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●はじまりの旅

マスター:天音

 

●はじまりの旅
 ウィスタリア、東部に位置する大陸国家カルディア。
 その都市はエレメントとの共存の中で、平静を保っていた。
 
 エレメントとは、大気中に存在する魔力をもとに生成された生物のことである。
 かつての神話においては、思わぬ災厄や幸運を起こす存在としてあがめられ、あるいは忌み嫌われた、不可侵の存在であった。
 しかし、一人の研究者の発明によって、不可侵であった存在は実体として現われ、優秀な部下、同僚、友人‥‥いわゆる『パートナー』と呼ばれる存在として、あるいは生活を脅かす存在として、人々の前に姿をあらわしていた。


<管理局>
「はじめまして‥‥で、いいのか? 今日はよく集まってくれた」
 研究所での違法実験の管理からショップでの店舗管理、世界を揺るがす大事件から、迷子になったペットの捜索まで、通称でもなく『何でも屋』の愛称で呼ばれる管理局。
 職員は、その場に集まったブリーダー達と依頼書の内容を一瞥すると、彼らに向けて内容を読み上げるのであった。

「今回君達ブリーダーに向かってもらいたいのは、とある村だ。その村が現在10体前後の暴走エレメントに襲われているという情報が入ってきた」
「‥‥‥‥‥暴走エレメントですか‥‥‥」
 他のブリーダーたちに混ざって話を聞いていた春瑛がぼそり、と呟いた。元々表情の乏しい彼。やはり今も特に表情の変化は見られないが、心中では事態の重大性を憂えているのかもしれない。
「‥‥‥村人に被害は出ているのですか?」
 静かに問う瑛の言葉に、職員は手元の資料をチラ見しながら口を開く。
「えーと、怪我人は数名。幸いにしてまだ死亡者は出ていないようだ。人々は家に閉じこもり、建物を攻撃して家に侵入して来ようとしている暴走エレメント達の恐怖に震えている」
「時間の問題‥‥ですね」
「そう。暴走エレメントが建物を破壊して村人達を襲うのは時間の問題だろう。そこで君たちブリーダーには、その村を襲っている暴走エレメントを退治し、村人達を救ってもらいたい」
 職員の言葉にその場に集まったブリーダーたちは一様に真剣な顔をして頷いた。力を持たぬ一般人達、彼らを守ることもまたブリーダーの役目なのだから。
「その暴走エレメントは、狼に似た姿をしている。だが狼よりも小柄で、薄汚い茶色の毛皮が狼や狐とは一線を画している。呼ぶならばコヨーテという感じだろうか」
「‥‥そのコヨーテたちを倒しに行けばいいのですね?」
 瑛の言葉に頷く職員。だが彼は注意することを忘れない。それは暴走エレメントと戦うに最も重要な事であるから。
「これだけは忘れないで欲しい。通常武器ではエレメントに傷をつけることは出来ない。エレメントに傷をつけることが出来るのは、コンバートソウルを行った武器だけだ」

 暴走したエレメントについての生体‥‥この表現が適当であるかどうかはわからないが、凶暴な姿をしたそれについては、その発生が古かったことを考えると、少なくとも発生過程における経緯は驚くほど知られていない。

 その性質はパートナーと同じくエレメントであり、通常武器においては傷をつけることができず、コンバートソウルをおこなった武器でのみ傷つけることができる。

「‥‥わかっています。準備が済みましたら、早速出発しましょう」
 瑛はすっくと立ち上がり、周りのブリーダーたちを眺める。不安そうにしている者、気合を入れている者、パートナーと今回の任務を確認している者、様々だ。
「現地までの移動に馬車を用意させて貰った。3台あるので人数によっては適当に分乗してくれ。それじゃ、宜しく頼む」
 職員は散っていくブリーダーたちを祈る思いで見つめた。彼らの活躍がなければ、村一つが滅ぼされてしまうかもしれないのだ。ブリーダーたちの健闘を祈る、彼にはそれしか出来なかった。



解説:
このお試しシナリオは、ウィスタリア近郊において発生した、暴走エレメントを退治する依頼です。
エレメントに対してはコンバートソウルを行なった武器でしかダメージを与えることはできません。


マスターより:
恐らく初めましての方が多いのではないでしょうか、天音と申します。
初めましての方も、いつもお世話になっている方もどうぞ宜しくお願いいたしますね。
まだまだ私自身手探りで試行錯誤の状態ですが、皆さんと、そして可愛いペット
達と一緒に頑張りたいと思いますので、どうぞ宜しくお願いします。
それでは瑛君と共に暴走エレメント退治へ、行ってらっしゃいませ。
無事のご帰還をお祈りしています。

 

