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●はじまりの旅

マスター:STANZA

 

●はじまりの旅
 ウィスタリア、東部に位置する大陸国家カルディア。
 その都市はエレメントとの共存の中で、平静を保っていた。
 
 エレメントとは、大気中に存在する魔力をもとに生成された生物のことである。
 かつては気にも留められない、文字通り空気として扱われていた存在であった。
 しかし、一人の研究者の発明によって、不可侵であった存在は実体として現われ、
 優秀な部下、同僚、友人‥‥いわゆる『パートナー』と呼ばれる存在として、あるいは生活を脅かす存在として、人々の前に姿をあらわしていた。


<管理局>
「はじめまして‥‥で、いいのか? きょうはよく集まってくれた」
 研究所での違法実験の管理からショップでの店舗管理、世界を揺るがす大事件から、迷子になったペットの捜索まで、通称でもなく『何でも屋』の愛称で呼ばれる管理局。
 簡単な挨拶を終えると、職員はその場に集まったブリーダー‥‥いや、そのタマゴ達を見渡した。
 誰もが不安げな表情で、こちらをじっと見つめている。それはそうだろう、通常の戦闘ならある程度の経験があるとは言え、ブリーダーとしてエレメントに関わるのはこれが初めてなのだから。
「君達もブリーダーとして、一通りの知識は身に付けているだろう。だが、実戦は初めてだったな」
 その声に、集まった者達の中からざわめきが起こる。
 まさかこれから、その実戦に‥‥?
「ああ、怖がらなくても良い。訓練もせずに、最初からモンスターの巣窟に放り込むような真似はしないよ‥‥多分、ね」
 多分?
「君達にはこれから、指導教官の元で実戦に即した訓練を行って貰う。‥‥では、紹介しよう。教官の‥‥」
 職員は背後に控える‥‥先程から後ろの壁にだらしなく寄りかかり、つまらなそうに鼻をほじっている、いかにもモノグサそうな人物を紹介した。
「フェイニーズ・ダグラス。君達も名前くらいは知っていると思うが、カルディア王宮に仕える大臣であり、高名な錬金術師‥‥って、何してるんですか、ダグさんっ!」
 ――ぴんっ!
「うわあッ!」
 ‥‥丸めて飛ばしたハナ○ソが、職員の顔面を直撃したらしい。
「その名前で呼ぶなっつってんだろ?」
 フェイニーズはいかにも面倒臭そうに背中を壁から引き剥がすと、ブリーダーのタマゴ達の前に立った。
「何の因果か、俺がお前達の訓練を担当する事になっちまったらしい‥‥まあ、適当によろしく頼むわ」
 自分の事は教官と呼べと言うと、彼は続けた。
「まあ、訓練って言ってもなあ。練習ってヤツはどうにも身が入らねえんだよな、ほれ、なんだ‥‥緊張感がねえっての? だから、これから行くモンスター退治は正真正銘の本物だ」
 ‥‥ざわざわざわ。
「じゃ、面倒臭ぇからな、さっさと行ってサクっと終わらせるぞ」
 そう言うと、教官は付いて来いと言うように手招きをして、さっさと歩き出す。
「ちょっとダグさん! 何の説明もなしに、いきなりそんな‥‥!」
「あぁ? 説明はしただろ、これからモンスター退治に行くって‥‥」
「説明が足りません! 見て下さい、彼等のあの不安そうな顔! 彼等はまだ、自分達がどうやってモンスターを倒せば‥‥いや、モンスターとの戦い位は大丈夫でしょうが、ブリーダー独特の戦い方とか、暴走エレメントへの対処法とか、そういう事は何も‥‥」
「‥‥なんだよ、そんな事も教わってねえのか? しょーがねえなあ‥‥」
 教官は職員を手で払い除けると、教壇代わりの大きな机の上にどっかかりと胡座をかいた。
「お前ら、犬だの猫だの‥‥ペットは連れてるな?」
 タマゴ達が頷く。この場には、タマゴ達と同じ数の様々な動物達がいた。皆、飼い主の言う事をきいて大人しくしている‥‥躾は充分に行き届いている様だ。
