パリの西北、セーヌの流れを天然の陣として、冒険者たちは野営の場を作っていた。
 闇が訪れるときも近くなり、行きかう馬や驢馬の流れも落ち着いた中、ニミュエ・ユーノ(ea2446)の指が竪琴の弦を爪弾き、静かな声がその場に響き渡る。
 明日には黒き古城、シュヴァルツへ向けて進む冒険者たちには、それは何よりの癒しとなる。
「寝ないでくださいね」
「まさか」
 軽く目を閉じ楽の音に身を横たえながら、一時の休みを取る無天焔威(ea0073)に、マリー・アマリリス(ea4526)は静かに尋ねると、男は眼帯で隠されていないもう片方の目で、笑うように答えを返す。
「夜も、明日もまだ長いだろうしね。それだけ、気を張るための用意、かな」
「さあ、まだ終わっておらんぞ! まだまだ仕事は残っておる」
 ロープを手に、小さな体で走り回るのは橘茜(ea4777)。年に似合わぬかくしゃくとしたその様子と同じく、いざというときに備えた防護の柵を作る冒険者たちはまだ、急がしそうだった。
「武器や防具が心もとないですが、薬草は何とか、集められました‥‥使わないのが一番ですけど」
「実際になってみないと分からないけど、それが一番だね」
「‥‥ええ」
 歌の中、立ち上がる男に、マリーは小さく微笑んで、英気を養い始めた人々を見つめる。

「結構、たくさんいるなぁ」
 近くの丘より眼下の戦場を見ながら、ポヮ・アルエット(ea3695)は目を丸くしてつぶやいた。眼下では数十名ほどの冒険者たちとオーガ、それに傭兵たちがぶつかり、戦場の怒号を響かせている。
 その場所より視線を移せば、かすむように見える河の向こうに、不気味にそびえ立つシュヴァルツの城の姿が見えていた。
「あんまり、わかんないな‥‥城を攻めるよりは外の方が楽だろうけど‥‥」
「お伝えします」
 昼もやや過ぎようというところ。
 早く飛びながら大きく見える杖を持ったルルティア・ヘリアンサス(ea4257)が男の下にたどり着くと、羽をパタパタと羽ばたかせて周りを回る。
「偵察はほとんど終わったそうです。他の方もひとまずは、戻るようにと」
「あそこがどうなってるか、大体分かったしな‥‥後は、よく分かってる人に任せたほうがいいね」
 そう決めると、回りを飛ぶシフールとともに、ポヮは本隊に合流しようと丘を駆け下りた。



「そらよっと!」
 オラース・カノーヴァ(ea3486)は鉄の棍棒を振りかぶると、一気に振り下ろした。ゴブリンたちはその一撃を見切ることができず、ただ押しつぶされて大地に倒れる。
「さあ、次はどいつだい」
「い、行け、お前ら!」
 改めて武器を構えるオラースの声に、傭兵らしい男が震えたように叫ぶが、しかしそれくらいではゴブリンたちの士気は持ち上がらなかった。傭兵の意気と空叫びとは別に、オーガたちは崩れるように逃げ出していくと、睨みつける男の眼光に、傭兵は悲鳴を上げつつ後退する。
「逃がさへんで」
 オラースの後ろより現れたミケイト・ニシーネ(ea0508)は、すぐさま弓を引き絞ると、放たれた矢は鎧の隙間をあやまたず通り抜け、痛みと衝撃で傭兵を倒させる。
「すまないね」
「気にせんでええて」
「しかし、そろそろ潮時かい?」
 オラースは現れた女に、本隊が追いつき始めたことと、日の光に時を読み、つぶやいた。
「そやね。もうすぐ、来るんやないかな」
「ここか‥‥囲まれる前に退いたほうがいいだろう」
 茂みをかき分けつつ姿を現したバルディッシュ・ドゴール(ea5243)は、面頬を上げつつ息を整えると、周囲の様子を評して告げる。
「偵察も任を終え、合流するだろう。本当の戦いは、明日だ」
「ま、そうだな‥‥で、もうひと暴れかい?」
 これまでに戦った相手の数にオラースが告げるも、だがドゴールは首を振り、改めて面頬を下ろす。
 そのとき、、敵が逃げようとしていた方向から、遠めに響く歓声。
 ヴィグ・カノス(ea0294)を初めとした面々が奇襲をかけたことを示す歓声に、一堂は状況を解すると、現在の戦果を確かめつつ、森の中を退いた。



「この辺だったら、兵を伏せるのは楽そうかな」
 森に身を隠しつつ、その身に慣れた感覚で森を評すると、ローサ・アルヴィート(ea5766)は音を聞き、軍勢の位置を確かめた。
 偵察に出た何名かは、あるいは森で迷い、あるいは監視に見回っていたモンスターたちに阻まれて、満足な偵察を行なうことができていない。
 そんな中、戦場となる場所、城の周囲の様子を確認できたのは、大きな収穫だった。
 傾き始めた日を見て、ローサは今日の仕事は終わりと決めると、森に身を隠して走る。
「‥‥そちらは、どうだった?」
 途中、戦場より離れた場所で、疲れた表情の月読玲(ea1554)が女に声をかける。
「ま、大体の地形は分かってる。みんなに伝えるところ‥‥そっちは?」
「さすがに、甘かったわ」
 ローサの問い返しに肩をすくめ、そして女は大きく息を吐いた。
「やっぱり、敵陣に直接もぐりこむのは難しかった‥‥遠めに見るのが精一杯」
「でも、今日出てきた部隊には、まだデビルとか、大型のモンスターの姿はなかったよね‥‥明日は、どうなるんだろう?」
 やや手探りな状況に二人は顔を見合わせるも、ひとまず得た情報を持ち帰るべく、集まってきた他の者たちとともに、本陣へと歩みを進めた。