20人

ヴォルフラム・ゲルハルト(ha0430)/ リライーナ・リュニス(ha0246)/ 一ノ瀬 香威(ha0097)/ コノン・ルテット(ha0500)/ エレミア・エルドナーシュ(ha0185)/ トリストラム・ガーランド(ha0166)/ ミカエラ・アルディーティ(ha0465)/ レン・ウィンドフェザー(ha0067)/ 西村 京香(ha0146)/ フランソワ・ウィングロード(ha0412)/ リヴィエラ・アンティロープ(ha0433)/ カイム・ルスティカーナ(ha0435)/ リュミヌ・ガラン(ha0240)/ アリス・ウォルサム(ha0057)/ ブライト・クォーツ(ha0129)/ ニミュエ・ユーノ(ha0040)/ チコリー・トラオム(ha0163)/ 浅葱 光(ha0293)/ ライディン・B・コレビア(ha0461)/ アン・ケヒト(ha0148)/


●初めての依頼で
 3台の馬車は村の外で止まった。耳を澄ますと、普段の村ではあまり聞こえないような音が聞こえてくる。
 ガリガリと木戸を引っかく音、バシンバシンと壁に体当たりをする音、そして低い唸り声。それらの音が、前情報通り本当に「時間がない」ことを示している。
 用意されたのが3台の馬車という事で、集まったブリーダーたちは自らを3つの班に分けた。その班ごとに馬車に乗車し、村到着までの間に親交を深めてある。それはこれから共に戦う者達を知る事が出来るという点で、心理的にも友好な判断だった。
「村人を逃がすより敵をはっ倒す方が手っ取り早そうだな」
 リヴィエラ・アンティロープ(ha0433)のその言葉が聞こえた数人が頷く。
 村人を逃がすとしても安全な場所があるかは分からない、村人を誘導している最中にコヨーテに襲われないとも限らない、誘導に人員を割いて味方の被害が甚大にならないとも限らない――だとすれば、最善は家にこもっている村人に被害が及ぶ前に敵を倒してしまうこと。

「「「コンバートソウル!」」」

 村に入る前に殆どの者がコンバートソウルを済ませる。共にやってきたパートナーたちを信頼し、そして一体化する。こうして共に力をあわせれば、暴走エレメントに傷をつけることが出来る。
「暴走エレメントを早く退治して、とても怖い思いをされている村の方々に安心してもらいたいです」
「僕の力がどのくらい役に立つかは分かりませんが」
 リュミヌ・ガラン(ha0240) の言葉を受けて、「同じ気持ちです」と浅葱光(ha0293)が頷く。
「そのためにも、急いで倒していきましょうか」
 他のブリーダーたちを見回して微笑んだ西村京香(ha0146)に頷き返したブリーダーたちは、己のパートナーの宿った武器を手にして村へと駆け出した。
 目指すは村の中で家屋を破壊しようとしているコヨーテたち、およそ10体。
 新人ブリーダーたちの戦いは、今始まろう後していた。


●戦闘――B班
 それぞれ班ごとに、3方向に散って行くブリーダーたち。一番最初にコヨーテと対峙する事になったのはB班だった。そこでは2体のコヨーテが、木造の家屋に侵入しようと壁を引っかき、体当たりを食らわせている。
「コヨーテども! 死にたい奴からかかってこい!」
 勇猛果敢に前衛へと飛び出し、敵を挑発するのはカイム・ルスティカーナ(ha0435) 。その声に反応してコヨーテたちが一瞬動きを止めてカイムたちB班を振り返る。その隙にリヴィエラが1体のコヨーテに矢を射、カイムの大声に何事かと窓から覗いた村人達に声をかける。
「俺らがいいって言うまで決して家を出るんじゃないぞ!」
 ヴゥゥゥゥゥゥ‥‥
 コヨーテ達は低い唸り声を上げてカイムやリヴィエラを見据える。どうやら狙い通り敵と認識してくれたようだ――そう思った瞬間、2体のコヨーテがカイムに飛び掛ってきた。
「甘い!」
 それを短剣で防御したカイムは、うち1体の隙を突いて防御体制から攻撃へと移る。
「ヴァレリア二刀流剣技! 捌き斬り!」
 キャウンッ!
 まるで尻尾を踏まれた犬の様な声をあげ、短剣で傷つけられたコヨーテはずさりと地面へ落ちる。だが態勢を立て直すのも早い。そしてカイムへと飛び掛ったもう1体は――
「一之瀬香威、推して参りますわぁ♪」
 艶やかな髪を靡かせながら走ってきた一ノ瀬香威(ha0097) のトンファーを背に受ける。腰を落としながら体重の乗せられたその攻撃に、コヨーテは「ぎゃうんっ」と声を上げた。
 態勢を立て直したコヨーテはカイムと香威へと攻撃を仕掛けてきたが、二人は自身が傷を受けようとも決してコヨーテたちを後ろへは行かせない。後ろからはリヴィエラの援護射撃とトリストラム・ガーランド(ha0166)の的確な治療を受ける事が出来た。
「あまり無茶はしないで欲しいな」
「そんなこと言ってる場合ではありませんわぁ」
 トリストラムの心配げな言葉に、香威はトンファーを回転させて舞うようにコヨーテを打ち払う。このまま行けば有利に事は進むかに思えた。
 それに気がついたのは、後方で戦況を見守っていたニミュエ・ユーノ(ha0040)だった。家屋の影にちらっと薄茶色の毛皮が見えたのだ。
「いけない、もう1体いるようですわ!」
 だが仲間は目の前のコヨーテで手一杯だ。ニミュエは咄嗟の判断で気持ちを落ち着かせる歌を紡ぐ。少しでもコヨーテの怒りが収まり、仲間が戦いやすくなれば‥‥
 〜〜〜♪
 その旋律は3体のコヨーテに届き、コヨーテたちは一瞬攻撃の手を止める。その隙に香威は目の前のコヨーテを叩き伏せ、新しく出現した1体へと走る。トリストラムはもう1体を切り伏せたカイムの治療を行い、リヴィエラはその場から新しく出現した1体を狙い打った。
「(今のうちに、お願いいたしますわ)」
 そんなニミュエの願いを聞き取ったかのように、仲間たちは的確にコヨーテたちを退治していく。