「そいつらは一見ただの動物だが、ブリーダーが連れてるペットにはただの動物にはねえ、特殊な能力があってな‥‥いや、能力っつーか、ぶっちゃけ、そいつらは動物じゃねえ、エレメントだ」
 その辺りの事情はわかっているらしく、タマゴ達は静かに頷いた。
 彼等と共にいるのは、動物の姿をした「エレメント」‥‥つまり、大気中に存在している魔力を元に生み出された生き物達。
「戦いの時には、そいつらがお前達の武器になる‥‥と言うか、まあ、武器に魔力を与えると言った方が良いか。相手がゴブリンやらコボルトやら普通のモンスターなら、普通の武器で斬り付けりゃ充分だ‥‥まあ、攻撃が当たればの話だがな。だが、相手も同じエレメントだと、そうも行かねえ‥‥」
「あの、教官」
 タマゴのひとりが恐る恐る手を上げた。
「あ? 何だ? 面倒臭ぇから質問は手短にな?」
「は、はい‥‥あの、相手がエレメントって‥‥エレメントが敵になる事も、あるんですか?」
「敵になる事もあるってぇか、そいつらを倒す為にお前達ブリーダーが存在するんだ‥‥まあ、お前らはタマゴどころかそれ未満だがな」
 あの、それって存在すらしていないという事では‥‥?
「まあ、ちょいと複雑な事情があってな、エレメントの中には凶暴化して、人間を襲う奴もいるワケだ。そいつらには、普通の武器は効かない。コンバートソウルした武器じゃねえとな‥‥まあ、目には目をって事だ」
 コンバートソウル。それは、ペット達をソウルとして武器に乗り移らせる事。それを行った武器は特殊な魔力を帯び、普通の武器ではダメージを与えられない相手にも有効な武器となるのだ。
「まあ、百聞は一見にしかずってヤツだ。お前、やってみな?」
 教官は質問をしたタマゴを指差し、ちょいちょいと手招きをする。
「お前のパートナーはネコか? そいつを試しにコンバートしてみな。‥‥大丈夫だ、仕事が終わりゃ、ちゃんと元に戻るから」
「で、でも、どうやって‥‥?」
「お前が命令するんだよ。そうだな‥‥」
 教官は何やら考えている様子で少し間を置くと、タマゴの足元で首を傾げているネコに向かって指を突き付け、叫んだ。
「‥‥愛の絆を力に変えて、いざ我と共に戦わん! ‥‥とか?」
「は‥‥はあ」
 なんか、恥ずかしいぞ?
「ま、口上はお好みでってヤツだな。とにかく何でも良いからやってみな、ほれ、面倒臭ぇからさっさとやる!」  言われて、タマゴは腰の剣を抜き‥‥
「えと、こ、コンバートソウル!」
 まんまだな。しかしその瞬間、足元のネコの体が淡い光を帯び、霧となって手にした剣に吸い込まれる。
「け、剣が‥‥光った!」
 エレメントを吸収した剣は、その一瞬だけ淡い光を放つ。
「これで、その剣には魔力が宿ったって事だ。その後は元通り、見た目は普通の武器と変わらなくなるが、確かに力は宿ってる。ここで試し斬りをさせる訳にもいかねえがな」
 それは、この後のモンスター退治で存分にやってくれ。
「‥‥なんとなくわかったか? わかったら戻せ」
「えと、も、戻れ!」
 その一言で、エレメントは元の姿に戻る。ネコは何事もなかったかのように、足元で飼い主を見上げ、鳴いた。 「にゃあ?」
「まあ、お前らもやってみりゃわかる‥‥って事で、レクチャーは終わりだ。こっから先は実戦でコツを掴むんだな」
 これから赴くのは、近郊の洞窟。そこに住み着いた10匹ほどのゴブリンを退治する仕事だ。明かりなどの道具は管理局で用意するので心配は要らない。
「ゴブリン相手ならコンバートする必要もねえが、まあ練習だと思ってやってみるのも良いだろ」
 手元にある情報では、洞窟に現れるのはゴブリンだけだというが、その中に暴走エレメントがちゃっかり混ざっていたりする事も‥‥まあ、ないとは言えない。
「何かあったら、俺が知恵くらいは貸してやる‥‥ただし、見ての通り戦闘は苦手なんでね。そっちは任せたぜ、タマゴ未満?」



