●はじまりの旅
ウィスタリア、東部に位置する大陸国家カルディア。
その都市はエレメントとの共存の中で、平静を保っていた。
エレメントとは、大気中に存在する魔力をもとに生成された生物のことである。
かつては気にも留められない、文字通り空気として扱われていた存在であった。
しかし、一人の研究者の発明によって、不可侵であった存在は実体として現われ、
優秀な部下、同僚、友人‥‥いわゆる『パートナー』と呼ばれる存在として、あるいは生活を脅かす存在として、人々の前に姿をあらわしていた。
<管理局>
「はじめまして‥‥で、いいのか? きょうはよく集まってくれた」
研究所での違法実験の管理からショップでの店舗管理、世界を揺るがす大事件から、迷子になったペットの捜索まで、通称でもなく『何でも屋』の愛称で呼ばれる管理局。
簡単な挨拶を終えると、職員はその場に集まったブリーダー‥‥いや、そのタマゴ達を見渡した。
誰もが不安げな表情で、こちらをじっと見つめている。それはそうだろう、通常の戦闘ならある程度の経験があるとは言え、ブリーダーとしてエレメントに関わるのはこれが初めてなのだから。
「君達もブリーダーとして、一通りの知識は身に付けているだろう。だが、実戦は初めてだったな」
その声に、集まった者達の中からざわめきが起こる。
まさかこれから、その実戦に‥‥?
「ああ、怖がらなくても良い。訓練もせずに、最初からモンスターの巣窟に放り込むような真似はしないよ‥‥多分、ね」
多分?
「君達にはこれから、指導教官の元で実戦に即した訓練を行って貰う。‥‥では、紹介しよう。教官の‥‥」
職員は背後に控える‥‥先程から後ろの壁にだらしなく寄りかかり、つまらなそうに鼻をほじっている、いかにもモノグサそうな人物を紹介した。
「フェイニーズ・ダグラス。君達も名前くらいは知っていると思うが、カルディア王宮に仕える大臣であり、高名な錬金術師‥‥って、何してるんですか、ダグさんっ!」
――ぴんっ!
「うわあッ!」
‥‥丸めて飛ばしたハナ○ソが、職員の顔面を直撃したらしい。
「その名前で呼ぶなっつってんだろ?」
フェイニーズはいかにも面倒臭そうに背中を壁から引き剥がすと、ブリーダーのタマゴ達の前に立った。
「何の因果か、俺がお前達の訓練を担当する事になっちまったらしい‥‥まあ、適当によろしく頼むわ」
自分の事は教官と呼べと言うと、彼は続けた。
「まあ、訓練って言ってもなあ。練習ってヤツはどうにも身が入らねえんだよな、ほれ、なんだ‥‥緊張感がねえっての? だから、これから行くモンスター退治は正真正銘の本物だ」
‥‥ざわざわざわ。
「じゃ、面倒臭ぇからな、さっさと行ってサクっと終わらせるぞ」
そう言うと、教官は付いて来いと言うように手招きをして、さっさと歩き出す。
「ちょっとダグさん! 何の説明もなしに、いきなりそんな‥‥!」
「あぁ? 説明はしただろ、これからモンスター退治に行くって‥‥」
「説明が足りません! 見て下さい、彼等のあの不安そうな顔! 彼等はまだ、自分達がどうやってモンスターを倒せば‥‥いや、モンスターとの戦い位は大丈夫でしょうが、ブリーダー独特の戦い方とか、暴走エレメントへの対処法とか、そういう事は何も‥‥」
「‥‥なんだよ、そんな事も教わってねえのか? しょーがねえなあ‥‥」
教官は職員を手で払い除けると、教壇代わりの大きな机の上にどっかかりと胡座をかいた。
「お前ら、犬だの猫だの‥‥ペットは連れてるな?」
タマゴ達が頷く。この場には、タマゴ達と同じ数の様々な動物達がいた。皆、飼い主の言う事をきいて大人しくしている‥‥躾は充分に行き届いている様だ。
「そいつらは一見ただの動物だが、ブリーダーが連れてるペットにはただの動物にはねえ、特殊な能力があってな‥‥いや、能力っつーか、ぶっちゃけ、そいつらは動物じゃねえ、エレメントだ」
その辺りの事情はわかっているらしく、タマゴ達は静かに頷いた。
彼等と共にいるのは、動物の姿をした「エレメント」‥‥つまり、大気中に存在している魔力を元に生み出された生き物達。
「戦いの時には、そいつらがお前達の武器になる‥‥と言うか、まあ、武器に魔力を与えると言った方が良いか。相手がゴブリンやらコボルトやら普通のモンスターなら、普通の武器で斬り付けりゃ充分だ‥‥まあ、攻撃が当たればの話だがな。だが、相手も同じエレメントだと、そうも行かねえ‥‥」
「あの、教官」
タマゴのひとりが恐る恐る手を上げた。
「あ? 何だ? 面倒臭ぇから質問は手短にな?」
「は、はい‥‥あの、相手がエレメントって‥‥エレメントが敵になる事も、あるんですか?」
「敵になる事もあるってぇか、そいつらを倒す為にお前達ブリーダーが存在するんだ‥‥まあ、お前らはタマゴどころかそれ未満だがな」
あの、それって存在すらしていないという事では‥‥?
