戦闘の結果
ノリア・カサンドラ
ea1558

アルフレッド・アーツ(ea2100

キサラ・ブレンファード(ea5796

薊 鬼十郎
ea4004

■リブラ死守

●激戦、開始

 冒険者達の想像を遥かに上回る数の虫が、北東の方向から殺到してきた。
 北側の城門跡の罠に全体の3分の1くらいの虫達が行ったが、残りの虫達と罠に入りきらなくなって溢れた虫達が他の城壁へと移動する。
 やがて冒険者達と虫達の攻防の戦端が、東側の城壁で開かれた。
 ノリア・カサンドラ(ea1558)は名乗りを挙げると、向かってくる虫に鉄拳を繰り出す。
「殴りクレリック・ノリア只今参上! いててっ!」
 突進してくる硬い甲に素手は部が悪い。虫の攻撃を避けながら良い場所を確保すると、虫達の動きの監視と連絡の作業に専念する。
 虫達の動きを見ると、東側の城壁はまだ狙われているが、少しその場を離れ始めた虫も居る様だ。やがて虫達は一斉に飛び立ち、西側の城壁へと周り始めた。
 ノリアの報告で、冒険者達は西側の城壁へと向かう。

●翻弄される冒険者達

 虫達を追って冒険者達が西側の城壁に集まると、虫達は東側の城門跡のバリケードを突破しようと移動して攻撃をかける。
 突破されたバリケードを冒険者達が虫達から何とか奪い返すと間も無く、また手薄になった西側の城壁へと虫達は飛び立った。
 慌てて後を追う冒険者達を嘲笑うかのごとく、虫達はあっさりと目標を変えて、再度バリケードの突破を試みる。
 そこで冒険者達に逆襲されても、虫達はまた西へと、そして東側の城壁へと、目まぐるしく移動して冒険者達を翻弄する。
 虫達の動きを監視していたノリアには、虫達を統率し手薄の場所へ虫達を突撃させてはほくそ笑む邪悪な存在がどこかでこの戦況を見つめている、そのまがまがしい視線の圧迫感を拭い去る事が出来なかった。

●城壁での攻防

 左右の揺さぶりでついに冒険者達の壁を突破した虫達は、内部に侵入しようと城壁を登り始める。
「突破された! 城跡を守れ!」
 アルフレッド・アーツ(ea2100)は、周りの冒険者達に呼びかけながら急いで城壁に向かうと、ダガーを虫に向かって投げつけ始めた。虫を覆う硬い甲から覗く体を狙ってダガーが襲い掛かる。刺さったダガーによって壁から剥がされた虫が地面に叩き付けられる。
  アルフレッドはダガーに結び付けたロープを手繰り、ダガーを回収する。ダガーを手に取り構えると、次の虫を狙って投げ付ける。未だ多数の虫が城壁を登っている。アルフレッドは一瞬も休む暇無く攻撃を続けていた。

 虫達がある程度の高さまで登ると、バル・メナクス(eb5988)の仕掛けた罠が一斉に作動した。
「少し下がって! 罠の石が落ちてきます!」
 ロープの両端に結わえられた二つの石が上下に位置をずらして垂れ下がっている。下側の石が虫に触れて揺れると、城壁の出っ張りに危うく引っ掛っているロープが外れ、二つの石が虫めがけて落下するのだ。
 多数の罠が虫達に喰らい付く。石に潰されながら落下する虫達。その前方の異変に気付いた虫達は飛んで城壁から離れていく。
 鈍い音を立てて石に押し潰される虫達。城壁の真下の地面は、潰された虫と罠の石で埋め尽くされた。
 やがて、次々に落ちてくる石の群れに城壁の攻略を断念したのか、生き残った虫達は地上に降りて来た。それを好機と冒険者達が切り伏せる。

●戦士達の舞

 腕に覚えがある戦士達は、それぞれの戦い方で虫を攻撃していた。
 キサラ・ブレンファード(ea5796)の剣光は、未だ鈍りを見せていない。
「斬る! お前達を斬って斬って斬って斬って斬って! 力の限り斬り捲る!」
 疲れも見せず舞うキサラの剣は、虫達を一匹また一匹と屍に変えていく。
 もちろんキサラも虫の攻撃でダメージを受けている。だが、思うよりも体が動き、虫の返り血を浴びながらも一心に剣を振るうその姿は、見る者に鬼神の如き印象を与えていた。

