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●華麗なる宮廷護衛
パーティはつつがなく進んでいる。
冒険者達はそれぞれに、会場の入り口や会場内外に散り、警備の目を光らせる。
「では、僕達は中にいますので、ここはお願いします」
レイチェル・ダーク(eb5350)が提案した、正規の警備を見分けるための赤リボンを袖に付けたキリル・ファミーリヤ(eb5612)が、同行するユキ・ヤツシロ(ea9342)と共に入場前チェックを受ける。赤リボンはあくまで不審者チェックの手助け、それを付けているというだけでノーチェックとはならない。
チェックを終え会場内へ入っていく二人をイオタ・ファーレンハイト(ec2055)が見送る。不審者は別室へ案内しそこで対応することになっていたが、まだ別室は一度も使われていない。一緒に受付をしているカナン・マラクレット(ec1929)も、周囲から殺気などが感じられないものかと貴人への対応の傍ら意識を研ぎ澄ましてみるが、今のところ異変は無い。
「や、今んとこ平和そのものですわ。不審者なんて一人も見つかりまへんわ」
フレア・カーマイン(eb1503)が会場内の見回りから外へと出てくる。その隣にはシャリオラ・ハイアット(eb5076)がいる。
はずなのだが。
「べ、別にこれは襲撃者を油断させる為の作戦ですから!」
会場から取り皿一杯の料理を持ち出しながら遅れて出てきたシャリオラが言う。しかし明らかに一番油断しているのは彼女。二つの意味で。その一つは敵の襲撃に対して、もう一つは味方からの取締りに対して。
セシリア・ティレット(eb4721)が事前に提案した二人一組での行動が、何かしら特別な理由が無い限り義務付けられている。一人では戦闘と救助などは同時に出来ない。それを解決するための方法。加えて、敵の襲撃や変装などに対抗する手段でもある。
だから、お腹が減っても少し我慢。良い子は相方と一緒にご飯を食べに行きましょう。
パーティはつつがなく進んでいる。
その裏で、何やら企んでいる男が二人。サーガイン・サウンドブレード(ea3811)とウィアード・ジャルガー(ea9603)。予め断っておくが、心配されている賊などではない。護衛などつまらないと言いながらも、ここで手柄を立て恩を売れば後々役に立つ、と小悪党丸出しのヒソヒソ話をしていると。
「不審者です! 取り押さえてください!」
会場内から、窓を通して外を見ていたユリア・サフィーナ(ec0298)が叫ぶ。その声が二人に届くのとほぼ時を同じくして、目の前に現れる何者か。お互いに一瞬硬直するが、直後、何者かは向きを変え走り去ろうとする。
「っ!?」
その足元に突き刺さるナイフ。足を止めた何者かの前に、ラヴァド・ガルザークス(eb9703)が立ちはだかる。スピアを突きつけ、一歩、二歩。外の見回りをしていて騒ぎを聞きつけたウォルター・バイエルライン(ea9344)も加わり、包囲網が狭まっていく。
と、突然思いもしない方向へ駆け出す何者か。そこはユリアがいる窓。体ごと突っ込んで強行突破する腹づもりか。
「華やかな舞台に無礼者は無用です」
だが、窓の向こうで鳳 香蓮(eb5968)が使用したホーリーフィールドが、窓を突き破った直後の何者かを再び外へ弾き出した。そして。
「あとでしっかりと、取調べを受けてください」
メイユ・ブリッド(eb5422)のコアギュレイトがその行動を封じ、御用となった。
ほぼ同時期。会場の外、他の数箇所でも不審な人物が発見され、ほぼ全てが捕らえられた。タイミング、挙動、武器の所持というところから、賊であったと見てほぼ間違いないだろう。
アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)がウラジミール一世の元へ駆け寄り、耳元で何事か囁く。その様子を見て、真幌葉 京士郎(ea3190)は何事か起きたのだろうと推測し、両手どころではなく持っていた花たちにしばしの別れを告げる。
賊の出現。その一報は会場内の警備兵や冒険者達に広まっていった。鴻 蓬麟(eb7154)、エイリア・ガブリエーレ(eb5616)などが中心となってエリザベータや要人達の周囲を固め、警備を強化する。
(「‥‥あれ、意外と多い」)
不人気で護衛が少なそうという予想の下イーゴリ大公の護衛についた尾上 楓(ec1865)は、実はそうでもない現状に少し驚き、そしてもっと人気の無さそうな王室顧問の姿を探し‥‥
「いない」
「冒険者諸君」
その呟きを消すように、重々しい口調でウラジミールが口を開く。
小領主の反乱と、騎士団一部不在を狙った暗殺者の襲撃。当然、無関係に偶然起こったこととは考えられない。
既に、反乱鎮圧に向かった部隊には王都へ帰還するよう使者が立てられた。彼らが戻ってくるまで、今いる者たちで、多くの要人達を守りきらなければならない。
「現在ここにある全ての戦力で、王宮を守備せよ。一つとして、敵の思うことを成させてはならん」
ウラジミールが、会場内の冒険者達にそう命じた直後。
王宮の外では一部火の手が上がった。
王宮の内ではどこからか戦いの怒号が聞こえた。
ここに、目に見えぬ陰謀渦巻くパーティは終わった。
ここから、目に見える殺意渦巻く反乱が始まる。
< 担当:香月ショウコ >
●反乱鎮圧