●戦闘――C班
「我々は管理局より派遣された討伐隊だ! 今より掃討を開始する。家屋にて避難完了している者はそのまま待機! 外に出るな! 敵侵入の恐れある家の者は声を上げ知らせよ!」
 C班は村の西方で、今にも壁が破壊されそうな家を見つけた。隣の家も相当に痛めつけられているが、この家は今まさに壁を破られてもおかしくないというほどだった。中で怯えている村人の心中はいかばかりか――アン・ケヒト(ha0148) は安心させるために大音声で名乗りをあげる。
「ハイハイ、鬼さんこちらー」
 出来るだけその家屋からコヨーテを遠ざけようと、ブライト・クォーツ(ha0129)は壁を破壊しようとしているコヨーテに一撃食らわせた後、誘導するように下がる。同じく光ももう1体に攻撃を加えた後は、後ろへと下がる。果たしてコヨーテたちは誘導されているとも知らずにその挑発に乗り、二人を敵と定めたのか追いかけてくる。
「とりあえず残りの2体の動きを封じましょう」
 まだ無事な家屋を襲っている2体にリュミヌの魔法が飛ぶ。すると不思議とそのコヨーテのうち1体は動きを止めた。
「もう1体は任せて。Myダーリンは臆病だけどヘタレ力は誰にも負けないんだから!」
 ミカエラ・アルディーティ(ha0465)は素早く動きを止めていないもう1体のコヨーテに走りより、双節棍を叩き込む。
 ギャウゥッ!
 痛みに苦渋の叫びを上げたコヨーテだったが、負けじとミカエラに向けて飛び掛ってきた。だが彼女はその攻撃を紙一重で避けると、再びコヨーテの腹に棍を叩き込む。
「ミカエラ、誘導を!」
 チコリー・トラオム(ha0163)が叫び、援護にとミカエラの対峙しているコヨーテを風の刃で傷つける。その声を聞きつけたミカエラはブライトや光の位置まで下がってくる。コヨーテも、他の2体と同じ様にふらふらしながらミカエラを追いかけてきた。
「これでどうですか?」
 左の剣を囮として右で一撃を加える戦法、光はそうしてコヨーテに何度も攻撃を加えてきた。敵は学習能力が低いのだろうか、何度やっても彼の繰り出す囮に引っかかる。
「初依頼だからってやっぱり手加減してくれるワケねーよな‥‥」
 口ではそんなことを言いながらも、ブライトはきちんとコヨーテの相手をしている。コンバートソウルの時にちょっと噛んだのは今は忘れておこう。
「おらっ、言うこと聞かねぇとただじゃおかねーぞっ!」
 ライディン・B・コレビア(ha0461)は囮となっている光とブライトが相手をしているコヨーテに交互に矢を打ち込む。ライディンの矢を受けて怯んだ所に前衛の二人がすかさず攻撃を叩き込む。見事な連携だ。
「治療はお任せします!」
 リュミヌは引き続き、動きを止めた1体に同じ魔法を掛け続けている。この1体が動いてしまえば前衛の負担は増す。
「わかった。そちらは頼む!」
 託されたアンは素早く前衛の怪我の度合いを見極め、的確に治療を施していく。前衛一人がコヨーテ1体を引き受ける、後衛はそれによって安心して行動することが出来ていた。
「(暴走エレメント、か。‥‥‥深く考えている場合じゃないかな)」
 一瞬何がしかに思いを馳せたチコリーだったが、気を取り直して詠唱を始める。彼女の援護が加われば少なくともすぐに1体は倒せる、それほどまでに敵は前衛によって弱らせられていた。