 薊 鬼十郎(ea4004)は、松明を掲げ、地面を這う虫達を足場にひらりひらりと跳ねながら、虫達の群れの中を駆け回っていた。
 もちろんその作戦には、熱源に惹かれて集まる虫達に集中攻撃されるリスクを伴う。だが剣客としての強さを求める鬼十郎には心の迷いは無かった。
 口を真一文字に結び、視線を前方に、時折虫の体当たりを受けながらも、迷う事無く進んでいく。
 魅力的に舞い踊る松明の炎に、やがて統率力が失われ烏合の衆と化した虫達は、冒険者達に斬り捨てられていった。

「おまえ達の鈍い体当たりなんて、俺に当たるかよ。遠慮せずに本気出せよ」
 リスター・ストーム(ea6536)は、ダズリングアーマーの魔法で光の鎧を身にまとうと、素早くサイドステップを踏んで攻撃をかわしながら、引き付けた虫と戦っていた。
 もちろんこの作戦にもリスクは有る。他の冒険者を巻き込めば、リスターの体から発せられる強い光で視力を低下させてしまう。必然的に孤独な戦いとなってしまう。
 それに、回避する為には、虫の攻撃を認識するのが前提である。リスターとて、さすがに全ての攻撃を認識出来る訳では無かった。
 虫達のお行儀の悪い体当たり攻撃は、リスターの背中や頭頂部や足首を非情に狙う。
 それでもなんとかリスターは、最後まで生き残った虫達を倒していった。

●戦い終わって残されたもの

 そして、最後の一匹が倒された。ようやく、終わったのだ。
 堀が虫の死骸で埋め立てられる程に、無数の虫の死骸は四方に転がっている。
 ほとんどの冒険者が、荒い呼吸をしながら顔の汗を拭う暇無く仰向けに倒れている。
 何度も突破された東側の城壁もバリケードも、ダメージを受けてぼろぼろになっている。
 見た目、この死闘で冒険者達が得たものは無い様に見える。
 しかし、勝利を収めた冒険者達の心は、ここを護り抜いた達成感によって、清清しい気持ちに満たされていた。
 心地よい風が冒険者達を優しく包む中、冒険者達は互いに顔を見合わせては、無言で微笑み合っていた。
(by 執筆M名:猫乃卵MS)
 
サラフィル・ローズィット
ea3776

ティエ・セルナシオ(ea1591

ルシフェル・クライム(ea0673

フィーネ・オレアリス(eb3529

■リブラ城砦の心臓部

 外からの、怒号や悲鳴、打撃音。明かりを少し落とした救護所には、随時伝令から戦況が伝えられ、途切れることなく怪我人が運び込まれている。呻きながら寝転がる戦闘員達。そこここで、リカバーの淡い光が浮かびあがり、傷口を癒す。山と積まれた薬草やポーションが、景気良く消費されていく。炊事場からは途切れることなく湯気が立ち上り、疲れた者の心と体を癒すべく、大鍋での炊き出しが続けられている。
サラフィル・ローズィット(ea3776)が、一人ひとりに暖かいシチューを手渡している。その熱は、戦いに傷ついた者達をじんわりと癒した。
「お疲れでしょう? ここにいる間は、どうか心安らかにお休みください」
 外の喧騒が、途切れることはない。ここにいる者達は、数刻後には、あの中へと戻っていくのだ。だから、せめて今だけは。サラフィルは、ただ、出来る限りリカバーを施し続けた。

