「Trick or treat!!」
「ライラだったのか」
理の門の前でライラ・フロイデンタール(ea6884)を待っていたアシュレー・コーディラン(ea6883)の後ろにいた魔女が突然声を掛けてきた。
「あまり驚いていませんか?」
「驚いたけど、ライラの可愛さに驚きが引っ込んだよ。その魔女の仮装、とても似合っているよ」
そのあと、2人は露店の並ぶ市場へと繰り出した。今日はハロウィン当日、ハロウィン一色に染まった街へ繰り出す者も多かった。
「‥‥あら? アッシュ? アッシュ!?」
「俺はここだよ。ライラの驚く顔も可愛いね」
「もぅ、わざとはぐれたのですか!?」
先程のお返しとばかりに、今度はアシュレーがわざと人混みの中をはぐれてライラの驚く顔を見る番となった。アシュレーを見付けると、ぽかぽかと胸を殴るライラに、彼は露店で買ったお菓子を差し出すのだった。
「人通りが多いから、俺がはぐれないようにな」
「は、はい、宜しくお願いします」
「‥‥一緒に歩くだけだから、そんなに畏まらなくてもいい」
陸琢磨(eb3117)はディアナ・シャンティーネ(eb3412)の前を歩き、彼女が歩きやすいよう人混みを掻き分けていった。
「それをデートと言うのではないでしょうか?」
「手も握った事のないようなあの2人に決定ね」
琢磨とディアナの後を歩いていたレナフィーナ・フリーア(ea8009)と鷹杜紗綾(eb0660)は頷き合うと、彼らを前後から挟むように展開した。
「ごめんなさい」
「そこの彼氏、悪いわね〜」
レナフィーナは琢磨に、紗綾はディアナにわざとぶつかり、そのままそそくさと離れていった。
「大丈夫か?」
「は、はい、大丈夫です‥‥が」
「はぐれないように手を繋いだ方がいいな」
まだ手を握った事もないディアナだが、琢磨に手を握られつつ、抱き抱えられており、頬が紅く火照っていた。
レナフィーナと紗綾の応援は、先ずは成功のようだ。
ディアッカ・ディアボロス(ea5597)は妖精王国からハロウィンに迎賓として招かれた妖精王と女王の護衛を買って出ていた。
「悪戯をしている子供達は伸び伸びとしておるな」
「あなた、今は迎賓として来ているのですから」
ディナ・シー達を束ねる王とはいえ、妖精王もディナ・シーには変わりなく、子供達の悪戯に加わりたい素振りを見せると女王が軽く窘めた。
「妖精王の笛はお返ししましたし、妖精王の石版は解読中ですので生徒会が保管しています。しかし、グランタのベルは‥‥」
ディアッカが残念そうに告げる。グランタのベルは、何者かによって持ち去られてしまったのだ。
「あのベルにはグランタの掛けた特殊な石化の魔法を解除する力があるがのぉ」
「ただ、ゴクマゴクの丘の祭壇を破壊した以上、ゴクマゴクを蘇らせる事はできませんわ」
妖精王と女王は、もうゴクマゴクが蘇る事はないとディアッカを安心させる。
「妖精王、女王、お腹が空きませんか? 美味しいお菓子を買ってきましょう」
だが、妖精王の言葉に引っ掛かりを覚えたディアッカは、話題を変えるように露店へと向かった。
「お姉ちゃん、いつもケガを治してくれてありがとう」
リナ・ファローダ(ea7233)はエイミー・ストリーム(ez0049)と一緒に街に繰り出していた。
エイミーは対抗戦の為、治療棟に詰めていたが、リナに誘われて出てきたのだ。
露店で買った焼きたてのお菓子を差し出しつつ、武闘大会での負傷を治してもらっているお礼を言うリナ。
「ありがとうございますわ。お礼に、2人で何か仮装をしましょうか?」
「うん! あたい、魔女がいいな!」
「魔女ですか‥‥リナでしたら可愛い魔女になりますわよ。衣装を貸して下さる露店があったはずですわ」
リナとエイミーは手を繋いで仮装の衣装を貸してくれる露店へと向かった。
大宗院透(ea0050)と大宗院亞莉子(ea8484)は、フリーウェルの校舎の屋根の上で、寄り添って夜空や街の明かりを見つめていた。
街のあちこちに焚かれた篝火や、人々の持つランタンや松明の灯りが夜のケンブリッジを照らし、闇の中に朧気ながら浮かび上がる街はいつもと違って幻想的に見えた。
「‥‥寒くない‥‥ですか?」
「透と一緒だから寒くないしぃ。っていうかぁ、今の私、透の愛でぽかぽかってカンジぃ」
夫婦水入らずの中、今まで無言だった透が声を掛けてくると、亞莉子は彼に身体を預けて微笑んだ。
「‥‥亞莉子と一緒でも、私の財布はいつも寒いです‥‥」
「あはは、透の駄洒落は最高だしぃ」
(「寒(さぶ)」)
透の駄洒落に吹き出す亞莉子。2人に甘い雰囲気を提供しようと悪戯を仕掛ける寸前だった紗綾は、心の中で呟いていた。もちろん、毒気を抜かれたのは言うまでもなかった。
