ。敵と切り結んでいる者達も、その声につられるようにして前方へと視線を移す。

「!?」
「あれは‥‥!?」

 誰かが驚愕の声を上げた。
 そこにいたのは直径4.5メートルはあろうかという球型の見たことも無いモンスター。表面に血管のようなものが浮き出ており、目のような赤い核を有している。そう、サイズこそ違うが、アレハンドロ周辺の村を眠りへと陥れていた小型のモンスターに酷似している。
「あれが、もしや眠りの元凶か?」
 キース・ギルフォード(ha2201)が皆の心のうちを代弁した。そう、あれが人々を眠りに陥れるのだとしたら――攻撃を仕掛けるべきか、だが近づいたら他のブリーダー同様眠らされてしまうのではないか――彼らの心に一瞬の迷いが生じる。
「とにかく眠った者達を後方へとさげぃ! 救助部隊に急ぎ助力を請うのじゃ!」
 そんな拮抗状態にも似た雰囲気を破ったのは中田二郎(ha2131)。何人かがその声に応えて近くで眠ってしまった者達を後方へと下げる。
 チーム【翼団】及び【災滅】はその間眠ってる者や救助に当たっている者に危害が加わらぬようにと彼らを庇うように位置どる。だが――
「攻撃が、止んだ?」
 セイル・ファースト(ha0371)の呟き。そう、何故だか敵の攻撃は止んでいた。自然、球型モンスターに視線が集まる。
「要するに、こいつを倒しちまえばいいんだろ? オレ様に楯突く奴は、どいつもこいつも皆殺しにしてやるぜ!!」
 ルーシェ・シュナイダー(ha0484)が嬉しそうに球型モンスターへと走り出す。だがその足を止めたのは――

 さらりと風に流れる青緑色の髪を掻き揚げた、美しい女性だった。
 彼女はまるでブリーダー達の迷いをあざ笑うかのように、球型モンスターの横へと立つ。そして、口元には嘲笑。

「一人で突出しては危険で‥‥?」
 突出したルーシェを心配して駆け寄った時白鈴(ha1534)が、その女性を見て動きを止める。

 女性? いや、彼女は――

 それは直感。ブリーダーに備わっているともいえる一つの技能。

 彼女は人間ではない!?

 ブリーダー達の間に広がる大きな戸惑いの波紋。
 女性はそれを見て、面白そうに口元をゆがめるのだった。

<担当 : 天音>


■<要塞都市アレハンドロ防衛戦>

●迫り来るもの
「‥‥何だ、あの数‥‥!?」
 斥候役のルー・ルーキン(ha2129)が呆然と呟く。シュネイテーシスに面した海岸線から上陸して来る敵の数は尋常ではなかった。
「まるで大陸じゅうのモンスターが一度に押し寄せて来た様ですね」
 と、エミリア・F・ウィシュヌ(ha1892)。もしそうなら上陸組は楽になる事だろうが‥‥勿論そんな筈はない。
 そして彼等は上陸組が大陸へと向かった、そのルートを避けてこちらに向かって来たらしい。
 つまり、これでも敵勢力のほんの一部に過ぎない、という事だ。
「敵が何故都市を攻めるのか、その理由はわからないが‥‥」
 攻撃されれば迎え撃つしかない。アスティ・ザイラ(ha1678)は味方に対して合図を送るよう、エミリアに促した。
「わかりました。要塞を守る味方にも届く様に‥‥!」
 マジカルミラージュによって空中に描き出されたものは、大きな赤い犬の姿。攻撃開始の合図だった。
 その合図は遠く離れた前線から要塞都市まで、味方ハーモナー達によってリレーされ‥‥
「向こうでも、戦いが始まったみたい」
 リライーナ・リュニス(ha0246)がその合図に気付く。
 そして、眼下の草原にも迫り来る大軍‥‥
 シフールの鳴らすトランペットの高く鋭い金属音が、長い戦いの始まりを告げた。

