◆決意

 破滅の魔法陣を巡るデビルとその崇拝者たちとの攻防戦は激戦が続き、苛烈をきわめた。
 完成させてはいけない魔法陣、奪われる前に破壊しなければならない‥‥国を、大切な物を守る為に。
 決して譲れぬ――ここが正念場であろう戦いを前に、冒険者達は騎士団と共に幾度も、これまで得てきた経験と知識を元に熱く方針を巡り、意見を交してきた。
 そして決まった作戦に、後は各々死力を尽くすのみ。
 デビルにこそ力を発揮する聖剣を手に、キドナス・マーガッヅ(eb1591)は、己にも言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
 そう‥‥心の隙に付け入るデビル達を退けねばならないのだ。
 策は決まり、それらを通すべく既に時は動き始めている。
 精一杯出来る事をやるしかないのだ。己を信じ、正義を信じれば、道は開く! ――決してデビルになど屈しないのだと。

 特別に重く作られた魔力を帯びた鉄製の大金槌を手に、メリーアン・ゴールドルヴィ(eb2582)もまた己が務めを果すため、向かうべき場所を選んだ。
「あたしが居るからには、通行止めってコトで♪」
 決して城中にデビル共が踏み込む事は許さない。そう大金槌に想いと心積りを託して。
 一方、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は、城内を守る仲間達に十字架のネックレスを装備しておくよう徹底させていた。
 神の加護を願う十字が混戦の最中にこそ、何より自分達を助ける物になり得る目印にも、と図っての事だ。
 そして、ミュウ・クィール(eb3050)は、銀のナイフを手に場内を見回る中にそっと加わる事を選んだ。
「怖いけど、頑張るー★」
 相手はデビル。怖いけれど、このまま魔法陣が完成すればもっと怖い事が皆に降りかかるだろう。だから‥‥。
 迎え撃つ用意が整えられていく中、ロングソードの柄を握り締め、フレアム・ド・ロレーヌ(ea3274)は、その命に代えても守りたいと願う何よりも大切な至高の君、ウィリアム3世の姿を眼裏に描き誓う。
 デビルの悪しき野望を挫くことを。国を守ることは、かの君を守ることにも繋がるのだから。
「持てる知識が活かせればいいが‥‥」
 要たる聖櫃の間へ向かう事を思い、ヴェレナ・サークス(eb0013)が小さく呟く。
 冒険者達はぎりぎりの人員を割き、三方を守り、城内を守る。
 仲間達が戦線を維持する間に、魔法陣を破壊しなければならない。
 破壊できなければ、それが長引けば、なお多くの者の命が危うくなる。
 ともすれば、張り詰めた空気に満たされかねないその場を払拭するようなターム・エリック(ea6818)笑い声が響く。
「戦闘能力も儀式の知識も無いんだけど、成功するよう精一杯踊って祈るわ!! 」
 気持ちの上で及び腰になっていては勝てるものも勝てないだろう。豪快に笑うタームを見、ヴェレナの覚悟もまた決まる。
「出来る限りの事を協力しよう」
「一生懸命邪魔にならないように頑張ります」
 頷くスズナ・シーナ(eb2735)もまた、少しでも出来る事をと心に誓う。

 ある者は、城外へ防衛に。
 ある者は、内より守る為にとどまり。
 ある者は、魔法陣を打ち砕く為に聖櫃の元へとはしった。

 二度に渡り、デビルの野望は退けられた。
 ならば今度も大丈夫だと、クラリッサ・ノイエン(ez0083)は、ただただ強く願った。
 贄へなり得る身なれば、その身は晒せず、願い祈る事しか出来ぬけれど‥‥。
 ――どうぞ、デビルに屈せぬ強き心持つ彼らに勝利を‥‥!

 シュバルツ城の一角にて交され定められた想いと誓いを胸に抱え、剣をあるいは杖を持ち、冒険者達はデビルらに相対する為に其々の場所へと散会していくのだった。

(担当:姜飛葉)

◆陽動

 どれほど長い時間戦いが続いていたのだろうか。実際に時間を提示されれば意外と思うほど短時間なのかもしれないが、実際に戦う者達にとっては永劫と思える程の長い時間が経っていた。城の東側では混戦といって良い状態が続いていた。どこかで幼い子供の泣き声がした。生け贄として集められ、ここに連れてこられた子供達の誰が泣いているのだろう。
「やっと見つけたぞ。このわしをここまで手こずらせるとは‥‥な」
 割波戸黒兵衛(ea4778)は人質を連れて戦場を移動する一団をハッキリと視認した。風体のよくない男達だった。装備や身ごなしは素人ではない‥‥傭兵崩れの様だ。男達の中の一人が色々と指図している。
「アレを殺れば統率を欠くだろう。なるほど」
 黒兵衛は一団の様子から移動していく方向を把握するとその場を離れた。