解説:
このお試しシナリオは、ウィスタリア近郊において発生したモンスターを退治する依頼です。
敵であるゴブリンは、まあ、所謂普通のビギナー御用達雑魚。AFOのものと同じと考えて貰って良いでしょう。
この世界にはそうした普通のモンスターと、その他に暴走したエレメントという敵がいるらしいです。で、その暴走エレメントにはコンバートソウルした武器しか効かない‥‥と、そこは武器耐性のある敵には魔法武器しか効かないのと同じようなものかな、と。
倒し方はご自由に。相手はエレメントではありませんので、コンバートソウルを行う必要はありませんが、今後のために練習しておくのも良いでしょう。もしかしたら暴走エレメントも現れるかもしれませんし。
基本的にはAFOの雑魚退治と同じです。それに「コンバートソウル」という要素が加わっただけですので、そう難しく考える必要は‥‥ないと思います。多分。
ペット達はコンバートの他に、普通のペットとしての働き‥‥犬なら匂いを辿らせるとか、馬なら乗せて貰うという事も出来ます。


マスターより:
初めまして、もしくはいつもお世話になっております、STANZAです。
‥‥え? 来ると思ってた? ええ、まあ、ペット好きとしては来ない訳にはイカンだろうという事で(笑
ですが、自分もこの世界、まだまだサッパリ理解しておりません。色々と試行錯誤をしながらの手探り状態ではありますが、一緒に楽しんで頂ければ幸いです。

 

20人

白鳥 蘭丸(ha0031)/ アルフレッド・ガーフィールド(ha0209)/ セシル・ツヴァイハルト(ha0197)/ ゼロ(ha0400)/ 藤宮 静霞(ha0029)/ ミース・ファーラ(ha0045)/ テオドール・ヘレン(ha0388)/ カーラ・オレアリス(ha0058)/ カーリン(ha0297)/ 伊達 正和(ha0414)/ 御卦薙 桃歌(ha0117)/ 破龍 翔永(ha0135)/ ラケル・ハーコート(ha0389)/ マナウス・ドラッケン(ha0405)/ ヴィエラ・ヴィンス(ha0394)/ 鋼乃 愛(ha0306)/ ラグナス・フェルラント(ha0220)/ 麻颯 まりん(ha0056)/ インヒ・ムン(ha0313)/ アルディス・エルレイル(ha0419


「よーし、大体全部集まってやがるな、タマゴ未満ども」
 訓練の教官役フェイニーズ・ダグラス(hz0002)は、街の広場に集まった者達をざっと眺め渡した。
 大体とは、また大雑把な‥‥どうやら、点呼をとるのも面倒臭いらしい。と言うか、彼は名簿さえ携えていなかった。
「来たい奴だけ、勝手に付いて来い」
 それだけ言うと、その非常識な対応に戸惑うタマゴ達を尻目にさっさと歩き出す。
「現場まではちょっとした遠足になる‥‥まあ、自己紹介やら何やら、アピールしたい奴は勝手にするが良い。歩きながらでも聞いてやるさ」
 後に続こうと慌てて動き出した気配に、彼はちらりと振り返り‥‥意地の悪い笑みを浮かべた。
「‥‥だが、お前等もブリーダーのはしくれなら、アピールってもんは言葉でするもんじゃねえ事くらいは、わかってんだろ?」