 戦いが始まり、どれ程経っただろうか。未だ夜明けの見えぬ闇の中、攻防戦が終わる気配はない。当初から走り回り、リカバーを使い続けた者達の疲労も、限界に達しようとしていた。ソルフの実を噛締め、霞む目を擦りながら、それでも波のように寄せてくる眠気と疲労に苛まれる。
「‥‥‥くっ」
 ティエ・セルナシオ(ea1591)が、己の足にアゾットを突き立てた。少しだけ、痛みで眠気が引いていく。
「あ、あんた何やってんだ!」
 治療を受けていた男が、目を剥いた。
「あなたの傷に比べたら、何でもないよ」
 少し顔を歪めながら、それでも手を止めることはしない。赤い色が、ポタリと滴った。
「‥‥‥すまねぇな」
 その言葉に、笑顔を返して立ち上がる。
「えーっと、次の怪我人は‥‥」
「あなた、何をなさっているのですか!」
 辺りを見回していると、15歳ほどの少女、サレナ・ブリュンヒルド(eb2571)が血相を変えて寄ってきた。無理やりティエを座らせると、素早く足に包帯を巻いていく。
「わ、私はいいよ! それより他の‥‥」
「ここの者が倒れてしまったら、誰が皆さんの看護をするのです。私達は、誰よりも自分の状態に気を配らねばならないのですよ」
 サレナは周囲を見渡し、大声で皆に告げた。
「皆さん、ここがリブラの心臓部です。私達は、何としてもここを守り、傷ついた人々を癒さなければなりません‥‥でも、決して過ぎた無理はしないでください。私達が倒れたら、それ以上の戦闘員の皆さんが倒れてしまうのです。私達には、自分を守る義務があります」
 仲間達が、大きく頷いた。

 ピュアリファイで傷口を浄化し、リカバーで塞ぐ。ポーラ・モンテクッコリ(eb6508)の治療を受けた少年が、武器を握り締め再び立ち上がる。
「お待ちになって」
 その二の腕を掴み、引き止める。
「は‥‥なして、ください‥‥行か‥‥ない、と」
「傷は塞いだわ。でも、あなたはとても疲れているわね。休んでいった方がいいわ」
「そんな! ‥‥仲間が‥‥‥戦っ‥‥て、いるのに」
 少年の瞳は、ただただ焦燥に駆られている。これは説得が難しいわ‥‥とポーラが眉を寄せた、その時。
『〜〜〜♪』
 どこからともなく、竪琴の音。さほど大きな音ではないのに、はっきりと耳に残る、メロディーの魔法。疲れた戦士たちの、そして彼らを支える人々の心に、じわりと染み渡り、癒しを与える。
 落ち着きを取り戻した少年に、ポーラが微笑みかける。
「さあ、隣の部屋で休んで。心配しなくても、数刻経ったら起こしにいくわ‥‥回復したら、また王国を守ってくれるのでしょう?」
 悔しそうではあったが、今度こそ、少年は頷いた。

「虫が、近づいてきます!」
 駆け込んできた伝令の言葉で、救護所内に緊張が走る。
「随時狩り出してはいますが、それを掻い潜って寄ってくるやつが!」
 ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)が、スッと立ち上がり、メイスを手に取った。
「とうとう、来ましたか」
その武器の名はGパニッシャー。かつて幾多の『G』に天罰を与えてきたといういわく付きのそれは、インセクトに対し高い効果を発揮する。今回最も相応しい武器といえるかもしれない。
「虫に蹂躙など、決してさせない!!」
 ルシフェル・クライム(ea0673)も、外へ飛び出した。
「みなさん、近くに集まってください!」
 フィーネ・オレアリス(eb3529)が、ホーリーフィールドを唱えた。見えない結界が怪我人たちを覆う。
「少しの間は、これで持つ筈です。その間に、退治してもらえるでしょう。天駆隊の名にかけて、ここは何としても守り抜きます!」
 虫の侵入で、救護所の機能にも少しずつ支障が出始めている。あまりに長時間に渡れば、破綻も免れない。一刻も、早く終わって欲しい‥‥! 皆、祈るような気持ちで、そう思った。


 途切れることの無かった喧騒が、少しずつ小さくなり‥‥やがて、消えた。戦闘の終了。それは、リブラ守備隊の勝利を意味するものだった。傷ついた戦士達が、救護所へとやって来る。皆、見るからに疲労困憊しているが、その表情は明るい。
 リブラの砦は、そして王国は守られた。過酷な戦を戦い抜いた勇士達、そして、彼らを支え続けた者達の手によって。
(by 執筆MS名:紡木MS)
 
ジークリンデ・ケリン
eb3225

パラーリア・ゲラー
eb2257

ルフィスリーザ・カティア
ea2843

ジェイラン・マルフィー
ea3000

■デスゾーン!