 黒兵衛の偵察情報により陽動と救出の作戦指示がなされる。カルナック・イクス(ea0144)は城壁から眼下に広がる戦いを見つめていた。隣にはレジー・エスペランサ(eb3556)も一緒にいる。
「あの辺りでいいよね」
「あぁ‥‥構わないだろう。敵にこちらの意図が悟られなければ良いのだからな」
「そうだね。じゃ‥‥さっそく派手にやるよ」
 カルナックはレジーに浅く笑うと愛用の弓に矢をつがえ、放つ。僅かに曲線を描きつつ矢は宙を飛び敵に命中した。剣を振りかざしていた敵が一瞬固まった様に動きを止め、そして倒れる。隣の男はレジーの矢に貫かれた。しかし、混戦のさなかということで敵は誰も城壁からの狙撃手に気が付かない。
「まだまだやれるね」
「あぁ」
 2人はまた新しい矢を取り上げた。

 ネフェル・ティス(ea8000)はシフールである利点を生かし、戦場の空を駆けめぐっていた。日頃ふわふわと飛んでいるイメージがあるが、こういう時は驚くほど直線的に飛ぶ。
「ちょっと西の方角が手薄だよ! 皆、頑張ってね」
 今見てきたばかりの事を戻ってきて仲間の頭上で叫ぶ。貴重な情報だ。戦場の高揚感から聞いてくれない者もいるが、ちゃんと判ってくれる人もいる。
「生け贄の子供達の場所はわかるか?」
 アッシュ・クライン(ea3102)がネフェルに尋ねる。
「子供? あぁ子供達はもっと城壁に近い方にいたよ。あっち」
 ネフェルは指で方角を指す。
「わかった。ありがとう」
 アッシュはネフェルの示した方角へと走る。子供達の近くにいる敵を倒す事が、救出への道だと思ったからだ。リザ・フォレスト(ea4511)もアッシュと同様に判断したのか、子供達がいると思われる場所付近で敵と戦っていた。
「キミ達の好きなようにさせません」
 リザの放つ矢が次々と敵に命中してゆく。それでもやりすぎると敵が接近してくる。それをやり過ごして間合いをとり、また矢を放つ。子供達の側で戦う者達が減ってくれば、救出を目的とした味方の接近が容易になる。その一心だった。
「こののぉぉ!」
 背後で怒声が響いた。振り返ると手傷を負った敵が血まみれの剣をかざしている。矢を放ったばかりの体勢にあるリザには回避が間に合わない。
「ぐわわぁぁ」
 それが気合いなのか悲鳴なのか判らなかったが、横から走る閃光とともに男は地面に倒れた。走る光は見事に敵だけを捉えて倒す。
「間に合ったみたいですね」
 少し離れた場所にムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)が立っていた。光とは彼の放った『ライトニングサンダーボルト』だったのだろう。リザの視線に気が付いてか、洒落た会釈をすると、ムーンリーズの姿は敵味方の戦う姿に見えなくなってしまった。
 井伊 貴政(ea8384)は全力で戦っていた。手加減は無用と心得ていた。この場にいる敵は悪魔を崇拝し、或いは悪魔の所業に頓着せず悪行を働くばかりの者達だ。倒すことに痛痒は感じない。
「か弱き子らを生け贄にしようなど、言語道断。許せませんねー。今は刀じゃないけれど、刀の錆にしちゃいますよ」
 貴政は鉄球のついた木の棒を構える。木の棒だからといって殺傷能力がないわけではない。
「俺を止めたきゃ死に気で来い!」
 ヴィゼル・カノス(eb1026)は大声でそう叫ぶと抜き身の刀をかざし、盾を構えて突進した。切れ味の良い刀が敵の防具の隙間からスルリと滑り込み、敵を斬る。瞬く間にヴィセルの周囲が血の色と匂いに包まれる。それもこれも、子供達を助けるための陽動になればと思ってのことだ。だからこそ、派手に戦う必要がある。
「まだだ! もっと使える奴はいないのか!」
 混戦の中、ヴィセルの声が遠くまで響く。