 しかし、そうは言ってもやはり、挨拶は人付き合いの基本。そこを疎かにする訳にはいかない。
「俺は武人のセシル・ツヴァイハルト(ha0197)と申す者。こちらはパートナーの柴犬、ハスターだ」
 よろしく、とセシルは丁寧に頭を下げた‥‥結構な早足で歩きながら、だが。
「私はカーラ。ペット‥‥エレメントの研究をしているのよ」
 カーラ・オレアリス(ha0058)はフェイニーズと同業らしい。
「ダグラス教官殿、拙者は蘭丸と申す者でござる。頑張るでござるよ!」
 やたら明るくニコニコと話しかけて来たのは、スワローの鳩子さんを肩にとまらせた白鳥蘭丸(ha0031)だ。スワローが何故に鳩なのか、ちょっと突っ込んでみたいところだが‥‥
「ボクは狙撃手のミース・ファーラ(ha0045)だよ。初めての冒険だから、いろいろ心配だけど、がんばれば希望が開けるよねっ」
「おう、ゴブリンなんかに負けてたまるかっ!」
「負ける訳にはいきませんよね」
 元気な二人はミースと、破龍翔永(ha0135)だ。声を聞くと三人いる様だが‥‥翔永には表と裏、二つの人格があるらしい。
 その前を歩く琵琶流しのインヒ・ムン(ha0313)は、琵琶ならぬリュートをかき鳴らしつつ鼻歌を歌っている。
「初めての冒険はおなじみのゴブリン退治〜♪ ボクら含めて未熟者達だけど〜♪ 力を合わせればどうにかなると思うし〜♪ 何にせよワクドキの心を抑えつつ〜♪ やってみようね〜♪」
 ‥‥緊張感のカケラもない。
「‥‥で、お前がハーモナーのアルディスか」
 教官は肩にとまった「それ」をつまみあげ、目の前にブラ下げた。
「しかし、変わったシフールだな。まるで鳥の様だが」
「‥‥教官‥‥それ、様なじゃなくて鳥だから。その子はパートナーのガルヴェイラ。ボクはこっちだよ?」
 わざとらしいボケをかました教官の肩にとまったまま、アルディス・エルレイル(ha0419)は「こっちこっち」と自分を指差す。
「ほう‥‥近頃は虫が鳥を飼う様になったか。昆虫の世界も進歩したもんだな」
「あ、もしかして、肩に乗ったこと怒ってる?」
 ‥‥返事はない。という事は‥‥
「危ない危ない」
 アルディスは前を行くマナウス・ドラッケン(ha0405)の肩に避難した。どうやら、洞窟までの道のりを自前の翼で飛ぶつもりは、これっぽっちもない様だ。
「ったく、本気で遠足のつもりか、アレは?」
 死んでも知らねえぞ、と呟いた教官に、ヴィエラ・ヴィンス(ha0394)が尋ねた。
「ゴブリンどもの事だが‥‥奴等はどんな問題を起こしてんだ?」
 その美貌には似つかわしくない粗暴な言葉遣いだが、本人は気にしない‥‥と言うより、それが気に入っているらしい。
「いや、その理由次第で退治しねぇとかって訳じゃねぇんだけども」
「ま、モンスターだろうが暴走エレメントだろうが、他人様に迷惑かけなきゃ、ある程度は見逃してやるんだがな」
 面倒だから。
「なるほど、迷惑かけてるって事か。なら遠慮は要らねえな」

 そうして3〜4時間は歩いただろうか。やがて一行は目指す洞窟に辿り着き、一息入れる暇もなく仕事にかかった。
「この程度でバテたなんて奴ァいねえだろうな?」
 だが少々疲れた様子ではあるものの、返事の代わりに返ってきた視線に迷いや躊躇いはない。
「よし‥‥見せて貰うぜ、お前等の実力を」