●要塞都市防衛戦
 合図と共に、城壁の上に陣取った者達が一斉に遠隔攻撃を加える。
「頑張ろうぜ‥‥ライモン!」
 ライズ・イーストン(ha2030)はパートナーに声をかけ、合図と共にコンバート。他の者も、既にコンバートは済ませていた。
「混戦になる前に、行くよ!」
 アーク・ウイング(ha0375)の電撃が、城壁の上から一直線に伸びる。
 それに追い打ちをかける様に、キャルディ・ロット(ha1536)が矢の雨を降らせた。
 西村京香(ha0146)は弱った敵を狙い撃ち、メア・ヴォストゥフ(ha0046)は急所を狙って確実に仕留めて行く。
 だがそれでも‥‥戦況に殆ど変化は見られなかった。
 城壁の上からその様子を子細に観察しつつ、冥王オリエ(ha0395)がヴェントリラキュイで下へと指示を飛ばす。
「右が手薄になってるわ!」
「わかっちゃいるけど‥‥手が足りないんだよねー」
 軽い調子で呟きながらも、すぐさま反応したのはライディン・B・コレビア(ha0461)と仲間達。
「ディテクトライフフォースとかさ、意味ない感じ?」
 魔法を使うまでもなく、敵がいるのは見ればわかる‥‥それほどまでに敵の数は多く、そして容赦なく押し寄せて来る。
「向こうは高度な作戦など用いては来ない様ですね」
 手にした杖で敵を殴りながら、トリストラム・ガーランド(ha0166)は苦笑いを漏らす。
 そんな二人を盾で庇いながら、レイ・アウリオン(ha1879)が叫んだ。
「一人じゃ支えきれない‥‥誰か!」
 それに応えて飛び出したシフォン・マグリフォン(ha0667)が、手にした盾で敵を押し返す。
 その勢いに押され体勢を崩した何体かの動きを、楊愁子延(ha2187)がシャドウバインディングで封じ‥‥
「わっ私が動きを止めました。皆さん今です!」
「そんじゃ俺はこいつで‥‥っ」
 キオルティス・ヴァルツァー(ha0377)が加護の舞で味方を援護する。
「ぶちかまして来い!」
「っしゃあぁッ!」
 一方左翼では「チーム:鎖」が敵の攻撃を食い止めていた。
 城壁の上からメイ・フレイズ(ha2215)がマジカルミラージュを使い、チーム内の指揮を執るマンクス(ha1728)に場所ごとの敵量と向かう方向を文字と矢印で伝える。
 その指示に従い、彼等はデューラー・ロンバルド(ha1319)を先頭にその都度最も必要とされる場所に切り込んで行く。
 背後では仁凪龍造(ha0350)が八つ当たり気味に、手にした物騒な得物を振り回していた。
「混戦でデティクトライフフォースって‥‥意味ねえ」
 策敵が必要な状況では、最早なかった。
 そして、門の前ではサヴィーネ・シュルツ(ha2165)、ロジーナ・シュルツ(ha2085)の姉妹と、ルーディアス・ガーランド(ha2203)が共同戦線を張っていた。
「初陣がこんな大仕事とはな‥‥まあいい、やるぞ!」
「ここを突破される訳には参りませんわ!」
「抜けられちゃったら大変なの‥‥」
 その隣では【乙女隊】の二人、リオ・ヨーウィ(ha0188)と煌美星(ha0279)が、その命名について何やら言い争いながらも息の合ったコンビネーションを見せている。
 二人が狙うのは、大物。だが、目の前に現れたものは。
「何だ、これは!?」
 見た事のない、不気味な‥‥
「これ、モンスター?」
 一見、人間の様にも見えるそれは、二本足で立ち、手にはオーガが持つそれと似た様な金棒を携えている。青白い肌に、白くぼさぼさの長い髪。顔にかかった髪の間から、黒い穴の様に虚ろな両の目が覗いていた。
 それが‥‥何体も。
「何であろうと、敵は滅するのみ!」
 重そうな太刀を手に、フリーデライヒ・メーベルナッハ(ha2051)がその前に立ちはだかる。大きく振りかぶり、スマッシュを叩き込もうとした、その瞬間。
 ついと上げられた細い腕の先から電撃が放たれた。
「‥‥っ!?」
「こやつら、魔法も使えるのか!?」
 駆け寄ったクロガネのジョック(ha1949)がリカバーを唱え、次いでシャドウバインディングでモンスターの足を止める。
 ミスティア・フォレスト(ha0038)が味方を避けながら電撃を放ち、城壁の上からもメリル・スカルラッティ(ha0444)の魔法を始め、様々な手段で攻撃が仕掛けられる。
 だが‥‥敵の勢いは止まらない。それでも‥‥ここを通す訳にはいかない。
 そんな中、雷堂真司(ha0193)は相手の動きを牽制しつつ、新種のモンスターの行動や能力を把握すべく、観察に徹していた。
「‥‥よし」
 大体の事を把握すると、真司はそれを管理局に報告すべく、護衛役のヴォルク・クロウリー(ha2182)と共にその場を離れた。
「み、皆さん大丈夫‥‥ですよね?」
 押され気味な味方の様子を見てクリス・ラインハルト(ha0312)はオロオロと慌てる。
「大丈夫、ここは絶対に守りきる! 中の皆にそう伝えて、安心させてやって!」
「は、はいっ!」
 ライディンに言われ、クリスは伝言のメモを握り締めると城壁の中へ駆け込んで行った。