 その声は戦場から少し下がり気味のヒスイ・レイヤード(ea1872)にも聞こえた。ヒスイの目の前には負傷した味方がぐったりと横たわっていた。目はうつろに開かれている。
「大丈夫よ。傷の手当てをしているの」
 負傷した者を戦場で手当てし守るのは自分の使命だと思う。ヒスイは小さくうなずくと、治療を再開した。戦況はまだ変わらない様に思えた。

(担当:深紅蒼)

◆攻防

 鬱蒼とした丘に見下ろされる、シュヴァルツ城南側。進軍してくる敵は、人とデビルの入り混じった軍勢である。ミケイト・ニシーネ(ea0508)の報告通りだ。
「いい? ぎりぎりまで引きつけて、できるだけ多くの敵に術をお見舞いするのよ」
 セリア・ジャクレイヌ(eb0898)やエレアノール・プランタジネット(ea2361)らの指示に従い、初手としてまず敵軍勢に向け数々の精霊魔法が吹き荒れた。相当な痛手を被った者もいたはずだが、勢いづいた敵の進軍はこれぐらいでは緩まない。同じように魔法による反撃が返ってくる中、味方魔法使いが後退する時間を稼ぐため、ミケイトやゴールド・ストーム(ea3785)による矢の雨が降った。空を飛ぶ悪魔たちには、ルフィスリーザ・カティア(ea2843)のムーンアローが飛ぶ。
「隙を与えるな! 連中の足を止めろ」
 切れ目なく次々と矢を番えながらゴールドが叫ぶが、魔法と弓だけで足止めできる数ではなかった。この間にコトセット・メヌーマ(ea4473)らの付与魔法を受けた戦士、オーラ魔法をかけ終えた騎士達が前へ出る。
 絶えず降り注ぐ攻撃魔法の雨の中、フィアー・ロンド(ea6099)の剣が手近の敵のひとりを打ち倒し、轟天王剛一(ea8220)が豪快に振り下ろした巨大な槌はグレムリンを押しつぶす。人間の敵はほぼ食い止められているが、小さいインプたちは巧みに陣形の合間を縫って、通路の中へと入っていった。
「‥‥だがそれ以外は、概ね善戦しているようだ」
 剣風を一閃しインプをまとめて薙ぎ払ったグラン・バク(ea5229)が、血と泥で汚れた顔を乱暴に拭いつつ息をつく。クレア・エルスハイマー(ea2884)も、面に疲労の色を残しながらも気丈に首肯した。
「デビルの対策は万全ですもの。儀式を行っている方々のために、ここは何としてでも死守しなければ」
「よし。この調子で押し返すぞ!」
 呼吸を整え直したカーン・ガークロイド(ea9569)が、あらためて剣を構えた。

 暗い通路の中、負傷者の手当てをしていたサラフィル・ローズィット(ea3776)が顔を上げる。デティクトアンデッドによる知覚に、何かが引っかかったのだ。ルイス・マリスカル(ea3063)の石の中の蝶も、やはり反応を示していた。
「来たようですね」
 同じ白の信者のジュリアン・パレ(eb2476)に、後を任せて立ち上がる。軽く頷いたランディ・マクファーレン(ea1702)が、鞘から剣を抜いた。
 冒険者たちが息を詰める中、薄闇の中から溶け出るようにインプが現れる。
 ランディの刃がきらりと閃くと、六芒星の結界に阻まれた悪魔の姿は、悲鳴を上げる暇もなく崩れ落ちた。ランディは軽く鼻を鳴らし、跡形もなくなったデビルの屍の残滓を刀身から振り払う。
「意外と呆気ないな。まあ、結界のせいもあるだろうが」
 結界を察知して後退しかけた他の悪魔は、我羅斑鮫(ea4266)の罠を作動させて銀の矢に貫かれ、あるいはアム・ネリア(ea7401)のコアギュレイトで固められて、反撃の合間すら与えられずに消滅した。かろうじて彼らの追撃を逃れ、這うように逃げ出したグレムリンもいたが、斑鮫が追うまでもなく、やがて耳障りな断末魔が通路に響いた。
「‥‥どこへ逃げる気だったのやら。出入り口は我々が押さえているのに」
「所詮雑兵の浅知恵だ」
 得物を下ろしながらのマリウス・ゲイル(ea1553)の言葉に、アレクシアス・フェザント(ea1565)が軽く肩を聳やかす。
 狭い通路内は乱戦となったものの、冒険者らにとってシュヴァルツ城での戦闘は都合三度目。その地の利を活かして要所に結界や罠を駆使し、時には奇襲などの策も使ったおかげで、戦況は終始冒険者らに有利のままだったようだ。

(担当:宮本圭)