「初めての事だらけですので、無理せずに出来る事をこなしていきましょう」
 ラグナス・フェルラント(ha0220)はパートナーの柴犬アイリスの背を撫でながら、洞窟の様子を窺う。
「皆が怪我をせず、無事に終われる様に‥‥ね」
「見張りはいない様ですね‥‥少なくとも、見える範囲には」
 カーリン(ha0297)が言った。だが、こちらからは見えない所に配置されている可能性もある。
「じゃあ、ボクが銀姫を偵察に飛ばすね〜♪」
 インヒの手を離れたスワローの銀姫が、静かに洞窟の暗闇へと吸い込まれて行く。
「エレメントって、鳥目じゃないのかな‥‥?」
 アルディスが首を傾げたその時、銀姫が慌てた様子で飛び出して来た。
 ――バサバサバサッ!
 その後を追う様に、翼を持った黒いものが姿を現す。‥‥コウモリだ。
「飛んでる敵なら任せて!」
 ミースが放った矢は狙い違わずコウモリの黒い翼を貫く。いや、貫いたかに見えた。
「え‥‥なんで!?」
 当たった筈なのに、相手は全くダメージを負った様子がない。
「そうか、あれが‥‥暴走したエレメントという奴だな」
 テオドール・ヘレン(ha0388)が言い、先程パートナーとコンバートを済ませたばかりの弓を引き絞った。
 ――バシュ!
『ギャアァッ』
 テオドールの矢を受けたコウモリは苦しげに身をよじる。
「よし、行けるぞ」
「何だよ、敵はゴブリンだけだなんて‥‥」
 しかし、こうなる事を予測していたアルフレッド・ガーフィールド(ha0209)は、慌てず騒がずパートナーの三毛猫に叫んだ。
「いくぞ、トリエラ。コンバートオン!」
「なるほど、ゴブリンと暴走エレメントの二段構えという訳か。或いはゴブリン連中がそいつを体の良い用心棒に使ってるのかもな」
 騒ぎを聞いて洞窟から出て来たゴブリン達を見て、伊達正和(ha0414)が呟く。
「何でも良い、初めての実戦だからな。楽しませてもらうぞ」
 アルフレッドは早速、手に入れた新しい力を解放した。
「防御力はないが、火力はある。特技を生かすチャンスだ」
「負けてられないわね。熱血なミケくんもやる気充分だし♪」
 藤宮静霞(ha0029)は手にした杖を三毛猫に向けた。
「ミケくん御願い、一緒に頑張ろう!」
「そっか、コンバートしなきゃ‥‥キラ、手助けしてね!」
「鳩子さん、拙者の力の源へ!」
「え〜っと、では私も魔法で皆さんの援護をしますの〜」
 仲間達が次々とコンバートする中、御卦薙桃歌(ha0117)が杖を構える。
「伽羅ちゃんにはお側に居てもらって、まず遠距離攻撃なのですわね〜」
 だがしかし。
「‥‥え? 魔法って、コンバートしないと使えないものなんですの〜?」
 そう、使えないものなんですの。
「あらあら〜、じゃあ‥‥コンバートソウルぅ〜」
 後衛の仲間がコンバートし終えたのを見届けると、マナウスもまたパートナーをその武器に宿らせた。
「アムス、憑依武装化‥‥ARMS開始」
 コンバートソウルを憑依武装化とは、よく名付けたものだ。
「そんじゃま、一丁行きますか」
 だが、そんな彼の脇をすり抜けて真っ先に飛び出したのは‥‥
「一番手は貰ったにゃぁっ!」  猫のにゃん五郎左右衛門さんを腕にしがみつかせたゼロ(ha0400)だった。 「くらえ! ねぇ〜こぉ〜、パァーンチ‥‥にゃ!!」
 ――ぶんっ!!
「みぎゃーっ!!?」
 ゼロの腕の先から、勢い余ったにゃん五郎左右衛門さんが飛んで行く。
 ‥‥いや、それネコパンチ違うから。ニャンニャン語を喋ってもパートナーとのシンクロ率が上がる訳じゃないし‥‥ってか、ペットの使い方違うし! 拳と共に射出されたにゃん五郎左右衛門さん、ゴブリンに激突して気絶してますよ?
「おおっ、にゃん五郎左右衛門さん、しっかりするのにゃー!」
「飛んでる相手は他の人に任せといて‥‥ゴブリン相手ならコンバートいらないよなっ」
 ほぼ同時に、スワローの翠晃と共に飛び出して行ったのは翔永だ。
「いくぜ翠晃!」
「僕らの力、見せてあげようね」
 武人の彼は素早い動きで相手を翻弄し、次いで飛び込んだ麻颯まりん(ha0056)も負けじと勝鬨を上げながら剣を振るう。
「微塵の傷も寄せ付けぬ我の剣舞を見よ!」
「‥‥おいおい、作戦はどこ行った?」
 その様子を見ていたマナウスが肩をすくめる。相手がゴブリンだから、まだ良いものの‥‥
「初心者が先走ってもイイ事は何もねぇぞ!」
 ヴィエラの叫びに、まりんは足を止め、振り返る。
「大丈夫、深入りはしません」
 その攻撃に恐れをなしたのか、ゴブリン達は今まさに転がる様にして洞窟へ逃げ戻る所だった。

