●ノストラダムスの予言書
それを記したのは、これまでほとんど名前を知られる事のなかった神学者だと言う。白の教義を信奉し、聖なる母の神託に関係する事柄を熱心に研究していたらしい。そのために一つところに留まることが少なく、人柄は実直で穏やかだが、研究に対しては我を忘れる面もあるとしか伝わっていない。それでも、これまでは一度も異端と疑われることもなく、またあらゆる揉め事と縁遠い人物だったようだ。
そんなノストラダムスが、ある日聖なる母からの予言を授かったと主張し始めた。
その内容は様々な危難の後のノルマン王国の滅亡を示し、故にノストラダムスは現国王ウィリアム三世の施政を明確に非難していたとも伝えられるが‥‥現在、その行方は杳として知れない。また伝わる言動も、本当に彼自身のものか脚色されたのか、不明な点が多かった。ごく一部のノストラダムスの信奉者と明言する人々によれば、いずこかで今も聖なる母の啓示を受けているのだとされる。
しかし、パリの大聖堂をはじめとする国内のジーザス教白の教会は、予言通りに起きる事件の多数にデビルの暗躍が認められたことから、今だ予言書が聖なる母の神託かどうか『確かめられてはいない』としている。
●死のつかい 〜11月の予言
予言書の内容がようやくパリの王城にも届いた頃、パリからそれほど離れていない二つの地域で予期せぬセーヌ川の増水などによる集落の水没があった。パリを挟んで、セーヌ川の上流と下流で巻き起こった水害は、何者かが水害を招くように人々の行動を扇動したり、暗躍したりしていたことが確認された。これに合わせたように、この時期には珍しい長雨がセーヌ川上流域に集中したことから、それらの災害は全て、12月上旬に次の災害を呼び起こす布石であろうとの判断がなされた。
次の災害の発生予想地点はパリ市街。この水害を避けるため、王城ではパリ上流地点で人為的に堤防を切り、溢れる寸前の泥流を湿地帯に流すこととした。
この計画は堤防の人為的決壊に要する作業、それに伴う危険予測地域の住人の避難、事前に目撃されたデビル並びに悪魔崇拝者の動向に対する警戒など活動が多岐に渡り、国王ないしブランシュ騎士団からの依頼として冒険者ギルドからも多数の人員が派遣された。
その結果。
的確な避難誘導により危険予想地域での人的な被害は相当抑えられ、堤防の人為的決壊に要する人員も確保され、作業も予定時刻通りに実行された。その際に冒険者から避難住人に多大な寄付が行なわれたり、堤防を切るために自らの持つ技術を提供した者も存在したことで、依頼が無事完遂されたとも言われる。
しかしながら、この機関の複数の依頼にて、いずこも少人数ながらも堤防を切ろうとする悪魔崇拝者が目撃、撃退されている。これらは警戒に当たっていた冒険者の尽力で事なきを得たが、いずれもデビルが同行していた。また避難誘導中に発生した事故では、家族をデビルだと名指しするようなことも起きている。
またセーヌ川流域で、海のデビルと呼ばれるダゴンの出現も確認された。こちらは迎え撃った冒険者達の活動により、堤防決壊を行なうことはなかったもののマスの姿に変化して逃げおおせている。それ以外にもリリス、ビフロンスといったデビルの姿も目撃されたことと、長雨を払うべく繰り返された天候操作魔法があまり効果を挙げなかったことが、大規模なデビルの侵攻を疑う理由となっている。
●デビルの動向
ノルマン王国では、神聖暦1000年にシャルトル地方、マント領他、遠くはドレスタット地方までの地域で発見された通称『破滅の魔法陣』に関係する多数のデビルの活動があった。この時に暗躍したデビルの多数は討ち取られ、仕留め切れなかったデビルも同時期よりその多くの活動が沈静化していたのだが、平穏な時期は一年も持たなかったことになる。
シャルトル地方のオーガ族の侵攻激化、『破滅の魔法陣』の力の増大、一部ではこの地域の騎士団の活動低下も囁かれる。パリ近郊で、新たな『破滅の魔法陣』が確認されたとの情報もあった。
他にもパリを中心とした地域で、デビルに率いられたオーガ族の活動やデビルそのものの目撃証言、事件が増加している。
その中で、先に目撃されたダゴンが人間の女性に姿を変え、再び水害被災地に現れた。この時はその魔力を誇示し、水害で泥濘に浸かった土地を戻すと見せ掛けていたが、ズゥンビ退治に出向いた冒険者の慧眼で正体を見破られ逃亡した。未だその退治はなっていない。
また、1月下旬、それ以外のデビルの目撃情報が相次ぐことになった。
●凍る碑 〜1月の予言
1月の予言については、旧聖堂等で王宮関係者も参加して行なわれた会合でフロストウルフやブリザードドラゴンの関与が早くから指摘されていた。また『碑』についても多種多様な意見が出され、何を示すものかの調査が行なわれた。同時期に、精霊が封じられていると伝えられる遺跡の存在も明らかとなり、その調査も始まっている。
その最中、ブリザードドラゴン、フロストウルフの存在は確認され、更にその被害を受けたと思しき村落も発見された。フロストドラゴンはこの時に退治され、またオーガ族の大量討伐も行なわれている。だがこの時期には昨年末に目撃されたデビルの動向はほとんど確認されず、ブリザードドラゴンの進路を人里並びにパリへと向かう方向から逸らすことが危急の課題となった。
一月末、ブランシュ騎士団と共にブリザードドラゴンの目撃証言が相次いだ北東方面に展開した冒険者達は、『ラヴェリテ教団』と名乗る悪魔崇拝者達と交戦。数名の犠牲者を出しながらも、オーガ族と悪魔崇拝者の混成部隊の大半を撃退する。しかしその際に『ラヴェリテ教団』が崇拝しているらしいデビル、アビゴールが現われた。アビゴールは戦闘に関与することなく去ったが、その行動が『ラヴェリテ教団』の敗走を促したとも推測されている。
また行方不明の冒険者の遺骸を使用してデビル本体が依頼を出した前代未聞の騒動では、デビル、ビフロンスの目的が冒険者達の死体を手に入れることにあったと判明した。これは冒険者達が誘い出された村での活動が功を奏し、ビフロンスの目論見は外れたかに見えたが、デビルの目的追求の依頼を出した依頼人がデビルの目前で自殺。死体を持ち去られることとなった。この際に依頼人が口にした『コール』という組織は、まだいかなるものか分かっていない。
他に以前も目撃されたリリスがシフールに擬態して冒険者ギルドに依頼を出したが、こちらはリリス討伐には至らずとも、被害そのものもなかったことが確認されている。
ブリザードドラゴンは当初予想されていたルートを大きく外れ、危険地域の人々を避難誘導していた冒険者とブランシュ騎士団の前に現れた。幸いにして住人に被害はなかったが、ドラゴンを倒すには至らず、取り逃がしている。以降ドラゴンの目撃情報がなく、何者かが行動を操っているのではないかという推論もあがっている。
ブリザードドラゴン、フロストウルフの襲撃により被害を受けた地域の住人は、パリ近郊地域の居住可能な洞穴で一時避難することになっている。避難地での住居は、順次建設中だ。
●これからの予言
2月の予言は、『名も知れぬもの』による襲撃。
これをどう解釈するかは現在も検討中だが、内容からモンスターと呼ばれるような甲虫が関係するのではないかという意見が多勢を占めている。