◆城内

 群れ飛ぶデビル。言葉にしただけでも嫌なものだが、実際に彼らの目の前にあるのはそれに近いものだった。
 マリウス・ドゥースウィント(ea1681)やフィル・フラット(ea1703)が所持する石の中の蝶に目を配り、イルダーナフ・ビューコック(ea3579)やアリアン・アセト(ea4919)達聖職者の探知魔法での知らせを、ラシュディア・バルトン(ea4107)はじめ集った者達は聞き漏らさじと神経を研ぎ澄ませていた。
 それでも、羽虫のように群れて現れたデビルは、姿を見せびらかすように飛び回り、集った冒険者や騎士団員目掛けて急降下しては、鉤爪を振るっていた。それが下級と呼ばれるデビルでも、飛行能力と稀に存在する姿を消して近付く方法で手数を補われては、ヴィグ・カノス(ea0294)が祈りを込めたヘキサグラム・タリスマンも、この場の有利を決定付けることに貢献しきれない。他にも同様のアイテムを使いつつ、結局は魔法や武器で戦線に乗り出していく者が多数いた。
 ウリエル・セグンド(ea1662) と源真霧矢(ea3674)は、それぞれ何体のデビルを斬ったかよく分からない。弓手のメリル・マーナ(ea1822)達の立ち居地確保に努めていた彼らは、カレン・シュタット(ea4426)の詠唱の声にその場を何歩か引いた。それだけで聖職者達の張り巡らす、ホーリーフィールドに身が入る。その直前を、攻撃魔法のいずれかが飛んでいった。
 マリウスやフィルが交代で前線に出て、ヴィグのアイスチャクラやラシュディアの風魔法がデビル目掛けて飛んでいく中で、初めてイルダーナフが大声を出した。 近くにいたマーヤー・プラトー(ea5254)とスィニエーク・ラウニアー(ea9096)が、指し示された先に迷わず剣と魔法で攻撃を仕掛けたが、少なくとも剣は相手のレイピアで弾かれた。
「アンドラス!」
 デビルの知識のない者でも嫌というほど聞かされた名前は、複数の口から上げられた。姿を消してここまで入り込み、悠然と地下への道を探している風のデビルに、一息入れる間もなくホーリーフィールドから飛び出したウリエルや源真達が向かう。それに先んじてメリルの矢も向かっていたが、こちらは魔法が乱れ飛ぶ中のことで当たらない。
 この間にアリアンが放ったホーリーは、確かにアンドラスを捕らえたものの、一撃で動きを鈍らせるほどには至らない。続いたスィニエークやカレン達の魔法は、首魁を守ろうとするように飛び込んできたデビル達によって威力の大半を削がれていた。
「道を開け!」
 アンドラスが発した言葉に従って、デビル達が近くにいる者に飛び掛る。身を守ること、永らえることは無視した勢いに一度冒険者も騎士団も圧され、その間にアンドラスはまた姿を消していた。怒号が乱れ飛ぶ中での探知魔法の結果は正確に伝わらず、他の箇所に比べていささか布陣した人数が少なかったこの場の欠点をさらすことになった。
 それでも、倒したデビルは他に比べて決して劣っていたわけではなく、また他同様に激戦だったことは間違いがなかった。そして、傷を塞ぐ僅かな時間を経ただけで、彼らはまたデビルを追って走り出していた。

(担当:龍河流)

◆隠密

  ──がさり。
 潅木を掻き分け小高い丘の頂上に出たウー・グリソム(ea3184)は派手な魔法が、地味な魔法が間断なく飛び交う戦場に目を凝らす。風が吹いても流れ得ない血生臭い空気の澱んだ戦場から距離を置き、子供たちの居場所を特定しようと考えたのだが‥‥丘の上から見た戦場では味方戦力がじりじりと追い詰められているのだ。
「優位に立つのは無理か。虎穴に入らずんばとは言うが‥‥見切りをつけて飛び込むべきかもしれないな」
 かなりの危険を伴うが、この城へ赴いた者で覚悟をしていないものはいないだろう──そう、死の覚悟を。
 既にミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)が情報中継として飛び立っている。時折りミミクリーで人間大の鷹に変化しているフィーナ・アクトラス(ea9909)に比べればシフール独特の小ささは危険度を緩和するだろうか。
 当然、宙からの捜索のみが行われているわけではない。ミレーヌ・ルミナール(ea1646)や北条彩(ea6862)のように茂みに隠れ、あるいは気配を消し、遠く近く拉致された子供たちを捜す。
「‥‥ミルフィーナ殿」
「はいはーい、ちょっと待ってね〜」
 小さく合図する北条へテレパシーを使用するミルフィーナ。
『見つけました、生贄の子供たちです』
 ハッと北条の視線を辿るミルフィーナ。後ろ手にロープを掛けられ項垂れる子供たちが、確かにいた!
 その報は、瞬く間に戦場を駆け抜け──そして好機が訪れた。いや、我が身を囮として差し出した陽動班の冒険者たちがもぎ取った小さな好機。

 子供たちへの防備が疎かになっている今こそが、恐らくたった一度のチャンス!

