◆隠密
──がさり。
潅木を掻き分け小高い丘の頂上に出たウー・グリソム(ea3184)は派手な魔法が、地味な魔法が間断なく飛び交う戦場に目を凝らす。風が吹いても流れ得ない血生臭い空気の澱んだ戦場から距離を置き、子供たちの居場所を特定しようと考えたのだが‥‥丘の上から見た戦場では味方戦力がじりじりと追い詰められているのだ。
「優位に立つのは無理か。虎穴に入らずんばとは言うが‥‥見切りをつけて飛び込むべきかもしれないな」
かなりの危険を伴うが、この城へ赴いた者で覚悟をしていないものはいないだろう──そう、死の覚悟を。
既にミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)が情報中継として飛び立っている。時折りミミクリーで人間大の鷹に変化しているフィーナ・アクトラス(ea9909)に比べればシフール独特の小ささは危険度を緩和するだろうか。
当然、宙からの捜索のみが行われているわけではない。ミレーヌ・ルミナール(ea1646)や北条彩(ea6862)のように茂みに隠れ、あるいは気配を消し、遠く近く拉致された子供たちを捜す。
「‥‥ミルフィーナ殿」
「はいはーい、ちょっと待ってね〜」
小さく合図する北条へテレパシーを使用するミルフィーナ。
『見つけました、生贄の子供たちです』
ハッと北条の視線を辿るミルフィーナ。後ろ手にロープを掛けられ項垂れる子供たちが、確かにいた!
その報は、瞬く間に戦場を駆け抜け──そして好機が訪れた。いや、我が身を囮として差し出した陽動班の冒険者たちがもぎ取った小さな好機。
子供たちへの防備が疎かになっている今こそが、恐らくたった一度のチャンス!
「大丈夫、僕は冒険者です。すぐに助けがくるから落ち着いていうことを聞いて、いいね?」
子供たちの間に紛れ込みんだレオナルド・アランジ(eb2434)の声に子供たちは力なく頷く。しかしレオナルドがこっそりとロープを切ると、埃と泥に塗れた子供たち‥‥泣くことすら諦め憔悴し切っていたその表情に、意思が宿った。冒険者さんたちが、きっと助けてくれる!
「皆、将来は立派なレディになりそうですね」
文字通り命懸けの状態だからだろうか、察しの良い子供たちに微笑む。
「それは良い事だな」
フッと涼やかな笑みを浮かべ、エイジ・シドリ(eb1875)が一瞬で見繕った一番の美少女を抱き上げる。そして二番目に愛らしい少女の肩を抱き励ますように声を掛けた。
「‥‥走れるな? 皆、付いてこい‥‥こっちだ!」
罠を仕掛け確保しておいた退路を駆け出すエイジ、追って走り出す生贄の子供たち!!
「貴様ら!!」
油断を突き子供たちを奪った冒険者へ、悪魔崇拝者が凶刃を振るう!
──ギィィン!
ヴァーチカル・ウィンドが煌いた!!
「悪ぃけど返してもらうぜ!」
悪魔崇拝者たちの行く手を阻むクロウ・ブラックフェザー(ea2562)は普段のおちゃらけた様子を感じさせぬ厳しい眼差しで敵を射抜く!
再び振るわれるヴァーチカル・ウィンド。──一閃、二閃!
「可能性の宝庫をな、そう容易く手折らせるわけにはいかんのや!」
それが自らに課した使命だった。レイピアを握るために手放した隠身の勾玉はその効力を失い、レアル・トラヴァース(eb3361)は消していた気配を再び纏う。
何処に紛れていたのか子供たちを逃がすべく、己の身と武器を頼りに躍り出る冒険者。
「おかしいわね、戦場に紛れるつもりはなかったのに‥‥まぁいいわ、出たからには手伝わなくちゃね!」
迷い出たフィーナもロープを結わいたブレーメンアックスを豪快に投じる!
直接戦闘で即撃破できぬならばと、悪魔信仰者たちは口々に呪文の詠唱を開始する──しかし。
「白き魂を結実させん──デスハー‥‥ぐっ!」
「悪しき魂の奏でる音は聞くに堪えんな」
味方に利を与えるべく矢を番えていたクロード・レイ(eb2762)が喉元を狙い矢を放ったのだ! 同様に遠方より戦場の援護射撃を行っていたディック・ダイ(ez0085)も葉巻を噛み締め矢を放つ! 磨きぬかれた射手たちは1つずつ、着実に詠唱の邪魔をするが──それでも全般的に不利な状況に変わりはない。
「長くは持ちそうもねぇよ、早く逃げな」
ディックの呟きが聞こえた訳ではないだろうが、ハーフエルフの生贄を抱き上げたヴェロニカ・シュピーゲル(ez1050)が小さく頷いた。防御に徹するレアルと攻撃の隙を窺うクロウ、二人のレイピアが絶えず音を立て‥‥その身から滴る紅き水の量もじわりじわりと増える。
「もう少しだ、頑張れよ!!」
退路を示し七神蒼汰(ea7244)も腰から剣を抜き放つ!
『子供たちを保護しにギルドの応援が向かってるみたいですぅ。もう少し頑張ってくださいね、ミルフィーも頑張るですよ〜』
おっとりしたテレパシーの朗報を頼りに、冒険者たちは武器を握りなおした。
──子供たちの未来を、パリの未来を守るために。
(担当:やなぎきいち)
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