 『デスゾーン』と誰かがいった。
 北側の城門跡の内側に造られたV字型の城壁上に集まった冒険者の誰かが呟いたのだ。
 死という意味が果たして冒険者と王宮の部隊を示すのか、虫の群れを示すのか‥‥。今は誰にもわからなかったが、希望を持たなければいかなる境遇もはね除けられるはずもない。
 巨大なかがり火が城門跡の奥で燃えさかる。バリケードはわざと設置されなかった。守りとは逆に、虫をおびき寄せる為に用意されたのが、かがり火だ。
 かがり火を守る地上の者達は城門跡から望める夜空から星の瞬きが消えたのを知る。雲が立ちこめたと思う者が多数いたが、それは間違いであった。
 巨大ブリットビートルの群れである。
 城門跡の壁に衝突しては弾けながら、虫群が進入する。かがり火を目指し一直線に。
 虫の津波が宙を覆ってゆく。羽ばたきの振動音が近づいてきた。
 V字型の城壁上にいた冒険者達は声をかけあって攻撃を開始する。
「飛んで火に入る、冬の虫です!」
 近づく虫群の真上に真紅の輝きが瞬く間に膨らみ、弾けた。
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)が放ったファイヤーボムの特大爆炎である。この攻撃だけで大量の黒こげの虫が煙の尾を引きながら地面に転がった。
 一瞬の内に虫群の一角が消し飛んだが、すぐに補完されて城門跡に進入する。
 矢などの投擲が放たれ、虫に突き刺さる。術者の身体は様々な色に輝き、魔法が展開される。燃やされ、凍らされ、斬られてゆく。
 始まったばかりの戦いは拮抗していた。
 冒険者達の猛攻のおかげで、城門跡と新設された城壁の間にいる虫の数は一定の数で踏み止まる。しかし次々とかがり火に引き寄せられて虫群は進入してゆく。
 矢を放ち、また矢を放つ。天駆隊を名乗るパラーリア・ゲラー(eb2257)は弓を持ち、撃ち続けた。
 眼下のどこに撃っても虫の姿はある。今はより数を射つ事が先決だ。まれに城壁に取りつけられた返しにもかからずに虫が城壁の上に現れる。パラーリアが矢で撃ち抜き、動きがにぶった所をペットのロック鳥ちろが飛びかかる。
「ちろ、たべちゃえ!」
 城壁上に生き残る虫の姿はなかった。
「絶対‥此処で全部やっつける…!」
 利賀桐まくる(ea5297)は用意されていた投擲を投げ続けていた。力の限り、シューティングPAを駆使して。
 特に一度止まり、飛び立とうとする虫の眼や関節などを狙う。一塊となった虫群は得意な仲間に任せ、利賀桐は自分の技が有効な単体を標的にする。
 戦いは長引いていた。深夜になっても、押し寄せる大量の虫の勢いは止まらなかった。
 大量の矢が突き刺さり、次々と虫が墜落してゆく。しかし、それを補うかのように新たな虫の津波が押し寄せる。誰もが悪い夢を見ているように感じていた。
 ルフィスリーザ・カティア(ea2843)はより効率よく虫を駆除する為に、花や果物の匂いを凝縮した香で罠を仕掛けた。集まった虫群には仲間の支援も受けながら、自らのムーンアローを放つ。ペットの月妖精セロもスリープで手伝ってくれた。
 アルル・ベルティーノ(ea4470)が城壁内部の階段を駆け上がる。地上から城壁面にファイヤートラップを仕掛け、城壁上に戻っている途中であった。上からは返しがあって城壁面が把握ににくかったせいだ。ちょうど登り終えた頃、トラップの炎が吹き上がる。アルルは稲妻をもって止めを刺してゆく。
 アルルとは逆にリュリュ・アルビレオ(ea4167)は新設された城壁の直下に降りていた。
「ライトニングサンダーボルト!」
 淡く緑色に輝くリュリュの手から雷光が伸びる。城門跡から進入し、一直線にかがり火に向かってくる虫群に向かってだ。リュリュは魔力の尽きるまで城壁を死守するつもりでいた。