「大丈夫、僕は冒険者です。すぐに助けがくるから落ち着いていうことを聞いて、いいね?」
 子供たちの間に紛れ込みんだレオナルド・アランジ(eb2434)の声に子供たちは力なく頷く。しかしレオナルドがこっそりとロープを切ると、埃と泥に塗れた子供たち‥‥泣くことすら諦め憔悴し切っていたその表情に、意思が宿った。冒険者さんたちが、きっと助けてくれる!
「皆、将来は立派なレディになりそうですね」
 文字通り命懸けの状態だからだろうか、察しの良い子供たちに微笑む。
「それは良い事だな」
 フッと涼やかな笑みを浮かべ、エイジ・シドリ(eb1875)が一瞬で見繕った一番の美少女を抱き上げる。そして二番目に愛らしい少女の肩を抱き励ますように声を掛けた。
「‥‥走れるな? 皆、付いてこい‥‥こっちだ!」
 罠を仕掛け確保しておいた退路を駆け出すエイジ、追って走り出す生贄の子供たち!!
「貴様ら!!」
 油断を突き子供たちを奪った冒険者へ、悪魔崇拝者が凶刃を振るう!

 ──ギィィン!
 ヴァーチカル・ウィンドが煌いた!!

「悪ぃけど返してもらうぜ!」
 悪魔崇拝者たちの行く手を阻むクロウ・ブラックフェザー(ea2562)は普段のおちゃらけた様子を感じさせぬ厳しい眼差しで敵を射抜く!
 再び振るわれるヴァーチカル・ウィンド。──一閃、二閃!
「可能性の宝庫をな、そう容易く手折らせるわけにはいかんのや!」
 それが自らに課した使命だった。レイピアを握るために手放した隠身の勾玉はその効力を失い、レアル・トラヴァース(eb3361)は消していた気配を再び纏う。
 何処に紛れていたのか子供たちを逃がすべく、己の身と武器を頼りに躍り出る冒険者。
「おかしいわね、戦場に紛れるつもりはなかったのに‥‥まぁいいわ、出たからには手伝わなくちゃね!」
 迷い出たフィーナもロープを結わいたブレーメンアックスを豪快に投じる!
 直接戦闘で即撃破できぬならばと、悪魔信仰者たちは口々に呪文の詠唱を開始する──しかし。
「白き魂を結実させん──デスハー‥‥ぐっ!」
「悪しき魂の奏でる音は聞くに堪えんな」
 味方に利を与えるべく矢を番えていたクロード・レイ(eb2762)が喉元を狙い矢を放ったのだ! 同様に遠方より戦場の援護射撃を行っていたディック・ダイ(ez0085)も葉巻を噛み締め矢を放つ! 磨きぬかれた射手たちは1つずつ、着実に詠唱の邪魔をするが──それでも全般的に不利な状況に変わりはない。
「長くは持ちそうもねぇよ、早く逃げな」
 ディックの呟きが聞こえた訳ではないだろうが、ハーフエルフの生贄を抱き上げたヴェロニカ・シュピーゲル(ez1050)が小さく頷いた。防御に徹するレアルと攻撃の隙を窺うクロウ、二人のレイピアが絶えず音を立て‥‥その身から滴る紅き水の量もじわりじわりと増える。
「もう少しだ、頑張れよ!!」
 退路を示し七神蒼汰(ea7244)も腰から剣を抜き放つ!
『子供たちを保護しにギルドの応援が向かってるみたいですぅ。もう少し頑張ってくださいね、ミルフィーも頑張るですよ〜』
 おっとりしたテレパシーの朗報を頼りに、冒険者たちは武器を握りなおした。

 ──子供たちの未来を、パリの未来を守るために。

(担当:やなぎきいち)