春の穏やかな日差しの中、喧騒の元凶は、戦いの匂いを北の地に運ぶ。
国家の剣と盾。そのいずれを自ら選ぶにしても、また一つの道。
起きる事象の顛末は、醜聞と血の舞踏を引き連れキエフより一昼夜の距離。
──そこに居る。
反乱軍と目される敵軍と対峙した冒険者たちは、各自の分野ごとに統率された行動を取る。あえて由とせず独自に動いた者もいたようだが、元より異邦人である冒険者である。それも必然だろう。
戦いが始まる前。
マナウス・ドラッケン(ea0021)三日月柳(ea8668)ら、遊撃と偵察に向かった者達は、敵軍の本陣と思しき物を発見した。この一報を聞くや否やルカ・インテリジェンス(eb5195)は夜闇に紛れ、補給路を襲撃することに決める。自らの血が騒ぐに酔いながら。
その夜、遠き闇に炎が上がるころ。様子を離れ眺めていたローサ・アルヴィート(ea5766)は退却想定路にしかけた罠を見、微笑んだ。
ルカの襲撃により、敵の補給物資は多少なりとも損害をうけた。これによって敵軍の士気は落ちたと言えよう。
早朝。
白い鷹が空を待っている。
マクシーム・ボスホロフ(eb7876)は弓の弦を一度引き、調子を確かめると迎撃の集団に紛れ消えていった。
会戦は、かくして始まる。
剣戟の音鳴る敵陣の上を飛ぶ、小さき影。放たれる牙はアルフレッド・アーツ(ea2100)撹乱と急所を狙う彼の攻撃が戦の火蓋を切る。
続けてジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)の凍てつく氷雪の洗礼が敵兵を薙いだあと、剣を構え斬り込んだシンザン・タカマガハラ(ea0021)は吐き捨てるように言った。
「憂さ晴らしにもなりゃしない」
彼の前に散る木っ端のごとき人の波。もう一方の雄アンリ・フィルス(eb4667)は、無謀にも見える突撃を繰り返す・・・・・・だが、彼の圧倒的な力の前に築いていくのは骸の山。 さらに・・・・。
「さあ、私に続くのだ!」
デュラン・ハイアット(ea0042)は、ウィザードだが先陣にいる派手な男。やはり派手な雷光の魔法を放ち敵陣へ進んでいる。
混乱する敵陣の中へ駆けていく一頭の馬。
その馬から下りた河童の磧箭(eb5634)は迫りくる敵兵へ、縄ひょう放ち体力を削るつもりであった。しかし予想以上に接近されたため、宙に飛び上がると必殺の一撃龍飛翔を使わざるをえなくなったようだ。
「鳥だ」
「獣だ」
「いや、あれは?」
「グリフォンだ!」
雄たけびをあげ、敵の陣を大暴れしているのは、グリフォン。ケイト・フォーミル(eb0516)の指揮下である。
毒手の使い手、理瞳(eb2488)は、倒れた敵へ毒を注ぎ込んでいる。心なしか楽しそうなのは気のせいだろう。
騒動の影で、秘密裏に敵陣へ接近する髭が一人。小丹(eb2235)は二つの剣を器用に操り、軽々と敵を切りつけていく。
戦闘もそろそろ道筋が見えてきた。
ブレイン・レオフォード(ea9508)盟友と供に背中合わせで一撃をもって、敵へ楔を打ち込み、 王娘(ea8989)も十二形意拳・酉の奥義、鳥爪撃を用い目にも止まらぬ蹴りを繰り出した。
すでに形勢は、冒険者に有利となりつつある。敵は戦意失い退却をするため下がりつつある。しかし、それを阻むものがあった。
「罠だ! なぜこんなところに」
驚く反乱軍、その罠はローサが仕掛けていたものである。
結果、退路を断たれたという誤報が敵陣を駆け巡る。事態を収拾しようとする敵指揮官の望みを断つように、一本の鏃と魔法が指揮官を襲う。
遠き彼方から射られしそれは、白き翼とともに襲来した。
弓引いた主は、姿は見えぬが名をマクシームと言う。魔法の使い手はリン・シュトラウス(eb7758)という吟遊詩人だ。
指揮官と補給を失った部隊ほど惨めなものはない。
シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)など、補給と後方支援を担当した者たちの活躍も戦闘を支えた。戦場で彼らの華やかな活躍は見られなかったが、戦闘するため必須である支援活動によって、救われた命もあることを忘れてはならない。
総崩れとなった敵陣へ追撃を加える冒険者たち。
そんな戦闘の中で、雨宮零(ea9527)はふと、ある疑問を感じていた。
(今回の反乱、誰が企てたものでしょうか・・・・・・)
雨宮の疑問に対する答えは、王宮よりやって来た急報が明かしてくれるだろう。
反乱軍がすでに総崩れで退却をし始めたころ。情報連絡の仲介も終わり、一息ついていたマナウスの元にその一報が入った。
「至急、王宮に戻るように」
その知らせは、王室顧問ラスプーチンによる、国王ウラジミール1世の暗殺未遂と、王宮が反乱軍により襲撃される、の報であった。
反乱を起こしたラスプーチンの兵力は約550にも及ぶといわれ、王宮に迫っているとの情報もある。
このまま捨て置いては、王を含め王宮内に集った諸侯たちにも害が及ぶ、事態は急を要するだろう。意気あがる冒険者たちは休み暇もなく、歩み足先を王宮へと向かわせる。これから起きるであろう事を思い浮かべながら。
いったい、この先に何が待っているのか・・・・・・。
──それは、また違う話である。
< 担当:Urodora >
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