 夜が明けて、ようやくわずかながら虫群の勢いが弱まりだす。しかし冒険者達もかなり疲労していた。
 日が昇るという事は同時に虫が集まりにくくなるのを示す。今までかがり火による光や熱に向けられていた虫の意識が人間へと切り替わる可能性が高まった。その意味ではより攻防が激しくなったともいえる。
 もう一つ問題があるとすれば大量の虫の死骸が折り重なった事だ。相対的にV字型の城壁の高さが低くなってしまった。戦いの当初から比べれば、城壁上の冒険者が虫に狙われる事が多くなる。
 元々は集めた虫の大群を油を使って焼き殺す作戦が考えられていた。他の場所で油を使う事になった為、遠隔で攻撃する作戦がとられた経緯がある。そんな状況でも冒険者達は一歩も退かずに勇敢であった。
 魔法を扱う者達は何カ所かに集まり、それぞれに唱える。
 アイスコフィンで城壁を昇ってきた虫を凍らせたのは水無月冷華(ea8284)だ。凍った虫は仲間を巻き込んで落下してゆく。
 太陽が昇るのを待ちに待っていたのがサーラ・カトレア(ea4078)である。太陽の光を借りて、サンレーザーを放つ。燃え上がった虫に、仲間の虫が集まって衝突する。そこを仲間のウィザードが狙い撃った。
 ジェイラン・マルフィー(ea3000)はアイスチャクラで作った氷の円盤を投げつける。円盤は空中の虫を切ってはジェイランの手元に戻ってきた。
「ココは通さないヨ!」
 ディエミア・ラグトニー(eb9780)は虫の集まっている場所にトルネードを放つ。ディエミアはここが踏ん張りどころと感じていた。こういう場合、敵が崩れる時は突然にやってくる。
 太陽が高く昇り、傾きかけた頃に勝負は決した。これ以上虫が増える事もなく、見る見るうちに飛び交う虫の数が減ってゆく。
 残る全力を持って冒険者達は最後の攻撃を行う。
 ジークリンデの特大爆炎が空中に広がる。パラーリアの矢と利賀桐の投擲が同時に最後の虫に突き刺さり、地面へと落ちた。
 空を覆っていた巨大ブリットビートルの影は一匹も見られなくなった。
 歓声が城壁の上で轟く。地上にいた者も、その周辺にいた者も声を上げた。
 その時、すべては喜びに満ちていた。
(by 執筆MS名:天田洋介MS)
 
ロックハート・トキワ
ea2389

ヘルヴォール・ルディア
ea0828

マリトゥエル・オーベルジーヌ
ea1695

ルーロ・ルロロ
ea7504

■地下貯水池を焼き払え!

 虫の大群が整然とした動きでリブラ村に向かっている。今にリブラ村周辺は大量の虫に覆い尽くされ、身動きも取れなくなるだろう。地下貯水池から次々と今も生まれているであろう虫達を滅ぼさなければ、諸悪の根源を絶たなければ。預言の不吉な言葉が彼らの脳裏に蘇る。
 そして虫の到着よりも早く、油壷満載の馬車と冒険者達が村を飛び出して行った。

 青白い月が、翳る。先に滅ぼされるは、虫か、人か。

「‥‥こっちだ」
 ロックハート・トキワ(ea2389)が、後方を進む馬車と冒険者達に合図した。
地下へと続く洞窟から突入した彼らは、敵に見つからないよう、刺激しないよう細心の注意を払って進んでいる。ヘルヴォール・ルディア(ea0828)が極力灯りを頼らないよう指示し、必然的に暗闇でも行動に支障が無い者達が、索敵などを行うようになっていた。
「意外と複雑な作りね」
 ウィスタリア・パウダースノウ(eb3562)が呟き、ロックハートに続く。とは言え、他の者にその姿は見えていない。彼女はインビジブルで姿を消し、安全なルートを探すべく行動していた。
「こっちは敵がいる。向こうに迂回するぞ」
 アルフレドゥス・シギスムンドゥス(eb3416)が虫を察知し、別の道へと皆を促す。
「このマントにかけて、安全なルートを見つけてやるぜ。最後までな」
 同じく馬車より先行していたゴールド・ストーム(ea3785)も自らに誓い、持ちうる能力の全てを使って確実な道を探していた。
 そうして先行組達による索敵と徹底した遭遇回避により、彼らは着々と奥へ進んでいた。
 