◆救出

 戦闘はまだ続いている。混戦のさなかに見えるのは、目の前の敵。そして隣で戦う味方の姿。視野は酷く狭くて全体がどうなっているのかはわかりづらい。それでも少しずつある場所の敵の数が減ってきていた。ある者は集中的に矢を射かけられ、ある者は大声を張り上げて戦う者に引き寄せられた。結果として、生け贄として集められた子供達と、その子供達を連れ歩く男達の集団のまわりには人が比較的少なかった。それもこれも、陽動作戦を展開している別働隊の働きのおかげだろう。

 崩れた城壁の建材の陰で、マリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)、フェイテル・ファウスト(ea2730)そして夜 黒妖(ea0351)は機会をうかがっていた。失敗すれば自分たちばかりではなく子供達にも危険が及ぶ。慎重に行動しなくてはならない。降りかかる敵の刃を退け、極力戦闘はせずに子供達を探していた。なんとかして恐ろしい敵の手から救い出し、この戦場から連れて行ってやりたいからだ。
「いい? いくわよ」
 マリトゥエルはごく小さな声で言う。廻りの怒声や足音、唸り声にかき消されてしまいそうな声だが、敵に気取られるわけにはいかない。
「ええ。準備は万端です」
 マリトゥエルのすぐ側にいたフェイテルはうなずく。この距離ならば、唇の動きもわかるしまず言葉を逃すことはない。
「俺も‥‥いつでも」
 夜妖もごく僅かにうなずきそっと声をだした。敵との距離はほとんどない。タイミングを合わせて3人が建材から飛び出す。マリトゥエルの『スリープ』とフェイテルの『ムーンアロー』が子供達の近くにいた男を狙って放たれる。黒妖は素早く矢をつがえて放った。子供達の近くにいた男が一人、声も出さずに地面に倒れる。『スリープ』の効果だ。
「なんだ? うわぁ」
 隣の男が悲鳴をあげる。『ムーンアロー』が命中したのだろう。別の男は黒妖の矢に射抜かれた。
「この好機! 待っていたぞ!」
 戦場で戦いながら様子を見ていたサイラス・ビントゥ(ea6044)は、すかさず走り出す。棍棒で敵を左右になぎ払い、猛然と突進した。戦いには勢いがある。自軍に有利な一瞬を逃さず捉えて戦う‥‥簡単なようでいてこれが難しい。
「なんだ!」
「狙われているぞ」
「返り討ちだ!」
 子供達のすぐ側にいた男達が口々に大声で叫ぶが、士気があがっているようではない。むしろ、弱気になり逃げ腰となっているのが判る。
「生け贄になぞ、させてなるものか! 喰らえ下郎どもが!」
 サイラスの棍棒が敵を突く。無防備な腹を突かれた男が吹っ飛んだ。
「そ〜れ! これはどうだ!」
 ジョシュア・フォクトゥー(ea8076)は今まで戦っていた敵を『スープレックス』で子供達の近くに投げた。空中をジタバタと暴れた男の体は別の男に当たって倒れる。そして2人とも動かなくなった。気を失ったが絶命したか。しかし確認している暇はない。
「子供達! 脱出するぞ」
 ジョシュアは両手に最も幼い子供を4人程抱き上げると、人がいない方へと走り出す。
「こっちです。皆さんこちらに‥‥」
 キャシー・バーンスレイ(ea6648ea6648)がジョシュアと彼に従って走る子供達に手を振る。この戦い、子供達に犠牲を出したら負けのような気がしていた。だから、何よりも優先して子供達を守る。そうキャシーは決めていた。
「みんな! こっちだ!」
 子供達の避難経路を探してきた夜闇 握真(ea3191)が戻ってくる。ニコッと笑顔を浮かべて子供達に笑いかけた。その様子だと、どうやら良い避難経路を見つけてきたのだろう。皆に笑顔で手招きをする。2人の子供が泣きべそをかきながら握真の足にしがみついた。よほど心細く、そして握真の笑顔が嬉しかったのだろう。
「あたしもついていく〜みんな、もうちょとだから泣かないで頑張ろう」
 孫 美星(eb3771)は子供達の目線まで降りてきて、ふわふわと飛ぶ。幾人かの子供がグイッと涙を拭いた。
「わかったよ、シフールのお姉ちゃん。ボク達泣かないよ」
 綺麗な銀髪をしたエルフの少年が言った。皆、その子供を先頭にして一斉に動き出した。どの子供も見目形の良い子供であったが、聞き分けも良く賢そうだ。
「早く行け! ここは私が食い止める」
 ジャック・ルイス(eb2391)はその身分を証す剣を抜き、子供達と敵との間に割って入る。そして、そのまま敵へと斬りかかった。戦意の衰えなかった男が応戦して、剣同士がぶつかって鳴るキーンという澄んだ音がした。更に2合3合と剣が鳴る。
「私も生ける盾とならん!」
 とれすいくす 虎真(ea1322)は戦闘馬に騎乗しつつ敵のまっただ中へと向かった。自分たちが戦えば、それだけ子供達への追っ手は少なくなる。
「えぇい! 大事な生け贄だ! 追え! 取り戻せ!」
 遠くで野太い声がする。けれど、子供達とは随分離れているようだ。