「ユーシス、元気出してよ。ユーシスの女装、凄く素敵だったよ!」
「‥‥女装を素敵って言われても‥‥」
せっかくの2人きりのデートなのに、システィーナ・ヴィント(ea7435)が腕を絡めるユーシス・オルセット(ea9937)は先程から溜息ばかり。システィーナに女装させられて落ち込んでいるのだが、元凶の彼女に慰められ、しかも「素敵」と言われるのは普段から女性と間違えられる彼にとって、複雑な気分だ。
「もう、仕方ないなぁ」
システィーナは辺りを見回して人がいない事を確認すると、少しだけ爪先立ちになってユーシスの頬にキスをした。突然の事に思わず頬を押さえるユーシス。
「‥‥シ、システィーナ!?」
「さぁ、パイが冷めないうちに2人っきりでお茶にしよう! ユーシスの為に焼いた、とっても甘いリンゴパイと紅茶だよ!」
「‥‥ありがとう、戴くよ」
バスケットを胸の前で掲げるシスティーナに、ユーシスも微笑んだ。
(「せっかく2人っきりなのに、言葉が出ないよ」)
ユーシス達の横を通り過ぎたミカエル・クライム(ea4675)は、義兄ルシフェル・クライム(ea0673)を誘ってハロウィンを見て回っていた。しかし、勇気を出して誘ったにも関わらず、ミカエルは先程から一言も言葉が出なかった。
「戦いの連続だったから、こういう雰囲気もいいな。誘って‥‥どうした、疲れたか?」
「うぅん、そんな事ないよ。そうだ、一緒に行って欲しい所があるの」
露店を楽しそうに見ていたルシフェルは、無口な義妹を気遣うが、ミカエルは何とか微笑んで誤魔化した。
「いたか!?」
「いえ、こちらにはいませんでした」
「見失ったか‥‥」
ジェファーソン・マクレイン(ea3709)とシルヴィア・クロスロード(eb3671)が、慌ただしく通り過ぎてゆく。2人はハロウィンにも関わらず、完全武装の出で立ちをしていた。
「あの、ル・フェイ様を見掛けませんでしたか?」
そこへ和泉綾女(ea9111)が声を掛けた。ル・フェイ(ez0130)は競技中はサマーチームの応援席にいるのだが、時折、姿が見えなくなる事があるのだ。
疑問に思った綾女が聞いたところ、『花を摘みに行っている』らしいのだが。
「競技終了時にサマーチームの皆様に労いのお言葉を掛けて戴きたいのですが、先程から姿が見えないのです」
「私達もル・フェイ嬢を探しているのですけど、見失ってしまったのです」
シルヴィアとジェファーソンが2人掛かりで監視していたにも関わらず、ル・フェイを見失ってしまっていた。
彼女をマジカルシードの校舎近くで見たという情報があるのだが、生徒や講師でない綾女達では理由もなく校舎に入る事は出来なかった。
「マジカルシードの8階から最上階はミステリーに包まれていて、生徒の間では色々な噂が飛び交っているんだよ。例えば『秘密の部屋』とか‥‥って、きゃぁぁぁぁぁ!」
その頃、ミカエルはルシフェルとマジカルシードの9階に足を踏み入れていた。噂の『秘密の部屋』をルシフェルと一緒に見ようと思ったのだが、暗がりの中、渦中の部屋の扉が開き、その音に悲鳴を上げて兄に抱きついた。
ルシフェルは反射的にミカエルを庇いつつ身構えるが‥‥装備を置いてきてしまった事に気づく。
「な、なんじゃ、ミカエルではないか。こんな所でデートか?」
扉から出てきたのはル・フェイだった。隣には女性を伴っていた。
「この辺りが隠れスポットだと聞いてな。そういう貴殿達は?」
「まぁ、お主達と同じようなものじゃ。儂の場合、見ての通り女の子(おなご)とだがな」
ルシフェルの質問に肩を竦めるル・フェイ。しかし彼は、ル・フェイとその隣にいる冠に似た帽子のようなものを被った女性が立ち去るまで、得も知れないプレッシャーに緊張を解く事が出来なかった。
「今日は楽しかったです」
「私もです」
アディアール・アド(ea8737)とソフィア・ファーリーフ(ea3972)はエールの入ったジョッキをお互い傾けていた。
アディアールはハロウィンが終わった後、旅立つという。露店を見て回り、子供達からお菓子をねだられ、一緒に仮装をし‥‥その最後の1日をソフィアと共に過ごしてきたのだ。
「どんなに遠く離れようと、今、この共に過ごす時間を忘れません」
アディアールに身体を預け、彼の肩に頭をちょこんと寄せるソフィア。
(「お節介かもしれませんが、このくらいいいですよね」)
「え!?」
その時、アディアールとソフィアの顔が軽く動き、2人は軽く唇を重ね合わせていた。2人を尾行していたシャルディ・ラズネルグ(eb0299)が少しだけ気を利かせたのだ。
本当に忘れられない時間になったのはいうまでもなかった。
(担当:菊池五郎) |