「まあ、ちょいと複雑な事情があってな、エレメントの中には凶暴化して、人間を襲う奴もいるワケだ。そいつらには、普通の武器は効かない。コンバートソウルした武器じゃねえとな‥‥まあ、目には目をって事だ」
コンバートソウル。それは、ペット達をソウルとして武器に乗り移らせる事。それを行った武器は特殊な魔力を帯び、普通の武器ではダメージを与えられない相手にも有効な武器となるのだ。
「まあ、百聞は一見にしかずってヤツだ。お前、やってみな?」
教官は質問をしたタマゴを指差し、ちょいちょいと手招きをする。
「お前のパートナーはネコか? そいつを試しにコンバートしてみな。‥‥大丈夫だ、仕事が終わりゃ、ちゃんと元に戻るから」
「で、でも、どうやって‥‥?」
「お前が命令するんだよ。そうだな‥‥」
教官は何やら考えている様子で少し間を置くと、タマゴの足元で首を傾げているネコに向かって指を突き付け、叫んだ。
「‥‥愛の絆を力に変えて、いざ我と共に戦わん! ‥‥とか?」
「は‥‥はあ」
なんか、恥ずかしいぞ?
「ま、口上はお好みでってヤツだな。とにかく何でも良いからやってみな、ほれ、面倒臭ぇからさっさとやる!」
言われて、タマゴは腰の剣を抜き‥‥
「えと、こ、コンバートソウル!」
まんまだな。しかしその瞬間、足元のネコの体が淡い光を帯び、霧となって手にした剣に吸い込まれる。
「け、剣が‥‥光った!」
エレメントを吸収した剣は、その一瞬だけ淡い光を放つ。
「これで、その剣には魔力が宿ったって事だ。その後は元通り、見た目は普通の武器と変わらなくなるが、確かに力は宿ってる。ここで試し斬りをさせる訳にもいかねえがな」
それは、この後のモンスター退治で存分にやってくれ。
「‥‥なんとなくわかったか? わかったら戻せ」
「えと、も、戻れ!」
その一言で、エレメントは元の姿に戻る。ネコは何事もなかったかのように、足元で飼い主を見上げ、鳴いた。
「にゃあ?」
「まあ、お前らもやってみりゃわかる‥‥って事で、レクチャーは終わりだ。こっから先は実戦でコツを掴むんだな」
これから赴くのは、近郊の洞窟。そこに住み着いた10匹ほどのゴブリンを退治する仕事だ。明かりなどの道具は管理局で用意するので心配は要らない。
「ゴブリン相手ならコンバートする必要もねえが、まあ練習だと思ってやってみるのも良いだろ」
手元にある情報では、洞窟に現れるのはゴブリンだけだというが、その中に暴走エレメントがちゃっかり混ざっていたりする事も‥‥まあ、ないとは言えない。
「何かあったら、俺が知恵くらいは貸してやる‥‥ただし、見ての通り戦闘は苦手なんでね。そっちは任せたぜ、タマゴ未満?」
解説:
このお試しシナリオは、ウィスタリア近郊において発生したモンスターを退治する依頼です。
敵であるゴブリンは、まあ、所謂普通のビギナー御用達雑魚。AFOのものと同じと考えて貰って良いでしょう。 この世界にはそうした普通のモンスターと、その他に暴走したエレメントという敵がいるらしいです。で、その暴走エレメントにはコンバートソウルした武器しか効かない‥‥と、そこは武器耐性のある敵には魔法武器しか効かないのと同じようなものかな、と。
倒し方はご自由に。相手はエレメントではありませんので、コンバートソウルを行う必要はありませんが、今後のために練習しておくのも良いでしょう。もしかしたら暴走エレメントも現れるかもしれませんし。
基本的にはAFOの雑魚退治と同じです。それに「コンバートソウル」という要素が加わっただけですので、そう難しく考える必要は‥‥ないと思います。多分。
ペット達はコンバートの他に、普通のペットとしての働き‥‥犬なら匂いを辿らせるとか、馬なら乗せて貰うという事も出来ます。
マスターより:
初めまして、もしくはいつもお世話になっております、STANZAです。
‥‥え? 来ると思ってた? ええ、まあ、ペット好きとしては来ない訳にはイカンだろうという事で(笑
ですが、自分もこの世界、まだまだサッパリ理解しておりません。色々と試行錯誤をしながらの手探り状態ではありますが、一緒に楽しんで頂ければ幸いです。
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