「この音っ‥‥来たわ!」
 突如、後方で変化が起こった。サウンドワードで敵の襲撃を察知したマリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)が、皆に聞こえるよう叫ぶ。十二分に注意していたのだが、やはり完全に集団の動きを隠すことは出来なかったか。虫の軍勢が彼らに襲い掛かる。
「やらせはせん」
 不意に、中でも最も大きな虫が液を出しながら倒れた。勾玉を使って姿を消し、虫の懐に飛び込んだ不破斬(eb1568)が、低く呟いて刃を返す。
「‥‥この統制。操る者がいる‥‥?」
「ブレスセンサーにはまだ引っかからんのぅ」
 ヘルヴォールの呟きに応じながら、ルーロ・ルロロ(ea7504)が火を作り出し、それを虫の群れに向かって放った。たちまち燃やされ落ちていく敵の向こうから、別の虫が乱れぬ動きで飛んで来る。それを、ルーロの火を灯りとしてマリトゥエルがシャドウバインディングを唱えて止めた。
「‥‥混乱するといいけど」
 自分も虫を叩き切りながら、ヘルヴォールは呼子笛を取り出す。このままここで戦っていては、埒が明かない。もしも虫を統制する者が、笛を使って音で操っているならば、こちらも不協和音を出して応じれば良いのではないか。
「今のうちですね」
 突然、妙な方向に虫達が動き始めた。それを見て、オウ・ホー(eb2626)が走り出す。彼ら魔術師を守るように戦っていたロックハートも、再び先行して進行の障害となる虫達を倒しながら進む。
「あったわよ、貯水地!」
 そして姿を消して進んでいたウィスタリアが、遂に目的地を発見した。

「急ごう。虫の大群が来たら困る」
 龍宮 悠闇(eb0886)が手際よく、油壷を撒いて回る。
 広間内に広がる貯水用の穴には、どれもびっしりと虫の幼虫やさなぎが入っていた。既に孵化を始めている物もいるし、成虫となって襲い掛かってくる虫もいる。だが、それらの迎撃は他の者にまかせ、悠闇は穴へと着実に油を注いで回っていた。ひとつも漏れの無いよう、壁まで念入りに調べる。
「‥‥きりが無いな」
 そうして油を注ぎ回る者達の護衛を務めながら、ロックハートは辺りを見回した。姿を消した状態で見張りをしているウィスタリアや斬から、通路から敵がやって来たという報告が飛ぶ。その度に彼らは飛んで来る、或いは地上を這って来るもの達と戦った。
「これで全部終わったはずだ」
 やがて全ての穴に油が注がれたのを確認した悠闇が、皆に報告する。その時、マリトゥエルが通路のほうに目を向けた。
「大群が‥‥来たわ!」
 彼女の叫びに、皆はたいまつに火を点け、或いは炎を生み出し穴へと投げつける。それはたちまち引火し、辺りに波紋を描くように急速に広がっていく。その想像以上の勢いに、皆は気圧されて後退を始めた。
「確認は?」
  退却しながら振り返るウィスタリアに、ロックハートは広間を埋め尽くす炎の壁の、その奥を見透かそうと目を細める。ここまで広がっては、全ての幼虫やさなぎが燃え尽きたかを確認するまでも無いように思えたが。
 彼の見つめる炎は化物のように揺らいでいる。逆の通路からやって来ていた虫の大群は、恐らく炎に阻まれ、或いは燃やされたのだろう。そこから彼らを追ってくるものはいない。
 そして一行は、炎の手から逃げるようにして地下を抜け出した。

「やりました?」
「終わった、か?」
「気配はないようじゃ」
  行きは虫に追われ、帰りは炎に追われながら洞窟を出て来た彼らは、その後何物もそこから出て来ないことを用心深く確認した。
「全滅したか」
  あらゆる魔法を使っても反応は無い。彼らは顔を見合わせ、初めてその表情がほころんだ。
「リブラ村に戻ろう」
 互いの健闘を讃え合いながら、皆は村への道を歩き出した。
 少々顔や服は薄汚れていたが、確かにやり遂げた事への。誇りを胸に。

 そして、名も知れぬものは、名もなき穴の中で滅んで行った。
 この地を覆う絶望の色は、人々の歓喜の色へと塗り変えられたのである。
(by 執筆MS名:呉羽MS)