●戦闘――A班
 村の最奥に到達したA班は、村で一番大きな建物が3体のコヨーテに襲われているのを発見した。幸いにも3体が協力して1箇所を破壊に掛かっているということがなかったおかげで、建物内に侵入を許した様子はない。だがあくまでも時間の問題だ。
「‥‥さて、遊ぼうか」
 一番にコヨーテたちの前に飛び出したヴォルフラム・ゲルハルト(ha0430)が、一番手近なコヨーテに一撃を加える。
「中の奴ら、外に出るんじゃねーぞ!」
 叫び、そして自身は僅かに下がる。攻撃を加えられたコヨーテはヴォルフラムの「建物から離す」という目論み通りに彼を追って来る。
 同じ様に春瑛も別のコヨーテにトンファーを叩き込み、自身を敵と認識させてから徐々に仲間の方へと後退してみせた。
「(ボクのように両親を失って、孤独になる人達は見たくない‥‥)」
 コノン・ルテット(ha0500) は強い思いを胸に、弓に矢を二本番えて残りの1体に向けて放つ。
 キャンッ!
 1本の矢を腹に受けたコヨーテは泣き声をあげ、そしてブリーダーたちへと向かってくる。
 2体は前衛のヴォルフラムと瑛が相手にしている。だが最後の1体を押さえる前衛はいない――ならば近づかれる前に。
「ぼーそーエレメントさんたちにはかわいそーだけど、ほかのふつーにくらしてるエレメントさんたちにめーわくがかかるから、かくごしてもらうのー♪」
 無垢なる笑顔で辛辣な言葉を吐いたレン・ウィンドフェザー(ha0067) は、動きの鈍くなる魔法をその1体にかける。するとこちらへ向かおうとしていたコヨーテの動きが鈍くなったように思えた。
「動かれると撃ち難いのですよ?」
 そこに京香の放った矢が飛来する。その矢は狙い過たずコヨーテの足の付け根を射抜いた。足を射抜かれたコヨーテはバランスを崩す。
「コヨーテなぞ、このマジカル☆フランソワが蹴散らしてくれようぞ」
 フランソワ・ウィングロード(ha0412)の手から放たれた魔法が、態勢を崩したコヨーテを襲う。更に畳み掛けるようにコノンの矢が追撃をかける。
 援護攻撃が1体に集中している間、前衛は相手にしたコヨーテを中衛以降に通さないようにと敵の注意をひきつけ続けた。いくばくかはその攻撃を回避することは出来たが、無傷というわけにはいかない。それは敵も勿論同じことだが。
「回復しますわ〜。頑張ってください〜」
 そんな前衛の二人を順に回復していくのはエレミア・エルドナーシュ(ha0185)。おっとりマイペースの彼女だが、しっかりと仕事はこなす。
「頑張って!」
 さすがに一人で1体の敵を長時間押さえ続けることで疲労の色が見えてきた前衛を鼓舞したのは、リライーナ・リュニス(ha0246)だった。ハーモナーの持つその不思議な力で、仲間達の士気を高める。
「よし、次はそちらの援護へ回るぞ」
 フランソワの声にふともう1体のコヨーテを見れば、近づく前に弓や魔法の猛攻を受けてその身体を地に横たえた所だった。


●戦闘終了
 それぞれの班が相手にしたコヨーテはA班が3体、B班が3体、C班が4体の計10体。事前情報によれば10体前後との事だったが、念のため倒し残しがないか村内をチェックして回る。
 その間にプリーストたちは怪我をした仲間たちや村人達の手当てをする。
 危うかった家屋はあったが、ブリーダーたちの作戦勝ちだった。家屋から離れるよう誘導されたコヨーテたちは、家屋破壊よりも自分達に危害を加えた者達の排除を優先して選んだのだ。
「この度は本当にありがとうございますじゃ」
 村長なのだろう、一番大きな家から出てきた老人に近い男性がブリーダーたちに感謝を示す。するとそれに輪をかけるようにして、安心して外に出てきた村人達からも感謝の言葉が次々と発せられた。
 破壊されかかった家屋も修理すればそれまでと同じ様に使えるだろう。
 だが、命が失われてしまっては、それを取り戻す手段はない。
 村人達の命を護ったブリーダーたちは、胸を張って帰途へつくために馬車へと乗り込む。
 その馬車に向けていつまでもいつまでも手を振り続けている村人達の姿が、とても印象深かった。
 それは紛れもなく、自分達が一つの村を救ったという証なのだ。

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