 少しずつ戦いは収束してゆくようであった。子供達を無事奪還したものの、敵殲滅には力を注ぐことが出来なかった。それぞれに戦力を残したまま敵は引き、そして味方は追撃をしなかった。

(担当:深紅蒼)

◆儀式

 白と黒の光が眩いほどに乱舞していた。合わせて、地下室の床には赤黒い紋様が微かに浮かんで、何かの魔法を浴びては消える。淋麗(ea7509)やショウゴ・クレナイ(ea8247)などのディストロイは、特に効果が高いように見えた。
 否。白黒の区別なく、神聖魔法は聖櫃に触れている者が使用すれば、非常な効果を発揮していた。床に目視で確認できた円形の一部から続いて浮かぶ、ガディス・ロイ・ルシエール(ea8789)がどう見ても古代魔法語どころか明確な文字列でもない紋様が少しずつ消えていく。
 また浮かぶ紋様に、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)がホーリーを放つ。持てる力を放つ聖職者達の周囲では、ラファエル・クアルト(ea8898)などが羽虫一匹たりとも近付けぬといった警戒をしている。またすでに床に彫りこまれた紋様は、リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)などの精霊魔法使い達が様々な魔法で削り取っていた。簡単には消えぬことで、その異常さがまた明らかになる。
 一方、デビルの進行を阻む、またはその行動を妨げるといわれる道具を持ったシン・ウィンドフェザー(ea1819)やアシュレイ・カーティス(eb3867)達は、広大な地下室を覆うに足りない道具の少なさを、配置で補うべき布陣していた。まず大事なのは聖櫃、それとデビルの侵入を許さぬこと。上階からの知らせに、迷わずそれらを使った彼らだったが‥‥壁の一部を壊して現れた、梟頭のデビルに今度は武器を取った。
 エーディット・ブラウン(eb1460)などの精霊魔法使い達が、即座に魔法を打ち放つ。続けてアルアルア・マイセン(ea3073)がオーラを纏わせた矢を放ち、居合わせる騎士の何名かもそれに倣った。さしものデビルもこれで傷付くかと思いきや、矢のほとんどは何かに弾かれる。
「ホーリーフィールド? そんな馬鹿な」
 まるで同じではないかと叫んだ誰かの声に、低い笑いが重なる。聖職者達の何割かが一瞬動きを止めた言葉は、アンドラスによって肯定された。そんなことも知らなかったかと、デビルが黒の神聖魔法を使うことを嘲笑混じりに。
 しかし、その呪縛は迷うことなくアンドラスに斬りかかったルミリア・ザナックス(ea5298)やエグゼ・クエーサー(ea7191)によって解かれる。儀式を止めるなと言い置いて走ったヒサメ・アルナイル(ea9855)や和霊亜久也(eb2619)の手には、銀製だが小さな刃しかない。魔法の付与も間に合わず、また儀式のための魔力の温存を考えてのことか。
 そんな彼らが、ホーリーフィールドを越えて飛び込んできたインプを塵と変えている間に、ミィナ・コヅツミ(ea9128)が解呪の魔法を唱えた。目標はアンドラスのホーリーフィールド、相手も神聖魔法ゆえに聖櫃の力で強化されてないか心配する暇もなく放たれたそれは、不可視の壁を消し去った。
 同時に皆に遅れじとミルク・カルーア(ea2128)などがアンドラスの進路を塞ぐように刃の林を作る。その中に道を空けようとインプ達が飛び掛り、刃が動いて、塵と血が散る。アンドラスのレイピアも、幾つかの傷を冒険者や騎士の別を問わずに与えていた。
 床に落ちる、血。
 それを目にする以前から攻勢に加わろうとしていた神聖魔法の使い手達を、結城鷹臣(ea3762)が押し留めている。彼らが参戦することで、間違いなくアンドラスは不利になる。けれどそれをせずともよいように、今防戦に努める人々がここに集っているのだ。魔法陣の破壊は、それほどに優先されるべきこと。
 けれど。
 レイピアの動きが鈍ったと対していた人々が気付いたときには、アンドラスは何かを唱えていた。その言葉で床に零れた血が、消されたはずの文様をまた描き出す。タケシ・ダイワ(eb0607)がホーリーでかき消した傍から、紋様は僅かに場所を変えて、また現れた。
「集中して。祈りの力を集めてください」
 いささか声の枯れたマリー・アマリリス(ea4526)の呼びかけに、神聖魔法の使い手達は即座に意識を研ぎ澄ませた。口々に上がる詠唱の声が、白と黒の光を為して、聖櫃の周囲で弾ける。願う神、使う魔法は様々なれど、浄化・消滅を願ったのは一つきり。
 アンドラスと対し、その姿を注視していた人々の大半が、黒と白の光で視界を一瞬奪われた。そうして、視界が晴れたときには何もない。アンドラスも、飛び交っていたインプも、最初からいなかったかのように消えていた。これで倒せたと言うなら、それはあまりにあっけない。
 夢を見ていたのではないかと、思わず周囲を見渡した彼らが現実だと認識しなおしたのは、聖櫃に縋るように倒れている仲間の姿を見、床の一部に彫りこまれて残った紋様を確認したからだった。
 聖櫃は、変わらずそこに輝いている。