●支える者達
 城壁の中には、ハーモナーやプリーストなど、治療の術に長けた者達が大勢集まっていた。
「しかし、皆がバラバラに動いていたのでは円滑な救助活動、援護活動は行えません」
 救援部隊の司令塔、ゲオルク・グートシュタイン(ha0507)が落ち着いた様子で言った。
「負傷者の状況、容体、人数、その他の情報を一手に集め、極力ロスを無くす様に務めたいものです」
 その統率の元に、人員が振り分けられる。必要な所に、必要なだけ。
「治療の優先順位を決めておいた方が良いでしょうね」
 アリエル・セレナーデ(ha0747)が言った。命の危険がある者が最優先なのは当然として、治療に時間がかかりそうな者よりは軽い治療で再出撃できそうな者を優先する。
「精神的なケアも必要でしょう」
「それなら、私達ハーモナーにお任せ下さい」
 苦しんでいる人々が、少しでも心穏やかに過ごせる様に。レラ(ha0143)がにっこりと微笑んだ。
 そうしている間にも、パートナーである馬の機動力を生かしたレン・フライス(ha2018)やヤルマル(ha1890)の手によって怪我人が次々と運ばれて来る。
 軽傷の者は現場での治療でも間に合うが、重傷の者は後方へ送り、治療に専念する必要がある。必然的に送られて来るのは重傷者ばかりとなった。
 重傷者にはジュリオン・ミラン(ha0358)を中心にプリースト達がチームを組んで対応、シルファ・ミルヒム(ha0101)は全体の状況を見て、手が足りない所や重得な患者を抱えた所に駆けつけ、フォローする。
 そして、危機的な状況を脱した者にはハーモナー達の歌を。
 翠(ha0189)は気分が明るくなる様な曲を披露し、皆を励まして回った。そして、まだ充分に快復していない者にはテフテフ(ha1290)と共にやすらぎの唄を。
「大丈夫ですの! きっとみんなが力をあわせれば勝てるですの!」
 勿論、ショウラン(ha1803)の様に元気に飛び回り、笑顔を振りまく事も立派な治療行為だ。
「お茶でもいかがですか? 心も体も温まりますよ?」
 宵屋陽彦(ha2094)の言う様に、のんびりとリラックスタイムを楽しむ事も重要だろう。
 ただ‥‥
 相手に抱きついて自慢のバストを思いっきり押し付け、それで優し〜くマッサージというのは単なるセクハラではないでしょうか、エレミア・エルドナーシュ(ha0185)さん。
 まあ、それはさておき。
 負傷者の治療が一段落した頃。リュミヌ・ガラン(ha0240)が心配そうに見守る中、カーラ・オレアリス(ha0058)は眠ったままの人々に対し、魔法での治療を試みていた。
 アンチドート、ニュートラルマジック 、メンタルリカバー 、ヒールディジーズ‥‥だが、どれも効果はなかった。
「でも、きっと‥‥」
 原因も、治療法も見付かる筈だ。今は笑顔を絶やさず、それを信じて待つこと。そう、リュミヌは自分に言い聞かせた。
 そして、城壁の外では‥‥
「馬が居た方が便利だろ?」
 これが初仕事となるカリヤス・バエル(ha1828)も、輸送隊の護衛として馬を飛ばす。
 ティセラ・ウルドブルグ(ha0601)とエヴァーグリーン・シーウィンド(ha0170)も、プリーストとして負傷者の手当をする一方、食糧の輸送にも協力していた。
「輸送だけじゃ駄目ですの。食べれるよう加工しておきませんとー」
 しっかり者のエヴァーグリーンは、治療と輸送が一段落したら炊き出しも行うつもりだった。
 そして‥‥狙撃手のヴィント(ha1467)は伝令として忙しく飛び回っていた。
 だが、届けられる情報はどれも、味方の苦戦を告げるものばかり。それでも、それを持ち帰る事が味方の勝利に繋がると信じて。
 今も‥‥見上げた空には血の様に赤い馬の姿が映し出されていた。

