会戦の声が聞こえる。
剣の響き、鋼と血の匂いがここまで感じられそうだ。
「いよいよ、始まったようだな」
冒険者と部下の命を預かる為か、パーシ・ヴァル(ez0091)の表情は硬い。
「この先にオクスフォード侯の本隊がいます。お気をつけて!」
先行し偵察していたアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)の声がさらなる緊張を部隊に与えた。
やがて彼らの前にも見えてくる。
木々の向こうに敵の本陣が。このままオクスフォードに下がらせはしない。
「行くぞ! 突撃!」
潜めていた息がパーシ・ヴァルの号令と槍の輝きに解き放たれる。
勇気と力が波となって一気に敵に襲い掛かった。
数の上でも全体からの状況から見ても、侯爵軍の不利は誰の眼にも明らかだった。
無論、侯爵本人にもそれは解っていたから、密かに本陣をたたみ退却の徒に付く。
「万が一の為に、殿の部隊が残してある。合流しオクスフォードに戻ればまだ、再戦の目が‥‥」
そんな意図は、思いもかけぬ方向から崩れ出した。
「敵の‥‥奇襲です!」
「なに!?」
殿が守っているはずの、本陣のまったくの後方からその一軍は現れた。
決してその数は多くは無かった。冷静に対処すればおそらくは打ち破れたかもしれない。
だが完全に警戒を解いていた方向からの襲撃に、本陣はその一撃にパニックを起こし列を崩した蟻の如く乱れていた。
「私の前に立たないほうがいい、死にたくなければ帰りなさい!」
その言葉どおりファング・ダイモス(ea7482)の前に立ちふさがった不幸な兵士達は次々に切り倒されて血の道を作っていく。
彼の力と技の前に立ち続けていられた者はいない。
混乱に乗じ騎馬で特攻するレーヴェ・フェァリーレン(ea3519)。だが、それを狙う魔法使いがいた。
「危ないよ! 気をつけて!」
アシュレー・ウォルサム(ea0244)の弓の一矢は狙い違わず紡ぎ出されようとした魔法を永遠に空に還す。
「感謝する!」
振り上げたランスを再び打ち下ろしレーヴェは笑顔を向けた。
レーヴェのランスも、アシュレーの矢もまだ止まる事を知らない。
血に染まった刃を振り黒畑緑朗(ea6426)は前を見る。遠く、前を。だが目線の先に侯爵の姿はまだ見えない。
「必ず打ち倒す。極めれば切れぬ者は無し!」
小さく笑って緋邑嵐天丸(ea0861)は緑朗と背を合わせた。
彼の背後に迫っていた敵を、彼に告げず倒してナイフを握りなおす。
「前を切り崩す。行くぜ!」
二人は息を合わせて、敵に向けて強く踏み込んだ。
「おらおら! 死神が迎えに来たぜ!」
「義妹の笑顔と人々の為、戦の禍根はここで断つ!」
側面からかけられたレイリー・ロンド(ea3982)とアリアス・サーレク(ea2699)の攻撃は敵の力を明確に削いでいった。
陣は崩壊寸前と呼べるほど崩れている。
あちらこちらで仕掛けられた罠も効果を発して敵を削り、走る稲妻、いくつもの魔法は春雷の如く平原を駆け抜け敵を打ち倒していった。
「あれは!」
今まで見えることの無かった敵の姿が薄れていく陣の向こうに、レイリーの瞳だけでなく多くの戦士たちの目に確かに見え始めた。
「逃がすものか!」
ケヴィン・グレイヴ(ea8773)の全力の一矢が崩れた本陣の奥の奥まで突き抜けていく。
足元に刺さった矢に侯爵は自分に迫ってくる運命の地響きを聞いていた。
「お、おのれ!」
自らに死を告げる死神が雷となって近づいてくる。
「メレアガンス侯。覚悟!」
常に戦いの先陣にあったパーシ・ヴァルの槍が迫った時だ。
「早く、お逃げ下さい!」
彼の側近達が命を賭けて立ちはだかった。
死兵となった彼らの決死の一撃が、パーシ・ヴァルを押し留める。
一騎、二騎、三騎までは彼の槍の下に倒れるが四騎目の剣は彼の射程を踏み越え喉笛に迫る。
「危ない!」
立ちはだかるようにリ・ル(ea3888)は兵に向かっていった。彼の攻撃によって作られた隙がパーシの槍の下、生者と死者になる者を逆転させる。
「冒険者を見限られては困るからな」
軽く肩から血を流しながらも指を立てる彼にパーシ・ヴァルもまた同じ動作で答える。
侯爵の姿は混乱の彼方に消えたがまだ、戦いは終っていない。
彼らはお互いの背中を守りあい、また戦場に足を戻していった。血飛沫の舞う戦いの中へ。
どれほど戦い、どれほど血が流れ、どれほど経った時だろうか。
大地が‥‥揺れた。
それが歓声だと気付くまで前線の冒険者達には時間と戦いが必要だったが、やがてそれも終った。
「メレアガンス侯捕縛!」
「アーサー王の勝利だ!」
切り結ばれていた刃は引かれ、大地に剣が突き刺さっていく。
「勝ったのですね。私達は‥‥」
空を見上げたファングの瞳には眩しいまでの青空と輝くアーサー王の王旗が翻っていた。
(担当:夢村円) |