(担当:龍河流)

◆終結

「みなさん、ご無事ですか?」
 悪魔達との戦闘を終えて。
 やっと静けさが戻りつつある城内から、シャーリー・キエフ(ea1627)が瓦礫を押しのけながら駆けてくる。
「あんま無事じゃないけどね、まあ、あたしは生きてるから無事だよ。きゃは♪」
 グラビティーキャノンで敵を吹っ飛ばし、ついでに壁も吹っ飛ばした無邪気な破壊神レン・ウィンドフェザー(ea4509)が刹那的に笑う。
 その身体は悪魔達との戦闘で傷付き、綺麗な顔は泥にまみれていたけれど、魅力的だった。
「ちょっと、こっちに重病人だ。誰かきてくれっ」
 雪 月華(eb0597)が腕を振り、意識の無いコロス・ロフキシモ(ea9515)を抱きかかえる。

『ムウゥ‥‥ここより先には通さん!』

 そう宣言して戦闘中味方の壁となり、押し寄せる悪魔とアンデットを身をもって制したコロスはまさに聳える巨腕。
 だがその身体はもう限界だった。
 顔を包む重い兜を取り去り、顕になったその姿は見るに耐えない。
「治療道具は手配してありますが‥‥っ」
 その卓越した商人としての知恵とルートを生かし、防御資材や負傷者、薬品の管理の輸送を手配しておいたシャーリーのお陰で、続々と救援物資が届いているものの、ここまでの怪我となるとうかつに動かすことも出来ない。
 その時、城内から無事だったジェラルディン・ブラウン(eb2321)が道行く人々の怪我をさながら辻斬りのようにリカバーをかけながら出て来た。
「おねーさん、こっちにもリカバーひとつちょーだいっ」
「まあ大変。天にましますセーラ様よ、この傷深き者をその御心でもって癒し給え‥‥リカバー!」
 ジェラルディンがすぐさま駆け寄り、治癒の呪文を唱える。
 意識を何とか取り戻したコロスは2、3度頭を振り、
「う‥‥ぐっ‥‥はっ、敵はどこだ、一匹たりとも通さんぞっ!」
「‥‥幾らなんでも、無茶無謀が過ぎないか? その身体ですぐに起き上がろうとするな」
 飛び起きようとしたコロスは雪に優しく抑えられる。
 女性の膝に抱きかかえられてることに気づき、禿頭まで真っ赤に染まるコロスだった。

「おーい、みんな、ワインが届いたみたいだぞ♪」
 パンパンパン♪
 辺り一面に太鼓の音を軽やかに響かせて、トパッシュ・ロイス(ea6056)が皆に知らせる。
「みなさま、酒場にてご馳走をご用意いたしましたのよ。ぜひ楽しんでくださいませね?」
 いつの間に来たのだろう。
 パリの酒場のウェイトレス、アンリ・マルヌ(ez0037)までやってきて、冒険者達を酒場に誘導する。
 きっと今日は、夜通し宴会だろう。
 魔法陣の不完全な破壊という不安はまだ残っているけれど、でも。
「戦いの跡に飲むワインは格別だな♪」
「あー、はやく美味い飯食いたいぜっ!」
 助けることの出来た生贄の子供達の笑顔を酒の肴に。
 今だけは、勝利の美酒に酔いしれてもいいでしょう?

(担当:霜月零)


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