●対岸の攻防
 赤い色で描き出された馬。それはエミリアが描き出す信号‥‥
「緊急‥‥撤退!?」
 城門の前で見上げた者達が息を呑む。前線に行った者達は、それほど苦戦しているのだろうか。
 ‥‥その、少し前。
「とまって‥‥とまってよ‥‥!」
 モンスターの大軍を前に、いろは(ha2158)が説得を試みる。だが‥‥
「無駄だ」
 その腕をとり、秋水(ha1446)が後方へ引き戻した。
「暴走しちまった奴等に、俺達の声は届かねえ‥‥やるしかねぇんだ」
 そのまま、秋水は得意の槍を手に前線へと戻る。
「まずは、あのデカブツを狙うか」
 アニステーミ(ha1945)が率先して前に出る。それは海を泳いで来たらしい、体長6メートルはあろうかという、まさにデカブツの恐竜。
 そして、その背には‥‥
「何だ、あれは‥‥?」
 ヘヴィ・ヴァレン(ha0127)が息を呑む。
 青白い肌をした、人の様なもの。それが恐竜の背中いっぱいにひしめいていた。
「あの恐竜は船の代わり、か」
 その背から飛び降りた青白い人影は、群れをなして突き進んで来る。
「新種のモンスターでしょうか。データを取る為にも、まずはあれから片付けましょう」
 カーリン(ha0297)が遅い来る群を電撃で薙ぎ倒す。
 その後ろから、ユリアン・マーティン(ha1706)がシャドウバインディングで足を止め‥‥
「ちェすとぉぉ!」
 ナナルネ・ナル・ナラン(ha1709)が思い切り剣を振るう。
 上空からリル・オルキヌス(ha1317)の援護射撃を受けつつ、アニステーミは眠る住民達を思いながら剣を降り続け、ナナルネは惜しみなく大技を叩き込んだ。
 その脇ではリント・ホワイトスミス(ha2209)の援護を受けながら、ジョジョル・マルーン(ha0413)が、そしてツェリア(ha2134)が続けざまに魔法を放つ。
「ファイヤーボム、一斉射撃行きます!」
 セシル・ディフィール(ha0292)の掛け声に合わせて3人のソーサラーが続けざまに魔法を撃ち込んだ。
 そして、弱った敵にはミカエラ・アルディーティ(ha0465)を始め、前衛担当が止めを刺して行く。
 だが‥‥
 敵は減らない。それどころか、押されていた。
 秋水とアルフレッド・スパンカー(ha1996)の二人では回復役も充分とは言えない。
「後退‥‥しましょう」
 エミリアが決断を下す。
 前線は要塞都市のすぐ手前まで、ずるずると後退を余儀なくされた。

 だが‥‥まだ、勝機はある。
 城壁の中で眠る人々は守りきる事が出来た。
 ここで押し返す事さえ出来れば‥‥!

 ブリーダー達はこれから訪れる大きなさらに大きな戦いに身を引き締めるのだった。

<担当 : STANZA>




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