 そうしている間に、コウモリの方はすっかり片が付いていた。
 ミースとテオドールの弓に、アルフレッド、静霞、カーリン、桃歌、四人のソーサラーによる魔法攻撃。その集中砲火を浴びれば、暴走エレメントとて厳しい相手ではないのだ‥‥例えこちらが初心者でも。
「チームワークの勝利、かな?」
 ミースが仲間達に笑いかけた。
 さて、そのチームワークを洞窟の中でも発揮できると良いのだが‥‥そう、まだ逃げたゴブリン達が洞窟の中に残っていた。そして、他にもまだ暴走エレメントが存在する可能性も‥‥。

「あれはちょっとしたアクシデントのせいだよね〜♪」
 だから今度は大丈夫、作戦通りに上手く行く、と、無事に戻って来たスワローの銀姫をコンバートしたインヒが言った。
 そう広くはない洞窟の中を奥へと進む仲間の先頭に立ったのは正和だった。聞き耳を立て、臭いを嗅ぎ、目を凝らし、敵の罠に注意しながら慎重に進む。
 ‥‥と、一行はふいに開けた空間に出た。
「ここが、例の広場か」
 明かりをかざした正和の目に、更に奥へと伸びる枝分かれした通路が見えた。その中のひとつには岩で蓋がしてあるが‥‥余程急いで閉じたのだろう、少し押せば転がり、中に外れそうだった。
「あの隙間‥‥ボクなら入れるかも」
 アルディスがついっと飛び出した。
「奴等の後ろに回って脅かしてみるね♪」
 そのまま、隙間から中に潜り込み、見付からないように天井ギリギリを飛ぶ。
(「もう、あのコウモリはいないよね‥‥?」)
 やがて‥‥
 ――ドガアァン!!
 何の幻影を見せられたのか、ゴブリン達が岩戸を突き倒して一斉に飛び出して来た。
「お待ちしていましたよ」
 いつもニコニコポーカーフェイスのラグナスが前に飛び出す。武人の守備力は高いとは言えないが、攻撃は最大の防御。相手に攻撃の暇を与えなければ良いのだ。
「私達が抜かれると後衛の方たちが危険ですからね、しっかりと壁になってみせますよ」
「ああ、まさにウオーリア―の醍醐味だな」
 その隣に立った正和がニヤリと笑う。だが二人はすぐには攻撃を始めない。そう、待っていたのだ‥‥「彼」の登場を。
「ゴブリンども、拙者の高貴な舞を見よ!」
 それは、クネクネとせくすぃーに腰を振り、不思議な踊りを踊る蘭丸の姿だった。
 この踊り自体に何か特別な効果がある訳ではない。だが‥‥
「今でござる!」
 その声と共に、仲間達の攻撃が炸裂した!
「ふふふ‥‥拙者の舞に見惚れたら痛い目に合うでござるよ」
 いや、見惚れたと言うか、流石のゴブリンも呆れ返って戦意を失ったと言うか。まあ、とにかく効果はあったので結果オーライだ。
 そして、今だ不思議な踊りの呪縛から逃れられずにいるゴブリン達を、セシルが両手効きの有利を生かして縦横無尽に斬り付け、まりんが容赦なく止めをさしていく。それでも逃げようとする敵にはマナウスがダガーを投げ、そこに結んだワイヤーに足を引っかけて動きを止める。
 更に両翼からはミースとテオドールの援護射撃に、ソーサラー達の魔法。アルフレッドの火に、静霞の風、桃歌の水、更にはインヒが眠りに誘う。
「こっちも手前の力を確認しときたいってのはあるからな。覚悟しろよ」
 戦闘前に一杯引っかけて気合いを入れたらしいヴィエラは、運良く誰からも攻撃を受けていない者を探しては、きっちりダメージを入れていく。
 カーリンもまた、戦域全体を見渡して自分が狩るべき相手を見付け出して、着実に仕留めていった。
 そんな仲間達の様子を、カーラはひたすら観察していた。ペットの戦闘時の反応や、コンバート時の様子。統計を取って、自分の研究に活かすつもりらしい。
「だって、誰も怪我をしてくれないんですもの」
 やがて、洞窟の中には静寂が訪れた。
「これで、全部か?」
 どうやら、暴走エレメントはあのコウモリ一体だけだった様だ。マナウスが倒れたゴブリンの数を数え‥‥
「あの穴、奥に隠れている者がいるかもしれんね?」
 枝分かれした小穴を指差す。
「ざっと調べて、塞いでおくか‥‥」

 かくして‥‥
「よぉ、お疲れさん」
 洞窟を出たブリーダー達を、フェイニーズが出迎えた。
「どうだ、ちったぁ楽しめたか、タマゴども?」
 呼び名から「未満」が取れている。だが、まだタマゴではあるらしい‥‥
「訓練とはいえ、随分手荒でしたわ〜」
 桃歌が疲れた表情で溜息をついた。
「生温い訓練なんざ遊びと同じだ。そんなモンは、やるだけ無駄だからな」
「‥‥ひどいです〜‥‥」
 涙目で見上げる桃歌に、フェイニーズはニヤリと笑い返す。
「ま、初めてにしちゃ‥‥」
「上出来なのですわ〜。だから早くお家に帰ってご飯をお腹一杯食べたいですのよ〜」
「‥‥しょうがねえな、戻ったらメシでも奢ってやるか‥‥勿論、全員にだ。何でも好きなモン食って良いぞ、金に糸目は付けねえ」
 ただし‥‥
「俺より先に街に戻った者に限るがな」
「えーっ!?」
 それを聞いて、ノリの良い‥‥そして余力のある者は慌てて走り出す。
 だが‥‥
「あれ? 教官は走らないの?」
 ちゃっかり肩に乗っかったアルディスが尋ねた。
「俺はインドア派なんだよ。走るなんて、んなタリィ事出来るか」
「な〜んだ、じゃあ最初から全員に奢るつもりなんだ?」
「‥‥お前は除外だ」
「えーっ!?」
「当たり前だろう、楽しやがって!」
 ‥‥まあ、そんなこんなで‥‥一件落着?

 作戦相談掲示板 
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